実験室のフラスコ(2L)   作:にえる

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虹鱒2年目

 

 

 2年目1月

 

 来季用のドラマ撮影などにしばしば駆けずり回りつつ過ごす。

 クラスは受験シーズンだが、俺はこのまま社員コースに進めるので甘んじて享受することに。

 4月から就職なので、ぬるぬるである。

 受験シーズンとなると半ドンも増え、その分を事務所バイトに回せるという好景気に突入。

 2月はさらに出席する日数が減るし、3月は卒業式で時間が空く。

 つまり、コンビニバイトを辞めたわけで。

 

 自由時間が増えて人生が楽しいです><

 

 

 

 

 

 下旬に祖母が亡くなった。

 わかってたことだが、なんというか凄くクる。

 

 

 

 

 

 2月

 

 あるわけない遺産相続の問題が発生した。

 住んでいたのはボロのアパート、かつかつで生活していた限りなのに。

 どうも俺の両親が持ち逃げしたお金などを勘定したらしい。

 どれだけ追い詰めても足りないほどに嫌われているようだ。

 社長が会社の弁護士を呼んでくれたので、借金を抱えるほどにはならなかったが貯金が喰われた。

 あと祖母の骨も持って行かれた。

 雀の涙程度で費用を鑑みれば赤字だろうに、相手方は満足気だった。

 問題が大きくなりすぎて、親戚が集まり、絶縁状に近い接近禁止の書状を書かされるハメになった。

 復讐しようと考えて短絡的な行動を起こすなよってことと墓に近づくなってことらしい。

 

 ……ポジティブに考えよう。

 面倒な付き合いが無くなったと思えばいいじゃないか。

 祖母も祖父と同じ墓で嬉しいに違いない。

 そもそも世話になっていないし、これからもなる気は無い。

 なんの問題もないじゃないか。

 

 

 

 独りで何もない部屋にいると死にたくなる。

 ガスを充満させ、美少女が助けにきてくれるという賭けに出たくなる。

 現れたのは糞親だったけど。

 誰だよ住所教えたの。

 無視して水をぶっかけて外に放置したら、翌朝にはいなくなっていた。

 そのまま部屋を引き払う。

 リサイクルショップに捨て値で売ったのでほんとに何も無くなってしまった部屋だ、未練もない。

 大家さんにはキ印が来るであろうということを告げ、迷惑料にリサイクル代を渡して退室。

 

 

 

 

 ふらふらしてたら無意識にライブバトル会場に辿り着いてた。

 ウサミンぐう可愛。

 葛藤と希望が入り混じった笑顔が眩しい。

 それに比べて俺はぐちゃぐちゃですよ。

 

 死にたい。

 いや、ほんとに死にたいわけじゃないけど。

 あれだよ、ほら。

 死にたい死にたい詐欺だ。

 ほんとだよ。

 死んでもしょうがないってわかってるし。

 二度目だよ、俺。

 わかりきってることをやってもしゃあないんだ。

 ……はぁ。

 引きずってもしょうがないんだ、それもわかってる。

 わかっているのと、やるのでは大違いなわけで。

 

 媚びた笑みも浮かばないわ。

 

 

 

 

 

 3月

 

 なるべく迷惑をかけないように普段通りに振る舞って過ごす。

 住所不定になったが、まあ、いいんじゃないかな。

 拘っても引きずるだけだ、吹っ切れて丁度いいくらいだ。

 

 岡崎先輩だが、2月に何があったのかアイドルになると宣言してきた。

 やりたいこととか幸せについて真剣に考えていたのか、前向きな空気を醸し出している。

 とはいえいきなり切り替えるのは無理なので、今のままの路線でゆっくりとアイドルに舵切るような感じでいこうかと提案しておいた。

 あと珍しく岡崎先輩から提案があって、アイドルになったら先輩じゃなくなるから名前で呼んでほしいとのこと。

 泰葉はかわいいなぁ!

 

 

 橘さんも気を使ってくれているのか、俺が一人の時間には一緒に小説を読もうと誘ってくれる。

 嬉しい。

 嬉しいのだけど、人がじゃんじゃか死ぬタイプのミステリもどきは精神的にクるのでやめてほしい。

 かわいい。

 かわいいけど、つらい。

 

 

 

 卒業式にトキと会う機会があった。

 受験から解放されたトキは激流を征したのか、凄くいい雰囲気を放っていた。

 涙の別れとか玉砕覚悟の告白とか色々あったが、全てスルーしてた。

 渦中の人なのに。

 天然というか、目標に突き進む黄金の精神持ちなのではないだろうか。

 で、彼女は大学に進学してアイドルになるという。

 なる、ということはプロダクションも決まっているのだろう。

 スカウトしたかったからちょっと残念である。

 今なら好意に値するのに。

 

 

 

 

 

 4月からアイドルのプロデュースも行っていくようにと社長に言われた。

 で、ティンとくる女の子を見つけてくるようにとも。

 いや、あの4月からなのに3月に見つけるってどうなんですかね。

 もっと早い段階から……いや、いいです。

 

 

 ウサミンがメイド喫茶でバイトしているらしいので、これは機会をものにするしかないね。

 ということで名刺を持ってメイド喫茶に突入。

 萌え萌えキュンされながらスカウトしたら店から追い出された。

 武内さんとちひろさんを連れて突撃したら出禁になった。

 なぜだ。

 最終手段として橘さんと泰葉をつれてライブバトル終了後にスカウト。

 ちょっとだけだから!ちょっとだけだから!と事務所に連れ込む(意味深)

 そして施設とか運営方針を説明し、今後の展望を見据えた話をしてウサミンに契約書を渡す。

 三顧の礼までしたんだからイケるっしょと確信していたが、保留された。

 ま、まあ、そういう選択肢もあるからね。

 

 

 後日、ウサミンが書類を書いてきてくれた。

 彼女的に最期のチャンスらしい。

 出身はウサミン星、年齢は17歳に決めたとか。

 ……うん?

 

 ……まあ、可愛いからいいか。

 

 

 

 

 

 4月

 

 バイトから正社員というヴィクトリーロードを駆け上がった俺。

 だが、そんな勝ち組街道を爆走するも突然の障害物が出現する。

 障害物とは契約についての各種手続きである。

 判子はあるが、住所が無い。

 保険にハイレナカッター(完)

 

 そもそもボロアパートのときなんて煎餅布団と毛布くらいしか寝具が無かったが、事務所にはリクライニングシートとか、もふもふした毛布とかあるので、ぶっちゃけ快適だった。

 仮眠室にはベッドがあるが、身体が慣れてないので寝れなくなったし。

 机に伏せるか椅子を傾けるか床に毛布とか敷けば眠れる体質なので睡眠については事務所で問題ない。

 取り上げられたり売ったりしたので、家具や私物などもほぼ一切ない。

 ということで、住居の必要性が皆無であった。

 なので2月の半ばくらいから会社に寝泊まりしていたので俺的には問題なかったが、ちひろさんなどの会社サイドにとって非常にまずいらしい。

 とりあえず手続きできそうな書類だけでもと賃貸を探す。

 

 が、またもや問題発生。

 祖父母用の仏壇を買っていたので恥ずかしい話、給料すっからかんだ。

 まあ、弁護士がやり手だったのか、骨ごと持ってかれたんだけど。

 なので賃貸契約しても光熱費とか払う金がないんですが、みたいなことを相談してたらちひろさんの目が死んだ。

 一緒に手続きをしていた武内さんも首に手をかけて言葉を詰まらせた。

 社長、床に崩れ落ちる。

 

 紆余曲折はあったが会社まで徒歩15分くらいの場所に住居を借りることになった。

 なんと補助金も出してくれるとか。

 太っ腹だわ。

 実に有り難い。

 まあ、地面と布があれば眠れるけど、雨風には勝てないしな。

 ちなみに住居や住所を移したりと手間がかかったがなんとか諸々の契約は終了。

 保険などはお金の払い込みの関係で責任開始日が来月からとなるらしい。

 

 

 

 そんな感じで雑務が終わったので仕事に集中できる。

 今月から俺も武内さんも本格的にプロデューサーとして動き始めるっぽい。

 結局、やってることはマネージャーだから特に変わりはないんですけどね。

 

 なんて気楽に考えていたら武内さん、警察に職質を受ける。

 アイドルに向いてそうな人をスカウトしに、都心に来たらしい。

 泰葉の仕事先のスタジオ近くだったので、俺が間に入ることで事なきを得たが。

 あの長身強面で名刺を差し出しながら「笑顔です」と言われたらしい。

 なるほど、ちょっと怖いよな。

 相手に謝ろうとして、アイドルとしてなかなかいい感じであると感づいた。

 名刺を差し出したら卑猥な仕事のキャッチと間違われた。

 いや、健全な活動しかしてないからね。

 俺が職質受けそうになり、それに困った武内さんが首に手をかけ首を傾げていると、待っているのに痺れを切らした泰葉が来てくれた。

 泰葉を見たことがあったのか、やっと話を聞いてくれることになった。

 城ヶ崎美嘉(じょうがさき みか)さんという名前の今どきの女子高生だった。

 胡散臭そうに見られるので、武内さんに任せて帰ることにした。

 

 

 

 スカウト活動以外の仕事だが、泰葉はドラマの主演を貰ったので、アイドルとしての活動をメインにできるのは来年くらいかなぁと思ったり。

 社長も今のままでも成功であると言えるから無理する必要はないと言ってくれたし、時間をかけたいところ。

 今のところはバラエティ慣れさせるために、無茶振りが無い番組やラジオを選んで番宣させていく方針だ。

 

 橘さんは小学生から中学生向けの理化学実験の番組などに出してみた。

 「調べたので知ってます(キリッ」→「ほわぁ……(お目目キラキラ」が可愛いから俺が好んで出してただけだけど、意外と評判いいらしい。

 あとはお年寄りと遊ぶ企画とか。

 「お手玉なんてやらなくてもタブレットがありますから(キリッ」→「見てください! 三つもできるようになりました(お目目キラキラ」なんてのも評判がいい。

 

