実験室のフラスコ(2L)   作:にえる

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虹鱒3年目

 

 

 3年目1月

 

 千枝ちゃん関連の手続きや仕事の調整などを行っているが、明らかに先月までよりも楽だった。

 346プロの冬フェスと称したライブが終わったことが大きい。

 初めてのライブだったので宣伝したのだが、シンデレラガールやそれに連なる人気のアイドルを輩出したことによるフィーバータイムによって、各所から広告に駆り出されて都内が346プロの浸食で凄いことになった。

 IUの準備のため、上位アイドルのほとんどがいなくなった隙を付いた戦略に見えるが、膨れ上がりすぎて自爆気味であった。

 水が湧き出て盆から溢れて部屋を満たして、盆を沈めることによって水で満たした感じである。

 とりあえずライブ関連は終了、シンデレラガール関連はまだ盛り上がっているが、IUとIAの結果によって安定するだろう。

 

 また、IU関連で時間を割けなかった上位のアイドルたちが敗退して戻ってくるから、そちらに仕事が流れることも関係している。

 IUで優勝できなかったら引退するなんて話も一昔前にはあった、一握りの強いアイドルだけで業界を支えていけたからだ。

 おそらく篩にかけているつもりだったのかもしれない。

 今や形骸化しているし、そんなことをしたらファンから叩かれて大炎上である。

 そもそもプロダクションも自らの手で磨き上げた宝石を路上に転がすほど呆けたことはしない、どこかの烏なり猫なりが掻っ攫っていくのは目に見えているためだ。

 成長を続けるアイドル業界で、敵に餌を与えて肥え太らせるような真似をする者はいないのだ。

 

 

 

 

 

 社食で孤独のグルメをしていたのだが、今月からは千枝ちゃんとご飯を食べるようになった。

 女子寮に入居させてもらえたので、迎えに行って一緒にご飯を食べている。

 引き取ったからには自分の家で世話をすべきなのかもしれないが、俺はあまり家に帰らないし料理もできないので、こういった形になった。

 仕事で常に傍にいることはできないので、コミュニケーションも兼ねた試みだ。

 あとは寝るまで様子を見ているとか、そんな程度だ。

 多感な時期に色々と問題が起きている不運を意識させないようにと頑張っているのだが、なかなか難しいものがある。

 手続きが終われば小学校に通えるようになるが、半端な時期のため、いじめなどが起きないか心配だ。

 

 日用品とか学校に必要な道具、服なども揃えてみたが、不足がないか不安になる。

 そもそもリコーダーの種類だけでも結構あって困った。

 俺が小学生の時はリコーダーを買ってもらえなかったので手ぶらで授業に挑戦してた記憶がある。

 先生に注意されたがそれでもやりつづけ、卒業する頃にはアカペラ、指ぱっちん、草笛、紙笛、歯笛、口笛、指笛、手笛(ハンドオカリナやハンドフルートなど)、12種類同時ボイパなどのヒューマンビートボックスとしての技術を一通り修めたので問題無くなった。

 合唱大会などはピアノが緊張して失敗したところを補うように俺が旋律を奏でたし。

 まあ、流石に千枝ちゃんには無理なのできちんと揃えておきたいわけだ。

 

 他にもいくつか問題が浮上しているが、その中でも「どうやって千枝ちゃんに対応すればいいか」というのが最も大きい割合を占めている。

 ありすも小学生だが、彼女は大人になろうと頑張っているので、それに合わせれば良かった。

 日常的な部分はご両親が見守っているから問題などなかった。

 が、千枝ちゃんは違う。

 俺が親としての要素をすべて占めることになる。

 ……あ、これは無理だ。

 だって俺、育てられてないから親とかよく知らないし。

 前世の記憶とやらも、まともなモノが一切ない。

 理想の親というものが全くわからん。

 ドラマの撮影などで親子の役を見たこともあるが、どうもしっくりこない。

 346プロの社訓に「穢れなき偶像であれ」とあるが、偶像にすらなれないんですがそれは。

 無理。

 完全に諦めの境地である。

 千枝ちゃんには申し訳ないが、俺を反面教師として生きてほしい。

 

 

 

 

 

 みくにゃんをスカウトしてから数日後、久しぶりに完全休日ができた。

 半休ならひと月からふた月に一度あったが、タイムカードだけで記してずっと仕事していたので、完全な休みというのは……。

 そもそも休み自体いつぶりだ……?

