実験室のフラスコ(2L)   作:にえる

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サモンナイト1(完)


まったりさもんないと2

1-1

 

 

 --1

 

 このリィンバウムという世界で生活してわかったことは、予想以上に殺伐としていることだ。

 召喚術という、リィンバウムと接している4つの世界の何れから住人を召喚獣として呼び寄せる技術がある。

 その召喚術で呼び出した召喚獣を、奴隷にしたりするのだ。

 契約の際に、召喚側が凄まじく有利な条件を結べるらしい。

 召喚獣は強力な者が多く、召喚術が扱える召喚師はドヤ顔である。

 

 やべー。

 頭やべー。

 ファンタジー世界=奴隷みたいな認識はあったが、目の前で「奴隷でげすよゲヘヘ」みたいなノリを見せられても困る。

 というか引く。

 

 ただ、文明レベルはそこまで高くなく、島から流れていた俺でも街に出入り出来るので、そういった点は有り難い。

 街道を歩くと盗賊とか出るけど。

 中世か。

 盗賊から金品を奪ったり、捕まえた野良の召喚師を街で憲兵に渡すとちょっとした小金になるので、完全にお金に見えてきた。

 召喚術はあまり外に流れてはいけない技術らしく、野良召喚師は縛り首っぽい。

 やべーわ。

 っべーわ。

 でもなんだかんだ楽園だったわ。

 

 

 

 

 

 以前拾ったケンタロウだが、覚えが良くなくて困る。

 ビームは斬れ、銃弾は逸らすか避けろ、刀剣は交差で砕けと教えているのに、全然出来る気配が無い。

 もうあれよ、出来ないなら死ぬしかないレベル。

 だって敵が強い上に殺す気で来てるし。

 

 ビーム斬るのは溜め無しのエックスバスターで練習させてもらって来いよ。

 KOS-MOSの兵器は駄目、弾速と集弾性が高すぎてケンタロウだと即死するから。

 銃弾避けはゾンビと戦ってたクリスとかジルに頼めばいいんじゃねえの。

 ダンテは駄目、死ぬ。

 刀剣類は大神さんとかゼンガー、ユーリに頼めば。

 ゼロは駄目、手加減が下手だから真っ二にされる。

 体術はリュウに教えて貰って。

 ほら、波動拳?とかいうの体得しとけば便利そうじゃん、俺は無理だけど。

 フランクさんは駄目、隙を見せると内臓抜かれるから。

 

 あー、さっさとこんな訳解らん世界から出てリィンバウムに帰りたいです。

 

 

 

 

 

 --2

 

 俺らはリィンバウムに居たはずなのだが、ケンタロウが召喚術を使ったら異次元に飛ばされたっぽい。

 どういうことなの……。

 

 近くにいた零細探偵の人とその助手ポジションの人から話を聞くと、なんか宝である結界を張ってた石が盗まれて異世界同士が繋がってどうとかこうとか。

 なるほど、わからん。

 集まってる連中を見たら服とかバラバラで装備とか規格が滅茶苦茶だ、異世界出身と聞いて納得しつつあるけど。

 ああ、俺も異世界人になるのか。

 斬新やでぇ。

 

 中にはPCゲームのキャラクターボディに乗り移ってるカイト少年とかいるし。

 やべー。

 この世界やべー。

 他にも悪魔とか騎士、カメラマン、刑事、トロン様、ゴッドイーターとかいるらしい。

 トロン様とゴッドイーターって何なんですか(困惑)

 統一性は皆無で、なんか集まってる的なサムシング。

 雑ぅ!

 

 俺のヒロインが見つかるねるとん会場かと期待したが、異次元から来た人のほとんどは一緒に飛んできた相方がヒロインポジションらしい。

 え、イスラかケンタロウなんですがそれは。

 ツラい。

 キョンシーのレイレイがイスラを見て「幽霊とか、チョー怖いから!」と主張。

 おめーもチャイニーズゴーストだよ。

 どうでもいいけど姉のリンリンってなんで頭に伊達巻乗せてんの?

 

 

 

 

 

 そして、長く苦しい戦いが終わった……。

 だって語るようなヤマとかオチとか、そんなの無かったし。

 マナ(魔力)とストラ(気)も問題なく使えたので、障害とかは俺とイスラに関しては一切なかった。

 ケンタロウは知らん。

 

 最期まで、俺らサイドが敵に宝を返してと要求→敵は嫌ですと拒否→結局戦う運命なのか……(苦悩)の繰り返しだった。

 もう二度とデータドレインとか生身で喰らいたくないわ。

 肉体が強化されてるゾンビの全力パンチもノーセンキュー。

 ロボットに実弾ばかすか撃たれるとかファンタジーでも無理。

 疲れた。

 マジで疲れた。

 結局、ヒロインはいなかった。

 

 

 

 

 リィンバウムの空気はうまい!

 敵も弱い!

 ゾンビ、悪魔などのグロい敵や無駄に硬いでかいロボットもいない!

 

 やっぱ楽園だ。

 

 

 

 

 

 --3

 

 ケンタロウが異次元での経験で慢心し、一人称をオレ様に変更。

 え、ネタ?

 冗談っしょ?

 え、マジ?

 

 詳しく聞くと、水を補給する際に泉に寄ったのだが、そこで出会った妖精に惚れたらしい。

 その妖精さんにはなんやかんや問題があったので解決を手伝うとドヤ顔をかましたと言う話だ。

 で、その時に頼れる男を演出するためにオレ様という一人称にしたとか。

 お、おう?

 

 しかしリアルでオレ様と聞くことになるとはなぁ。

 ヴォルデモート卿とかいけつゾロリくらいしか使わないと思ってた、両者とも本のキャラだけども。

 そのうちお辞儀するのだ!とか言い出すのだろうか。

 うわぁ、引くわ。

 

 

 

 

 

 泉近くの町、トレイユで逗留することに決定。

 野次馬的な意味もある。

 が、どうも問題を起こしているのが無色の派閥っぽい。

 イスラ的に見逃せない案件らしいので留まることにした。

 

 ある意味でイスラのために留まる感じになったので、イスラがにやにやしていた。

 うぜー。

 すっごいうぜー。

 「ボクをヒロインにしてもいいんだよ」アピールされた。

 お前、男じゃん……という俺の主張をやんわりと否定。

 寝たきりの女の子だと危ないじゃん的な。

 じゃあ、女なのかと期待するとそれもやんわりと否定された。

 どっちなんですか(激おこ)

 

 全裸になれよオラァ!と言ってみるが、レヴィノス家は結婚するまで清い身体でどうこう。

 性別がわからないと結婚までいけないじゃん、何言ってるんだコイツ……。

 無理やり脱がせてみようとしたら、ケンタロウと見知らぬ青年にその場を見られた。

 ……お、おう。

 

 魔力砲で、記憶が飛ぶまで何度も二人の頭部を撃った。

 

 当然だが、宿屋で魔力砲なんて派手なモノを使ったため、町の召喚師が呼ばれる事態に発展した。

 ナイアという女性だ。

 流石に悪いので、ケンタロウに誠心誠意謝らせておく。

 あと一緒に来たテイラー青年にも。

 

 

 

 三人を放って俺とイスラは昼食に出かけることにした。

 今日も平和だ飯が美味い。

 

 

 

 

 

 

 --4

 

 数日ほど過ごして、ケンタロウの恋の人間関係が解り始めてきた。

 

 ケンタロウ→妖精さん

 テイラー→妖精さん

 妖精さん→樹木や草花

 

 うーんこの妖精さん感。

 マルルゥを思い出す。

 ちょっと寂しくなった……。

 

 

 

 テイラーは金の派閥の召喚師で、昔から妖精さんと知り合いらしい。

 幼馴染の初恋は実らないってやつだな。

 ケンタロウは町の近くにふらっと立ち寄って一目ぼれし、ワイルドさと出来る男をアピール。

 ガサツな男は好かれないんだよなぁ。

 ……あれ、もしやこれって俺のヒロインじゃね!と天啓が思いつく。

 イスラに後頭部を叩かれた、冗談である。

 

 

 

 ちなみにこの前ケンタロウとテイラーが問題を起こしたときに現れたナイアは蒼の派閥だ。

 

 金の派閥が召喚術でお金を稼ぐのが好きな集団。

 蒼の派閥が召喚術の勉強をするのが好きな集団。

 仲はそんなに良くないような雰囲気。

 

 

 

 

 

 --5

 

 妖精パワーに引き寄せられた無色の派閥が押し寄せる!

 ちなみに紅き手袋という暗殺集団を下部組織に持ってるので人数も多い。

 面倒な連中である。

 町の外に出ると、結構な頻度でエンカウントする。

 やべー。

 この世界やべー。

 暗殺者が野生のポケモン並みに出てくる。

 あ、野生のポケモンは言い過ぎた。

 間引きしてるから、もうちょっと少ない。

 きらめくパンジーさんくらいエンカウントする。

 

 

 

 ドヤ顔で出陣してきたオルドレイクが、無色の派閥は古き妖精さんパワーの半端ない出力を利用して世界征服を企んでいると語っていた。

 お、おう。

 あー、うん。

 そっかぁ、世界征服かぁ。

 叶うといいね(遠い目)

 

 

 

 

 

 --6

 

 なぜ無色の派閥に妖精さんの居場所がバレたのか、その謎はテイラーが派閥に提出したデータにあったらしい。

 トレイユの町付近のデータを改ざんして妖精さんを隠していたが、わかる人物には明らかにこの町の近くにいると主張しているような感じになっていたとかどうとか。

 それで派閥にいる無色と繋がっている人物が横流し、的な。

 

 あちゃー、やっちまったな。

 テイラーの初恋は、気づかない内に犯していた裏切りで幕を閉じたようだ。

 切ない。

 

 

 

 オルドレイクをズバッと切り捨てて、重傷を負わせる。

 魔剣の小太刀もさり気無くアピール。

 小太刀を使うと俺もカッコいい感じの雰囲気が漂うのだ。

 異次元でアウラから貰った赤いマフラーが、真っ白に染まって風も無いのにはためく。

 赤い魔力も渦巻いてボスっぽい空気も出る。

 どう?

 かっこいいべ?

 島の魔剣と同じく魔力を引き出すことが可能な魔剣だ、オルドレイクは欲しいっしょ。

 

 このまま旅に出ることにした。

 所々で魔剣を使って存在感を醸しだしつつ遠くへ行けば良さそうでしょ。

 これなら妖精さんへの攻撃も減るんじゃないか、知らんけど。

 そこら辺はケンタロウが頑張るから関係ないね。

 

 

 

 

 

 別れる直前、ケンタロウが手合せを申し込んできた。

 妖精さんの加護を纏った魔剣を手に入れたらしいが、俺も魔剣を使っているので合ってないような物である。

 まあ、最後だしね。

 下剋上のチャンスをくれてやろうじゃないか(上から目線)

 

 右に順手で魔力刃、左は逆手で魔剣を構える。

 最近は容量に余裕があるので気と魔力を同時に体内に留めても問題ないのだ、魔力と気が潤沢で体術も召喚術も自信がある。

 右は体内の魔力のほとんどを、1mほどの刃に込めているので洒落にならないレベルで頑強。

 左手はイスラと斬った張ったやったら神経を痛めたらしく、力は入るが指先が上手く動かせないので防御用に魔剣を持ってみた。

 魔剣が赤黒い魔力を纏っていて強そう。

 俺と魔力パスが繋がっているイスラを介することで、適格者のように魔力を引きだせているらしい。

 

 ストラを纏いつつ、全力で魔力刃を振り降ろす。

 やっぱ魔剣の類は硬ぇ。

 非殺傷設定なので、普通の鉄鋼で打った剣なら無視して肉体を切れたのだが、魔剣は面倒である。

 5戟ほど打ち合ったら、ケンタロウは腕が痺れて来たのか動きに精彩を欠き始めた。

 ケンタロウからの反撃も、防御した魔剣が微動だにしない。

 地力が違い過ぎてごめんね☆

 

 非殺傷の魔力刃で滅多切りにした。

 まあ、気絶から起きたらすぐに動ける程度のダメージだ。

 魔力は吹っ飛んでるから、しっかりとした休憩は必要だけど。

 

 こんなに俺は強いのに、何故ヒロインがいないのか(深刻な悩み)

 ケンタロウなんて一目ぼれで速攻なのに。

 テイラーから略奪する形だったけど。

 愛とは奪い合いなのか……?

