実験室のフラスコ(2L)   作:にえる

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原作:アイドルマスター シンデレラガールズ、他 虹鱒1年目(1章)

 

 金が無い。

 夢や希望は胸いっぱいだが、金がまったくない。

 金がないから腹も膨れないし、やりたいことも何もできやしない。

 当たり前だが、金が無いと生きるのも難しくなる。

 全体的にハードルが高まったようにすら感じる。

 せめて精神面だけでも豊かになっておきたいが、荒んだ生活を過ごしていたため、浮かべている笑みは軽薄である。

 世知辛い。

 

 夢や希望、理想は数多あるし、やる気だって満ち満ちている。

 二度目の人生なので、前世の後悔を思い出せばなんだってやりたくなってくる。

 しかも今は青春を謳歌するべく高校生・リヴァイヴモードである。

 が、無理。

 何もできない。

 だって金がないのだ。

 

 貧乏でも、家族仲が円満だったらまだよかった。

 家族のために頑張る健気な自分に酔えたかもしれない。

 が、それも無い。

 親は幼少の頃から喧嘩するか外でパーリーナイトに繰り出すかである。

 なんとかならないモノか、と媚びた笑顔を浮かべ続けたが結局好転せず。

 中学は生きていくために新聞配達をやるという素敵イベントに見舞われた。

 

 で、高校入学とともに二人とも俺を置いて蒸発してくれました。

 胡散臭い笑みだけが癖として残ったという不幸もセットだ。

 親戚に盥回しになるかと思いきや、両親は嫌われてたので俺も嫌われて誰も後見人になってくれない雰囲気。

 たぶん、媚びた笑顔もマイナスポイントだったね。

 俺も高校生になったということで歳が結構いってるから施設も微妙だし、孤独に生きていく線が濃厚になると、歳とった母方の祖父母が引き取ってくれることに。

 金は無いが穏やかな気質の祖父母だった。

 質素で素朴だが、平穏な日々を送れるかと期待したが無理。

 祖父が死亡、高齢と心労が祟って祖母が入院というコンボが発生。

 

 華の高校デビューから2か月でバイト漬けである。

 夢もキボーもいっぱいだが、先が見えない人生となってしまった。

 だって金がないんだ。

 しかたないじゃないか。

 

 

 

 

 

 高校3年、マジで限界を感じる。

 親が残していった借金を返そうとするも、法外な金額で弁護士に泣きついて解決。

 と、見せかけて弁護士への相談料とか諸々が捻出できず返済を月賦にしてもらえることに。

 なので返済と学費と生活費のために、今はコンビニで働いているのだが、そろそろ死ぬんじゃないかと思っていたり。

 基本的に平日は17時から22時までコンビニ、寝る、高校、放課後にお見舞い、バイト、というサイクルだ。

 土日は学校に行っている時間をコンビニバイトに充てている。

 最悪なのはコンビニはコスパが良くないのと税金が取られることか。

 入院費は祖母の年金と雀の涙程度の保険などか。

 奨学金は借りれることには借りれるが、返せる展望がないので手を出さない。

 質素に節約していればまだ問題ない、はず。

 高校は辞めると人生の選択肢が塞がりそうなので却下だ。

 

 そんな日々だが、放課後とかに遊ぶ予定を立てているクラスメートの声とかを聞くと殺意の波動に目覚めそうになる。

 予定を俺に聞くんじゃない。

 スマートフォンなんて持ってない。

 ゲームなんてやってない。

 漫画なんて読んでる暇が無い。

 アイドルなんて野外で行われているライブバトルをやってる人たちくらいしか知らんがな。

 断る度に空気が読めないだとかウケるとか言われ続けて心が荒む。

 話しかけるのもやめてほしい。

 頼むから植物のように穏やかに過ごさせてくれ。

 

 ちょいちょい絡んでくる連中をいなし、放課後のお見舞いへ。

 途中でライブバトルをちょっと眺めていく。

 娯楽のほとんどない生活でのちょっとした清涼剤である。

 まあ、アイドルを目指している女の子が歌って踊ってスカウトマンへアピールしているだけなのだけれど。

 前世と違って、アイドルという職がこの世界では物凄いフィーチャーされている。

 アイドル志望の男女はかなり多いし、テレビだって専門チャンネルがあるらしいし、グッズの売り上げも半端じゃないらしい。

 聞いた話ばかりなので確かなことは何もわからんが、まあ、アイドルという職が輝いている世界だ。

 俺の媚びた笑顔と違って、ライブバトルをしている女の子たちは眩いばかりの笑顔を浮かべている。

 憧れるし、嫉妬もする。

 純粋に見ていたくなるような、見ていたくないような。

 もうなんだかな、凄く死にたくなる。

 死んだら祖母がヤバいので死なないけど。

 祖母がいなくなったらダメかもしれん。

 

 今までパフォーマンスを行っていた女の子と入れ替わるように、またアイドル志望の女の子が現れた。

 が、俺のテンションが駄々下がり。

 笑顔が汚い。

 もういいや、こんなん見ててもしょうがない。

 媚びてる感じが読み取れてしまう。

 同族嫌悪というやつだろうか。

 あんな媚びてるビッチを見てると精神疲労がたまってしまう。

 媚びッチとか今日は運が悪い。

 