 確か……父親だった人が死んだことによる休みや母親だった人の事件によるもので休んだので……なんだ結構最近じゃないか。

 前途の休みを無視すると、250~300日前に休みがあった気がする。

 正社員になってから、身内の不幸以外で休んだことないですってアピールできる。

 いや、休まないのは普通だから当然のことか。

 やっぱり社会人ってすごい。

 

 仕事ばかりしている人は、突然の休みにやることなくて困るらしい。

 まあ、俺は困らないんだけどね。

 これからスカイダイビングをやるから全然やることありまくりなわけよ。

 俺インザスカイする理由だが、冬フェスのときに輿水さんが空から現れるとか言ってしまったためだ。

 とりあえず俺が飛んでみて、問題無さそうなら訓練積んで、ライブで空から登場的な。

 

 ライブが終わって父方の元親族が蔓延る魔境に向かう際に連絡して、スカイダイビング用の書類は用意してもらっていた。

 すぐに書類に取り掛かったのだが、未成年は保護者による承諾証が必要だった。

 で、俺の保護者、というか親権はどこにあるのかという話になる。

 母だった人が育児放棄+借金問題の際に弁護士の方が祖父母に親権を移したのだが、祖母が亡くなる間際に社長と相談していたそうで、社長と養子縁組する予定だった。

 が、放火によって俺が辞退した。

 そのままだと親権が浮いたままとなってしまうので右京さんが後見人となってくれており、千枝ちゃんの分も兼任してくれている。

 財産については、横領などが横行していて不安だろうからと俺に任せてくれた。

 昨今稀に見るいい人やでぇ……。

 まあ、そういうわけで許可もらって、右京さんとスカイダイビングをすることになった。

 

 

 

 右京さんもかつて経験があったとかでライセンスを持っており、ソロで飛べるとか。

 もうあれよ、流石右京さんだ!としか言いようがない。

 俺も講習の後、時間が許される限りジャンプを繰り返す。

 右京さんとタンデムジャンプをやっていくが、途中他の客がいないとフライトしないという話になった。

 で、事務所で雇っているという亀山くんと神戸さんが召還された。

 遅れて講習を受けていたとか。

 これでフライトできるでしょう、と笑みを浮かべた。

 流石右京さんだ!

 

 

 

 右京さんと4000m上空からのジャンプを楽しんだ帰り道、スカウトされた。

 315プロダクションの女性プロデューサーだった、写真で見たので見覚えがあった。

 確かに初対面だけど、大きなプロダクションのプロデューサーは把握しておいたほうがいいじゃないかと。

 315プロのプロデューサーで面識があるのは大柄の男性だけだからなぁ。

 どうでもいいけど、女性プロデューサーをプロデュンヌと呼ぶ場合もあるとか。

 デュンヌって声に出すとなんか背中が痒くなる。

 

 346所属のプロデューサーだと告げると全力で謝られた。

 まあ、346はアイドルに新規参入した新米とはいえ、全体的に見たらアホなくらいの大手だからしょうがない。

 声をかけただけでも346がケンカ売られたと受け取ったら、小さなプロダクションだと即死判定が入る可能性もあるし。

 「大丈夫です、気にしないでください」とこの場を納めようとしたんだが、何を勘違いしたのか「じゃあ、入ってくれるんですね!?」みたいな流れに。

 (入るわけ)ないじゃん。

 あ、これ関わっちゃいけないタイプの人だ。

 