 

 

 

 ケンタロウはアホで好きじゃなかったけど、最後まで妖精さんの加護が掛かった魔剣を手放さなかったことだけは評価する。

 妖精は優しくしたほうがいいに決まってるんだ。

 

 

 

 

 

 --7

 

 

 結局、俺は町を出ても妖精さんと会うことは無かった。

 悲しい。

 負の感情を纏っていると妖精は会いたがらないと言う話だ。

 どうやって負の感情はなくすことが出来るのだろうか、俺だって妖精と仲良くしたい……。

 

 

 

 街道で襲い掛かってくる暗殺者や野良召喚師を真っ二つにしながら考えるが、特に答えは出そうに無かった。

 

 

 

 

 

 --8

 

 死後の世界に観光に来た。

 いや、好きで来たわけじゃないんだけどね。

 野良召喚師の召喚術を途中でカットしたら、暴発して飛んで来てしまったのだ。

 イスラとの魔力パスを認識できたので、他にも何か無いかと探したところ、召喚術を使用すると召喚石と術者に似たようなパスが出来ることがわかった。

 なので、そこをカットしたら召喚術を潰せるかと思ったのだが。

 魔力が暴発するとか予想してなかった。

 召喚術者は魔力が逆流して苦しんでいたが知らん。

 まあ、見た感じだと召喚獣用の門が開きすぎて、術者の限界を超えた感じだった。

 蛇口捻って水出そうとした横からビームで水道管ごと吹っ飛ばした、という表現が一番わかりやすいかも。

 水が魔力だ。

 次からは気を付け……いや、面倒なときは即死攻撃として使っていこう。

 

 塔を登ると転生できるらしい。

 いや、登らないけど。

 他に出口は無いかな。

 イスラは登ってもいいんだよ、と言ってみる。

 

 「ヒロインが途中離脱とか有り得ないでしょ」

 

 誰がヒロインだよ。

 

 

 

 

 

 --9

 

 魂が導かれる方向に歩いていたら、変な場所に迷い込んだ。

 死後よりはマシだなと突き進んでいると、途中で白い髪の少年少女と出会い、「あれ、なんでここに?」とか「コーラルは?」とよくわからないことを聞かれた。

 まあ、剣を持ってるし、杖を構えていたので蹴散らしてきた。

 俺に勝てる生物はいない(有頂天)

 メイドさんに斬りかかったらこの世の終わりみたいな空気で「やっぱりイスラさんが……!」とガチ泣きされた。

 いや、イスラは関係ないでしょ。

 俺は悪くない。

 だって、あそこって戦わなければ生き残れないって感じの雰囲気だし。

 

 さらに藍色の髪をした少年少女の召喚師グループともかち合った。

 島以外で融機人を見るとは思わなかったぜ。

 いや、ここは変な空間だけど。

 オレンジのエプロンドレスを着た女性、赤き手袋に似た動きをしている人だったが、斬りかかったら泣きだされた。

 真っ二つは怖いとかなんとか。

 しないです(白目)

 

 で、そのまま色々と蹴散らしてたらメイメイさん家に繋がってて、リィンバウムに帰ってこれた的なサムシング。

 無限回廊とやらは長く面倒な旅路だったぜ。

 

 

 

 興味があるなら島についての話もできるとメイメイさんが提案してくれたが断った。

 途中で逃げたし。

 まあまあハッピーエンドだったらしいので詳しく聞かないでいいや。

 不満とか溜まるし、何でそこにいないのかって寂しくなるじゃん。

 

 

 

 

 

 --10

 

 メイメイさんに追い出された。

 結構まともな流れに乗れるらしい。

 なるほど。

 乗るしかない、このビッグウェーブに……!

 

 気の赴くままにふらふらしてたら、街に訪れてたケンタロウと出会った。

 こいつ老けたなぁ……。

 

 

 

 話を聞くと、妖精さんと結婚して息子と娘がいるとか。

 なん……だと……。

 俺が死後の世界を彷徨っている間に、こいつはイチャラブしてたのか。

 うわぁ、とげんなりする。

 というか、凄い時間がスキップしまくっている。

 異次元と死後でかなり時間が飛んでる。

 

 話を聞くと、5歳の息子と娘をテイラーに任せたまま、病弱な末娘を連れて治療法を探しに旅に出て来たとか。

 妖精さんについては泉を汚して通じ無いようにしたとかどうとか。

 うわぁ……。

 いや、泉を使えなくしたのは子供が妖精の力が負担にならないようにしている意味もあるらしいが。

 

 一応子供の近くに母である妖精さんがいるからいい、のか……?

 首を傾げていると、ドヤ顔で魔剣を使えば妖精さんと会話ができると言い出した。

 5歳の双子、のけ者じゃん。

 頭を抱えた。

 オレ様の子たちだから大丈夫とケンタロウは慢心しているが、誰の子供だろうと子供は子供な訳で。

 

 トレイユに居た蒼の派閥のナイアと機械兵士も一緒に旅しているのだが、特に疑問は無い様子。

 やべー。

 頭やべー。

 え、リィンバウムの常識なの?

 修羅過ぎない?

 イスラに助けを求めるように視線を向けると、難しい顔をしていた。

 

 よく考えたらイスラも放置されてた!

 助けを求める相手ではない!

 

 家族一緒に行動したほうがいいんじゃないか、幼い娘に旅は厳しいんじゃないかと説得してみたが、ケンタロウは聞く耳を持たない。

 駄目だ、アホのままバカになってる(驚愕)

 これに任されるとか、テイラーが可愛そうだ。

 しかも初恋だった相手の子供を、幼いまま任されるとか、罰ゲームかな。

 もしや托卵の亜種か?

 

 

 

 

 

 トレイユ、行ってみるかなぁ。

 どっか落ち着ける場所が欲しかったし。

 あとイスラのにやにや顔がうぜー。

 すっごいうぜー。

 

 

 

 

 

 --11

 

 アホの集団と別れ、山越えしてたら、エキサイトしている集団に出会った。

 悪魔狩りらしい。

 一般人が悪魔を狩るとか危険だから帰りなさいと伝えるも、興奮する集団には通じない。

 うぜー、と非殺傷で切り捨てる。

 もう寝てろ。

 あー、野良召喚獣とかに襲われるよな、これ……。

 どうしよっかなぁ。

 

 

 

 空にメギドを放つ。

 

 

 

 よし、これで人が来るだろ。

 

 

 

 

 

 --12

 

 悪魔っ子を見つけた。

 やっぱ少女型の悪魔は萌えキャラやね!

 気とか魔力が吸われるが、ぶっちゃけ普段からイスラに勝手に魔力をパクられている身としては気にならない。

 泣き叫ぶ少女を宥め賺して何故こんな山奥にいるのか聞いてみる。

 

 ・悪魔に滅ぼされた村の生き残りが母

 ・生んでくれた

 ・バレて迫害されたりした

 ・山狩りで村人によってひどい傷を負った

 ・母が看病してくれた

 ・が、悪魔の力が覚醒して母を殺してしまった

 

 ……。

 重い!

 俺には対処不可能なレベルで重い!

 

 

 

 まあ、軽はずみなことも言えないので、少女の母親の墓を作っておこう。

 埋めただけらしいので、それだと寂しいだろう。

 花も飾ろう。

 花は妖精が好むから、寂しくないように。

 

 

 

 

 

 --13

 

 少女の住む山小屋に勝手に住み着いて一週間。

 図々しい所業である。

 が、ここまですれば少女も少しは馴染んでくれたようで、ポムニットという名前だと教えてくれた。

 年齢は15歳。

 島の経験が活きてきた。

 年下の子供と接するなら根気が重要だ。

 

 ちなみに常時ストラとマナが吸われているが、訓練の一環と考えるとむしろもっと負荷を掛けてもらいたくなるから不思議。

 

 トレイユに行くけど、一緒に行くか誘う。

 悪魔だから無理らしい。

 つまり悪魔じゃなかったら大丈夫ということだ。

 人間と召喚獣のハーフだから、人間っぽい感じになれるんじゃないかな。

 頑張れば。

 たぶん、きっと、おそらく。

 機械兵士も変形してたし、出来るはず。

 頑張れば。

 たぶん。

 

 

 

 

 --14

 

 俺をドレインの標的にすれば、周りに被害が出ない程度には納まってきた。

 ちなみにイスラは吸われると死ぬ(?)ので近寄れない。

 思わぬ天敵である。

 そろそろにちょっとした町に行けるかな、と思ったが、そう簡単ではないようだ。

 この世界は悪魔をひどく恐れているらしい。

 ロシアか何かか、リィンバウムは。

 

 悪魔っぽい見た目はやっぱダメっぽい。

 青い肌と角、人間でいう白目が黒いのは流石に無理だとか。

 どれか一つなら問題ないようだが。

 マジかー。

 こんなに可愛いのに駄目なのかー。

 異文化交流の難しさを感じる。

 萌えって感情が無いのが悪いわ、やっぱ。

 

 

 

 うーん、と頑張って思考するが答えは出ない。

 イスラに相談すると、可愛がりすぎている可能性を示唆された。

 つまり、ポムニットは悪魔の姿を嫌っているが、俺が可愛いと言うから、心の何処かで甘んじている的なことだろうか。

 それは良くない。

 出来ないなら出来ないでもいいが、出来る可能性を無くすのは良くないな。

 

 

 

 

 

 ストラとマナを空にしたぞ!

 今ドレインしたら俺は死ぬぞ!

 だがポムニットに抱き着く!

 ふははは、柔らか……ぐわぁぁっぁぁぁぁ^q^

 

 

 

 

  

 --15

 

 荒療治のおかげで、ポムニットもある程度まで力を抑えられるようになってきた。

 悪魔っぽい見た目も、若干抑え気味だろうか。

 ドレイン系をすると調子がよくなるっぽいので頻繁に吸わせてるのが良くないのかもしれん。

 ……久しぶりの女の子だから甘えさせるのも当然じゃね?

