04時00分 古鷹
古鷹が目覚める時間は艦隊内で特に早い。
未だ空には星が輝き、夜番の巡廻が行われているだろう。
それでも古鷹がこの時間に起きるには理由があった。
早朝の見廻りもあるが、最も大きな理由は敬愛すべき提督の散歩に付いていくためだ。
たったそれだけのことと言うことなかれ。
多数の艦娘を保有する艦隊に所属している提督ともなれば、自由な時間というものは限られており、艦娘が供にできる時間は更に限られる。
以前まで指示を出していた中佐を見てもわかる通り、時間の捻出はひどく難しい。
提督は時間の大半を艦娘との交流に充てているが、やはり複数人を一度に相手するのが精々といったところ。
一対一など、秘書艦の順が来ても希少であった。
そんな中――夜戦から帰航する艦隊がある場合を除いて――古鷹が提督と常にいられる早朝の散歩というのは、ひどく貴重な時間だ。
早朝散歩の座は艦娘の間でも人気が高く、早番になるために間宮のアイスクリームを対価とした争いも起きかけた。
そして発生する数々の不手際。
朝早く起きることができなかったり挨拶中に他の艦娘を睨み付けたり、居眠り、酒気帯び、酒盛り、無許可で海に潜ることのみならず提督を引きずり込む、カレー事件、etc。
誰かしらが問題を起こすたびに篩から落とされ、探照灯とその気風を考慮して「古鷹がいい」という提督の一声で収まり、古鷹がその座に収まった。
提督は毎朝決まった時間に部屋を出て、準備をしている。
遅れても提督は文句を言わないだろうが時間を無駄にすることになる。
それは決して遭ってはならないことだと古鷹は考えているし、そうならないように手早く自らの準備を整えていく。
手間のかかる準備はそれほど無いが、それでも入念にこなしていく。
少しだけついていた寝癖を軽く梳いて直し、探照灯である左眼の輝きを確かめる。
そして、提督の傍にいても問題ないと自身を持ったところで部屋を出る。
あまり長く照らしておくことはできないので、探照灯は灯さなかった。
05時00分 古鷹
ちょうど朝の身支度を終えた提督を発見、古鷹は自分がいることを知らせるよう探照灯で薄暗い廊下を照らした。
提督は夜目が効くうえに気配を読んで暗闇でも難なく動けるという話、探照灯を使う必要はほとんどない。
それでも照らすのは、眼が美しいと提督に言われたからだ。
提督が美しいといった背景は、艦として歴史か、今の自分そのものか。
どちらにしても誇らしく、また嬉しく思う。
常に照らすことはできないが、提督の一日の始まりの光だけでも、古鷹が自ら照らせることは数少ない自慢だった。
05時30分 鳳翔
鳳翔は足音をなるべく立てないようにして、提督が生活している執務室に入り込む。
薄暗いが、明かりを点けずとも足を取られることはない。
迷いなく進む鳳翔の目当ては提督が寝ていた布団であった。
今日は快晴だという話、布団を干すためである。
前日には提督から許可を取ってあり、準備は整っていた。
だから、布団にゆっくりと倒れ込んで、はすはすと匂いを嗅いでも問題なかった。
もちろん、枕に顔を埋めて深呼吸して肺いっぱいに取り込んでも問題ないのだ。
さらに、掛布団と敷布団に挟まれる幸せサンドなるものを開発するのは当然だったし、枕を抱きしめて布団に丸まるのも、全く持って問題がない。
それから15分、じっくりと楽しんだ鳳翔の額には珠のような汗が浮かんでいた。