 先月スカウトした待望のウサミン星から来た安部菜々(あべ なな)さん、名前呼びでいいというので菜々さんと呼んでいるが、トレーニング漬けの毎日にしてみた。

 動きも悪くないが、独学が多かったために足りない部分が多い。

 ダンスや歌はいいのだけれど、体力とか筋力が怪しい。

 動きのキレを付けさせたいので体幹も鍛えてもらって、何事にも動じないようにメンタルレッスンもセットしてみる。

 俺は彼女をパーフェクトウサミンに育てあげたいのだ。

 今は土台作りだと仕事を回さなくても焦らない何処か悟った雰囲気とアイドルへの情熱と憧れを兼ね備えているので、5年以内には最上位の人気を獲得できると確信している。

 というか、成否だけの話なら来年には成功しているだろうし。

 出来なかったら俺は無能以下のレッテルを貼られるレベル。

 逸材がなんで転がったままだったのか、年齢が……いや、そんなわけないか。

 とりあえず、疲れてヘバッていた菜々さんに「17歳の平均より結果が……いや、まさか……」と煽ると涙目でぷるぷるしながら再起動するのが可愛い。

 これだけで菜々さんをスカウトした甲斐があるというものだ。

 ちなみに菜々さんは、会社の一階に併設されているカフェで働くことになった。

 レッスン費などは免除されているが、やはり生きていくには働く必要があるとのこと。

 ……俺よりも給料がいいとか気のせいだから。

 ……そもそも泰葉も橘さんも俺より給料がいいとか幻覚だから(震え声)

 

 

 

 あとは765プロと961プロの確執が深まったとか、そんな話くらいか。

 どうも961社長が自ら選んだ新人アイドルであるプロジェクトフェアリーの3人が、事務所に嫌気が差したとか765プロに引き抜かれたとかで、765プロに移籍したことが原因らしい。

 秋月さんが引退したときに、途中入社したプロデューサーによるものでかなり敏腕なんじゃねって話も聞いた。

 赤羽根さんだっけか、ほとんど面識ないんだけど。

 育ったアイドルを横から奪い取っていくことも多い業界だ、優しそうな見た目だからといって油断は出来ない。

 そもそもゆとりDQNな見た目の俺と暗殺者で忍者なぴにゃこら武内さんなんて見た目からして人望ないし、気を付けるに越したことはない。

 今回は765プロに持ってかれたが、961プロも奪う側なので注意しなければ……。

 敵しかいないとか怠い。

 とりあえず、どちらの肩を持ってもいいことは無いだろう。

 俺が所属している346プロはアイドル面は弱いが、他の部分が強い大手なので、関わらなくとも行けそうだし。

 話を集めて渦中から避けつつ仕事していくとしよう。

 

 

 

 あとはシンデレラプロジェクトの告知を準備して、今年の秋から募集をかけて、来年の春から開始していくということで武内さんと合意。

 俺はバイト上がりだし、見かけ上は1年先輩で年上の武内さんにプロジェクトを主導してもらうことになった。

 サポートに徹するので不備は無いようにしていきたいものである。

 ちなみにシンデレラプロジェクトはシンデレラガールを生み出すために社長が思いついたものらしい。

 シンデレラガールとはその年で最も人気のあるアイドルに与えられる賞的なサムシングだとか。

 人気というか、知名度が最も重要になってくるとの話だが、全くピンと来ない(震え声)

 無駄な賞でも作ったのかと思っていたが、大小に依らずアイドルを保有しているプロダクション全体によるものらしい。

 人に好かれてこそアイドルということで、自分の持っているアイドルが一番人気であるとアピールするためっぽい。

 なんてしょぼい理由なんだ……。

 IA(アイドルアカデミー)やIU(アイドルアルティメイト)とは異なり、今年から発足するので今のところ大した権威は無いが、将来的にグッとくるに違いないのでやってみようというのが社長の意見。

 こんなふわふわした理由で企画して実行できるとか、社長による会社への影響力が強すぎじゃね。

 

 そんなこんなで一応の方針は決めたので解散と思ったら、アイドルを希望しているという子がいるというので面接を行うことに。

 社長が直々に行うつもりだったらしいが、時間があるならYouやっちゃいなよと俺に無茶振り。

 まあ、いいんですけどね。

 まだ大した募集をしていないのに346を希望するとは変わり者なのか。

 シンデレラプロジェクトの結果によっては先見の明があるということになりそうだけど。

 

 ダンスなども見たいので広めの会議室で審査を行うことにした。

 待っている間に下手でも可愛くてやる気があれば合格かな、と考えてみたり。

 可愛い子ぶって口を開かないとか、変に動きを小さくするとかだったら不合格だけど。

 個人的には直向きで癖がなくてかわいいのが一番好みだけど。

 才能も無くても構わない、誰しもある程度まで育つことができるし。

 武井さんは笑顔が魅力的か、笑顔を生み出せる子が好みっぽい。

 社長はちょっとでも才能があればいいとか。

 

 資料読んでなかったと己の失態を思い出す。

 が、本人から逐一聞けばいいかと放り投げ。

 ノックされたので入室を許可すれば、入ってきたのはトキであった。

 なんでこんな高レベルの娘が来るんですかね。

 ま、まさか道場破りか……?

 各プロダクションの面接を潰しているのかと慄いていたが全く違ったようだ。

 話を聞くと、去年までは各プロダクションのオーディションで落ちまくって諦めかけていたが、大学に入学してからまた目指し始めたらしい。

 去年は自信なさ気だったし、まあ、しょうがない。

 

 面接はすぐに終えた。

 だって意味ないし。

 本名は十時愛梨(とときあいり)という……し、知ってたし(目逸らし)

 ビデオカメラで録画しつつ、ダンスや歌も見せてもらう。

 独学だったので能力は若干怪しいが、質はマジで激流をスキップで駆け上がるレベルなのだが、うちでいいのだろうか。

 実績ないし、他に推薦を出してもいいけどと言ってみるが、346を強く希望してくれた。

 勝ったな(確信)

 

 合格を告げて、手続きをちひろさんに委ねる。

 来年のシンデレラプロジェクトに参加させるよりも今年から活動させていくことにした。

 社長に逸材っすよとドヤ顔。

 むしろ3年以内に人気が出ないで失敗したら首を吊ります(真顔)

 

 そんな感じで社長にやる気を伝えたら、HPを更新する。

 アイドルの紹介ページを作ったはずだが、ちょっと違和感のある出来になっているが問題ない。

 新入りのトキをアップし、録画していた自己紹介や踊り、歌を上げる。

 ちなみにこの紹介ページだが、なぜかアクセス数が多いのは俺や武内さん、ちひろさん、社長、役員たち、上下階の部署のスタッフを総動員して作った「ばかっこいい動画集」だ。

 内容としては会社内を贅沢に使った超大型ピタゴラスイッチ(試行72回)、全員でリトライしまくって撮った無駄な技術と凄まじいまでの連携を駆使してゴミ箱に書類を捨てる行程(試行334回)の二つだ。

 次いで、砂鉄スライムが磁石を追いかける様を見て橘さんが「ほわぁ……(お目目キラキラ」となった動画である。

 アイドル紹介……?

 

 翌日、会社の受付さんにフランスパンを貰ったので、軽く振り回しながら泰葉の現場へ向かっていると、「そのステッキ素敵ですね」と女性に話しかけられた。

 いや、これライトセーバーなんですよと声真似で無駄にリアルな効果音を付けて振る。

 なにが琴線に触れたのか、女性もはしゃぎながら手で鉄砲の形を作って「ばきゅんばきゅん」と撃ってきたので、それを弾く音を再現して遊んでみたり。

 その後、なぜか付いてきた女性を連れて現場に行き、泰葉と橘さんを連れて事務所へ。

 受付をナチュラルに通り過ぎ、ちひろさんにお茶を頼んで社長に託す。

 十数分後。

 社長は彼女を大層気に入ったらしく、高垣楓(たかがき かえで)さんはそのままアイドルデビューを果たした。

 

 どういうことなの……。

 

 

 

 

 

 アイドル候補の人たちも増えてきたので、人員を増やせないっすかねと社長に相談すると事務などのバックアップは増えるらしい。

 が、マネージャーやプロデューサーは増やさないようだ。

 ティンときたら増やすとは言っていたが、ほとんどないだろうとも。

 なんというか、社長が持つ理想のアイドルのためにはプロデューサーの質が大事らしい。

 シンデレラガールは特に重要だとか。

 俺にはわからない話だ。

 今は余裕で回っているが、あんまり増えると厳しいと伝える。

 一から十まで手伝うと向上心が育たないので、幾らか目を離すことも大事とか。

 セルフプロデュースまで行くと俺らがいる意味ないし、目をかけすぎても駄目とか、難しすぎなんですがそれは。

 

 話は変わって、俺の家族関係は問題なくなったか聞かれた。

 母方から絶縁くらって、母親に水を浴びせた以外は特に問題ないです(死んだ目)

 父方からはアクション無いです(死んだ目)

 迷惑かけてすみません(死んだ目)

 

 社長もちょっとどもりながらも大事なかったらよかった的なことを言ってくれた。

 ありがてぇ。

 社長には娘さんも息子さんもいないらしく、良かったら養子にどうだみたいな慰めもしてくれた。

 いい人だわぁ……。

 若輩者なのでもっと仕事ができるようになったら前向きに~みたいな感じの社交辞令で返しておく。

 シンデレラガールを生み出せたらきっと、みたいなことで最終的にお茶を濁す。

 

 まあ、その、なんだろう。

 上手く言葉にできないけど、凄く嬉しかった。

 

 

 

 社長と話したらその日は休みなさいと言われたので、15日ぶりくらいに帰宅してみた。

 家に帰るというか、掃除しにちょっと顔を出す感じなのだけど。

 扉に鍵がかかってなかった。

 やべぇ、契約してから鍵かけてなかったことになるじゃんと内心で焦って中に入ると見知らぬ男といる母だった人。

 これほどまでに人の顔を見たくないと思ったことはなかった。

 子供には親の扶養義務があるとか、借金で困っているとか、そんなの俺には関係ないだろ。

 出ていくように告げる。

 なおも言いつくろって縋ってこようとするが、次は警察を呼ぶとだけ告げて追い出した。

 ヒステリックを起こしているが、関係ない。

 騒いでいる男女を見ながらスマホを操作し始めると、何処かへ消えていった。

 

 俺だけになった部屋は物理的に汚れていたし、落ちない汚れがこびり付いたのかのように感じた。

 さっきまでの声も冷え切っていて自分が出したものとは思えなかった。

 みんなの前で出したらヤバいなぁとおもってたらなんか気持ち悪くなってきた。

 悪臭が籠りすぎなんだよ、この部屋。

 窓を開いたらもうね、吐き気で流しにおろろろろろ、である。

 出すものがなくなってもおろろろろろ、である。

 胃液とか吐くのがつらいんだわ。

 

 つらい……。

 

 

 

 流石に部屋にいられないので会社に帰る。

 あの部屋はあとで何とかしよう。

 顔が真っ青で心配されたが、拾ったきのこ食って腹壊したせいだと言ったら納得してた。

 どういうことだ橘ァ!!