 それに315プロとかホモ臭が……いや、なんでもない。

 可愛いアイドルもいるにはいるんだが、315プロは男のアイドル専門なわけで。

 女装してたり、男の娘というやつをしていたりするとか。

 斬新すぎて付いていけない(焦燥)

 目を離したら右京さんがスカウトされてて草も生えないわ……。

 

 

 

 なんとか断って振り切って帰ってくると、315プロのデュンヌとは異なるプロデューサーから謝罪の電話。

 同僚が大手プロダクションからプロデューサーと顧問弁護士を引き抜こうとしたことへの後処理である。

 実にかわいそうな話なので、「事を荒立てるつもりもないし、そもそも今日は特に何もない一日だった」と宥めて切る。

 終わって一息ついて仕事に取り掛かろうとしてからという絶妙の間で、今度は315プロの山村さんという方から電話があった。

 しかも内容は謝罪の電話とか。

 ……業務は分担して、担当者が一括してほしいんだけど。

 ちひろさんも気を効かせて断ろうとしてくれたが、必死に縋りつかれた上に泣かれたとか。

 俺が休みを取ってスカイダイビングしたばっかりにすまない、ちひろさん……。

 謝罪電話らしいが、もう面倒になって全体的に聞き流して時間は大丈夫ですかと遠回しに切らせようとしたら「もちろん他のお仕事もちゃんとやっていますよ」と自信溢れる声で言われた。

 俺ができないし、というか他に言いたいことが……ああ、もう!

 315プロのプロデューサーに抗議した俺は悪くない。

 

 ちなみにスカウトは「そこのアナタ、胡散臭い系アイドルとかどう?」だった。

 なにがどうなんだ。

 もっとオブラートに包む努力してくれよ……。

 

 

 電話対応も若干の火種が残った気がしないでもないが、なんとか終わらせると社長から呼び出された。

 休日に何故いるのかと聞かれたが、そりゃあ(仕事と)千枝ちゃんの相手ですよと爽やかに答える。

 社長から、楓さんが北東地域のIAにノミネートされたと告げられた。

 頭を抱えてしまった。

 なんでだし。

 温泉とか酒のレポートなどで北東に行き過ぎたのだろうか。

 予想以上の人気があるらしい。

 

 部屋を辞そうとすると、呼び止められた。

 仕事するうえでのプロデューサーについての話だ。

 俺の仕事のようなプロデューサー業は量では補えないのだとか。

 アイドルの質と同等以上でなければ導けないとも。

 わかりやすく表現するとアイドルの武器や装備品と表現できるのがプロデューサーだというのだ。

 プロデューサーが優秀であれば優秀であるほど、アイドルの底上げによって限界以上の強さを誇るとか。

 

 で、961プロはミスリル装備らしい。

 ファンタジーで最強だが量産されているのがそれっぽい。

 765プロの赤羽根さんはロトシリーズだとかで魔王に強そう。

 武内さんは斬魄刀とか。

 もう世界観が滅茶苦茶なんですがそれは。

 

 最後に俺だが、最初はイデオンだったが今はイデの意思積みガンバスターらしい。

 何故か俺だけロボット枠なんだよなぁ……(呆れ)

 しかも成長途中で、これからネオ・グランゾンや∀ガンダム、ターンX、真聖ラーゼフォン、グレートガンバスター、ゲッペラーなどに変化していく可能性があるとまで言われた。

 ちなみにイデ意思積みのまま。

 ほ、褒められているのか……?

 

 

 

 最後に使い方と使わせ方の両方を誤ってはいけないと社長は締めくくった。

 それが才能の代償らしい。

 強ければ強いほど、使用者にも負荷が増すということだが、アイドルとプロデューサーの能力に偏りがあるので尊重しなさいという話だろうか。

 俺の表現だけ宇宙が滅びるスケールで困るんだが。

 大げさな冗談だよね……?

