実験室のフラスコ(2L)   作:にえる

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とある科学2

 

 

3

 

 

 「どォも、第1位の一方通行でェす」

 

 凶悪な笑みを浮かべた一方通行がアイテムに挨拶する。

 一方通行の自己紹介を受け、アイテムのメンバーが固まった。

 特に麦野は時間すら止まっているかのようだ。

 麦野の友達候補としてはかなり優秀ではないだろうか。

 固まっているのは歓びのあまり昇天したのかもしれない。

 下ネタ的な意味じゃなくて、魂的な意味だ。

 麦野は下ネタが好きだからこうやって訂正する必要があるのだ。

 さすが俺だと渾身のドヤ顔を決める。

 一方通行を対面、つまりフレンダの隣に座らせる。

 中性的な顔、白い髪、赤い瞳、白い肌、とウサギ的ファンシー要素がたっぷりと詰まった外見のクセに可愛らしさは皆無である。

 どうやったらそこまで可愛くなくなるんだと諸手をあげて喝采するレベルだ。

 ブラックコーヒーを好んで飲んでいるが、足りない黒を補おうと本能が求めているらしい。

 そんなわけあるか。

 アイテム全員が停止していたのでドリンクバーの氷を積み上げて古代ローマのコロッセウムを建造。

 一歩通行は肉を頼んだ。

 兎なら草を食(は)め。

 

 「大神ぃぃぃぃ! 何つれてきてんだよ!」

 

 そして麦野が再起動し、吠えた。

 麦野が怒っている。

 麦野がおこである。

 麦野がげきオコスティックファイナリアリティぷんぷんドリームだ。

 たぶんフレンダが粗相をして怒らせたのだろう。

 死亡フラグは立っていないので無視だ。

 楊枝をサーベルに見立てたポテトを並べて、氷のコロッセウム(ファミレス風味)の完成である。

 ケチャップは観客に見立て、内壁に塗りたくった。

 融けるのがもったいないな、と呟くとビームで吹き飛ばされた。

 ダイヤモンドダストの如く煌く氷の欠片、飛び散る芋、傷ついたコロッセウムが出血したかのようにケチャップの飛沫が舞い、フレンダのポテトは消え失せた。

 飛び散るケチャップから絹旗を守る。

 なるほど、今日はフレンダ本人ではなく、フレンダのポテトが死ぬ日か。

 そういうのってよくあるよね……いや、無いな。

 ケチャップ塗れになったフレンダを眺めて思った。

 服も死んだな。

 

 「超呼ばれてますよ」

 

 周りを汚したケチャップを拭きとっていると、脇腹を小突かれた。

 ステイルか神裂、またはインデックスでも来たのかと見回す。

 知り合いが少ぇなと内心でしょんぼりしながら何度か探すが見当たらない。

 いないじゃん、と呟く。

 ビームを撃たれた。

 砕けた氷やポテト、ケチャップを拭いたナプキンを射線に構えてごみ処理。

 「被害さえ考えなければごみ処理に便利やんけ! 俺氏、歓喜のあまり麦野を生体ゴミ処理機と認定」と称賛する。

 拡散ビームを撃たれた。

 

 「お、大神。あんまり麦野を煽ると後が超怖いですよ」

 「大神……? あ、俺のことか。いや、偽名に慣れて無くてな」

 

 すまんな、と軽く謝る。

 さらにビームを放った麦のんは舌打ちして視線を窓の外へ向けた。

 いじけたに違いない。

 構ってほしかったのだろう、愛い奴だ。

 またビームが飛んできた。

 

 一歩通行は俺の真似して氷で建造物を作っていた。

 能力は使っていないらしい。

 しかし、不器用なようで何度も崩している。

 接着面に水を利用するとアドバイス。

 納得したのか、何度も頷きながら建造を再開。

 麦野よりも可愛いだろ、こいつ。

 またまたビームが飛んできた。

 

 「なにサラッと偽名とか言っちゃってる訳よ」

 「みんなに黙ってたけど、実は……偽名なんだ……」

 

 声のトーンを落とし、俯き気味に呟く。

 絹旗が溜息をついた。

 

 「深刻に言っても超駄目ですからね」

 「俺の名前はフレンダ、どこにでもいるクソビッチだよ!」

 「私の名前を使って最低なこと言ってる!?」

 