 

 所属アイドルはだいたい帰っていて、橘さんが最後だったので問題なかった。

 ちっひにドリンクを渡されるも飲む気が起きない。

 毒薬は無理なんです、と冗談を言うもすでにいなくなっていた。

 で、社長が激おこで登場。

 問題が起きたら会社の弁護士がいるから心配しなくても大丈夫みたいなこと言われたけど、その人この会社のためにいるんじゃ……。

 

 翌日、とりあえず部屋をなんとかしないことにはと再度帰宅。

 帰宅といいたくないが、住所がここなのでしょうがない。

 部屋に入ろうとして、母だった女が現れた。

 内心ではキェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!と大絶叫だ。

 扶養義務がどうとかの話をしにきたらしい。

 しかも警察を呼んでも家族のことは民事で無意味ですよ~みたいなタイプの若い弁護士まで連れてきた。

 家族でもないし、民事で無意味ってどういうことなんですかねぇ……。

 もしかしたら家族の愛に目覚めて謝罪にきたのかと期待して、部屋の中で話し合いをしてみる。

 昨日から窓を開けっ放しだったので、春先は寒い。

 腹が立つので弁護士にはゴムが散らばっている特等席に座ってもらった。

 布団、高かったのに……。

 

 結果として、期待した俺が間違いだった^q^

 この二人は話し合いに来たのではなく、脅しに来たのだ。

 無駄に大きな声で怒鳴り散らすわ、身振り手振りを大げさにして驚かそうとしてくるわで最悪だ。

 たぶん、迷惑になるまえに譲歩を引きずり出そうってタイプの弁護士だろう。

 申し訳なく思いながら会社に電話。

 弁護士連れてちひろさんが来てくれるらしい。

 ……この部屋にか。

 いやいやいや、無理だわ。

 男の人呼んでーと伝えたら別の人が来るらしい。

 で、社長がきた。

 

 勘気蒙りまくりの社長と弁護士。

 予てから集めていたという俺の素行調査結果とか、過去の資料によって「養育を放棄しておまえは何言っているんだ」とカンタンロンパされてフィニッシュだった。

 俺のチラシの裏とかノートの切れ端で書いた日記などを見せたあたりで話が違うじゃねぇかよ!と相手の弁護士が叫んだ。

 知らんがな。

 民事で接近禁止令を争って縁を終了しようということで幕引き。

 なおも騒いでいたが、これ以上は刑事事件に発展するという話になるとやっと静かになった。

 

 母だった人が、涙ながら親子の縁は~とか、不本意だったとか、寂しくてやったとかetc。

 あ、もう興味ないんで大丈夫ですと伝えておく。

 産んでもらったことは感謝しているけど、それ以上でも以下でもない。

 接近禁止さえ守ったら好きに生きていいですと笑顔で言う。

 それのほうが互いに幸せだろう。

 親は最初からいなかったと思って暮らすことにすると伝えた。

 俺を見てて何を思ったのか、会社の弁護士の方がぷるぷるしながら母だった人と弁護士に説教して「恥を知りなさい!」と締めくくった。

 右京さんか何かだろうか(現実逃避)

 

 騒動を引き起こした二人が帰っていった。

 部屋は何でも屋さん辺りを呼んで掃除してもらって引き払うことに。

 帰りの車の中、情けなさと申し訳なさで泣いてしまった。

 社長と弁護士の方も貰い泣きなのか泣いてた。

 まあ、泣いてくれる人がいるというのは一つの幸せなのかもしれない。

 

 明日からは悩まされることもなく、心機一転して仕事できるだろうし。

 色々と忘れることにしよう。

 プロデュースする俺が暗かったら伝わってしまって、上手くいくことも失敗するだろうし。

 俺を引き立ててくれたのが社長で良かったですと感謝を伝えた。

 社長がまた泣いてた。

 

 

 

 

 

 

 実母に放火されてた^q^

 

 

 

 

 

 保険は5月からなので効かない。

 親族なので賠償責任が発生するに違いない。

 サンキュー346、グッバイ人生。

 辞表もって土下座コンボくらい今の俺なら余裕だから。

 事件を起こした身内がいるプロデューサーなんて論外だろう。

 アイドルの障害物になるくらいだったら自ら爆散するスタイルで余裕のフィニッシュです。

 行くあてもないから糞ゲーの元を断つために電源切るしかないですよね。

 人(自分)を殺す覚悟(キリッ

 なんか転生オリ主っぽくなってきたじゃん。

 ブルってきたぜ(震え声)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 4月下旬

 

 放火とか、弁償する金がない。

 自殺だと会社に迷惑がかかるので、蒸発しようかと決意。

 ついでに賠償責任とか有耶無耶になることを期待してみたり。

 

 金がないので公共機関を利用して遠くにいけない。

 情けなくて笑いが込み上げてきた。

 借金は、借りた先に迷惑がかかるのでできない。

 徒歩か。

 徒歩なのか。

 死ぬまで歩くというツラい拷問が、現世の罪を贖うために必要なのかもしれない(遠い目)

 

 川に沿って歩いていけば、山に辿り着ける可能性が存在している……?と大雑把に行動方針を決めていると、近くの広場でライブバトルが繰り広げられていることに気付いた。

 足が勝手に向かってしまった。

 未練がましい話である。

 

 こういったライブバトルだが、会場などの運営はアイドルプロダクションが出資していたりする。

 オーディションだけだと見つからない原石が見つかるかも、みたいな話だがあんまり成功したという話は聞かない。

 出資プロダクションが優先権を持っているのでライブバトル直後や最中にスカウトできるのだ。

 ちなみにウサミンは346や他のプロダクションが一緒に出資しているところ出身である。

 出資しているプロダクションを狙ってライブバトルすることで、オーディションを勝ち抜くよりもスカウトされやすい可能性あったりなかったり。

 まあ、このライブバトルが961プロの出資であるという話なだけだけど。

 

 ちなみに現在は961プロと765プロがガチバトル中だ。

 フェスティバルでもプロダクションマッチでもないのに、こいつらは何をやっているんだろうか……(ドン引き)

 しかも一般応募もいるので酷い蹂躙劇になっている。

 アマチュアの草野球相手に1番:石井琢 2番:波留 3番:鈴木尚 4番:ローズ 5番:駒田 6番:内川 7番:進藤 8番:谷繁 9番:斎藤隆のメンバーで試合やってるようなものである。

 アマチュアのアイドル志望は冷たくなって発見されるだろ、こんなの。

 やる気を削ぐのが大手プロダクションのやることかよ!

 

 アピールが終了した参加者の一人に声をかける。

 というか、765と961の争いに一人を残して脱兎として逃げたのでこの子しかいなかった。

 帰り支度もしていたが、問題ない。

 どうせ観客も他のプロダクションも、スカウトマンだって見ていない。

 961プロの優先権も無効になっただろう、俺が声をかけるには都合がいい。

 別に輝く才能を見つけたとか大手に挑む精神に感動した、とかでは全くない。

 負けて涙目でぷるぷるしてたのを気に入っただけである。

 弱ったところに付け込み、輿水幸子(こしみず さちこ)さんを瞬殺でスカウト成功。

 もっと人を疑うことを知った方がいいと教えておいた。

 

 カワイイボクを案内してくれてもいいんですよ!とごり押しされて、事務所に一緒に向かう。

 断ってたら涙目でぷるぷるされたので仕方ないね。

 事務所に戻る電車賃で財布が枯渇しかけているんですが、まあ、いいんじゃないかな。

 というか、俺はなんでスカウトしているのだろうか。

 あーもうめちゃくちゃだよ、と思考がこんがらがって意味不明である。

 輿水さんがカワイイアピールを同意して受け流す。

 カワイイを連呼しているくせにちょっと自信がない感じが伝わってくる。

 これはこれで魅力的かもしれん。

 結構テキトーにスカウトしたけど、もしかしたら凄い可愛いんじゃないだろうか。

 持ち味を活かしにくいけど。

 

 

 

 会社に戻り、すみませーんアイドルスカウトしてきましたーと告げる。

 ちっひに張り手くらった。

 火事の後に辞表と土下座して行方くらましたのが悪かったらしい。

 辞表は受理されていないのでプロデューサー業もそのままですよ、とのことである。

 いや、マスコミが食い物にしそうな話題なんですがと伝えたが無意味だった。

 社長も俺なら大丈夫とか言い出したし。

 変な信頼がツラい!

