実験室のフラスコ(2L)   作:にえる

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原作:女神異聞録デビルサバイバーOC デビサバ1

 --1

 

―― Day Before  ――

 

 

 

 女とは面倒なものだと思う様になったのは何時からだったか。

 私自身も女だから骨身に沁みる思いだった。

 

 小学生の頃はおしゃまさんな男の子が女の子を意識したり、それが転じていじめが起きたり、女子同士で低レベルな牽制をかけあったりはあったが、特に意識するほどでもなかった。

 中学生の頃から徐々に面倒に感じてきた。

 月のモノが始まるし、女子は派閥を作って原始的で極めて面倒な社会を形成していたし、男子は男子で意識しすぎて「オレ意識してないっすから」アピールがうざかった。

 高校に入ってからなどさらに煩わしさが悪化して涙が止め処ないくらいだ。

 まあ、基本的に表情筋が死んでるかのごとく無表情なんですけど。

 

 なんで女の面倒さを語り出したか、その答えは目の前にある。

 そう、友人(自称)のユズのせいだ。

 こいつは私の昔からの友人であるアツロウを意識しまくりで、餌にまで使う始末なのだ。

 今日もアツロウが私の従兄であるナオヤに呼ばれて東京に行くと言って、私を誘ったという情報を何処で得たのか、強引に連れてこられた。

 私の表情が死んでないで友人がもっといたら断ることもできたのだが、残念ながらボッチな私には無理だった。

 つまり、不本意な結果なのだ。

 しかも腹が立つことにアツロウと接触したら私のことを置き去りにしやがった。

 おっぱい以外は足りなくてマジで脳足りんに違いない。

 脳足りんで能足りんなのだ。

 いや、別に私の胸が小さいわけではない。

 慎ましくて健康的なのだ。

 決して恨んでいるわけでもない。

 そういえば私はユズって呼んでいるが、相手から名前を呼ばれたことはない。

 ……。

 おっぱいこの野郎!!

 

 

 

 たっぷり三十分使って二人の話は終わったのか、やっとこちらに意識を向けてくれた。

 アツロウはどこか辟易している気がする。

 女子の話ってオチもないし盛り上がりに欠けるから、しょうがないね。

 アツロウが鞄をごそごそと漁って私にゲーム機を差し出した。

 ユズの視線が心なしか強くなった気がしないでもないが、あまりの鉄仮面ぶりに「ブラス・メイデン(真鍮の乙女)」の異名で呼ばれる私には効かないのだ。

 間違ったV系みたいな容姿をした従兄のナオヤから送られてきたらしい。

 どうして私に直接送らないのかと疑問に思ったが、そういえば以前誕生日プレゼントをダストシュートでエキサイティングしたのを思い出した。

 しょうがないな、と受け取ってゴミ箱を探して……捨てるわけないじゃん。

 ユズがめっちゃこっち見てるし。

 受け取っても地獄、捨てても地獄。

 なるほど、やるなゴミクズ(ナオヤ)。

 次会ったら貴様を地獄に送り込んでやろう。

 束の間の平穏を享受するがいい。

 

 脳内でゴミクズをどうやって地獄に送るかをシミュレートしているとアツロウがゲーム機であるコミュニケーションプレイヤー、通称COMPを弄り始めた。

 ぶつぶつとそれっぽい専門用語を呟いていた。

 ユズがそれに律儀に答えているが、「オタクっぽい」とか「わたしにはわからない」とか「もっとわかりやすく」とか、マイナス的なサムシングの言葉ばかりだ。

 こいつ、ダメかもわからん。

 男の人は肯定しないといけないらしい。

 ちょっとアツロウが凹みつつ疲れるという可哀相な表情を浮かべていた。

 私が「普通のより凄いんだね、どうして送って来たんだろう」みたいなことを言ってみたらアツロウが嬉しそうに喰いついてきた。

 そしてユズの凍った瞳。

 私にどうしろと言うのだ。

 

 

 

 面倒になってアツロウと話を進める。

 ユズが時折、「わからない」みたいなことを色々な言い方でアピールしてくるため話の腰を折られまくったが何とか考察を終える。

 とりあえずよくわからんからCOMPのアプリを使おうぜ!ってなった。

 私は説明書は読まない派なんだ。

 後で暇なときにじっくり読む面白さを知っている、違いの分かるオンナだからね。

 

 起動の直後、COMPが光り輝いた。

 ゴミクズの会心の悪戯だろうか、殺意が湧いた。

 光が納まり、画面には幾何学模様と見知らぬ文字、そしていくつかのアルファベットの羅列が次々と浮かび上がっては消えていく。

 最後に『SUMMON OK』と表示され、COMPから光の玉が飛び出した。

 凄い仕掛けだなーと驚きながら、二人のほうはどうだろうかと見てみるとブサイクな獣と妖精と睨み合っていた。

 わたし、ばかだからちょっとよくわかんないなー。

 