もったいないから今日はこの枕で寝よう、そう心に決めた鳳翔は緩んだ頬を隠すことなく布団を抱えて執務室を後にした。
追記として、提督の寝具を全て自らの部屋に持っていき、代わりに提督の部屋へと干した自分の寝具を運び込むというミラクルプレーを披露したが全く問題ない。
それに気付いた艦娘が真似して実行することになったが、全く問題ないのだ。
06時00分 古鷹
提督の隣をゆっくりと歩きながら会話する。
同じ艦隊に所属する艦娘には滅多に得ることのできない貴重な時間に、少しだけ優越感を感じてしまう。
あまり良いことではないとわかっているが、それでも抑えきれないモノもある。
誤魔化すために重巡洋艦や三川艦隊の仲間の話もするし、自分の話もする。
目は完全に覚めているが、どこか夢見心地の気分でもあった。
近くの艦隊を指揮している提督たちとの挨拶周りが始まり、散歩の予定が半分過ぎていることに残念な気持ちを抱いた。
贅沢な不満だと理解しているが、一日の始まりに楽しみが来ると後がツラい。
艦隊が厳しいというわけでも、他の艦娘と仲が悪いというわけでもないが、やはり提督との時間と比べると味気ない。
就寝前の夜回りも一緒にと思うのだが、古鷹が独占している朝の散歩を手放す必要がある。
手放してまで夜の順番に組み込まれることは欠点のほうが多いと理解しているが、それでも高望みしたくなる。
最も早く寝る自分のために、提督がわざわざ部屋まで就寝の挨拶をしに来てくれることを考えると、望み過ぎなのかなと古鷹は溜息を吐きそうになった。
提督が同期のレン提督を見つけたようで、徐々に近づいていく。
彼女は妖精さんと交流できるほどに力を蓄えた猫又だとか。
古鷹ら艦娘には可愛らしい少女の姿を見せてくれることもあるが、提督には全くないという話だった。
恥ずかしいのだと伝え聞いたことがあり、それがまた魅力的だった。
勿体ないと思う半面、良かったと思う気持ちも当然あるし、仲間の艦娘も同様だろう。
提督が彼女の魅力に気づいて艦娘に割いている時間が減る可能性が、当たり前のように想像できる。
確かに自分の時間をどのように使おうとも提督に自由であるが、放っておかれると思うと強く寂しく思う。
私達の提督に限ってと思うし、信頼し切っているが、中佐を思い出すと何処となく苦く感じる。
難しいなぁと呟いて、古鷹はレン提督の秘書艦である叢雲にサーチライトを当てた。
提督を睨んでいたのでお返しであり、視界が白く染まる程度の優しい悪戯に抑えている。
全力を出せば数キロ先を照らし、熱で叢雲のデコを焼き切れるパワーがあったりなかったり。
自身の瞳のフルパワーは試したことがないのでどのくらいの熱と光が出せるか古鷹自身にもわからないし、知る気も全くない。
探照灯を使う戦場ならば、普通に装備を使う。
瞬きするたびに消える安定しない光源など、仲間に迷惑がかかりそうで流石に実戦では遠慮したい。
提督が美しいと言ってくれたのだから、ただ少しだけ照らすことができればそれで古鷹は満足だった。
07時00分 曙
特型駆逐艦「曙」は天国と地獄を彷徨っていた。
原因は目の前で朝食を摂りながら曙を見つめ続けている提督と中佐にあった。
普段は戦艦や空母などといった多く食べる艦娘と一緒に朝食を摂る提督だが、銀蠅事件が起きた事で駆逐艦と食べる機会が増えていた。