 

 輿水さんに詳しい話をし、手続きを行っていく。

 山梨からアイドルになるため、東京まで来たらしい。

 親戚の家にお世話になっているらしく、迷惑をかけたくないとのことで女子寮に入ることになった。

 961と765の戦争に巻き込まれた理由としては、プロ相手に俺TUEEEEを夢見て蹂躙されたらしい。

 初戦であれに飛び込むとかひどすぎて逆に笑う。

 普通は自分の持ち味を活かせるような参加者のときだけ戦い、無理そうならバックれるのだが。

 バックれてもいいことを知らなかったのか、輿水さんが崩れ落ちた。

 なぜか菜々さんも崩れ落ちてた。

 

 

 

 

 

 5月

 

 放火の顛末だが、賠償責任が母方の親戚へと飛んで行った。

 母だった人がこっちに来たのも、対応を面倒がってこっちに送り込んだことが原因のようだ。

 接近禁止なのに接近してきたことを理由に右京さんっぽい弁護士の方がなすりつけてくれたらしい。

 そもそも、接近禁止にしたくせに火の粉を振りまいているんじゃないとガチ切れしてたとか。

 まあ、そういうわけなので改めて接近禁止である。

 前に来た弁護士も一緒に詐称か何かで捕まったとか。

 

 ひどく寂しい結果だった。

 

 ついでに母だった人に俺の住所を不覚にも漏らした人がいるらしい。

 社長がガチ切れでヤバい。

 ヤバい。

 

 

 

 

 

 まあ、嫌なことは忘れるに限る。

 忘れられるように仕事しよう、ということでもある。

 同様に社長と武内さんも忘れようとしたのかスカウトした結果、かなり増えてきたんですがそれは状態である。

 武内さんなんて放火事件の際に、現行犯逮捕してくれた婦警の方までスカウトするミラクルを起こしていた。

 休暇中で東京に来ていた片桐早苗(かたぎり さなえ)さんというらしいが、まあ、いいんじゃないかな。

 ちなみに社長と武内さんが職質を受け過ぎなんだけどいいのだろうか。

 時には交番まで連行され、俺かちひろさんで迎えに行く面倒になってきた。

 

 俺の放火事件の影響は意外と少ないらしい。

 調べていくと掌を返したくなるからとか、よくわらん理由だ。

 名前とか週刊誌デビューしたが、右京さんもどきがガチ切れして収まった。

 そんなことよりも765と961のほうが大問題状態っぽい。

 業界内のパワーゲームが熾烈を極めているらしく、弊害として仕事が減ってしまった。

 無理に突っ込んで被害を被るのもごめんだし、俺の問題でホームページが炎上したりメディアで叩かれても困るので、アイドルの皆に謝りつつ、レッスン漬けである。

 あ、放火事件と炎上をかけてみたんだけど、どうだろうか(爽やかスマイル)

 

 

 

 そういうわけなので、眼中に入らないようにこそこそと動くことにした。

 日程に余裕があるアイドルを連れて地方のローカル番組やCMに出ることを今後の方針にしようかなと。

 あとはラジオとか、地方のイベントなどで歌ったりも必要だろうか。

 ついでにちょうどいい機会なので、泰葉もアイドルとしての活動を強めておこう。

 地方から何からの仕事に出向くのは、知名度アップしつつ、業界の厳しさを知るという目的もあったりなかったり。

 華やかな舞台なんて一握りで、だからこそ尊いのだと知ってほしいし。

 だからこそ将来、大きな舞台に立つことができたとき感動も一入だろう。

 そこまで耐えられたらという枕詞も付くけど。

 レッスンも行うけど、仕事も行う。

 疲労を読み取ったらすぐに休ませるが、限界まで体力を振り絞るスタイル。

 

 レッスンに途中で乱入して涙目ぷるぷるさせまくってみた。

 敗北を知りたい。

 

 

 

 

 

 

 6月

 

 経理の人が来た。

 施設費払えよおらぁ!ってことらしい。

 バイト時代のも徴収されることになった、とても高いお……。

 払えないレベルなので分割でなんとか首を繋げる。

 クリーニング代とかの諸経費も合わさって給料が瞬殺された。

 流石にくたくたのスーツやワイシャツだと苦労している感じは醸し出せるが、清潔感を失うし。

 アイドルを売る仕事でさすがにそれはまずい。

 真面目な話、社食が無料じゃなかったらマジで死んでたかもしれん。

 今はちょっとだけ貯金できるし(涙目)

 ぶっちゃけ、昔はパン屋さんでパンの耳を貰ったり肉屋さんでラードとか貰ってもきつかった。

 野菜が足りなくて野草にお世話になった記憶があったり。

 まあ、野草だと栄養素が足りないっぽいんだけどね。

 給食とコンビニの廃棄品って偉大だな。

 

 

 

 菜々さん、テレビに映れるとはしゃぐ。

 地方行脚だが、問題なく活動できたのは菜々さんとトキである。

 なぜか学生なのにフルタイム可能の菜々さんと授業を一日に圧縮したトキが働きまくりである。

 レッスン、仕事、休憩をごり押しで進める。

 泰葉はドラマがあるので時々出演しているが、酸いも甘いも知っているという言葉通りに仕事をこなしていった。

 橘さんは小学生なのであまり遠出できず、レギュラー番組の無い空いた時だけ仕事に出演して「ほわぁ……(お目目キラキラ」を披露してくれた。

 新入りの方々はレッスンでヘバって遠出に向かず、なぜか元気な高垣さんは地方の地酒を飲み過ぎるので連続稼働不可。

 意外といっては失礼だが、城ヶ崎さんはかなり真摯に取り組んでいたのでなかなか好ましいし、読者モデルの仕事は評判が良かったので今後も伸ばしていくとしよう。

 輿水さん? うざかわいかったです。

 

 特に問題は無かった、と言いたいが多発した。

 出先で武内さんが必ず一回はスカウトしていることだ。

 あと何回、この人は暗殺者じゃないと説明すればいいんだ。

 まあ、成果はまずまずなので文句ばかりでもないけど。

 牧場おっぱいとか、なつきちとか、アナウンサーのわかるわさんとか、そんな感じの方々のスカウトを成功させてきたので文句も言えない。

 しかし、あのローテンションと強面でどうやってスカウトしたのか。

 俺もスカウトしたけど。

 荒木先生が可愛すぎたのが悪い。

 

 

 

 事務所にアイドルとして所属している人たちを集める。

 集まっている会議室の扉を開き、トキとか菜々さんを筆頭に全員が順々にCDデビューするからと告げて資料を置いて扉を閉める。

 全体的な準備は水面下で進んでいたので、あとは出すだけだ。

 予定は9月以降くらいから。

 まあ、みんなからしたら突然湧いてきたと思うかもしれないけど。

 全く伝えてなかったし。

 なんか騒ぎ声が聞こえたけど、武内さんとちひろさんに後は全部託した。

 泰葉も出すけど、アイドルとして認知されていない節がある。

 ドラマ出すぎただろうか。

 困ったことに、俺には彼女の今後が全然読めない。

 経験が足りないのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 7月

 

 祭りに呼んでくれるので、なるべく突撃。

 ちょっと予定と乖離しているんだよなぁ。

 俺の予定としては緩いバラエティで菜々さんを「電波キャラを目指して失敗する真面目な常識人」枠として進めるはずだったが、各地のイベントだとアピールが少ないので電波が残ってしまった。

 ぐぬぬ……。

 武内さんと相談するが、このまま行くしかないという結論しか出なかった。

 別に女性から嫌われているというわけでもないのだが、俺はもっと菜々さんに正しく輝いて欲しいわけで。

 現状の17歳(?)とかいう弄りによる謎の輝きは不本意かなと。

 菜々さん本人は喜んでいるが、なんかもにょる。

 

 トキは王道を爆走中である。

 レッスンと仕事を率先して行っていくという無敵っぷり。

 体力と活力に満ち溢れて半端ないことになっている。

 出先でも俺とダンスレッスンやボイスレッスンを行うあたり、凄まじい修羅である。

 菜々さんは疲労でダウンして倒れている中でも俺の動きに付いて来ようとしているのがすごい。

 結局涙目ぷるぷるだけどね。

 敗北を知りたい(ドヤァ

 

 

 

 

 

 飯食ってたら上条春菜(かみじょう はるな)さんに「まぁまぁ眼鏡どうぞ」されて、視界が歪んでカレーを零した。

 怒ってないです。

 お米を無駄にしてしまったことに怒ってないです。

 最上位レッスンに参加させて俺が常に上回り続けるという嫌がらせで涙目ぷるぷるにしておいた。

 彼女の眼鏡愛に俺の米愛が勝った瞬間だと思うんだがどうだろうか。

 敗北を知りたい(ドヤァ

 

 

 

 

 

 765とか961とか876など、最近テレビを賑わせているアイドル事務所が限られたパイを取り合っているとか。

 スタッフさんと遊んでたら教えてくれた。

 他のプロダクションは遊ばないらしいのでつまらんとか。

 いや、普通は遊ばないだろと思ったが口にはしなかった。

 失言したADさんが余ったワサビシュークリームを食わされてたし。

 学生の休み時間的なノリが健在という現実。

 人気のあるアイドルはちょっとしたドラマの仕事やバラエティ、情報番組などよりも視聴率の高い歌番組や老舗バラエティに集中しているとか。

 ドラマも月9などなら人気が半端ないのだが、微妙な時間帯だと不人気っぽい。

 今は8月に行われるイベントであるFUJISAN ROCK FESに向けた活動が熱いらしい。

 765、961などは最終目標をIAやIUに置いているようで、そこまで駆け上がるために大きな番組は選考が荒れに荒れているようだ。

 961が金を流して765が情で引き止めるというバトルが繰り広げられている。

 うちは参加できるほど練度が足りてないので見守るだけである。

 大きな番組は用意できないが、ちょっとした歌番組なら掛け合ってくれるという話をしてくれた。

 有り難い話だ。

 真顔でお礼を言って回った。

 やっとCDが出せそうで、モチベーションの維持にもつながるに違いない。

 やる気だって無限ではないし。

 

 あとはどうでもいい話で盛り上がる。

 俺とスタッフさんたちのリハがキモ上手いと動画で評判になったらしく、アクセス数が伸びているらしい。

 何アップしてんだこいつら(遠い目)

 ちなみにリハーサルは顔に名札を付けて台本を通しでやっていくだけなので顔は映っていない。

 俺が泰葉の物まねして、他の演者をスタッフさんがやっているやつである。

 全員の顔や体格以外の再現率が可笑しなことになっているのがウケているとか。

 

 物まねと言えば、高森藍子(たかもり あいこ)さんがラジオのMCをやるときに緊張していたので初回に声真似した俺も混ざったことがあった話なのだが。

 ゆるふわタイムによって時空が乱れ、高森さんが二人いたように聞こえたというリスナーからのお便りがあった。

 都市伝説か何かか。

 あとはトキもラジオのMCをやるときに緊張していたので初回に俺も混ざったことがあった話なのだが。

 トキ同士が会話してハモって歌うという謎の放送がすごいウケたらしい。

 生放送でおかしなことをやっているアイドルたちと一時期呼ばれていたとか呼ばれていないとか。

 ちなみにゆるふわタイムによる時の乱れが原因という話まで持ちあがった。

 まあ、そういうのでも注目を浴びていると思うと嬉しいね。

 ……喜んでいいのか?

