第25話
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父と母がワイズ・ゲルテナという芸術家の根強いファンらしい。
熱を上げ過ぎて、外国のゲルテナ展を見に家族で海外旅行をしてしまうくらいなのだから、とても魅力があるのかもしれない。
俺は好きじゃないけど。
好きじゃないけど。
重要だから何度でも言う、俺は好きじゃない。
むしろ嫌いである。
気持ち悪さを感じるからだ。
日本で両親から見せられたレプリカや図鑑越しでも気持ち悪さは半端なかった。
本物?
ははっ、げろげろですな。
「本物のゲルテナは何処にある」的なことを喚き散らすおっさんがいた。
めっちゃうるせぇ。
外国語に疎い俺でもわかるくらいゲルテナを欲しがるとかキモい。
気持ち悪いのでトイレを目指す。
両親から離れてふらふらだ。
限界でおろろろろってしてしまうかもしれん。
そんな俺を見かねたのか、赤い瞳が綺麗な少女が声をかけてきた。
外国語は簡単な聞き取りならできるが、日常会話は無理だ。
すまんな。
自己紹介とか住んでる場所くらいなら会話できた。
俺の糞英語で意思疎通とか奇跡だろ。
日本に帰ったらマジで外国語を勉強する。
イヴという名の少女に迷惑をかけてしまったことが心残りだ。
少しばかり喋ったら気分は落ち着いた。
会場内で見かけたらイヴにはお礼を言わなければ。
気を取り直して歩いていたら電灯で明滅を繰り返した。
施設が古いのだろうか。
やがて電気が消えた。
道に迷いそうなので戻ろうとするが扉が開かない。
電子キー的な感じだろうか。
なんて杜撰なのだろう。
暗闇の中を歩いていると、二階から物音が聞こえた。
寺生まれと一緒に武者修行した俺の経験からして、なんか奇妙な気配だ。
ああ、もう鬱陶しい。
消滅させてやろうと進むとキモい絵を見つけた。
酷く騒がしく、内部に変なのばっかり存在している空間を感じる。
「破ぁ!!」
口裂け女の口の端を治療できる程度の出力で霊力を出したら引きずりこまれた^q^
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俺が引きずり込まれたこの空間だが、予想以上に強力だったらしい。
思念が半端ない。
手抜きの霊力で逆に扉を開いてしまったのかもしれない。
やっちまったぜ。
相手の結界的なサムシングに引きずり込まれたからかなり不味い。
イメージとしては腹の中に入ってしまった食物が一番近い。
じっくりと溶けて死ぬのだ。
脱出する方法としては、逆走して口からダイナミックエントリー、肛門からエクストリーム脱糞、腹を裂く、この三通りだ。
あとは逆流性胃炎になってくれるまで生きるという耐久デスマッチ。
腹を裂いたらどうなるかわからん、この世界の中身が溢れ出る可能性もなくはない。
口から嘔吐脱出大作戦は、俺が入ってきた『入り口』としての機能を持つ部位が消えたので無理。概念空間って嫌だわホント。
となると、うんこコースくらいしか……。
ま、まあ、脱出法を決まればちんたらしている暇はない。
さっさと脱出しないとマジモノの霊的なうんこになるからな!
……ちんたらとうんこで下半身ワードが被ってしまった、壊れるなあ。
頭の無い彫像みたいなのがジェットストリームアタックをかけてきたり、呆れるほど有効な戦術をしたり、ドゥエドゥエドゥエと追いかけてきたりしたが難なく追い払った。
意味不明な存在はとりあえず「破ぁ!!」しとけば解決する。
問題は戦闘によって適当に走り回ったことである。
もう道わかんねぇなぁ……。
テキトーに道を彷徨っていたら黒いラフレシアを拾った。
これはなんとなく持っていなければならない気がする。
しかし、美しさが零である。
咲き誇ったラフレシアとか誰得だよ。
サイズは胸ポケットに入るくらいなんだけど。
話は変わるけど彫像とか絵が襲い掛かってきすぎなんだよなぁ、ここ。
ここまでワイルドな空間とか、赤い大地と空が広がる空間に隔離されてSDKとやらと無双ゲーみたいな大乱闘をやったり、変な裏世界で三角頭とバトるしたり、宇宙空間でばいど?とかいう宇宙人を退治したのを思い出すレベル。
あとはゾンビが歩き回る街でナイフ片手に脱出したときとか、カメラ片手に幽霊と遊んでる女性を連れてダイナミック無双とか。
ああ、もうめんどくせぇ!
「破ぁ!!」
うおっ!
「破ぁ!」したらラフレシアが巨大化したんですけどぉ!!
