--1
『死ぬ→神様→転生』みたいな流れであの有名な神様転生を体験した。
そのついでに俺の持つであろう能力の中で最も伸びる才能を一つだけ生やしてもらった。
詳しく説明すると面倒なので短く端折ると、1秒間を分割して動けるような才能らしい。
副次的に精密動作も可能になるとか。
あとは全体的にどうでもいい話だったので省略。
あんなの占いと一緒だし。
が、ちょっと失敗した。
貴様にニュータイプ的な能力は渡さないし、むしろ根絶やしにしておくとか言われたので聞き流していたが、転生前の俺のHDDを破壊しておいてほしかった。
第四次および第五次聖杯戦争(深夜)やサーニャの真夜中ウィッチーズ、アティ先生の淫らな個別授業などがフォルダ分けしてしっかり残っているわけで。
不肖の息子をどうか許してほしい……。
--2
過去の消し去りたい思い出をなんとか葬り去ろうと四苦八苦し、逆に鮮明に思い出してしまって枕に顔を埋めてしまう以外はつつがなく過ごしてきた。
アイドルマスター(深夜のコンサート)やアイドルと夜中のレッスンなどを恋しく思いながら精一杯に生きている。
正直、かなり惜しいです。
そんな夜への思い出を発散するために元気に外を走り回るという可愛い幼児な俺。
内面を見られたら死ぬかもしれないが、外面は輝いている気がする。
そんなどうでもいいことは思考の深いところに頑張って沈めて、近況報告。
なんと俺は小学生になったことで問題が発生。
俺がバカだったことに気付いた。
転生して、宿題を頑張っているのに、学力が並みであるという悲劇。
むしろ転生という底上げを顧みるとちょっとおつむが弱い事実が浮かび上がる。
二周目は強くてニューゲームで頭も当然いいと思ったやつ誰だよ、出てこい。
そんなわけで学校生活において油断も慢心も出来なくなってしまった。
運動に関しては他人の動きを見ただけで、要点を掴んで模倣できるくらいなので問題は全くない。
筋力や技術が足りないと真似できないこともあるが、何度か繰り返せば自分なりに改善できるのでマジで問題ない。
問題はやはり学力だ。
知能は問題ない……と信じている。
勉強がちょっと苦手で、反復練習してやっと覚えられるくらいだ。
別に教科書を丸暗記しようとかではない。
足し算、引き算に苦戦したり、漢字を覚えるのが苦手だったりといった具合なのだ。
字は模倣を繰り返したため上手すぎて担任が泣くレベルなのだが。
なのでクラスのポジションは運動できるけど勉強が苦手な少年、みたいな感じだ。
よくいるよね。
小中学校までは人気があるけど、高校からいい人どまりなポジションっぽいし。
もしかしたら恋愛ゲーでの悪友ポジションかもしれない。
あいつの好感度は○○だぜ、みたいな。
でもニュータイプ能力が根絶やしな俺だからな。
空気とか好意とか、そういうのよくわからないので悪友ポジションは無理そうだ。
虐められないように会話パターンから適格な言葉を導き出すことも多々あるくらいだし。
小学生の分際でちょっと生活するのがツラいなぁと黄昏てみたり。
--3
クラスで人気者の織斑千冬、通称ちーちゃんを誘って遊ぶかなぁと大きめのボールを用意。
小学生と遊ぶと身体能力を下げる必要があるので面倒だが、こうやって媚を売ることでいじめられないポジションを得ている。
なんだかんだいって小学生の社会はシビアだぜ……。
誰も見ていないのでボールを指先で回転させて遊んでいると、ちーちゃんの怒鳴り声。
「お、誰か死んだかな」と教室の扉を開けると篠ノ之 束が頬を朱くして倒れていた。
見守っていたクラスメートに話を聞くとちーちゃんがバチコンかましたらしい。
さすが戦闘タイプは違うなぁ。
仲裁でもしてクラスの好感度を稼いでおこうという強かな発想の元、二人へと近づく。
小学生が出していい空気ではないという言葉を飲み込んで、アクシズショックが起きそうなくらい剣呑な空気に飛び込んでいく。
怒気に満ち溢れたちーちゃんの燃え盛る瞳とガラス玉のように硬質で何も映していない篠ノ之 束の瞳に挟まれた。
空気がほとんど読めない俺でもわかる、あと5秒で死ぬかもしれん。
未だに死んだヤムチャみたいな姿勢で俺とちーちゃんを見つめる篠ノ之 束を起き上がらせ、席に座らせる。
男らしくガイナ立ちしてそれを見下ろしていたちーちゃんも席に座らせる。
うだうだと文句を言った二名にはペナルティとして、両ひざにタオルを巻きつけて強制的に正座させた。
小学生、というか人間の動体視力では俺が少しだけぶれたことは確認できただろうが、何が起きたのかわからないだろう。
まあ、そんなのはどうでもいい。
問題はこの空気を解消するにはどうしたらいいかということだ。
そんなわけで小規模学級裁判を開廷。
原告被告とかそんなものなしで事情から原因と解決案を導くだけなので学級裁判とは違うけど、学級裁判といってしまったのでそのまま押し通す。
進行は俺が買って出たので、初めにちーちゃんがバチコンかました理由を聞く。
「気に入らなかったから」らしい。
お、おう。
そんなツンデレヒロインが恥ずかしくて正直になれず、主人公に暴力をかましてしまったときみたいなことを言われても困る。
根気よく聞いていくと、篠ノ之 束が無視するのが気に入らなくて改善を求めたがうまくいかず暴発、バチコンらしい。
なるほど。
つまり中学生のときの黒神めだかがクマーとわかりあえず半殺しにした状況をマイルドにしたらしい。
対して篠ノ之 束は……すげぇ。
目の前にいるのに宙に視線を向けてて無視される。
無理やり目を合わせてもまるでその向こうを見ているかのようで反応なし。
こいつは強敵ですな。
ちーちゃんに諦めたらとアドバイスすると、俺のように空気が読めなくても頑張っているやつがいるのにそれは許されないとか。
俺の扱いが微妙すぎて笑ってしまった。
それに反応してちーちゃんの鉄拳が唸って殴られた。
殴られた衝撃を篠ノ之 束に流してみたが反応なし。
泣いたら少しくらい進展するかと期待したのが半分、痛いのは嫌だったので意趣返ししたのが残り半分。
ただ、衝撃とともに痛みが流れてきたことに興味が向いたのか少しだけ視線が合った気がした。
この機を逃さずモノにするのが俺である。
流れるような動作で視線を固定し、篠ノ之 束を顎を軽く支え、唇を奪った。
小学生だからどうだろうかと思ったが、柔らかくて実に甘露で本当にやって良かったです(粉みかん)
なんだかんだ美少女だしな。
あと、散々無視してくれていた篠ノ之 束が顔を真っ赤にして視線を合わせていると思うとなかなか気分がよかった。
結果として、ちーちゃんに俺がぶん殴られて気絶した振りをし、学級裁判は無事に閉廷した。
翌日、女子からあだ名が変態、男子からのあだ名がエロになってしまった。
なぜだし。
束はクラスの連中はシカトしていたが、なぜか俺にべったり懐いて可愛かったのでプラマイゼロか。
むしろ怒気を端々に漏らしながら話しかけてくるちーちゃんが怖かったからマイナス100かな。
ちーちゃんの怒気を収めるために以前「何処か道場に一緒に通わないか」と誘われていたのを思い出して近所の剣術道場へ。
どうやら道場の娘だったようで、束が喜びを振りまきながら挨拶してきた。
違うんですよ、ちーちゃん様……!!