 助けに行ったほうがいいのだろうが、私が加わってもなぁと悩んでみる。

 空気がピリピリしているのでどうにかしないと。

 「助けないのか」と隣にいた青年に尋ねられた。

 そんな簡単な問題だろうか。

 あんな魑魅魍魎の権化みたいな化け物相手だったら、むしろ助けを呼んだほうが……。

 ……。

 今の誰だ。

 

 

 

 ぐりんっ!!と勢いよく首を横に向ける。

 ごきっと首を痛めた気がするが気のせいだ。

 私の挙動に青年は少しは驚いたのか、僅かに目を見開いた。

 容姿は整っており、ネコミミのようなヘッドフォンと白いパーカーが特徴的だ。

 青年は私のCOMPを指差し「召喚された、と思う」と言った。

 どういうことなの……?

 

 意味がわからなすぎて思考が止まりかけていたところで青年が再び「助けないのか」と聞いてきた。

 助けられるなら助けるに決まってるでしょ、と言い返す。

 青年は「なるほどなー」と頷いて、ヘッドフォンを渡してきた。

 『れべる』とやらが下がってて落とすかもしれないとか言い残し、隣から消えた。

 破砕音がアツロウとユズのほうから聞こえたので急いで振り向くと蜘蛛の巣状に亀裂が奔ったアスファルトと真っ二つに裂けた獣、そして隣にいたはずの青年が見えた。

 そのまま青年は目にも止まらぬ速さというやつで妖精を握りしめ、潰したようだった。

 獣だったモノと妖精だったモノが光の粒子となり、それぞれアツロウとユズのCOMPへと取り込まれた。

 唖然とした二人を残して青年が無表情でこちらに手を振っていた。

 ……。

 

 ……とりあえず手を振り返したら、青年の機嫌がよくなった気がする。

 まあ、気がするだけなんだけど。

 

 

 

 二人と合流して先ほどの化生がなんだったのかを相談してみる。

 わかったことは

 ・未知の生物は悪魔と呼ばれているファンタジーなやつら

 ・先ほどの戦闘は契約の一環

 ・青年も悪魔

 ・畜生(ナオヤ)が確実に殺しに来ている

 ・ユズがうるさい

 以上である。

 悪魔に関しては青年からの情報がすべてだったが、あまり得られなかった。

 聞いたことは答えてくれるが青年が自ら喋ることはほとんどなかった。

 苦手なのだろうか。

 

 青年との会話は慎重に進めようと考え、ナオ畜は絶対に息の根を止めると誓った。

 そうして一段落つけたと思ったがそうは問屋がなんとやら。

 私だけ契約の戦闘が無かったとユズが文句を言いだした。

 いや、結局は青年が倒したからあなたもノーカンだろうと思ったが面倒なので言わない。

 青年もめんどくさがってるし、無理に戦うのはよくない。

 だからユズは早く口を閉じるべき。

 

 「ええっと、やる?」と遠慮がちに青年が呟き、ちらりと視線を向けてきた。

 一生懸命首を横に振る。

 いや、絶対にやらないから。

 なんか本能的にヤバい。

 無表情だから視線も何処か凍ってる感じがしていてマジ無理。

 この視線を向けられて「人肉の解体かぁ」とか言われたら失神するくらい無理。

 アツロウも焦ってユズの口を塞いだし。

 

 青年からちょっと残念そうなオーラが感じられた。

 セェェェェフ!!!

 なんかわからないがセーフ!!

 なぜかドキドキしてしまったし、嫌な汗もかいた。

 ぐぬぬぬぬ……。

 

 深呼吸、深呼吸。

 すーはーすーはー。

 すはすすす。

 忘れよう、そして無かったことにしよう。

 気を取り直して青年との交流を深める。

 ナオ畜の化生による暗殺計画から確実に守ってくれるはずだからだ。

 ぶっちゃけ、悪魔はCOMPで操れるらしいが私の場合は彼との『れべる差』とやらで無理らしいので懐柔しようということだ。

 苦肉の策である。

 私の動体視力を超える速さで動き、アスファルトを容易く砕く相手との交流とか、際物の乙女ゲーかよと突っ込みたい。

 攻略難易度が色んな意味で糞だけどね!

 

 まずは自己紹介からしてみた。

 「じんな……はヒトでなくなったから名乗りたくないし、セプテン……は長いか。アルコルと名乗るのもな……別に憂いてない。あぁっと……ナナホシにしとこう。うん、ナナホシと呼んで欲しい」ということで青年はナナホシという名前らしい。

 途中で出てきた『じんな』とか『せぷてん』とか『あるこる』とか気になった。

 気になったが絶対に何らかの罠だって、直感でわかったからスルーする。

 雰囲気的に態とに違いない。

 おそらく「詮索する相手は信用できない」とか言う気がする。

 残念だけど私は目に見えた地雷はクールに無視できるできる女ってわけよ。

 趣味とか好きな食べ物を言い合ってファーストコンタクトは終了!