食事時間などによる提督の独占も見直されたことも関係しているだろう。
それを歯噛みしている空母級は視界に入れないよう気を付けながら食事を続ける。
天国とは提督と珍しく卓を供にしていることだし、地獄は中佐がいることだった。
普段ならもっと楽しくなるはずだが、何の思いつきか勝手に隣に座った中佐が提督を指差して「彼をクソ提督と呼ばないのか」とか言い出した。
最悪である。
他の艦隊なら口が悪いのかもしれないが、さすがにこの艦隊でそんなことを言えるはずもないし、言う気もない。
さらに言えば、素直になれなくともなんとかしようとした結果、口数少なく目つきの悪い曙の誕生であって提督と会話などしたら気絶する可能性が高い。
提督と一緒に食べるだけで満足できるレベルの駆逐艦たちは当初楽園を謳歌していたが、中佐の一言で失楽園まっしぐら。
クソ提督など呼ぼうものならあるのは金槌が鳴らすメロディーである。
大丈夫じゃない榛名がこちらを見ていて、曙はマジで大丈夫じゃなくなってきた。
強めの光が曙の側頭部を照らしていて、曙はマジでワイルドに焼かれそうであった。
普段は柔和な笑顔を浮かべている龍田が無表情で提督の後ろからこちらを見つめている、曙はフフ怖であった。
助けを求めようとちらりと視線を外せば、阿武隈が前髪を整えるフリをしているがちゃんと弾を込めてて曙の背筋を冷やす。
よく見ると高雄が「躾が必要かしら」と胸部を揺らした、マジで曙の心がブルってきやがったぜ。
そもそもなぜ自分がタゲられているのか、泣きたい気持ちを抑え込みながら思考をフル回転。
叢雲や摩耶だって自分で同じジャンルじゃないか、青葉なんて提督を盗撮してたし、どうすればと曙はいっぱいいっぱいである。
結局のところ、提督も興味はあったのかずっと曙を見つめ続けていたが、何の進展もないまま時間は過ぎていった。
そして曙の涙目に気付いて中佐の発言は無かったことに。
提督が「集まってないでちゃんとご飯を食べなさい」と告げるとみんな元の席に戻っていった。
曙は全身にかけられていたプレッシャーから解放された。
なんとか箸は持っているが、あまりの手の震えで食が進まない。
解放された安心感からか、震える声で「うまく食べられないわ……」と漏らした。
それを聞いていた提督が曙の隣に座り、食べさせようとして……。
08時00分 川内
川内の胸に秘めたる闘志が燃え盛った。
理由は夜戦の機会を得るためである。
所属する艦隊の提督に全く不満は無いが、夜戦の機会がかなり少ない。
敵艦隊に止めを刺すときか、特殊な演習くらいでしか夜戦は行わない方針らしい。
川内に不満は無い、全く無いのだが、欲望はある。
夜戦欲である。
戦い続ける喜びを感じたりだとか、戦場に魂を感じてここたましたりだとか、狂戦士であるだとか、そんなわけは一切ない。
ただ、夜戦がしたいのだ。
特別夜戦に強いわけではない。
でも夜戦がしたい。
そんな川内の望みが叶う可能性をかけた戦争。
お掃除戦争が始まる。
勝負は簡単、廊下の雑巾がけが提督よりも早かったらちょっとしたお願いが聞いてもらえる。
遅かったら参加者全員で掃除である。
掃除係りも存在するが、お願いのために参加する艦娘も多い。
参加しない艦娘が、勝利者として掃除を眺めながら茶を啜っている提督とダベっている姿も見かけるが、それでも叶えたい願いがあるんだ!
