実験室のフラスコ(2L)   作:にえる

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レベル1~ 一般人や各分野のスペシャリスト

レベル10~ 三流サマナー

レベル20~ 二流サマナー

レベル30~ 一流サマナー

レベル40~ 超人

レベル50~ 英雄

レベル60~ 国がヤバい

レベル70~ 世界がヤバい

レベル80~ 次元がヤバい

レベル90~ 世界が生まれる

レベル99 テレ東が特番を組む





ておがめ1

 

 --1

 

 一度目の生は日々を無為に過ごし、つまらぬ事故で失った。

 あまりにも無様な最期に涙すら流した。

 思い返せば後悔しか浮かばなかった。

 

 二度目の人生は困惑から始まった。

 『二人目』の自分に慣れるまで無駄に過ごしてしまったように思えた。

 焦りから我武者羅に過ごす様になった。

 立って歩くだけでも異質な年頃に、精力的に動き回って貪欲に努力し続けた。

 奇異の目に晒され様ともひたすら求めた。

 目的も無いままに。

 

 親とも壁を感じる日常の中、祖父だけが俺を見守ってくれていた。

 理解はされていなかった。

 理解されるようなものは何もなかった。

 ただ、俺を見守る祖父を内心で馬鹿にしていた。

 何も成し得ないまま年を取った老人だと。

 

 小学生にすらなっていない未熟な自分は暗闇を走り続けるがごとく奔走した。

 目だって得られたものなど何も無かった。

 焦りが募る。

 また何も無いまま過ごすのか、と。

 

 

 

 そんなある日、祖父が亡くなった。

 どうでも良いことのように感じていた。

 今の自分にとっては赤の他人、なんの思いも抱かなかった。

 抱かないはずだった。

 

 気付けばいつも仏壇の前で線香を立てていた。

 お茶を淹れる癖が付いた。

 煙管の手入れをしていた。

 誰もいない家に違和感を感じる様になった。

 何とはなしに祖父の部屋に向かっていた。

 

 不思議なことに祖父がいることを当然として行動してしまう。

 祖父が亡くなってから焦りがなくなった。

 ただ、何か物足りなさを感じるようになった。

 

 あれほどまで執着していた何かを成すという思いも何処かへ溶け、心には何も残っていない。

 抜け殻のように無為に過ごす。

 一度目の同じように終えるのだろうか。

 それもいいのではないかと思う様になっていた。

 

 そんな矢先、祖父の部屋を掃除していると文書を見つけた。

 日記と呼べるほど立派な物ではないが、祖父が書き残したものだろう。

 書き連ねられているのは全て俺のことだった。

 祖母を失ってから何もない祖父にとっての宝であったと、生き甲斐であったと。

 そして、焦るほどに渇望する何かを与えられず見守るだけの己が不甲斐無いとも書き殴られていた。

 

 陳腐な話だと思考の片隅が囁いていた。

 しかし、それ以上に思考を塗りつくしていたのは戸惑いだった。

 生前、身近に感じていたのものだった。

 父や母とともにいると感じられた。

 それが何なのか、確かなことはわからない。

 だが、それは掛け替えのないものだった。

 

 馬鹿にして、関係ないものと考えていた。

 死んでも構わないとも。

 実際は違ったのだ。

 知らず知らずのうちに祖父を心の拠り所にしていたのだ。

 俺は何も見えていない、見ようともしない馬鹿だった。

 そして、嫌になるほど間抜けで阿呆であった。

 

 俺はゆっくりと文書を仕舞い込んだ。

 気付いたときには、何時も遅い。

 主のいなくなった部屋はひどく静かで寂しく思えた。

 

 

 

 空虚な日々だった。

 祖父が亡くなってから俺は何をするでもなく縁側に佇んでいる様になった。

 奇行をやめた俺を指差し、親類縁者は普通の子になったと喜んだ。

 冗談まじりに祖父に憑りつかれていたと笑う者もいた。

 俺には何も感じられなかった。

 ただ、それらが煩わしい羽虫のように思えた。

 

 日中は家政婦とやらが家事を行い、夕方に帰っていく。

 当然のように一人で過ごす。

 家政婦と話すのも一言二言、それも業務的なことばかりだ。

 俺が普通の子になったと喜んでいた「父母」とやらが家にいることはほとんどない。

 結局、普通であろうと異常であろうと関係ないのだろう。

 むしろ心のどこかで異常性に感謝すらしていたかもしれない。

 

 やることも思いつかず、夕暮れに縁側で呆けていると来客があった。

 二又の尾を揺らし、二本の後ろ脚で歩き、羽織と袴に袖を通した虎柄の猫だ。

 久方ぶりの客は俺が生まれたときから姿が変わっていなかった。

 名はマタムネ、猫又であった。

 彼は祖父の最初の友人であり、俺の最初の友人でもあった。

 

 祖父が亡くなったことを知ると、そうですかと呟いた。

 そして俺の隣に腰かけた。

 何を言うでもなく、暮れていく夕日を見つめていた。

 永く生きたマタムネでも寂しいのだろうか。

 俺にはわからなかった。

 

 

 

 変わらない日々に少しだけ変化が起きた。

 小さな同居人ができたのだ。

 誰もいなかった家はほんのりと明るくなった気がした。

 煙管を燻らせながら好々爺然とした同居人の姿はどこか祖父を思い出させた。

 

 

 

 

 --2

 

 今日も今日とて縁側に座り、祖父の気に入っていた庭を眺める。

 一つはぬるく、一つは熱く、そんな風に淹れたお茶と和菓子をお供に。

 祖父が居た頃は俺がぬるい茶を飲んでいた。

 今は熱いお茶を飲んでいる。

 茶を啜り、菓子を食べ、手慰みに使う予定の無い煙管を磨き、それが終われば軽く回す。

 ペン回しをするかのごとく、くるくると。

 手に吸い付くように、見事に回る煙管は癖になる。

 マタムネも初めは目を丸くしていたが、今では真似をして回している。

 晴れの日も雨の日も、そして雪の日も。

 

 相も変わらず縁側に座り、茶を啜り、和菓子を食べ、煙管を磨き、そして回す。

 同じようにマタムネも縁側に座り、茶を啜り、和菓子を食べ、書物を読み、思い出したように煙管を回す。

 祖父の部屋にある書物をマタムネは好んで読んでいる。

 俺はすでに読み終えているそれらを、彼の読了後には一言二言ほど言葉を交わす。

 ほとんどが他愛のない言葉のやり取りだが、嫌いではなかった。

 

 

 

 月に雲がかかった秋の夜。

 時折、撫でるように吹く風で肌寒く感じるようになった。

 ぶるりと背を震わせるとマタムネが口の端に笑みを浮かべながら風邪に気を付ける様にと囁いた。

 この季節には薄着だったかもしれないと立ち上がる。

 使っていない部屋に上着を仕舞い込んだのだが、さて何処だったろうか。

 

 マタムネを伴って部屋へと向かう。

 とりあえず押入れを漁れば多分出てくるだろうと検討をつけた。

 扉を引いて中へと足を……。

 踏み入れなかった。

 中が奇妙なマーブル色で覆われていた。

 部屋の戸を閉め、回れ右をする。

 寒さとは全く別の意味で背が震えた。

 

 己の知識では判断がつかず、マタムネに問いかけてみる。

 結局、我武者羅に学んだことなど役に立たない。

 面白そうに笑いながらマタムネは異界と化していると言った。

 異界とは人以外が棲む空間であるらしい。

 マタムネのように妖怪であったり、聖書に載っているような天使であったり、様々な事情で現れる悪魔であったりと様々存在している。

 それらを総称して悪魔と呼んでいるのだとか。

 言ってしまえばマタムネも悪魔であり、我が家も異界の一種かもしれないと笑っていた。

 

 では、この部屋の異界化はマタムネのせいなのかと問えばそうではないとの返事。

 異界とは基本的に悪魔が力を蓄えるために縄張りとして開くか、切羽詰ったときの緊急用として開くものらしい。

 そもそも我が家はかなり上物の霊地でわざわざ異界化する必要はなく、占領してしまえば都合が良いとか。

 つまり、中にいる悪魔はそういったことが出来ない可能性があるという話だ。

 占領とは穏やかではないと心中で危機を抱くが、害意のあるものは気付かないという優秀な結界があるらしい。

 害意がない霊どもにとっては快適な空間でしかないとも捕捉された。

 霊感とやらが刺激されるから見える様になっているのではないかと聞かれた。

 変な物が見えると思ったらそういうことだったのか。

 

 

 

 マタムネの先導に従って、我が家の異界へと足を踏み入れる。

 前まではそれほど広くない物置部屋だったが、今は曲がりくねった道が延々と続いている。

 ピンクと黄色、赤、黒。

 文字通り色々混ざった奇妙な何かが壁や天井、道を彩っている。

 時間とともに色が変わり、目がちかちかと疲れる。

 この異界を形成した主が不安定なためこのような色合いになっているのだとマタムネは言った。

 出来たばかりの異界には悪魔もいないと付け加えながら。

 

 無駄に長いと内心で文句を言いながら歩く。

 段々と息苦しく感じてきて煩わしい。

 異界の中には人が活動するには厳しい環境もあるらしい。

 流石に入った途端に即死するという糞ゲー仕様は……地上に存在しないような高位の悪魔が作り出した異界ならあるかもしれないとか。

 負荷がかかるのは根本的に人と悪魔の在り方が違うため。

 霊地に慣らされているからこの程度だが、一般人だったら倒れてそのまま死んでいる可能性もあり、入るには危険が付いて回るものだとマタムネは言った。

 異界によっては空間の歪みの他にも時間の進みが変化したり、悪魔が蔓延っている場所もあるらしい。

 時間がゆっくり進む場所があれば学ぶにしても早く済みそうだと呟くと、マタムネがその年で時間を重ねると成長が早くなって周りに馴染めなくなると笑った。

 

 

 

 最深部らしき場所にたどり着いた。

 延々と続く曲がりくねった道では無い、元の部屋と同じくらいの広さの空間。

 そして中心にはベッドで眠る少女の姿。

 部屋にあったベッドと同じものだろうか。

 マタムネがやはりと呟いた。

 わざわざ作り出された不安定な異界、その理由は主が生まれたばかりの悪魔だということだった。

 

 敵対的か、友好的か。

 判断する前に排除するという方法もある。

 だが、なるべく平穏に進めたいという気持ちもある。

 起きるのを待つべきか。

 問題は言葉が通じない可能性だ。

 そういった悪魔がいることはマタムネから聞いている。

 どうしてなかなか難しい。

 

 煙管を楽しんでいるマタムネに相談しようかと悩んでいると、少女がゆっくりと瞼を開けた。

 見方によっては桃色のようにも見える薄紫の髪をボブカットにしており、真紅の瞳は眠たげで半目になっている。

 可愛らしい顔の造詣をしているが、調子が悪いのか白に近い顔色だった。

 胸元に瞳を模した飾りがあり、可愛らしいヘアバンドや身体へとコードのように繋がっている。

 半身を起き上がらせたためか青い衣服は裾がだぼついている。

 皺になっていない。

 マタムネの羽織と袴も皺が付かないのだからそういうものだと理解しておこう。

 

 表情は変わらず、焦点の定まらない瞳をこちらにむけて少女が口を開く。

 彼女は覚(さとり)という妖怪で名を「古明地さとり」、考えていることを読めるようだ。

 自分で話す手間が割けて便利かと思いきや、思ったことに片っ端から返事をしてくるので話が進まない。

 どうも態とそういう風にしている節が感じられる、と考えたら否定された。

 マタムネに関しては読まれていないようだ。

 覚妖怪と対峙するコツとしては表面では考えない様に考えるのだとか。

 つまりどういうことなのだろうか。

 マタムネはからからと笑っていたので、からかわれただけかもしれないけれど。

 

 話によると、さとりは幻想が集うとある場所からここに迷い込んでしまったようだ。

 さらに、分霊というやつで本体とほとんど別の存在であり、自分を形成する力が弱っているので異界で回復をはかっていたらしい。

 外界で自律行動できるまでここにいる、というのが目的のようだ。

 さとりはコミュ障らしく、ここまで聞くのになかなか時間がかかってしまった。

 

 特に問題は無さそうだ。

 さとり自身も見るからにこちらに興味が無い様子であり、害意があるとは思えない。

 どうせ誰も使っていない部屋だ。

 構わないだろう。

 マタムネも覚妖怪は心を読む以外は基本的に無害なので構わないと許可してくれた。

 その旨を伝えると少女は再び眠りについた。

 

 

 

 帰り道も面倒だとぼやくとマタムネが煙管で道を叩く。

 すると目の前に扉が現れた。

 折角の霊地なのだから無駄を省いた、ということらしい。

 眠っているさとりを見ると心なしか顔色が良くなっていた。

 なんとなくマタムネを褒めてから部屋から出た。

 

 不思議なこともあるものだと異界を思い出しながら縁側へ戻る。

 ケータイと壁掛け時計を確かめるが時間に違いは無かった。

 どうやら疑似・精神と時の部屋は実現できないらしい。

 マタムネは時計を前にして落胆している俺を見て理解したのか愉快そうに笑っていた。

 

 

 

 再び縁側に戻り、マタムネと並んで茶を啜り、煙管を回し、月を眺める。

 すでに雲ひとつない、見事な月だった。

 ぼんやりと月を眺めていると何かを忘れていることに気付いた。

 

 ああ、そうだ。

 忘れていたが上着を取りにいったのだった。

 眠っているさとりを起こすわけにもいかず、今日のところは諦めようか。

 肌寒く感じるが悪くない気分だった。

 

 

 

 

―― tips ――

 

【マタムネ】 妖怪:ねこまた レベル15 耐性:不明

人の世を見て永く生きた猫がたどり着いた。本体ではあるが分霊に力を振り分けたため弱体化している。

 

【さとり】 妖怪:覚 レベル1 耐性:不明

ひょんなことから幻想の集う地底にいる本体から切り離されてしまった分霊。しかも地底の本体も覚妖怪の一部のようなものなので分霊の分霊状態。虚弱ってレベルじゃない。異界を開くも消失直前だった。妖怪なのでスライム化しない。

 

――

 

 

 

 

--3

 

COMPってどうやって手に入れるのだろうか。

骨董市とか。

サマナーから強奪とか。

ターミナル襲撃とか。

アプリ配布でスマホとかタブレット、ゲーム機に入れるとか。

そんな感じで手に入る可能性が、ある……?

 

真・三形式で呼んだら家から助けに来るとかもなかなかオサレ。

 

 さとりの作り出した異界が消えるまで、そう時間はかからなかった。

 普通に部屋で過ごしたほうが回復が速いとわかると即座に消し去ったためだ。

 そして、幻想郷とやらの地底への帰還および合流を考えていたらしいが、元が望んでいないため目的がなくなった。

 回復次第出ていくと言ったが行くあてもないのだろうし、折角だから住むようにと誘った。

 マタムネと暮らすには広すぎる家だ、さとりが居ても問題ない。

 そう伝えるが断られてしまった。

 心を読まれる負担というのは人間には厳しいためでそれ以外に異はないのだけれど、と呟いた。

 

 つまり、心を読めないようになれば解決するということだ。

 マタムネに相談すると、やろうと思えば人間でも読めない様に出来ると面白そうに言った。

 ならばとさとりに告げる。

 回復するまでに、俺が考えを読ませないようになったら住めと。

 勢いに押されたのかこくこくと頷く姿を見て満足する。

 話はついたのだから茶を飲もうと提案して縁側へと向かう。

 釈然としないことがあったと首を傾げているさとりも伴って。

 

 

 

 小学校の入学を翌年に控えた冬のある日。

 縁側へと少し出て鉛色の空を少しばかり眺めるも白い息と身を刺すような寒さに堪らず部屋に戻った。

 室内ではすでにマタムネが炬燵に入りながら本を読んでおり、対面に入って蜜柑を剥く。

 剥いた蜜柑のアルベドという白いすじを慎重にとっていく。

 別にすじが付いたままでも構わないのだが、なんとなくやりたくなった。

 綺麗に全てを取り切り、満足気に掲げていると扉が開かれた。

 眠そうな半目をしたさとりが起きてきたようだ。

 なんだかんだでこの家で過ごすことに慣れたようだ。

 

 寝起きのさとりと挨拶を交わし、すじのないオレンジ一色の蜜柑を渡す。

 その様子に呆れながらもさとりは小さく礼を言い、口へと運ぶ。

 俺も新たに蜜柑を剥く。

 柑橘類特有の爽やかな香りをささやかに感じる。

 剥き終えて食べようとすると、さとりが蜜柑を見つめていた。

 半分に割って渡すと食べ始める。

 少しの酸味と広がる甘みを楽しむ。

 心なしかさとりも頬を綻ばせながら蜜柑を食べている。

 次の蜜柑を剥こうと卓上の籠を見ると、空になっていた。

 ……今日は家政婦が来ない日だ、面倒だけど買いに行くとしようか。

 無表情に戻ったさとりを見て、そう思った。

 

 

 

 小型のキャリーバッグを引き摺りながら蜜柑を買いに近所のスーパーへと向かう。

 そういえば外に出るのはいつぶりだろうか。

 祖父が亡くなってからほとんど出なくなっていた。

 最後に外出したのは葬式だったか、いや墓参りに行った気がする。

 そんなことを考えながら黙々と歩く。

 キャリーバッグの上にはマタムネが腰かけているが重さは感じない。

 そういえば天気予報では雪だったことを思いだし、足を速める。

 妖怪は雨で濡れたり、雪が積もったりするのだろうか。

 

 蜜柑や目に付いた物を買い込み、スーパーを出る。

 キャリーバッグがあれば一人で買い物もできると誇ってみるが、少しの虚しさと多大な恥ずかしさを感じて赤面した。

 店先の屋台で売られていたタイヤキを齧りながら歩く。

 ちょうどいい甘さが好ましく感じる。

 

 ちびちびと食べながら歩いていると雪がちらほらと降りはじめた。

 ゆっくり景色でも楽しもうかと思ったが、濡れ鼠になる趣味はない。

 タイヤキを片手に小走りで帰途に就く。

 

 

 

 大粒の雪となり、雨宿りよろしく屋根の下へ。

 あと少しで家に帰る事が出来たのだけれど、体力が尽きてしまった。

 笑いながらマタムネにもう少し運動したほうが良いと助言された。

 残っていた冷えたタイヤキを飲み込んで人心地。

 餡子が尻尾まで入っていて少しだけにやついてしまった。

 

 暇な時間ができてしまったのだ、思考を操る練習に勤しむ。

 何も考えない様にしたり、考えを表に出さない様に仕舞い込んだり、読み取る前に高速で思考して終わらせたり、同時に思考したり、力量をつけて能力を防ぐなどと方法は様々だ。

 高速での思考はさとりに通じないし、同時に思考しても全てを読まれるのだから意味が無い。

 覚妖怪は心を読むことに関しては飛びぬけており、存在の格が上の相手でも読むことができるので力量云々の話は関係がないらしい。

 何も考えないのでは生活ができない。

 最終的には考えを表層に出さないようにするという方針に決めた。

 

 一応、高速思考や分割思考、思考を無にするなどの練習もしているのだが。

 マタムネに助言を求めるとさとりが読める思考の限界を理解し、それよりも下で考える様にするというものだ。

 難しいことを言ってくれるが、俺も諦める気はない。

 悔いはないようにやり通したいのだ。

 自分で決めたことくらい、最後まで。

 

 上手くいっているのかわからないがこつこつと練習を重ねる。

 心を静かに鎮めることが一番重要なのだとか。

 常に平静、常に冷静、ということだろうか。

 仙人や賢者になれということか……?