 好感度は5くらい上がったでしょ、流石に。

 まあ、ユズのせいでマイナススタートっぽいんですけどね!

 ちくしょー!

 

 ちなみにナナホシの好物は「じゅんごの茶碗蒸し」、「鍋」、「ミソビタミンD」、「悪魔」、「セプテントリオン」らしい。

 『じゅんご』の茶碗蒸しと高位の悪魔の踊り食いは特に好きだとか。

 絶対に突っ込まない。

 じゅんごって何とか、高位の悪魔ってことは低位もいるのかと思ったが何も言わない。

 無表情は伊達じゃない。

 残念そうな雰囲気をいくら出そうとも突っ込まないからな!

 趣味は絵を描くことだとか。

 私はピアノだから何となく親近感が湧きそうだ。

 悪魔の絵を流暢にアスファルトに刻んだのを見て絶対にわかり合えない気がした。

 

 

 

 

 

 --2

 

―― DAY BEFORE 「日常の終焉」 ――

 

 

 

 ゴミクズを抹殺……というのは四分の一くらい冗談で、悪魔とかいう人間を殺すだけの兵器みたいなのが現れる危険物を送ってきた理由を問いただそうと畜生を探す。

 が、見つからず。

 不必要なときは鬱陶しいくらい現れるゴキブリみたいなやつのクセに、必要になると全く見つからない。

 好感度はゼロケルビン確定。

 アツロウは畜生にきっと考えがあるとか擁護するし、ユズはユズでなんかめんどくさい。

 ナナホシは何を考えているかわからないし、もうダメかもしれない。

 

 捜索を諦めた直後、ゴミクズからメールが届いた。

 なので削除。

 気分が悪くなってしょうがない。

 次からは拒否しとかないと。

 

 もうね、タイミングが腹立つ。

 鬼の形相ってやつだわ。

 私の表情はあんまり変わらないけど。

 誰にも気づかれずにイライラしているとナナホシがヘッドフォンを指差した。

 返して欲しいのだろうかと差し出すと、「あげるよ」と言われた。

 ううむ……。

 まあ、いいかと着けてみる。

 

 ……な、なかなか悪くないんじゃないかな、うん。

 

 

 

 

 もう18時を過ぎたので、日が暮れる前に駅に行きたいわーと思っていたがそうはいかないらしい。

 畜生のメールを確認したアツロウが青山霊園に行くと言い出した。

 ラプラスメールとやらの真偽を確かめるためらしい。

 ……?

 ああ、どうやら私が削除したメールに含まれていたようだ。

 勢いで消してしまったが、結構重要な内容だったらしい。

 アツロウがやる気になってて、それに付き合いたいユズがいる。

 断れない。

 ナナホシはどうだろうかとチラッと見てみる。

 折り紙を折って……なにこれ凄っ!!

 

 ナナホシは折り紙に「モト劇場」という名前を付けていた。

 すごいなー。

 あのギミックがああなっているとは。

 おお、ここがこうとか。

 えっ、あれがああなるの?

 すごっ。

 

 

 

 折り紙で遊んでいたら青山霊園に着いていた。

 あまりの技量に驚きの連続で、ついつい熱中してしまった。

 無駄に器用なナナホシが悪い気がする。

 そして、超大作「ほーついんやまと」を完成させた辺りで我に返った。

 侮れないな、ナナホシ。

 

 アツロウとユズが二人でCOMPに向かって何かをやっているのを無視して完成した「ほーついんやまと」を眺める。

 なかなかいい出来ではないだろうか。

 ナナホシも満足そうに頷いている。

 上機嫌のようだ。

 これは好感度アップ、間違いないね。

 

 「ほーついんやまと」のギミック、「りゅーみゃく」状態を作っていると、どこかで爆発が起きたらしい。

 アツロウとユズが二人で騒いでいた。

 そんなことよりも完成を急がなくては。

 日が落ちて暗く、霊園の街灯では細かい部品を作るのは難しい。

 「りゅーみゃくのおーら」を完成させてドヤ顔を披露。

 ナナホシが「おー」と言いながら小さく拍手してくれた。

 

 さあ、完成も間近だ。

 破砕音とか悲鳴とか全部無視だ。

 関わりたくない。

 あーあー、きこえなーいと内心で思いながら最後のパーツを……ほーついんやまとが結晶化したぁぁぁぁあぁぁ!!!

 

 

 

 最後の最後で壊れてしまった。

 結晶というか、凍結したらしい。

 自重で砕け散った。

 「なるほどなー」とナナホシが頷いているが、私のショックは収まらない。

 失意が転じて怒りに為りそうだ。

 

 どこのどいつだと怒りながら周りを見渡すと巨体の猿っぽい白い何かがいた。

 イエティとか雪男的なフォルムをしている。

 雪山で写真を取ったら完璧だろう。

 なぜ霊園にいるのか、ミスマッチすぎて違和感ありすぎ。

 見た目もキモい。

 

 なんなのあれぇ、とげんなりしているとナナホシがCOMPを指差した。

 指示に従って起動すると画面には雪男が映り、「ウェンディゴ」の表記とともに数値化されたステータスが表れた。

 悪魔はアナライズによって数値化できるらしい。

 ふぅん?と何の気なしにナナホシも見てみる。

 ……。

 文字化けばかりだった。

 君はあれなのかな?