結果はもちろん「島風すらも置き去りにした……っ!!」という感じで、艦娘の敗北で幕を下ろした。
そもそも全力を出すと水上すらも走ることのできる提督に勝てるわけがない。
艦娘で勝者は未だにいないし、これからも出ないだろう。
それでも挑み続けるのが、艦娘の流儀なのかもしれない。
そんなことを内心で呟きながら、川内は雑巾がけの任に付いた。
隣では同じく敗者となった金剛が、提督にお茶を淹れてもらっている比叡を見て「聖杯に呪いあれ!!」と叫んでいたりいなかったり。
提督のカップ(聖杯)を比叡が借りて使っていたらしい。
川内は血の雨が降る(確信)と慄いた。
血の雨から逃れるため、川内は割り振られた掃除をすぐに終え、気絶したという曙の元へ。
特に深い意味は無いが、ここにいるよりも意義はあるだろう。
そもそも今夜は特殊演習だと知らされていたことを思い出した。
ならばお掃除戦争に参加する意味は無く、掃除に時間を費やしただけであった。
掃除は嫌いではないが、無駄にやりたいわけでもない。
こんなことなら夜戦をねだるフリして構って貰えばよかったと思ったが、比叡による血の雨地獄を考えると、どちらにしても無意味だったかなと。
名目ではあるが、きちんと見舞っておこうと曙の様子を見に行く。
なぜかすでに提督がいてお茶を啜っていた。
差し出されたカップと呼ばれる聖杯、川内は受け取るしかなかった。
自らの血で雨が降ろうとも、欲望には勝てないのだ。
妹の神通が現れないようにと祈りながら、聖杯を飲み干して……。
そして目があった。
「あ、死んだかもしれない」
川内は小さく呟いた。
09時00分 多摩
吾輩は球磨型軽巡洋艦の2番艦である。名前は多摩。
どこで生まれたかとんと見当もつかぬ。何でも薄暗い深海で深海棲艦になりかけてにゃーにゃー泣いていたことだけは記憶している。
吾輩はここで始めて提督というものを見た。しかもあとで聞くとそれは中佐という引きこもりで艦娘に対して一番獰悪な種族であったそうだ。この中佐というのは時々我々艦娘を捕まえて解体して資源にするという話である。
しかしその当時は何という考えもなかったから別段恐しいとも思わなかった。ただ彼女の書類に書かれた艦娘たちはひどく傷ついたり解体されたりとフワフワした現実離れした感じを憶えた。長らく艦隊で消耗を繰り返した頃、少し落ちつく機会があって提督の顔を改めて見たのがいわゆるこの艦隊でまともな提督というものの見始であろう。この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。
第一資源のみを友とする中佐の顔はもっと鬼気迫っていたが、提督はというと鋭い目の奥には輝きがあって顔には覇気が漲っていた。その後、他の提督にもだいぶ逢ったがこんなまともな人類には一度も出会した事がない。のみならず艦娘に労わるように接するのだから珍しい。
長々と語って何が言いたいのか。
それはつまるところ、今日の秘書艦なのだからもっとも構ってもらえる。……にゃぁ。
己の思考につらつらと並ぶ文字列を追いやり、意気揚々と廊下を歩く。
艦隊仕事の華といえば、やはり秘書艦であった。
提督のために仕事をするという点においてどの任務も確かに尊い。
だがしかし、秘書艦と他の任務を交換してくれてとお願いされて応と答える艦娘はいないだろう。
日時の交換すらも間宮のアイスクリームが必要になるほどだと言えば分ってくれるはずだ。
秘書艦ともなれば提督とともに行う午前と午後の仕事は元より、昼と夜の食事までもが一緒である。
一心同体、始まりと終わり、アルファとオメガ。
つまるところ、そういうことなのである。
隣の猫提督が隙を狙っているらしいが、すでに同じポジションには多摩がいる。
好敵手になりえないだろうがあまり隙は見せられない。
これから多摩のサクセスストーリーが始まるにゃ!