 溜息つきながら見舞いへと向かうことにする。

 なんか黒いおっさんがティンと来たとか言って話しかけてきて、メルアドを聞かれたがスマホは持ってないのでスルー。

 ホモに好かれるとか、今日はマジで運が悪い。

 媚びッチにホモのコンボとは、たまげたなあ(溜め息)

 

 

 

 翌日もちょいちょい絡んでくるグループを受け流してお見舞いへ。

 絡んでくるのは複数人の男女でつるんでいるグループなのだが、恋愛とか友情で愛憎渦巻いているに違いない。

 俺の見た感じだと、男子全員が一人の女子にタゲっているが、タゲられている女子にはそんな感情は無いようだ。

 で、男子たちはなかなかイケてる部類に入る連中なので、ハイエナの如く女子が寄ってきてズッ友アピールをし続けないと分裂しそうなグループもどきが形成されている的な。

 

 ちなみに一番人気の女子は秋田から来ていて、アイドル志望らしい。

 高1のときになんか聞いた記憶があるような、ないような。

 一番忙しい時期だったからそこらへんがかなり怪しい。

 名前は、えっと……そう、トキだった気がする。

 激流に身を任せる名前だったので間違いない。

 なんで俺は名前も知らない奴らのこんなどうでもいいことを分析しているのだろうか。

 青春を謳歌しているのが近くにいると思うと死にたくなる。

 もうマヂ無理。。

 夢に溺れて溺死したい。

 

 なぜか近くで形成されるグループで、ちょいちょい絡んでくる連中の話を聞いた限り、進学を考えているらしい。

 ジョインジョイントキィは大学に行きつつアイドルを目指すとか。

 激流に身を任せる系アイドルか……売れませんな。

 それに合わせても男子連中もアイドルになるとアピールし、頑張ろうぜとかなんとか。

 トキは一緒に頑張ろうねと鮮やかな手腕でそれらのアピールを流して見せ、なぜか俺へと進路の質問へ。

 それを俺は言葉を濁して乗り切る。

 これ以上注目されると男子の視線で殺されそうだし。

 で、それに呼応した女子もメンチ切ってくる。

 やめてください、死にたくなります。

 

 今はまだ新学期が始まったばかりだが、内心では就職かなと思っていたり。

 進学だと国立くらいだが、未来への希望が枯渇しつつある。

 祖母も先行き長くなさそうだ。

 このままバイトでかつかつの生活を続け、ゆっくりと現世からフェードアウトでもいいかもしれん。

 続けてもいいことないし。

 もしかしたら来世で幸運が待っているかもしれん。

 ないか。

 落ち込むわぁ……。

 

 癒されたいとばかりに連日行われているライブバトルへ寄り道。

 初っ端から昨日とは違うが媚びてる系が歌ってた。

 テンション駄々下がりで、死にたくなった。

 もう今日はいいや、見舞いに行こう。

 なんて決意したのもつかの間、俺の進路を阻むように昨日の黒いおっさんが出現。

 ホモはやめろぉ!

 

 おっさんは芸能関係の人らしい。

 最近、そういう詐欺が横行しているので金のない俺は華麗にスルー。

 詐欺に引っかかるのが許されるのは、懐に余裕がある者だけだ。

 が、おっさんは頑なに付いてくる。

 全力で走るとおっさんも必死に付いてくる。

 振り切ったことを確認してやったぜと病院へ入ろうとして、おっさんが高そうな車から降りて追いかけてきやがった。

 ホモがランクアップして不審者になったぞ!

 なんで変なのにばかり絡まれるんだ、死にたい。

 

 

 

 さすがに病院で暴れられて祖母が死んだらヤバいので、話を聞くことにした。

 で、おっさんに連れられ、大きなビルへ。

 よくよく話を聞いてみると、この不審者のおっさんはここの社長らしい。

 アイドルを養成する企画があって、その候補を探していたらしいが、なぜか俺がティンと来たらしい。

 マジかよ、俺もアイドルか。

 成功したら三食食べられるかしらん。

 なんて思ってたが、現実はそう甘くないのだ。

 

 アイドルの企画だがシンデレラプロジェクトというようだ。

 そう、女性用である。

 俺を見て事務とかそういった裏方としてティンと来たとか。

 なんて嬉しくない一目ぼれだろうか。

 話のメインだが、事務やらないか的な感じである。

 高校があると断ろうとしたら、試しにバイトでどうかと提案された。

 ここのビルは遠いんだよなぁと否定的な感情を持っていたが、土日のどちらかまたは両方で都合がいいとき、ついでに交通費を出してくれるらしい。

 で、時給は1050円。

 コンビニは850円だが近場だし廃棄品でご飯を得られるしなぁと悩んでいると、昼食も付けてくれるという。

 

 ……社長、私を奴隷と御呼びください(決め顔)

 

 

 

 

 

 

 

 

 1年目 4月

 

 時間があるときに研修とか参加してみた。

 メディアに向けた活動が多いので、休日は不定期、土日も出社することが当たり前、みたいな。

 研修内容は様々だ。

 この会社は多くの俳優や歌手が在籍しており、それらに付いて仕事をメモッたり、挨拶周りしたりと付き人状態である。

 さらに緑の事務服がとても似合っている千川ちひろさんという方に事務仕事を教えて貰ったり。

 同期だと紹介された武内さんの眼光に殺されそうになった。

 あ、昼食の社食などは大変美味しかったので、土日は絶対来ようと思ったわけで。

 割が良いので平日のバイトも減らせそうだし。

 問題は家賃と弁護士への月賦が抉りにくることくらいか。

 ま、まあ、生活は向上しているので問題ないっしょ。

 

 他にも新入社員はいるのだが、新しく立ち上がったアイドル部門では俺と武内さん、ちひろさんがメインらしい。

 社長がそう言っていた。

 ……え?

