--1
警視総監を暗殺するやでって予告があった。発信は件の笑い男らしい。
主張を聞くに、単に役者じゃないから表から退場させるぞデブって意味にも聞こえたんだが。
すぐ暗殺だとか、バイオレンスでやーになっちゃう。
まあ、そっちのほうが対策とかで将来的に予算引っ張れるし、警備も厚く出来るんだろうけど。
警備メインなので俺はお留守番である。
お留守番じゃなかったー^q^
ナナオ?とかいう容疑者が怪しいので張り込むぞい!ってことになって刈り出された。
戦闘ではないのでタチコマは使えない。
そもそも俺は戦闘にほとんど出ないのだから、こういう時以外に何時タチコマに乗ればいいんだって話だよ(おこ)
お仕事の結果だが、ナナオが死んでた。南無南無。笑顔で死んでたので、銃弾が脳にめり込んで気持ち良かったのかもしれん。電脳ってキモいなー。
で、生前のナナオがメールに分割したウイルスを送り込み、警視総監のSPをクラックして騒ぎを起こした的な。自分が『笑い男』だと主張する人間が集まって騒ぎになってなんか色々あったようだ。
で、少佐やナイフマスターパズーは警護および戦闘が発生したらしい。
報告終わり。
今日は酒飲みたいんでバトー君に奢ってもらって……いや奴はサイボーグ食とか出す店に連れて行こうとするゲス野郎だし、他の人にしよう。
--2
民主革命の英雄!
不死の偶像!
麻薬王!
その名もマルセロ・じゃ……じゃじゃじゃじゃーんが来日!
6度もの暗殺を生き抜いた男は不死身なのかぁ!
この事実には、日本の警察や公安、政府も今は沸き立っている!
……誰だよ^q^
マルセロが、入国するために空港に現れた。両ひざ下を義体化した何時ものパターンで、彼は歩き続ける。右腕をなぞる様は、義体化による幻肢の症状だ。彼のゴーストが宿っている証明だ。
欧州警察のデータバンクと照合した結果、マルセロであると、そう判定された。
マルセロなんとかーにゅとかいう男が、何故か頻繁に日本に出入りしているのが物議を醸している原因らしい。
イギリス陸軍の特殊部隊であるSASや、アメリカ陸軍のテロ制圧特殊部隊のデルタフォースによる暗殺計画からも逃げて生き残っているらしい。
多分、オリ主なんじゃないなかな。
異世界で魔王を倒したが力尽き、神様によってこの世界に転生し、南米の人間たちの薄汚さに触発されて悪事を続け、とうとう麻薬王になったという悲劇が背景にあるのかもしれない。
「どう思うよ、パズー」
「……パズだ」
思案顔で煙草を蒸かしていた今日の
ホテルのロビーで待機って暇だよね。
しょうがないので、飯もっさもっさ食っとくわ。
撃たれたら感染症がどうのとか言われるけど、そもそもこの時代の連中が使ってる銃って対サイボーグでも効果あるやつばっかだし。
生身の俺が胴体に喰らったらどうせはじけ飛ぶんだからそんなん意味ないっての。
マルセロが上の階で暴力団員と接触したらしい。
みんなは謎テレパシーで記憶や会話の情報をやり取りできるから、ほぼラグ無しで情報を受け取れるのだろう。
が、俺は携帯端末でタチコマに訳して貰わないとだーめだーめですよ。
なぜか端末のフロントに、おっぱいがぷるぷる動いていた。普通は可愛いナビゲーションのグラフィックだろ。『あなたが望んだことだ』とかタチコマに言われたが、違うそうじゃない。
電脳通信に割り込む際、サインフレームに各自の顔が映るのだが、俺だけ二つの揺れる山である。
当然ながら、少佐に怒られた。忌々しいがアイアンコングの言葉に反論できねぇ。まあ、電脳通信できないのでそもそも反論する方法を持たないのだが。口元まで隠す防音マスクで、喉にはっ付ける伝導スピーカーとか使うべきか。
生身だと脳波がひどく弱いのでアンプ付けても電通は駄目らしいし。
そんな俺のタチコマのおふざけを余所に、少佐はルームサービスを届けに来たメイドロボットの中に『入った』らしい。
経過は順調、このままならマルセロや暴力団の会話を聞けるかもしれん。
と、思ったら県警が何故か突入してきて、暴力団をボコった。
で、暴力団が反撃に、雇っているのかわからんが全身サイボーグのゴリマッチョを導入。
県警とメイドロボットをぶち壊してた。最期の映像はガイノイド特有の白い血液が眩しいね。
怒涛の展開!