 

 

 

 雪が小降りになりはじめた頃合いを見計らって帰る。

 道が滑って苛立つが、心を鎮める様にとマタムネに窘められる。

 日々の努力が重要か。

 なるべく心を乱さないように小走りで急ぐ。

 

 家の前まで戻ると悪魔が倒れていた。

 しかも雪が積もっていてその姿は哀愁が漂っている。

 人と似ている容姿だが、さとり以上に外れているように感じた。

 さとりは妖怪であり、人間として見るならば何処か親しみを感じられた。

 だが、目の前の倒れている悪魔は違う。

 人間とは別物だと一目でわかった。

 わかったのだが、心のどこかで親近感を感じる。

 この悪魔はなんなのだろうか。

 

 マタムネが珍しいものを見たと目を丸くしていた。

 悪意は感じないらしく、消える直前で弱っているとか。

 マタムネやさとりと違って違和感があると伝えると悪魔とはそんなもの、と笑いながら答えられた。

 倒れている悪魔に近づくと、空腹を訴えてきた。

 親近感が湧いた。

 

 タイヤキを繋ぎに渡してマタムネに見張りを頼む。

 キャリーバッグとともに家に上がり、寝ているさとりを起こす。

 少し不機嫌な様子に謝りながら、悪魔がきたので悪意があるか確かめてくれるように頼む。

 幾らか逡巡した後、頷いてくれたので先導して連れて行く。

 

 玄関を出た先では倒れていた悪魔が上半身を起こしてタイヤキを齧っていた。

 よく見ると透けているのか、体を通して道が見えてしまっている。

 透けているのは力が足りない状態であり、そのうち消えてしまうかもしれないとか。

 

 話を聞くと、とある事情から力を失って彷徨っていたら霊地を見つけたので休もうとしたら入り方がわからず、途方に暮れていたらこの様だったらしい。

 結界が変に効いたようだとマタムネがいつものように笑った。

 さとりに聞いてみると、気が強いが悪意はないようだ。

 とある事情を聞こうとしたが、面倒事に巻き込まれるのは御免だと断られた。

 少しばかり気になるが、無理矢理聞くわけにもいかず諦めた。

 このまま放っておいて玄関前で消えられるのも寝覚めが悪そうなので家へと招き入れた。

 さとりにあまり簡単に悪魔を家に入れない様にと注意されてしまった。

 

 

 

 行き倒れ悪魔の名はディアーチェというらしい。

 銀色の髪は前髪以外の毛先に黒色のメッシュが入っていて、×印の髪飾りをしている。

 緑の瞳は鮮やかに輝いてエメラルドのようだ。

 七つの大罪の一つで傲慢を司っているとか。

 人の欲から生まれたので上着マニアは関係ないと笑いながら言われたがさっぱりわからない。

 偉そうな口調は傲慢のためだろうか。

 

 行くところも無いからここに置かせてほしいと頼まれた。

 というか命令された。

 マタムネやさとりに視線を向けるが特に何も言われなかったので迎え入れることに。

 俺の返事に気を良くしたのか臣下にしてくれるとか。

 やんわりと断っておいた。

 

 ディアーチェと話している間、静かだったマタムネが口を開いた。

 生まれたときから霊地で過ごし順応している今、俺は怪異を引き寄せる才能に目覚めたのかもしれない。

 今は友好的な悪魔ばかりだが、いつ危険に身を晒すかわからない。

 体を鍛える必要がある、と。

 

 

 

――

 

【ディアーチェ】 悪魔:概念(傲慢) レベル1 耐性:不明

人の欲である傲慢を司る悪魔。六対一でフルボッコにされ、戦闘から離脱したがダメージがあまりに大きく現状のステータスになってしまった。本来は過信や虚栄などの人間の自尊心が力になるはずなのだが……。本体であるが格を奪われ、分霊と同様の状態になっているため弱体化している。

 

 

 

 

 

 

--4

 

 家政婦が来る日が減った、というか俺が減らした。

 ディアーチェは手先が器用で家事が得意らしく、率先して行ってくれている。

 高圧的な言と合わさって素直になれない強気な少女に見える。

 これがつんでれ、というやつなのだろう。

 そんなディアーチェをさとりが考え読んで逐次補助している。

 流れるような手腕は見事の一言に尽きる。

 二人が家の雑事を請け負ってくれているのは家賃の代わりであり、有り難く世話になっている。

 そんなわけで家政婦の必要があまり無くなったのだ。

 

 悪魔と言えども二人の見た目は可憐な乙女である。

 そんな二人が掃除に洗濯に、と従事しているおかげか家の中が華やかに感じられた。

 以前までは祖父やマタムネのせいで、どうしても年寄り臭い雰囲気になってしまっていたのが今では嘘のようだ。

 そんなことを考えつつ、家事に勤しむ二人を眺めながら啜るお茶というのは格別だ。

 

 家政婦も若い女性ではあったが、常に能面のような無表情を貼りつけ、時折、濁った瞳でこちらを凝視し、監視しているようだった。

 そんな人なのだから動く人形のようであまり好ましく思っておらず、この機会は世話になる回数が減らせるので渡りに船というやつだった。

 現在は週に一、二度ほど来てもらい、食材の買い出しを頼むか、細かい場所の掃除を頼む程度に収まっている。

 

 

 

 新年を迎えることとなり、何の気なしに付けていたテレビではめでためでたいと騒いでいる。

 それほどめでたいのだろうか。

 転生前に地獄で気の遠くなるような時を過ごした俺にはわかりようもない。

 他の面々も微妙な反応を示しているので俺が特別なわけではないようだ。

 そもそも悪魔にとって時間など無いも同じらしい。

 地上にいればある程度は人間の時間感覚を朧げながら理解できるが、完全には無理だそうだ。

 ディアーチェなど寝て起きたら8つあった罪源が7つになっていたと愉快そうに笑った。

 流石のマタムネも頬が引き攣っていた。

 

 夜更かししようにも体が保たないので先に眠る旨を伝える。

 待ったがかかり何だろうかと待っていると青紫に輝く結晶を渡された。

 大きさは自分の小さな手のひらと同等で、自ら光を発しているのか絶えず輝いている。

 彼らなりのお年玉らしい。

 さとりが異界で精製した魔石をディアーチェとマタムネが霊地の力で洗練させたモノ、らしい。

 死にかけようとも一度なら蘇生が可能なほどの力が込められているとか。

 それなりの悪魔に与えればかなり格が上がる程度の上物らしい。

 使い道は自由にしろとも言われた。

 自分たちで使わないのかと問うとマタムネはそういった道具の使用は不得手、さとりは今の格が低すぎて破裂する可能性あり、ディアーチェは核が傷ついているので砕ける、などなど。

 なんとも扱いにくいお年玉ではあるが、もう一つの命を貰ったと思って大事にさせてもらおう。

 

 ディアーチェの核が傷ついているというのが気になったが、それほど大事でもないようだ。

 低級悪魔程度に回復すれば再生が始まるのだとか。

 さとりも霊地である程度までは格が上がるので問題ないらしい。

 マタムネは巫力と霊力とやらを重視しているようだ。

 さとりに回復したら使ってみるかなと思っていると、ジト目でゆっくりと元を目指すから必要ないと言われた。

 最近はあまり読まれなくなったと思ったが、やはり気が弛んでしまったようだ。

 まあ、お年玉で浮かれていたとしても年相応というやつだ。

 許して欲しい。

 

 

 

 年が明け、マタムネとの修行が本格的に始まる。

 朝食をとり、茶を飲んで休んだところにマタムネに誘われて修行地へ向かう。

 今は大した異能ではないかもしれないが、俺の成長とともに強力になる可能性も否定できない。

 そのときに何らかに巻き込まれても幾らか力があれば助かる芽もあるだろうということだ。

 なるほど、正しいのだろう。

 昨年、少しばかりやった感想としてはこの修行はあまり好きじゃない。

 飄々と前を歩くマタムネの後頭部を見ながらもっと楽にならないだろうかと考える。

 それほど間を置かずに墓地の一角が見えてきた。

 

 年が明けようとも霊はいる。

 すでに死んでいる彼らに時間は関係ないのだ。

 教えを乞う相手の墓を丁寧に掃除し、気持ち程度にお供え物を置く。

 宗教など死後には合って無いようなものらしく、適当に線香を置いて回る。

 これで準備は整った。

 さあ、頑張ってやりますか。

 にゅるりと感じる異物感に背筋がぞわぞわした。

 

 自分の意思とは関係なしに手足が動き、武術の型をとる。

 見えない糸で吊るされている人形の気分だが、実際はぬいぐるみに近い。

 生前、格闘技を修めていた故人の霊に頼んで動いてもらうのだ。

 こうすることで覚えられる……はず、という話だ。

 未だに成長途中の身体を無理に鍛えるのは良くないということでこの方法になった。

 勝手に体が動くので気持ち悪いし、手足が短いと文句を言われるし、酒が呑みたいと言い出すやつもいる。

 だから好かないのだ。

 こんな純真無垢な子供に何を求めているのだろうか。

 

 我慢して一連の工程を終えて帰路につく。

 心なし体の動きがよくなったような、そうでもないような。

 効果のほどはわからない。

 数か月後の俺に期待しよう。

 

 帰ったら炬燵に入りながらさとりに思考を読ませない練習をしようか。

 俺の思考防御もかなり上達してきたようで、さとりも読み切れないことがあるようだ。

 ディアーチェは思考を垂れ流し状態らしい。

 恥ずべき考えはしていないとかどうとか。

 そういう裏表のないところは好感が持てる。

 

 

 

 最初は徐々に慣らしていこうと修行計画を相談していると我が家の玄関が見えた。

 そろそろおはぎが食いたいなどと考えていると後ろから声をかけられた。

 幼稚園にいそうな幼児と、その幼児を掲げている霊的な何か。

 霊的な何かは頭側部からその身の丈ほどもある巨大な角が生えているので多分、ゴブリンだろう。

 幼児とゴブリンのコンビが何の用だろうかと眺めていると、ちっちぇえなとか呟かれた。

 聞いたことのある言葉だった。

 が、これは無視しよう。

 おまえのほうが小さいだろとか決して言ってはいけない。

 相手にしてもいいことはないはずだ。

 そのうち親が迎えに来るだろうし。

 モンスターペアレントとか来たら対処のしようがないからな。

 

 完全に無視して家に入ろうとするとまたも呼び止められた、

 ディアーチェほどではないにしろ高圧的なしゃべり方だ、将来が思いやられる。

 どうやらこの幼児は挨拶に来たらしいのだが家に入れなかったとか。

 この歳でこちらに害意があるのかよ……。

 内心で呆れていると、放心していたマタムネが呟いた。

 ハオ、と。

 

 幼児をハオと呼んだ。

 俺の地獄で出来た友人だった。

 ある意味で前世最後の友人と呼んでもいいかもしれない。

 つまりは現世への引っ越しの挨拶か。

 いいだろう、俺も丁重に持て成してやろうじゃないか。

 我が家に招き入れる旨を伝えた。

 

 

 

 不注意が過ぎるとさとりとディアーチェに怒られた。

 そんなこと言われても、友達を家に誘っただけだし。

 こ、子供によくあることだし(震え声)

 

 

――

 

マタムネ 1000歳前後

ディアーチェ 1500~1700歳

さとり 500~1000歳

オリ主 精神は余裕の三桁

 

――

 

 

 

 

--5

 

あとは小・中・高と上がりながらサマナー的な何かになれば完璧ですね。

 

 遠路はるばる友人が訪ねて来てくれたのだから、積もる話もあるはずだ。

 炬燵に入りながら互いの情報を交換する。

 ちなみにハオの隣に座って蜜柑を喰っているのは角のあるゴブリンではなく、S.O.F(スピリット・オブ・ファイア)というらしい。

 閻魔からパクッたのと似ている気がする。

 そんなことより今はディアーチェが淹れてくれたお茶で喉を潤してから話そうか。

 

 まず、俺の話から語るとしよう。

 最初から俺はハオと同じ地獄にいたわけではない。

 死んですぐに訪れたのは薄暗い空間であり、俺自信は身体を失っていて魂のみになっていた。

 見ることが出来ないが感じることはできるという不思議な存在に問答された。

 閻魔だというのだ。

 閻魔に対して浅い知識しか持たないが、確か罪を裁いて地獄に落とす外道だったはずだ。

 このままでは地獄確定であり、死を認めることのできない俺は逃亡を謀った。

 当然ながら失敗して燃え盛る炎に落とされた。

 地獄の一種であった。

 生への執着にしがみ付き、身を焼かれる苦しみに耐えていると次々落ちてくる魂。

 それらが俺と同じように炎に包まれると個体差はあれど最後には燃え尽きた。

 これは大変だと炎から逃げるために投下されてくる魂を踏み台にして昇り続けた。

 途中で手足があったほうが便利だと気付き、人間の形になる方法を学んだ。

 

 そして登り切ると再び最初に訪れた場所に着いた。

 再び始まる問答。

 見ることが出来なかった存在を朧気ながら捕捉したので殴り掛かった。

 倒せば脱出できるのではないかと思い至ったためだ。

 が、失敗。

 無数の鋭い針がひしめく針山に落とされた。

 刺さっている魂や見張りを足場に幾らかの時間をやり過ごした。

 そして、刺さらないように魂を加工することと、刺さっても通り過ぎるように魂を変質させることを学んだ。

 前回と同様に落下してくる魂を踏み台にして最初の場所へと舞い戻った。

 

 後は繰り返しである。

 問答をされ、殴り掛かり、落とされる。

 互いに武器を持って殺しあうような場所や燃え盛る綱渡り、獄卒である鬼と戦ったりと様々である。

 数えるのも億劫なほどの地獄めぐりを経験し、出来ないことは閻魔の撃破くらいになった。

 閻魔の姿は見れるようになっており、常に眉間に皺を寄せている姿は人間のようだった。

 

 地獄に落とされても一瞬で戻れるようになったので戯れに問答に挑んでみた。

 問いは至って単純なもので、天国へいけるかどうか答えてみろというものだった。

 行けないと即答。

 次に地獄はどうかと聞かれたのでこちらも行けないと即答。

 思い出すのは後悔と己の無様な姿。

 あのまま終われるわけがないのだから。

 生き返るまで俺は挑み続ける、と気合を入れたらまた落とされた。

 この時はいつもと勝手が違うことに首を傾げた。

 

 元いた地獄から落下する間に魂が削られ、辿り着いたときには人型になるだけで一苦労だった。

 そんな折、ハオと出会った。

 回復までの繋ぎのつもりで話しかけたのだが、これがなかなか面白くて短い時間ではあるが友として認めるには十分だった。

 ハオとともに地獄で過ごし、十全に回復した辺りで別れを告げて閻魔を襲撃した。

 ついでに意趣返しのつもりで大事そうに隠し持っていたS.O.Fの亜種をパクッた。

 そうして半信半疑ながらも転生に成功して、今に至った。

 不正規な方法での転生なため、地獄からの使者が訪れるかもしれない。

 とりあえず今の俺と同じ血が流れている羽虫でも囮に使えば問題ないだろう。

 器を剥いて魂だけにしておけば尚良し。

 