 

 

 

 退室する際にジ・アースの可能性もあると聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 2月

 

 IAを辞退しても良かったのだが、楓さんが出来るところまでやりたいと前向きだったので参加することに。

 2月末のIUが終わった後の3月上旬頃に各地域のIA選考がある。

 その選考で優勝すると、東京でのグランドファイナルがあって大賞が決まる。

 現状だと無理ゲーなんだよなぁ。

 地域戦は勝てると思うのだが、グランドファイナルは4位くらいか。

 おそらく、他のアイドルの弱点を叩けるだけ叩いて、完璧にパフォーマンスを終えて4位と予想。

 全五地域の中で4位……ぐぬぬ。

 前々から準備していればもっと上を狙えたのに、見通しが完全に甘かった。

 

 俺のせいだな、ほんとに失敗した。

 ライブにばかり気を取られた結果か。

 素質を考えると考えられる到達点だったし、努力を顧みれば当然だったのかもしれない。

 目が曇っていたし、慢心していたし、調子に乗っていたのかもしれない。

 プロデューサーなのに。

 そもそも去年の時点ではわからなかったというか、今の今まで全く考慮していない不意打ちだったというか。

 いや、やめよう。

 言い訳を幾ら積んでも目標には届かない。

 もっと戦略を練っていく必要がある。

 

 

 

 それでも、見立てが変わらないと確信できてしまう。

 わかってしまう。

 だから言い訳したくなる。

 

 

 

 

 

 とりあえず曲やダンスなどは他のユニットのものも使うとしよう。

 パフォーマンスとしての形には出来るだろうけども、武器になるとも思えない。

 同じ歌とダンスを連続使用すべきだろうか。

 それだと他のアイドルの弱所を叩けないうえに、こちらの欠点となってしまう。

 選考で使う二つから三つのみに種類を絞るが、楓さんの持ち歌を重点的に鍛えていく。

 地域選考をぎりぎりで勝ち上がって、ファイナルで……。

 いや、綱渡りの戦いを調整に使うとか俺の性に合わないし、楓さんのスタイルでもない。

 踏み外して落下するように失敗、とはいかないだろうが、無駄に消耗するはず。

 得意曲の連打か、間を挟んで使うべきか。

 それも有りか……。

 

 ぶつぶつと悩んでいたら、武内さんに声をかけられた。

 シンデレラプロジェクトのメンバーとして目ぼしい子を見つけたので行ってくるとか。

 だいたいの選考は終わっているが、それでも加入させたい子を冬フェスで見かけたらしい。

 予定では12人枠であり、現状では11人埋まっているが、拡張してでも期待しているようだ。

 まあ、武内さんがメインでプロデュースするからカバーできるなら何の問題もないと俺は考えている。

 ちひろさんとか社長とか他のスタッフにちゃんと説明する必要もあるけど。

 

 島村卯月(しまむら うづき)さんという女子高生が目当てらしい。

 気分転換に俺も付いていくとしようかな。

 

 

 都内のアイドル養成所なので、社用車に男二人で乗り込みブロロロ……と向かう。

 なるほど、養成所か。

 そういえば意識してなかったが、養成所ならやる気は確実にあるし、能力も見ることができるのか。

 今まではライブバトルのパフォーマーや観客中心のうえに都内ばかりを活動していたから、俺も養成所を見て回ってみようかな。

 

 目的地に到着した。

 助手席に暗殺拳を使いそうな武内さん、運転席にはへらへらしている俺。

 これは傍から見たら取り立てですわぁ……。

 相手が大丈夫か心配になってきた。

 俺だったら売られるかと不安になって話を断るな、マジで。

 そう考えると事務所に所属したアイドルってキモが据りすぎでしょう。

 変な連中に騙されないように更なる注意を常日頃から促す必要があるし、送り迎えにもさらに気が抜けなくなったわ。

 

 車を駐車しておくので、先に行ってくださいと武内さんを降ろす。

 俺がいるよりもダメージは緩和され……あれ、俺が先のほうが良かったか。

 武内さんが先の方が本気感が増すかと思ったが、暗殺に来た忍者かと思われる可能性がある……?