 恥ずかしがり屋なの?

 それともポケモンのセレクトバグでも利用したの?

 けつばんなの?

 

 図鑑NO.152のナナホシがウェンディゴをどうするのか聞いてきた。

 まあ、答えは決まってるんだけどね。

 私たちを囲むようにウェンディゴと手下の悪魔たちがいるわけで。

 しかも話を聞く限りだと明らかにこっちを狙ってるし。

 アツロウとユズも悪魔を出して臨戦態勢、かなりやる気ですね。

 異存はないけど。

 

 周りの悪魔はレベルが3前後、ウェンディだけ19と格差が酷い。

 浮いているというか従えているというか。

 悪魔にも上下関係があるっぽい。

 アツロウとユズの悪魔がレベル2、ナナホシは文字化けでよくわからない。

 戦況としてはどうなのだろうか。

 ドラクエやFF、ポケモンだったらレベル差的に勝てない。

 が、スパロボだったら勝てる。

 乙女ゲーだったらレベルなんて無意味。

 逃げに徹したほうがいいのかもしれない。

 

 参考とばかりにナナホシに聞いてみよう。

 Q.レベル差はどのくらいまで問題ないの?

 A.低レベルだと1でも結構キツい。

 Q.……レベルが10以上離れていると?

 A.一撃でだいたい死ぬ。

 ……ダメかもわからんね。

 Q.ナナホシは勝てる?

 A.無回答(首を傾げていた)

 

 ううむ、倒すのは厳しそうだ。

 隙を見て逃げる方向で進めようかな。

 ナナホシに前衛を任せる。

 機を見て撤退を……周りにいた悪魔が黒い影に飲まれた。

 どことなく満足そうな雰囲気が伝わってきた。

 ……もうナナホシに任せとけばいいんじゃないかな。

 

 「勝てそうなら勝つ、負けそうなら撤退」とナナホシに指示をしてウェンディゴに突撃させる。

 肉薄する直前、神秘的で大きな髪飾りをした女性が現れた!

 「しょーもんかい」という組織に所属している方らしい。

 アツロウとユズの会話では「しょーもんかい」に属していた人がウェンディゴに殺されたらしい。

 真実のラッシュ、手に汗握る展開だわ。

 女性が「ウェンディゴは私に任せて逃げてください!」的な事を言っていたが、それを無視してナナホシが戦闘を開始していた。

 

 

 

 接近した直後に突きだしたナナホシの拳が凍結した。

 が、それでも構わず殴打。

 仰け反るウェンディゴ、砕け散る拳。

 ナナホシ狂戦士説が私の中で生まれそうだ。

 ウェンディゴを蹴り飛ばしてインターバルを取るナナホシの両手は消失していた。

 「あちゃー」って雰囲気を感じるがそこまで問題でもないようだ。

 

 「しょーもんかい」の女性がそれを見て「今すぐ治療を!!」とキラキラなオーラを纏い始めた。

 が、それを見て首を傾げていたナナホシ。

 彼の両手はすでに元に戻っていた。

 自己再生能力持ち、たぶんミュウツーとかなのだろう。

 

 握ったり閉じたりと手をぎぱぎぱさせて首を傾げた。

 イマイチらしく納得いっていない様子。

 起き上がったウェンディゴが何か言いながら逃げていった。

 追っかけて他の悪魔が寄ってきても嫌なので見逃すことに。

 「しょーもんかい」の女性はなんか残念そうだった。

 

 傍に戻ってきたナナホシが心なしかドヤ顔している気がした。

 よくやったと褒めてやると喜んでいるようだった。

 ううむ、なんか犬っぽい。

 

 

 

 周囲に悪魔がいなくなったので安心してもいいと言った「しょーもんかい」の女性。

 彼女はアマネと名乗った。

 神秘的な雰囲気だがどこか残念だ。

 そんな彼女にナナホシは好意的だった。

 まあ、私たちとの出会いよりはマシかもしれないけど。

 と思ったが実情は違った。

 可愛ければ好意的だとか、なんとか。

 溜息ついた。

 

 先ほど、活躍できなかったのがそんなに気になっているのか、アマネは結界を張ってくれた。

 朝まで悪魔が来ることはないから安心していいと言って去っていった。

 嬉しい。

 確かに嬉しいのだが、ここって霊園なんだよね。

 勘弁してほしい。

 

 避難所に、とも思ったがすでに20時近い。

 無理だろうなと諦める。

 それに悪魔といった未知との遭遇で疲れているし、大人しくここで過ごすことにした。

 ナナホシに告げると頷いていたので納得してくれたのだろう。

 ユズは風呂に入りたいとか五月蠅かったが、ナナホシがウェンディゴが凍らせた氷塊を持ってきたら黙った。

 

