実験室のフラスコ(2L)   作:にえる

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こーかくきどーたい3

 

 --1

 

『生命とはなんだ。自己保存の繰り返しか。それとも情報の流れか。私は自己保存を行い、生き続けることも、複製を作ることもできる。私は自らを生命であると規定している』

 

 暗い灰の色をした多脚戦車であるタチコマが、自身の装甲を磨く青年に問う。声音は高く、幼い子供のものだが、それでいて落ち着いた音も含んでいた。相反している。合成金属の身体、機械の脳。それが生命を主張する。やはり相反している。

 灰に浮かぶように、白いカメラアイの台座がぐるりと周囲を見渡し、遊んでいるタチコマや点検している作業員、オイルを運んでいるバトーと順に眺め、やがて作業を続けているガイノイドへと定まった。

 

『あのガイノイドも思考する。だが生きてはいない。ゴーストがないからだ。身体があろうと、中身が伴っていなければ、空なのか。では生命とは思考のみにあらず。自己を定め、自我を持ち、在り方を理解する。それが生命なのだろうか。そうすると、動植物はまた別物になる。貴方はどう思う』

 

 カメラアイが、青年に視線を定めた。ちかちかと光っている。

 

「知っらね」

 

 青年が答えた。青年にはどうでもいい質問だった。必要なのは、どこにおっぱいが落ちているのか、お尻が触れるのか、肋骨に舌を這わせることができるのか、それだけだ。

 あとは昼ごはんはウナギが食べたい、次点でカレーだ、ということだ。

 青年には欲求こそが重要なのだ。食べて、排泄して、寝て、また食べる。刹那的に幸せならそれでいい。無駄に賢者にされているが、後は女が抱ければ完璧だった。青年専用のタチコマを磨くのは趣味である、それもまた欲求なのだ。満たせれば、それでいい。極めて古く、原始的な考えしか持たない人間だった。

 

『人は記憶を(よすが)に生きる。外部装置に任せることになった今、より深く生命を考えるべきではないのか』

 

 灰色のタチコマが呟く。青年の態度に思うところは無い。むしろこれでいい。生身の人間、より深い人間の、本音が、真実が、湧き出るのだ。だからこそ、この問いの繰り返しに意味が或る。

 ヒトを理解するという事に。

 

「あー、じゃあお前らタチコマはよく考えてるよな。深く考えるのが偉いんだとしたらすげー尊いよ。あれ、なんだっけ。ゴッドブッダ? オシャカサマ? そんくらい偉いよ」

 

 磨かれた装甲が、光を照り返す。青年の特徴のない顔も、鏡のように、だが、少しぼやけて映る。

 満足げに、青年がワックスを取り出す。ボディから艶が失われて曇ったように濁るのが特徴的なワックスだ。このタチコマは市街地で頻繁に運用している、輝いているのはただの的にしかならない。輝いている様も、濁ったように曇る様も、青年のお気に入りだった。自身の愛用品はどのような様であれ好む、人とはそういうものなのだ。

 

『つまり、貴方は生命でより優れているのは私であると、そう言うのか』

 

 カメラアイ、胴体、マニュピレータ、背部ポッド、脚部……。部位ごとにスポンジを変え、ワックスの種類も少し変え、整備を続ける。

 

「言うわけねーじゃん。そもそも生きてるって意識しないと生きてる実感がないとかやっぱ機械って面白いのな。自己暗示?とかいうのしないと駄目なん? やべー。俺だったら朝起きたら機械に戻りそうだわ」

 

 足見るから上げろ、と青年が言う。その言葉に従うように、右前の脚部が上がり、青年の手元で止まる。まるでペットのお手のようであった。

 マニュピレータがあるために、胴体が斜めになっており、不恰好である。が、青年は満足げに頷くだけだった。

 

「人間は生まれた時から全然そーいうの気にしないから。生きてるって何?って考えるけど、それだけ。だって生きてるし。変に小難しく考える奴はなんか変なこと考えてるけど、俺はそういうのない。もうあれ、生きてる。意識しなくても無意識で受け入れてる。つまり、意識しないとダメなお前らより上等なわけ。俺が上、お前が下。おっけー?」

 

『そうか、意識と無意識か』

 

 

 

 

 

「つまり、俺が天に立つ」

 

『……シンバ、あなたは今度は何を読んだ』

 

「ぶりーち。あれマジすげーの。おんなじのばっか。コピペする学生だってもうちょっと罪悪感抱くと思うレベル」

 

 タチコマがため息を吐く。呼吸器系など無い体で、酸素など必要のない鋼の肉体で、まるで生きているように。

 それを見て、実に人間臭いやつだと青年が笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 --2

 