 

 

 俺がそういった努力を積み重ねた裏で、ハオは陰陽師とやらの摩訶不思議な術を使って閻魔と契約し、現世に転生してきた。

 なんて狡賢いのだろうか。

 羨ましいのでその術を教えてください。

 ……陰陽師的なサムシングが無ければダメらしい。

 本家あたりを襲撃して陰陽師になってくるべきだろうか。

 ……根絶やしにしても修行しないと陰陽師になれないのか、面倒だな。

 

 さて、ハオが転生した理由だが人類を滅ぼすためらしい。

 なんて大きな夢だろうか。

 未だに何もない俺には眩しすぎる。

 まあ、俺は死にたくないので本格的に人類抹殺計画が始まったら抗うとしよう。

 今は手段もよくわからないのでどうすることもできない。

 とりあえず友人として接することにした。

 

 友人と遊ぶならトランプだろうとディアーチェが持ってきたので大富豪をしてみた。

 ハオとさとりはワースト1,2だった。

 大事なことなのでもう一度言うがハオとさとりはワースト1,2だった。

 地獄の経験を思い出して魂に膜を張ることで思考を読めなくし、さらに偽装させた思考も流した。

 普段から読心に頼っている軟弱者の欠点が明るみに出た瞬間だった。

 黒ひげ危機一髪とか失敗しまくり。

 あとハオとさとりはボンバーマンも弱い。

 というか、ゲーム全般が弱い。

 運が足りてないのだろうか。

 

 

 

 そのまま流れで夕飯を一緒に囲み、風呂に入る。

 ハオはこの後、人類滅亡計画のための仲間を募るようだ。

 あと10年とちょっとくらいでトーナメントが始まり、そのあと本選があるらしい。

 誰が率先して人類を滅ぼすか争うのだろうか。

 俺にはちょっとわからない。

 興味があったら来て欲しいと誘われた。

 暇だったら参加してみたいものだ。

 

 

 

 

 

――

 

近況情報

・悪魔がシャーマンファイトに興味を示しています。

・悪魔が聖杯戦争に興味を示しています。

 

――

 

 

 

--6

 

 マタムネはよく笑う。

 常に笑みを絶やさない、というわけではない。

 なんとなく話しかけると柔らかく笑みを浮かべて答えてくれる。

 

 一体何がそんなに楽しいのだろうか。

 そんなことを思い、直接問いかけてみると少しだけを間を置いて、煙管を回し、祖父が残した文書を掲げた。

 文字だけではわからぬこともあるからです、とそう一言。

 よくわからん、と呟いて茶を啜る。

 何時かわかるときが来るのだろうか。

 

 

 

 小学生となり、学校へと通う様になった。

 傷一つない黒く艶のあるランドセルを背負う。

 見た目は相応なのだろうが精神はそういうわけにはいかない。

 マタムネにさとり、ディアーチェまでもが微笑ましげに見つめており、気恥ずかしい。

 学校への行き帰りも着いてくるマタムネの姿を見ていると過保護を通り過ぎているのではないだろうか。

 それも悪くないと思っている俺もいるのだけれど。

 

 猫といえば大人も子供にも好かれる、あざと可愛い生き物だ。

 登下校に付いてくるマタムネの姿は虎柄の猫である。

 そんなマタムネを抱えながら学校に通うのだからさぞや人気者だろうと考えていたのだが、世の中はそれほど甘くない。

 俺に話しかける人物は友人と担任の先生、つまり二人だけである。

 僕は友達が少ない。

 

 

 

 学校では唯一の友人と駄弁る。

 小学生の、それも低学年ながらなかなかシビアな考え方をしているやつだ。

 マイナス思考すぎて夢も希望も持てない、持たない。

 本心を出すのが恥ずかしいのか、全てが叶わないと諦めているのか、本音もほとんど口に出さない。

 運も悪い、頗る悪い。

 あと体が弱いし、惚れやすい。

 そんな彼は格好つけるのが好きらしい。

 朝の挨拶くらいはカッコつけなくてもいいと思う。

 そして、究極的にタイヤキの食べ方が汚いのでディアーチェにぶちギレられた。

 そのときばかりは括弧がなくなった。

 未だにタイヤキの食べ方は綺麗にならないので諦め気味だ。

 そんな可哀相なタイヤキの食べ方と運が枯渇しているという特徴を持つ球磨川という男がクラスで唯一人の友である。

 

 

 

 彼は夢も希望も、そして生きる意味も死ぬ意味もないのだと語る。

 最初は似た人間がいると思い、興味を持ったので接した。

 神に見放されたほどの勢いで弱い彼だが、それを受け入れるほどに精神はひたすらに強く在った。

 付き合いが深まり内面を理解するようになると薄々感づいていたことは確信へと変わる。

 俺とは正反対であると気付く。

 そう、夢を持っているのだ。

 

 だが、現実を知っている。

 すでに受けていれている。

 だから夢に蓋をして、虚飾で塗り固める。

 そんな男だ。

 

 と、妄想してみる。

 実際は知らない。

 読心したらそんな感じだった。

 

 ちなみに夢の内容は

 ・めだかちゃんに好かれたい。

 ・仲間が欲しい。

 ・主役になりたい。

 という三つである。

 なかなか良い夢を持っている。

 

 下二つは可能だろう。

 手伝わなくても、本音に蓋をしても問題ない。

 嘘で塗り固めても、真摯に行動すれば気付いてくれるものだ。

 上のめだかちゃん関連は全力で応援しよう、少しでも乞われれば苦労すら厭わない。

 

 夢の持ち主が脆弱なほど、夢への道のりは困難になる。

 不可能ともなれば夢への道のりに終わりはない。

 砂漠に落ちた一粒の金貨を探すほどの難易度ならば喜んで手伝おう。

 叶う可能性がないからこそ、応援する。

 人類の滅亡も、恋の成就も俺には等価値だ。

 夢は大きいほど素晴らしい。

 

 

 

 茶を啜っていると担任が倒れた。

 球磨川に心を折られたらしい。

 一か月近く粘るほどに熱血だったが、限界がきたようだ。

 これで28人目。

 俺と球磨川だけという少人数体制、どう見ても学級崩壊だ。

 担任を運べる人がいないので内線をかけて助けを呼ぶ。

 少ししたら他の先生方が来るだろう。

 それまで何をしたものか。

 人生ゲームで球磨川フルボッコとかどうだろう。

 

 羊羹をつついていると球磨川が寄ってきた。

 『僕は悪くない』とか。

 いや、球磨川が悪いからな。

 俺が離れないか確かめるためにクラスを崩壊させるのはやりすぎだ。

 もっと平和な手段を模索しろと言わずにはいられない。

 これはあれか。

 愛が重いってやつだろうか。

 

 

 

 授業どころではないのでマタムネを頭に乗せ、球磨川を伴って昼ごろに帰宅。

 いつものように球磨川も一緒に昼飯を食べ、ゲームを起動。

 RPGにアクション、シューティング、パズル……。

 どのジャンルも球磨川は弱い。

 球磨川がRPGをプレイするとドロップ率が低いうえにセーブが飛ぶ。

 本当に残念なやつだ。

 

 

 

――

 

【球磨川 禊】 レベル1 全属性弱点 運:-99

主役を張るという夢を持っているため、オリ主の応援によってヒーローにされる可能性あり。心を読む術を覚えたオリ主に読心され、「つんでれ」のレッテルを貼られる。このままだと真・女神転生でいうヒーローの位置づけになり、めだかちゃんを寝取られる。僧侶ポジション。

 

近況情報

・各勢力が力を蓄えていますが、未だに微力です。

・悪魔が増えています。

・天使が増えています。

 

――

 

 

 

 

--7

 

 

 

 小学校で過ごした6年はなかなか貴重な体験だった。

 を重ねるごとに球磨川の髪の毛が黒くなっていくという怪奇現象。

 徐々に減りゆくクラスメイト。

 泣き崩れる教師。

 進む学級崩壊。

 変わる教室。

 果てには隣の学区へと学校を変えることもあったがそれ以外は平和だった。

 最終的には球磨川と俺の二人のみで一つのクラスになったのだけれど。

 

 変化の大きい学校とは異なり日常はなかなかゆったりとしたものだった。

 放課後に球磨川を連れてゲームをするのが日課で、夜は修行として墓地に湧く悪霊を蹴散らした。

 休日には霊地での回復が微々たるものとなったディアーチェの異界めぐりにも付き合った。

 異界に出現する悪魔や主を倒すことで得られる不活性マグネタイトと呼ばれるエネルギーを取り込むことで元の強さを取り戻すことができるらしい。

 苦戦するような異界は今の肉体だと厳しいようなので控えることにし、主が生まれたばかりの適度な異界に挑み、時間をかけて攻略していった。

 

 手ごろな異界がないときは手ごろな心霊スポットを刺激して異界化させ、悪魔を引き寄せて滅ぼしたりした。

 心霊スポットはなかなか楽に異界探索ができるので好んでいたが、肝試しに来た馬鹿どもが白骨と化したり、歩く屍となったりするのでなるべく控えている。

 事件となって行方不明者の捜索で心霊スポットが潰されると面倒だからだ。

 肝試しに来た連中も危険な場所だとわかっているのでポルターガイストやゾンビ、スライムに殺される覚悟くらいあったのだろう。

 無かったとしても関係ない。

 死ぬってそういうものだろう。

 

 

 

 

 

 静かな卒業式を終え、桜舞い散る春先に中学へ入学を果たした。

 中学生となり、球磨川も落ち着いたようで学校から人が減ることは少なくなった。

 俺は成長期に入ったのか、肉体が軋むようになり、魂が悲鳴をあげるようになった。

 生体マグネタイトの量も増えてきているらしいのだが、同時に霊魂との憑依が難しくなった。

 

 中学二年生に上がるころには成長期を終えた。

 体が魂の動きに一分のズレもなく、付いてこれるようになったのだ。

 かつては応答が遅いと感じていたが、今は地獄にいたときのように動くことができる。

 体の調子とは逆に、憑依がさらに難しくなった。

 全身の力を抜き、思考を止め、魂を鎮め、精神を委ねることで一応は憑依されることはできる。

 しかし、憑りつく霊の疲弊が激しいらしく、あまり歓迎されないようになった。

 体の動かし方をほとんど学び終えていたので、もう必要ないといえば無いのだけれど。

 

 異界で実戦に対する経験を積む。

 以前よりも強い悪魔のいる異界を攻略するようになった。

 ディアーチェはほとんど供に戦い、マタムネも大抵はついてくる。

 さとりは人通りの多い場所や日中を割ければ付いてきてくれる。

 それなりに戦い慣れてきたのではないかと思えた。

 

 技術も肉体も未だに未熟な己を鍛えるために正拳突きを繰り返すようになった。

 動作の確実性のために、黙々と。

 それは空虚な正拳突きだった。

 

 

 

 めだかちゃんの姿を見る機会が度々あった。

 かなり目立つ人物だった。

 感想としては球磨川が全力で恋をするなら応援するけどカッコつけたままなら見てるだけにしようかな、と。

 マジのーせんきゅーです。

 あそこまで夢も希望もないとかどうなってんだろうか。

 使命を糧に生きているとしか思えない。

 在り方がつまらな過ぎて困る。

 

 球磨川も付き合いが悪くなってきた。

 自立、とも少し違う。

 変わった異能のせいなのか、思考もほとんど読めなくなっていた。

 いや、読ませなくなったというのが正しいのかもしれない。

 

 日常を過ごしているとちらほらと見かける異能持ち。

 一つの学校にこれだけ集まるとか、多すぎるのではないだろうか。

 まあ、一番はそんなやつらが普通に授業を受けているというシュールさなんだけど。

 教科書広げている姿を見ると笑ってしまう。

 

 球磨川に変な付き人が現れた。

 はかいしん、とか名乗っている。

 あれだろうか、ワルに憧れる年齢ってやつ。

 それとも中二病だとか邪気眼だとか、いろいろな呼び方がある症状に目覚めたのだろうか。

 などと考えていると球磨川は生徒会長になった。

 ……い、色々と経験を積むのはいいことだと思いますよ?

 別に似合ってないとか、有りえないとか思って無いし。

 動揺もしてないから。

 地獄から蘇った死者の俺を動揺させたら大したモノだし。

 

 

 

 縁側で煙管を磨きながら茶を啜っていると、落ち込んだ球磨川が現れた。

 カッコつけてるけど内心がぼっこぼこだった。

 読心も容易く貫通である。

 新しく友人を作ったらめだかちゃんに取られたらしい。

 なるほどなー。

 たぶん墓石とかいう人の事だろう。

 まあ、可愛い娘に言い寄られたら一発だろう、中学生ってそういうものだからな。

 また新しい友人でも作ってみたらいいんじゃないだろうか。

 ……タイヤキをぐちゃにぐちゃにしてディアーチェに説教されていた。

 やっぱり括弧は取れてる。

 ディアーチェは怒ると怖いからな。

 紫の炎とか噴出するし、さすが悪魔だ。

 

 

 

 縁側で皆で将棋崩しをしていると、困惑した表情の球磨川が現れた。

 球磨川が途中参加したのだが、始めたばかりの将棋の山が崩れた。

 こいつ、こういうの下手だからな。

 むしろ安心した、成功させてたら日本が滅ぶほどだろう。

 

 副生徒会長のことが好きになったらしい。

 応援してほしいのかと期待していたがどうやら違うようだ。

 その人が好きなのか、顔が好きなのか、どちらかわからないから顔の皮を剥いでみて確認してみたいとか。

 どっちでもいいんじゃないだろうか。

 結局好きなわけだ、むしろ悩むほどならば顔と内面の両方が好きで良いと思うのだけれど。

 そう伝えても球磨川は納得できないようだった。

 

 面倒になってPCを持ってくる。

 確かとある掲示板で萌えについて語っていたのを思い出した。

 裸エプロンの画像集を開いて見せる。

 つまりこういうことだ。

 副生徒会長である安心院さんのこういう姿が見たいと思うだろう。

 それは顔が好きだということだ。

 そして一緒にいるときに好きだと感じたのだろう。

 それは内面が好きだということだ。

 そういう嗜好は誰にでもある。

 どちらが好きでも良いのだ。

 ただ、これら二つが合わさったことによって大好きとなるわけだ。

 つまり球磨川は安心院さんが大好きということだ。

 球磨川は感銘を受けて帰った。

 ……マジでか。

 

 

 

 翌日、生徒会長の権力を使って女子生徒に裸エプロンを強制する球磨川の姿があった。

 そして怒髪天を貫くとばかりに真っ赤な神、もとい髪をしためだかちゃんにフルボッコにされていた。

 あれは死んだかもわからんね。

 倒れている球磨川の耳元で

 『裸エプロンちょっとないよなー。今流行の手ブラジーンズだったら俺も手伝ったんだけどなー。禊ちゃんの味方になれなくて残念だなー』

 とか追い打ちをかけてみる。

 球磨川は噎び泣き、走り去った。

 いつか裸エプロンを実現すると誓いを胸に。

 

 

 

 翌日、球磨川のあだ名が裸エプロンになった。

 

 

 

――

 

【オリ主】 レベル15 真・全門耐性、破魔無効、呪殺無効

中学生となり、魂が肉体に馴染んだためステータスが大幅に上昇している。善悪よりも好みを重要視する。大きさと実現性が皆無な夢を本気で信じていれば好感度は駄々上がりである。たぶんチョロイン。

 

【球磨川】 レベル1(成長限界)

がんばれ。

 

 

近況報告

・デモニカスーツが注目の的となっています。

・各勢力が力を蓄えています。

・悪魔が増えています。

・小規模のシュバルツバースが観測されました。

・無人の公衆電話が鳴り響いています。

 

――

 

 

 

 

 

--8

 

 日々の積み重ねが実を結ぶことは無い。

 苛立ちが募る。

 ざわつく心を理性で抑える。

 沸き立つ怒りを理性で抑える。

 

 万全だった。

 万全のはずだった。

 だが、綻びがあった。

 それは小さな綻びだった。

 そして大きな綻びへと変化した。

 

 焦りを感じる。

 降りかかった災難に。

 我が身の矮小さに。

 

 このときばかりは才能が欲しかった。

 すべてに愛されるような、そんな才能が。

 

 

 

 つまり、猫に触れない。

 ねこじゃらしが空を切った。

 

 

 

 猫という生物が俺から何かを感じ取っているらしく、触ることは愚か近づく事すら儘ならない。

 生まれてこの方、マタムネ以外の動物に触れたことがない。

 別に猫が狂おしいほどに愛しいなどというわけではない。

 ただ、単純に触ってみようと思っただけだ。

 そして何故だか失敗するのだ。

 俺の姿に気付くと猫のくせに脱兎のごとく逃げ出すのだ。

 猫のみならず、他の動物もやはり同様に。

 俺が近づけば、鳥は鳴き、犬は吠え、猫は逃げる。

 睨めば、鳥は落ち、犬は伏せ、猫は逃げる。

 小学生の頃から動物に触れようと努力したものの、未だに成果は出ない。

 無理にでも触って絶命した動物の数は幾つだったか。

 