 俺、アルバイト。

 武内さん、ぴかぴかの新入社員。

 ちひろさん、事務員。

 え?

 ちょっと意味がわかんないです。

 

 

 

 

 

 5月

 

 仕事用のスーツを買ってもらった。

 しかも誕生日だったのでかなりいいスーツを奮発してもらってしまった。

 あと腕時計とかネクタイとかそういった諸々も。

 学ランでマネージャーの真似事しつつ、テレビ局とかラジオ放送局だとかで挨拶はよろしくないと判断された、社長に。

 結構受けが良かったんだけどね。

 あとは社員用スマホが配布されたことか。

 俳優のマネージメントなどを行っている先輩に尋ねられて持ってないという話が4月にあったが、なぜか5月に渡されるということに。

 予定よりも遥かに俺の顔が広くなったのが原因らしい。

 当初は顔見せ程度のはずが、何故か連絡先を聞かれまくるようになってしまった。

 で、俺はスマホを持ってないので、面倒見てくれている先輩が連絡係状態になったのだ。

 書類の関係で5月に配布となったとかなんとか。

 なるほどなー。

 

 ついでにどうでもいいことなのだが、パソコンがめっちゃ難しい。

 前世ではブライドタッチくらい出来たが、今は全く出来ない。

 人差し指で押しているレベル。

 頭の中では理想像があるが、現実が追い付かないというもどかしさ。

 イライラが半端ないです。

 

 来月からは俺も土日のみだがマネージャーとして働くように言われた。

 俺が緊張しないように同世代で、仕事が出来る子と組むらしい。

 事務として雇われた気がするのだが……いや、もういいや。

 

 

 

 

 

 6月

 

 俺がマネージャーをすることになったのは岡崎泰葉(おかざきやすは)という少女だった。

 子役をやっていて、これからはモデルとか演劇のちょっとした役どころをメインにする予定だとか。

 調べてみると芸歴が長すぎィ!

 完全に先輩なんですけど。

 しかも俺や武内さん、ちひろさんを優に上回るレベル。

 社長の変な気遣いが裏目に出ている気がしまくってどうしようもない。

 

 まずは挨拶だ。

 胡散臭くて媚びていて軽薄という三拍子が癖となっている俺の笑みだが、意外と役に立つことがある。

 笑わないで真剣に挨拶をすると、「コイツいいやつじゃね?」みたいな印象を与えられる。

 わかりやすく説明すると、不良が子犬を助けることで生じるギャップ論と同じである。

 締めるところさえ締めておけば、何の問題もない。

 へらへらしたまま初対面を迎えて真面目モードに突入する場面がないと、バッドコミュニケーションなんですけどね。

 諸刃の剣というやつか。

 そんなん要らないからプラマイゼロで真摯な顔が良かったのに……。

 

 真面目な顔をして岡崎さんと挨拶する。

 会社でちょくちょくすれ違うことがあったので、まあ、半端な顔見知り的なやつだ。

 へらへらしてないのでちょっと引かれるという事故が発生したが、華麗にスルーだ。

 握手しようとしたら光のない瞳で「経験では負けない」とか「貴方から教えられることはありません」とか言われた。

 こちらのフロイラインは何か勘違いしているようだ……。

 溜息ついてへらへら笑ってしまうね!

 岡崎さんが眉間に皺を寄せたが構わない。

 言わせてもらおう。

 

 俺が生徒側で、岡崎さんが教育係だということを説明し、ご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いします!と締める。

 無駄に通る声で真面目に。

 毒気が抜かれた岡崎先輩。

 面倒を見てくれていた先輩が「お、おう」と頼りなさ気に呟いた。

 

 これは、パーフェクトコミュニケーションだろう。

 完全無欠だわ。

 一部の隙もない。

 

 

 

 岡崎先輩と顔合わせが終わったので、マネージャー業の開始である。

 ちひろさんに渡された予定表通りに現場に行って諸々やって帰る的な仕事だ。

 欠点は俺が車の運転が出来ないので電車で行くことか。

 流石にずっと電車通いはまずいので、夏休みには免許を取りに合宿にぶち込まれる予定である。

 なお研修扱いなので給料が出て、費用は会社持ちだとか。

 大変お得である。

 俺はアルバイトだが、待遇が良くてうれしいです☆

 

 テレビ局に着いたら守衛さんに挨拶し、手続きしてからスタジオへ。

 今日の岡崎先輩の仕事はドラマだ。

 いじめられている主役とは距離を取って平穏に過ごすクラスメート役だとか。

 なるほどなー。

 