 

 

 

 

 

 読モ撮影があったので、城ヶ崎さんや泰葉、なつきちの3人に付いて行った。

 木村夏樹(きむら なつき)さんが本名だが、気付いたらなつきちとみんな呼んでた。

 武内さんもなつきちさんと呼んでたから染ったのかもしれん。

 

 帰りは4人に増えていた。

 ホラーか。

 

 

 

 

 

 

 

 8月

 

 佐久間まゆ(さくま)さんがアイドル志望となった。

 まゆって呼んでいいらしい。

 先月の読者モデル帰りに増えていた人物である。

 最初はあんまり好きになれそうにない空気だったが、最近はやる気で満ち溢れている。

 いや、外見は穏やかなのだけれど内面が凄く好ましい。

 シンデレラガールになりたいという情熱が感じられて凄くいい。

 体力とか筋力とか、問題点は多いけど。

 焦りも無いようなので時間をかけて育てたいものだ。

 ちなみに、身長が低くて小柄なので近づくと背伸びして視線を合わせようとしてくれるので凄く可愛い。

 

 

 

 仕事面だが、FUJISAN ROCK FESの準備などに参加するアイドルがテレビからフェードアウトした。

 ほんの短い期間だが好機である。

 その間にメディアへの露出を増やしてアピール。

 CD出すよーみたいな感じのことを告知して、961とか765が戻ってきたのでフェードアウト。

 

 地方に顔を出しつつ、本格的にCDの準備だ。

 各自歌の練習、ダンスも猛練習、ジャケットも作る。

 で、来月から順次発売。

 日程がひどいことになっているが、プロデューサー歴1年の俺と2年の武内さんのコンビだから仕方ないね。

 というか、CDいけますと社長に告げたのが悪かったか。

 喜んだと思ったらこれだからなぁ……。

 

 並行してシンデレラプロジェクトの告知も行う予定。

 CDを売るのと同時に宣伝しておくことで知名度が上がる、といいな。

 来月から上位のアイドルはIUにかかりっきりになるだろうし、もう少しくらいは余裕を持てればいいな。

 いいな……(遠い目)

 

 しかし、セクシーギルティってすごいセンスだよな。

 俺には思いつかん。

 

 

 

 

 

 

 踊りのコツとか教えてほしい、そんな話に何故かなった。

 そもそも俺は独学でDVDとか見て覚えた口だし、なんて話をしたらトレーナーさんがドリンク吹いた。

 むせたのかな。

 

 結局、人間は動く関節が一緒なんだからそこら辺を真似するだけで案外いける、と思う。

 動きが付いていけないのは他の要素が足りないからである。

 筋肉とか体力、あとは体の動かし方か。

 音感は完全に才能と感性の世界だから除外しよう。

 筋肉は見かけの物よりも体幹の割合が大きいから、短期間で鍛えるのは無理だし、体力も同様。

 変な癖が付きやすい人は、言い方が悪いが才能がないタイプだ。

 同じ動きを繰り返すことが多い人とかいるじゃん、あれ。

 反射の問題もあるんだけど。

 才能があると癖などは簡単に修正できるし。

 

 もっと言えば、アピールポイントを魅せられるかどうかとか、そんな話に繋がる。

 苦手な動きを克服したり、克服できなかったら上手く隠したりとかそんな感じだ。

 最終的に重要なのは自分を知ることかな、と。

 自分の魅力や強みを知っていることで活かすように動けるし。

 アイドルとして才能があると言われてる人は、そこら辺の機微がくっそ上手いんだわ。

 日高舞(ひだか まい)さんとか星井美希(ほしい みき)さんは、そういったモノを魅せるのがうまいからこそ天才と呼ばれているのかもしれん。

 つまり、自分を知っている奴が強いと思います(粉みかん)

 

 リズムを刻む音感などは無理なやつは無理なので、絶対音感を持っている音楽家の人や調律師の方に助言を貰ってタイミングを暗記するのが一番かなと。

 無理なものは無理だし。

 

 まあ、悩むまでもなくひよっこは練度を上げるしかないんだけどね。

 残念ながら、技術には近道はない。

 天下には王道で一歩ずつ、というわけだ。

 歩めるスピードが他人よりも速いか遅いかの違いしかない。

 もっと言うと行くことのできる到達距離も異なってくる。

 日高舞さんはチョモランマまで行ってる気がしないでもない。

 

 たぶん、泰葉が芸歴の割にアイドルとして弱いのは自分を知らないことも関係していると考えている。

 確かに俺が教えたらそれが自分の魅力だと思い込むかもしれない。

 でもそれは駄目なんだ。

 他人からもらった物は自分とは言えないから。

 

 レッスンを眺めながら思考を巡らせる。

 社長は魔法をかけるのが俺らの仕事だと言っていた。

 シンデレラガールに合わせて言っている常套句だけど、俺は好きじゃない。

 魔法が解けたら終わりになってしまう。

 まあ、どうしたいとかまともな考えはないのだけれど。

 様子を見に来た武内さんに話を聞くと、彼は黙ったままだった。

 シンデレラがどうこうというのは省いても、どのように導いたらいいかというのは俺たちの課題なのだろう。

 おそらくこれは社長からの宿題というやつか(白目)

 

 

 

 

 

 

 深夜の5分枠で番組をもらえそうだ。

 とはいえ、ほかにも競争相手はいるので企画で勝たないとダメなのだが。

 できればアイドルの魅力を過不足なく伝えたい。

 

 というわけで、人形劇にしてみた。

 タイトルはモバマス劇場とかでいいか。

 語感がいいとか、モブを捩ったとか、人形だから小っちゃくてモバイルだとか、もどきだからもばだとか、色々と理由はあるけど特にタイトルに深い意味はないです。

 俺が声真似しながら指先につけた糸で人形を操って、ボイスパーカッションとかで効果音をつけて、日常を再現。

 初回は橘さんの「ほわぁ……(お目目キラキラ」ネタでいいや。

 没になると確信しつつ、録画して渡す。

 

 受かってしまった。

 なんでぇ……^q^

 

 無駄に凝ってて金をかけ過ぎだけど大丈夫かと心配された。

 基本的に昼休みに俺とちひろさんの二人で一発撮り4分なので大丈夫だと伝えるとお茶を噴霧された。

 当然、音響も無し。

 そもそも地方巡業したときも音響に問題が発生しまくって、俺のボイパなどで乗り切ったし、これくらいへーきへーき。

 

 モバマス劇場が4分が流れ、後にエンディングである。

 カメラマンにちひろさんの名前、残りは監督からなにから正真達磨と流れ続ける。

 本名出すとあれなので、別名を名乗ってみた。

 放火事件の焼身をもじったのと俺の人生が詰んでて手も足も出なかったという意味の達磨を洒落として二重でかけた。

 自分でやっといてなんだがブラックジョークすぎて笑えないんですがそれは。

 

 

 

 

 

 

 9月

 

 CD発売となったが、凄く売れる。

 想定していないレベルだったので、嬉しい悲鳴というやつか。

 地方だと品薄や在庫切れが相次いだらしい。

 イベントにもかなり呼ばれるし。

 店頭に赴いて手売りも想定していたが、業界の知り合いの方々が協力してくれたので、ひどい結果にはならなかったのもあるけど。

 部署の仲が良い人たちも力を貸してくれたし。

 俺が求めていた人生はこういったことなのだと実感した。

 順次発売されていくCDに合わせて、イベントに出演するアイドルも切り替えていく。

 バリエーションが豊富のうえに回転率がよくて笑ってしまった。

 

 挨拶行脚をしながらイベントに帯同し、仕事をこなしていき、シンデレラプロジェクトのオーディションも進めていく。

 とはいえ、選考は武内さんがメインなのだけれど。

 何処からか見つけてきたら加えてもいいとは言ってくれたが、そんな余裕ないっす。

 一週間で5時間しか寝てないし。

 で、睡眠時間の短さに、ADさんたちに混ざって眠っている俺が発掘されたり。

 頼む、慣れている番組の収録中だけでも寝させてください……。

 流石の俺でもこのままだと死ぬんで……。

 

 

 

 

 

 社長、年末のライブは厳しいっす……。

 場所を抑えるのも、客の集まりも無理っす……。

 ぐわぁぁぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 齢十四にして、数多の衆愚を魅了する「力」持つ姫君を火の国よりお迎えいたした。

 それは鬨の声溢れる戦場での逢瀬による運命。

 未だ眠れる魔王であるが、刻を待たずして天使や悪魔を配下とし、宵闇とともに産声を挙げるであろう。

 そのブリュンヒルデ足らしめる力は吾身を狂わす浸食せし暗黒の異形となりてカグツチよりも熱く輝く闇となる、そう確信した。

 契約より紡がれる旋律をここに。

 

 "滲み出す混濁の紋章"

 "不遜なる狂気の器"

 "湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き・眠りを妨げる"

 "爬行する鉄の王女"

 "絶えず自壊する泥の人形"

 "結合せよ"

 "反発せよ"

 "地に満ち己の無力を知れ"

 

 破道の九十 『黒棺』

 

 

 

 

 

 

 

 10月

 

 先月も話したけど、神崎蘭子(かんざき らんこ)さんをスカウトした。

 来年のシンデレラプロジェクトでデビューを飾ると思う。

 息抜きにライブバトルを見に行ったら、「ほわぁ……(お目目キラキラ」ってなってたのでついスカウトしてしまった。

 熊本弁が難しくてたどたどしくなってしまったが、なんとかスカウトできて良かった。

 武内さんと一緒に中二エクステをスカウトしたのが役立ったようだ。

 まあ、神崎さんが可愛かったからついスカウトしてもしょうがないよね。

 

 

 

 あと先月の会議で12月にライブが行われることが決定した。

 発売されているCDの売り上げや人気から、GOサインを出されてしまった。

 で、会場も抑えたらしい。

 結構でかい……。

 こんなギリギリで場所を抑えてチケット掃くの無理だろ……。

 社長はなんか自信満々だったけど。

 

 給料、20万から上がらないかなぁ……(遠い目)

 

 

 

 

 

 アイドルから集めた要望を3D CADなどで資料作成して送る。

 衣装も必要だし、グッズは前からあったやつを集めつつ新たに発注もする。

 社長は大丈夫って言ってたが、スタッフを集めたりしないといけないじゃん?