県警は暴力団の幹部だかトップの権藤を捕まえにきて不運と踊ったようだ。
で、マルセロが捕まると面倒なので、少佐が部屋にダイナミックエントリー。
アイアンコングによるアイアンハンマーナックルで勝ち確定かと緩んでたら、マルセロがオリ主みたいな俺TUEEEを繰り広げてた。
少佐相手に全く引かないマルセロは、手りゅう弾で部屋を吹っ飛ばして逃げて行った。
なお少佐は退避したので、一歩及ばず。
やっぱオリ主じゃねーか! これでやれやれが口癖だったり、肉弾戦が強かったら完全にオリジナル主人公だからな!
外で張っていたトグサ君が高速道路で接触したらしいが、普通に逃げられていた。しょうがないよね、9割以上生身だし。生身を遥かに凌駕するスペックの巨漢が銃撃ってくるとかこえーっつうの。
装備を換装したバトー君と少佐が、ヘリで空中から追いかけることになった。
なので、俺とパズ、ボーマは陸路である。座席は、運転席と助手席しかないので、後部の貨物室に乗せた相棒のタチコマに乗って待機である。
あ、こいつまたデカくなってるんだが。勝手に拡張パーツ付けんなよ、俺が怒られるじゃん。もう既に仕事データのバックアップ扱いしたり、天然オイル飲ませたりして、書類仕事やらせたり、インターネットに接続したりっていろいろやり過ぎて自我が宿ってる説があって少佐に絞られたばかりだってのに。並列化禁止とかお前だけだぞわかってんのか。
はあ、タチコマの装備なのに怒られるのは俺ってどういうことだよ。しかも気付かなかったが勝手に上等な電脳も積んでるし。チタン合金の脳殻で、中身は自分で組んだ贅沢な一品らしい。うわーお、やってくれたなぁ。課長も少佐も激おこ案件やぞ。
連続性を意識したらしいが、タチコマは消耗品扱いなんだから電脳に本体ぶち込んでたら死ぬ可能性だって出てくるっつうのに。複製も無いとか。……あーやだやだ。
真面目にやらないといけなくなってしまった。電脳硬化症にタチコマ、いらんものが増えて困るっての。
マルセロと暴力団員が、大型の資材倉庫にいるのを確認。
英雄マルセロが来日した日は電力消費量が桁外れに跳ね上がるらしいのだ。
はてさて、何をやっているのやら。
偵察任務を引き継ぐように少佐の指示を受けたので、タチコマ発進。
光学迷彩を起動し、貨物室から飛び出る。
足跡を残したくないのだが、鬱蒼とした森が広がっているので諦めた。重量で木を砕く音を立てながら近づくのは流石に無理。俺単独だったらワイヤー使って枝の間を潜っているけど。
屋根の上からマルセロたちを補足したので、各員に伝達。
少佐、バトー君、トグサ君が吶喊。その他はサポートらしい。
俺はすぐにグレネードランチャーとかぶっぱするから指示があるまで待機だとか。……俺はぶっぱしたくてぶっぱするんじゃない、そうしろと囁くのよ、俺のゴーストが(アヘ顔)
はあ、テーザーガンも殺意が高すぎるって取り上げられたし、なんだかなぁ。手加減を忘れた人形なんて動けないほど壊さないと怖いじゃん、なぁ。
しょうがないので、遠隔からバリエーション豊富な超強化タチコマで情報を集める。
まず、少佐がマルセロを殴り倒した。
で、トグサ君がマルセロを射殺した。
最後に、バトー君がマルセロを尋問。
……俺の足元のジャンクはパーツ貰ってトグサ君の死体と合流させておこう。多分溶鉱炉行きかな。それとも海底3000mの旅か。
しっかし、なんだろうなここ。集まれ!マルセロ村!みたいな感じだろうか。世界中に散らばったマルセロが集まり、村を築いているとかそんなん。オス・マルセロが貴重なメス・マルセロを奪い合い、それをオサ・マルセロが諌める日常とか。こんな髭もじゃの同じ顔が集まってたら発狂する自身あるよ俺。
少佐から呼び出しがかかったので駆けつける。事の真相を確かめることになったので、タチコマから降りて合流。タチコマは周辺警備だ。
タチコマが増強されているのに、少佐が何か言いたそうだったが、俺は悪くぬぇ!