--3
もうめんどくさくなって壁を破壊しながら歩いていると、メアリーという少女と出会った。
メアイーとかメリーかもしれん。
外国語の発音って難しすぎなんだよ。
メアリーは黄色に近い金髪、大きな青い瞳の少女だ。
年はイヴと同じくらいだろうか。あれ、イブだっけ、ウブだっけ。
まあいいや。
確か九歳とか言ってたからそのくらいか。九歳だよな? たぶんナインって言ってたし。お前の語彙がナインとかそういうのじゃないよな? な?
メアリーがホントに生きてる人間ならなのだけれど。
メアリーから生きているような、死んでいるような、そんな感じが漂っているのだ。
過去に出会ったアリスとかいう少女も同じだった。
もしかしたらこの空間はメアリーのためのモノという可能性もあるのか……?
まあ、いいや。
めんどくせ。
「破ぁ!!」
メアリーの持っていた造花である黄色のバラがラフレシアと化した。
なずぇ……^q^
--4
メアリーを肩車して突き進む。
壁も障害物も無いも同じだ。
なぜ肩車をしているかというと、言葉がわからないのでボディランゲージで会話しているのだ。
肉体言語でわかったことは一つ。
ロリコンになるのも仕方ないと思う。
壁を突き破って辿りついた部屋で奇妙な木があった。
「破ぁ!!」すると指輪が手に入った。
え、なに、ドロップ品的なやつなの?
こいつら倒すとアイテムと経験値がもらえたりすんの?
もしかしたらここは異世界なのかもしれない。
俺の異世界ファンタジーが始まる。
俺は勇者になれなかったよ……。
そもそもここは異世界というよりも異界だし。
勇者でチーレムとか夢のまた夢のようだ。
悲しい。
嘆いているとイヴとギャルーが背中をさすってくれた。
ギャルーで名前が合っているのか不安だが、イヴとメアリーも同じようなものなので諦めた。
帰ったら真面目に英語のリスニングする。
で、ギャルーとイヴの二人だが、壁を突き破ったら出会った。
以上。
なんか二人は頑張ってたが、どうでもいいのでスルーだ。
爆進するぞオラァ!と気合を入れたら二人に止められた。
なんか輪っか的なモノを探しているらしい。
指輪ならあるよと渡すと「でかした!」と抱きつかれた、ギャルーに。
外国の方はリアクションが大きいぜ。
でも紫の髪って変わっているよな。
あと抱きつき長いわ、ホールド技か何かかよ。
二人に連れられ、新郎新婦の作品に指輪を渡すと、お礼にブーケを貰った。
なるほど、ブーケを得たということは俺は近いうちに結婚できる可能性が高いのか……。
金色の闇ちゃんと結婚したいです。
二次元から早く出てきてくれ(迫真
キモい青い顔をした絵が花をくれと言ってきた。
ブーケをイヴに託し、俺のラフレシアを渡す。
「うぎゃあああああ!! た、たすけてk、無理ぃぃぃ、そんなに曲がらないのぉぉぉ……!」
という叫び声を残して、絵が黒いラフレシアに食われた。
どうしてこうなったんだ……^q^
--5
俺のブラック・ラフレシアに食われた絵が塞いでいた部屋に入る。
絵が断末魔を挙げていたが、正直、その、どうでもよかったです。絵だし。
女の絵とか頭のない彫像が襲ってきたので、部屋ごと「破ぁ!!」した。
残骸を残して静かになったので、鍵を開けて先に進む。
ぶっちゃけ、黒いスーツを着たMIBとかいう紳士たちと協力して宇宙人による地球侵略を退けるほうが大変だった。
戦闘後もニューラライザーでピカッとされるから油断できない。
放たれる前に光を避けるか、曲げなければ防げないし。
三回くらい喰らって学習したのだ。
で、なんやかんやあって皆とわかれてしまった。
床が抜けてギャルーが消えたり、イヴが部屋に閉じ込められたり、メアリーがUFOにさらわれたためだ。
とある町でUFOが実験していたことがあったり、宇宙人のミスで未来の地球が滅んだのでそれを直しに言った事があってな。まあ関係ないので俺の宇宙人の話は省略。
テイク2
床が抜けてギャルーが消えたり、イヴが部屋に閉じ込められたり、メアリーがUFOに攫われてしまった!
くっ、俺はなんて不甲斐ないんだ!