不慮の事故で修羅場が発生し、第二次アクシズショックが起きそうになった。
が、俺がちーちゃんに誘われて入門することにしたと伝えると束がちーちゃんにも少しだけ懐いたようで、ちーちゃんは毒気を抜かれたようだった。
俺は許された……(歓喜)
やったぜとばかりに束の細い腰を支えて、幼子を高い高いするように持ち上げることで宙に浮かせ、くるくると一緒に回りながら「やったよ束!」「よかったね! あっくん!」と二人で喜びを分かち合っていると、ちーちゃんに置いてあった木刀で殴られた。
許してくれたんじゃなかったのかよ……。
その後はちーちゃんには束の親から説教が見舞われた。
たんこぶだったから問題なかったが死んでいた可能性があるという説教だ。
俺じゃなかったら死んでた可能性もあるのでもっと強く言ってください、と内心で祈ったがすぐに説教は終わった。
くそぅ……。
その流れでたんこぶを冷やしながら、道場について説明を受ける。
週に何度通うか、月謝は親に、装備は装備しないと意味ないぞとか、そんな単純なことをゆっくりと。
難しい話は親を通してされるのだろうと頷いて終える。
これからもよく会えることにご機嫌らしい束に別れの挨拶を告げ、帰路に付く。
ちーちゃんを送るのだが、早歩きでなぜか先に行ってしまった。
機嫌もちょっと悪かった気がする。
ぐぬぬ……。
よくわからないが、俺が悪いことをしてしまったらしい。
わからないことを謝ってもしょうがないので、束にしたことをちーちゃんにもしておく。
くるくるー、みたいな。
ぶん殴られたが少しだけ機嫌がよくなった、気がする。
羨ましかったのだろうか。
今後も機嫌が悪くなったらくるくるすれば解決する……いや、無理か。
--4
中学に進学したが、大きな変化は無かった。
ちーちゃんと束とクラスが同じになって一緒にダベって過ごすくらいか。
あ、あとちーちゃんが「あたし斬れたナイフだから」モードに突入していた。
中二病だろうかと心配したら、どうやら家庭の事情らしい。
なら放っておいても大丈夫だろうと流していたがダメなんじゃないかと思い直したのが中二になってから。
月謝は子供教室で低学年の少年少女に指導しているのでタダだが、それ以外にバイトをし始めたようなのだ。
斬れたナイフがこのまま変な方向に行ったら嫌なので様子見でちーちゃんの家にちょいちょい遊びに行くことにした。
確か弟もまだ小さいという話だったし。
ちーちゃんの弟の一夏を相手したり、束が引いたらしい設計図から指示に従って機械を組んでみたり、ちーちゃんに大会に出ないかと誘われて冗談で「相手が死んだらどうするよ」みたいなことを言って本気にされたり、一夏がいーちゃんと呼んでほしいと主張してきたりして多感な時期である中二を卒業。
翌年の受験戦争に突入する中三になり、束がISを発表した。
ISはなんかぼろ糞言われたらしい、珍しく俺の前でも束は不機嫌だった。
確かにISって個人製作だしなぁ。
規格のない部品を作るために、束が新しく加工機器を作ったし。
わざわざ加工機器を用意するほどでもない場合は俺が切り出した。
ぶっちゃけ、ISって同人作品みたいなものだし。
出来は良かったので、人間が纏うと性能は知らないが『らしく』なるので「見る目ないよな」と束を慰める。
「いつか活躍する場面があればみんな認めてくれるさ」と告げると、「だよね! やっぱりあっくんは私のことわかってるねー!」とさっきまでの不機嫌はどこかへいった様子だった。
べったりとくっつくのも良いですが、勉強を教えてください。
あとちーちゃんが睨んできて怖いのでマジでやめてください死んでしまいます。
そのひと月後、定期考査が終了した直後に白騎士事件と世で呼ばれる事件が起きた。
2000発くらいのミサイルをISを使って防いだことで、ISの実用性を立証することになったとか。
ISってすごかったんだな。
2000発のミサイルとか、俺だと死ぬからなぁ。
爆風から逃げ切れないのは厳しい。
逃げ切れても熱が、な……。
良かったなーと上機嫌な束をくるくるする。
ちーちゃんもやるかと聞いて断られたので一夏もくるくる。
いーちゃん呼びは恥ずかしくなったのか、半年ほどで終わりを告げていたりする。
ちょっと寂しい。
--5
ISについて色々と世界は混乱したが、そんなことよりも勉強だった俺は無事に高校へと進学。
ぶっちゃけヤバかったです。
束は「不正するほどでもなかったというか、むしろかなり良かった……と思う」みたいなことを言っていたが、束とちーちゃんがいなかったら沈んでましたな。
ちーちゃんから一夏が小学校に入学したと聞き、上機嫌の俺は同伴して小学校に突入し、家族の写真撮影に混ざるという快挙。
というか怪挙だな。
まあ、両親が来られてなかったし一夏もご機嫌だったのでセーフだ、セーフ。
そしてその流れでなぜか束の家族とも写真撮影。
喜びのあまりちょっとテンションが上がりすぎたようだ。
一夏も小学生かー、剣術やるか!?みたいなことも言った気がする。
まあ、浮かれてたんで許せ。
束の妹の箒にも、剣術やるか!?みたいなことも言った気がする。
まあ、浮かれ(省略)
二人とも仲良くなって剣術やる流れかとチラッチラッと期待してたら、思わぬ方向へと向かってしまった。
束に取られるからやらないという一夏、ちーちゃんに取られるからやらないという箒。
なんか弟妹コンビの二人は互いに睨みあって俺の腕をつかんで牽制を始めていた。
姉離れはまだ先だなと思いつつ、それに反して姉愛に溢れた二人だなと感動のあまりくるくるしてみた。
競い合うようにくるくるをせがまれ、それに答え続けたら目を回していたが、好敵手と認め合ったのか道場に通うことを決めていた。
やっぱり小学生は最高だぜ!