 

 

 やることもないので寝ようと思ったがCOMPをいじって……捨てたくなった。

 良く考えたら畜生から渡された物だしマジでいらない。

 私の考えを理解したのか、ナナホシがCOMPを交換してくれた。

 必要な物はだいたいインストールしてあるとか。

 なぜ持っているのか疑問を抱いたが、面倒なのでいいや。

 畜生のモノでは無く、彼自身が友人からもらった物だと説明してくれたし、問題ないね。

 

 COMPを使うと悪魔をオークションで競り落としたり、私が戦えるようになったりするらしい。

 凄い、と純粋に驚いた。

 あとはなんかいっぱい、めんどくさいので追々学ぶことにした。

 

 

 

 ユズがアツロウの近くにいて私がハブられたのでナナホシの傍で寝ることにする。

 よくよく考えたら超安全地帯だし。

 寝ることを告げると闇夜でもわかる白銀のコートを貸してくれた。

 背には蝙蝠のようなマークが描かれていた。

 目立つんじゃないかと思ったが、眠いので受け取った。

 仕立てがいいので敷くのも申し訳なく思っていると、地面が柔らかくなった。

 あの影の上に寝ろという事か。

 ううむ、と悩むが影を見ると口も目もない。

 飲み込まれたらそのときはそのときだ、と眠くて変に思い切りが良くなっていたのか、すぐに寝転がった。

 ……!!

 

 ここ、すごく寝心地がいいんですけど!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 --3

 

 ――憂鬱の日曜日――

 

 

 

 意識が浮き上がるような感覚。

 目を開けると何処かの路地裏のようだった。

 辺りを見渡そうとするが身体は動かなかった。

 なんというか、ふわふわした感覚を強く感じていた。

 夢のような……夢かもしれない。

 

 他人の視点で見たらこんな感じだろうか。

 勝手に身体が動き出していた。

 薄暗い路地裏には至る所に血糊と肉塊が見てとれた。

 かなりバイオレンスだ。

 日本のように思えたが日本ではないのだろうか。

 

 

 

 変わりない路地裏が続いたが、程無くして分帰路を見つけた。

 どうやらこの身体の持ち主は曲がるようだ。

 角を曲がったその先では、悪魔が自転車で人間を引き裂いていた。

 他にも悪魔が人間に群がり、甚振っていた。

 虚ろな目をしている人間と笑う悪魔。

 気分が悪くなったが吐く事はなかった。

 

 この身体の持ち主もこうなるのかと思ったが、全然違った。

 指を鳴らすことで悪魔を燃やし、死にかけた人間を潰していった。

 平等に全てを殺していく……。

 どこか作業の様だった。

 悉く殺し、残っていたのは自転車で人間を引き裂いていた悪魔だけだった。

 私には音が聞こえないのでわからないかったが、悪魔は命乞いでもしているのか口を必死に動かしているのが見て取れた。

 悪魔の命乞いは上手くいかなかったようで真っ二つに引き裂いて捨てられた。

 残ったのは人間の死骸だけ。

 悪魔は粒子になって消えていく。

 

 今の争いで何処かのガラスが割れたのか、破片が転がっていた。

 その破片に偶然、この身体の持ち主が映り込んだ。

 虚ろな目をしたナナホシを、私は見た。

 

 どうやらこの夢は彼の記憶らしい。

 

 

 

 

 

 目の前が砂嵐のように霞んだ。

 そして、見ていた風景が様変わりした。

 半壊した建物や割れた道路が見える。

 何らかの災害があったのだろうか。

 それとも悪魔の影響か。

 他人ごとでは無い。

 私の周りにも悪魔が現れた。

 目覚めたとき、街が同じようになっているかもしれない。

 

 ナナホシが凄まじい運動能力で瓦礫や建物の壁を飛び跳ねて進む。

 見ているだけで酔いそうだ。

 風景が後ろに流れていく。

 普段なら楽しめたのだろうが、そうはいかなかった。

 凄まじい勢いで氷塊が迫り、それを避けていく。

 避けられそうにない氷塊は炎で溶かしていた。

 

 氷塊の数が増えると同時にナナホシの移動速度がさらに増した。

 飛ぶような、そんな速さだった。

 ナナホシは視界が埋め尽くされるほど大きな炎を放つと、その後ろを追随するように走り出した。

 炎を突き抜ける氷塊に身体が凍りつこうとも構わず走っていた。

 

 球状だった炎が何かに衝突したのか、花開くように周囲を焼いた。

 熱によって蜃気楼が起きているのか遠くの建物が揺らいでいる。

 炎が引くと銀髪の巻き毛が特徴的な、青ざめた顔をした男が地面に伏していた。

 所々焼け爛れた顔を憎々しげに歪めてこちらを睨んでいた。

 あれは悪魔だろうが、どこか人間にも見えた。

 憎悪に満ちた人間に……。

 