 もみあげの長いアズリアと化してきたイスラが熱烈なボクボクアピールを披露しているが無視だ。

 幽霊なのに髪が伸びるってどうなっとんねん。

 

 

 

 最近、無色の派閥からの攻勢が弱まってきている。

 気や魔力の感知で戦闘開始前の奇襲で倒せるけど、それでも少ない感じ。

 ケンタロウが囮として……いや、そんな器用な男じゃないから無いわ。

 

 襲撃犯どものエネルギーをポムニットが吸収してもいいけど、なんか体に悪そうだから止めておくように告げる。

 お腹壊しそうじゃん。

 接近されたら全力で吸収してもいいのだけど。

 

 紅き手袋の連中は倒しても情報を吐かせようとすると毒薬とかで自殺するんだよなぁ。

 気合い入ってる。

 その反面、無色の連中の気合いの無さだ。

 無色の派閥に所属している召喚師を四人用意し、最初に見せしめとして一人を血塗れにし、二人に情報を吐かせ、情報にズレが生じるごとに見せしめの奴から獲れた体液とか肉をご馳走したら、口が滑る滑る。

 こいつらの為に死んでいった暗殺者の勿体なさだよ。

 まあ、俺を倒して成り上がりを目指している下っ端ばかりだから大した情報は得られないのだけど。

 なんとか集めた情報を繋ぎ合わせ、オルドレイクの関心が別に向いているというのだけはわかったけど。

 

 

 

 

 

 --16

 

 ポムニットが山小屋から旅立つ決意をした。

 これは小さな一歩だが、ポムニットには大きな一歩だ。

 いや、マジで。

 驚異の成長だわ。

 諸手を上げて喜んじゃうわ。

 あのポムニットが外に出る決意をするとか、涙すらこみ上げる。

 

 道中で、軽やかな挨拶とともに山狩りにきた連中を非殺傷で気絶させる。

 素人が武器とか農耕具を持って俺に敵うわけないじゃん。

 ピクミン並みに集まった暗殺者集団を奇襲で倒せるレベルだから。

 召喚術とか使ってたら死んでた、マナ枯渇で。

 村人A-Zみたいなモブが使うわけないってわかってたけど。

 

 

 

 そしてポムニット、泣く。

 流石の俺も挙動不審になる。

 嗚咽を漏らすポムニットから何故泣いたのか尋ね、ゆっくりと聞き取る。

 端折るがポムニットがいるだけで、バイオレンスな展開になるかららしい。

 ポムニットがいなければ村人も傷つかなかった的な。

 あー、なるほど。

 斬新な考え方だ。

 

 でもそういうのは良くないね。

 俺なんてそんなの考えると、島が……ああ……いやいや、気にしてないです。

 俺は大丈夫です。

 むしろポムニットが優しいからみんな生きてられるとも考えられる。

 ハイパー魔王みたいなのだったらあれよ、みんな死んでるよ。

 ポムニットで良かった、居てくれて優しくてありがとうって話だ。

 良い話だなー。

 俺だったら本気出してエナジードレイン鍛えて迫害に来た連中を養分にしつつ近くの森を徐々に枯らし、農作物や畜産にダメージを与え、町が弱った辺りで乗り込んでなぶり殺しだから。

 冗談だけど。

 

 

 

 

 

 なんとか泣き止んだポムニットがとぼとぼと歩き始めた。

 元気少ないんだよなぁ。

 悪魔っ子とかぐう可愛なのに。

 文化の違いってわからん。

 萌えの追及で傍にいただけで、めっちゃ優しい人と認識される。

 影で暗殺者とか真っ二つにしているからそういう純真なの、めっちゃツラい。

 

 不意に、ポムニットがもっと人に好かれるのだったら良かったと言い出した。

 天使とか、妖精とか。

 あー、どうなんだろうか。

 でも知らない人に好かれるのも疲れると思うんだよなぁ。

 天使だったら天使然と振る舞う必要があるし。

 天使とのハーフで生まれたとしても、天使的な素養のある性格や能力が備わるわけでもない。

 そもそも、俺が好いているんだからそれで良くないかと手を差し出す。

 おずおずと手を握ってくれたので、解決する問題だと思いたい。

 理想は悪魔の姿にも人間の姿にも変化できて、どっちも好きでいてくれると嬉しいのだけど。

 悪魔に絶望しました自殺します、とか言われたら俺も死ぬ。

 

 それに悪魔が良いんだよ、やっぱ。

 レイレイとかモリガン、T-elosが凄い可愛かったから(真顔)

 イスラのにやにやは無視である。

 手を握ってこようとするけど、今のイスラはヴァルゼルド外殻に入ってるやん……。

 

 

 

 

 

 --17

 

 街を越え、山を越え、橋を、野を越えて。

 ほどほどの期間をかけて宿場町トレイユへ到着。

 襲撃者が少ないと、それはそれで気になる。

 まあ、帝国でも片田舎俺ポジションだからしゃあないね。

 

 ポムニットもなんとか人間形態を修得できたので良しとしよう。

 かなり時間を使ったが、その分丁寧に仕上がったはず。

 ただ、ストラとマナを枯渇させて抱きしめるのはキツい。

 寿命が縮まった気がする。

 いや、そもそも何故か老化すらしなくなってるんだけど。

 

 

 

 町の中心に偉そうに聳え立つ豪邸にアポ無しで押しかける。

 特に理由のない横暴な態度を取った二十そこらのガキが、ブロンクス邸を襲う!

 勝手知ったるなんとやら、とは行かない。

 色々と内部が変わっているのだ。

 

 

 バン!と扉が開き、ちっこい女の子が登場。

 吊り目で勝気そうだ。

 テイラーの短気なところを受け継いだんじゃね。

 「あんただれよ!」

 「俺だ!」

 「だからだれなのよ!」

 「だから俺だよ!」

 「だ・か・ら……」

 挨拶もそこそこに「あ、リフォームした感じ?」と古株のメイドさんに話しかけながら、振る舞われたお茶を飲む。

 うーん良い葉を使ってるな、お茶の味とか全くわからんけど。

 

 お、息子もいるの。

 ルシアン君って言うんだ。

 その年できちんとした挨拶も出来るのか、よく頑張ったね!と褒める。

 うん、可愛い。

 マルルゥを思い出した。

 マルルゥ……。

 

 凹んでたら、「はなしききなさいよ!」と叫び続けてた少女が慰めてくれた。

 いい娘やでぇ。

 テイラーにはもったいないね。

 リシェルという名前だと教えてくれた。

 子供は元気なほど可愛いわ。

 よく挨拶出来たねと頭をわしわしと撫でる。

 髪が乱れたが知らん。

 

 

 

 

 

 --18

 

 ケンタロウの子供について聞いたら、姉弟が知っていると言う話だ。

 マジか。

 もうブロンクス邸に用はない。

 金の派閥とか召喚獣を売り買いしすぎて、旅先でもトラブル起こしているからイスラが好きじゃないんだ。

 メイドさんに礼を告げ、幼い姉弟を連れ出す。

 知らない人に付いて来るとかダメな姉弟だわー、肩車とかしちゃうんだぜー、と知らない人の恐怖を叩きこむ。

 

 ポムニットがジッと見つめてくるんですが。

 え、肩車されたい感じかと問うと物凄い勢いで首を横に振った。

 あー、手を握りたいらしい。

 何故か俺の腕をぶんぶんと振り回していたリシェルを持ち上げ、イスラが入っているヴァルゼルドヘッドに乗せる。

 

 馬鹿と煙、子供は高い所が好きなようだ。

 リシェルは適正があるからか、機械兵士も好きだとか。

 ごめん、そいつ幽霊だからサプレスに近いんだ。

 イスラが悪戯心を出したのか、幽霊っぽく登場したものだから、リシェルがショックで気絶した。

 ついでに俺が肩車していたルシアンも絶叫を上げる。

 事案発生っぽいからやめーや。

 

 

 

 

 

 「リシェルとルシアンを離せ!」とケンタロウの子供に斬りかかられた。

 息子の方は武器を持ってるが、娘の方は召喚石を構えている。

 

 な、なんやこれぇ^q^

 

 

 

 

 

 --19

 

 とりあえず斬りかかられたので、デコピンでカウンター。

 俺の身長が高いからといって飛び上がったのは悪手だったな。

 小柄な体格を活かし、足を削ぐべきだった。

 

 で、その最中に飛んできた召喚術も魔力を放出して消し飛ばす。

 ルシアンいるから一番やってはいけない手だった。

 ペナルティとして拳骨を落してみた。

 うーん、痛そう。

 俺ならされたくないな。

 

 

 

 デコピンと拳骨で頭部に致命的なダメージを負った子供二人を脇に抱え、『忘れじの面影亭』へ向かう。

 ケンタロウが雇われ店主をしていたらしい。

 妖精さんの対処の際に、俺とイスラが逗留していた宿でもある。

 ケンタロウとテイラーが魔力砲事件を起こしたので、町中の宿は使えなかったのだ。

 

 ポムニットがリシェルをおんぶし、イスラがヴァルゼルドアーマーでルシアンを抱え、俺が双子を脇に挟むとか、知らない人が見たら事案だわ。

 大丈夫だよな?

 マジで大丈夫だよな?

 

 警戒した結果、大丈夫だった。

 

 日頃の行いか。

 

 

 

 

 

 --20

 

 暴れる双子を宿に連れ込む。

 文字だと卑猥だなぁ。

 二人の父親と知り合いだし、間接的に母親とも知り合いで、なんと末娘とも知り合いだと伝えると大人しくなった。

 リシェルとルシアンは後ろで、ポムニットが昨日焼いた菓子を食ってた。

 

 双子の男の子がライ、女の子がフェアという名前だと教えてくれた。

 どちらも自分が兄(姉)だと主張。

 言い争いは火花を散らし、何故か俺にどっちが兄(姉)か聞いてきた。

 ごめん、さすがの俺でもそれはわからん。

 

 その後、俺の名前を告げる。

 「デシの人か!」「デシの人でしょ!」と叫ばれた。

 デシの人ってなんやねん……。

 詳しく聞くと、俺がケンタロウに教えを乞うた的な。

 (弟子)じゃないです。

 間違った知識を子供に教えると、変なところで恥をかくんだな。

 なんか勉強になった。

 そして何故か俺が恥ずかしい気持ちになった。

 子供には真摯でいよう。

 

 

 

 

 

 宿として機能しているのか不明だが、とりあえず長い期間俺とイスラ、ポムニットが泊まる旨を伝えた。

 機能してなくても寝れればいいや。

 話を聞くと、食事処として一応は機能しているらしい。

 5歳じゃん……。

 6歳だよ!と怒られた。

 俺からしたら5歳も6歳も変わらんがな。

 

 リィンバウムがやっぱり可笑しいと思ったがケンタロウは日本出身だ。

 ……うーん?

 やっぱり人間として品性と倫理観はきちんと持っておきたい。

 暗殺者とかぶっ殺しまくってるけど。

 あれは放っておくと自爆テロとか毒撒きとかしてくるからなぁ。

 麻痺や石化放置とかも考えたが、回復したら襲ってくるからもう諦めた。

 

 食事処として機能しているのか、なるほどなー。

 俺は料理できないから食えればなんでもいい。

 メニューを眺める。

 文字は覚えてきたが、相変わらず食材名がよくわからん。

 まあ、贅沢言えば和食が食べたいが、リィンバウムでは望んでも……米がある!