ついでに束とちーちゃんともお祝いごとなので一緒に回っておいた。
--6
高校では「あたし斬れたナイフだから」だったちーちゃんがマイルドヤンキーと化していた。
軟化したようでうれしく思うが、家庭の事情は……まあ、俺が何か言うことでもあるまい。
ただ、ちーちゃんは男らしさMAXの代わりに女子力がマイナスだから家事が最悪である。
結婚できないまま孤独に過ごすちーちゃんを見たくない俺としては何とか家事を仕込んでおきたいわけで。
白羽の矢が立ったのは、彼女の弟の一夏であった。
めっちゃ懐いているので教えるのは苦ではないし、むしろせがまれるレベル。
弟がいたらこんな感じかと猫かわいがりしてしまう俺は悪くないはず。
家事が壊滅で未来が怪しいちーちゃんに反して、束はなんだかんだ大丈夫そうなので信頼して放置。
天才だし万能だし、人見知りする以外は完璧だと思う。
残念ながらゲームは俺が勝ち越しているけど、それは問題にならないし。
ちなみに現在の俺は1秒間に27回動けるっぽい、束が測定してくれた。
つまり現実で27fps相当の動きが発揮できるというわけで、じゃんけんすると出すまでに27回変更できる。
特に利点はない。
じゃんけんが超強かったり、格ゲーやシューティングが無茶苦茶強かったり、「魔王から逃げられない」をリアルで出来るくらい。
ちなみに束とゲームすると凄くひどい画面になって箒がガチ泣きする。
格闘だと先読みし続ける束と27fpsでコマンド入力する俺、なるほどすごくキモいです。
二人でシューティングすると敵が撃たれるために出てくるくらいだし。
高校二年に上がると一夏と箒が仲良くなったらしい。
互いにいがみあっている部分があったのが、切磋琢磨するようになっていた。
感動的な話だ。
そんな一夏の様子に満足したちーちゃんはやはり家事を覚えなかった。
バイトというか仕事というか、まあ、忙しいっぽいしな。
ついでに束も忙しそうなので彼女らの弟妹は俺が相手することが多々あった。
小学生の二人はかなり素直で言うことも聞く。
すげぇ可愛がってしまった。
俺も弟か妹がほしいと呟くと、二人とも一生懸命アピールして慰めてくれた。
やはりすげぇ可愛かった(粉みかん)
そんな感じで過ごして高三になり、進路に真剣に悩むようになった。
ちーちゃんはIS乗りとして勝利を約束されているし、束は言うに及ばず。
束の両親から道場はどうかなと誘われているし、ちーちゃんにISの整備などがあると助言を受けているが、かなり悩ましい。
ぐぬぬ……。
傭兵とかになって戦ったらいけるんじゃねと妄想したが、ISがあるし飯の種にはならなそうだ。
素手でISを倒せるのに働くのがこんなに難しいなんて……;ω;
よし、大学に進学しよう。
長く家を空ける様になるであろうちーちゃんと束の代わりに弟妹の世話もしないといけないし。
決して保留にしたのではないと信じてほしい。
後は束がISを開発したから変なの増えたし、蹴散らさないといけないし。
リアル無双ゲーっぽく遊べるので、それが楽しみだったりすることは決してない。
燕返しを極めすぎて10羽から20羽くらいの燕なら一度で落とせるに違いない。
しかし、同時に連撃を放たないと落とせない燕とか、ヤバくね。
聖杯戦争のあの人はいったいどんな燕と戦っていたんだ……。
そんな感じで進学したのはいいが、なんと束の家が政府の保護プログラムによって一家離散状態になってしまったらしい。
マジか……。
まあ、遅いくらいだったしな。
ISが投入されるくらい束が狙われてたし、しょうがないか。
そういえば一機撃墜したのでコアを手に入れた。
物理無効で超火力のボス機体だったが、中身は人間なので割かしうまく戦えた。
ハイパーセンサーで判断力や思考を補っているが、装備の動きなどには限界があるし、搭乗者の意思にも左右される。
攻略法としてすべての攻撃を避けてエネルギーを削り、シールドで守られている360°全方位を攻撃してエネルギーを削り、エネルギー切れで動かなくなったところを抜き手でコアを奪うだけである。
コアそのものを抜き取り、情報のやり取りを切断してしまったので量子化されていた諸々がまろみ出て地面に転がってしまった。
ファミコンの電源に引っかかってしまったような気分だった。
もうちょっと頑張ればシールドが疎らな部位が何mmかあったので貫通して綺麗に中身を直接やれたはず。
束謹製のISは間違いなくエネルギー切れ以外は無理だけど。
保護される間際、束にコアを渡すとほしいか尋ねられたのでいらんと答えた。
ちょっとヘソを曲げられたので一夏にあげてと頼んでおいた。
ちーちゃんのモンドセレクション金賞のお祝いとして一夏にも何かあげたほうが良さそうだし。
まあ、今回はちーちゃん随伴で夢の国的なサムシングに一緒に遊びにいったので、次の金賞であげればいいんじゃないかな。
ちーちゃんにあげてもいいけど。
--7
そんな感じの後は特に何が起こるわけでもなく、大学時代をぬるぬると過ごしていた。
第二回モンド・グロッソ中に一夏が誘拐されたり、ちーちゃんがドイツで教官を務めたり、束がコアの製造をやめたり、俺が正面からISを撃墜したり、ちーちゃんがIS学園で教官を勤めたり、束が失踪したり、いろいろとあったが実にいい感じだった。
それにかなり頻繁に束が現れて一緒に講義を受けたり課題やったりごはん作ったりと、なかなか楽しかった。
そろそろ俺の馬鹿(学力的な意味で)も問題なくなってきただろう。
危機を感じるほど馬鹿だったから結構一生懸命だった。
そろそろ勉強しなくてもいいかな、と心に余裕ができた矢先、事件が起きた。
なんと一夏がISを動かしたというのだ。
マジか。
驚きに反して当然ながら寂しさもあった。
保護プログラムや政府の動き、ISによる諸々の事情を考えるとこれまで通りにはいかないだろうことはすぐにわかったが心のうちに仕舞っておく。
ちーちゃんがIS学園にいるからこれはいい機会なのかもしれない。
俺がやってあげられることは、かつて学んだISについて教えることくらいか。
束が俺に作ってくれた参考書をそのままプレゼント。
さすがに部品を加工した話は伝えなかったけど。
IS学園は女の子だらけだからNARUTO(夜中の忍界大戦)みたいなモノは必要だろうかと小一時間悩んだが、発見されたら気まずいだろうと答えが出て、結局やめた。
--8
政府に保護されてIS学園へと向かう一夏を見送って、ちょっとしんみり。
気づいたら周りには誰もいなくなっていた。
みんなやるべきことを見つけ、それに進み始めた。
俺も何か見つけないとなぁとダウナーな気持ちに入っていると束が出現。
いいタイミングだ。
なんか嬉しかったので華奢な束を抱きしめた後、その細い腰を支えて宙に持ち上げ、昔のようにくるくると一緒に回った。
見つめ合うと照れた素振りが垣間見れる束の様子に、ちょっとだけ気持ちは晴れたが、先行きを考えると鬱屈しそうだ。
それでも、楽しそうに回っている束を見上げていると、今はこれでいいかなと思ってみたり。
--9
神様っぽい存在によって転生させてもらったので、学生を満喫したり、道場に通ったり、なんか馬鹿になってたので頑張って勉強した。
あと中二のときに幼馴染の束と超すごいパワードスーツであるISを作った。