無駄かつ流麗な仕草で扉を開いた。
多摩が目にしたのは姉の「球磨だクマ」と妹の「木曾だキソ」に提督の膝を奪われているという光景だった。
「くまぁぁぁぁぁあああぁっぁぁぁ!!!」
にゃすらも忘れた多摩の絶叫が響き渡った。
10時00分 多摩
姉妹による侵攻作戦によって安住の地を奪われかけた多摩だったが、必死の交渉(涙目で威嚇)によってなんとか防衛に成功した。
姉の「球磨だクマ」や妹の「木曾だキソ」には彼女らの秘書艦の際にやり返そうと密かに決意した。
多摩も気づいている。
やってやられてを繰り返しているだけだということに。
自分の尾に噛みつこうとその場を走り回る犬にも似た行いであったが、それすらも姉妹間のコミュニケーションだった。
日常で感じる小さな違和感、それを埋めるための代償行為。
小さく、だがはっきりと存在するそれは、多摩の胸を空しさとなって何度も打つのだ。
それでも何時か昔のように、そう夢見て多摩は……。
11時00分 多摩
秘書艦の仕事はいろいろとあるが、書類仕事で一番重要なのは提督に次の書類を渡すことだ。
超速で乱舞しているペンの邪魔をせずに次の書類を出す。
まるでわんこ蕎麦のようである。
多摩は猫なのに仕事はわんこ、これ如何に。
基本的に書類仕事は毎日同じようなもの。
書類の枚数と終了した際のタイムを割ることで1枚に費やした時間を算出し、提督とのコンビネーションを競い合っていたりいなかったり。
最速は……と考えていると提督の仕事は終わったらしい。
中佐が書類によって埋もれていたが、多摩には関係ないことである。
ときどき、提督が中佐の手伝いを募集していることもある。
対価は1日分の休暇であるが、かなり人気である。
誰も好き好んで中佐に近寄りたくないと多摩は考えているし、概ねその意見で正しい。
あとは中佐があまりにも空気が読めないので過去のことを思い出して砲撃したくなるからとか魚雷を放ちたくなるからとか、多々ある。
だがしかし、そこに執務室で提督と二人で朝食を摂るという権利が付随するうえに、中佐付きとはいえ同じ執務室で仕事を行うことができるという。
これはもう、当然のごとく狂気のデスマッチが展開される。
ただ、物理では怒られるのでくじ引きがほとんどである。
何が狂気のデスマッチかといえば、間宮のアイスクリームを対価に交換を強請る連中が現れるためである。
半端ない。
それはもう、半端ない。
秘書艦の0.5~0.8倍、時には1.5倍にまで跳ね上がるという驚異のレートである。
それでも交代してもらえる機会は少ないのだからその価値はわかっていただけるだろう。
中佐の机に溜まった書類を見て、徐々に近づきつつある戦争にアイスクリーム引き換え券の貯蔵は十分だったろうかと多摩は身震いを起こした。
寒くて震えているのかと勘違いした提督が多摩を膝上に乗せたり、猫を相手にするようにゆっくりと撫でたりとあって、多摩は午前中の秘書艦を大いに満足して終えた。
12時00分 皐月
「まっかせてよ! 司令官!」と皐月は小さい体でアピールしながら昼食を運んでいく。
艦隊のローカルルールとして駆逐艦は昼食を司令官に運び、隣に座ることができる。
秘書艦と配膳の駆逐艦が優先して司令官の近くに座り、残りの席は任務のない艦娘でローテーションである。
中佐? 誰それ、とばかりに席が埋まっていく。
たぶん、今日も中佐は執務室で終わらない書類仕事を片付けながら昼ごはんを食べるのだろう。
中佐にとってブラックな勤務形態に見えるが、9時から17時で仕事は終わるので意外とホワイトである。
そもそも昼休憩もあるのだが、仕事が終わらないので昼食中も続けているだけだ。
中佐が真面目か不真面目かで言えば頗る真面目だし、善人か悪人かでいえばどっちでもない。
まあ、そういう人間なのだが、皐月にはどうでもよかった。
そもそもこの艦隊の駆逐艦は、中佐に関する記憶に蓋をしてシャットアウトしているレベルだ。
悪しき記憶は忘れるのが一番である。
多摩が提督にねだって食べさせてもらっているのを見て、同じように皐月もお願いする。