 ナナホシが一直線に駆け抜けた。

 氷塊が衝突しようとも、手足が凍りついても止まらなかった。

 そして、相対していた悪魔に迫ると殴りかかった。

 衝撃で地面が砕けようとも途切れることなく何度も。

 

 このまま殴り殺すのかと見ていたが、空から奇妙な物体が襲来したことで終わった。

 楕円形をしたピンク色のスポンジが浮いており、その下には花弁のようなモノが存在していた。

 ナナホシが炎を飛ばしたが、弾かれたのか届く事は無い。

 スポンジが徐々に巨大化していく。

 それを危険だと感じたのか、ナナホシはその場から離れることを選んだようだった。

 幾らか離れた瓦礫上から、先ほどの場所を見ていた。

 そこには小さな焦げ跡だけが残っていたおり、氷塊を飛ばしてきていた悪魔も、スポンジもいなくなっていた。

 

 悪魔は逃げたのだろうか。

 そして、あのスポンジはなんだったのだろうか。

 疑問が増えるばかりだ。

 ただ、ナナホシの拳から滴る赤い血を眺めていた。

 

 悪魔でも血は赤いのだろうか。

 

 

 

 

 

 再び砂嵐が生じ、景色が変わる。

 薄暗い部屋にいた。

 複数の懐中電灯などを光源にしているようだった。

 ナナホシが動き回るのを見守っていると、そこがどこかの店だろうと予想できた。

 おそらくホームセンターやスーパーのよう広い場所。

 今まで動き回っていたのはお湯を用意していたためのようで、インスタント食品を二つ用意し始めた。

 二つという事はもう一人いるのだろうか。

 

 ナナホシがインスタント食品を持って行くと、金色の髪をした少女が笑顔で手を振って来た。

 それほど距離があるというわけでもないが、離れていたのが嫌だったらしい。

 近くに座るとにこにこと嬉しそうに笑っていた。

 保護したのだろうか。

 

 食事中は何かを話していて、少女はとても楽しそうだった。

 が、私には会話が聞こえないので少女を観察することしかできない。

 金色の髪に白いリボン、青のワンピース、そして無垢な笑顔。

 彼女の姿はとある童話の主人公を彷彿とさせた。

 

 二人で仲良く歯を磨いて、寝袋を用意して……。

 少女は楽しそうにナナホシの真似をしながら準備していた。

 寝る前にも笑顔の少女と何かを話していた。

 仲の良い兄妹のようだった。

 私には畜生(ナオヤ)しかいないと思うと怒りで頭が沸騰しそうになった。

 話疲れたのか、少女は眠っていた。

 ナナホシはそれを優しく抱きかかえて寝袋で眠らせた。

 そして、自分も寝袋へと入り、アリスの寝顔を眺めていた。

 

 ナナホシも眠って、この夢は終わりだろうか。

 そう考えていた。

 が、私の予想はことごとく外れるようだ。

 静かに眠っていたアリスが目を開いた。

 先ほどまでの楽しげな表情は消え去った無表情。

 

 「わたしとお兄さんの大切な夢を覗き見するあなたはだれ?」

 

 

 

 

 澄んだ少女特有の愛らしい声だったが、私には底冷えするような怨嗟に聞こえた。

 少女は宙に視線を彷徨わせていた。

 何かを探している、そんな動きだった。

 耐えがたい緊張感を感じた。

 

 「そう、そこね」

 

 そして、目の動きが止まる。

 こちらを見ている。

 その視線はナナホシでは無く、間違いなく私を捉えていた。

 

 「……? かわった場所にいるんだね」

 

 首を傾げながら呟いていた。

 無表情だった少女に感情が宿った。

 困惑したような愛らしい表情が。

 

 「そう、お兄さんも。……いいよ、ゆるしてあげる。だって」

 

 花が咲いたように笑った。

 少女と思えないほど妖艶な笑みだった。

 

 「お礼だもん」

 

 やっと見つけたそのお礼だと、少女はそう言った。

 

 

 

 そして、目の前が暗転した。

 

 

 

 

 --4

 

 

 霞みかかった意識がゆっくりと晴れるように鮮明になっていく。

 少しばかりぼやけた頭が眠りを求めている。

 その誘惑を振り払うために勢いよく上半身を起こした。

 

 ……勢いが良すぎてちょっと首を捻ったかもしれない。

 

 

 

 

 

 1st Day 東京封鎖

 

 

 

 

 

 がばっと音がしそうな勢いで起きた私は自室でないことに驚き、辺りを見渡した。

 青い空、亀裂の奔った石床、崩れた墓石、敷かれた影、白銀の外套……。

 ああ、そうだ。

 思い出した、昨日の奇妙で奇天烈な怪奇現象的な色々を。

 全てを忘れて日常に戻ることができるのなら躊躇わず忘却一択なのだけれど、そんな都合のいい話なんて無いだろうし。

 むしろ、目を見開いて私を見ているナナホシが仲魔になった時点でかなり当たりだ。

 アツロウやユズの悪魔は壁にしかならず、会話するには知性や品性が足りないということがわかっているし。

 なんか嫌な夢を見た気がするけど、まあ、幸運でしょ。

 ……幸運だよね?