 過労で死ぬ。

 ホントに大丈夫か心配になってきた。

 そういえばシンデレラガールの集計が始まったとか。

 他のプロダクションもちょっとぴりぴりしてた。

 そんなガチになることだろうか。

 

 

 

 

 

 シンデレラプロジェクトの選考も進めているようだ。

 武内さんや俺も忙しいから常に付いているわけではないので、過不足無くともいえない。

 上手くいかんものだ。

 今日は俺も審査に加わった。

 

 諸星きらり(もろぼし)さんが凄い好みでした(粉みかん)

 

 午後、選考せずに出かけていた武内さんがニートを拾ってきた。

 俺の予測を軽く上回るお人やでぇ……。

 

 

 

 

 

 

 

 11月

 

 会場の見取り図などで立ち位置を説明。

 で、CGで作成した会場のモデルで更に詳しく説明していく。

 平面だと奥行などがわかりにくいし。

 

 リハーサルもやるけど、そう何度も出来るわけではないので今のうちに知識も叩き込んでおく。

 

 

 

 トキが速報だが、シンデレラガール1位になってた。

 あと菜々さんとか高垣さん、川島さんも上位30位以内に現時点で入っているとか。

 鳴り止まない電話、止まらないオファー、売れていくチケット、無くなるCD。

 

 

 

 マジで給料、上がらないかなぁ……(遠い目)

 

 

 

 

 

 12月

 

 そのままトキがシンデレラガールになってしまった。

 おかしい。

 予定としては来年のプロジェクトから徐々に狙うはずだったのに、いきなり目標を達成してしまった(白目)

 これはあれだろうか。

 シンデレラガールになりたいと思った時にはすでになっているとかいう話か。

 意味不明すぎる。

 それとも俺や武内さんが敏腕過ぎたのか。

 シンデレラガールを生み出したいと思った時にはすでにシンデレラガールになっている的な。

 ああ、ちょっと錯乱してきた。

 忙しさもあってヤバい。

 

 シンデレラガールになると忙しすぎて、お祝いも儘ならなかった。

 謝るがあだ名じゃなくて名前で呼んだら許してくれるとか。

 愛梨ちゃんマジ天使。

 

 

 

 なんとかオファーなどの時期をずらし、アイドルを入れ替え、なんとか超過密スケジュールを調整していく。

 そもそも学生が多いので無理なときは平謝りである。

 プロダクション単位で凄まじい注目を浴びたので、来年も凄そうだ。

 いや、マジで。

 シンデレラガールを舐めてた。

 よく考えたら日本中で人気投票した結果の順位のようなものだし、こうなるよね。

 765とか961、876はIAとかIUで注目されつつ、分散してたし。

 油断してた、マジでもうヤバい。

 

 

 

 

 

 嬉しくもツラい地獄を乗り越えてライブ直前までやってこれた。

 ライブに対しては全く不安はない。

 リハーサルも完璧だった。

 みんな緊張していたりと様々な反応を示しているが、それが可愛らしいのでへらへらしちゃうわー。

 あー困るわー。

 うちのアイドル可愛すぎて困るわー。

 

 ぶっちゃけ、あとはどれだけ完璧に近いライブになるかしか残っていないと思う。

 それくらい彼女たちは頑張った。

 そして俺らも頑張った。

 俺は笑いが出なくなるくらい頑張ったし、武内さんも眼光がヤバいことになってたし、ちっひも自分でドリンクがぶ飲みするくらいだった。

 社長はグッズを増産して、俺の仕事を圧迫しまくった。

 許さんぞ社長ぉぉぉ!

 というか、俺の睡眠時間を贄にささげ続けたのだから、失敗するわけがない。

 

 

 

 

 

 ライブまでは束の間の安息を得られるはず。

 やっとだと一息ついているとスマホに連絡が入った。

 父親だった人の訃報だった。

 集まる必要があるらしい。

 おそらくライブを少しだけ見て向かうことになるだろう。

 

 俺は今笑えているだろうか。

 不安を伝えてはいけない。

 伝わるはずがない。

 そう生きてきた。

 俺なら大丈夫だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 12月下旬

 

 ライブ開演まで1時間を切った。

 リハも完璧に終えたし、音響に不備は無い。

 今回のためにアリーナの一部を特設ステージにし、カボチャの馬車の電飾も用意するという凝ったつくりなのだが、問題は観客には見えないということくらいか。

 アイドルのモチベーションに発破をかけるためなのと自己満足なので気にしてないです(死んだ目)

 衣装も念入りに確かめたので問題があるはずない。

 アイドル部署としては初めてのライブだが、他の部署では頻繁に行われているので、助言を貰って滞りなく準備できた。

 

 問題は順調すぎて社長が無茶振りしてきたくらいか。

 あとはシンデレラプロジェクトのメンバーとして選出した練習生の面倒をあまり見れていないことも。

 トレーナーさんたちに任せているけど、やはり見て確認しておきたかった。

 仕事のスケジュールがきつい。

 IU本選が2月下旬、IAの受賞発表が3月……。

 そこら辺から仕事が減るはず。

 減るのを喜びたくはないが、このままだと許容量を超えてしまう。

 今ですら、表面張力で保っている状態だ。

 社長が「アイドルを増やしたら問題ない」とか言い出していたが、やめてください死んでしまいます。

 ライブとかCDなどを一括されたら、俺では無理。

 

 

 

 開始まで5分と迫った。

 武内さんが応援のコメントをしてくれるという。

 あんまり期待してない雰囲気。

 俺も期待してないけど。

 わかっていたことだが「みなさん、頑張りましょう」だけだった。

 お、おう。

 

 まあ、俺も特に言うことも無いから黙っていようかと思ったが、初ライブだし声掛けしとくかな。

 ライブに関しては何度も言うが不安はないし、心配事もない。

 ちょっと私事の関係で上手く笑えるか不安だったので、今日限りは至極真面目な顔をしているだけである。

 とはいえ、普段と違う雰囲気なので不安に思われたら困る。

 軽く笑みを浮かべて声をかけておいた。

 

 城ヶ崎さんに胡散臭いと言われた。

 あまり私を怒らせない方がいい。

 姉ヶ崎さんには妹ヶ崎さんがいて、今日ライブの応援に来ていると聞きましたぁー。

 なので後で武内さんをスカウトに向かわせますぅー。

 

 

 

 ライブの構成は最初に武内さんと選考したこれから売り出すメインの9人で歌って、ソロやグループでパフォーマンス、シンデレラガールの上位メンバー、愛梨のソロ、最後にライブに参加したメンバー全員で歌うという感じだ。

 軽いトークや紹介なども挟んでいるがパフォーマンスメインの構成だ。

 シンデレラプロジェクトに関してはポスターなどで告知しているので、一切触れない。

 持ち歌が少ないために幾らかの不満もある。

 だが、複数のプロダクションによる合同ではなく、単一プロダクションの企画なのだから贅沢な悩みというやつだろう。

 

 9人のパフォーマンスを舞台袖で見守るが、パフォーマンスも練習より遥かにキレている。

 いいことかもしれないが、ちょっと不安もある。

 昂揚感によって最初から全力ダッシュするような状態に近いだろうし。

 陸上競技とかの大会で、スタートダッシュに失敗して後半のスタミナや筋疲労で失速する感じである。

 あとは他の人につられて無理に大きく動くことも関係しているだろう。

 テンションが上がってるために疲労を忘れやすいのも大事だ。

 今回はメンバーが多いから問題にならないだろうが、今後のためにも是非とももっと伸びていって欲しい。

 

 ステージ袖から待機中のメンバーの元へ。

 まあ、みんな袖にいてそわそわしているのだけれど。

 全体的に緊張が伺えるが、許容範囲内か。

 と思いきや、橘さんがいない。

 この場を武内さんに任せて探しに行く。

 

 

 

 控室でブルってた。

 涙目ぷるぷるじゃなくて、顔面蒼白だった。

 「これくらい、1人で出来…あれ…」と呟いており、リボンは上手く結べていない。

 

 調べてわかってたけど、駄目だったらしい。

 緊張してしょうがないとか。

 まあ、知識だけでは追いつかない世界だしなあ。

 気を紛らわせるためにタブレットでも使うかと聞いたが、物に頼りたくないとか。

 お、漢だ……。

 冗談は無しにして、今のままだと俺がかなり不安なわけだ。

 

 片膝立ちとなり目線を合わせて、震えている小さな手を取る。

 室温は暖かく設定されているが、血流が悪くなっているのか冷たくなっていた。

 橘さんが訥々と呟くのを、頷きながら聞いていく。

 自分の名前が好きじゃなかったこと。

 仕事で呼ばれるのも嫌だったこと。

 仕事が楽しくなったこと。

 仲間と頑張るのが楽しいのはきっと音楽のおかげだということ。

 いつからか、名前が嫌いじゃなくなっていたこと。

 

 「だから、名前で呼んでください」

 

 そう言った彼女の顔には熱に浮かされたように紅く染まり、震えは止まっていた。

 繋がっていた手から温かい体温を感じられた。

 

 

 

 「ありす、行っておいで」と送り出す。

 元気な笑顔を浮かべていたので安心した。

 そういえばリボンは昔プレゼントした物だった、大事に使ってくれていたようで嬉しかった。

 終わったら新しい物を改めてプレゼントしたいものである。

 

 パフォーマンスで弛んだまゆのリボンを整え、ありすちゃんだけずるいと絡んでくる楓さんを軽く流しながら、よくできていたと褒めていく。

 当然の結果なのだが、言葉で伝えないといけないこともある。

 武内さんももう少し言葉を増やしてほしいような、そうなると個性が死ぬので困るような。

 ぐぬぬ。

 

 パフォーマンスを終えたありすが戻ってきた。

 あまりの笑顔に、俺も嬉しくなって抱き上げてしまった。

 不覚だった。

 ジト目に晒された。

 いや、みんなよく考えようぜ。

 ありすが可愛すぎるから仕方なかった(真顔)

 姉ヶ崎さんとは違うから。

 瀟洒で真摯な紳士だからね、俺。

 

 

 

 途中でロリコンかと疑われたこともあったが、大成功と言える終わりを迎えた。

 片付けや打ち上げも参加したかったのだが、私事で早めに帰らせてもらうことに。

 失敗したらトレーナーさんの最上級コースが待っていたのに、残念である。

 泰葉にカチューシャが似合ってたと告げて出ていく。

 夜行バスを使って向かう必要があるんだよな、この時間だと。

 

 

 

 

 

 時間をかけて雪積もる田舎に到着。

 ライブを最後まで見守ったので、徹夜の強行軍というね。

 夜行バスに乗った後、電車で田舎に向かうのだが、電車の数が少なすぎて笑えなかった。

 夜明け前は寒さで死ぬ。

 12月に入ったばかりならまだしも、年末は雪が積もっているので平靴や革靴だとツラいんだけど。

 そもそも、父方の祖父母の家など小一くらいに行ったきりである。

 俺じゃなかったら完全に忘れているレベル。

 徒歩だとたどり着けない田舎の奥のほうなので、迎えに来てくれるらしい。

 流石に畜生ばかりじゃないと安心した。

 記憶の彼方にある爺婆は最悪の部類だったから不安だった。

 