中二病ってやばいね、二度目の人生だからなのか物凄いのが出来てしまった。
その後も頑張って勉強して、幼馴染のちーちゃんが切れるナイフから切れたナイフへと至る変遷を見守ったり、束を持ち上げてくるくる回ったりした。
そして大学へと進学を果たした。
で、俺ってば大学やめたんだよね。
頑張って勉強して入学したけど、ちょっと大学どころじゃなくなってしまった。
どうも俺がISの作製に関わっていたことに気付かれたらしい。
とはいえ公式的な見解は束のみが開発したという認識なのだが、裏では俺がなんやかんややった的なサムシング。
しかし世界の裏では実しやかに俺の存在が囁かれている、とか。
裏の世界とか俺ってばかっこいいな。
まあそんなわけで、政府が保護しようと凸ってきたり、秘密結社みたいなのが「乗り込めー^^」してきたり、ISが「わぁい^^」してきたりと大学に通ってられなくなった。
ぐぬぬ。
まだ入ったばかりだと言うのに授業どころではなくなった。
あと束と一緒に学食に行ってたのがバレたのもあるっぽい。
別に俺だけならどこに捕まってもいいのだけれど、束と会いにくくなりそうなので逃げているのだ。
あーでもどうしようかな。
完全無欠のニートだ。
先を全く何も考えないで家出する中高生と同じ発想だし。
冗談抜きで見知らぬ組織とかに狙われるからアルバイトも出来ないので困った。
コンビニでレジ打ちしてたら商品の代わりに銃とか向けられるし、前陳したら爆弾、掃除したら地雷、みたいな。
クラスにテロリストが現れたらどうやって対処するかなどと妄想していた転生前の中学生時代ならこの境遇も楽しめたかもしれないが、今となっては超面倒なだけだ。
撃墜したISのコアでもオークションに出して日銭を稼ぐとかどうだろう。
1個1円スタートとか。
最初は捨て値でもいいからオークションに出しまくれば、そのうち数が減って希少価値が付いて10万くらいに値上がりしないだろうか。
あ、いいかもしれない。
でも束が作ったコアを売るのは何となく嫌だな。
武装とか剥いで鉄くずとして売るとか。
いい案がないんだよなぁこれが。
やーんなっちゃう。
--10
手元にあって良かったバールのようなもの、なんてな。
鼻歌交じりに素振り。
今日もいい感じに大気を切り裂いて絶好調。
俺が異世界に転移するならバールだけは手放せない。
ちなみにバールの語源は崇められた嵐と慈雨の神である。
崇高なるバールと呼ばれていたが、旧約聖書で乏しめられて蠅のバールと嘲られて堕とされた的な。
ちなみに工具のバールは、木材に突き刺さった釘を蠅のバールに見立て、それを引き抜くことで崇高なるバールとしての神格を取り戻そうという運動によって誕生した。
嘘だ。
工具のバールはなんか製品名らしい。
Bar(棒)から来てるとかなんとか。
くぎ抜きとか金梃がうんたらかんたら。
まあ、俺のバールはエクスカリバーの別名だから。
エクスカリバールだと長いし。
準備おっけー、と上空からバリアを展開しながら飛んできたISにバールで殴りかかる。
奇襲のつもりだろうが俺にはそういうのがわかってしまうので無意味だ。
「邪気が来たか……!」といった感情とかを読んで先読みしたりは出来ないが、エネルギーの流れ等は見えるのでちょっとした未来予知ができるのだ。
脳の機能を一部が欠損している代わりに、なんか育ってるとかどうとか。
俺の脳みそが100%フル稼働していて超能力に目覚めているという話ではない。
転生特典じゃないかと思っていたり、欠損しているけど。
そもそも脳はセンシングするとかなりの領域が働いており、休息していることはあってもサボっている場所は無いようだ。
常にフル稼働だと熱を持ちすぎてヤバい的な話はあるけど。
100%稼働したら超能力も容易く扱えるという話もロマンや夢はあるが、結局幻想止まりのようだ。
もしくは脳の状態を任意で操れるようになったら、もしかしたら超能力に目覚めるのかもしれない。
超能力が使えたらISを撃墜するのも楽なのだろうか、と真剣に考えながら全身装甲型のISを滅多打ちにする。
展開されているシールドバリアは弱所が出現すると、エネルギーを消費して再展開する。
また、バリアを貫通して搭乗者に被害が出る場合は、絶対防御というエネルギーを浪費して生命を守る謎機能も取り付けられている。
つまりシールドバリアを繰り返し叩くことで揺らぎを生じさせ、隙間を縫って衝撃を通せば絶対防御でエネルギー切れを狙える。
というか狙わないと勝てない。
搭乗者を気絶させるにもシールドを張られたままだと衝撃などは届かないし、隙間であろうともシールドを貫通できる威力だと絶対防御が発動してしまう。
殺すのは更に労力がかかる。
生身で相手をする面倒臭さは半端ない。
宇宙など極限環境下で活動を想定して開発したマルチフォームスーツは伊達じゃないのだ。
隕石は押し返せないけど。
貫通させて一撃当てると、警戒したのか距離を取った。
退避を選んだら隙を狙って落とすし、攻撃を選んだら隙を狙って落とそう。
結局どちらにしろ落ちる未来しかないと言う話だ。
判断と動きが鈍いのはエネルギーがかつかつだからか。
もしくはリミッターが掛かっているハイパーセンサーに嫌がらせをするため、高速で相手の周りを走り回っていることに困惑しているのだろうか。
ちなみに捉えているであろう映像は全て残像だ。
スペースデブリは秒速7から8キロで飛んでくるのに対応しているハイパーセンサーだが、結局搭乗者は人間なのだ。
予測しようとも人間の処理能力以上のデータを叩きつければ無効化できる、というか疲労で判断力を鈍らせる。
最初はコンピュータを超える思考と反射だろうとも、負荷を掛けまくって疲労を溜めてあげればちょろーんだ。
エネルギーを削って、人の精神も削ったのだから、あとは壊す作業のみだ。
束とISを開発したことから、このコアはもしかしたら俺の子供ポジションなのかもしれないので手加減すべきだろうかと仏心が顔を出したが、ビームを撃ってきたので引っ込んだ。
そもそも武装でビーム系は照射して熱量を稼ぐ必要があるので当たらなければ問題ないゴミだし、気絶させるスタン系の武装かもしれないが殺傷性を割いた物など当たっても問題ないからゴミだし、実弾だったら当たらなければいいのでゴミだし、爆弾や砲弾系は爆風で俺が死ぬので使わないだろうしゴミだ。
宇宙での活動用に開発したのに、ゴミのような武器を付けてジャンクにビフォーアフターとか流石の俺も優しく出来ない。
子供に襤褸を着せられているのを見せられた気分だ。
俺は何時からゴミ処理係と化したのだろうか。
もっと資源は大切にすべきだ。
というか凄い技術が発見されたから兵器転用しようとか蛮族の発想じゃん。
いや、歴史を顧みると当然のように行われているが。
俺も隣人が銃を向けてきたら腕を折るからあんまり人のことは言えないかもしれんね。
殴られ屋でもやるか、どうせ当たらないし。
馬の状態を読んで競馬で一山当てるとかどうだろうか。
そうなると競艇もありだな。
パチンコは裏で弄られているのが大半だから論外。
宝くじは運の要素が強すぎて当たらん。
祭りとかあったら型抜きで小銭を稼ぐことも可能なのだが、どうしたもんか。
傭兵とかカッコいいし有りか。
飛行機に乗るのが難しそうだ。
泳ぐか。
寒そうだな。
アヒルボート……いける!