 不可能ではないか、脳内で反芻される。

 しかし、諦めるつもりはない。

 にぼしを右手に、ねこじゃらしは左手に、帰宅ついでに迫るのだ。

 

 

 

 ねこじゃらしに関しては、一振りで下手な材木なら両断できるほどの腕前になった。

 それでもなお、猫が寄ってこないことが不思議で堪らない。

 マタムネなどつい体が動くのか、煙管で対応して激しい打ち合いになるというのに。

 技量が足りないのだろうか。

 技量には自信がない。

 にぼしなら投擲することによって地面に突き刺さる程度、ねこじゃらしは全力で振ることで岩を砕く程度なのだ。

 そんなことを考えていると公園へとたどり着いた。

 

 寂れた小さな公園だが帰宅時には数匹の猫が集まっていて、都合の良い猫スポットとなっている。

 今日も猫じゃらしで興味を引き、にぼしを投げる作業が……始まらなかった。

 普段は目つきの悪いクロちゃんと銀色の装甲が眩しいミーくん、眼帯を付けたマタタビくらいしかいないのだが、今日は見知らぬ猫が集まっている。

 それでも俺の姿を見た瞬間逃走したけれど。

 

 一体何事かと逃亡を開始し始めた猫たちを避けて、前に進む。

 公園の中心では猫が小さな山を作っていたが、徐々に小さくなっていく。

 そして俺の目の前から猫がいなくなると、倒れ伏す少女の姿があった。

 少女の雰囲気には覚えがあり、それはディアーチェと同じものだった。

 

 

 

 ディアーチェと異界へ向かう際にマグネタイトを与える要領で少女に供給する。

 それほど悪い悪魔ではなさそうだと感じたからだ。

 ディアーチェに似ているというのはもちろんだが、可愛いというのも重要だ。

 これがグロテスクな悪魔だったら善意に満ち溢れていようとも見捨てていただろう。

 消滅直前というわけではないが回復のために地脈を探って霊地を探していたらしい。

 立ったままでは完全に捉えられなかったので限界まで接地していたところを猫の集団に襲い掛かられたとか。

 好かれる体質でほとほと困っているのだとか。

 ……悔しくなんかない。

 

 悪魔少女はスカートを軽くつまんで頭を下げ、礼を言った。

 名前はシュテル、強欲を司っているらしい。

 茶髪のショートカットと澄んだ青色の瞳をしていて物腰は柔らかい。

 言葉も丁寧であり、無表情の中に感じられる感情が可愛らしい。

 ディアーチェと知り合いならば家に来るかと問うと、少し考えさせて欲しいと答えた。

 マグネタイトが心配のようだったので霊地であると伝えると、それならばと頷いた。

 

 

 

 シュテルを伴って家へと向かう。

 会話の大半はディアーチェはどうだったかという質問だった。

 事細かに答え、生活では本当に世話になっていると伝えると嬉しそうに微笑んだ。

 シュテルについても軽く質問してみると、ディアーチェと同時期で逃亡を謀ったのだが回廊へと迷い込んでしまったとか。

 物質界にたどり着いたのは遅れる形となってしまったが、それでも運は味方してくれたとも。

 あまり表情が変化しない性質らしいが、さとりと過ごした俺には表情看破がある。

 間違いなく喜んでいるのだろう、うっすらと頬が赤くなっている。

 

 タイヤキでも買って帰ろうかと寄り道をした矢先、鳴り響く公衆電話。

 周囲に人影などはない。

 無視しようかと歩きはじめると裾を引っ張られた。

 シュテルが目を輝かせ、興奮気味に受話器を取るようにと言ってきた。

 高位の悪魔の気配があるらしい。

 俺もそれほど強いわけではなく、シュテルも弱体化しているではないかと言い返すが「戦闘が私を待っています」とすでに聞こえていない様子だった。

 しょうがなく、公衆電話へと向かった。

 高位の悪魔が出現したら全力で逃走するしかないだろう。

 気まぐれに見逃してくれるかもしれない。

 

 

 

 受話器をとると、突如として出現した仮面をつけた奇抜な服装の人物に赤いテレホンカードを渡された。

 マグネタイトはかなりのモノらしい。

 悪魔とはまた違う雰囲気を感じられる。

 どこか作り物臭いが構成しているマグネタイトの量は膨大だ。

 シュテルも分が悪いので戦闘は控えるようだ。

 格を取り戻す前に消滅など笑えないでしょうとは彼女の言。

 

 シュテルが急かすのでテレホンカードを公衆電話へと挿入し受話器をとった。

 即座に受話器を放り投げる。

 突然、スピーカーから透明のコードが襲い掛かって来たのだ。

 一度電話ボックス内から離脱する。

 シュテルは何が面白いのか無表情から一遍、好奇心に満ち溢れていた。

 受話器から離れても声が聞こえるが内容は簡単なアンケートのようだ。

 コードがどこから襲撃をかけてくるかわからない、細心の注意を払って質問に答えていく。

 すべてに応え終わると、薄れていく景色。

 転移が始まったのだとシュテルが目を輝かせた。

 

 

 

 転移先は埃の積もった建物の内部だった。

 かなり広いらしいが薄暗くて奥までは見通せない。

 俺から見て右手側は光源があるのか明るいが、左手側は真っ暗だ。

 どちらにせよ、探索してみないとどうにもならないだろう。

 シュテルにどちらから向かうか相談しようとして、次々と現れる人々。

 転移させられたのは俺だけでは無いらしい。

 現れたやつらは混乱して鬱陶しい。

 誰かが答えを知っていると思っているのか、口々に騒ぎ出した。

 

 面倒事に繋がるのは目に見えていたので無視して進むことにする。

 明るければ付いてきそうだ、左から行くとしよう。

 歩きはじめると後から追いついてきた。

 場離れしているのか、かなり落ち着いているように見受けられた。

 男女二人だが、面識はないらしい。

 

 男はフィネガンと名乗った。

 体格と筋肉の付きが良い。

 なんらかの格闘技の心得があるようだ。

 しかし、暗闇にサングラスとはどうなのだろう。

 

 女性は八雲、俺でも知っているピアニストだ。

 フィネガンよりも落ち着いている姿は何かを知っているようだ。

 話を聞いてみるべきだろう。

 さて、何を聞こうかと見つめていると徐々に八雲の顔が青くなっていく。

 まさか、俺にニコポの才能があったのだろうか。

 

 

 

 八雲がゲロッた。

 ……こいつ、酒臭ぇ。

 

 

 

 

 

――

 

【シュテル】 悪魔:概念(強欲) レベル10 耐性:不明

だいたいディアーチェと同じ事情なので割愛。戦闘をこよなく愛する。

 

【フィネガン】 不明

中堅サマナー。メリケンサック型のCOMPは持っていない。

 

【八雲 祭】 不明

サイレンは初めての挑戦。酔っ払いである。PSIはまだ無い。

 

 

近況報告

・シュバルツバースへ突入しました。

・安心院がフラスコ計画を予定しています。協力者として、ホムンクルス(フラスコの中の小人)がいます。

・外から深淵が覗き込もうとしています。

 

――

 

 

 

--9

 

 人では無い、獣のような何かが遠くで咆えている。

 後ろから悲鳴が聞こえる。

 命乞いをするもの、勇ましく戦うもの、それらを置いて逃げるもの。

 耳をすませば様々な音が様子を伝える。

 物を壊しながら争う騒音が響き、静かになる。

 そしてぐちゃぐちゃと柔らかな物を潰す音とこの世のモノとは思えない悲鳴が続いた。

 たぶん、悪魔に甚振られているのだろう。

 生体マグネタイトは感情によって増減するらしいから、悪魔は敗者を嬲るのだ。

 

 

 

 散発的に現れる悪魔を鎧袖一触とばかりに蹴散らしていく。

 大量に現れた際にはシュテルに多量のマグを与えることで瞬発的に強化し、一気に大魔法で蹴散らす。

 建物の内部は低位の悪魔ならば現界するには十分なマグで溢れており、シュテルの維持に気を張る必要はない。

 フィネガンは元ボクサーのサマナーであり、黒いドレスに身を包んだ美しい女性型の悪魔・リャナンシーを召喚している。

 悪魔の召喚にコンピュータを用いるとはなかなか面白い。

 召喚陣のみをプログラムするものと、容量を増やすことで悪魔自体を中に入れて置けるものがあるようだ。

 現在はターミナル型ほどの大きさでなくては複数を入れて置くことはできないので、呼び寄せるだけの召喚プログラムが主流らしい。

 召喚に用いるコンピュータをCOMPと呼ぶのが一般的だとか。

 しかし、フィネガンが使っているCOMPはハンドヘルドコンピュータというやつなのだがボクサーには邪魔じゃないのだろうか。

 

 COMPがあればシュテルやディアーチェをマグの浪費なしに入れられるので、異界探索時の移動などに便利そうである。

 ただ、COMPを使うためには悪魔と契約する必要があるとも。

 シュテルは格を戻す手伝いをすれば契約してくれるようで、現在の状況も気に入っているようだ。

 初めての契約に満足しているとフィネガンに説教された。

 契約していない悪魔は笑顔で寝首をかくこともあるから首輪は付ける必要があるとか。

 なるほどなー。

 

 目に付いた悪魔はとりあえず仕留める。

 基本的に俺やフィネガンは後ろで指示を飛ばし、リャナンジーの衝撃を生じさせる魔法のザンで体勢を崩し、シュテルが炎魔法のアギで焼き払う。

 八雲は更に後ろをついてきている。

 後ろにいる酔っ払いだが、まるで動揺していないので何らかの知識を有しているのか期待して読心したのだが、何も知らなかった。

 酒に酔っぱらって思考が鈍り、判断力が曖昧になっていただけのようだ。

 こちらに着いてきたのも最初に動いた者に反応しただけという昆虫並の行動原理。

 酔いが醒めてきて悪魔にキョドっている姿に呆れながら探索を進めて行った。

 

 

 

 随分と歩いたが収穫になるようなものは見つからなかった。

 部屋の数は多いのだが、ほとんどが鍵が掛かっていた。

 片っ端から粉砕して内部を漁ったが目ぼしい物は無く、わかったことは此処で何らかの研究をしていたということくらいか。

 異界に飛ばされた理由を探ろうと、さらに探索を進める。

 建物の端まで進んだが扉を開くことができなかった。

 どうやら建物が異界と化しているらしく、単純な異界ならば主の撃破で解除されるので光源のある方の探索も必要だろう。

 大人が一人余裕を持って入れそうなガラス管が連なる部屋を陣取って、集めた資料を検討する。

 陣取ったのはガラスが砕けて破片が飛び散っている以外は比較的きれいなためだ。

 英語はフィネガンと八雲に任せる。

 八雲がとうとう役に立ったのだ。

 面倒になって悪魔の餌にしなくて良かった。

 

 内容は当然ながら研究についての話ばかりだった。

 研究名は「グリゴリ計画」というもので「キメラプロジェクト」と呼ばれる悪魔と人間の合体に目を付けた、とある高貴な存在が自らの分霊を使って利用したのが始まりだとか。

 人体実験を重ねることでデータの蓄積を繰り返し、その結果として特殊な人間が完成するようになったようだ。

 それらを元に研究をつづけた結果、異能を身につけた強力な人間を生み出したとか。

 研究も最終段階に入り、異能者のロールアウト直前までたどり着いた、という辺りまでの情報しか見つからなかった。

 グリゴリの天使と呼ばれる高貴な存在とは一体なんだろうか。

 

 

 

 シュテルやフィネガンと真面目に考察していたのだが、八雲がさっさと出たいと急かしてきたため切り上げる。

 他の部屋のように壁に黒ずんで乾燥した血やバラバラにちぎられた白骨、人型の腐肉、蛆、蠅、などが無い比較的きれいな部屋を選んだのだが厳しいようだ。

 顔は青を通り越して白くなり、冷や汗を流して気分が悪そうだ。

 腐った肉を貼り付けて徘徊するゾンビやスプラッタ映画も真っ青なくらい顔が潰れたゴーストのいる部屋を指差して、其処らで休憩するかと提案するも断られた。

 焼き払えば死臭以外は幾分かマシだと思うのだけれど。

 

 

 

 最初の転移地点まで戻り、未探索だった残りの場所へと進む。

 こちらはウィル・オ・ウィスプという光源があるのでかなり明るく、隅々まで見渡すことができた。。

 天上や床、壁の至る所に飛び散った血液、無造作に転がされた手足、千切られた表皮と爪、転がっている目玉や舌、瞳を失って落ちくぼんだ眼窩の持ち主は苦悶の表情を浮かべ首だけになっていた。

 遊ぶだけ遊んでマグを喰らって放置した様子から、人食いの悪魔はいないようだ。

 無視して進もうとすると八雲がまた吐いた。

 こいつ、吐いてばっかだ……。

 

 死体漁りもサマナーの仕事だとばかりに張り切っていたフィネガンとサマナーの持ちの物に興味津々な俺とシュテルとは違い、八雲は壁にもたれて呻いているだけだった。

 八雲の軟弱さに呆れながら周辺を漁る。

 サマナーも混じっていたのだろう、拳銃やナイフといった武器も転がっている。

 死骸を漁れば銃弾も見つかるだろうが、肉の塊となっていて面倒だ。

 肉塊の中で辛うじて腕とわかるものがラップトップを掴んでいた。

 あまりにも固く握られていて、中身を確認しようにも手元に寄せることができないので指を引き千切った。

 充電は十分、表示されている画面は悪魔召喚プログラムであった。

 悪魔を使役するためにサマナーには必要不可欠な道具だ。

 血糊で彩られているが何かに使えるかもしれないと回収していく。

 他にもいくつか転がっていて、中にはフィネガンのようにハンドヘルドコンピュータもあった。

 当然腕のみとなっていたが。

 

 悪魔召喚プログラムのみが入った物ばかりだったが、ほんの一部は画面に修復中と表示されている。

 フィネガンが言うには撃破された悪魔をリカバリーすることのできる上物で、その分仲魔の数を減らす必要があるのが欠点だとか。

 他人が使っていたモノなぞ使いたくないので中身を漁って悪魔召喚プログラムを消してからジャンク屋に流すとしよう。

 頭と胴体のみの歪なダルマとなった人間から背嚢を拝借して詰め込んでいった。

 

 こんなものかと切り上げ、立ち上がる。

 足元に在った見知らぬ誰かの頭を蹴ってしまった。

 生首は喰わされていたのだろう、誰かしらの指を吐き出しながら転がっていき、八雲にぶつかった。

 血涙を流し、口から指を食み出させた頭部と目が合い、再びゲロを吐いた。

 吐いたら体力がなくなるってわかってるのだろうか。

 これ以上吐いたら携行食料を食わせたほうがいいだろう。

 肉塊の荷物から多量に見つかるので問題ないだろう。

 

 

 

 明かりというものは先ほどの死骸のように人間を引き寄せる。

 そして、悪魔も引き寄せるようだ。

 群れとなって襲い掛かってくる悪魔どもの姿が見えた。

 今歩いているのは直線が伸びている広い廊下で戦闘するには少しばかり狭い気がしなくもないが、問題なく行えるだろう。

 拾ったナイフを片手に待ちかまえているとシュテルが服の裾を引いた。

 やりたいらしい。

 

 全力でマグを注いだらどうなるのだろうかと疑問に思い、実行してみる。

 ご機嫌となったシュテルが詠唱、そして視界には燃え盛る炎のみが広がっていた。

 炎が引くと、全てがなくなっていた。

 残ったのは其処ら中に残った火の粉と黒く焦げ、所々溶けた床や壁だった。

 凄まじい威力である。

 シュテルは結果を見て満足気に息を吐いた。

 

 

 

 障害物も排除できたので先へ進もうとすると奥から人影が接近してくるのを感知した。

 読み取れる思考は殺意で埋め尽くされている。

 悪魔かわからないが敵だろう。

 かなり速い。

 シュテルにアギで牽制させてみたがなかなか当たらない。

 厄介だ。

 どうしたものかと頭を回転させていると八雲が倒れた。

 またか。

 今度はゲロは吐かなかったが、鼻血と熱が出たようだ。

 余裕がないので上着を丸めて枕にして寝かせて放置する。

 悪魔が後ろから現れて食われるかもしれないがそれは自己責任だ。

 

 壁を蹴り砕き、瓦礫を作る。

 拾ったナイフを射線を変えながら絶え間なく投擲し、瓦礫も蹴り飛ばす。

 接近する人影は奇妙な力場に護られているようで、当たりそうなナイフや瓦礫が避ける様に曲がっていく。

 これは異能者か。

 悪魔が蔓延るこんな場所で何をやっているのだろうかと疑問も浮かぶが今は無効化するのが先だ。

 シュテルにマグを送る。

 廊下を再び紅蓮の炎で染め上げた。

 

 

 

 フィネガンが「やったか!?」とフラグを立てていると案の定、生きているようで異能での反撃を行ってきた。

 八雲とシュテルを肩に担いで後ろに飛び退く。

 フィネガンは知らん。

 廊下が爆ぜて、紅蓮の炎を飲み込んだ。

 