 

 

 叔母が迎えに来てくれた。

 父だった人の妹だ。

 おそらく、父方の親戚縁者で一番常識人。

 というか、この人の常識がそれほどでもないのに常識人という凄い空間に向かっているという。

 この先は地獄行きか。

 

 礼を告げて後部座席に乗り込む。

 助手席に乗ったらSAN値が直送されるから、後ろに乗る。

 護身発動というやつだ。

 これでおそらく一番の常識人だから先が思いやられる。

 と、小学生の女の子が先に乗っていた。

 叔母さんの娘さんかと思ったら違うらしい。

 この娘が渦中となるとか。

 マジか……。

 

 乗っている最中に情報を集めておこう。

 誰も何も教えてくれないだろうし。

 名前は佐々木千枝(ささき ちえ)さんと言い、10歳だとか。

 礼儀正しくてビビった。

 事情を聞くと、彼女の両親が亡くなったために身寄りがなくうんたらかんたら。

 おぅふ……。

 いい予感が全くしません。

 と、とりあえず千枝ちゃんと呼ぶことにした。

 佐々木だと彼女の母をイメージするとかで、泣きそうになってたし。

 

 

 

 大きい屋敷に到着。

 外見は昔からの日本家屋風なんだが、中身は田舎の仕来たりに縛られた地獄なわけで。

 飯に毒を盛られるかもしれないので口を付けられない。

 いや、マジで。

 ここら辺は身内しかいないから、事件として処理される可能性すら低いし。

 母だった人が盛られてた記憶がある。

 

 中に入るとこっちに注目した後、中高年が集まってひそひそ話をし出した。

 すげぇ嫌な空気だ。

 しかもなんか通夜、葬式、告別式、遺産相続が昨日あたりに全部終わったらしい。

 あーもう最悪だよ。

 遺産はねぇぞとか見知らぬジジイに煽られた。

 そんなもの目当てじゃないから。

 てめえの頭にも髪の毛がねぇぞと返しておく。

 よく見るとハゲが多い。

 やさしい世界。

 俺も将来ハゲになんのかなぁ、嫌だな……。

 

 爺婆が無駄に大げさに入ってきて、俺を睨んで座った。

 俺だけでなく、背中に隠れる様にいた千枝ちゃんも睨んだのかも。

 話が始まるようだ。

 かなり詳しく説明し始めた。

 親切心からかと思ったが、どうせ俺への当て付けだろう。

 まとめると、

 ・かつての父と母が離婚し、俺の親権は母へ。

 ・母だった人の不倫のせいとか言っていたが、どう考えてもどっちもやってた

 ・父は身寄りのない佐々木さんと再婚

 ・二人とも死んだ

 ・遺産は爺婆が回収

 みたいな話である。

 何が良いたいのかというと、おそらく「親戚のみんなー、俺らは悪くぬぇー!」ってことか。

 知らんがな。

 

 で、本題っぽい千枝ちゃんの扱いに話は移行した。

 今は叔母さんが預かっているとか。

 最後の常識人は格が違った。

 まあ、叔母さんも強く言われたら自分の子供すら差し出すであろう人だから信頼が全くできないけど。

 爺婆が長男を唯一として崇める長男教なので、千枝ちゃんを妻にとか言い出しそうだと叔母さんが小声で教えてくれた。

 もう頭が痛い。

 長男とか未だにニートしているらしいんだけど、そこんとこどうなのさ……。

 で、ハゲたちは面倒を見たくないので知らないふり。

 最後の良心が発動した叔母さんも、爺婆にお金を貰っているのでホントに何も言えなくなっているとか。

 俺しかいないのか……。

 

 

 

 背景がひどくドロドロとした展開のうさぎドロップになりそうなんだけど。

 死にたいけど死にたくない。

 新しい扉が見える……^q^

 

 

 

 

 

 千枝ちゃんを連れて東京へ向かう。

 働いているし、腹違いだけど兄妹だからと連れ出した。

 あとは、346のファイナルウェポンである右京さんっぽい弁護士に頼むしかない。

 最近は「右京さんが一晩でやってくれました」で全部片付く気がする。

 千枝ちゃんには悪いが、親戚はいなかったものとして生きていってほしい。

 帰ったらなんとか接近禁止を取り付けて戸籍ロックコースを頼もう。

 かなり難しいと思うが、右京さんならやってくれると信じている。

 もう俺も限界だった。

 

 帰りの電車で千枝ちゃんと話をして過ごす。

 両親は仲が良く、遊んでもらっていたこと。

 父も母も優しかったこと。

 今回の葬儀では父しかきちんと扱われていなかったことを泣きながら言ったあとに眠った。

 良かったと思った。

 俺のように扱われていなくて、ほんとによかった。

 良かったと思える自分自身にも安心した。

 

 

 

 電車を乗り継ぎ、高速バスへ。

 千枝ちゃんは俺の仕事に興味があるようだ。

 話題がなくなって沈黙するのが気まずいと空気を読んだのかもしれないけれど。

 テレビで歌って踊っているアイドルの手伝いをする仕事だと教えた。

 なぜ今の仕事をやっているのかと聞かれて詰まってしまった。

 自分からやりたいだなんて考えたことは無かった仕事だ。

 社長に声をかけられて、アイドルが好きだったから始めただけだし。

 あー、なんだかな。

 美しい物を間近で見たくなったとか、そんな理由か。

 千枝ちゃんが首を傾げてた。

 俺も首を傾げたいくらいですよ。

 

 

 

 

 

 3年目1月

 

 金が無い。

 千枝ちゃん関連で給料が消し飛んだ。

 全てを失った千枝ちゃんに何から何まで揃えたことが原因か。

 なんでこんなに面倒を見ているのか、俺にもよくわからん。

 社食じゃなかったらパンの耳を貰うくらいしかできずに餓死してた~的な下りになるレベル。

 

 目を離したら社長が声をかけていて、千枝ちゃんもアイドルに乗り気になってた。

 諸々の問題を解決してないから困るんだが。

 武内さんが陣頭に立つシンデレラプロジェクトだと俺が面倒見る時間が短いかもしれないということで、別にユニットを考えているとか。

 有り難いんですけど、有り難くないというか。

 とりあえず、練習生としてレッスンを体験するということになった。

 

 そういえば、961プロに所属しているJUPITERの3人組が移籍するかもしれないという噂話を耳にした。

 765と961の確執で何かあったらしい。

 詳しく知っているべき話か、無知でいるほうが賢いのか。

 取捨選択が難しい。

 情報を集めまくって知らないフリでもしてへらへらしてるのが一番賢い選択だろうか。

 

 

 

 

 

 菜々さんを連れて、スカウトしたライブバトル会場へ。

 あれだ。

 私、ここからデビューして今の地位を築いています、みたいな。

 言い方を悪くすると餌である。

 まあ、始まりの場所に感謝を伝えると言う理由が9割なので、そこら辺は気にしないで欲しい。

 

 事前に知らせておいたので、野外コンサート的な体になるかと思いきや、参加者がいるようだ。

 765、961、876の何処かが戦争をしかけてきたのかと慄いたが、アマチュアが殴りこんできただけだった。

 ここで勝利することで、デビューへの栄光を勝ち取るにゃとかなんとか。

 凄い根性だ。

 勝てたらスカウトが殺到するぞ。

 まあ、結果は語らないでおこう。

 死体蹴りをする趣味はない。

 ただ、菜々さんは兎だけど分類は西遊記で孫悟空と殴り合う玉兎だったから、猫では相手にならなかった。

 

 蹂躙劇の後は菜々さんのコンサートが開演されたので、それを関係者席で眺めつつ、惨敗を喫したみくにゃんに話を聞く。

 勘違いしないで欲しいのは、みくにゃんと呼んでほしいと言われたので呼んでいるだけだ。

 スカウトする気はないけど事情は聴いておこう。

 スカウトする気はマジでないけど。

 事情としては、すでにウサミンという個性激強の兎アイドルがいるから猫アイドルで売る気はないと断られまくったとか。

 で、ウサミンを倒せば後釜を頂けるからトップアイドルまっしぐらという大雑把な計画を語られた。

 なるほど。

 スカウトする気はないけど、事情はわかったぜ。

 猫パンチされた。

 みくにゃんぐう可愛。

 

 他のファンと混じって菜々さんを応援する。

 うひょー、俺にウィンクしてくれたぜ!とテンションマックス。

 うっさみーん!

 今日もかわいいよ!うっさみーん!

 

 

 

 ……ふぅ、ファンに混ざってサクラやるのもつらいわー。

 菜々さんが可愛すぎて最初からガチだったけどつらいわー。

 菜々さんが帰り支度を終えたので、合流し、みくにゃんを引き摺って事務所に戻る。

 

 スカウトはしないけど、オーディションをやってるから受けとけ前川ぁ!みたいな。

 最近気づいたのだが、募集してくる人たちよりも、ライブバトルに参加している人のほうが俺は好きなようだ。

 応募してきた方々の面接を終えた武内さん、着替えてきた菜々さん、暇していた社長を連れて面接を開く。

 履歴書などの資料がないことに気付いた。

 ……よし、みくにゃんに一つずつ聞いて書いていこう。

 

 ――前川みくにゃんさん、座右の銘をお聞きしてもよろしいですか。

 ――え、あの前川みくでいいにゃ。

 ――みくにゃんさん、座右の銘は?

 ――自分を曲げないことです。

 ――自分を曲げないということですが、アイドルとなると仕事は選べませんが構いませんか

 ――だいじょーぶにゃ!

 ――お魚、食べる仕事もありますよ?