 6歳の双子店主に戦慄、ここは名店だな……。

 

 

 

 やべー。

 死ぬまで居たい。

 米とかレア。

 シルターン自治区か、そっちの方面の召喚獣の寄り合いでしかまともなのは食えないのだ。

 

 

 

 

 

 --21

 

 炊き立ての米と味噌汁、塩の焼き魚の最強コンボである。

 漬け物まである。

 凄い。

 死んじゃう。

 舌が喜んで死ぬ。

 リィンバウムに来て初めての死の予感である。

 6歳でこれとか無敵すぎる。

 

 ケンタロウは一緒にいるときに和食を作ってくれなかったからな。

 いや、米とか味噌とか醤油とか手に入らなかっただけだが。

 肉焼いて香草で味を調えるとか、そんな感じだったし。

 死後の世界から飛んできた時もワイルドな食事だった。

 この双子がいればもうアイツいらねぇな。

 

 販路の関係で値段は割高らしいが、金に困ってないから毎日食べるわ。

 無色の派閥の召喚師や紅き手袋から剥いだ装備を売ったらかなりの額になるし。

 金の派閥に属していないから俺は召喚石を売れないが、それ以外の暗器は後ろ暗い商人や金の派閥が買い取ってくれる。

 一度、試しに印を付けて売りに出したら、何度目かの襲撃の際、印付きの暗器を持っている暗殺者がいた。

 つまり、こいつらの金の循環に俺も混ざっている感じである。

 奇襲ぶち込んで剥ぐだけだから、お金くれるような物だし。

 時々、連絡係っぽいやつが暗殺者への資金を持ってる時もあるくらいだ。

 俺の経済状況を考えたら、永遠に居て貰っても構わないんだよな。

 ただ存在すると寝覚めが悪いし、イスラも滅ぼしたい的な感じなので、執拗に攻撃は続けるけど。

 

 

 

 興味を持った少年少女に、箸の使い方をレクチャー。

 ライとフェアはまあまあだったが、やはり甘い。

 背筋を正し、脇を締め、添えるように箸を持つのが一番美しいのだ。

 

 漬け物くっそ美味いとぽりぽり食ってたら、テイラーが飛び込んできた。

 食事中だぞ、おっさん。

 まあ俺やイスラのほうが年上だった気がしないでもないが。

 歳を取らないと時間的な感覚が無くなるわ。

 

 期間を決めずに居座ることを伝えると、何故か崩れ落ちた。

 俺が悪いみたいなリアクションするのやめーや。

 ブロンクス邸で飯を集ったことを覚えているのだろうか。

 それとも失恋の甘酸っぱさとか、若き日のメモリアルを知人から子供に伝わるのが嫌だとか。

 まあ、しょうがないね。

 甘んじて受け入れろ。

 本当は残酷なリィンバウム、みたいな。

 

 

 

 食後の茶を啜っていたら、項垂れたテイラーが、リシェルとルシアンを連れて帰っていった。

 で、何故かライとフェアから弟子デシ呼ばれるんだけど。

 お前らの弟子じゃないから。

 体術とか召喚術を教えてほしいらしい。

 むしろお前らが弟子じゃん(白目)

 

 体術はギリギリいけるが、召喚術は一般的な知識(無色の派閥から絞った)くらいしか知らん。

 そもそも派閥、もっと深く言うと家系ごとの秘奥などもあるから召喚術は極められない。

 国によっては召喚術を素人が修めてはいけないし、派閥の人間しか勉強できなかったりする。

 ここはトレイユだし俺の知識程度なら問題ないだろう。

 

 

 

 

 

 --22

 

 体術の前に基礎知識から教えておこう。

 折角なので双子とポムニットを伴って庭に出る。

 イスラはオートで付いて来た。

 外で勉強とかすると、青空教室を思い出してめっちゃ凹みそうになる。

 い、今は関係ないな。

 危ない、ネガティブになるところだった。

 

 

 

 生ある肉体にはストラと呼ばれるエネルギーが宿っている。

 人や地域によってオドや気とも呼ばれるそれは、細胞が生み出すエネルギーや魂が人体を動かす際に出る余剰エネルギーと考えられている。

 基本的に、体内で作られ流れているエネルギーなので、特殊な呼吸を練習すれば量を増やし任意で操ることができるようになる。

 呼吸によってストラを溜めることを、ストラを練るなどと表現される。

 このストラで何が出来るかという話だが、人体に備わっている機能を活性化したり、身体能力を引き上げることが可能だ。

 沢山のストラを上手く練り、身体に纏うことで、外気功と呼ばれる鎧に利用できる。

 視認できるほど強く練ると、硬気功とも呼ばれるようになるが、明確な線引きは無いようだ。

 ストラで人体の機能を活性化させ、毒や傷などを癒す方法は内気功と呼ばれる。

 ポムニットの吸収は、ストラを主に吸えるので、練る練習をしておくだけでかなり強くなれると思われる。

 

 また、人体にはもう一つのエネルギーが宿っている。

 魔力だ。

 マナとも呼ばれるエネルギーで、リィンバウムを包む界から供給され、空気中にも満ちており自然に生きるものが気付かない内に溜めこんでいる。

 召喚術を使用した際、召喚獣の通り道である『門』を開くのに使われる。

 また、召喚獣によっては魔力を多分に含んだ技を使うので、同じように魔力をぶつける魔抗と呼ばれる技術で防御できる。

 魔力もストラと同じような運用が可能だが、自ら生み出すストラよりは人体への適合が低い。

 つまり、同じ量のエネルギーを使って内気功や外気功を行っても、魔力の効果はストラに及ばない。

 そういう理由で、魔力に優れている者は召喚術を主に使っているようだ。

 サプレスの召喚獣が霊体を維持するのにも魔力が使われている、まあ、イスラを構成している物質だ。

 魔力はどうも結合しにくいらしく、実体化には多くの魔力が必要なのだ。

 

 

 

 肉体にはどちらのエネルギーも宿っているが、得意不得意は個々人であるので、気か魔力に重点を置いて鍛える人が多い。

 俺の場合は身体能力をストラで底上げし、自身の魔力で魔力刃を構成し、魔剣の魔力で防御力も極まっている。

 が、特別なので見本にはならんな。

 天才ですまんな。

 

 魔力は召喚術以外にはしょぼいと思われているが、実はそんなことはない。

 専用の柄さえあれば魔力刃は生やせるので、取り回しがかなり便利だ。

 殺傷、非殺傷が切り替え可能なのもかなりの利点。

 魔力刃の殺傷、非殺傷設定は、刃を構成する魔力密度で調整できる。

 無茶苦茶魔力を込めると、物質に近づくのだ。

 地中深くで圧縮された大地のマナエネルギーがサモナイト石と呼ばれるのと同じだ。

 魔力が薄ければ、人体への影響は減り、マナを散らすだけとなる。

 が、特別で天才の俺にしか扱えない。

 天賦ですまんな。

 

 どれくらい天賦の才かというと

 ・魔剣を抜剣しないでも供給されてる魔力と自身で溜めている魔力で手軽にイスラを実体化させられる。

 ・暴走したポムニットにドレインされながら、イスラの実体化を維持できる。

 ・魔力刃を100mくらい伸ばし、暗殺者集団を森ごと伐採できる。

 ・武器ダメージがほぼゼロ。

 ・というか魔剣レベルの魔力じゃないと、防御が厚すぎて硬気功が切り裂けない。

 みたいな。

 強すぎてすまんな。

 

 

 

 基礎知識や応用の話で首を傾げるライとフェアに苦笑いを浮かべてしまった。

 そのうち才能に悩むこともあるかもしれん。

 俺にはその気持ちがわからないので、相談には乗れないけど。

 なんか色々とすまんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 --23

 

 双子の父親であるケンタロウが俺を弟子と言っていたらしいが、実は師匠的なポジションだと説明。

 戸惑ったり、親の理想像が破壊されて泣くかと警戒。

 が、特に気にした様子は無し。

 父親はそういう人だから、と諦観すら漂わせていた。

 6歳なのに。

 何故俺はファンタジーな世界に来てまで世知辛い気分にさせられているのか。

 

 

 

 

 

 フェアが、ケンタロウも4属性の召喚術を使っていたので、俺も出来ることんじゃないかということに気付いたらしい。

 できます。

 シャインセイバーとタナトスくらいしか見せたことなかったので興味津津のようだ。

 きらきらとした目で、他のも見たいとねだるフェアには悪いが、あんまり使いたくない。

 むしろ使えないと言うか。

 ふくれっ面をしたフェアになんというか。

 属性だとタナトスが一番使いやすいのは確かだが、他の属性はその、強すぎて使えないんだわ。

 

 島での話だ。

 魔力調整による攻撃力の低下などを理解してないときに無属性の石でタナトスを呼び、メギドラオンとマハムドオンでヤバい感じになった。

 注ぐ魔力量によってスキルがメギド→メギドラ→メギドラオンと変化するというのを知ったのは結構後になってからだ。

 で、それを反省して海岸で召喚術使うことにした。

 ・ロレイラル:ゼオライマーとか呼ばれるロボが出てきてピカッと光ったら海が消し飛んだ。アルディラは泡吹いてた。封印した。

 ・シルターン:スピリット・オブ・ファイアと呼ばれる神が出てきて凄まじい炎で海を蒸発させた。キュウマが乱心した。封印した。

 ・サプレス:ラミエルという巨大な結晶型の何かが出現し、ビームを撃って海や嵐を消し飛ばした。ファルゼンが女の子のような悲鳴を挙げた。封印した。

 ・メイトルパ:デイダラボッチと呼ばれる精霊が出てきて海の生物を皆殺しにした。海は平静のままだったが、魚や海藻、プランクトンなどの海洋生物が浮かんで海面に隙間なく死んでいる様は凄かった。ヤッファが猛った。マルルゥが泣いた。もちろん封印した。

 みたいな?

 

 トレイユで使ったら町が滅ぶかもな。

 あー、フェアが泣きそうだ。

 いや、冗談だけど。

 無属性ならタナトス以外にダークブリンガーなら使えるし。

 俺のダークブリンガーは魔力を配分することによって、我様のように空間から自由に射出できる。

 

 今の俺なら魔力調整できるし、全然使えるっしょと思ってロレイラルの石にマナを込める。

 グレートゼオライマーが召還可能になってた。

 あーグレートかぁ……。

 あー、うん。

 ランクアップしてるなぁ……。

 まあ、いけるいける。

 俺もグレートな強さになってるし。

 

 ロレイラルの石が輝いている様に、フェアが泣きだした。

 いや、召喚しないから。

 ちょっとした冗談だから。

 手順踏まないと出てこないし。

 

 

 

 

 

 俺の冗談に怒ったフェアが三日くらい口を聞いてくれなくなった。

 そういうの地味にきつい……。

 凹んだら逆にフェアに謝られた。

 いい子で嬉しいけど、6歳の少女に気を使われるおっさんという図式。

 情けなっ。

 

 

 

 

 

 --24

 

 ライは体術メインなので、でこぴんで相手をする。

 武器は体に合わせたほうが良いので、乾いた木から木刀を削りだす。

 魔力刃を限界まで薄くして強度を高めると、透けた刃になる。

 この状態だと切れ味は凄まじいので、木なんて抵抗を感じずに削げる。

 武器としての耐久はほぼ0だから打ち合いには向かないけど、下手な剣など切り裂けるので殺傷能力は高い。

 というか人間なら真っ二つ。

 程なくして木刀を形成し終えたので、鞘に当たる部分を軽く鑢がけして布を巻いて完成。

 サイズ的には小太刀やナイフに近い。

 刃有りはもう少し慣れてからだな。

 

 イスラに武器を振るときの型などを教えさせてから、最後に軽く模擬戦。

 何故かライはぴょんぴょんと飛び跳ねたがるなぁ。

 空中は気や魔力を推進とするか、塵や空気を蹴らないと方向転換できない。

 で、幼いライにそんな筋力も技術も、そして出力もない。

 隙を曝すことになると告げ、でこぴん。

 

 結構いい音が鳴り響いたが、気合はあるのか突撃してきた。

 気絶するか泣きが入るまで相手をしようじゃないか。

 ただ、でこぴんし過ぎて脳にダメージが僅かでも入ると不味いので、俺も細い木の棒を使う。

 旅立つ勇者の気分だ。

 

 

 

 何度も打ち据え、木刀を弾く。

 十回ほど繰り返すとライは体力の限界のようだった。

 手も豆が出来ているし、血が出ているところもある。

 今日は終わりだ。

 まだ続けたがるライを宥める。

 まあ、明日も明後日も相手するから大丈夫だ。

 指切りで約束とか何時ぶりだろう……。

 

 手を消毒し、薬を塗り、ライのストラを活性化させる。

 こういうとき、回復系の召喚術に適正がないのが悲しい。

 壊すことばかり上手でもなぁ……。

 

 

 

 

 

 あ、朝一からやるの?

 フェアも?

 約束したけど俺はもうちょっと寝たいというか……。

 ああ、いや、やるから泣くなってば。

 泣いてない?