 岡崎先輩を連れて挨拶周り。

 挨拶の仕方を教えてくれようとした岡崎先輩をへらへらと見事にスルーして、局長・編成・GP・P・CD・AP・D・ADの順に挨拶していく。

 で、岡崎先輩をスタイリストさんに任せて自由時間。

 スルーされた岡崎先輩が涙目でぷるぷるしてて可愛かった(粉みかん)

 

 賄賂もどきのお土産をスタッフさんに渡してADさんたちに混ざって準備中の仕事を手伝う。

 疲労と不定期な睡眠時間の連続で死にそうなADさんに混ざるへらへらした俺というカオス空間が形成されたが、なかなか悪くない。

 待機中のADさんとかも集まってきて、半ば遊んでいる雰囲気で準備を終える。

 Dさんが新入りのADさんにゴムパッチンを喰らわせるも、ドラマでは使わないという悪乗りも発生したが、雰囲気は良くなったんじゃないだろうか。

 あとは他のスタジオで用意された罰ゲーム用のノニジュースをみんなで飲み干すとか、そんな感じである。

 ノリノリで一気飲みしたAPさんがジュースを噴霧するというアクシデントが発生したが、些事だ。

 高校生の休み時間か何かだろうか。

 疲労で死んだ目をしたADさんが、特殊な業界すぎて私的な友達が減って遊ぶ機会がないのでこういった時でないと息抜きできないとか呟き、倒れる様に眠った。

 息抜き>睡眠もあるということか。

 テレビ業界の闇は深い……。

 

 

 

 眠ったADさんと入れ替わるように岡崎先輩が準備完了。

 続々と他の出演者の方たちも現れたので、挨拶へ向かう。

 売れている役者の方だったり、抜擢された売れない俳優だったり、文化人だったり、アイドルだったりと様々だ。

 

 時間が余ったので、同じ芸能プロダクションの765プロの音無さんと話す。

 秋月さんの付き添いで来たという。

 話を聞く限り、秋月さんはアイドルやってプロデューサーをやって事務もやっているらしい。

 なにこれヤバい。

 超人か何かだろうか。

 零細プロダクションの悲哀らしい。

 そもそも秋月さんはプロデューサー志望で入ったのに、アイドルがいなかったから自分で両方やってるとか。

 ミラクルを起こし過ぎじゃないですかね……。

 

 撮影が始まったので、真面目な顔で見守る。

 流石にへらへら笑うと良くないので真摯モードだ。

 紳士の俺なら真摯な態度くらい余裕なのですよ。

 目つきが悪くなって眉間に皺が寄るのが欠点だが、それくらいは許してほしい。

 

 ドラマ撮影の推移を見守る。

 ぶっちゃけ、俺はドラマが好きじゃないので早く終われと願うのみだ。

 演者の半分以上が人形っぽい感じがするのでマジで好きじゃない。

 岡崎先輩も演技が人形感があるので俺は好きじゃない。

 まあ、マネージャーポジションだし好き嫌いはどうでもいいか。

 でも、配役に困ったときに呼ばれるような万能性溢れる俳優の方の演技は嫌いじゃないぜ。

 

 

 撮影が終わったので、挨拶もそこそこに撤収。

 急いで作業をしているのを邪魔するほど俺は空気が読めないわけじゃないのだ。

 岡崎先輩が俺の機嫌が悪かったと言ってきた。

 ドラマ好きじゃないしなぁと言っておいたが、納得できていないらしい。

 次いで演技はどうだったか聞かれた。

 良くなかったです……とは言えないし。

 評判はよかったんじゃないかと濁しておいた。

 やっぱり納得してない様子。

 俺はドラマが好きじゃないし、そもそも評価できるほど目が肥えてないからしょうがないね。

 

 

 

 とりあえず、アイドルとか俳優に詳しくなるためにテレビっ子にジョブチェンジ。

 そのせいで学校ではアイドルオタク状態だが、身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあるのだ。

 最低でも岡崎先輩の共演者の方々が映っている映像には目を通しておかないと。

 最近のテレビはすごい、4倍速とか実に便利だもの。

 

 

 

 

 

 7月

 

 岡崎先輩も学校があるので仕事はほどほどだ。

 というか、スケジュールが詰まるくらいに仕事のオファーがないのだけれど。

 仕事の演者はDさんとかADさんが大雑把に見繕っているので、コンスタントには入ってくるけど。

 

 ビデオカメラを持って岡崎先輩を追い回す。

 宣伝として、月に1、2回ほどホームページでアップするのだ。

 日常を生きる岡崎先輩とか昼食をとる岡崎先輩、趣味に没頭する岡崎先輩などだ。

 表情が硬いというか、目が生きてないので評判は良くないけど。

 俺の見立てだと岡崎先輩はこの仕事が好きじゃないのかもしれん。

 続けているので、もしかしたら好きなのかも。

 ……惰性の可能性も有るか?