 うるせぇフレンダ。

 

 「うるせえ、死ねフレンダ」

 「超死んでくださいフレンダ」

 「何この扱い!?」

 

 つい思っていた言葉が零れ落ちた。

 そのままの勢いで絹旗とともにばーかばーかフレンダ、と罵る。

 電波を受信していた滝壺も参加し、フレンダの人気が天元突破。

 そんな感じで話を聞いているとアイテムに驚愕の事実が浮上した。

 誰も偽名を使っていないらしい。

 麦野はネームバリューとかあるから仕方ない。

 絹旗も身寄りがないから問題ない、こともないがギリギリ見逃す。

 問題はフレンダだ。

 妹もいるのに暗部で普通に名乗っているらしい。

 すげえ。

 もうどうでもいいや。

 滝壺はわからん。

 俺の電波は受信できないとか。

 ここで言う電波とは超能力を使う際のAIM拡散力場というやつのようだ。

 そりゃそうだ、だって超能力じゃないし。

 原石だって言っておけば良いらしいので、それで通している。

 訝しげな滝壺から逃れるため、話を変える。

 氷遊びに夢中になった一歩通行との出会いを話すことになった。

 

 

 

 

 

 「始まりは情報を片っ端から洗い、一方通行の居場所を探り当てたときのことだ」

 

 「そこは薄暗い路地裏だった」

 

 「銃撃と愉快そうな声に導かれた俺が目にしたのは、一方通行が血の海に佇みながら笑みを浮かべて殺した人間の指を食っている光景だった」

 

 絹旗とフレンダが急いで手を隠したのを横目に捉え、その様子に癒されながら話を進める。

 年相応の態度というのは可愛いものだ。

 聴いているのかいないのか、宙を見たまま停止した滝壺はつまらんので無視である。

 麦野もちらちらとこちらを窺っている。

 たぶん話も真剣に聞いているのだろう、天邪鬼なやつだ。

 

 「「俺たち『アイテム』のリーダーである序列第4位の麦野が友達になりたいと言っていた! 今すぐ着いて来い!」と声をかけた」

 

 麦野が啜っていた茶を吹きだした、汚ぇな。

 フレンダの裾で拭っておく。

 抗議するフレンダに告げる、請求するなら麦野に。

 静かになった。

 

 「当然、麦野の名前程度では動かないだろうと思っていた」

 

 「案の定、一方通行には拒否された」

 

 「「麦野が怖いのか、第1位」、そう俺は声をかけると一方通行の瞳が俺を射抜いた」

 

 

 

 「路地裏にいて尚、その瞳は深紅に輝いて見えた。……闇に映えるその瞳は、実に美しかった」

 

 

 

 一方通行がコーヒーを吹いた。

 ついで麦野が茶を吐いた。

 こいつら汚ねぇな。

 レベル5って口から逆流させる癖でもついてんのか。

 

 「それから、俺と一方通行の逢瀬が始まった(ドヤッ」

 

 俺のドヤ顔に絹旗とフレンダが興味津々である。

 表面は素知らぬふりをして取り繕っている麦野も興味津々だ。

 一方通行はげきオコスティックファイナリアリティぷんぷんドリームだ。

 煽り甲斐があって内心で笑いが止まらない。

 

 

 

 

 

4

 

 

 『アイテム』が製薬会社からの依頼を受けたと連絡がきた。

 暴食シスターをステイルに預け、再び俺は夜闇を駆けるのだ!

 PDAで集合場所を確認し、脚に力を込める。

 入れすぎてアスファルトを踏み砕いて足跡を付けるという茶目っ気を披露しつつ、力を解放……しようとして迎えの車がきた。

 力の入れ損である。

 

 メカニカルでクールな輸送車っぽいのに乗り込む。

 俺はオカルト出身なのでこういったハイテクに疎いのだ。

 PCでインターネットをするので限界。

 発達しすぎた家電製品で日々てんてこ舞い。

 この都市の売りである超能力とかわけわかんねぇから、技術が荒らぶりすぎて困る。

 