 飛んでくる巨大な瓦礫を異能者に向けて蹴り飛ばす。

 どんな異能かわからないが爆発させることで防いでいた。

 シュテルの炎を飲み込んだことと廊下を吹っ飛ばしてみせたことから威力はかなり高いようだ。

 あまり接近したい相手ではない。

 

 煙に包まれたフィネガンが悪態をつきながら後退してきた。

 シャツが少し焦げており、無傷とはいかなかったようだ。

 なるべく俺とシュテルに損害が出ないように戦いたいという事でフィネガンとリャナンシーで前に出るという作戦を提案。

 却下された。

 消耗率はかなり低くて良い作戦だったのだけれど。

 

 異能を使うためには何らかのエネルギーを消費するので、枯渇するまで粘るという方向で決まった。

 フィネガンが拾ってきた銃で弾を撒き、瓦礫を蹴り飛ばし、ザンやらアギやらも撃ちこむ。

 時折、イラついた様子で異能者が巨大な爆発を起こすが思考を読んで退避する。

 肉片が転がる場所まで戻ってきたが行うことは変わらない。

 爆発で舞い上がった肉片が八雲に降りかかった。

 戦闘中なのにそんなところで寝てるからしょうがない。

 

 

 

 思考を読み取っていると徐々に痛みと焦りが生じ始めていた。

 やはり無限に使うことはできないようだ。

 鼻血が出ているらしく、焦りが凄まじい。

 推測すると脳を酷使する異能のようで使い続けると疲労で痛みが生じるらしい。

 追い打ちをかけるように瓦礫と魔法を増やす。

 焦りを痛みが上回ってきたようで単純な思考しかできなくなっていた。

 そうなると瓦礫を当てるのも簡単だ。

 単純な思考は捨て身に賭けることを導きだし、力を溜めこみ始めた。

 異能者には逃走するという考えは一度も無かった。

 その思考を読み取った俺はシュテルへと今日一番のマグを与えた。

 戦闘狂は同士で争って戴きたい。

 廊下を覆うほどの爆発をシュテルの熱線が一直線に貫いた。

 

 熱線の横を駆け抜け、異能者の元にたどり着く。

 異能者は白っぽい髪をオールバックにした二十歳ほどの男だった。

 異能で防いだのか見た様子では熱線が当たった様子はない。

 しかし、異能を使いすぎたのか鼻血を垂らていた。

 血走った目がこちらを睨んでいた。

 未だに殺意を抱き続ける精神に呆れながら正拳突きをくれてやる。

 弱った異能による力場を殴り砕いて、直撃させた。

 どす黒い血を吐いてのた打ち回る異能者を蹴る。

 壁へと衝突して瓦礫の山を作り上げていた。

 

 

 

 異能者を退けたので探索を再開する。

 先ほどまでの戦闘を感じ取っていたのだろう、悪魔もほとんど寄って来なくなった。

 熱で魘されている八雲を背負って歩く。

 COMPに入れられたならどれほど楽なのだろうか。

 未探索だった残りを探索し終えるも、出口が見つからなかった。

 マグを限界まで溜めてシュテルに破壊してもらうしかないと考えたあたりで電話のベルが鳴った。

 音を頼りに向かうと机の上に佇む固定電話。

 ベルが鳴り響いている。

 非常に怪しい。

 怪しいが、たぶん、ゴールなのだろう。

 

 最初に公衆電話で受話器を取ったときに透明のコードが襲い掛かってきたのを思い出した。

 またアレに襲われてはたまらないと、八雲で試す。

 憔悴している八雲の耳に受話器を当てると転移が始まり、姿が消えた。

 よし、安全だ。

 フィネガンとともに頷き、帰還した。

 

 

 

 それから定期的に転移されるようになった。

 最初に手に入れた赤いテレホンカードが鳴り響くのが始まりの合図らしい。

 ついでに魔人が現れることもある。

 次のときには八雲は異能に目覚めていて、超能力を使えるようになっていた。

 俺とフィネガンには一向に異能が目覚める兆候は無いのだが。

 

 転移の際には新人が供給されるが生き残るのは一握り、そして次に生き残るのはさらに一握りといったところか。

 一般人からサマナー、異能者まで様々だがほとんど死ぬのであまり興味はない。

 稀にいる生き残りを観察した結果、一般人は確実に異能に目覚めるようだ。

 サマナーはほとんど目覚めず、元から異能を持っていた者は転移先だと調子が上がることもわかった。

 

 転移先についてはあまり情報が集まらないが、ルールはだいたいわかった。

 必ずいる異能者をぶちのめして鳴り響く電話をとる、というものだ。

 何度か異能者を無視して電話をとったので確実だ。

 そのとき囮として何人もの新人が死んだが良い仕事をしてくれた。

 

 時間が合えば情報交換のためにフィネガンと、体術と異能の訓練に八雲と会っている。

 フィネガンに紹介された店に回収したコンピュータを持ち込んでCOMPと交換してもらった。

 他にも悪魔召喚プログラムが入っている物を持ち込めば換金してくれるため重宝している。

 ラップトップ型のCOMPにしたが戦闘では不便を感じるうえに充電も微妙なため、召喚以外は使っていない。

 会話して仲魔にするという方法もあるが引き裂いてマグを取り出した方が早いのであまり会話はしていない。

 合体したら強くなると言っても、今いる仲間は単に格を取り戻すだけなのだからマグを与えたほうが嬉しいらしい。

 というか思考が読めるのに見知らぬ悪魔と会話してもな……。

 

 

 

 そんな感じで強制的に異界を探索する以外は特に変化はない。

 学校も球磨川がリコール喰らった以外は何事もなくといった感じだ。

 ただ、副生徒会長の安心院とやらが面白いことを考えていたのが気になった。

 球磨川を主人公に引き立てる際に少し使えるかもしれない。

 

 

 

――

 

【ドルキ】 レベル25 異能:ESP

『奇跡』の行使をテーマにグリゴリ計画で生み出された。扱っている異能は超能力に分類されるので失敗作といえる。

 

【グリゴリの天使】

高貴な存在。(笑)を付けてはいけない。『奇跡』を扱える人間を作り出すことで人間の素晴らしさを伝えようして失敗した。

 

読心:さとり、ハオ、オリ主が扱う読心は超能力とは異なる。魂の波長を合わせてうんたらかんたら。術者が弱いと悪魔に乗っ取られる。

 

近況報告

・グリゴリ計画で生み出された異能者が同胞を集めています。

・グリゴリの天使は逃走しています。

・メタトロンがグリゴリの天使を追いかけています。

・大洪水の恐れがあります。

 

――

 

 

 

 

--10

 

 「やあ、久しぶりだね。元気だったかい?」

 

 声を発したのは目の前に佇む、キュゥべえと名乗った小さな白い動物だった。

 耳は長く、瞳は真っ赤。

 ウサギのような、猫のような、動物のような愛らしい外観をしているが、変わることのない表情が無気味であった。

 

 「相変わらず無口だね。でも、その様子を見ていると君と過ごしたあの楽しかった日々を今でも思い起すことができるよ、イーノック。……いや、今はメタトロンか」

 

 淡々と、感情の感じられない声だった。

 事実、感情など一切込められていないのだろう。

 自分も、もちろん相手も、この場に現界しているのは分霊(わけみたま)である。

 結局のところ、本体の思い出を知ることができるだけだ。

 実際に体験したものではない。

 だから先ほどの言葉は意味を為さない。

 小動物が発したただの鳴き声でしかないのだろう。

 

 「天から落ちたこの僕に何か用かな、天の書記」

 

 感情の灯らないガラス玉のような瞳が身を貫いた。

 その小さな体躯には現世に顕現できる限界までマグネタイトが注がれている。

 渦巻く魔力は、ただそこに在るだけで身を切り裂かれるようだった。

 

 「グリゴリを捕縛するのが君の仕事だろう? 僕はただ此処で待っているだけ……」

 

 すべてが足りない。

 本体からの補助もない。

 それでも戦う。

 それが与えられた道だから。

 

 「ああ、やっぱり駄目かな。君は人の話を聞かないからね」

 

 機械仕掛けの躰に魔力を通し、攻撃を行う。

 微動だにしない。

 魔力の不足を呪文で補い、魔法を放つ。

 微動だにしない。

 ビー玉のように艶のある赤目が無感情に見つめていた。

 

 「いや、もうその道しか選べないのか。……神は絶対、わかっているさ」

 

 小動物の力が増す。

 耐えることはできないだろう。

 己は単なる分霊である、消滅は怖くない。

 ただ、悔しかった。

 

 「つまり神は君に死ねって言ったのと同義だね。そうじゃなかったら僕と戦う必要なんてないから」

 

 光が満ちる。

 光が満ちる。

 光が満ちる。

 

 

 「人が持つ唯一絶対の力も天使となった今では無いも同じ。……まあいい、一番いいので送り返そう」

 

 光が満ちる。光が満ちる。

 光が満ちる。光が満ちる。

 光が満ちる。光が満ちる。

 

 「本体から与えられる仮初の記憶だとしても良い奴だったよ、君は。『メギドラダイン』」

 

 光が満ちる。光が満ちる。光が満ちる。

 光が満ちる。光が満ちる。光が満ちる。

 光が満ちる。光が満ちる。光が満ちる。

 光が……。

 

 

 視界の端で人影を捉えた。

 余裕は一切なく、宿主が死なないよう尽くすことしかできない。

 天の火が、地に降り注ぐ。

 人影が悪魔を呼び出した、サマナーのようだった。

 この場では脆弱な悪魔だった。

 魔法で対処するにも、盾にするにも、あまりに矮小だ。

 脆弱な悪魔の身に膨大なマグネタイトが迸る。

 そして、その悪魔から放たれる光。

 余波がこちらまで及び、それを防ぐために力のほとんどが削られていった。

 相殺とまではいかなかったようだが、直撃を避けることはできたのは運が良かった。

 

 「……わけがわからないよ」

 

 癪に障るが同感だった。

 薄れていく意識、最後に見たのは魚を模した菓子を頬張るサマナーと悪魔の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 高校からの帰り道にある公園で小規模な異界を感知したので向かってみると、白い小動物と緑の髪をツインテールにした少女が口論していた。

 事情を聞こうとすると、白い小動物がこちらをチラッと見た後に大魔法を放った。

 破壊の光が結界を覆った。

 これはまずい。

 買ったばかりのタイヤキが吹っ飛ばされてしまう。

 大魔法に対処すべくさとりを召喚する。

 さとりは相手の魔法を劣化コピーできるのでうまく相殺できるのではないかと思ったのだ。

 

 思った通り、コピーは出来た。

 しかし、威力が足りないらしい。

 勇気とか友情で補えないだろうかと尋ねると、負の感情のほうがマグの量が多いとか。

 なんか違う。

 こんな意味不明な状態でタイヤキが吹き飛ぶのは御免なのでさとりへと一気にマグを送る。

 いつもは眠そうな半目も今ばかりはぱちりと見開き魔法を放った。

 弾幕を張るにはまだ足りないとか。

 何を目指しているのだろうか。

 そんなことよりも余波が凄まじい。

 紙袋から飛び出たタイヤキを上手く口で捉えて咀嚼。

 衝撃が納まるころには異界は消え去り、小動物の姿も無かった。

 険しい顔をしたさとりの口にタイヤキを詰める。

 ……で、この少女はどうしろと。

 

 

 

 あの白い小動物を次の機会に見つけたら真っ先に殺すことを誓って帰宅。

 日本人の食べ物の怨みはしつこいのだ。

 別にタイヤキが無駄になったというわけでもないが。

 

 少女からは仲魔や異界の悪魔とは違う奇妙な感じがしたので拾ってきた。

 案の定、ディアーチェに拾ったとこに帰して来いと怒られた。

 シュテルも嫌そうにしているがタイヤキを食わせたら治まった。

 

 この拾った少女だが、どうやら人間ではないらしい。

 確かに身体の所々から機械のような部分が見えるうえにちょっと重かった。

 顔の半分が欠けている腕や足の数が足りない普通の少女ではなかったようだ。

 露出した面から機械が見える。

 機械人形というやつだろうか。

 そんな機械人形の少女だが、天使を内に秘めているようだ。

 ディアーチェとシュテルは天使があまり好きではないらしい。

 悪魔と天使は相いれないということか。

 目が覚めたら先ほどの話を聞くとしよう。

 

 

 

 サマナーが情報や悪魔の交換を行ったり、色々な依頼を受けることのできるDDS-NET内の掲示板で暇を潰す。

 ほとんどが非合法な内容なので掲示板の内容もブラックだ。

 とりあえず「憧れのCOMP」というスレに「メリケンサック型のCOMPとかセンスなさ過ぎ」、と書き込んでおく。

 依頼を見てみるが、玉石混淆で地雷も少なくない。

 力量と合った仕事をすべきなのだろうが、判断するには難しいものばかりだ。

 依頼を受ける場合は事前に周辺の悪魔や異界のレベルなど、様々な情報を収集して自分なりに決断を下さなければならない。

 スレに戻ると「なんでや、なにがあかんのや! 拳闘士の必需品やろ!」「COMPぶっ壊れんぞ」「俺は超ベジータだ」「これだから三流は・・・」「おうどんたべたい」などと書き込まれていた。

 おうどんたべたい。

 

 夕飯ができたとディアーチェに呼ばれたので食卓に向かう。

 今日はなんだろうかと扉を開けた。

 その先には、緑色のツインテールを揺らしながらネギの丸焼きを齧る天使内蔵型機械天使の姿が!!

 なに機械のくせに呑気に飯食ってんだ、ジャンクにすんぞ。

 

 緑のぽんこつ天使、なんとメタトロンの分霊であるという。

 固体名は「初音ミク」。

 ディアーチェの小ハゲかという呟きは聞こえなかったことにした。

 使命は堕天使の捕縛であるが、天界や本体からの補助は無しだというのだ。

 憑代もマグ不足の分霊状態で投げ出されてから自分で探したとか。

 自分で全て賄う必要があるとかブラック過ぎはしないだろうか。

 

 小さな霊地で休息しつつ、弱い亡霊を狩り、限界ギリギリで彷徨い、散々苦労した末にちょうど廃棄されていた機械人形に乗り移って事無きを得た、という話だ。

 最初から少しガタが来ていたが、先ほどの戦闘で半壊してしまったようだ。

 それでも飯が美味いと微笑んだ。

 なんというか、涙を誘う。

 

 廃棄されていた機械人形は魂の抜け殻のような物が詰まっているだけだったので、そこに憑依することで現在に至るとか。

 相性が心配だったが、意外と馴染むらしい。

 馴染みすぎてご飯が食べられるようになったとか。

 好物はネギ、趣味は歌、嫌いな物はハゲとメカメカしい天使、油をかけてくる天使、天使、書き物だそうだ。

 歌を試しに聴いてみたが、突然放り出されたときやマグ不足で消失しかけたときの歌は泣きそうになった。

 

 

 

 それから暫くして半壊状態のミクは出て行った。

 回復するまで幾日か居てもいいのだと伝えたが、近場に堕天使がいる感知したらしい。

 そして半日後にさらに壊れて帰って来た。

 力の差が有りすぎたらしい。

 もっと休んだら良いと伝えるも、再び出ていき、半日後に壊れて帰ってくる。

 何度か繰り返し、最後にはほとんど全壊といっても間違いない状態で帰って来た。

 ぽんこつ天使は人の話を聞かないやつだな……。

 

 とりあえず高校1年はぽんこつ天使のパーツを集める作業を行うことにした。

 「対シャドウ特別制圧兵装」が扱える部品を依頼料に加えれば格安で依頼できるようにした。

 ぽんこつは面倒ばかりである。

 完全復活を果たしたら恩を感じてくれれば良いのだけれど。

 ぽんこつジャンクなわけだから期待はできない。

 ……まあ、歌が聴けるだけでも十分だけれど。

 

 

 

 球磨川?