 

 

 

 仕事が早めに終わったので、俺の我がままでライブバトルを見る。

 ぐぬぬ……。

 全体的にいまいちだった。

 それでもスカウトされる女の子もいるから、なかなか難しいものがある。

 で、それを見ていた岡崎先輩が、なんか羨ましそうなオーラを放ってた。

 珍しいこともあるものだ。

 話を聞くと、自分にしかできないことがあって羨ましいとか。

 

 なんか岡崎先輩がヤバい。

 自分探しの旅に出ていきそうだ。

 そもそも自分にしか出来ないことは世の中にないということを知ってほしいわ。

 その中で、何がやりたいかが重要となってくる……ような気がする。

 ごめん、俺もよくわからん。

 まあ、岡崎先輩が熱中できるモノが見つかるまで一緒に手伝うからと告げながら誕生日プレゼントにカチューシャを渡す。

 似合うからこれで我慢してくだしぁ。

 自分探しはやめてね。

 マジでやめてね。

 見つからないから、そんなもの。

 

 

 

 学校では相変わらずアイドルオタク状態である。

 今の俺って「このバイトは俺がいなきゃ成り立たない……」みたいな社畜モードに入ってるんじゃ……。

 いや、やめよう。

 金の卵を産む鶏の腹を引き裂いたような結果しか待ってない気がする。

 

 最近、俺に絡んでくるグループについて気付いたことがある。

 それは、トキが話しかけてこなければシカトし続けてくれるということだ。

 トキが学校を休んだときに気付いた。

 まあ、気付いたことに意味なんてないんだけど。

 アイドル志望の女子の前でテレビ関係の雑誌を広げるとか、断頭台へと自ら首を差し出すスタイルだし。

 

 とりあえず、トキが休んだときは(もっと長引けと)祈ったりした。

 ちなみにトキに祈ってたのがバレた。

 不意打ちで休んでいるときに何かなかったか的なことを聞かれたのでトキについて祈ってたと言ってしまった。

 なんというか、笑みが出なくなるほどに気まずい感じになった。

 

 

 

 終業式→夏休み→自動車学校での合宿というコンボへ。

 教習所のほうが三食付いてて食生活が安定するとか、どういうことなの……。

 そんな感じでぬるぬると二週間で合宿を終え、免許取得。

 やったぜと喜んだのも束の間、学校に免許を預かられた。

 問題を起こすと互いに困るから的な感じだった。

 

 なん……だと……?

 

 

 

 

 

 8月

 

 夏休みなので連日出勤できるということに感動しつつ、タイムカードをカシャン。

 すでに待機していた岡崎先輩に朝の挨拶とともにおかえりも言われる。

 ツン期だった岡崎先輩がデレ期に……と驚愕したら頭を軽く叩かれた。

 全く、冗談が通じない人で困るわぁ。

 

 まあ、岡崎先輩の謎のデレ期は置いておいて、何故すでにいるのかという話へ。

 普段は事務所を出る30分前に来るが、今日は朝一である。

 何かあったのかと邪推してみる。

 台本の読み合わせがしたいので手伝って欲しいとか。

 デレ期だ!

 誰がどう見てもデレ期だ!

 頭を軽く叩かれた。

 

 親密度が上がったと喜びつつ張り切って本気出したら岡崎先輩が涙目でぷるぷるしてた。

 可愛かった。

 他の部署の人に代役に誘われたが岡崎先輩のマネージャーが忙しいので断った。

 

 

 

 

 

 連日詰めていると結構暇な時間が出来たりする。

 事務の手伝いとかもしているが、それでも暇ができる。

 そんなときにアイドルのダンスとか真似してたらどうしてなかなか上手くいく。

 暇そうな岡崎先輩にドヤ顔でキレキレなダンスを披露。

 涙目でぷるぷるしてた。

 くぁいかった。

 

 

 

 

 

 武内さんと打ち合わせ。

 今のうちに俺と武内さんは基礎を積んで、来年からアイドルを養成して必要なものを揃え、再来年でメイン企画であるシンデレラプロジェクト、という流れの展望を話し合う。

 細かい部分は追々詰めるが、今は予定を立てておく。

 スタジオなどの施設やトレーナーなどを抑える必要があるが、アイドルの素養を見ないと出来ることは限られるし。

 施設といえば、大浴場とかサウナがあるんだ、この事務所。

 すごいよね。

 便利過ぎて夏休み入ってから一度も家に帰ってない気がするが、気のせいということにしよう。

 仕事が終わったらお見舞いに行って会社に帰ってきている気がするが、気のせいだ。

 食費、光熱費が浮くし、今のうちに貯金しておきたいし。

 

 途中からちひろさんも交えてドリンクの成分の都市伝説を話して、勉強してた岡崎先輩に感想をキラーパス。

 涙目でぷるぷるしてた。

 可愛いかった。

 ちなみにちひろさんも涙目でぷるぷるしてた。

 可愛かった。

 

 

 

 追記しますが、ドリンクの成分に問題はありません。

 寝ないで済むとか、テンションがハイになるとか、そんな覚せいするような成分は無いのです。

 経費で落ちるので、時々お世話になってます。

 

 はい、ちひろさま。

 わたしはどりんくをのめてしあわせです。

 

 パラノイアごっこしてたらちひろさんに叩かれた。

 

 

 

 

 

 パソコンを連日操作していたので、ブラインドタッチができる様になってきたよーと遅いキータッチをドヤ顔で岡崎先輩に見せる。

 岡崎先輩もできるらしいので競争しようという話になった。

 音が遅れてくるかの如き速さで入力していたら岡崎先輩が涙目でぷるぷるしてた。

 かわいい。

 

 

 

 

 

 岡崎先輩の台本に立ち位置や相手への気遣いなどちまちまとした要項を書いていると、社長に呼ばれた。

 今日も社長は黒い影のようで、なんというか捉えどころがない。

 この前、秋月さんの引退ライブを経費で見に行ったのがバレたのだろうか。

 それとも961プロのライブを見に行ったのがバレたのだろうか。

 DVDや雑誌も買いまくったのがダメだったか……?