 ああ、そう。

 子供は朝から元気だな。

 

 

 

 

 

 --25

 

 7歳を過ぎた元気な双子の挨拶に起こされ、布団に入ってきていたイスラとポムニットを揺すって起こす。

 ぶっちゃけベッドはそんなにでかくないから狭い。

 隅に置かれているヴァルゼルドのアーマーを一目見てから布団を干し、二人を引き連れて一階の食堂に移動。

 朝食を準備していた双子に挨拶し、朝ご飯を食べる。

 その後は食材の仕入れなど、対応を見守る。

 で、洗濯物を干したり、掃除したり、昼の準備をちょろっと手伝う。

 

 まあ、昼の準備といっても食材の皮を剥いたり、骨を取ったりする程度だけど。

 無駄に鍛えた身体能力を持ちいれば、やり方さえ分かれば料理の下拵えも瞬殺だ。

 一秒くらいで野菜一個の皮とか剥けるし、一太刀で魚を捌いて骨抜きまで終わらせられる。

 双子からかつてない尊敬を受けた。

 お、おう。

 それが終わったらライとフェアに剣や杖の体術を見てから召喚術を少しずつ教えていく。

 

 

 

 一時間ほどで集中力が切れるので一度終わりにし、休憩がてら宿がある丘から双子を肩に担いで町に降りる。

 溜め池で遊んでいるブロンクス姉弟も引き連れて、町の中央通りに並ぶ商店街へと向かう。

 幽霊として驚かしたからか、リシェルはイスラを警戒してポムニットに引っ付いたままだ。

 半透明なだけだから特に危険はないんだけど。

 むしろ一般的な認識の危険度で言ったらポムニットは半魔だし、イスラより遥かに高い。

 まあ、イスラが剣を使ったらポムニットなんて比べ物にならないくらい被害が出る。

 

 そんなリシェルとは代わって、弟のルシアンはイスラに懐いているのだが。

 召喚術が霊界サプレスに適正があるせいだろうか。

 騎士が好きだというし、イスラのそれっぽい空気に感化されているのかも。

 イスラは外道な戦法を使ったりと奇を衒う動きもするが、基礎はとても綺麗だ。

 寝たきりの期間を考えると、文字通り血反吐を吐きながら練習したのかもしれん。

 ルシアンの能力は召喚術師の跡取りとしては致命的だが、本当に望んでいるのなら騎士を目指すのもいいと思う。

 叶う可能性のある夢を、挑む機会すらないのは悲しいことだから。

 

 

 

 中央通りから少し逸れた位置にエラそうに巨大なブロンクス邸があるのだが、どうも違和感がある。

 最近は4界の流れというのだろうか、マナの分布がわかるようになってきた。

 何処でどの属性の召喚術を扱えば、濃度が濃いマナのバックアップを受けられるか、マナの浪費が少ないか、威力が上がるかというのが分かる。

 まあ、そんなわけでブロンクス邸だが、その4つの流れの中心に位置している。

 俺やライ、フェアなら問題ないがブロンクス家は機界ロレイラルに適正があったはずだ。

 リシェルに聞くと、やはり少し召喚術を使うと息切れする気がするようだ。

 テイラーに溜め池の奥にある空き地が機界の召喚術に適していると伝えておこう。

 とはいえ、そんな簡単に家を移動させられるわけもないんだけどな。

 

 うん?

 心なしか、ブロンクス邸が移動している気がしないでもない。

 良く見れば昨日よりも溜め池に近づいているような……。

 あー、うん。

 去年と比べたらかなり動いて……。

 いや、いや、いや……。

 なんだ見間違えか。

 見間違えでいいや。

 中華風の家から漂っていた気配が徐々に大きくなっている気がするが、全部気のせいだ。

 

 

 

 ライとフェアが店で出す日替わり定食用の、美味しそうな食材を商店街で直々に品定める。

 俺には違いがわからん。

 旬なんてさっぱりだ。

 調味料とか意味不明でござる。

 首を傾げる俺に、自慢げに説明してくれるライとフェアの話を聞きながら、店を見て回る。

 

 ライとフェアの両親の知り合いで、宿で暮らしていると説明したら、商店の人たちが色々と親身にサービスしてくれるようになった。

 ケンタロウの人柄によるサービスとかは特になかった、むしろやんちゃ坊主に対する呆れが感じられた。

 あとはライとフェアが大変そうだからこっそりサービス的な感じだ。

 魚屋のおっちゃんが朝から元気だった。

 ライとフェアが今日も可愛いとサービスしてくれた。

 肉屋の兄ちゃんも元気である。

 リシェルとルシアンは今日も可愛いだろとサービスしてくれた。

 八百屋のおばちゃんも元気だ。

 ポムニットが可愛い御嬢さんだと褒めてサービスしてくれた。

 果物屋の姉ちゃんも元気だ。

 イスラが別嬪さんで仲が良いねとサービスしてくれた。

 今日も沢山サービスしてもらったぜ。

 

 

 

 買い物した荷物をせっせと運ぶ。

 小分けして軽い食材などはライやフェア、リシェル、ルシアンが運ぶのを手伝ってくれる。

 大き目の袋は俺やイスラ、ポムニットで。

 ポムニットは半魔なだけあって、意外とパワフルだ。

 

 宿屋に着いたら、食材を仕分けして冷蔵庫に保存。

 昼は食事処として動き始めるので、昼食は賄い的な感じだ。

 ちょっと早い昼食に舌鼓を打った後、俺とポムニットはイスラに教師役をしてもらって勉強だ。

 知識が足りな過ぎるからなぁ、俺ら。

 寝たきりで引きこもり、その後も短い月日を特殊部隊で過ごしたために世情に疎いイスラに劣るレベル。

 世間知らずでごめん!

 何も知らなくてもいいかと思ったが、イスラが何時もの笑みをひっこめて真顔で勉強したほうがいいと力説してきた。

 勉強しないとケンタロウになると言われて、マジでやべーなって思った。

 後は力があるのに頭は無いと、化け物になるとも。

 やべー。

 そこら辺は気を付ける様にしよう。

 

 算数代わりに、ポムニットに店の支出を計算させたりする。

 朝の仕入れと買い物で使った金などだ。

 詰まったらヒントや解き方を横から教える。

 イスラは俺が計算できることに驚いてた。

 え、俺ってそんなに馬鹿に見えんの?

 

 

 

 勉強も一区切りついたので、リシェルとルシアンを邸宅まで送り、駄弁ってた店の常連たちと茶を啜る。

 下拵えを手伝っていたところを見られているので、曲芸師あたりだと思われているようだ。

 実は無職なんだよなぁ。

 テキトーにロレイラルの機械部品とか買ったり拾ったりして、なんか組んで売るかな。

 魔力刃は通常時は刃の無い包丁として使えるのだが、そんな出力を出せる一般人がいるわけもない。

 簡易的な玩具でも作ろうかな。

 ちょうど子供も多い環境だし。

 

 食事処の営業時間も終わり、片づけを手伝った後にライとフェアが基礎的な勉強を始めるので混ざる。

 最初はテキストを読むだけだったが、イスラが纏めてくれた授業を食堂で受ける感じになった。

 そんなに難しい内容を勉強するわけでもないので楽ではある。

 一般的な知識は付いても、こっちの世界の倫理が付いているのかはわからん。

 悪魔と言われても怯えないし、召喚術も未だに魔法的な認識なんだよなぁ。

 

 

 

 授業後は模擬戦だ。

 まだ戦いという程でもない攻撃を流すだけだが、双子には楽しいらしい。

 ライは剣、フェアは召喚術をメインに考えているらしいので杖だ。

 召喚術を主に使っていくとしても動けるほうが良い。

 無限回廊を降りてくるときに、様々な敵から動きは学んだので杖術もいける。

 銃も使えるが、自分より遅い武器を使うのってどうよ。

 いや、拳銃でも時差着弾や跳弾、銃弾撃ち落としなどトリッキーな戦い方もできるけど。

 

 地を這うように迫るライを、ほとんどその場から動かずにやり過ごす。

 ちびっこは低い位置から攻撃してくるが、非力で動きもまだまだ、足も遅い。

 幾らでも対処できるというものだ。

 ライが離れたところにフェアの召喚術による攻撃が飛んでくる。

 意外とコンビネーションみたいなモノを考えているっぽい。

 威力は弱いから、魔力量の差で俺に届く前に減衰するけど。

 反則だと文句を言ってくるちびっこどもに、これが大人だとドヤ顔。

 そして魔力でフェアを引っ張り、前線に引き出す。

 

 痛くないと覚えないっしょ(にっこり)

 

 朝教えた基礎的な動きを見せつけながら双子をボコす。

 強くてすまんな子供たち。

 これも全部君たちが弱いのがいけないんだ。

 もっと強くなることだな。

 

 

 

 夕方くらいに切り上げる。

 もう一戦とねだる双子に、腹減ったから終わりでーすと告げる。

 双子の汗に濡れた髪をわしわしと撫で、店へと連行。

 俺は汗もかかなかった。

 もうちょっと成長したら、俺も10cmくらい動くかもしれん。

 傷の治療をしてから、双子が汗でびちゃびちゃなのでライとともに風呂に突入。

 フェアは女性用で同じようにポムニットに洗われているだろう。

 風呂上りにライをマッサージ。

 ポムニットが長風呂なので、つられてフェアも長いため、ライが先だ。

 筋肉をストラを掛けながら解す。

 あまり負荷が掛かりすぎると成長に障害となるので、こういったケアは大事……だと思う、たぶん。

 

 マッサージを終えて元気になった双子が夕食の準備。

 ポムニットも混ざる。

 ボコして料理を作らせるとか俺って外道じゃないかとイスラに問う。

 屈託のない笑顔で「あはは、今さらだね」と返事が。

 オラ、俺の都合の良いことを言わないダメな口はこれかとイスラの柔らかい頬をぐにぐにする。

 半透明の霊体状態だろうと俺に触れない物なんて無いんだよ。

 ぐにぐにと強めに頬を引っ張ているのにイスラがちょっと喜んでいる気がした。

 なるほど、マゾか。

 

 

 

 夕食は和食だ。

 あー、嬉しい。

 嬉しすぎて頬が緩む(真顔)

 本当に美味い物を食う時は、静かで真剣で黙々と箸が進むんだよ。

 

 食後、実は俺も一つだけ料理が出来ると告げ、冷凍庫へ。

 プリンだ。

 伊東家の食卓で、三分で固める裏ワザを見て何故か作り方も覚えた伝説の一品だ。

 揺れる魅惑のプリンボディに、普段は強がってすまし顔の双子も「ほわぁ……(お目目キラキラ」よ。

 ついでにポムニットとイスラの心も一緒に掴んでしまったのは想定外だったけど。

 

 双子はデザートに興味を持ったようだ。

 俺はマジでプリンしか知らんからなぁ。

 あとはアイスも行けるが、専用の道具がないと零下を維持したまま混ぜつつ凍らせるのがムズい。

 うーん……本でも買ってきて作ってみるか。

 あとはブロンクス邸の料理人に話を聞くのもいいかもしれん。

 

 

 

 夕食で出た食器を洗い、布で拭いて乾かす。

 歯を磨かせ、寝る前に双子が眠くなるまで話を聞く。

 一日のほとんどを一緒にいるから話を聞かなくてもわかるけど、子供はそれでも一生懸命話す。

 双子がうとうとし始めたら、起こさないようにゆっくりと寝室まで抱えて寝かせる。

 