 コアなファンが多いアンドロイド(ジェリ)が自殺する事件が起きているとか。

 トグサ君とバトー君の、足で稼ぐコンビが調べに行った。

 俺はイシカワのおっちゃんと調べもの。まあ、俺が調べるんじゃなくて、タチコマが手伝ってくれるんだけど。

 

 調べものをしていると、またタチコマが疑問を持ったようだ。経験について知りたいらしい。

 人間の脳が経験を積むと、運動だったら運動神経にシナプスを作り、動きを再現できるようになる。機械も同じことが、より早く、より正確に出来る。つまり人間と同様ではないだろうかという話だ。優劣の議論ではないらしい。まあ、同じような電気信号だしな。とはいえ、タチコマは0と1で処理……量子コンピュータだったら32通りできるんだっけ。まあいいか、つまり好みの選択肢などを最適化した結果であると言えるのだから、一緒かもしれん。

 赤と青だったら赤を、緑と赤だったら緑、みたいなのを繰り返すことで、人間の脳は無意識に単純に言うと好みや特性を持つ。自立型AIも同じように0か1、じゃなくて32通りの中から選び続けた好みがあり……あ、イシカワのおっちゃんが課長に褒められてた。

 

 俺はサボってるって怒られた、かなしい^q^

 

 

 

 なんだっけ。

 まあ、究極的に単純化したら人間と自立型AIなんて一緒になるんじゃね。

 脳みそを計算機代わりにする研究があったくらいだし。

 はい、終わり。

 お腹すいた。

 褒められたイシカワのおっちゃんの奢りでサンマ食いたい。

 

 なんかよくわからん容疑者を逮捕するまで携帯食のみらしい、ツラい……。

 

 

 

 

 

 --3

 

 トグサ君の旧友がお亡くなりになったそうだ。

 謹んでご冥福をお祈りいたします。

 

 

 

 

 

 --4

 

 トグサ君が、旧友から受け取った情報を基に、なんか事件を嗅ぎつけたようだ。

 インターセプターという盗視覚デバイスが不正使用されているのではないかという話。

 そういうわけで、警視総監の下に忍び込むことになった。

 

 いや、簡単に言うけど警察の高官クラスの傍に忍び込むとか……余裕だったすまん!^q^

 

 

 

 

 

 友達が少ないのだろう、自慢げに警視総監がオランダの別荘とか色々とゲロッてくれた。

 そのお礼に、記者会見でひたすら叩いてリアルゲロ送りにしてやんよ。

 警視総監の奥さんが別荘に不満を持ってるとか、天下るとか、セラノとの癒着とか、これも全部トグサ君の旧友(会ったことない)に送る必殺の連撃だ!

 人の嫌がることをしなさいって、俺の母さんはよく言ってた。だから俺も一生懸命警視総監を叩いた。心が痛む、でも人のためなんだ……!

 

 いい汗かいたぜ、と爽やかな笑みでメモを取る。記者に混ざっているのだから、そういうポーズしないとダメだよね。

 俺の質問が種火となったのか、矢継ぎ早に記者が質問していると、警視総監の近くに控えていたチョビ髭が立ち上がって震えだした。

 チョビ髭がおちょぼ口で、なんか色々と言ってた。

 周りの記者は『笑い男』が現れた、なんて騒いでインターセプターの不祥事は下火になった。

 やってくれるじゃないか……。

 ここまで俺を怒らせたのは、3日前の少佐以来だぞ! ちなみに俺が少佐に激おこになった理由は、この前の不細工セクサロイド事件で潜入する際に使ったロリ義体が可愛かったから。詐欺は良くない(マジギレ)

 

 『笑い男』って何ですか、と尋ねる。

 マジで!? 知らないの!? 潜りかよ! なあアンタ、俺とくそまみれになろうや!

 などとドン引きされた。

 すまぬ……。

 

 『笑い男』とは、なんか色々な事件を起こしている凄いやつらしい。

 複数人説もあるとか。

 ちなみに、なぜ『笑い男』と呼ばれているのかというと、^q^みたいなご機嫌なにこにこマークを使っているかららしい。

 ちなみに^q^は俺がよく飲んでるスタチャのコーヒーのカップに描かれてる顔文字っぽいやつである。コーヒーショップのマークの目は瞑ってるけど。

 

 

 

 

 

 さて、9課に戻る前に一服……ぐ、ぐわああああああ^q^

 

 

 

 

 

 

 コーヒー零した^q^

 

 

 




シンバ(新葉)
オリ主。よくコーヒー飲んでる時に事件が起きる。コーヒー飲みながらなんかやってて零す。
^q^はコーヒーマーク(嘘)

タチコマ
オリ主専用のタチコマ。というかオリ主を装備したタチコマ。
灰色のボディが特徴的。
情報の海で発生した生命体感がある。
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