 まあ、断られたらその時はそのときだと受付で挨拶する。

 武内さんも挨拶したらしいが、その前にアポ取ってなかったっぽい。

 ガバガバ過ぎぃ……。

 案内された部屋に向かうと廊下で話している講師らしき方と武内さん。

 どう見ても講師らしき方は怯えています、ほんとにすみませんでしたぁぁぁ!!!

 

 なんとか落ち着かせて、スカウトしに来た旨を伝える。

 武内さんが来ただけでこんなに怯えるとか、講師として大丈夫かちょっと心配になってきた。

 まあでも話を聞く限りだと、ノックせずに扉をゆっくり開いてきたらしい。

 で、逆光で現れたのが暗殺者タイプ、と。

 ああ、うん。

 そら怖いよね。

 俺の感覚がマヒしてきたのかもしれん。

 

 じゃあ、お話の準備しましょうかねと資料などを纏めている隙に、武内さんがダイナミックエントリー!

 ノックしてぇ!

 お願いだから!

 社会人としてのマナーを守ってぇ!

 あなたがノックなしで入ると怖いから!

 島村さんが恐怖でぐるぐるお目目になってるからぁ!

 

 

 

 なんかすごい疲れたが、なんとか宥めて落ち着いて話せる体勢まで持って行けた。

 まあ、今回は話だけで何度か通っていく形を取りそうだけど。

 他の事務所もスカウトしているだろうし、選ぶ時間も……一発オーケーでした。

 うぇぇぇぇ!?

 武内さんのガバガバな説明でもオーケー出すとか、マジでヤバいぞこの娘。

 

 いや、可愛いよ。

 凄い俺がプロデュースしたいもん。

 愛梨のシンデレラガール関連とか楓さんのIAが無かったら俺がやりたかったくらい。

 俺の中では菜々さんが憧れ的なポジションだが、一番プロデュースしたかったのは765プロの天海さんだったのを思い出した。

 島村さんは天海さんに匹敵するくらいプロデュースしたい。

 いや、四月からなら……ああでもシンデレラプロジェクトにも人が必要だし、武内さんが見つけてきた人だし。

 ぐぬぬ……。

 ……口惜しいが、ほんとにすごいまじでやばいくらい狂おしいれべるで悔しいが諦めよう。

 ただまあ、それは置いておくとしても人を疑うことを知ってほしい(震え声)

 

 シンデレラプロジェクトの目的はシンデレラガールを誕生させることだったのだが、プロジェクトが始動する前に生み出すという事故が起きたので今のところは多方面にプロデュースとして濁している。

 で、それに付随して全体的な活動方針も企画中になっている。

 ……よく人が集まったなと感心したいところだが、社長や武内さんや俺でスカウトしてきたメンバーばかりなんだよな。

 見直してみるとガバガバすぎぃ(戦慄)

 言い訳するとライブが急がしかったし、IAもあるし、そもそも企画が固まって形にするはずのところでシンデレラガールが生まれるという意味不明な事故が起きたわけで。

 いや、でもアイドルを真剣に目指している方々には申し訳ないです。

 そもそも担当じゃないから俺にも実はよくわかんないんだよ!

 

 とりあえず島村さんはユニットを考えており、他のメンバーは選考中なので待機という話になった。

 あとは枠を増やして入れるから、その関係だけだが。

 駄目だったら俺が……いや、ちゃんと話を通しますよ。

 むしろもうCDまで確約でいいんじゃないかと思うくらいだ。

 可愛いし、やる気あるし、ストレートに可愛いし。

 選考理由で武内さんが笑顔と答えると、島村さんが渾身のえへ顔ダブルピースを披露してくれた。

 

 ああああああ可愛すぎるぅぅぅぅぅ^q^

 

 

 