 同じ高校は落ちたから別のところに通っている、らしい。

 なんか戦ったりするとか。

 どんな高校だよ、それ。

 

 いま懇意にさせてもらっているのは鹿目まどかという名前の女の子だ。

 タイヤキをあげたら仲良くなった。

 この娘だが悪魔の天使よりも天使力が高い。

 ぽんこつとは比べ物にならないレベル。

 まどかさんマジ天使。

 

 

 

――

 

【初音ミク】 レベル30 種族:機械(大天使メタトロン)

ただでさえ天使であるミクさんがメタトロンというのは当然の結果だと受け入れるほかない。

ペルソナを扱うことのできる機械人形。人型として最初期に開発されたが、心が生まれなかったために廃棄された。黄昏の羽根も内蔵されていないが、代わりにメタトロンの分霊が入り込むという贅沢仕様。機械だけど飯が美味い。

本体が現世に他の分霊を派遣する際に悪魔の注目を逸らすために撒き餌として作り出した。そのため弱いうえに、消滅しても構わなかったというハードモード。凄く狙われていた。

ぽんこつだがひたむきな努力家。ハゲとメカ天使、天使諸々が嫌い。

現在は首と胴体、右腕のみ。あだ名はミクトロン。

 

【まどか】 レベル1 種族:人間

白いやつに狙われている。マジ天使。

 

近況報告

・球磨川が別の学校で頑張っています。

・シャーマンファイトが楽しみ過ぎてハオが寝不足です。

・キュゥべえが出現しました。一体なにルシファーなんだ……。

 

――

 

 

 

 

--11

 

 転送先の広い建造物を走る。

 本当に広い。

 俺の走った道には床を踏み抜いて出来た足跡が残る。

 フィネガンと八雲とはどうやら離れた場所に転送されたようだ。

 無理しても合流するよりも、異能者を撃破したほうが早い。

 そういう事情で追いかけているのだが、なかなか追いつくことができないのだ。

 

 特に相手の足が速いわけではないが獣のような何かに騎乗している。

 それでも俺が脚力で負けているわけではない。

 追いつけない理由は相手が召喚を繰り返し続け、妨害してくることだ。

 また廊下を埋め尽くすほどの怪物が現れた。

 

 

 

 名状しがたき怪物が群れを成して迫る。

 あれはサマナーが契約できる悪魔の数を超えている。

 高位悪魔が呼ぶ眷属のような物かと思ったが、どう見ても種族が別物だ。

 それほど強いわけでもないが、頗る硬いうえに道を塞ぐ障害となる。

 無視して強行突破すると融合して襲い掛かってくる。

 融合されると更に硬くなるため、前と後ろが塞がれて時間を食われることになる。

 迅速に追いつくには群れを接敵したときに確実に仕留める必要があった。

 外見は額に傷のある童女だったが能力はかなり面倒な異能者だ。

 

 あまり時間を掛けるとテレポート持ちの別の異能者が現れ、逃がされてしまう。

 逃げた異能者はときどき異界に出現して襲撃してくるので殺しておきたいが未だに一人も殺せていない。

 劣勢になるとテレポートで逃げられるためだ。

 ならばテレポートで異能者が回収されるまで放置すればいいのではないかと思い、比較的綺麗な部屋に閉じこもったのだが、いつまで経っても終わらなかった。

 痺れを切らして外に出ると悪魔を従えたサマナーや異能者どもといった新人が皆殺しにされてたときは笑ってしまった。

 そういう面倒なことが起きるので早期撃破、出来れば殺害、ということだ。

 

 召喚、召喚、召喚……。

 異能者の餓鬼が騎乗している複数本の腕を巧みに動かして駆ける奇妙な白い怪物の姿が小さくなっていく。

 俺だけでは手数が足りなくなってきた。

 ただ、残念ながら俺の仲魔には子供は殺さない主義ばかりだ。

 俺も好きではないが、今後のことを考えるとそうも言っていられない。

 というか、転送したときには新人のほとんどを召喚した怪物で殺していたあたり普通の餓鬼と思えるわけが無い。

 

 

 

 あまりやりたくないが、仕方ない。

 仲魔を現地徴収するしかない。

 敵が融合することで強化されるであろうことに歯噛みしながら一度追撃を中止し、全力で逆走する。

 後ろを確認するが追いかけてくる様子はない。

 逃げることに専念したのか、それとも力を蓄えることにしたのかわからない。

 どちらにしても骨が折れそうだ。

 

 逆走していると都合よく悪魔の群れを見つけた。

 アナライズするまでもないほどに弱小の妖精ばかりだ。

 軽く跳躍し、壁、天上と順に足場にして跳び、群れの背後をとる。

 そしてリーダー格と思われるハイピクシーの首を掴み、全員契約してくれるように頼む。

 混乱して状況を理解できないのか、立場がわからないほど頭が悪いのかわからないような妖精を核ごと消し飛ばす。

 他にも悪魔は沢山いるし、そっちでお願いするとしようか。

 そう呟きながら目に付いた妖精の頭を掴んで壁で摩り下ろす。

 3匹くらい顔面を失った頃に契約を了承してくれた。

 やはり相互理解さえあれば悪魔とも絆を結べるようだ。

 会話の素晴らしさに感動しつつ、契約したばかりの妖精にMAGを送る。

 核ごと弾けて消え去った。

 脆いな……。

 

 あまりの脆弱さに引きながら、次の妖精にMAGを供給する。

 やはり消し飛んだ。

 怯える妖精にMAGを送ろうとするとハイピクシーが自分がやると言い出した。

 なるほどなー……まあ、当たり前だけど却下。

 そもそも一匹ずつやるとか非効率すぎる。

 全員同時にやってやると笑顔で伝えてMAGを振る舞う。

 当然ながら塵と化した。

 ああ、わかってた。

 

 

 

 今回の異界は雑魚ばかりで困る。

 何匹目かわからない消し飛んだ悪魔を見ながらそう思った。

 かなり楽な難易度だと思われるが、異能者を考えると結構えげつない。

 低レベルの雑魚悪魔が闊歩する異界を徘徊する高レベルの怪物を召喚する悪魔とか笑い話にもならない。

 まあ、主に力が集中しすぎて出現する悪魔とのレベル差が激しい異界も稀にあることから油断した者が悪いということなのだろう。

 人肉ミンチの中を漁り、珍しい物品を集める。

 一度くらい生き返れないのだろうか、こいつらは。

 そんな簡単に死んでたらこの先生き残れないだろうに。

 死んでるからこの先もないのか。

 それとも地獄で訓練でもしてくるのだろうか。

 人間は肉体が弱すぎるのだから魂くらい鍛えたほうがいいのかもしれんな。

 

 遺品を漁り続ける。

 ナイフや金属球があると嬉しいのだが、出てくるモノは銃や弾ばかりだ。

 殴るか投擲するほうが速いし強いのであまり銃は好きじゃない。

 ただ、投擲も安い物だと材質が柔らかいので衝突時に砕けてしまうから微妙ではある。

 やはり直接殴ったほうが強くて楽だ、弾切れもない。

 それでも銃は拾っていくのだが。

 フィネガンが仕事仲間や部下に分けるらしい。

 店に売りつけるより安く買いたたかれるが、情報をくれるので銃はほとんど渡している。

 

 転送されてきたサマナーは駆け出しばかりだったのかあまり良さそうな物が見つからない。

 あっても魔石程度だ。

 PCも持っていないがスマートフォンやタブレットが転がっている。

 最近は進んでいるなと内心で関心しながら調べてみる。

 召喚が合体、デビルトーク、アナライズと使える機能は限定されているが使いやすいうえに小型なので取り回しも良い。

 サマナー向けに特化させれば、さらに使い勝手が良くなりそうだ。

 

 機能は似たり寄ったりなのだなとスマホを弄る。

 契約されている試しに悪魔を呼び出し、MAGを供給。

 最初は喜んでいたが、途中から焦りはじめ、奇声をあげながら弾けた。

 拾い集めたスマホとタブを見てストックは十分だと悪魔を召喚した。

 

 

 

 まさか1匹も耐えられないとは。

 人間が弱いと使役している悪魔も弱くなるのだろうかと呆れていると、黒い球体が飛んできた。

 その球の大きさは俺よりも一回りほど小さく、ふらふらと覚束ない動きをしている。

 スマホ片手に観察していると、そのまま壁に激突して落下した。

 球体が霧散して、中から幼い少女が現れた。

 頭を強くぶつけたのか、地面に座ったままふらふらとしている。

 やがて痛みが落ち着いたのか、衝撃が引いたのか、ゆっくりと立ち上がった。

 

 ショートカットにした黄色の髪、赤いリボン、赤い瞳、黒い服装。

 それらが目に付いた特徴だ。

 腹が減っているらしい。

 切り裂かれて二の腕までしかない腕を差し出すと、血で口を汚しながら齧りついた。

 悪魔は生きたまま食ったり、丸呑みしたり、嬲ったりするが、死体を食べるのは珍しい。

 マグネタイトを効率的に摂取するために人間を襲うためであって、死ぬとマグネタイトが急速に失われるためだ。

 人を食べる悪魔であっても死体は食わないことが多い。

 

 骨ごとばりばり食っている少女に次々と人間だったものを渡す。

 生きていたほうが好きだが、新鮮なので美味いとか。

 女子供も柔らかくて特に好きであるとも。

 こいつは便利そうだ。

 ダメだったら次を探せばいいだけだ。

 

 

 

 人間を食わせるという緩い契約で幼い少女のような悪魔、ルーミアと仲魔になった。

 この契約には穴がある。

 場所と時を指定していないという穴が。

 俺がその気になれば10年後20年後でも可能だということだ。

 実際はすぐに果たそうと思っている。

 まあ、異能者の餓鬼を食わせるだけだが。

 

 ルーミアの移動速度が遅いため、首根っこを掴んで走る。

 戦闘時に召喚でも良いが対峙したとになるべくラグを無くすためだ。

 維持するためのMAGもそれほど多くない、というかかなり少ない。

 しかもMAGの供給にも悠々と耐えられる。

 独自の思考を持っているらしく、会話が少し空回りするが、頭が悪いというわけでもないので特に問題はない。

 不活性MAGとなった悪魔たちの数を考えるとMAGの過剰供給ができる悪魔というのはかなり貴重なのかもしれない。

 

 試しにさらに多くのMAGを供給すると最初は力強くなるだけだったが、ある一定量を超えると黄色の髪を束ねている赤いリボンが徐々に黒く染まり始めた。

 リボンが黒に近づくとルーミアの瞳に知的な光が灯りはじめ、にこにこと笑っていた表情も凛々しくなっていく。

 そして、急成長しているかのように背が伸びていく。

 会話も幼い子供としていたものから、家の仲魔としているようなものに変化していった。

 MAGの量に応じて知能・身体能力が上昇していくようだ。

 格が高い悪魔が普段はMAGの消費を抑えるために幼い少女の姿になっているのかもしれない。

 なかなか面白い悪魔だ。

 

 

 

 轟音に近づく。

 この先で戦闘が繰り広げられているようだ。

 フィネガンと祭は異能者が騎乗していた怪物と戦闘しているようだ。

 怪物も融合を繰り返したのか、建物を突き破ってしまっている。

 今回の異界は外まで広がっていたらしい。

 怪物自身も見上げるほどの巨大さで特撮に出るべきではないかと思えるほどだ。

 誰か光の巨人か電源ケーブルが付いたロボットを呼んで来い。

 怪物が振り上げた腕を叩きつけた。

 

 衝撃に逆らう様に走り、飛び散る瓦礫を足場に怪物の頭部に迫る。

 さらにルーミアへとMAGを多量に注ぐと完全に黒く染まったリボンが解け、ルーミアの頭上付近へと移動して天使の輪のように変異した。

 その輪には天使が持つ神々しさは一切無く、空間が切り取られたような美しい闇だけが存在している。

 ルーミアが広げた両手の先に巨大な黒い球体が現れた。

 二つの球は赤い紋様が刻まれていて、ゆっくりと明滅を繰り返している。

 全ての光が球体へと吸い込まれ、地は黒に染まり、空は夜が覆った。

 空間に存在する悉くを闇が侵した。

 球体が割れ、中から暗黒とともに鋭い爪を持つ手が飛び出した。

 上機嫌な笑い声とともに、ルーミアが広げていた手を軽く振ると巨大な手が異能者の怪物を引き千切った。

 

 

 

 強い。

 頗る強い。

 予想以上に強い。

 というか雑魚妖精が闊歩する異界でこんな強い悪魔がいるとは思わないだろう。

 思わぬ幸運というやつか。

 

 だが、問題もある。

 燃費が悪い。

 頗る悪い。

 予想を超える悪さだ。

 すぐに無くなるほどではないが、常に供給しておける量では無い。

 

 供給したMAGを使い果たしたのかリボンが赤に戻って髪を束ねると、脳天気な状態のルーミアへと戻った。

 この状態はMAGの維持に関しては理にかなっているようだ。

 ただ、行動が幼くなるため生存能力は低くなりそうだ。

 倒れる怪物を眺めながらそんなことを考えながら異能者の餓鬼を探すが見つからない。

 逃げらただろうかと落胆しながら着地に備えていると、何かが怪物の残骸を切り裂きながら迫る。

 宙を落下している状態では避けられないことに舌打ちし、ルーミアを軽く地面に放って顔を守るように防御。

 そのまま衝撃で後ろへと吹き飛ばされた。

 

 

 

 防御した際に右腕を前にしたのが祟ったのか、半ばまで切り裂かれていた。

 腕に力を込めて流れている血を筋肉で止める。

 ふわふわと飛ぶことで追いついたルーミアの口に魔石を放り込む。

 回復できる仲魔ってミクしかいないわけだが、機械なので召喚できない。

 攻撃に偏っているのだから、もう一人くらい補助が行える仲魔が欲しいものだ。

 

 フィネガンと祭の二人と合流しようとすると衝撃波のようなものがいくつも襲い掛かってくる。

 ルーミアの首を掴んで走って避けるが狙われているようで執拗に攻撃される。

 攻撃から位置を特定し、敵を目指して走る。

 繰り返される攻撃に苛立ちながら接近すると、そこにいたのは以前腹パンした異能者だった。

 エネルギーをブレード状に変質させ、斬った張ったを行う超能力だった気がする。

 こいつも餓鬼と同じで新人を殺しまわっていたうえに、短気で殺意がかなり高かった。

 転移先の異能者はキチガイばかりで呆れてしまう。

 今回はたぶん、報復だろう。

 面倒なやつだ。

 

 読心で攻撃の軌道を先読みして徐々に接近し、MAGを込めたためにリボンが赤黒く変異したルーミアを投げつける。

 異能者がブレードを振るう。

 それをルーミアの鞭のように変化した闇が受け止め、赤い光を撃ちこんだ。

 異能によって作られた力場で逸らされたが、問題ない。

 隙をついて距離を一瞬で詰めて死角から腹目がけて拳を引き絞る。

 先ほどの奇襲のお礼も兼ねての全力だ。

 力場を貫き、超能力での強化を捻じ伏せ、腹を強かに殴りつけた。

 

 異能者は血反吐を吐いて跪き、呻いている。

 そのまま見逃してじわじわと弱る様を見ながらゆっくり死んで行ってほしいところだがテレポートで回収されては面倒だと距離を詰める。

 止めを刺そうと殴り掛かると、視界を埋め尽くす何かで薙ぎ払われた。

 衝撃で体が水平に飛んでいる中で何とか体勢を立て直す。

 そこにいたのは先ほど引き裂いた巨大な怪物だった。

 眉間に寄った皺を伸ばしているとテレポートによって薄れていく二人の異能者。

 また逃がしたか……。

 

 

 

 前触れも無く怪物を召喚できる異能者の餓鬼は面倒だ。

 ここで出来れば殺しておきたかったのだが仕方ない。

 テレポートでなければ追撃もできたが残念だ。

 そもそも異能者は厄介な能力が多すぎる。

 次からは異能者を確認した瞬間、消し飛ばすようにしよう。

 怪物の攻撃で目を回しているルーミアの口に魔石を放り込むとばりばり音を立てて咀嚼した。

 

 そういえば建物の外に出たのは始めてだ。

 眺めて見るが砂漠のような場所だった。

 所々に朽ちた建築物が見えるが、ほとんどは砂に埋まっている。

 転移された建物もほとんど埋まっていたらしい。

 祭が異能が目覚めてから転移される度に上に昇っている感覚があると言っていた。

 つまり地下から徐々に昇ってきていたのだろうか。

 よくわからんな。

 

 

 

 転移先から帰ってきて気付いたが銃を渡したくらいで、ほとんどフィネガンと祭と喋らなかった。

 急ぎの用事も話すことも無い、どうせそのうちまた転移されるのだからその時で良いだろう。

 異界については次に探索してみれば何かわかることもあるかもしれない。

 

 家に帰るとディアーチェがテンパった。

 腕が千切れかけていたことが原因らしい。

 宥めると落ち着いたのか人間は脆いから注意するようにと言いながらセロハンテープを渡してきた。

 くっつかねえよ。

 シュテルはディアーチェにセロハンテープでは治らないでしょうと言って液体ノリを渡してきた。

 くっつかねえから。

 さとりは無言で絆創膏を渡してきた。

 正しいけど違う。

 テキトーに固定すればくっつくと思ったとか俺をなんだと……。

 もう少し人間に詳しくなってほしいものだ。

 

 小型端末のミクダヨーに乗り移ったミクに腕の治療をしてもらう。

 このミクダヨーだがガイア教の依頼で天使を落として回ったらボーナスとしてくれた。

 ミクは気に入ったようで家中を歩き回っている。

 ミクダヨーは巫力バッテリーを内蔵しており、巫力が無いと行動できないため、玄関までが活動範囲となっている。

 外に行く直前で電池が切れて倒れるので勝手に何処かへ行く心配が無くて都合が良い。

 メシア教の依頼に連れて行ったらかなり好感度とか上がらないだろうか。

 今度試してみよう。

 

 

 

 そういえばルーミアに人間を食わせてない。

 タイヤキ与えたら満足したので問題無さそうだ。

 近いうちに依頼で襲撃をかけるのだからその時は食い放題だ。

 たぶん、昼飯を抜いて夕飯に全力を出す感じだろうし、むしろ美味しく喰えるに違いない。

 

 治療が終わったので腕の調子を確かめる。

 切り裂かれていた状態で殴ったり防御したりと酷使したが、ミクの魔法で完治したようだ。

 魔法は便利で使いたのだが、俺には使えないらしい。

 しかし、魔力はあるとか。

 魔力はあるのに魔法は使えない不思議。

 どういうことだ。

 

 

 