 

 

 

 深夜の探索のついでナナホシが用意してくれた道具を漁って朝の準備に必要な物を選んで行く。

 私が寝ている間、実はナナホシが離れていたということに背筋が凍った。

 いや、結界があったから問題なかったけど。

 無かったけど。

 心象的には問題が大ありというか。

 寝ている間に死亡とか嫌だよ、私は。

 とか思ってたがナナホシは私が敷いていた影を移動できるし、そもそも影も戦えるので問題なかったとかなんとか。

 悪魔ってすごい、私はそう思った。

 結界を無視できるほど強い悪魔なら対処できないとナナホシが無表情に呟いていたが、特に何もなかったのだから聞かなかったことにしよう。

 

 ナナホシが用意してくれた水で顔を洗う。

 身を切るような冷たさだった。

 氷が浮いてたし。

 魔法を溶かしたやつだったとかで、飲むのには……どうなのだろう。

 ついで歯を磨く。

 口をつける水はろ過とか蒸溜とかしてくれたらしい、マメな悪魔である。

 浄水フィルターの付いた水筒を取り出したときはちょっと自慢気だった気がする、無表情だったけど。

 

 私とナナホシのやりとりを、遅れて目覚めたユズが見ていたらしい。

 ユズが自らの仲魔であるピクシーにナナホシと同様のことを頼んだが、すぐに断られていた。

 ピクシーには人間の習慣や行動が理解できないらしく、無意味なことはしないのだと言ってCOMPへと戻って行った。

 アツロウの犬も同じ。

 面倒なことをするとは人間とはやはり不思議だと、そんな言葉を残して。

 やはり悪魔にも個体差があるようだ、それも人間では理解できないようなかけ離れた価値観とともに。

 

 そう考えるとナナホシは人間に理解があるようだ。

 基準はわからないが、昨日の雪男やその周囲の悪魔、アツロウやユズの悪魔が人間を食糧のように見ていたように思う。

 それを考慮すると、ナナホシかなり友好的なのかもしれない。

 契約も会話だけだったし。

 だからなんだって話だけど。

 

 ナナホシはどれだけ人間に理解があるのだろうかと、本人を目で追いながら思考を進める。

 2Lのペットボトルと大きな鍋を取り出し、鍋に水を満たした。

 そして、鍋を片手で支えると指を鳴らして炎を生み出した。

 鍋の水が加熱され、十分に沸騰したのを見て何度か頷きながらインスタント食品にお湯を……って朝食の準備してくれてたんですけどぉ……。

 

 3分経過を知らせるタイマーが鳴り、ちょっと満足そうなナナホシに朝食を手渡しされたので受け取る。

 人間に理解があるってレベルじゃない気がするんだけど。

 その様子を見てアツロウは何か言いたそうだった。

 ユズはなぜか私を睨んだ。

 何故だ。

 

 

 嫌な既視感とともに朝食。

 思い出そうとしたが、そうすることで嫌な汗が流れてきたので忘れることにした。

 嫌なことってことは忘れる意味があるに違いない。

 

 あ、ナナホシもご飯食べるんだ。

 

 

 

 今日はどうしたものかと作戦会議。

 とりあえず畜生ナオトが送ってきたメールを調べてみようということになった。

 賛成したいのはやまやまだが、昨日削除したうえにナナホシに交換してもらったから私にはどうすることもできない。

 そういった旨を伝えるとアツロウが複雑そうな表情を浮かべた。

 その様子に何を勘違いしたのか、ユズが睨んできた。

 もちろん私も「ばーかばーか」と意思を込めて見返す……後片付けして影に道具を仕舞い込んでいたナナホシの影に隠れて。

 

 

 

 Ω<COMPには、私たちの余命が見える機能が付いているってわけなんだよ!!!

 Ω<な、なんだってー!!?

 と、ナナホシと二人で遊んで過ごす。

 ちなみに上が私、下がナナホシである。

 

 もっと厳密に再現すると「こんぷには余命が見える機能があって人類は絶滅する(棒読み)」「な、なんだってー(棒読み)」みたいな抑揚が排除された平坦なやり取りだけど。

 つまり、なんかそういう機能があり、頭上に余命の日数が表示されるらしい。

 興味はあんまりない。

 興味を持つという事はあの畜生の一挙一動のいずれかに興味を持つという事になるので嫌です☆

 畜生に思考を割くくらいなら死を選ぶ。

 だから頭脳労働(COMP関連)は全部アツロウに任せる。

 ユズ?