 島村さんのスカウトから数日後、また武内さんがスカウトに行くらしい。

 俺は付いていくのをやめた。

 悔しさでまた魂が焼けそうになるかもしれんと考えると気軽に行けない。

 千枝ちゃんやありすのほっぺをふにふにすることで誤魔化したが、なかったら即死だった。

 

 

 

 

 

 

 なんとか島村ショックによるダメージを回復し、IAの地域戦に向けた特訓や仕事に繰り出す。

 今度は給料交渉しろと黒井社長に怒られる事案が発生。

 すでに俺の名前で島村さん用の枠をごり押ししまくったからなぁ。

 我が儘を言える空気じゃないんですが……。

 

 ちなみにIUは961プロのJupiterが思ったよりも振るわず、765プロが持って行った。

 そりゃあ黒井社長も激おこになるわな……。

 

 

 

 

 

 

 3月

 

 俺の移籍問題からみくにゃん立て籠もり事件が発生、その際に俺の給料に不備が発覚したらしい。

 そして、それに誘爆したかのように次々と色々な人の首が飛んで行ったり。

 列挙すると凄まじいので掻い摘んで説明すると

 ・アイドル部署に嫉妬した人が成果を下降判定や懇意な部署へ補填処理していた

 ・コネ入社の人がきちんと仕事を覚えてなくて、特殊な給料形態の人の給料を新卒用にしていた

 ・予算で賄われている施設費をちょろまかしている人がいた

 ・予算を流して不倫に使っていた

 ・社内で浮気していたくせに真の愛を語って社長をガチ切れさせた

 ・社内の情報をネットにアップした人がいた

 ・東豪寺プロに懐柔されてスパイ状態の人がいた

 ・アイドルや部署のスタッフによる証言で俺の勤務時間がヤバいことが判明

 などである。

 任された右京さんがバイブレーションしすぎてヤバかった。

 逮捕されるような案件もあったが、IAを控えている楓さんのように大きなイベントを控えている歌手や俳優の方々もいたのでできるだけ穏便にという話で損失は金銭での解決に至った。

 懲戒処分の嵐が巻き起こり、大半が懲戒解雇となった。

 縁故採用とのために無駄に分岐して用意されていた仕事も一括されることになるらしい。

 

 あとは俺の給料交渉だが、ほとんど俺と社長が右京さんに説教されてただけだった。

 もっと自分の価値を~みたいなことを言われても、労力を金額に換算とかよくわからないし……。

 そもそも時給1050円だったからなぁ。

 ちなみに業界プロデューサーの平均年収は600万で、有名どころになると桁単位で変わっていくとか。

 なん…だと……?

 問題が多すぎるので、経理はちひろさん辺りが管理することになった。

 

 役員などによる社員尋問などで時間がかかったが、問題も収束した。

 と思ったら今度は東豪寺プロが煽ってきたので、こちらも大手のパワーでゴリ押しつつ東豪寺プロに恨みを持つプロダクションを呼び寄せて燃え上がらせた。

 それに釣られた記者やパパラッチが右京さんによって過去の情報を持ち出されて必殺された、流石右京さんだ!

 

 ネットでは「346プロはやっぱ糞→俺知ってたよ、東豪寺プロはブラックだって→765プロとかブラックアンドブラック→やっぱり961はホワイトだな!」といういつもの流れだった。

 完全に冗談の流れが出来上がっているので問題視されにくくなったり。

 というか何が問題なのかマヒし始めているんじゃないか……?

 真面目に考察しているところもあるが、声は大きくないのでスルーされていた。

 あと黒井社長が961プロへの熱いホワイトコールに困惑しているらしい。

 

 

 

 

 

 給料交渉によって楓さんのレッスンが少しだけ滞ったが、細かい点を仕上げていくことしかできないので束の間の休息になったと前向きに考えよう。

 楓さんに付き添って北東地域へと出張。

 3日前に現地入りし、パフォーマンスを流して調整、息抜きがてら地元のちょっとした番組にゲスト出演する。

 普段も観光しているが、今回は北東IA選抜のみなので時間にかなり余裕がある。

 昼間から嬉しそうに地酒を飲んだり、温泉に突撃する楓さんを見ていると、最近の仕事は東京ばかりだったのでこういったことが目当てだったのではないかと疑念が……。

 