後ろでぐぬぬ、と歯噛みしている空母級のことなど意識の外であった。
最初から最後まで、皐月を執心させたのは提督だけだった。
中佐など存在すらも忘れ、他の艦娘との遊びよりも、提督が一番であった。
「……これからもまかせてよね」
食事が終わり、爛々と輝いていた皐月の瞳はどろりと濁っていた。
そして、廊下で出会った提督に無造作に頭を撫でられて翌日まで瞳は輝いてた。
というかキラキラ状態である。
なんだかんだいって彼女も駆逐艦だった。
13時00分 多摩
他艦隊への挨拶で、多摩は見た。
自らの提督ではない、他の艦隊を指揮する提督が空を飛んで光線を撃ちまくる姿を。
改めて艦娘が必要のない提督が多い気がした。
多摩の手を借りる程でもない……にゃ。なんて感想を持ったり持たなかったり。
提督との話では、いろいろな規定や資源の関係で戦うことができない提督ばかりらしい。
倒せないと言わないのが怖さを煽る。
多摩の提督は水中が苦手で艦娘を信頼しているというのがわかっている。
だから安心して指揮に従えるし、提督の混じりっ気ない信頼を受ける心地よさも知っている。
ただ、提督自らが戦える艦隊はどうなのだろうか。
内心でどう思っているのかわからないので不満に感じているのではないかと疑心暗鬼に陥る可能性もあるだろう。
中佐のように個々人を認めないようなことになるかもしれない。
そう考えると……そこまで思考が勝手に奔ったが、無理やり止める。
多摩は満足しているのだ。
今を楽しむそれだけだ。にゃ。
14時00分 大井
提督のハイパーお悩み相談タイムがやってきた。
艦娘の精神ケアを目的としているとの話で、悩みを持った艦娘が提督に心を吐露する絶好の機会である。
14時は重度の悩みを抱えた艦娘専用である。
どのラインから重度かは不明だが、ふざけた内容では決して近寄ることのできない空気を醸し出している。
全く大丈夫じゃない榛名事件、ギロチン雷事件、クローン五十鈴事件、取り換えっこ龍田事件、といった重度の相談を解決したことから、必要とした艦娘のみが訪れるようになった。
15時以降は軽度、というか提督と話したい艦娘用に開いている感じである。
先客がいないことを確認し軽くノックの後、入室を促された大井が足を踏み入れた。
一番初めの相談者だった。
相談中も秘書艦はいるが、中佐はいない。
中でのことは他言無用、秘書艦も休憩として出て行ってもいいという話だが、結局ほとんどの秘書艦は提督の隣や膝上に座って作業や寝ていたりする。
大井の悩み、それは艦隊の仲間である「北上」と仲良くなれないことであった。
他の提督の指揮にある二人は百合の花が咲き乱れる勢いであるが、この艦隊ではそんな花は枯れ落ちたという具合である。
駆逐艦を中心に他の艦とも深く仲のいい北上、同じ様にいろいろな艦と交流を深める大井。
ただ、その二人に関しては全く交流が無かった。
原因は単純、大井にとっての「北上さん」ではなく、北上にとっての「大井っち」ではないからだ。
北上にとっての「大井っち」はすでに沈んだ。
そして、大井にとっての「北上さん」は供に深海棲艦に沈められて、大井だけが引き揚げられて今に至るのだ。
互いに顔を合わせればツラいことばかり思い出す。
提督はその辺りをうまく配慮して艦隊を運営しているが、その好意に甘え続けるわけにはと思った大井は相談しに扉を叩いたのだ。
こういった問題はこの艦隊には少なくない。
姉妹艦や仲の良い艦が何度も沈んだことで心が折れ、交流を絶った艦娘も少なくない。
目の前で轟沈や解体を繰り返し、明日は我が身ともなっていた艦隊だ。
今なお仲良くなど、限りなく難しい。
今日、秘書艦をやっている多摩たちも失意を乗り越えて、なんとか垣根を取り除く努力を繰り返している。
それがいつ花咲くのか。
実ることがないとしても、枯れないように支えるために提督はいるのかもしれない。
何も解決することはなかった。
提督は話を聞いて、大井がなんでも言いやすい誘導するだけだった。
多摩も寝ていたのか、身動き一つなく静かだった