 すでに『アイテム』のメンバーは全員揃っているようで、討論していた。

 依頼は襲撃者の撃退、ただし施設に侵入してきたときのみ。

 それ以外は襲撃者が電撃使い(エレクトロマスター)の可能性があるという情報くらいだ。

 なんて怪しい依頼なんだ……。

 お祈りしてくれと言われて向かった先に、悪魔の破片をその身に降ろした魔術師がいたくらい情報がテキトー過ぎる。

 依頼達成後に、天使の輪から外れたものが悪魔であり~とかそんな話を聞いたけど俺には関係ないのでどうでもいいのです。

 とりあえず襲撃者については特にこれといった情報も得られず、各々の判断で撃退という方向になった。

 

 

 

 襲撃者に対して、『アイテム』は二手に分かれて対応することになった。

 まあ、施設が二か所あるからだけど。

 絹旗とフレンダは別々に待機することに決定。

 麦野は絹旗とセットで活動するようで、二か所の中間地点に留まった。

 とりあえず占うとフレンダが非常に厄い、よってフレンダと同じ施設に待機することにした。

 

 爆弾設置という雑用にこき使われるとかダルい。

 お礼に脚線美がうんたら。

 脚線美(笑)

 爆弾を内包しているぬいぐるみの群れに放り込んでおいた。

 フレンダがぬいぐるみに埋もれても爆発しなかった。

 起爆装置みたいなスイッチを押さないと爆発しないのかもしれない、やはりハイテクである。

 

 建物内でフレンダとは逆側に待機していると爆発の音が聞こえた。

 戦闘が起こった様だ。

 麦野はフレンダに自分が駆け付けるまで足止めしておけ、みたいなことを言っていたが逸ったようだ。

 成功すればなかなかギャラがいいからな。

 俺には何も言わなかった、これが信頼というやつか。

 

 もう一か所を絹旗に任せ、麦野はおそらく進路に存在する障害物をビームで薙ぎ払いつつ一直線にこちらに向かってくるだろう。

 麦野が通ると思われるルート上に拡散支援半導体(シリコンバーン)を設置しておいた、嫌がらせが9割と滝壺の負担軽減が1割のためだ。

 あとギャラが欲しい。

 ロシアから支援とか貰っているが、暴食シスターに喰わせるために減らすのもちょっと違う気がするし。

 今日はステイルの奢りだけどな!

 次は神裂の番だな!

 そしてまたステイルに戻る!

 俺の懐は痛まない!とはいかない。

 朝と夜があるからだ。

 

 

 

 

 音を頼りに障害物を破壊しながら進み、発生源にたどり着くと鳴りやんでいた。

 どうやらフレンダが負けたようだ。

 派手に壁を破壊して内部に入り込む。

 広い空間だった。

 尻を地面につけているフレンダとそれを見下ろす襲撃者。

 一目見た感想は凄いセンスのTシャツだということくらいか。

 

 「192487189264129101094712412」

 

 謎言語で混乱させて不意打ちを……っ!

 綺麗に迎撃され、身体に電気が流れてバリッときた。

 

 「日本語で喋りなさい!」

 

 襲撃者の声は少女のようで何故か苛立っている。

 その形相も鬼のような、と表現できるだろう。

 カルシウム不足か女の子の日か。

 とりあえずフレンダは回収できたから良しとしよう。

 

 「相手に隙を作らせ、不意打ちするという俺の超完璧な謎言語作戦が失敗した訳だ」

 「それならさっき私がやった訳よ」

 

 戦法はパクるのはやめるとしよう。

 面白いから好きだったが、電気でバリバリは好きじゃない。

 フレンダを回収した手際が良すぎたためか、襲撃者は警戒してしまった。

 衝撃波を抑えつつ、捉えられない速度で走って、フレンダを抱えて距離をおいただけだが。

 普通なら瞬間移動系統(テレポート・アポート)を疑うだろうが、相手は電気専門だ。

 こんな事件を起こすのだからレーダー搭載の高機能に違いない、さっきの動きもバレバレか。

 一挙手一投足を警戒されるとか面倒だ。

 

 「ところで戦ってみて襲撃者はどんな感じだ」

 「レベル5級の電撃使い(エレクトロマスター)ってところね。電気の分野は全部修めてますって雰囲気が漂ってる訳よ」

 「お、おう。げんりはわかる」

 「絶対わかってないわね。……対峙した雰囲気よ、雰囲気。視覚と聴覚を失っても電磁波で空間を把握する、鉄の床を持ち上げる、他にもいろいろ。これ以上、話してる暇はなさそうだけど。結局戦えばわかる訳よ」