 双子が寝た後はポムニットの相手だ。

 エナジードレインの調整と、悪魔と人間状態の練習だが。

 もう2年近く練習しているので様になっているが、慢心するにはまだ早い。

 ポムニットが身を守る手段にもなる、慎重になりすぎるくらいがいい。

 よく頑張っているとポムニットの頭を撫でて褒める。

 嬉しそうで可愛い。

 何故かイスラも頭を差し出してきた。

 え、撫でてほしい感じか。

 いや、撫でるけど。

 

 そして、眠くなってきたので俺も寝ることにする。

 イスラとポムニットとはベッドを分けているのに、頻繁に朝にもぐり込まれているという。

 静かに寝息を立てている双子も、時々だが潜り込んでいたりする。

 敵意とかないし、傍にいるのが自然なくらい気配に慣れているからから、さすがの俺も寝ていると感知できないんだよなぁ。

 

 

 

 そんな感じで穏やかな生活に心が洗われる気分だ。

 俺が幸せならリィンバウムの何処かで誰かが不幸でもそれで良いって考えにさせられてしまう。

 いや、別にヒーローとかやってるわけじゃないからそれでいいんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 --26

 

 壊れた機械兵士の通信パーツを取り出し、トランシーバーを組んでみた。

 電脳によって細かな周波数を変え、秘匿通信なども行う優れた通信機能を持っているのに目を付けたのだ。

 が、作ってみたら単純なトランシーバーが限界だった。

 範囲は、遮蔽物があっても問題なく、町の中心から滞在している宿くらいまで。

 まあ、狭い町なら半分ほどカバーできる。

 1セット作ってライとフェアに渡してみたが、ほとんど一緒に活動しているので意味なかった。

 結局、片割れをリシェルとルシアンに渡したようだ。

 ちなみに原動力は機界のサモナイト石、スリープ時に空気中のマナを集めて充電するので半永久的に動く。

 

 あまり機械兵士の部品は手に入らないので、数は全く作れないのが欠点か。

 露天で電脳が焼けて死んだ機械兵士が手に入った偶然による作品だった。

 俺の技術だとゼロから組むには難しすぎる。

 次の偶然に期待しよう。

 

 

 

 バラした機械兵士のパーツを、買ってきた適当なパーツで可能なら直す。

 骨格に相当する装甲や基礎は駄目になっている部分を切り裂き、無理やり繋ぎ、スピリット・オブ・ファイア(S.O.F)の熱で溶接。

 火力が高すぎて、裏庭の地面に焦げ跡ができてしまった。

 あとマナが食われる上に、サモナイト石も砂と化すので頻繁には行えない。

 

 制御系は専用の施設が無いとほとんど弄れない。

 出来たとしても、あまり傷ついていないアクチュエーターを手直しするくらいだ。

 センサーは無理。

 情報の行き来を調べられないので完全にお手上げだ。

 生体部品も多いから、田舎の宿屋で出来ることは全くない。

 

 プログラム系である電脳など手も足も出ない。

 激しい戦闘に晒されたのか、見事に焼き切れてしまっている。

 施設があったとしてもリィンバウムに電脳を弄れる施設が存在するとは思えない。

 いや、ラトリクスなら若干いけたけど、焼け切れているのは無理。

 ロレイラルでも無理だろう。

 

 

 

 折角なので、治した部品を町の入口で行商と混ざって売ってみる。

 当たり前だが、こんな田舎町でロレイラルの部品を求めている人なんて皆無。

 かなしい。

 ちょっとしたネタでイスラと剣舞を披露したことがあったが、あれのほうが圧倒的に効率がいいという。

 剣舞というか、当てないだけの模擬戦だったけど。

 

 時々、興味を持った人が話を聞きに来るが、さっぱりである。

 何に使うのかと聞かれても、機械兵士などのロボットの修理用としか言えない。

 ただ、召喚術で呼び出した機械兵士が壊れたとしてもロレイラルで修理されるから、契約が失効して帰れなくなった機械やリィンバウム産の機械にしか使えない。

 改めて考えてみるとニッチすぎぃ。

 

 暇をしていたら隣の行商の人が、シルターン自治区で仕入れたと言う扇子を見せてくれた。

 召喚の触媒にも使える、なかなかレアな一品だ。

 よくよく観察すればうっすらとマナを纏っている。

 素材に、サモナイト石のようなマナ結晶でも使ったのかもしれない。

 魔力の乗りも、魔剣程では無いが、なかなか悪くないので買ってしまった。

 ……初めての行商は赤字である。

 

 

 

 扇子を手回ししていると、声を掛けられた。

 セクターさんという人だ。

 リシェルとルシアンが通っている私塾をやっているとか。

 うーん……?

 マナの流れを見ると関節や足がちょっと悪そうだが、イスラと似た動きだ。

 イスラは動物的で、セクターさんは機械的。

 ストラの流れも歪で、機械兵士に近い。

 

 アクチュエーターが欲しいらしい。

 うーん?

 ああ、まあ、うん。

 捨て値でいいか、趣味だし。

 恐縮しているセクターさんを眺めながら、私塾という魅力的な話に思いを馳せる。

 

 

 

 私塾、行くか!

 

 

 

 

 

 --27

 

 午前を私塾、昼に食事処、営業後に体術召喚術に切り替えた。

 幼い少年少女に混ざって俺も授業を受けると言うシュールな光景。

 いや、だってしょうがないじゃん。

 俺ってほら、召喚獣的な感じだし、常識が無いからな。

 まあ、文字の練習とかの日は、セクター先生からロレイラルの機械などについて教えて貰うんだが。

 ラトリクスでも一応勉強していた俺に教えるとか、なかなか詳しい人だ。

 

 セクター先生が、相談があると言って経年劣化している部品を持ってきた。

 修理できるかどうか聞きたいようだ。

 生体部品が多くを占めている。

 どうだろうか。

 ヴァルゼルドに残っている生体部品をそのまま組み込めるかどうかが問題だ。

 生体部品はブラックボックスばかりで、触るのも難しい。

 一度持って帰ってみないとわからんなぁ。

 

 

 

 ヴァルゼルドの生体部品がかっちり噛みあって直すことができた。

 が、その後、何故かセクター先生が俺の事を副教官殿と呼ぶようになった。

 えぇー……。

 イスラが「なるほど、ライバルだね」とか呟いていた。

 (ライバルじゃ)ないです。

 

 

 

 

 

 --28

 

 最近、無色の派閥が温すぎるとイスラが言い出した。

 わかる。

 島から出た後はケンタロウの経験を積ませるためにもこちらも積極的に狙っていたが、異次元とか死後の世界とかでインターバルを挟むことがあった。

 そういうときはオルドレイクが元気に暗躍しているのだ。

 よく考えたら今も無色の派閥にとって長期インターバルで準備期間だ。

 別に世界征服とか好きにしてもらってもいいが、オルドレイクが上機嫌なのは腹立つ。

 ちょっと探ってみる。

 

 なんか情報寄越せとばかりに、外道召喚術師や野盗などを襲撃する。

 サモナイト石や金が溜まる溜まる。

 すでに契約してある召喚石は盗難届が出ている物もあるので返還する必要があるが、ライやフェアのお土産になるだろう。

 

 トレイユのみならず遠出して情報を収集した結果、魅魔の宝玉というマジックアイテムが、無色の派閥に盗まれたらしい。

 これだな。

 動いているのがオルドレイクの派閥っぽいし。

 オルドレイクに失墜してほしい他の派閥が、情報を持った雑魚を寄越すから楽にわかった。

 むしろ情報を提供するならもっと早くして欲しかったわ。

 

 

 

 テイラーに盗難届が出ていた召喚石を託す。

 これで対抗している家や蒼の派閥に貸しを作ってもええんやで、みたいな。

 頭を抱えていた。

 まあ、結構な量があるからな。

 門外不出の秘奥とか言ってるクセに、管理が雑すぎぃ。

 

 頭を抱えていたのはそれだけじゃないらしい。

 金の派閥の議員であるマーン家の石が多いとか。

 あー……。

 最近、金の派閥っていざこざ多いけど、もしかしてちゃんと機能してない感じか。

 サモナイト石をころころと弄びながら聞いてみる。

 青褪めたテイラーが、総帥はかなりまともだから大丈夫だと必死に主張。

 まあ、いいけどね。

 今のところリシェルが所属する可能性が高いのだから、そういったところにも気を配ったほうがいいとは思うけど。

 自分の家だけ大丈夫でも、気付いたら敵ばかりとかだったら笑えないし。

 

 疲れ切った様子のテイラーに用事があってサイジェントに行く旨を伝える。

 なんか泣きそうな顔になってた。

 滅ぼしにはいかないから。

 テイラーに、サイジェントでの用とは何かと必死に問われた。

 何ってほら、殺す的な?

 いや、滅ぼさないから。

 君から見た俺ってどういうキャラなの(白目)

 

 

 

 

 

 --29

 

 テイラーが、シルターン自治区に行くから一緒に行こうと誘ってきた。

 露骨な狙いの逸らし方だ。

 だが、いいだろう。

 乗ってやろうじゃないか。

 

 

 

 ライとフェアがブロンクス家と一緒にシルターン自治区に行くのを見送る。

 後で俺も合流するから、あまり迷惑かけてはいけないよと双子に伝える。

 元気な返事に笑みを浮かべる、いい子たちだ。

 俺はサイジェント行ってくるね。

 テイラーが頭を抱えているが、途中まで一緒に来たじゃん。

 シルターン自治区(のほうに)一緒に行く的な。

 サイジェントは聖王国の西の端らしいが走ればすぐだろ。

 

 イスラは魔力パスがあるからしょうがないが、何故かポムニットも付いてきた。

 テイラーに頼まれたらしい。

 いや、自治区で遊んできていいのに。

 ポムニットは意味もなくやる気十分だ。

 うーん……。

 まあ、いいか。

 

 

 

 さあ、楽しくもないマラソン開始である。

 

 

 

 

 

 --30

 

 結構飛ばしたつもりだが、悪魔形態のポムニットも必死に着いてきていた。

 イスラは飛んでたので反則で罰ゲーム、と頬をぐにる。

 だから何故嬉しそうなんだ。

 

 途中、山間に村があったのでそこで宿を借りるために寄ってみた。

 旅用の宿は無く、空き家を借りられることになった。

 有り難い話だ。

 で、ポムニットがこの村に悪魔がいることに気付いた。

 医者に成り済ましているようだ。

 半魔だったら黙っておくのだが、人間に憑依している感じだ。

 

 翌日、出掛けに村人に告げてみる。

 村人たちが激おこ。

 「俺たちの先生を悪魔と呼ぶな」だとか。

 共存している感じ……というわけでもなさそうだ。

 「悪魔だとしても、それで殺されるなら本望だ!」らしい。

 面倒だな。

 放置でいいか。

 辺鄙な村に居着くモノ好きで親切な医者と、村人たちのハートフルストーリーで完結したらいいな。

 

 

 

 石とか投げつけられるのに、無理に聞かせることでもないだろう。

 ポムニットは複雑な表情を浮かべていた。

 まあ、こういうこともあるさ。

 珍しいけど。

 

 昔からもっと人間らしかったら同じようになっただろうかとポムニットが呟いた。

 そうかもしれないし、そうでもないかもしれない。

 召喚獣とのハーフは15歳くらいで覚醒するのだ。

 サプレス系はマナによる魂殻と肉体のバランスを取るのが特に難しく、暴走しやすいようだし。

 結局どこかで破綻していただろう。

 

 多くの失敗があったが、今が良ければそれでいいのだと思う。

 何か不満でもあるのだろうかと聞いてみる。

 ポムニットは、今の生活が幸せですと答えた。

 ただ、あの村が悪魔と気付かなくても友好的な関係を築けるようにと祈っているとも。

 

 

 

 

 

 --31

 