あ、ISは解体してコアだけ貰っておいた。
搭乗者も武装も残しておくだなんて俺って優しい。
そも搭乗者は女だろ、人身や臓器の売買とか販路ないし、ネットオークションで出来るわけでもないし、絶対いらねー。
量子化が解除されてるかもしれないが、そういう便利な技術に甘えすぎて恵まれていることを忘れるのは良くないと思う。
今回はISの技術が如何に素晴らしいかを知る勉強の機会だったと理解してもらいたいのだ。
--11
束が雇ってくれることになった。
ヒモかと慄いたが、若い社長しかいないベンチャー企業に就職したのだと考えればセーフである。
むしろISのシェアを考えたら勝ち組っしょ。
束が「あっくんには何をやってもらおうかなぁ」などとだらけきった表情を浮かべているが、確かにできることは少ないかもしれない。
中二のときにISを作る理由であった宇宙空間での活動がメインだろうが、ISは女性にしか動かせない。
なんでそうなったか、俺にはまったくわからん。
束はわかっているのかもしれないが、まあどうでもいいので流そう。
なので宇宙活動するだろうしホントはISを使いたいところだが、俺が男なので代替品を開発する必要があるかもしれん。
新しいのを何か作る?と束に聞いてみる。
「あっくんも欲しいんだ? 凄いの作ろうね!」みたいな反応が返ってきた。
凄いの欲しいです(真顔
流石に宇宙には何も無しで行ったら死ぬ、気がする。
あ、でも大丈夫かもしれん。
いけるって信じたらいけるいける。
酸素の問題を解決したら……やっぱ無理だな。
「どんなのにするー?」って設計図を見せられたが、既存のISは使えないのでのーせんきゅー。
現行のISよりも丈夫で極限環境下でも問題なく動ける感じがいいな。
エネルギーは大容量が望ましいけど、補給ができるのなら何でもいいかもしれん。
シールド極振りでもいいかも。
武装?
監視されていない小さなデブリを壊せるくらいだから最低限で……いや、大きなゴミとか落とすこともあるのかな。
強めがいいかもしれん。
つまり
シールド→超硬い
エネルギー→いっぱい
武装→っょぃ
なんだこの中二的な要望は。
流石の束も笑顔がちょっと困惑気味だ。
想定している戦場を聞かれた。
戦場……?
職場的な意味か。
完全な宇宙での活動だし、最初はデブリ撤去などをメインにするのはどうだろうかと返事をしておく。
恒星から発せられる光やイオンを推力に変換するソーラーセイルをISに乗せる話もあったし、機体名はスターゲイザーとかがいいなぁ。
実はヴォワチュール・リュミエールが凄い好きなんだ、俺。
将来的には、重力の制約も無いのだから巨大にして無人にして火星軌道以遠の太陽系宙域の探査・開発も目指そう!とちょっと興奮してしまった。
中二のときに束が宇宙へと歩みを進める夢を語られて、ISの開発を手伝う気になったのを思い出した。
俺の要望に首を傾げながらも投影されたディスプレイに図面を引いていた束の手が止まっていた。
俺が興奮した姿に驚かせたのかと聞いてみる。
そういうわけではないらしい。
柔らかな髪を揺らしながら束が顔を上げた。
珍しいことに笑顔ではなく、驚いた表情を浮かべており、眠たげで隈が目立つ目を丸くしている。
正面から見ると大きくて綺麗な瞳をしている。
束ぐう可愛。
「ふちゅー? 東京?」
「いや、府中じゃないから。宇宙だから」
「宇宙? 地球以外の空間のこと?」
「宇宙。地球や他の天体が属さない空間領域のこと」
「あっくんは宇宙で使うの?」
「使うでしょ。むしろ宇宙でしか使わないんだけど。今のところは大気圏外かな。上空100kmくらいのとこで使うし、将来は800km以降のところで使っていきたいよね」
束は目を丸くしたままである。
よくわからんので首を傾げる。
もうノウハウはあるだろうし、宇宙活動できるスーツは作製できるはずだ。
データもある程度は揃ってるんじゃないかな。
そのためにIS作ったんでしょと問いかける。
「うんうん! やっぱりあっくんは私のことわかってるねー!」
とろけるような笑顔を浮かべた束に抱き着かれた。
というか勢い的にタックルだった。
受け止めて抱きしめた後、細い腰を支えて抱え上げてくるくると周る。
楽しそうな束を見ていると、大学をやめて正解だったかなと思ってみたり。
--12
宇宙用のスーツだが、当然のことながらISの技術を流用する。
楽だし、スーツとしては便利で優秀。
男性用に一から作ることも考えたが、面倒なのでエンジェルパックというハイセンスな制御システムを作ることで解決した。
ちなみにエンジェルパックの中身は適正持ってる搭乗者たちのクローンだ。
釣り餌として人気のない閑散とした通りを束と歩くと結構な頻度でISが襲ってくるので、何人かから遺伝情報を貰い、クローンを培養して邪魔な部分を切除して頭にコアを埋め込み、カプセルに詰め込む感じだ。
コアが受信機にもなるので、俺の指示も受け付けてくれる。
ISの新時代が幕を開けた……いや、むしろISとは異なる新技術かもしれない。
女性しか動かせないコアが無いとISではなくなるので、ISじゃない超すごいスーツ的な。
頭部と胴体が入ってるエンジェルパックは非常に邪魔だが、ある意味で動力も兼ねているので我慢するしかない。
あと結構な頻度で取り換えが必要なのも面倒臭さに拍車をかけている。
廃棄品は中身を高温で燃やせばいいだけだから特にどうという話でもないのだけど。
脳みそだけが理想だったのが品質維持が難しく、劣化と性能のつり合いを顧みて胴体と頭部のセットにしたという世知辛い現実があったりなかったり。
完成したスーツの雛型に、必要な装備を積み込んでいく。
シールドは必須だ、無いと死ぬ。
絶対防御は……エンジェルパックにだけ付いてればいいか。
センサーとコアネットワークなどはISについている元の機能のリミッターをカットすれば問題なし。
武装は無くてもいいが、作業用のマニュピレーターは欲しいので10個くらい用意した。
しかも脳波コントロールできる(どやぁ
ISコアを握らせて宇宙ステーションへこっそり混じって飛んで行き、宇宙でテスト。
台数は少ないが、宇宙でISが活用されているようで感動した。
女性ばかりなのでハーレムものが始まる予感……!
--13
IS学園に教師として赴任。
一夏がISを起動したというので心配になって来ちゃった。
嘘だ。
作業途中で宇宙ステーションに俺がいるとバレて捕まりかけた。
ハーレムなんて夢だったんだ。
逃げるために宇宙開発用スーツ・スターゲイザー(仮)で大気圏突入をするという事件が発生。
大気での行動はほとんど考慮してなかったので、エンジェルパックを一個潰れるまでフル稼働させてしまった。
脳が高温でダメになるくらい使ったのに超能力に目覚めた様子は無かった、つまり超能力は存在しない可能性が高い。
思わぬところで証明されてしまったな。
まあそんな訳でバックれて中立的なIS学園に逃げ込んだ。
束?