 というか研究とかやりすぎて、何がダメかわからん。

 費用を請求されたら死ぬしかないじゃない!

 戦々恐々と沙汰を待っていたが、特に怒っている様子は無い。

 むしろもっと勉強すると良いと推奨された。

 マジか。

 武内さんも一緒に連れて行って、オタグッズも買わなきゃ(白目)

 

 で、なんで呼び出されたかというと、ティンときた女の子を見つけてきたかららしい。

 ちょいちょい子役などで経験を積ませて、その先は自分で決めさせてもらうとか。

 なるほどなー。

 顔合わせは明日らしい。

 

 

 

 翌日、事務所で目覚め、歯を磨きながらちょっとした雑務を処理する。

 その後朝食を摂って、アイドル研究。

 出社してきた人たちに挨拶し、武内さんとちひろさんを見送る。

 そして9時になったらタイムカードをカションとしていると岡崎先輩が出社。

 そのまま岡崎先輩と昨日作成した台本を用いて読み合わせや、休憩時間での話題などを用意しておく。

 話題に関しては使わなくてもいいが、話に詰まったら気まずいだろうから準備した。

 得意なこととか趣味だとか、ちょっとしたことだが、話の種になりやすいだろうし。

 で、台本の読み合わせを軽く行い、岡崎先輩の夏休みの宿題を手伝う。

 まあ、詰まったところをヒント出すだけだし、中学なら俺でも問題ないね。

 午後から岡崎先輩の仕事はあるが、それまでは自由時間となっている。

 せっかくなので俺自身の宿題もやっておくかとテキトーに空欄をランダムに飛ばして解き、空いている部分には汚れた消しゴムで解いた感を演出。

 無駄な時間は短縮するというエコ技術を披露。

 なお岡崎先輩にジト目で見られるというご褒美が発生。

 かわいい。

 

 11時過ぎに社長に呼ばれたので社長室へ。

 ティンと来た子を紹介してくれると聞いていたので、そのことだろう。

 失礼します、と入室すると社長と少女が待っていた。

 橘ありすさんという名前で、小学4年生らしい。

 方針は昨日の通り、とりあえず挨拶してから事務所案内をする。

 途中で名前で呼ばれたくないみたいなことを言っていたが、俺は女性の名前をいきなり呼ぶ人間じゃない。

 ちっひはあれよ。

 本人から許されているから問題ない。

 ちひろさまはめがみです!

 

 

 

 軽く案内を終え、岡崎先輩とも合流して仕事に行く前に昼食をとっておく。

 前髪ぱっつんで短髪垂れ目の岡崎先輩と背中が隠れるほど長い髪で吊り目がちの橘さん、比べるとかなり相反している。

 社長は俺を何処へ向かわせようとしているのか謎すぎて困る。

 マジで困る。

 話を聞くと、さらに相反しているのがわかる。

 岡崎先輩は到達点が不明のまま自由落下状態、橘さんは歌や音楽の仕事のために今は力を溜め込む的な。

 まあ、なんでもいいけどね。

 俺は手伝うだけなんで。

 

 岡崎先輩が仕事の時間となったので、スタジオへ向かう。

 橘さんもどんな仕事をしているか見学したいだろうし、半ば強制的に同伴決定。

 来年の春からは車で送ることができるからと告げて電車に揺られる。

 ちなみに未だに俺は電車の切符を買うのが苦手で、都内の大きな駅だと迷う。

 乗り換えは苦手。

 

 スタジオ入りしたら挨拶周りついでに橘さんの顔見せを行って、必要そうなら使って欲しいとオブラートに包んで伝える。

 スタッフへの差し入れを俺が、演者さんたちには岡崎先輩と橘さんで持っていく。

 俺は他のマネージャーさんとかにも挨拶した後にADさんの元へ。

 準備は終わっているが、他の番組で使う罰ゲームをシミュレーションしていたらしい。

 俺も折角なので、どんぶり白米を持って商店街に行き、おかずを集るみたいな案を出しておいた。

 商店街の許可も面倒なので楽屋とかどうだろうという話になった。

 罰ゲームを受ける人が大御所を怒らせないか祈っておこう。

 

 橘さんが戻ってきたので、連れて細々とした挨拶周り。

 子供扱いが不満らしいが小学生なんてそんなものである。

 むしろ俺ですら子供扱いだし。

 お菓子くれるからめっちゃ嬉しいけどね。

 岡崎先輩にもお菓子を貰った俺の笑顔は眩しいとか言われた。

 甘味に飢えてるからしょうがないわ。

 

 もらった苺大福がうまい。

 橘さんも表情が和らぐレベル。

 かわいい。

 