――

 

【ルーミア】 妖怪:不明 レベル1~

供給したMAGの分だけ強くなるが、溜めることはできない。強さはサマナー次第。リボンで封印うんぬん。

 

【EXルーミア】 妖怪:空亡 レベル40~

リボンが黒色に染まることで封印の状態が判断できる。闇と夜の顕現。相手は死ぬ。

 

オリ主のMAG供給:マグネタイト、魔力、巫力を混ぜたエネルギーを契約したパスで供給している。無意識化で混ざってしまっているため魔法は使えない。

 

赤いテレホンカード:持っていると転移される。度数が50あり、0になると解放される。多くても3しか減らない。なんてインチキ。

 

 

近況報告

・メシア教がメシア候補を勧誘する予定です。

・ガイア教がメシア教を襲撃する予定です。

・「襲撃」と「護衛」の依頼を同時に受けました。

 

――

 

 

 

 

--12

 

 

 朽ちた建物の中、鳴り響く受話器を耳にあてる。

 浮遊感とともに砂ばかりだった景色が変化し、緑が多く見えることになんとなく落ち着く。

 周りを見渡せば元の世界に帰って来たことが確認できる。

 後に続いてフィネガン、祭も転移されてくる。

 難易度が極端に下がったこと、補充される新人の数が減ったこと、かなりの数の悪魔が闊歩していること以外には特に目新しい発見はなかった。

 必要なときは連絡を取ることもできるので、このまま解散としよう。

 その旨を伝えると、生き残った新人も転移されてきた。

 それぞれの顔には程度の差はあれど疲労が見える。

 説明が面倒だったので死にたくないなら着いてくるようにと伝えただけだったが、悪魔に襲われずによく無事だったものだ。

 そんなことを思ったが最初に着いてきた人数と比べるとめっきり人数が減っていた。

 色々あったのだろう、囮とか。

 

 フィネガンと祭に労いの言葉を軽くかけてから解散しようとすると壮年の男に声をかけられた。

 俺よりもずっと年上の男で「枢木スザク」と名乗った。

 情報が欲しいらしい。

 残念ながら俺もそれほど知っているわけではないことを先に述べ、今まででわかったことを伝えた。

 少し考えたあと、礼を言うと風とともに去って行った。

 むしろ風になったのかもしれない。

 すぐに姿が見えなくなった、凄まじい身体能力の持ち主だ。

 

 

 

 

 

 ひと月前に転移されたことからそろそろ次の転移が始まるだろうかと考えていると授業の終わりを告げる鐘が鳴った。

 授業もつつがなく終わり、途中で買ったタイヤキを齧りながらまどかと帰路につく。

 まどかとは中学が同じだったがあまり親しいというわけではなかった。

 高校も一緒になったために軽く挨拶する程度だったが、帰り道も途中までは同じなので度々帰るようになった。

 タイヤキを食べるのも今では習慣と化している。

 

 ちびちびとタイヤキを食べて半分まで減ったころにまどかが今日は相談があると切り出した。

 相談とはクラスで浮いている眼鏡少女と仲良くなりたいことらしい。

 あまり他人と話している姿も見かけず、伏し目がちでおどおどとしている印象しかない。

 まどかはその娘が優しいから友達になりたいというのだ。

 色んな意味で浮いていた球磨川と仲が良かった俺の力を借りたいということだろうか。

 全力で手伝うと伝えると断られた。

 怖がられるかもしれないので仲良くなるまで刺激しないようにして欲しいとか。

 何…だと…?

 

 

 

 まどかを家まで送り、帰宅すると客が来ていた。

 映画を見ているようで玄関まで可愛らしい笑い声が聞こえてきた。

 出迎えてくれたミクを頭に乗せて居間へ向かう。

 扉を開けるとテレビには歯車で捻じ切られる人間の姿が映っており、それを見て笑顔を浮かべる銀髪の双子、お腹が空いたと呟くルーミアの姿。

 SAWを見ながらの反応ではないと思う。

 

 俺自身のサマナーとしての評判はあまり良くない。

 別に成功率が悪いわけではない、むしろ確実に成功させている。

 問題は首輪がついていないことだろうか。

 決まった雇用主もおらず、勢力も決めず、安定して仕事も受けず、ふらふらと蝙蝠よろしく様々な依頼を受けることが歓迎されていない節がある。

 サマナーとはそういうものだと思ったが、レベルが高すぎると自由でいるのは難しいらしい。

 などと思っていたら、銀髪の少年がくすくすと笑いながら「人間も悪魔も天使も殺すからでしょう」と言った。

 依頼だから当たり前だろう。

 

 畳を存分に愉しんでいるのか寝そべっていたが、その体勢のままごろごろと転がってきて、胡坐をかいている俺の足を枕にした。

 少年に「ドレスに皺が寄る」と注意するが買い換えればいいとか。

 金銭感覚がちょっとマヒしている様子だ、ディアーチェあたりに預けたら矯正してくれないだろうか。

 考えていると少女もごろごろと転がってきた。

 ルーミアも真似して転がるが、途中で何故か闇を纏ったために方向が変わり、そのまま縁側から庭へと落ちて行った。

 

 

 

 客である銀髪の双子、名前はヘンゼルとグレーテル。

 正確な年齢は知らないが会話から10~13歳あたりだろうか。

 ゴシック調の服を好んで着ており、双子の間で交換している様子が垣間見られる。

 今日も仲良く交換しているようでヘンゼルがゴスロリ風のドレスを着ているため、短髪の少女にも見える。

 代わりにグレーテルは白いシャツ、黒いタイ、半ズボンを着ているのだが、髪が長いのでボーイッシュな少女にしか見えない。

 半ズボンの方を「兄様」、スカートの方を「姉様」と互いに呼んでいる。

 顔を見ればどちらか判断できるので問題ないがディアーチェやシュテルあたりは判断がつかないらしい。

 

 この双子だがガイア教に属している。

 暇つぶしに子守りの依頼を受けたときに、メシア教と戦争ごっこがしたいとかで襲撃をかけに行ったので保護者として付いて行ったら何故か気に入られた。

 ミクダヨーもそのときのものだ。

 それから双子からの依頼を受けると、数日ほど滞在して遊んでから仕事をするという決まりになった。

 勢力自体の依頼と違って勧誘や脅し、監視がなく気楽であるし、なんだかんだ可愛いので大歓迎である。

 今回は色々とやりたいことがあるので双子も長期滞在の予定だ。

 この家もかなり賑やかになったものだ。

 

 グレーテルが依頼品の入ったアタッシュケースを机に置いた。

 今回もミクのパーツだ。

 ほとんど双子の依頼専用アイテムと化しているがそれほど出回っている物でもないので仕方のない面もある。

 俺に依頼するためにパーツを持ってる勢力を襲撃して奪っているとは双子の言。

 それだと割高なような気がするが、どうなのだろうか。

 今回はついでに「ドリーカドモン」という素材も手に入ったので追加報酬としてくれた。

 悪魔合体に興味があるとか。

 俺もだ。

 よく考えると悪魔合体もしたことないとか、にわかサマナー過ぎる。

 

 

 

 フィネガンから聞いた悪魔合体を行ってくれる施設、業魔殿を訪れた。

 豪華客船を利用したホテルのようだ。

 入るといきなり船乗りルックな紳士、ヴィクトルにヨーソローされた。

 ホテルの主でもあり、悪魔合体を行ってくれるようだ。

 とりあえず悪魔は合体することで強くなる、などと掻い摘んだ説明を受けてから練習。

 転移先で連れてきたノッカーとコロポックルを混ぜる。

 精霊ノームができあがった。

 なるほどなー。

 

 今回こそ本番とばかりにまずドリーカドモンを渡すと興奮した様子で次を急かしてきた。

 頷いて取り出したのは、祖父の煙管である。

 突然だが俺はモンスターファームが好きだ。

 ゲームが苦手なさとりもモンスターファームを好んでプレイするくらい我が家では人気だ。

 

 つまり合体するなら隠し味が必要だろうということだ。

 ディアーチェも手元の物品を吟味しているし、シュテルも心なしか瞳を輝かせているし、さとりも頷いている。

 様子を窺った限り、やはり隠し味は必要なのだろう。

 

 何か必死に叫んでいるヴィクトルは無視してノームが弾ける直前までMAGを供給し、投入。

 一向に合体を始まらないので渋っているヴィクトルを急かして合体開始。

 完成して現れたのは小さな精霊だった。

 というか閻魔から奪ったS.O.Fの同族っぽいあれである。

 俺の魂と混ざってしまっていたが、10年以上もの月日をかけて乖離し、煙管へと徐々に憑依したらしい。

 憑依の対象を煙管にしたのは磨くのが日課だったためだろうか。

 それにしても気の長い話だ。

 ヴィクトルが驚きと不満の混ざった微妙な表情になっていた。

 

 

 

 休日となり、双子が遊びにきて三日ほど経った。

 双子の面倒は俺が学校に行っている間は仲魔が見て、帰宅してからは異界やゲームで遊び通しだった。

 昨夜は依頼の前準備としてメシア教に襲撃に行くのだと誘われ、了承すると機嫌が良くなって夜遅くまで話していたので、たぶん昼過ぎまで寝ているだろう。

 襲撃する時間は日が暮れてからを予定しているのだが、それでも前日にはしゃいでしまうの遠足を楽しみにしている子供のようだった。

 天使の羽を千切って引きずり落としたり、天使の目の前でメシア教徒の手足を切断して這いずりまわせると無邪気な笑顔で言っていたのを思い出して微笑ましい気持ちになった。

 ただ、食べるなら内臓よりも脳にしなさいと言うのを忘れていた。

 内臓は中身が不味そうだからな。

 たぶん慣れているからわかっているだろうけど、事前に伝えておこう。

 

 朝のニュースを眺めながら、マタムネの煙管へと手を伸ばしてみるが叩かれてしまった。

 造魔が宿っている煙管を磨いているとつい熱中してしまい、MAGを込めすぎて造魔が巨大ロボット化してしまった。

 マタムネのように霊力とやらで構成されていたので軒先が無くなるということは避けられたが、だからといって磨くたびに巨大化させるわけにもいかない。

 俺の煙管は細心の注意を払って軽く磨くだけとなった。

 つまり、無意味に磨き続けているいつもと違ってこれからは手持無沙汰なのだ。

 仕方ないのでミク本体のパーツを磨いているが、これじゃない感じがする。

 まあ、慣れるまでの辛抱だろう。

 視界の端で照れている小型のミクを捉えるも、見なかったことにしてそう思うのだった。

 ミクさんマジポンコツ。

 

 関節などを丁寧に磨いていると赤いテレホンカードが鳴り響き、異界への転移を知らせてきた。

 双子に書置きし、一緒に行きたいやつがいるかと聞いてみる。

 転移先の異界ではCOMPに予め入れておかないと召喚できないという縛りルールがあるためだ。

 新人のサマナーを使って検証したが、システムを起動させても何も起きない場合や契約が弛んでいて襲い掛かってくる場合もあった。

 俺の場合は誰も召喚することができないので事前に連れて行っておきたいのだが、結構な割合でソロとなってしまう。

 現地調達もルーミア以降は全く上手くいかず、MAGを込めた悪魔を投げつけて破裂させる爆弾としてしか使えていない。

 とはいえ腕が千切れかけた時から、マタムネ以外は付いてくるようになったのだけれど。

 挙手している仲魔をCOMPとして使っているスマートフォンに送る。

 今回もマタムネ以外の全員が付いてくるようだ。

 最後に砂埃で壊れない様にミクダヨーを上着で包み、リュックに詰める。

 造魔を頭に捕まらせて、準備を終えたことを確認し、マタムネに双子の世話と留守を頼んでスマホに耳をあてる。

 いつもと同じように景色が霞み、そして砂に覆われた世界へと転移した。

 

 

 

 砂嵐が吹き荒れ、視界が悪い。

 公衆電話で目的地の位置にあたりを付け、すぐさま砂と風を防げる建物に逃げ込む。

 崩れかけではあるが形を保っていて都合よく中に砂も入って来ないようだ。

 転移のゴールを公衆電話でしか見えないようにするのは止めて欲しい、今みたいに外にいる余裕があまりないときがあるからだ。

 強行軍で進もうかと考えたが砂嵐の中に飛び出すのも莫迦らしい。

 天候が回復してからでも良いだろう。

 

 そんな予定を立てているときに限って敵は出てくるものだ。

 悪魔が襲撃をかけてきた。

 というか建物内部にいた悪魔がこちらに気付いただけなのだが。

 悪魔の口から漏れる謎言語を聞き流し、思考を読んで相手の動きに合わせたカウンターで迎撃。

 意識の中に現れ、刻々と変化する無意識によって出来た隙を突く、という感じだろうか。

 狙った場所に綺麗に攻撃が入るというのは面白い。

 

 襲い掛かってきた悪魔どもを粉微塵にし終えると、外から敵意を感じた。

 建物から飛び出すと、砂嵐はやんでいた。

 テレポート能力を持つ異能者が宙に浮いている姿を捕捉した。

 ディアーチェを召喚しようと召喚プログラムを起動していると全身に走る浮遊感。

 目の前が真っ白になった。

 

 

 

 雲を突き抜け地表へと自由落下。

 どうやらテレポートで建物ごと上空に飛ばされたようだ。

 こういった場合、超能力には超能力でしか対処できないのは考え物だな。

 このまま着地しても問題ないかもしれないが、足の骨が折れるかもしれない。

 それに衝撃でミクがジャンクになっても困るので飛べそうな仲魔を考える。

 そもそも俺とミク以外は全員飛べたはずだ。

 

 状況がすぐさま伝わるさとりを召喚する。

 MAGを込めると思考を読んでくれたようで、すぐに俺の背を掴んで飛行を始めた。

 上空から改めて眺めると砂ばかりだが、遠くに街らしきものを発見できた。

 見た限りでは砂も少ないようだ。

 さとりに徐々に降下しつつ街へと向かうように頼む。

 色褪せた街には見覚えのある建物が幾つも点在していた。

 

 

 

 降り立った後、気になった見覚えのある建物を目指して散策を行う。

 古ぼけて崩れている建物を眺めながら砂埃で汚れた道を歩く。

 学校、スーパー、たい焼き屋、公園、墓地……。

 自分の狭い行動範囲に呆れながら、どれもが我が家も周辺にあるものと一致している。

 所々壊れて砂が中に入り込んでいる様子は人が使わなくなって久しいのだろう、寂しいモノがあった。

 

 近づいている。

 数時間前まで居た我が家に、確実に。

 道が砂で覆われて歩くのに難がある以外は変わらない有様だ。

 角を曲がり、ゆっくりと進む。

 そして、朽ちた我が家の前に立った。

 短くない時を経たような不思議な状態だった。

 違いを確認するように、ゆっくりと見る影もない玄関から中へと足を踏み入れる。

 

 抜けた床を避けて廊下を歩く。

 天上には穴が、壁は壊れて穴が空いている。

 雨風が防げるかどうかも怪しい状態だ。

 張られている結界も弱々しく、霊地としてもほとんど機能していないように感じた。

 

 見知っている我が家のようで、全く異なる別物のようだ。

 間取り以外、同じ物を見つけることが難しいほどに。

 居間に繋がる扉を開く。

 そこには、『さとり』と『ミク』がいた。

 

 

 

 二人の話を聞いたうえでいろいろと情報媒体を確認した結果、転移されて度々訪れることとなっていた異界だが、どうやら未来であるらしい。

 いや、完全な未来世界というわけではない。

 異なる点があることから全く同じとは言い切れない。

 それでも共通点も多々あるので、限りなく近い未来とでも表現すればよいだろうか。

 

 異なる点は数多いが、俺とこちらの「俺」では仲魔にした順番が異なっているようだ。

 始まりはルーミア、終わりが『さとり』だったらしく、もっと早く仲魔になりたかったと『さとり』は笑いながら呟いた。

 どうやらかなり感情表現が豊かであるらしく、話すごとにころころと表情が変わる。

 こちらの『俺』は読心ができなかったので以心伝心とはいかず、いろいろと会話していたらこうなったようだ。

 無表情のさとりを見つめながらあまり読心しないほうがいいのだろうかと思ったが、これも個性なのだろうと納得しておいた。

 

 久しぶりに他人と話が出来たとご満悦の『さとり』がお茶を用意している間に、俯いている『ミク』にMAGを込める。

 霊地としての機能を失っていたために充電ができなかったのだろう。

 少し待つと瞳に光が戻り、起動した。

 俯いていた顔を上げると、『ミク』はノイズの混じった声で、恥ずかしいと呟いた。

 壊れかけの姿がひたすらに無様だとも。

 何も答えず、ただ静かにゆっくりと撫でていく。

 パーツはところどころ傷つき、頬は罅割れている様子が窺える。

 片目など内部のカメラ・アイが剥き出しになっていた。

 手入れはしているのだろうが関節を動かすたびに異音が響く。

 よく見れば全身が傷だらけだ。

 動作も鈍く、部品を変えなければ治らない状態としか思えない。

 それらをゆっくりと。

 

 撫でていると『ミク』が訥々と話しだした。

 最初は早いうちに別のメタトロンを吸収しておくべきだったと後悔していると何度か謝罪とともに言っていた。

 その後は思いついた言いたいことを喋っているのか、あちこち飛んでしまっていたがそれでも相槌を打ちながら聞いていた。

 一生懸命いろいろと話そうとする姿は、子供が親に伝えようとする様で少し双子に似ていた。

 頑張ったのだと言いながら涙を流す『ミク』を褒める様に優しく頭を撫でつづけた。

 

 『さとり』が淹れてくれたお茶を飲み終える頃には話が終わり、『ミク』は眠るように目を閉じ静かに歌い始めた。

 『ミク』の隣で小さなミクも歌い始めたのを眺めながら、『マタムネ』の遺品である煙管をくるくると回しながらPDAを弄る。

 この家に残った物を『さとり』が持ってきてくれたのだ。

 この世界の『俺』は死んだ際に封印処置とともに直接地獄に送られて幽閉されたらしく、他の仲魔もほとんど全滅したらしい。

 『さとり』と『ミク』だけが生き残ったと言っていた。

 他にはもう誰もいないとも。

 

 

 

 PDAを読み込んでわかったのは『俺』が本体の召喚を行おうとしたことだ。

 未然に防がれたうえにエネルギー不足で失敗したようだ。

 アナライズ情報と戦闘ログを読み取ると、重要な施設の襲撃時に人間の仲間に裏切られたことが読み取れた。

 計画自体も半ばで失敗し、全滅直前の憂き目に合っていた。

 PDAには計画のために多くの情報が記されており、『俺』が死ぬまで修正が加えられていたのだろう。

 

 『俺』が何故本体の召喚を行おうとしたのかは不明だが、ここで知ることができて良かった。

 どう動くにしても、下準備は必要だということも。

 あとは造魔がスピリット・オブ・アース(S.O.E)という大地の権化みたいなモノということか。

 『さとり』が次々奥の部屋から持ってきて積み上げていく荷物を見ない様にしてそう思った。

 

 目を逸らした現実だが、すぐに解決することが出来た。

 『俺』が使っていたPDAは詰みあがった荷物すら収納することができたのだ。

 死ぬ直前まで改造しつづけたPDAの性能は異常といえるほどだった。

 サマナー用に特化したため余計な機能は排されていたが容量は段違いだ。

 かがくのちからってすげー!