宇宙ステーションで「君といると月が綺麗だね」「私死んでもいいよぉ……」ってオシャレな会話を繰り広げた後に束は月へと旅立った。
そして昨日、束から月面で撮ったらしい写真が送られてきたので観光しているかもしれん。
可愛いは作れる、というフレーズを意識したらしい。
月に降り立てば最高に可愛い束さんになる!みたいな事のようだ。
なるほど、やはり天才か。
いつも以上に月が輝いて見えるぜ。
束が月面にいることによって更に月が綺麗になってしまうな。
ただ束と一緒にいる方が嬉しいのですがそれは、と返信したら作業したらマッハで帰るって返事がきたので月面で基地とか作ってるんじゃないの(テキトー
束の写真を見ていて重要なことに気付いたのだが、これまでの兎耳ファッションはおそらく月に兎がいるという迷信を現実にするための伏線だった可能性もある。
束……やはり天才か。
IS学園だが、実権を握っている用務員と一夏くらいしか男がいない。
なので立場的に浮きまくり。
教師として最高に理想的な挨拶で「徒花秋波です。あっくんって呼んだら殺す☆」と好感度が稼げそうな猫被り挨拶をかましたら、クラスがざわついて金髪のちょろそうな生徒が叫び始めた。
えーと、名前がわからんからチョロインちゃんと仮定しよう。
外国の方なのだろうが、日本語もしっかり喋れているけどヒステリックかもしれん。
チョロインちゃんは「かしらかしら、ご存知かしら?」的な発言をしそうなので多分少女革命ウテナを意識しているのだろう。
ウテナが好きで日本語を覚えたのかもしれない、そして今憧れの日本に来てハイスクールに通っている夢叶ったオタクという可能性が高い。
どうでもいいね!
「IS適正が無くても授業できまぁす!」とチョロインちゃんを無視して授業開始。
じゃあ、導入としてISが開発された唯一の理由である宇宙空間で活動するための話を……なんか反応が悪い。
武装とかについての話がねーのかよ!って感じである。
え?
戦い方に興味があるとかどんな教育してるんだこれ。
あーでも軍学校だと考えたら……やっぱ変だよな。
競技や軍事利用を意識し過ぎてるし、彼女らの国では戦争でも起きるのかってレベルだ。
そもそも兵器としての点に注目するとか蛮族か何かか。
就職とかで有利になるとしても建前でも平和利用を意識してほしいというか。
我々には知性と理性が伴っているのだから、もっと学術的に運用することも出来るはず。
確かに開発者の束は評判が悪いかもしれないが、開発理由である純粋な夢まで歪めてほしくないわけで。
……なるほど!
つまり、こういった戦いばかりを追い求める蛮族に歪みつつある認識を正し、ISの純粋な使い方を教えるための授業にするということか。
そうですよね、織斑先生!
織斑先生?
……ちーちゃん?
なぜちーちゃんは目を逸らすのか(白目)
--14
織斑一夏は女尊男卑の先駆けとなったISと呼ばれるマルチフォーム・スーツの、男性唯一の搭乗者である。
受験会場への道を間違えて何故かISが起動できた奇跡の体現者である。
幼馴染もセカンドまで装備し、イケメン。
意外となんでも卒なく出来て、おつむも悪くない。
しかもISの国際大会優勝者である織斑千冬を姉に持つ。
その結果が、国家公認の地獄ハーレムに叩き込まれた憐れな犠牲者であり、飢えた狼の中に投げ込まれた憐れな子羊の出来上がりであった。
--15
騒ぐクラスに向けて姉が「ISを使う上でのガイダンスを始める。そこで、専門家である彼に説明してもらおうと思う」と宣言すると、新任の先生が入ってきた。清潔感のある短髪、整った端正な顔には人好きのする笑みを浮かべ、皺ひとつない高価なスーツに身を包んだ青年。姉と、あの『束さん』の幼馴染のあっくんである。
「徒花秋波です。あっくんって呼んだら殺す☆」と誰もが信頼するであろう優しげな笑顔を浮かべながらそう挨拶した。冗談なのかもしれないが、クラスの空気が一瞬だけ凍りついた。だが、そんな空気など関係ないとばかりに、黒板に絵を描き始める。ほんの10秒程度で、チョーク一本で描いたとは思えないほどに精密なIS内部の絵が描きあがった。その見事な絵に、「おぉー」と歓声が挙がる。
「ISの基礎から話していきますね。そもそもISの開発理念は束が……」
「ちょっとお待ちください! あの篠ノ之束博士を呼び捨てなどと! 貴方が専門家だろうと何だろうと知りませんが、いえ、だからこそ博士にきちんと敬意を持つべきですわ! 文化としても後進国の日本に暮らすだけでも耐え難いのに、そもそも男性からISの説明などと……」
「……」
長い金髪のクラスメートが立ち上がり、あっくんの言葉を妨げる。そして、束さんを尊敬しているのか、呼び捨てで呼んだことへ抗議する。
その生徒へ、あっくんが『あの』目を向ける。優しい温かみのある笑顔なのに、その奥にあるのは、ガラス球のようになんの感情も映さない瞳。
どさり、と音がした。音のした方へ顔を向けると、抗議したクラスメートが眠るように机へ倒れ伏した。そして緩やかな風が流れる。締め切られ、空調が働いている室内に。
「何が起きたのか」とざわつく教室。
あれは手刀だ、見えないがわかる。恐ろしく速い手刀。姉でも逃しちゃうね。昔、姉が留守がちだった頃。ゴールデンウィークの連休に、あっくんに山に連れて行って貰ったことがあった。その時に出た熊を、今のように風だけ残して気絶させたのだ。その後、束さんがどこまでやれるのか見てみたいと言い出し、象を倒し、潜水して5分で鯨を海上に浮かべたのを見学した。個人的には最終日のバーベキューが一番楽しかった。
「みんな静かに。最初の授業から『寝る』とは代表候補生はかなり挑戦的です。実に面白いですよ」
あっくんは外へと視線を移しながら「まあ、こんなナイフみたいな態度が許されるのは中学生までだから。後でイギリスに教師への敬意が足りていないと抗議するとして」と呆れたように言った。
教壇近くの窓際で授業を見守っていた姉が何故かぷるぷる震えていた。
「IS適正が無くても授業できまぁす。そもそも乗り方ではなく、IS全般の話をします。そのため、幾らかの知識さえあれば適性は要りませんよね。また、競技や軍事への転用についての話も私からはしません。そういったことに興味を持ったり、そういう風に育ったかもしれません。が、みなさんが学生であることもまた事実です」
「ね?」と再びクラス全体に問う。みんな何かを察したのか、大人しく何度も頷く。自分も同じように。姉は何故か目を逸らしてぷるぷるしていた。
その様子に満足したのか、止まっていた授業が始まる。あっくんが教壇からクラス全体を見渡しながら、話を進めていく。
紡がれるのはISの開発理念、使用目的、運用の推奨方法、そして現状までの宇宙での活動。ISでどのようなことが可能なのか、不可能なのか。兵器というよりも、便利な道具としての話が進められていく。
話に連動して黒板の絵がアニメーションのように動き、遅れて小さくカカカッとチョークが削れる音がする。無駄に凝った演出だとクラスメートは静かに見ている。が、間違いなくあれは書きながら話しているだけだ。
「今日はここまで。次は機能についての話をしましょうか」とあっくんが言うと、授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