 楓さんはライブバトルの経験が少ないので不安だったが、払拭するような活躍で優勝。

 頭ひとつ飛びぬけているパフォーマンスだった。

 IA部門賞『SNOW WHITE』を受賞した。

 当然だと思う半面、やはり嬉しかった。

 それは事実だが、気分は晴れない。

 IAのグランドファイナルを考えると如何ともし難い気分になる。

 

 

 

 翌週、都内で行われたIAグランドファイナルが終わった。

 大賞は765プロのユニットが受賞した。

 IUの勢いそのままといった印象だった。

 当初の見立て通り、楓さんは4位だった。

 少し違ったのは、どのアイドルもミスしなかったことか。

 ミスに付け込んでなんとか4位かと思っていたが、そうではなかった。

 俺は自分が恥ずかしかった。

 

 檀上では、入賞してライトに照らされた1~3位のアイドルの姿。

 4位と5位は後ろに控えているだけ、スポットライトが当たることはない。

 楓さんと目が合った、そして柔らかく微笑んだ。

 会場は暗くなっており、明確に見えたわけではないがそう感じた。

 何故だろう、目を逸らしたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 346プロの事務所内で祝いの席が設けられた。

 CDを発売した時、シンデレラガールを取った時、ライブを終えてから数日後の時、IAの部門賞を受賞した時、そして今日。

 節目毎に祝ってきた。

 今までは楽しかった。

 今日は……。

 胡散臭さに欠けていると指摘された。

 笑えているか自信が無かったので、結構きつい。

 

 

 

 千枝ちゃんを寮に所属するアイドルに任せ、片づけを終え、自分の席に座る。

 早く帰って休むようにと言われているが、眠れそうにない。

 一人になるとずっと結果を考えてしまう。

 息抜きに水を飲むと、なんとなく苦みを感じる。

 目を瞑れば、輝いていてほしいアイドルに光が当たらなかったことを思い出して、堪らない気持ちになる。

 

 時間がもっとあったらと考えてしまうし、パフォーマンスが採点に強く影響していたので菜々さんや愛梨だったらとも思ってしまう。

 いや、出来る限りのことをしての結果だ。

 結局俺がプロデュースすることになった、誰が出ても変わらなかったのかもしれない。

 楓さんには一年、いや、半年早かった。

 たぶん、特化していれば勝てただろうが、それだけだ。

 それではアイドルとしての魅力を伝えることはできなかった。

 この結果が俺の精一杯だった。

 それがなによりも惜しい。

 

 きっと俺は贅沢なことを考えているのだろう。

 IAの部門賞を受賞できる機会は年に一度だけ、その限られた機会で5人のみが選ばれる。

 必死に努力を続けて手が届かないアイドルがいることも理解している。

 受賞に携われた身としても、栄誉なことだとわかっている。

 楓さんの資質を考えれば当然のことだともわかっていた。

 だからこそ、悔しいんだ。

 

 PC画面のみを光源としていたために薄暗かった事務所の電気が点いた。

 目が少しだけくらくらした。

 誰だろうかとスイッチの近くに視線を向けると楓さんだった。

 手にはコンビニの袋。

 一緒に飲みましょうと誘われた。

 

 

 

 楓さんは嬉しそうにお酒を飲んでいる。

 俺はオレンジジュースを飲む。

 少しだけ酸味が強く感じられた。

 お祝いを告げたが、いつも通り笑えているか自信がない。

 

 ちびちびとオレンジジュースを飲んでいると、楓さんが見つめてきた。

 透き通るような緑と青のオッドアイの瞳。

 グラスを見せてきて、折角なので乾杯しましょうとのこと。

 折角とはいったい……。

 IA部門賞『SNOW WHITE』について乾杯するのだろうか。

 グラスを同じ高さに合わせると楓さんが口を開いた。

 