提督は解決を急ぐ気はなく、大井もただ心情を吐露したいだけだったのかもしれない。
いつか実ることを期待しているのか、今はすべてを時に委ねることを選んだ。
15時00分 提督
言葉も重大な要因を持っているが、時には何も言わないことも重要なんだ(キリッ
まあ、問題の先送りに近い。
何とか大井や悩んでいるかんむすたちの力になりたいと考えているわけだが、かなり難しい。
そもそも高校の途中から提督になった俺に何ができると思っているのかと大本営に問い詰めてみたい。
今日だって元気のない曙の食事を手伝うとか寒がっていた多摩に上着をかけて撫でるくらいしかできなかったし。
マジで難しい。
大井たちの悩みを完全に理解できない俺には、そもそも解決するなど夢のまた夢というやつだ。
俺には同じ顔に見えるが、同じ顔をした艦娘はいないらしい。
俺たちが犬猫の判別が付かないことに近いようだ。
彼女らは俺たちを見分けることができる、しかし俺たちにはできない。
不誠実な話で嫌になる。
こういった話は多く、人間と艦娘が異なるのだとハッとさせられる。
彼女らの轟沈や解体による別れとはどのようなものか、きっと理解できることはこの先もないだろう。
事象としては近しい人間の死に酷似していると思っていたが、話を聞いていると艦(ふね)であったときのことも朧気にリフレインされるようだ。
オリジナルに近い艦娘ほど記憶は鮮明という話だが、彼女らにも最期が残っているのだ。
二度、三度と繰り返される死別と再会とは一体……。
責任だけ取ってればいい、なんて時間は終わったことは理解している。
そして、悩んでいる姿は見せない。
見せることができない。
見習いでも俺は提督だから。
なんてことを考えながらもそれを表には億尾も出さず、執務室に流れ込むかんむすたちを相手していく。
15時以降はお遊びゴールデンタイムのようだ。
駆逐艦に混じって飛び込んできていた赤城の細い腰を支え、子供をあやす様に高い高いしてみる。
ああ、恥じらう顔も可愛いなぁ!!
17時00分 多摩
入浴時間は自由となっているが、17時から19時までは日替わりで提督に髪の手入れを手伝ってもらえる。
多摩も経験がある――というか順番のたびに参加しているので皆勤だ――が、可能ならば毎日でもお願いしたいと思わせるほどだった。
以前、希望者を片っ端から手入れした結果、短い時間と半端な作業になってしまって不満を持ったらしい、提督が。
なので髪の長さやそれぞれに与えられる時間が均等になるように真面目に割り振ったとは提督の話。
短い時間に片手間でもいいので毎日やってもらいと思うが、やはりじっくりと手入れしてもらうのも捨てがたい。
究極の二択を前にした艦娘たちによって論争を繰り広げられることも多々ある。
ちなみに多摩はじっくり派であった。
他の艦娘が幸せそうに毛づくろいしてもらう姿を眺めることになるのが、秘書艦の欠点かもしれない。
秘書艦と手入れを同時期にするよう間宮券を解放するべきだったかと己の失態に多摩は内心で臍を噛んだ。
18時30分 提督
夕飯である。
髪の手入れを手伝ったかんむすたちがぞろぞろと付いてきて、一緒の席についた。
まあ、いつもの流れなので問題ない。
夕食だというのに膝上で寛いでいる多摩を一撫でして、配膳を待つ。
勝手に持ってきたら泣かれたことがあった……伊勢に。
伊勢は装備換装がガチガチだから、普段はより華奢に見えて泣かれると胸を撃たれるようだった。
日向・伊勢の装備もすごいが、扶桑姉妹もすごい。
というかヤバい。
どうしてそうなったんだ感が半端ない。
初見では、あ艦これ状態になる。
あとは今日の髪の手入れだが、なかなか満足のいく結果だった。
最上と初春をローテーションに組み込むことによって、安定感と満足感を同時に満たすことができた。
短めの髪は滑らせて楽しむこともできたし、長い髪を束にして指から流すことで奥深さも感じることができた。
やはり二日完徹するほど全力で取り組んでよかったと思わされたね。
俺に間違いはない。
あと湯上りは最上が素晴らしかった。