教室を出る際、あっくんがこっちに来るようにと手で小さく招いていた。何か言いたげな幼馴染の箒もこちらに近づいている。
このままでは物珍しさで休み時間に質問責めに合うだろう。どちらかと話せば多分他の生徒も寄ってこないだろう。
あっくんか、箒か。あっくんとは、小学校を卒業して以来ほとんど話す機会がなかった。対して箒は束さんがあっくんを連れて行ったので接点があったに違いない。また、束さんがあっくんの獲得に成功してしまったので、手を拱いていた姉が干物として残ってしまった。そのことから、箒本人には何の罪もないがなんとも言えないもやもやした気持ちを抱いているのだ。結果はあっくん一択だった。
周囲に集まっていたクラスメートに「ごめん、先生に呼ばれてるから」と躱して教室から出る。残念そうな声が聞こえたが、逃げられたことにほっとする。
「呼びましたか、徒花せん……せ……?」
言葉に詰まる。廊下では、何故かドヤ顔で両手を広げるあっくんが待っていた。
「あれ? 折角だからくるくるってしようかと思ったんだけど」
「いや、俺ももう高校生なので廊下でくるくるはちょっと……」
くるくるとは、あっくんに腰辺りで持ち上げてもらい、くるくると一緒に回転することだ。独特の浮遊感と特別感で何度もせがんだこともあった。が、さすがに高校生にもなって廊下でくるくるとされるのは羞恥で厳しい。あと、なぜか離れた場所で凝視している姉の獣の眼光も怖い。
「そう、残念だな。束は喜んでくれるんだけど」
断られたことにしょんぼりとしたあっくん。姉の視線が強くなった気がする。
「そ、それで、徒花先生が俺を呼んだ理由を教えてもらえますか」
流れを変えるため、呼ばれた理由を聞く。さすがにくるくるだけではない……はずだ。いや、それだけの可能性もあっくんなので高い。極めて。
「あっくんでもいいけど」
「いや、学校なんで」
「それもそうだ」とあっくんが頷く。というか、あっくんって呼んだら殺す☆と言っていたので、言えるわけがない。自分がそう呼んで、気軽に真似した生徒が恐ろしく速い手刀で晒し首にされると思うと、軽はずみな行動を取ることは出来なかった。
「ISの勉強はどう? 捗ってる?」
「ははは、それはもう、はは……」
あっくんから目を逸らす。あんな電話帳でどう勉強しろというのか。あっくんから送られてきた参考書も難しすぎて、解読が進んでいない。
しかし、ここで見栄を張って「完璧だ」などと言えばあっくんはどう対応するのか。知っている前提で全てを進めるに違いない。だってあっくんだから。
「正直、全然わかりません……」
「あ、そうなんだ。難しいからそう肩を落とさないでもいいと思うよ。春からISに関わることになったんだし、卒業までに人並みまで行けば問題ないから」
「でも何時までも置いてかれてるのもどうかなって」
「なるほどなるほど。それで、呼んだ理由なんだけど、放課後に時間があるなら勉強見れるけど、どうする?」
部活や友だち付き合いがあるならそっちを優先してもいいのだけど、と続けた。
「お願いします」
提案に一も二もなく食いつく。何処かで真面目にやる必要もあるし、授業では足りない気もする。だから丁度良かった。
部活も女子ばかり、委員会も女子ばかり、友だちを作ろうにも女子ばかり。息も吐かせぬ地獄か何かか此処は。
「ほう、一夏もやる気になったか。なら、どうだろうか。わ、私も一緒に勉強を見てやっても」
「あ、ちーちゃん。上級生が訓練予約入れてたし、それの付き添いで手一杯だろうから心配しなくてもいいよ」
そっかぁ……´・ω・`と肩を落として姉は去って行った。
千冬姉……。
「時間に都合があれば電話してくれたら勉強みるからね」
「授業頑張ってね」という言葉を残し、あっくんは音もなく消えた。緩やかな空気の流れを残しているので、多分ちょっと走ったのだろう。実は会話の流れを全て計算していて残像と話していたとか……さすがに無いか。
あっくんとの交流で質問責めを凌げたと思ったが、普通に他の休み時間に押し寄せられただけだった。昼休みも他のクラスから人が物見に来たり、声をかけられたりと、見通しが甘かった。
それも終わりだとLHRを受けると、「クラス対抗戦があるので代表者を決めろ」と姉が爆弾を投下した。その結果が、唯一の男を出そうと騒ぐクラスメートと、あっくんの手刀を受けた人が「そんなの認められません! 専用機を持ってる私に決まってますわ!」と論争でエキサイティング!するかに見えた。
教室に後ろに立って様子を伺っていたあっくんが「本人の意思確認ができないだろう。空気を読みなさい、空気を」と言うと、突然騒ぎ立てていた生徒が机に伏して『眠り』につき、教室が静まり返る。
姉を始めとした起きてる生徒がこちらを無言で見つめる。
「ま、まだ実機をほとんど動かしたこともない未熟な俺としては、専用機を持っているそっちの人でいいんじゃないかと思うんだけど」
代表はあっくんの手刀を受けた人になりそうだ。
放課後。教室の入り口には上級生も来ていたのだが、教室にいる生徒の八割が眠っているという異様な光景に何かを感じ取ったのか、すぐに帰って行った。
「い、一夏」
「箒か……」
やっとあっくんと勉強できるかと思えば、幼馴染の箒の姿。
機嫌が悪いのか、どこか表情も硬い。
こちらもなんだか気まずい。
「話があるんだ。お、屋上に行かないか?」
「大事な話か?」
真剣な自分の言葉に「だ、大事? いや、その」と箒が口ごもる。
箒の返事を待つ間にあっくんからのメールを確認。もう準備が出来ているらしい。
「久しぶりに会ったから調子はどうかという挨拶というか……」
「ごめん、箒。これからあっくんと勉強だからまた今度にしてくれ」
そっかぁ……あっくんに負けたのかわたしぃ……´・ω・`と箒は肩を落とした。
互いの挨拶だけなら向かう途中でも出来るだろ、一緒に行くか、と箒を誘う。首をちぎれるかの如く何度も頷く様に引きながら、あっくんの待っている空き教室に向かう。
調子はどうとか、剣道がどうとか、そんな話をして到着。そして、何故か箒も勉強会に参加することとなった。
基礎をやる自分よりも、応用を勉強する箒のほうが質問する機会が多かった。
久しぶりに会ったのに箒のほうが話す時間も長かった気がする。
つまり、あっくんを箒に取られたんだが?(おこ)
部屋へ戻ると、何故か箒と同室になっていた。姉に知らせると、無理やりねじ込んだからしょうがないという頭の悪い返事が。
それをあっくんに知らせると「えぇ……」とドン引きした声を洩らしていた。『あの』あっくんが、である。IS学園って凄い、初めてそう思った。
部屋調整が行われ、それで空き部屋を作るのでそれまであっくんの部屋に泊めてもらうことになった。普通は姉がやることなんじゃないかと思ったが、夕飯に作ってもらった酢豚食べたら忘れた。
翌日、登校すると昨日LHRで眠らせられたクラスメートやあっくんの手刀を受けた人がまだ寝てた。
寝癖とか化粧とか……いや、この話は止めておこう。
--16
「決闘ですわ! まるで譲られたかのような選出に納得がいきません! 決闘で決着を……」
代表に決まった旨を伝えられたあっくんの手刀を受けた人が叫びながら立ち上がった。