雑魚モンスター並みに次々現れたゲルテナ作品をガラクタにする作業を終え、無力感に苛まれる。
廊下を埋め尽くされ、天井まで溢れた出待ちファンを残骸に変える作業程度で隙を見せてしまった、やはり俺はまだまだ未熟だ……。
とりあえず変な美術品に襲われるギャルーを救ったり、マネキンを見て悩んでいたイヴのために頭の無い彫像に移植して生まれ変わらせ、UFOに攫われて気が狂ったのかパレットナイフでマネキンの頭部を滅多ざしにするメアリーを正気に戻した。
正気に戻すために頬を引っ張ったのが功を奏したのかメアリーは静かになってくれた。
あと隠し持ったパレットナイフは密かに回収した、危ないし。
メアリーとイヴの手を引き、ギャルーに裾を引かれながら進むと、クレヨンで描かれた落書きみたいな空間になった。
マジカントかなにかだろうか。
フライングマンとの別れはマジでトラウマだった。フライングマンが勝手に突撃し、死んだので家に戻ると、墓が増えてるんだよ。一瞬で。ひょえー’ω’
この謎空間、そこら中から斧とか星とかが降ってくるが、俺のブラック・ラフレシアが自立歩行しながらもりもり食べてくれるので問題なかった。
メアリーが「入れ替わらないと……」と呟いていたが、ラフレシアを見て涙目でぷるぷるしていた。
泣かれるほど頼もしいのだ、我がブラックラフレシアは。
何故かメアリーが走りだしたので追いかける。
瞬間移動能力者であるジャンパーたちとの戦いは足の速さが意外と重要なので、俺はかなり足が速い。そもそも戦いは速さが全てだ。時止めに対応するなら極限的な速さしかない。
だからぶっちゃけ、メアリーの真後ろをぴったりとくっついて走る感じになってしまった。
メアリーとともに家に飛び込む。
何故かメアリーは涙目だった、あとパレットナイフを探しているようだが取り上げていることをジェスチャーで伝える。
ははは、外国幼女の涙目ぺろぺろ。
二階に上がるとメアリーの絵があった。
やはり俺の考えが当たったな。
この絵はメアリー本体で、この世界はメアリーのためのものだったのだ。
たぶん。
いや、俺はテレビで出てるちゃんとした(?)霊能力者じゃないので事情とか見ただけではわからんからテキトーだけど。
まあいいや。
「破ぁ!!」
メアリーが育ったであろう部屋を散策する。
友達の作り方の本やお絵かき帳、話し相手を求める日記などだ。
メアリー……。
--6
まあ、俺がメアリーの友達になってやるから大丈夫だ。
寝てるメアリーをおぶさりながらそう誓った。
ちなみに「破ぁ!!」することでゲルテナの作品としては終わりを迎えたが、新たな生命としては始まりなのかもしれない……。
テキトーに「破ぁ!!」したらだいたい上手くいくからぶっちゃけ、俺もよくわからん^q^
とりあえず暴食の限りを尽くしているラフレシアから、メアリーに足りない生命力的なサムシングを貰ったので問題ないはず。
なんというの、芸術品たちに宿る執念がメアリーに命を与えた的な?
イイハナシダナー(;∀;
俺のブラック・ラフレシアがこの世界の長となり、統治していくことに決まったようだ。
まるで子供だったあのラフレシアがここまで成長するとは……。
感動もひとしおだ。
互いに熱い抱擁を交わす。
アマゾンのサバンナで拾ったときにはこんなことになるとは思わなかった。
宇宙人とサメが混ざった竜巻には気を付けろよ?
この世界はきっといい方向に導かれるだろうと安心を胸に、元の世界へと帰ることを決意。
さあ、みんなで帰ろう!
--BGMとともにスタッフロールが流れ始めるやつ
ラフレシア「みんな、見てくれてありがとう。ちょっと腹黒なところも見えちゃったけど……気にしないでね!」
ラフレシア・ブラック「いやーありがと! 私のかわいさは二十分に伝わったかな?」
ラフレシア「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
ラフレシア・ブラック「見てくれありがとな! 正直、作中で言った私の気持ちは本当だよ!」
ナッパ「・・・ありがと」ファサ
では、
ラフレシア、ラフレシア、ラフレシア、ラフレシア、ラフレシア「皆さんありがとうございました!」
終
ラフレシア、ラフレシア、ラフレシア、ラフレシア、ラフレシア「って、なんで俺くんが!? 改めまして、ありがとうございました!」
本当の本当におしり
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メアリーが外に出られない事案が発生。
どうやらこの世界生まれのメアリーが欠如することは許されないようだ。
メアリーと一緒に俺たちは戻りたいんだ!
クソッ、神はなんて残酷なんだ……!
代わりがいないとダメだとか!
代わりなんているわけ……あっ!!
私に良い考えがある!
奇跡よここに!
「破ぁ!!」
--エピローグ
「破ぁ!!」によってメアリーも一緒に出られることになった。
みんな仲良く喜んでいる、俺も嬉しい。
やはり寺生まれと一緒に鍛えた「破ぁ!!」は格が違うぜ。
ボールに乗ってザクと宇宙で戦ったが「破ぁ!!」が無かったら死んでいただろうし。
全ての次元世界を合わせてもたった一人レベルの「破ぁ!!」の才能に胡坐をかくことなく努力してきた成果のおかげだろう。
メアリーはイヴの家に引き取られて仲良く暮らしたし、ギャルーも本名はギャリーらしくて仲良くなったし、まさにハッピーエンドだな。
「本物のゲルテナ」を望んだおっさんも、ゲルテナ作品に囲まれる世界で生きていけるのだから、それって幸せなことだろう?