施設の最奥、そこにマルセロの成る木があった。冗談抜きで。いや、木は冗談だけど。
マルセロのコピーが、ポッドの中で並列化処理されているのだ。
そして奥には、既に死んだオリジナルのマルセロ。
つまり、オリジナルのゴーストを、ゴーストダビングすることによって、不死の英雄を生み出していたのだ。
命の危険を冒してまで日本に来る理由がこれとはわからない、というのがバトー君の言葉だった。
それに少佐が「彼が英雄だからでしょう」と答えた。
多分ちがう。
こんなことが出来るからこうなったのだ。
出来なかったら彼は英雄として惜しまれて、または独裁者として恨まれて死ねた。人間として死ねたんだ。これは人間だとは思えない。
こんなことができる社会だからこうなったんだ。
……ほんっと気持ち悪ぃわ。
マルセロが、帰国するために空港に現れた。両ひざ下を義体化した何時ものパターンで、彼は歩き続ける。右腕をなぞる様は、義体化による幻肢の症状だ。彼のゴーストが宿っている証明だ。
欧州警察のデータバンクと照合した結果、英雄マルセロ・ジャーティであると、そう判定された。
この社会において、彼は本人だ。オリジナルが死んでいるとしても、証明されなければ……。
英雄がそう足らしめるのか。
付いて来る人がそうさせるのか。
結局、意識次第だ。
其処ら辺が曖昧な癖に、意識にばかり縋る社会って気持ち悪い。
それに馴染もうと必死になって、異物でしかないと知る己も無様でしかないのだけど。
--3
「バトー君、俺すげーこと思いついた」
これといった特徴の無い顔の青年シンバが若々しい声で、隣で作業する巨漢の男であるバトーに語りかけた。
青年は、自らのタチコマが生み出した電脳を弄繰り回していた。手元に視線を向けず、精密な機械のように正確に作業を進めている様には、内心でバトーも舌を巻いていた。
「……言ってみろ」
自らの装備を点検するバトーが、深く唸るような声で続きを促す。両目の義眼レンズが、青年に視線の行き先を読ませない。
ふざけた話なら、訓練用の備品をこいつに用意させようとバトーは思案する。
青年は、世紀の大発見だとドヤ顔を披露し、口を開いた。
「破瓜サプリを付けた処女セクサロイドって売れね?」
ちんこ挿れるとほんのり血が滲み出るやつ、と続ける。シンバは真顔であった。艶のある黒髪が、逆に鬱陶しい。
「死ね」
バトーの本心からの言葉だった。
シンバは欲望に対してフルブーストなのだ、聞くんじゃなかったというのが本音だ。
「そう怒らないでって。あ、血液が白いのが怒る理由? 俺も駄目だと思うんよ。酸素を運ばないからとか合成してるから色は白っていっても、ねぇ? 情緒がないじゃん」
バトーが逡巡する。
「あー、初○ミクほしいなー。フルスペックで三千八百万だってよ。アングラパーツでセクサロイド化できるし、予算で買えねーかな」
あの時、少佐はこいつを殺すべきだった。七十五円を渡し賃に、三途の川に届けるべきだったのだ。
だが、もう遅い。後悔というのは先に立たないのだ。