 苺大福を二人で食べていたら秋月さんに声をかけられた。

 プロデューサーとして働いているらしい。

 アイドルいなかったじゃんと思ってたら、765プロの社長がティンときた人たちに声をかけたり、募集したりとかしていたらしい。

 これから集まった中で3人を選んでグループ活動させるとか。

 今日は雰囲気を感じるための見学にきているらしい。

 なるほどなーと感心しつつ、互いに頑張りましょうとか引退ライブ見に行きましたとか社交辞令を交わしておく。

 別れたら橘さんが苺大福を全部食べ切ってしまっていた。

 おぅふ……。

 久しぶりに凹んだ、シニタイ。

 

 

 なんとか苺大福消失から復帰し、岡崎先輩の仕事を険しい顔で見守る。

 橘さんが若干引いている気がしないでもないが、笑う場面ではないので許してほしい。

 撮影が一番楽しくない。

 ずっといる必要もないが、信頼関係を結んでいる期間なのでなるべく一緒にいるべきだろう。

 これが人間を相手にする仕事の難しさよ。

 橘さんはちょっと楽しそうだった。

 ミステリ好きなのだろうか。

 

 

 帰る頃には橘さんは岡崎先輩に羨望を浴びせるようになってた。

 俺?

 橘さんが誕生日祝いに買って貰ったというタブレットを触らせてもらってはしゃいでたら呆れられましたけど?

 

 

 

 

 今後の方針として、橘さんは歌手メインのアイドル寄りを目指してそうなので、そういった方面のトレーニングメニューにしてみた。

 身体の成長を考えて内容は軽めで柔軟性や可動域を広げるようなメニューだ。

 あとはボイスレッスンとか。

 仕事は少な目でトレーニングが多目である。

 岡崎先輩は演技指導とかが多いが、体を動かすメニューももちろん行っている。

 問題は、俺もなぜか参加していることなんだよなぁ。

 俺のキレキレなパフォーマンスで何度岡崎先輩と橘さんをぷるぷる涙目にすればいいのだろうか(溜め息)

 

 

 

 

 

 9月

 

 夏休みの収入で弁護士への支払いを終えることができた。

 ありがとう、346プロ、社長、そして岡崎先輩。

 コンビニバイトも若干減らせそうである。

 嬉しい限りだ。

 生活に余裕が出てくると、精神的にも余裕が出てきてしまった。

 まあ、なんだ。

 ちょっと失敗した。

 アイドル雑誌などを読破していたら、アイドル志望のトキに助言を乞われてキレキレのダンスとかちょっとした発声方法を披露した。

 クラスで浮いてしまったのだ。

 浮かれてた。

 完全に浮かれてた。

 が、よく考えると高校なんてどうでもいいか。

 絡まれるという面倒ごとから解放されたし。

 

 トキにちょっと優しくなったり。

 

 

 

 仕事面では岡崎先輩の先月の仕事がかなり多かったくらいか。

 今月からは学校もあるし安定に向かっている。

 また、懇意にしているDさんやADさんがドラマやちょっとしたイベントで良い役を用意できそうだとか。

 来年も仕事があるようで有り難いことである。

 

 

 

 

 

 10月

 

 岡崎先輩の仕事に付いて行ったり、レッスンを見守ったり、橘さんが持ってきたゲームをして過ごした。

 そんな中、ちひろさんが持ってきた人生ゲームを息抜きにやろうという話になった。

 武内さんも呼んでやったら、俺が最下位だった。

 堅実にプレイしていたはずなのに凄まじい借金までこさえてしまった。

 気まずい空気が流れる中、人生ゲームはロッカーに封印された。

 

 やけくそ気味にエナドリを5本くらい一気飲み。

 

 

 きおくがとんだ。

 

 

 

 

 

 11月

 

 765プロの竜宮小町が破竹の勢いでアイドルランクを上げている。

 アイドル業界、というかテレビ業界は水物らしく、1年で簡単に流行廃れが変動するから一気に駆け上がるのも珍しくない。

 ただ、売れるための労力というのは馬鹿にならない。

 聞いた話だと765プロは人手が足りていないらしいので、竜宮小町に極振りしているっぽい。

 他のメンバーのケアに手が足りてないのではないだろうか。

 まあ、他の事務所なんでどうでもいいけど。

 

 

 

 特筆すべきことは何も起こっていない。

 いつも通りである。

 ちょっとしたことと言えば、橘さんにぷよぷよでフルボッコにされたくらいか。

 2連鎖、最大で3連鎖だと勝負にならないとかちょっと鬼畜ゲーすぎんよ。

 岡崎先輩と接戦を繰り広げてしまった。

 

 

 

 

 

 12月

 

 いつも通り過ぎて特に何もないわけで。

 11月下旬から12月上旬にはテレビ局がクリスマス特集とか収録しているので、空気がクリスマスである。

 幸せムードとか見ていると死にたくなる。

 気を紛らわせようとライブバトルを眺めにいったら、会場になっている広場にはイルミネーションが設置されており、カップルとか乱立していて死にたくなった。

 歌って踊っているアイドル志望の皆様方も荒んでいる感じが半端ない。

 死にたい。

 ひと月に一度か二度くらい見る機会のあるウサミン星人が、ちょっと目が死んだ雰囲気で歌っていた。

 普段はかなりいい感じの笑顔をメイド服とセットで届けてくれるのに、今日は死んでますがな。

 俺が高校に入ってからずっとウサミンはライブバトルに出ていた気が……いや、俺の気のせいだろう。

 とりあえず心が荒むのもわかる。

 俺もカップルに呪詛を撒き散らしたい。

 