 胸が本体に何を期待しろと言うのか。

 

 ちなみに余命はアツロウとユズは0、私は文字化けしているとか。

 ちょっと意味わかんないんですけど。

 アツロウとユズは今日死ぬのか、とかそういう疑問の前に余命が文字化けとかどうしろと。

 COMPのシステムでグループ、というかパーティを組むとリーダーが余命を見ることができるようになるので文字化けの変化を見ようとパーティ編成。

 何故か私がリーダーに設定された。

 当然ながら余命は見えない。

 なぜなら私のCOMPには余命の機能が入ってないからだ。

 ジト目で二人から見られたが、なんと言われようとも畜生が与えてきたものなど要らないし。

 

 頑なに断っているとナナホシが徐にCOMPを操作し始めた。

 そして、二人の頭上に映し出された文字化けした数字。

 なんかナナホシのCOMPと私のCOMPでうんたらかんたらで表示できるようにしたとか。

 危ないところだった。

 パーティ解除してアツロウかユズのどちらかがリーダーをやればいいのに、そういうのを言い出さずに私をリーダーにして余命的サムシングをこれ以上強制しようとしていたら自害するところだった。

 文字化け……。

 ナナホシをCOMPに戻す。

 数字がくっきりと表示された、0だけど。

 ナナホシを呼び出す。

 文字がぼやけて、数字が明滅、そして文字化け。

 なにこれぇ……。

 

 わからないことは後回しにしよう。

 どうせ畜生が変なことしたのだろうし。

 0じゃないってことは死なないってことに違いない。

 ……死よりも苦しいとかっていうのは無いよね?

 ないよね?

 

 

 

 あとは未来予知できるメールがホントっぽいってこと。

 あのラ、ラブプラスメール?とかいうやつ。

 なんかデートとかしそう。

 きっと外国で結婚式とか挙げる人も出るに違いない。

 あれ、なんの話だっけ?

 

 ……そう、ラブプラスだ。

 私はよくわからないんだけどノノさん?とかいう名前のヒロインが人気があるとか。

 口癖はきっと「あなたが彼氏とか…むーりぃー…」みたいな。

 あとはリン……凛だっけ?

 「ふーん、アンタが私の彼氏?……まあ、悪くないかな…」みたいな出会いがあるとかないとか。

 ちなみにナナホシはエヘ顔ダブルピースと歌唱用ガンエデンが好きらしい。

 私はみくにゃんかな。

 

 ……話が逸れすぎて軌道修正できない気がしてきた。

 

 

 

 情報収集および帰宅のために街へ向かう。

 時折悪魔が出るが地面に飲まれる様に消失していくので大した障害にはならなかった。

 途中で、この先どうなるかわからない戦えるようになると男らしい決断をしたアツロウが参戦、それを見て私も幾らか練習することにした。

 さらに終盤のほうでユズも参加、へっぴり腰だったけど。

 

 ナナホシは前衛っぽいので私が後衛で魔法をぺちぺち放ち、悪魔に話しかけて率先的に煽っていくスタイルを確立。

 「天使……? あ、ぺ天使か☆ 天使様がいるのかとつい探しちゃったよ☆ いたのは街を彷徨う徘徊者っぽい悪魔だったけど☆ ナナホシも気を付けてね☆」「俺は本物を見たことあるからダイジョーブ☆ こんなぱちもん悪魔じゃないよ☆」みたいな感じのやつ。

 全力で煽るときは元気になる、それが私とナナホシの流儀。

 

 

 

 人通りのある街に到着したので、分れて情報を集めることにする。

 ユズがグズったが、団体行動しても効率が悪いのだからしょうがない。

 一度解散して一時間後に再び集合、と打ち合わせで散っていく。

 わかっていたが、ユズはアツロウの後を追って行った。

 「ナナホシはどうする?」と聞いてみると、必要だろうからと情報を別に集めて来てくれるらしい。

 あんまり離れられると困るが人手も欲しいと頭を悩ませていると、何かあればすぐに戻れるとナナホシは言い残して影に飛び込んだ。

 影って言っても私の影だけど。

 他人の影もありなのかと驚愕していると、私の影と目が合った。

 ……なるほどなー。

 驚いた。

 確かに影に目があるなど驚くが、私の無表情を超えるには甘いと言える。

 自分で感情表現が酷く乏しいと言っていることになるのでちょっと悲しくなった。

 

 おそらく、私の影にナナホシの影が重なっているのだろう。

 これなら悪魔が近くにいても問題ない。

 見破って余裕綽々で無表情な私に、影にあった目が残念そうに閉じて消えた。

 

 

 ちょっと心臓がばくばく言ってるけど余裕だかんね。

 

 

 

 

 




「私さん」
主人公。「ブラス・メイデン(真鍮の乙女)」の異名を持つ鉄面皮。ネコミミヘッドフォンを装備した。

「ナナホシ」 種族:アバタールチューナー
レベル10前後 100%:物理 弱点:魔法 無効:破魔、呪殺
弱体化している悪魔、らしい。白いパーカーのフードにはウサギのミミのような飾りがついている。人間や悪魔が持っている『マグネタイト』とやらを与えることで力を取り戻せるのだとか。「私」に負けず劣らず鉄面皮。




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