 

 襲撃者から放たれた電気を腕で払う。

 レベル5にしては威力が低い、家電製品によくある省エネとかいうやつか。

 電気使いは戦闘でも省エネとか地球にやさしい。

 

 どうやら省エネモードは終了のようだ。

 雷の槍を宙に生成している。

 よし、と足を床に突っ込んだ。

 

 「アースをとったぞ! おまえの攻撃は効かん!」

 「大神、床は鉄って訳よ」

 「やべっ」

 

 俺は特に問題ない。

 正直なところ、襲撃者の電気では火力が足りていない。

 問題はフレンダにある。

 地を這う電気が見事な脚線美(笑)を伝わって死ぬんじゃね。

 

 「フザケタ真似を……!」

 

 どうやら俺の知的な戦術は襲撃者の怒りに触れたようだ。

 槍が巨大化していた。

 そして、雷の槍が飛来した。

 

 ネタバレ:フレンダは死ぬ。

 

 

 

 

 

 「おっと、かなりビリッときたな」

 

 大神と呼ばれた男の腕が、銀のように輝く白い体毛と鋭利な爪の生えた異形の腕へと変貌していた。腕周りは5倍以上に膨らんでいた。巨大な異形の腕を生やした大神は180を超える長身であったが、酷くアンバランスに見えた。まるで貼りついたかのように、放たれた電気が腕に纏わりついていた。大神が水を払うかのように、その腕を軽く振るう。すると球形となった電気が大神(仮名)が開けた穴へと飛んで行き、消えた。奇妙な光景だった。

 

 「肉体変化(メタモルフォーゼ)に分類されるのに電気を払うとか、相変わらずわけがわからないっての」

 

 大神の背中に隠れて盾代わりにしていたフレンダが呟く。電気の一切が伝わってこなかったことに驚いたためだ。よっこいしょ、と大神は暢気に床に突っ込んでいた足を引き抜いた。足を埋めていた跡は見事に捻じ曲がっていた。そして、情報をすぐに口にするなとフレンダを小突いた。下手したら真っ二つだぞと真顔で言っていたがフレンダは気にも留めなかった。

 その一切の会話を排し、御坂は思考を巡らせる。記憶から検索するが大神という能力者はどこにも引っ掛からなかった。肉体変化は学園都市でも3人しかいない貴重な能力だ、姿と名を変えている可能性がある。警戒すべきは……。

 

 「大体わかった。目的も、どうしてここに来たのかも」

 

 無言で頭を高速で回転させ、行動プランを立てている御坂を見据えて笑みを浮かべながら大神が言った。そして、ゆっくりと前進し始めた。

 

 「その穴の先に集中管理室がある。俺を倒せば一直線……とまではいかないが、他のルートで向かうよりも遥かに早い」

 

 大神が自分のやや斜め後ろの穴を示した。最初に彼が現れた穴だ。御坂が視線をちらりとそちらに向ける。この施設の地図を思い浮かべ、確かに近道であることを理解した。

 

 「逆にそっちは遠回りだが、この戦闘は回避できる。後を追わないと約束する」

 

 その言葉にフレンダが駄々を捏ねるが無視を決め込んだ。戦闘して早く目的地へ向かうか、遠回りして戦闘を避けるか。御坂の脳裏には選択肢による利点と欠点が浮かんでは消えていく。

 

 「近道のために格下のレベル4と戦うか、遠回りをするか。ああ、早く行かなければ今行われている実験で妹たちが死ぬだろうけど。さあ、好きなほうを……おお、さらにビリッときた」

 

 にやにやと実験の話をする大神の姿に苛立ち、電撃を放つが容易く防がれた。御坂は目の前の気に食わないレベル4を打倒し、真っ直ぐ実験を止めることを決意した。抑えていては効かないと理解し、能力に力を込める。その様子に大神が「麦野フラれてやんの」と呟いた。

 

 「私にはアンタと話している時間なんてないのよ!」

 

 疲労から能力は十全といかないまでも、レベル4ならば打ち取れる自信がある。電気に対抗できるような何かに変化しているのであればそれを打ち破るのみだ。薄暗い施設の広い一室、その全てを照らすような眩いばかりの電撃を解き放った。

 

 

 

 

 

 


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