 あーウサミンいいわぁ。

 かわいいなぁ。

 なんか限界を感じつつも諦めきれない空気が、すごくいい。

 聞いていると傷のなめ合いに近い感じになるが、癒されすぎて困る。

 スカウトの権利を貰ったらウサミンに声をかけにいこうかしらん。

 でもアイドルをスカウトできるの来年の春以降になりそうだし、そこまでフリーでいてくれないかなぁ。

 

 

 

 

 クリスマスが近づき、街はメリーメリーな空気に包まれていった。

 やっと冬休みだと思ったらなんだこれ、死にたい。

 武内さんは動じていないという鋼鉄の精神持ちである。

 ちっひからは諦めが感じ……大人の余裕が感じられた。

 どうせやることも無いので事務所に来年まで詰めていよう。

 事務所自体は大掃除とかもしたが、基本的に年中無休だ。

 電話番だってやるし、書類整理だってお手の物だ。

 スケジュールだって他の部署の物を作るし、プレゼン用の資料も用意しちゃう。

 仕事に逃げたために片っ端から処理してたら年内で片付ける必要のあるものはなくなってしまった。

 

 確かに無くなったのはいいことかもしれないが、今日はちょうどクリスマスだ。

 手持無沙汰で死にたくなる。

 テレビとかピンクの雰囲気がヤバい。

 やめてくれ、幸せオーラは荒んだ生活を過ごした俺にはかなり効く。

 武内さんとちひろさんの仕事ぶりを横目にソファーでふて寝してたら岡崎先輩と橘さんがケーキを買ってきてくれた。

 ジト目を喰らったが今の俺にはご褒美です。

 

 ちひろさんがコーヒーを淹れてくれたので、必死に冷ましながらケーキをパクつく。

 温かい食べ物を食べないで成長したので、猫舌が半端ない。

 あと甘味が圧倒的に足りない状態で生きてきたので甘いものが超好き。

 ついでに辛い物、苦い物が嫌いとなってしまった。

 俺は女子か。

 反して、舌の性能が大して良くならなかったので、大抵の物なら美味しく食べられるのが利点だろうか。

 

 お礼に青いリボンをあげようじゃないか。

 スタッフさんに経費で買ったお菓子を配ってたらお礼でギフト券を貰って得た物だ。

 クリスマスプレゼントっぽいし、悪くないっしょ。

 

 あ、ちひろさんには何もないです。

 

 

 




--

オリ主
二度目の人生を送っている高校3年生。
コンティニューしたために死ぬまで我慢できることと真っ当な倫理観を持っているのが最大の不幸。
個性は金が無いこと。
死ぬまで働くことができるので、突然過労で死ぬ恐れがある。
ライブバトル観戦が唯一の趣味。もちろんパンピーでも無料で見られるためである。で、アイドルにちょっと憧れがあったりなかったり。

社長
かりんとうよりも黒い。オリ主にティンときたらしい。

AD(アシスタントディレクター)
ストレスが半端ない仕事をしているとどこかで息抜きがしたくなるらしい。
番組によって準備中に遊ぶことも可能で、オリ主や演者が混ざることもあり、セットを使った唐突なモノボケを始めたりする。

D(ディレクター)
最近、ADの流出が止まらないという悩みを抱えている。
ADと触れ合うことで流出を食い止めようとして渾身のモノボケを考え続けるようになった。
中には真面目な人もいるが、ネタは最低一個は持っている。
忙しすぎてADとDの境界があいまいになっていたりする。

AP(アシスタントプロデューサー)
Dと内実はだいたい一緒。
番組のスケジュールとか予算管理とかする人だが、ノニジュースを噴霧する人がいたり、あつあつおでんを冷やさずに食べてカツラを落す人がいたりとバリエーションが豊富。

岡崎先輩
好感度が上がったため、名前で呼ぶことが可能となった。
8月に自分は人形ではないのだとやりたいことを模索し始めた。
2月以降には身近な人(オリ主)を笑顔にするのだとアイドル志望へ。
が、オリ主が勝手に復活して空打った感もあるが、それもまた良しである。

橘さん
ぷよぷよでオリ主をフルボッコにした。
貰ったリボンで髪を結うようになったが、人前ではアリス感が増したとぷりぷり怒っている。
が、一人になると鏡越しにリボンを眺めているので満更でもない様子。

トキ
アイドルオーディションのため、ちょくちょく欠席していた。
諦めかけていた時に、へらへらと笑っているオリ主が真剣に(自分の合格を)祈ってくれていたのだと知り、精神的な成長を見せ始める。
そして、受験という憂いを乗り越え、激流を征した彼女に隙はなくなった。

ウサミン
17歳。
オリ主が高校に入ってから卒業するまで彼女は17歳だし、これからも17歳だ。
かわいい。

美城常務
4章で登場

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