 サイジェントに近づいたのだが、マナの流れが澱んでいて、物凄く汚い。

 なんだここ。

 無色の派閥や紅き手袋の歓待を受けた。

 世界征服を企む悪の組織は今日も元気だ。

 正義の味方である俺はちょこっと顔を出して計画を一撃で転覆させればそれで終わりだが、悪役のオルドレイクは長い時間かけて準備しないといけないわけだ。

 だって世界征服だし。

 大変だ(他人事)

 

 蒼の派閥と金の派閥も何故かサイジェントに攻め寄せてきた。

 ちょっとなぎ倒してしまったが、無色の派閥もなかなかの人数がいる。

 大乱闘か。

 うーん……放置で良いな。

 サイジェントにはオルドレイクに用があっただけだし、色々な派閥の召喚師たちが町中に入って来ても邪魔だ。

 

 

 

 オルドレイクじゃん、いや、居ると思って追いかけてきたけど。

 別に世界征服とか子供みたいな夢を持っててもいいし、何をやってもらってもいいんだけどね。

 嫌いだから邪魔しにきた的な。

 

 オルドレイク、今日は手加減なしだ。

 

 

 

 

 

 --32

 

 何時もよりもあれだな、腕がいい連中が多い。

 まあ、それだけなんだが。

 ポムニットは鬼のハーフの少女っぽいのと殴り合ってる。

 止められるのは私しかいないんです!って熱血してた。

 よくわからないけど頑張れ。

 

 あー、オルドレイクはあれだ。

 命を賭けたほうが良いと思う。

 あと必死さが足りない的なサムシング。

 俺は賭けないよ。

 それが純然なる差だし。

 

 召喚術の腕はいいんだけど、まあ、それだけなわけで。

 召喚した際に生じる『門』に干渉し、魔力を送って強制的に全開にする。

 得意の召喚術で死ね。

 

 

 

 ……逃がした。

 やっべ^q^

 

 

 

 

 

 --33

 

 自分の腕を切り捨て、魔力欠乏を無理やり起こして『門』自体を生成する魔力を断って吸われるのを防ぐとかやるじゃん。

 その後も群がってくるオルドレイクの手駒が邪魔で追い打ちに失敗した。

 感知するにも、ここら辺には生物が多すぎる。

 魔力も気も探れない。

 ポムニットがドレインをかなり使っているので流れが歪なのも手伝っている。

 うーん、失敗した。

 まあ、血の流れている方に行けば追い詰めれるだろう。

 

 

 

 途中でウィゼルと出会った。

 凄い老けててビビった。

 時の流れは残酷だな。

 

 今回も会心の出来で魔剣を打てたらしい。

 サモナイト石を利用したとか。

 なるほどなー。

 でも、そういうの今はどうでもいいです。

 柄が余っているからくれるらしい。

 うわ、柄だけか。

 剣部分を阻害しないためなのか、魔力の伝導率がかなり高い。

 魔力刃を扱うには便利かもしれん。

 

 イスラに魔剣を返そうかと問う。

 魔剣があれば供給魔力で自力でも実体化できるようになるだろうし。

 普段使っている魔力刃を出力する柄でいいと言われた。

 ぶっちゃけるとそれって魔力を放出しやすくなっているただの柄だ。

 特別な機能とか何もない。

 作業機械たちのフロートユニットの超小型版で、浮くための魔力で刃を構成しているだけである。

 それでもいいとか。

 まあ、いいならいいけど。

 じゃあ、俺は無駄に特別な柄を貰うかな。

 

 

 

 血の跡を辿って城に入ると、高校生4人と4人の召喚師、白髪で紫の変態、満身創痍のオルドレイク。

 話を聞く限り、4人の召喚師と白髪はオルドレイクの息子と娘たちのようだ。

 なるほど。

 殺さないといけない連中が増えたな。

 悠長に話を聞いているのもあれなので、さっさとぶっ殺すスタイル。

 高校生は射程範囲より逸らせばいけるか。

 

 詠唱、そして……

 

 

 

 「メギドラオン」

 

 

 

 

 

 --34

 

 途中で気付いた高校生が斬りかかってきやがった。

 高校生もメギドラオンに飲まれそうだったので狙いを外すと、城が半壊しただけに留まった。

 狙っていた連中は誰も死んでない。

 うーん失敗失敗。

 

 ウィゼルが打ったという魔剣、サモナイトソードを構えている高校生と刀を腰だめに構えている高校生が前衛のようだ。

 後衛の召喚術を潰し、そのまま魔力を枯渇させて殺せばいいか。

 オルドレイクを守る形になってるんだけど、この高校生はあれか、無色の派閥か。

 それだと手加減なしだな。

 邪魔だし、可哀そうだが殺すしかない。

 

 召喚術の発動とともに、相手のパスに魔力を流す。

 暴発してかなりの魔力が吹き荒れただけだった。

 渇死していない。

 あるぇー?

 よく見ると、サモナイトソードから物凄い膨大なマナが溢れ出て、それがオルドレイク以外に供給されている。

 よくわからんが、なるほどなー。

 

 

 

 サモナイトソードのフザケタ出力に、特別な柄から生やした魔力刃ごと叩き砕かれて、場外にすっ飛ばされた。

 

 

 

 

 

 --35

 

 うわー。

 何だあれ。

 出力が半端なさすぎぃ。

 

 サモナイトソードが凄すぎてヤバい。

 魔力供給量がぶっ壊れてる。

 小太刀型の魔剣キルスレスはオリジナルだから傷一つないが、魔力刃が粉砕された。

 時間をかけて凝縮したマナの結晶であるサモナイト石で打ち出されてぶっ壊れた出力の魔力を纏って強化されているから、俺の魔力で刃を作っても負けるよね。

 

 剣としての性能はキルスレスが圧倒的に高いが、供給源となると別物らしい。

 どんなカラクリがあるのか知らないが、サモナイトソードは持ち主にキルスレスの遥か上の量の魔力を供給しているようだ。

 こっちが蛇口を捻ってホースから一生懸命水を出しているのに、相手は水道管から持ってきている感じだ。

 もしかしてサモナイトソードはエルゴから直接くみ上げているのかもしれん。

 卑怯臭いな。

 

 基礎から違うな。

 ちょっと変えてみよう。

 そもそもキルスレスが魔力を取り出している源は、遺跡を通して『共界線(クリプス)』をエルゴに繋げて不法に横取りしている感じだ。

 障害が多すぎるな。

 というか、魔剣が使えるとか遺跡は封印されていないのだろうか。

 とりあえずこの供給源を変えよう。

 サモナイトソードとやるにはラグが出すぎる。

 

 あとは人間の肉体もちょっと弱い。

 戦闘向きじゃない。

 神経伝達も遅いし、筋力も足りない。

 ストラなどで強化しようとも、足りない物は足りん。

 肉体を魂の保護用にして、身体は霊体のように魂殻で構成すればいいのだ。

 魔力だけだと脆いうえに実体化しても肉体以上の能力は出せないので、気を練り込めばいけそう。

 魔力は結晶化しにくいが圧縮すれば丈夫でしなやかさに欠け、気は結晶化しないが代謝アップなどで生体適合性が高いなら混ぜることで万能なエネルギーになるんじゃないか。

 そもそも魔力を結晶化するときにストラを練れば凄いんじゃね。

 お、いけそうだ。

 これも試そう。

 

 

 

 よしよし、いい感じだ。

 麻痺してた左手も動くし、生身と変わらないのに運動性と反射が半端ない。

 思考と動作がダイレクトに繋がっている感じがする。

 キルスレスは一度『共界線(クリプス)』を切断し、接続する場所を変えよう。

 サモナイトソードはどうもリィンバウムを囲む四界からマナを供給しているようだ。

 

 ならば俺は死後の世界である「夢と現の界層」とやらに『共界線(クリプス)』を接続するとしよう。

 結局、全ての世界は繋がっていてマナは循環しているし、サモナイトソードとも張り合えるだろう。

 無属性のサモナイト石を取り出し、タナトスを召喚。

 魔力でタナトスが現れるはずの『門』をこじ開け、『共界線(クリプス)』を接続。

 お、いけるいける。

 最期に流入する魔力を利用して『門』をぶち壊す。

 サモナイト石が魔力の枯渇で粉となったが、実に役立った。

 

 

 

 

 

 --36

 

 嘗てないほどの膨大な魔力に気を練り込んで、結晶と液体の間のような状態に留める。

 二種類のエネルギーの合一体を全力で注いで刀身を生成する。

 身体から出力されるエネルギーが多すぎて、ちょっと不安定になりつつある。

 それを調整する。

 エネルギーの噴出する場所を両肩辺りにし、頭部付近でエネルギーの流動が折り返されるようにする。

 ついでバランスを保つためにスタビライザーを生成し、地面だと柔らかすぎるのでちょっと浮いてみる。

 

 どう?と傍にいたイスラに聞いてみる。

 竜っぽいと言われた。

 うん?

 あー。

 なるほど。

 確かに纏っている魂殻(シェル)の形状がいわゆる竜っぽくなってる。

 

 イスラが「触った感じだと生ぬるい液体っぽいんだね」とも言っている。

 へぇ。

 でもこれが膨大なエネルギーが安定する形状なんだよなぁ。

 あれかな。

 極めると竜になるってやつ。

 

 

 

 エネルギーの流出関係でブースターとなっている両肩後ろが辺りが羽のようだ。

 腕を動かすと連動して動いて面白い。

 バランスを保つためにスタビライザーを用意したら尻尾型になっている。

 防御や攻撃用に魔力が活発に流動する頭付近は流線型で竜の頭部の様だ。

 剣で試し切りすると、見かけ上は羽ばたいているが、斬撃が出る。

 なんかウケる。

 

 まあ、スタンドとかに近いから竜の魂殻がどうという話は無いのだけど。

 見た目の威圧感はたっぷりだね!

 キルスレスのせいで魂殻が赤くなっている。

 

 ベルタースオリジナル的な特別な柄は「夢と現の界層」から供給される魔力で刃が形作られているのだが、死後の世界からマナを得ているせいか、刀身が透明である。

 敵役っぽくない?

 これ大丈夫なの?