健康的な容姿を、火照った肌の支援によって魅力が数倍にも引き上げられる。
普段から可愛いが、それすらも魅力の足しになる。
やはりボクっ子は無敵かもしれんな……。
20時30分 中佐
だ、誰もいないんですけど……。
21時00分 古鷹
就寝準備を済ませると来客を知らせるノックの音。
同室の加古はまだ寝るには早いと消灯まで他の部屋で遊んでいる。
なら当然、開いた扉の先には待ちわびた提督の姿。
部屋には入ることなく一言二言の挨拶をして別れる。
一日の始まりも終わりの締めも提督との会話であり、ほっこりとした気分で古鷹は眠りについた。
22時00分 多摩
秘書艦の業務も無事終わった。
提督に部屋まで送ってもらい、一日よく頑張ったなとお褒めの言葉とともに提督から優しく撫でられる。
それが一層寂莫感を強める。
帰っていく提督の背を見えなくなるまで視線で追い続け、部屋に戻る。
未だに違和感のある姉妹が迎えてくれる。
今はまだ難しいけれど、いつか昔のように戻れるのだろうか。
前のように失うことが無いのだと思うと少しだけ前向きになれる気がした。
22時30分 提督
22時から22時30分までに寝るかんむすに夜の挨拶をしてから執務室へ。
消灯はもっと先だが、夜番もいるから安心して寝付くことができる。
布団から甘い匂いが……たぶん、鳳翔の香りが付いたのだろうか。
結構強く付いている気がしないでもない。
まあ、干してくれるかんむすの香りがいつもするので、付きやすいのだろう。
よくわからんが。
ちょっと干して膨らんだせいか枕に違和感を感じるが、そのうち慣れるし。
おやすみー。
オリ主提督
髪の毛を触るのが好き。
艦娘の涙目が好きだが、笑顔も愛せる。
軍学校の際に古鷹に世話になったので、ちょっとだけ贔屓してしまったり。
猫
オリ主の同期。猫又らしい。秘書艦に割り込みたいと思っていたり、いなかったり。
中佐
とうとうボッチになった。
残念ながら彼女が艦娘を運用できる機会は今のところ無い。
高町なのは
20歳。時空管理局武装隊に正式に所属し、訓練学校を経て戦技教導官を務めていたが、現在はとある事件を経てこの世界で提督を勤めている。魔法術式・ミッドチルダ式。
療養しているため、リンカーコアに負担がかからないよう出力リミッターが掛けられている。そのため、なのはもAAクラスまで能力を制限されている。この能力限定は、本局に戻らない限り解除できない。だがAAクラスでもティアナ達を圧倒するほどの実力があり、他の提督たちと殴り合うことができる。
A'sまでは「単独でも戦闘が行える砲撃魔導師」としての戦闘スタイルを確立したが、StrikerSでは、本人曰く「(後方からの援護射撃型である)ティアナと同じポジション」とのこと。魔力リミッターがかかった状態でも一騎当千の実力は健在だが、実戦では援護に回る事も多くなっている。また、艦隊指揮では鎮守府近郊に限り、砲撃を繰り返すトリガーハッピーと化している。
提督となったのは半年前。階級は中佐。公の場では他の提督に対して敬語を用いるが、誰に対しても優しく接し、自分に対しては謙虚なところは変わらないが無茶なことをしては周囲の提督を困らせる……と見せかけて周囲の提督のほうがめちゃくちゃであり、事前連絡なしで振り回される苦労を知った。
また、半年の間に自己の鍛錬も怠っておらず、運動能力もさらに向上させ、魔法が無くても殴ればいいという真理に近づきつつある。
あ号
BETAの創造主が重脳級の外殻を纏って提督をやっているという憑依型提督。核である珪素の球体があ号の中心に或って活動している、というのが正しい姿。珪素生命体が地球上で活動するにはこういう手段をとるしかなかった的なサムシング。
あ号自体は活動停止しており、BETAの生産ができず、普通に提督している。
意思疎通が取れれば「マジで炭素生命が誕生しててすげぇ! うひょー!」とフレンドリーに会話してくれるが、音声では会話できない。
電子の遷移を利用しての会話が必要になります。
オリ主はピ○チュウを介して会話できるが、3日くらいで自力で普通に会話できるようになった。