 「私にはIA大賞を取れる魅力があると言ってくれたので、来年こそは取りますよ」

 

 楓さんには珍しく力強く告げてきた。

 その言葉に、俺は目を見開いた。

 来年。

 ああそうか、来年もあるんだ。

 もう結果は出ているのだから、何時までも引き摺っていてもしょうがない。

 わかっていたはずだった。

 わかっていると思い込んでいただけだ。

 悔しくて依怙地になっていたのか。

 今がいつまで続くのかと終わりに不安を抱いて焦っていたのかもしれない。

 

 「プロデューサーと私の来年のIA大賞に」

 

 優しい声音によって紡がれた言葉を追うように、硬質なガラスの音が響いた。

 そして、静かな事務所の隅々に染み込んで消えた。

 やわらかなボブカットの髪を揺らしながら、上機嫌に楓さんはグラスの中身を呑んでいる。

 年齢よりもずっと若く見える童顔が酒気を帯びてほんのりと赤く染まり、左眼の泣きぼくろが色気を感じさせた。

 子供が遊ぶように、楽しそうにお酒を呑んでいる。

 

 アイドルを好きな理由を思い出した。

 曇った世界で、それでも輝こうとする強さが、何よりも美しかった。

 その在り方が眩しかった。

 燦然と輝くその姿に憧れたからだ。

 

 

 





オリ主
名前は夏芽薺(なつめ なずな)。この名前の花言葉は……。
イメージとして、課金と無課金を併せ持った人。最終的に経済問題は解除された。
特徴は才能が有りすぎてヤバいだけ。ただ、才能は才能に惹かれるので、才能を持っている人物を引き寄せるナチュラルトラップでもある。
また、能力を流れで表現すると水中や海洋の生物がことごとく溺れる激流。依存したり栄光に目が眩んで身を委ねたアイドルは簡単に溺死する。
公私において、その無限の才能は幸不幸を振り撒くため、抗うと破滅する。が、見た目が侮りやすいので破滅しまくりである。
IA戦後は流れの緩急を付けられるようになった。
もばます6以降は敗北を知りたいモードに突入する。
シンデレラプロジェクトのレッスンを温いと一言で切り捨てて、地獄を創造しにいくエピソードが……。

美城社長
オリ主の才能が日々ヤバくなっているのに気づいた。また、オリ主に能力ゆえの孤独を気付かせない有能。
アイドルを増やすことで、オリ主の激流からアイドルを休ませようとした。
が、流れを調整できるようになってもアイドルを拾ってくる。
久しぶりのスカウトが楽しくなってしまった模様。

右京さん
ぶるぶるとバイブレーションしてた。
オリ主がDライセンス取得すると、10000m降下のヘイロージャンプへ。
3月末の休暇の際に友人のコテージへ遊びに行くと殺人事件が発生し、推理によって犯人を導き出した。


オリ主が幼少の頃からなんでもできたために、自分のいる意味を見失った。また、妻との夫婦関係も面倒になって離婚した。親権は争わなかったうえに養育費なども払っていない、というか協議しなかった。
生家が長男至上主義で、存在しない物同然に育てられてきたことも関係しているのかもしれない。
自分を求めている女性と再婚し、仲睦まじく生活していたが事故死した。


顔の造詣は美しかったが、ひどいヒステリー持ち。
その性格のため、親族とは仲が悪い。
色々な欲に溺れてぼろぼろ。獄中で群発頭痛が発症、頭を砕いて自殺した。


なんでもしまむら!
ゲーム開始時に絶対選んじゃうくらい可愛い。
えへ顔ダブルピースの破壊力はマジでヤバい。

早坂美玲
美玲をステマするために書いたはずだった。
なお気づいたら一切出てこない模様。
原因はアイドルの全員が可愛いためだと予想できる、出来てしまうのだ。
全部アニメが悪い。

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