クラスメートたちから「オイオイオイ」「死ぬわアイツ」的な雰囲気が流れる。それに気付いたあっくんの手刀を受けた人が、サビ付いていたかのように鈍った動きでギギギと振り向く。あっくんが、あっくんの手刀を受けた人の後ろに立っていた。そして、あっくんの手刀を受けたのだろう、あっくんの手刀を受けた人が眠ってしまった。あっくんの手刀を受けた人はこれで二日連続で一限を寝て過ごすことに……ってなんだよあっくんの手刀を受けた人って、長いな。あいつの名前、誰か教えてくれないだろうか。
「IS学園って問題多過ぎないか」
ぽつりとあっくんが漏らした。
ほんとそれ。
実機のISを使った訓練の授業。
なぜこんな水着に似ているのかと悩みながら、身体にぴっちりと張り付くようなISスーツに身を包んで指示があるまで待機。目の前には純国産の量産型ISの打鉄が置かれている。
周りの女子に比べて明らかに浮いている。そういった恥ずかしさを我慢するのもツラさを感じ始めた頃、姉と連れ立って山田先生とあっくんが現れた。
「それでは授業を始めます。実技は織斑先生と山田先生が見てくれますが、初歩的な部分は私が指導していきます」
隣で睨んできていたあっくんの手刀を受けた人が「これで私の活躍を見せつけて……」と漏らしていた。
「では安全確認から始めてください」
ドヤ顔でISを展開したあっくんの手刀を受けた人が「あんぜん……かく、にん……?」と呟いた。
クラスメートが口々に「あっ! これ最初の授業でやったとこだ!」と漏らす。要約すると周囲や乗機をきちんと確認しましょうという話だ。同時にISを外観から調べ、異常がないかを確かめるのも行う。実際は自動でスキャンしたり、技術者がメンテナンスと確認するので、わざわざ搭乗者がする必要もない。最初の授業なのでみんなと触れながらやってみよう、ということなのだろう。
あっくんの手刀を受けた人は寝てたのでわからないだろう。
「あの……織斑さん。その、申し訳ないのですが、教えていただいてもよろしいでしょうか」
消え入りそうな声で、あっくんの手刀を受けた人が訊ねて来た。決闘だなんだと叫んで、専用機をドヤ顔で出し、安全確認を訊ねる彼女の心境は如何に。
「すまない。無理なんだ」
「そうですよね、あれだけ騒いで寝てた私が悪いんですものね……」
顔を俯かせて落ち込んだあっくんの手刀を受けた人に、そうじゃないと告げる。
「専用機は俺もわからないんだ」
「ああ、なるほど」
「先生を呼ぼう。出来るまで一緒に頑張ろう」
あっくんの手刀を受けた人が「ありがとうございます、織斑さん」と目をきらきらさせながら感謝の言葉を呟いた。
心細くて不安だったのだろう。
安心させるために「心配しないでも俺と(あっくんが)一緒なら大丈夫だ」と笑顔を向け、あっくんに声をかける。あっくんを待っている間、あっくんの手刀を受けた人が顔を赤らめてこちらをちらちらと見てた。やっぱり不安なんだろうな。
真面目にやってないクラスメートを安らかに眠らせたあっくんが駆けつけてきた。専用機の安全確認がわからないと告げるとあっくんが「えぇ……。専用機持ちなのに……」と漏らした。あっくんを動じさせるなんてなかなか出来ることじゃないよ。あっくんの手刀を受けた人が何時かの姉のようにぷるぷる震えてた。
あっくんに丁寧に教えてもらい、無事に安全確認を終えた。安堵の息をつくあっくんの手刀を受けた人に声をかける。
「無事にできて良かったな」
「ええ、ありがとうございます。手間をおかけして申し訳ありません」
「俺は手間だって思ってないよ」
あっくん居たし。
「その、織斑さん。私、貴方のことを勘違いしていました」
「そう気に病むこともないさ」
あっくんいるから何が起きても大丈夫だし。
「それで、その。名前でお呼びしてもよろしいでしょうか……? も、もちろん友好を深めたいというだけで深い理由もありませんし、嫌なら嫌とおっしゃっていただければ私は……」
「いくらでも一夏って呼んでくれよ。あっくんの手刀を受けた人」
「ありがとうございます、一夏さ……え? 手刀? あの、私の名前はセ」
あ、集合するようにとの声が聞こえる。
授業が次の段階に進むらしい。
「早く行こうぜ。あっくんの授業が進んじまう」
「一夏さん!? 一夏さん!? 私の名前はセ」
あっくんの手刀を受けた人が叫んでいるが、きっとあっくんの授業でわくわくしているのだろう。しょうがないね。
--17
あっくんの手刀を受けた人に懐かれた気がする。「私の名前はセ」とあっくんの手刀を受けた人が発する途中で、セカンド幼馴染である鈴が現れた。鈴は2組だったらしく、「同じクラス代表だから練習しましょう!」と主張するために来たらしい。なるほど。
鈴が「違う! 違う違う違う!」と英霊としてガチャに一時期だけ混ざっていた巌窟王のような叫びを挙げて、釈然としないあっくんの手刀を受けた人とISの練習に向かった。
「対抗戦は唯一の男である一夏が出ると予想したのが噂になっててな。たぶん、それがそのまま「一夏が出る」と伝わったのだろう。未熟なISの操作練習を『手伝おう』としてくれたんじゃないか。もう一度言うが、純粋に『手伝おう』としていたと思われるから後でお礼でも言っておけ。いや気を使わせるかもしれないからメールとかどうだ」
「あの女は誰だ」と聞きに来て「セカンド幼馴染の鈴だ。箒はファースト」という答えを聞いて呆けていた箒が、再起動してそう予想した。なるほど、幼馴染だから練習を手伝おうとしてくれたのか。良い奴だ。礼としてあっくんの酢豚を食わせてやろう。
屋上まで弁当を片手に走る。何処もかしこも女子、女子、女子。落ち着く暇もない。此処は地獄か。そろそろ一息つかせてくださいおねがいしまむら。
先客もいない、静かな屋上。無限に広がる空の下、内心でやったぜ、と座り込む。鼻歌交じりに弁当箱を開き、色とりどりのおかずに、「おぉ……」と思わず喜びの声が漏れた。
「一夏?」
呼ばれたので振り向く。肩を上下させて息を整えている鈴が居た。
「鈴か。どうした?」
「昔の約束おぼえてる?」
約束……。箸で摘まんでいた酢豚を見てはっと思い出す。確か、料理が上達したら毎日、私の酢豚を食べてくれる?という物だったはずだ。
「……覚えてる」
「そ、そう!」
「でもな、鈴。無理なんだ」
「え……?」
「俺にはあっくんがいるんだ」
「あっ……くん……?」
「あっくん(の酢豚)が一番なんだ」
「で、でもこの酢豚を食べてみたら気が変わるかも……」
「食べていいぞ」
箸で摘まんでいた酢豚を鈴に魅せつける。太陽光で、タレが美しく照り輝いている。腹が減ったので早く食べたいのだが、そういえば鈴には礼をしていなかったと思いだして酢豚をあげることにした。ホントは一つで我慢したいところだが、せがまれたらもう一つか二つはあげてもいい。セカンドだからな。
「私のより、おいしい……」
鈴が手にしていた弁当箱を落とす。重力に引かれたそれは、鈍い音を屋上に響かせた。
「あっくんが俺(と千冬姉)のために作ったんだから当前だろ」
大きな瞳に涙を溜めた鈴は……
「一夏の馬鹿ぁ!」
何故かビンタして走っていった。
凄まじい衝撃だった。
通り魔に遭った気分ってこんな感じだろうか。
だが、弁当は無事に守り抜けた。やったぜ。
あっくん
オリ主として転生した男。
転生したので生前のコミュ能力とか以外はフォーマットされた。
あと空気が全く読めない。