 ――お魚は苦手なんですけど……。

 ――自分を曲げないというのに、前言は曲げるのですか。

 ――(涙目ぷるぷる)

 

 圧迫面接っぽくやったら、凄く良かった(粉みかん)

 俺の目に狂いは無かった。

 流石にいじめになるのであとは真面目にやってテキトーに流して、ダンスと歌を見て終わりである。

 シンデレラプロジェクトの推薦枠が空いてたはずなので、そこに入れさせてもらった。

 まあ、みくにゃんには補欠合格だと伝えたけど。

 合格をその場で伝えたら猫ぱんち喰らったけど、それもまた可愛かった。

 

 社長の反応は上々。

 武内さんは首に手をかけて傾げてた。

 輿水さんといい、みくにゃんといい、弄ることで輝きを増すアイドルは実に良い。

 ふとした時に、真面目な面だったり、無邪気な面だったりと色々な顔を見つけることで魅力が伝わるタイプだ。

 弄られキャラだと油断しているから無防備に急所を襲ってくる感じだろう。

 魅せ場を作るのが難しいこともあるけど、俺は好きなんだ。

 

 やる気があって可愛かったら好きだし、不遇なら尚グッドなだけだけど。

 

 

 

 

 

 2月

 

 田舎と千枝ちゃん関連は瞬殺だったらしい。

 わざわざ都会のホームまで訪れるくらいなら閉鎖空間に留まることを選択したっぽい。

 なので、練習生から一気に浮上した。

 

 社長が構想していたブルーナポレオンというグループに参加させるとか。

 俺はユニットの構成が苦手なんだ。

 猫アイドルをまとめてにゃんにゃんにゃんとか、眼鏡ユニットのサイバーグラスとかしか思いつかない。

 千枝ちゃん自身、他のメンバーに遅れているのは確かなのでスパルタ育成コース突入。

 女子寮に所属しているから、体力の限界まで練習できる。

 とはいえ、小学生なので限度はあるけど。

 

 

 

 

 

 菜々さんがゲスト出演しているバラエティ番組に、みくにゃんと千枝ちゃんを仕事見学に連れ出す。

 961プロのアイドルがMCなので何時もと異なる刺激を味わえるだろう。

 挨拶回りつつ顔見せしていく。

 控室に行ったが、黒井社長は今日は来ていないようだ。

 現場のスタッフさんへの挨拶へとスタジオへ入ると……。

 

 黒井社長を中心に立食パーティーしてた。

 さすが天下の961プロだぜ^q^

 

 黒井社長に挨拶すると「ウィ、私を待たせるとはいい度胸だ貧乏プロデューサー」と返事してくれた。

 今日はご機嫌のようで、しかも待っていてくれたとか。

 俺もご飯を食べていいらしいので、黒井社長との飯は旨いから好きですとにこやかに食べる。

 鼻を鳴らして社交辞令はいいとか言われたが、社交辞令ではない。

 誰かと食べるごはんは旨いのだ。

 そう伝えると何も言わなくなった黒井社長を横目に色々とパクつく。

 菜々さんとかみくにゃんとか千枝ちゃんとか、体重が軽すぎるので、いっぱい食えと促す。

 スタッフさんたちも集まってきた。

 収録がめんど……いいごはんが食べたいので、今回はこの立食を放送しようとか言い出した。

 マジで大丈夫か心配になった。

 

 961プロ所属のアイドルが、用意されていた質問で話題を広げていく。

 で、菜々さんもそれに乗るだけである。

 ほんとに大丈夫だろうか……。

 ついでに千枝ちゃんとみくにゃんも参加させてくれた。

 あぁ^~宣伝になるんじゃぁ^~

 

 

 うまうま、と食べつつ、次々と喋ってないアイドルの皿に料理を盛っていく。

 961も346も関係ない。

 中身が備長炭かってくらいこいつら軽すぎるんだもん。

 鯖を読んでてくれたらこんなに気にしないで痩せろと言えるが、真面目なのかそんなことは全くない。

 愛梨なんてご飯が胸に行くとか言ってたが、765を怒らせたくないので禁止ワードとなった。

 ゆるふわは関係ないだろ!

 

 黒井社長が961プロはどうかと聞いてきた。

 ……いきなり突っ込んできた。

 JUPITERについても答えろってことだろうか。

 「質はいいし、誰しもが磨けば確実に輝く。磨ける人がいない、もしくは足りてない気もする。それぞれの最適条件が異なるので、丁寧に管理をする必要もある」みたいな感じで答えておいた。

 忌々しそうに同意された。

 環境やスタッフも最高を選んでいるが、もっとも間近で管理する技術が追い付いていない状態らしい。

 時間をかければ最終的には輝くが、宝の持ち腐れのようで儘ならないとも。

 難しい話だし、俺には何もできない問題だ。

 と、思ったら移籍しないかと誘われた。

 アイドルじゃなくて、まさかの俺がヘッドハンティングである。

 実は、ちょっと嬉しかったりする。

 

 黒井社長曰く、今の俺は「金の卵どころか宝石の原石を見つけてくる鶏が、自らウェルダンで焼かれて食べてくれとアピールしている」ように見えるとか。

 腹が切り開かれても、すぐに処置すれば息を吹き返す可能性があるが、さすがに丸焼きは無理だとも。

 どういう意味なの……。

 

 美城よりも給料を出せるし、待遇も遥かにいいと言われた。

 わざわざスカウトしなくても、金銀宝石クラスの質を持つアイドルの中からより質が良いのを選ぶ仕事になるとも。

 恩があるし、義理もあるから961に行くのは……。

 ああ、でも千枝ちゃんのことでお金がないと困るのも確かだし。

 お金って魔性だわ。

 と、とりあえず話だけでも聞いておこうかな。

 参考までに。

 参考だけだからセーフ。

 

 聞く限り、同額以上は簡単に出してくれるらしい。

 出来高ではさらに上げていくとか。

 凄い。

 一秒で食いつきたくなった。

 とはいえ確かな金額は把握していないので、今いくら貰っているのか聞かれた。

 右手の指を二本、見せてみる。

 

 「二本、なるほど……。一年目の若造に二百万とは、美城もなかなか見る目が……」

 

 え?

 

 「ウィ?」

 

 二十万です。

 

 「……時給制で凄まじい敏腕なのか?」

 

 違います。

 時給だと1050円でした。

 あれ、安くなってる……?

 

 「……歩合制で座ってるだけか?」

 

 違います。

 北海道から沖縄まで仕事をとってきて、シンデレラガールも輩出しました。

 

 「……貴様の給与は一体どうなってるんだ」

 

 おそらく、固定給ですね。

 ちなみに保険や年金など五万、施設費六万なので、実質は九万に届きませんとドヤ顔。

 

 黒井社長、カメラマンに食い物を噴き出した。

 大手プロダクションの社長を噴出させたとか俺ってば伝説になっちゃうね。

 なっちゃうね(震え声)

 

 

 

 

 

 3月

 

 先月、黒井社長に説教された。

 それはもう、凄まじい説教だった。

 そういうのは765プロで精一杯らしい。

 俺にも仲間がいたのか。

 まあ、最近の765プロはもっと給料が出ているらしいが。

 高温油のプールに飛び込んで自らフライドチキンになるスタイルとまで怒られた。

 で、給料交渉しとけよオラァ!とまで言われた。

 それでもダメなら月に三本出してくれるとか。

 三十万か……ちょっとアリだな。

 しかし、給料の交渉とか、言いにくいし気まずいんだよな……。

 

 そもそもバイトとしてわざわざ雇ってくれて昔から世話してくれている社長に、銭が足りないじゃボケェ!って言うの無理でしょ。

 泥の中から引き揚げてくれた恩人に、不満足だオラァ!と泥を投げつけるって無理だもん。

 弁護士とか借りまくりの、迷惑かけまくり。

 全体的にかかった費用とか考えるとちょうどいいのかもと考えてみたり。

 

 恩知らずになってしまうが、やっぱり961も有りか……とか呟いてたのをみくにゃんに見られた。

 移籍するのか聞かれた。

 い、移籍しないよ(目逸らし)

 

 ――猫パンチ!

 ――ぐわぁぁあぁぁぁ!

 

 

 

 みくにゃんの理不尽さは天下一やでぇ^q^

 

 

 

 

 

 会社に併設されている喫茶店で立て籠もりが発生したらしい。

 犯人はみくにゃん。

 共犯にありすとかまゆがいるらしい。

 あいつら何やってんだ……。

 

 営業中の店を邪魔するのはさすがにヤバいので、交渉人として俺が赴く。

 真下正義を見たことがあるからプロ級だと思う。

 相手の要求は一つ。

 俺が346プロから出ていかないことだとか。

 お、おう。

 なんでこうなった。

 

 店内の机や椅子でバリケードを作り、ジュースとか飲んでる。

 いや、確かに君たちは無料だけど体が冷えるのでアイスドカ食いとかやめなさい。

 食べるのを注意しても聞く耳持たず。

 俺が961に移籍するかもと主張し出した。

 で、アイドルたちがぞろぞろとみくにゃんの傘下へ。

 喋らせたままだと敗北必死。

 一人一人の名前を呼びかけ、根気強く交渉してなんとかこちら側へ引き戻す。

 ここまで言われたら金のために移籍するのは辞めよう、と決心したら社長が現れた。

 どうも聞かれていたらしい。

 給料交渉となった。

 今いくらかと聞かれたので右手の指を二本、見せてみる。

 

 「……なるほど。君の希望としては?」

 

 社長の眉間に皺が寄っていた。

 機嫌を損ねたようだ。

 ちょっとドキドキしながら指を一本増やしてみる。

 

 「さすがに今の君には出せんよ。そもそも現状でも多すぎるくらいだ」

 

 溜息つかれた。

 ですよね。

 やっぱり三十万とか高すぎますよね。

 

 

 

 

 

 見守っていたアイドルがみんなバリケードの向こう側へ旅立った。

 社長が崩れ落ちた。

 

 

 




オリ主
多才にして唯一。
何でもできて、何もできない人。
日の目を浴びることなく、喝采も栄光もなく裏方で終わる。

社長
家賃とか忘れていた、と崩れ落ちた。

愛梨
王道を爆走してシンデレラガールとなった。
っょぃ、勝てなぃ。。。。

橘さん
最初に名前が嫌と言ってしまったことを悔いている。
得意技は「ほわぁ……(お目目キラキラ」

匿名掲示板
放火事件の話題で「やっぱりプロデューサーってクソだわ」という風潮。
高校はいけ好かないDQNだったという証言から「やっぱりプロデューサーってクソだわ」という風潮。
情報が集まってくると「俺はプロデューサーのこと信じてたから」と手の平をダイナミックに回転させた。
その後も糞と信じていたの手の平くるくるで手首がぼろぼろになってしまったのか、最終的に生活保護の話題になっており、プロデューサーはハイパーメディアクリエイターだという結論が出た。

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