 

 イスラがかっこいいと言ってたのでおっけーだろ。

 何故か嬉々としてイスラが自分の丸い首飾りとか巻いて来るんだけど。

 魔剣の影響か、白くなっている俺の周りに丸いのが浮遊。

 え、なんなのこれ。

 確かにイスラが島で魔剣を使った時も浮遊してたけど。

 

 

 

 

 

 --37

 

 さあ、第二ラウンドといこうか!と城に戻る。

 オルドレイクが高笑いとともに、濁ったマナが籠ったマジックアイテムで召喚術を行使。

 強大な存在がオルドレイクに憑依した気配がする。

 先ほどの召喚術カットによって壊れた『門』から膨大な魔力が流れ込んできている。

 えぇー……。

 

 サモナイトソードの持ち主、どうも流れ込んでいるマナに乗っている知識だと誓約者(リンカー)とやららしい。

 まだ確定ではない上に未熟なようだ。

 魔力の供給源はリィンバウムおよびロレイラル、シルターン、メイトルパっぽい。

 守護者が協力しているようだ。

 

 で、オルドレイクだが、誓約者の仲間っぽい召喚者の話声を聞く限りだと魅魔の宝玉によって魔王を憑依させたようだ。

 命かけてるし、気合入ってる。

 魔力供給減はサプレス。

 サプレスは守護者が欠員なのが原因っぽい。

 魔王と合体したオルドレイクは上機嫌だ。

 散々俺に邪魔されたのがイラついていたらしく、俺をぶっ殺すというマイクパフォーマンス。

 力を得られて調子に乗りまくりだ。

 

 

 

 オルドレイクの息子Aである白髪が、目を見開いて「こ、こんな姿に……」みたいな感じで恐れ慄いていた。

 なんか呑気だな。

 この後死ぬんだけどなぁ。

 というかオルドレイクとともに俺に殺されるのだが。

 オルドレイクの息子に生まれたのを後悔……いや、生まれは選べないし、そういうのは良くないな。

 無色の派閥にいることを後悔しろ(結局殺す)

 

 

 

 

 

 --38

 

 魔王(オルドレイク)は再生能力が半端ない。

 魔力供給によって無駄に生命力豊かだ。

 失敗した竜のパチモノみたいな見た目をしやがって。

 神々しく赤く輝く俺を敬え。

 

 誓約者組は、サモナイトソード持ち以外は動きが鈍い。

 誓約者による供給魔力だけだとやはり弱いか。

 それに、誓約者も力に慣れていないのかそれほど脅威でもない。

 出力はアホみたいで、攻撃が当たると一発で魂殻が貫通されるが、技術不足でまず当たらん。

 

 戦力を顧みた結果、優先度的には「誓約者→オルドレイクチルドレン4人→白髪→魔王オルドレイク」だろうか。

 オルドレイクはこれ以上能力が上がることはないので放置でも問題なし。

 誓約者は出力が鬱陶しいし、万が一流れ込んだ知識でパワーアップでもされたら面倒だ。

 刀を持っている高校生の後ろに回り込み、地面へと頭を叩き落とす。

 床が砕け、階下に落下した。

 おお、思ったよりも強いな。

 頭部を潰す気持ちで叩き落としたが、床が崩れたのも手伝ったのか気絶しただけだった。

 供給魔力もクッションになったか。

 

 

 

 誓約者の動きがレベルアップした。

 あー、そういうタイプか。

 つまり最初にこれを落さないとダメ的なやつか。

 面倒だな。

 

 誓約者が召喚術のアクションなしに『門』を開いた。

 え、なにそれ。

 反則じゃね。

 誓約者は誓約とか一切なしで召喚獣を呼べるとか。

 エルゴに混ざっている知識が便利すぎてヤバい。

 

 膨大な魔力で、誓約者の『門』に干渉する。

 俺が誓約(エンゲージ)してやるよ。

 召喚には真の名前がどうとかあるが、『門』から現れるときに魂殻を形成しているのだから、そこから名前を読めばいいのだ。

 ポケモンだったら人の物を取ったら泥棒、と言われる案件だ。

 誓約は呪いに近い。

 そして誓約者の召喚は解呪である。

 一度に両方の負荷が、膨大な魔力で引き起こされたらどうなるのだろうか。

 召喚中に負荷がかかり過ぎると召喚獣は消し飛ぶらしい。

 リィンバウム初の試みの可能性である。

 あら、誓約者が送還したようだ。

 どっちでもいいけど、送還のやり方は覚えたから召喚術は無しだ。

 

 

 

 オルドレイクは時たま思い出したように魔力砲で削っておけば、再生するために停止する。

 魔王のくせに雑魚か。

 それに反して誓約者だ。

 この空間で最もマナを持っているために、防御が硬過ぎる。

 動きはあんまり良い所は無いのだけど、防御特化かというくらい硬い。

 

 オルドレイクの息子はイスラが片づけてくれるらしい。

 それなら話は変わる。

 四色のサモナイト石を取り出し、同時に召喚。

 『門』が開く。

 神霊を呼び出すほどの巨大な『門』は、四界のマナの流れを生み出す。

 ここで無限回廊の扉を召喚。

 

 --強制転移『偽・無限回廊』

 

 

 

 

 

 --39

 

 魔王(笑)と誓約者を偽物の無限回廊に連れ込む。

 俺が入ると門が閉じ、マナが全カットされた。

 扉を開けて四界のマナの流れに乗って他の世界と繋がる無限回廊とは異なり、無理やり流れを作って扉で入り込んだこの空間は外界との繋がりが一切ない、完全なる閉鎖空間だ。

 共界線(クリプス)の接続も断たれ、エルゴの介入も無し。

 自身の魔力と気、体術のみが試される。

 

 俺は魂殻が薄くなったが、継戦能力が余裕で残っている。

 誓約者は……え、弱体化しすぎじゃね?

 十分な魔力を溜め込んでおける容量が無いとか、この空間では最弱に転げ落ちるんですが。

 オルドレイクは魔王の自我に浸食されているのか、変な声で高笑いを上げている。

 おめーも自分の維持にマナを食われて自壊しているから。

 

 

 

 可愛そうだけど、殺すしかない。

 「くそぉ!」と叫びながら地面を叩く誓約者と「無様ァ!」と狂ったように笑うオルドレイク。

 え、お前ら仲間じゃない感じなの?

 無色じゃないの?

 じゃあ、死ぬのはオルドレイクだけだな。

 

 

 

 

 

 --40

 

 勝手に崩れていくオルドレイクを見ながら、誓約者ことハヤトと話す。

 日本から召喚された高校生だとか。

 勘違いで襲って申し訳ないと謝り、俺も目覚めたら人間がいない島だったとか、大変だったなとか、異世界あるあるを話す。

 剣とかマジでビビったらしい。

 俺は相手が野良召喚獣だったけど、最初は檻のないライオンと対峙した気分だったのを思い出した。

 

 オルドレイク、どうするんですかと聞かれた。

 無様に崩れていくオルドレイクはそのままマナ枯渇で自壊させ、残った魔王の核から魔力を絞って『門』を開く予定だ。

 で、魔王の搾りかすとオルドレイクの残骸はこの空間で放置。

 魔王は永い時間経過で復活するらしいので、これくらいすれば完封だろう。

 

 

 

 ハヤトも無色の派閥に屈してたらここでオルドレイクと同棲だったなと茶化す。

 青褪めて頬が引きつっていた。

 人は易きに、水は低きに流れるものだ。

 楽を覚える方に流れなくて偉かったな、よく頑張ったとハヤトを撫でた。

 

 

 

 泣かれたぁ^q^

 

 

 

 

 

 --40

 

 サイジェントに戻る。

 イスラが魔力足りなくなってたとくっついてきた。

 パスのこと忘れてた。

 

 イスラが赤い目のハヤトに気づいて「え、ライバル?」とか言い出した。

 (ライバルじゃ)ないです。

 最近のお前なんなの(おこ)

 

 

 

 オルドレイクチルドレンが生きてた。

 あとポムニットにぶん殴られて気絶しているハーフも。

 高校生たちに、何でもするから殺さないでと頼まれた。

 「え? 今、何でもするって……」とか言い出したイスラを叩く。

 無色の派閥じゃないらしい。

 じゃあ、殺さなくてもいいんじゃないか。

 全員が「え?」みたいな顔をした。

 

 あんまりふざけてると殺すぞ。

 

 

 

 

 

 --41

 

 誓約者が魔王じゃないと、エルゴからお墨付きを貰っていた。

 魔王じゃないでしょ。

 マナの流れを見たらわかるのに何言ってんの。

 

 まあ、それはどうでもいい話だ。

 歴史にある通り、リィンバウムは過去に他の世界から侵略を受けていた。

 その侵略を防ぐためにエルゴの王という偉い人が、リィンバウムに結界をかけた。

 で、召喚術の連発で結界が緩んでるから、改めてかけ直す。

 その際に日本に戻れるよってのがこの話の重要な点だ。

 

 丁度いい話だな。

 帰ったらいいと思うわ。

 俺は帰らないけど。

 イスラとポムニットいるし、シルターン自治区に行く予定があるし、トレイユに戻るし、それに……まあ、やることがいっぱいあるわけだ。

 そもそも人間やめたから戻るとヤバい。

 あっちってマナとかあんの?

 そういうわけなので、高校生たちに帰るよう促す。

 

 そして、各々が仲の良かった相棒と別れを惜しんで帰っていった。

 

 

 

 何故かハヤトは残っているんですけどね!

 

 何時の日か、俺を倒すのだと。

 ははは、なるほど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無理でしょ、だってハヤトはサモナイトソードが武器なのに剣術が下手だし(台無し感)

 

 

 

 

 

 --42

 

 用事は終わった。

 オルドレイクを元気に次元の彼方に葬って俺もイスラも大満足でサイジェントを後にした。

 別れの見送りは互いに9割以上がおまえ誰だよ感があったが、まあ、いいんじゃないかな。

 

 どうでもいいんだけど、生き残ったバノッサとカノンとやらの義兄弟コンビは城の賠償とかするのかな。

 やべー。

 やっぱり悪い事ってするもんじゃないなぁ。

 

 

 

 

 

 来るときに宿を借りた村の辺りに近づいた。

 村を探ってみる。

 村人が減って悪魔が強くなっていた。

 うーん、共存というか餌?

 放置でいいか。

 態々行ってポムニットの夢を枯らすのも良くない。

 

 ポムニットの夢>見知らぬ命だ。

 次に来たときになんやかんやあったらズバってすればいいっしょ。

 

 

 

 

 

 --43

 

 シルターン自治区で、みんなが滞在している宿へ。

 遅かったと頬を膨らませるリシェルとルシアンをポムニットとイスラに任せる。

 テイラーに報告。

 サイジェントで大乱闘してきて城とか町がぼろぼろだ、みたいな。

 

 テイラーが失神した。

 

 

 

 テイラーのネタキャラ化が激しい。

 後は奥さんに任せる。

 俺も伴侶が……欲しいのか?

 まあ、いいや。

 

 ライとフェアが泣きそうな顔をしていた。

 あー……。

 妖精のハーフか。

 響界種(アロザイド)だっけ。

 若干ながらも感情とか読み取れるのだろう。

 切り殺しまくった後に悪魔を放置だし。

 

 ……改めて考えると邪悪すぎぃ。

 

 言葉を濁していると、ライとフェアのダイナミックボディプレスを喰らった。

 あーもう顔面の汁でぐちゃぐちゃですよ双子さま。

 いや、嬉しいんだけどね。

 避けられるけど避けなかったのをイスラににやにやされた。

 やめーや。

 あとリシェルをいじるのも止めて差し上げろ。

 

 あんまり経過した時間に頓着しない性分になったが、それでも少しの時間を一緒に過ごした子供たちが良い子で俺は嬉しいよ。

 

 

 

 

 




異次元:プロジェクトクロスゾーン
死後:エクステーゼ




オリ主
 誓約者を殺すために人間をやめた自分以外絶対殺すマン。体の構造は半魔などに近く、オドとマナによる「魂殻(シェル)」で構成されている。
 結局殺さなかった殺す殺す詐欺の人。

・至竜
 なんか尋常じゃないくらい超頑張ったら竜に至った存在の事。マジで頑張りすぎると種族を問わず竜になるとかならないとか。エルゴの王もうんたらかんたら。詳しくはググればいいんじゃないかな(天才)

・至竜化
 天賦の才と狂気的な鍛錬、「夢と現の界層」への接続によってオリ主が至った一つの形。
 膨大なエネルギーを効率よく行使できる「魂殻(シェル)」の形態らしい。制御を頭部、推進を肩部、安定を臀部に配置する感じにすると竜っぽくなるとのこと。
 竜の形状をしているが、実質は奇妙に配列されたオドとマナによるエネルギーの揺らぎである。
 イスラ曰く「生ぬるい液体」

・強制転移『偽・無限回廊』
 四界の最上位神霊格を召喚する際に開く巨大な『門』によって擬似的に魔力の流れを作り出し、無限回廊への扉を開ける条件を強制的に再現する。そして何処でもない空間に扉を接続する技。
 扉の開け閉めは死後の世界である「夢と現の界層」から出るときにオリ主がテキトーに頑張ったら無限回廊への扉が開き、脱出時にメイメイが扉を閉じたときに完コピした。


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