 

 

 

 『ミク』とミクの歌が終わると『さとり』が立ち上がった。

 もう十分らしい。

 最後にMAGの塊を渡された。

 『さとり』の核の一部であるらしく、さとりに与えて欲しいと。

 ここで消滅するまでゆっくりと『俺』を待っていようとも思っていたが、転生して蘇る可能性は限りなく低い。

 それならば待ってMAGを浪費するよりも、したかったことを今するのだと『さとり』は言った。

 俺と会ったことで踏ん切りがついたとも。

 

 一緒に行かないかと誘ったが断られてしまった。

 俺は『俺』とは違うらしい。

 彼女のサマナーは『俺』だけなのだと。

 納得はできないが、言い募ることもしない。

 ただ、礼とばかりにMAGだけは供給する。

 俺にとってさとりは仲魔なのだから、サマナーとして『さとり』に足りない分を与えることは当然だ。

 

 『ミク』にも同様に断られてしまった。

 やることがあるらしい。

 小さなミクの頭を撫で、お古で悪いのだけれどと前置きし『ミク』は右腕を外して渡した。

 代わりに、古ぼけた小さな『ミク』がよたよたとしながら運んできた腕を取りつけた。

 エメトブラストという秘蔵っ子らしい。

 嬉しそうに軽く撫でると半透明の手が現れた、MAGで構成されているのだろうか。

 何度か握ることで動きを確かめていた。

 動きに納得したのか頷いてから「最適解」、「堕天使への突撃制限プロトコル」、そして『ミク』の設計図がPDAにあるので使ってほしいと言って『さとり』とともに出て行った。

 後を追って俺が出てきたのを確認すると、『ミク』が家を吹っ飛ばした。

 重要な物は残していないが知らない何らかに留まられるのは不快だった、という理由らしい。

 そして、家族の誰も戻ってくることは無いだろうからと。

 

 

 

 ガイア教とメシア教にそれぞれ向かうという二人を見送った。

 二人ともこちらが見えなくなるまで手を振っていた。

 その姿を見ていると胸に何かが詰まったように感じた。

 二人が見えなくなったので当初の目的地へと向かう。

 俺の家の位置は転移先からかなり外れていたので、戻るために砂の上を走ると思うと少しばかり辟易してしまう。

 

 傾いて茜色に染まった砂の大地を駆け抜ける。

 『俺』についてぐるぐると思考が奔る。

 異なるとはいえ、失敗した結果がこの世界だ。

 目的を達成しようと仲間に裏切られて、仲魔は散り散りになり、自分は死んで直接地獄へと引き渡された。

 それほどまでに『俺』は本体の召喚を行いたかったのだろうか。

 

 二人の姿が瞼の裏に甦る。

 楽しそうではあったが、どこか寂しそうでもあった。

 俺は俺であって『俺』ではないということか。

 あの姿を思い出すと、それほどまでに価値があるのだろうか。

 全てを失う可能性がある賭けをする価値が……。

 

 

 

 自分がああなってしまったらと思うと背筋が震えた。

 ミクを抱いていた腕に力が篭り、非難されて謝る。

 腕を緩め、さらに脚を速める。

 自分の命を失い、地獄に縛られることは何とも思わない。

 ただ、二人の姿を思い出すと堪らない恐怖を憶えた。

 何もないと思っていた俺にも怖いモノがあるのだと気付かされた。

 失いたくないモノがあるのだと思わされた。

 だからこそ、わからないのだ。

 この世界の『俺』が本体の召喚に手を出したことが。

 

 

 

――

 

【オリ主(未来)】 種族:人間

LAWを中心に依頼を受けていたが大破壊の際には囮として使われた。大破壊後は東京を駆け回って小さな勢力を作った。本体の召喚を目指したが失敗し、後に死亡して地獄に幽閉された。幼馴染だっためだかちゃんが人類愛に目覚めて裏切られたのが死因。肉体は魂の付属品という考えから魔法特化型だったがS.O.E(スピリット・オブ・アース)をペルソナとしていたため、打たれ弱いというわけでもなかった。赤いテレホンカードは持っていなかった。死後は勢力が崩壊し、大小の勢力となった。

 

【さとり(未来)】

幻想郷のさとりを取り込んだ状態。表情豊かに成長(?)した姿。オリ主(未来)を助けに地獄に向かうも失敗し、仲魔を失った。転生する可能性に賭けて待とうとしていたがオリ主(過去)と出会ったこと、マグネタイトの残りが少なかったなどの理由で諦めた。最期はガイア教へ向かった。

 

【ミク(未来)】

ミクダヨーの入手がかなり遅かったので堕天使への突撃を繰り返した。核が傷ついており、中身のレベルは低い。さとりと違い、地獄へは向えなかった。過去のミクに渡した右腕はメギドファイアである。最期はメシア教へ向かった。

 

未来報告

・『さとり』がお空(八咫烏)と交戦し、消滅しました。

・ガイア教の勢力が弱まりました。

・『ミク』がメタトロン(最高位分霊)と交戦し、全壊しました。

・メシア教の勢力が弱まりました。

・オリ主の勢力が消滅しました。

 

――

 

 

 

 

--13

 

 夜となり、星々が瞬く。

 月を背に、双子が透き通るような歌声とともに斧と銃を取り出した。

 足場の悪い屋根の上で苦も無く上機嫌に軽く振りながら期待に満ちた瞳をこちらに向ける。

 残念ながらまだ期待に応えることはできない。

 待っている様にとの意味で双子の頭を乱暴に撫で、PDAから取り出したタイヤキを渡し、自分も齧る。

 噛むごとに小豆の甘い香りと小麦粉の焦げた香ばしい匂いが口に広がる。

 今日は餡子の気分だったのだ。

 

 森の中に孤立するように存在するメシア教の教会を遠くに眺めながら、突入のタイミングを待つ。

 目標は先に見えるやや大きめの白い教会だ。

 口の中からタイヤキが消えるのと、巨大な破砕音が響くのはほとんど同時だった。

 ガイア教の制圧部隊あたりが襲撃を開始したのだろう。

 それを合図として、散々待たされ焦れされていた双子が食べかけのタイヤキを放り、飛ぶように駆けていく。

 宙に投げ出されたタイヤキを掴み、口に放り込むと元より小さかった双子の背が更に小さくなっていく。

 小さな背を追いかけ、追いつくと同時に猫のように双子の首根っこを掴み、脚に力を入れて移動速度を上げる。

 建物の壁や天井を踏み抜くごとに、木々をへし折るごとに、加速していく。

 タイヤキを嚥下しながら適当なところで双子を放り出し、銃撃戦が繰り広げられている表を通り過ぎ、側面の壁をくり抜いて侵入した。

 

 

 

 双子から受けた依頼はメシア候補がいる教会を襲う際に上位天使の相手をするというもので、その依頼からそう遠くない日には聖女候補とやらの護衛依頼も受けている。

 メシア候補を相手にする場合、他にも色々とあるらしいが俺は防衛に現れる上位天使さえ足止めできればそれでいいという話だ。

 今夜はその前準備としてガイア教が、聖人が配置されているとされる教会を襲うのだとか。

 俺の仕事は双子を超える天使が現れた際の保険、そして逃亡の支援である。

 抗争には興味ないのだがメタトロンを主とした他の上位天使の情報を流してくれるというのでつい引き受けてしまった。

 あとミクダヨーセット。

 むしろミクダヨーセットのほうがメインかもしれない。

 思い返すとちょっと浅慮だったかと自分に呆れながら、どこで見られているかもわからないので手札はなるべく晒したくないとの思いながらさとりを召喚。

 抗争中のメシア教徒や天使の意識がガイア教の襲撃について大半を占めていることを読み取る。

 

 気付くということは知覚するということだ。

 知覚するということは意識するということだ。

 意識するということは思考するということだ。

 思考の穴を付けば目の前にいるのに気づくことが出来ない状況を作り出すことが可能となる。

 簡単に述べてしまえば相手の思考から意識の方向を読み解き、無意識に隠れて動くということだ。

 さとりとともに人の間を縫う様に進みつつ、天使や悪魔が死ぬことによって放出されるMAGを回収し、さとりへと供給する。

 『さとり』から貰った核の一部を与えたことでさとりも強化されたのだが、俺自身のMAGは無限ではないし、霊地では維持するくらいしかできないのでこういった時には楽して稼がせてもらうことにしているのだ。

 

 そして当然のことながら死んでしまった人間もいる。

 神の教えに従うメシア教もその神に抗うガイア教も命は等しいようだ。

 そういった連中から出てくる霊魂をさらに召喚したS.O.Eに与えていくとご機嫌な感情が伝わり、片っ端から喰らっていく。

 すると、死後は信徒から魂を得る契約をしていた天使が湧いて来るので増援を察知したガイア教が交戦する。

 大きな公園の池にパンくず撒いたら無数の鯉が寄ってくる光景に似ているかもしれない。

 餌はガイア教で鯉は天使である。

 次々と天使の手によってガイア教の下級戦闘員らしき連中や召喚された悪魔が葬られていく。

 確か聖人がいるのはわかっているが、どこのメシア支部にいるかがわからないから複数の支部にも襲撃をかけていたはずだ。

 別の場所で襲撃をかけて制圧した際に逃げた天使や信徒がこちらに湧いているのだろう。

 確かガイア教の中でも幹部級が出張っていたはずだ、常駐している天使や騎士と比べて強すぎたため、かなり早く制圧できたと思われる。

 それが原因のはずだ。

 

 

 

 羽虫のごとく天使が集まっている。

 幹部が強すぎてそちらを対処するよりもこちらを取り戻すことにしたのかもしれない。

 メシア教は天使が居すぎると思うのだが。

 たぶん、他の襲撃先も悲惨なことになっているに違いない。

 流石はガイア教だ、統率が最低限で作戦がお粗末すぎる。

 

 天使が優勢すぎるので削ってしまおうかと考えていると、遅れて扉を壊しながら双子が侵入し、子供らしい無邪気な嗤い声とともに天使を屠り、人間を撃つ。

 次々と死に逝く人間と天使。

 パワーバランスがガイア教に傾いたことに安心して、誰も彼もこちらに気付きもしていないという高みの見物に戻る。

 この場にいる天使程度なら幾ら来ようとも問題ないが、ガイア教に所属したと思われてメシア教に目を付けられると困るので双子が対処できない事態が起こるまで手は出さない。

 そもそもメシア教の依頼も受けているのだから襲撃に参加していると知られては面倒な事態が起こるだろう。

 もし俺が手を出すのなら目撃者を消すために殲滅戦になってしまう。

 だるいので遠慮しておきたい。

 

 

 

 負けて霧散していく天使や悪魔からMAGを回収し、ついでにCOMPを貰いつつミンチになった人間を積み上げていると何処かから「見られている」ことに気付いた。

 向けられているのは普通の視線だが、それだけでなく肉体を、精神を、魂を、中身をじっくりと見られているような……。

 俺の様子に気づいたさとりが周囲を見渡すと、最初のほうに作り上げた屍の山に近づいて行く。

 眠そうにしていた半目を開き、瞳の紅が輝く。

 煌くように美しく、そして毒々しい光の魔弾を生成し、笑いを浮かべながら「生に執着している死体がありますね」と死骸を消し飛ばす。

 死者の山の下に隠れていた生者の青年が丸くなって震えていた。

 確保対象である聖人の写真を見せられたのを思い出した。

 かなり似ている。

 手を伸ばすと青年は悲鳴を挙げて立ち上がった。

 

 青年が震える手足を押さえつけ、声を裏返しながら聖なる言葉を紡ぐ。

 あまりに必死な表情で魔法の準備をしているので待ってみる。

 震えているが魔法には自信があるのか、青年は内心で成功するのを神に祈っている。

 聖人の魔法かと思うとかなり興味がある。

 

 発動を待っていると言葉を終えたのか光が奔る。

 死者を還し、魔を滅し、悪を討ち、異教徒を殺す聖なる光が満ち溢れる。

 意思あるように光が包み込む。

 俺は光に飲み込まれた。

 

 青年が笑い声をあげ、手足の震えなどは何処かへ消え去ったかのように跪いて神に祈りを奉げる。

 思考は神への感謝で埋め尽くされている。

 呆れしまう。

 これが聖人の姿かと思うと言葉もない。

 己の敵ならば主が滅ぼしてくれると、本当に思っているのだろうか。

 まさか。

 光の中から無傷の手を伸ばし、青年の無防備な首を掴んだ。

 

 聖人を確保したことを近くで戦闘していたガイア教徒に知らせると手早く撤退を始める。

 今回はあまり働いていなかったので、余っているMAGを供給する。

 すべての天使に向けて、さとりが魔法を行使する。

 闇夜を照らす無数の弾幕が弾け、教会を内部から破壊した。

 そのまま用意されていた車に乗り込み、双子を連れて逃亡した。

 

 

 

 一緒に乗り込んだガイア教徒が青年が逃げられない様に、そして聖人という存在を考えて四肢の関節を逆側に向くよう砕いていた。

 顔は涙と鼻水で汚れ、目の焦点が合っていない。

 口には布が詰め込まれているので声はないが度々嘔吐しているのか喉が上下している。

 これから起きることも神の導きかもしれない。

 たぶん、神が与えたもうた試練とかいうやつだろう。

 ヘンゼルが上機嫌に百均で購入したカッターナイフを青年の米神に走らせた。

 これから顔を剥ぐのだという。

 カッターナイフは血と脂肪、余分な皮で徐々に切れ味が悪くなるに違いない。

 

 長引く痛みを考えるとなかなかの試練だ。

 死を乗り越えると奇跡的な力が手に入るという。

 しかし、今回のこれは死と比べるとあまりに矮小だ。

 ならばこの試練でいったいどのような奇跡が得られるのだろうか。

 青年は試練に挑戦できる感動のあまり涙を流し、気を失ってしまったようだ。

 どうせ痛みで起きるから後でも楽しめるだろう、問題ない。

 ガイア教の拠点へと向かうらしいので途中で下してもらって帰宅した。

 

 

 

 

 

 夜の帳を切り裂く一筋の光が奔る。

 それは流れ星のようだった。

 ただ落下して破壊を撒き散らせる、それだけの目的を持った光だった。

 天上から一直線に光が降り注ぎ、強固な結界を水に濡れた紙の如く破り、夜警の天使を気付かせること無く砕き、そして教会の天蓋に穴を開け、床に蜘蛛の巣状の罅を入れながら深くまでめり込んだ。

 衝撃の余波で窓ガラスは全て割れ、燭台の火がすべて消え、天使たちの描かれたステンドグラスの破片を撒き散らした。

 夜闇に舞い散る破片は月明かりできらきらと輝き、それに乗じて教会へと侵入した。

 身を紛れさせた雨のように降り注ぐステンドグラスの中から大き目の破片を持てるだけ手に取った。

 

 着地地点に居た天使を足場代わりにMAGのミンチにし、衝撃波で足元が覚束ない人間や天使の眼前に降り立ち、次いで震脚で教会を揺らす。

 震脚による振動で、羽ばたきながら宙に浮いている天使を除く全員が体勢を崩した。

 時間差で天使の描かれていたステンドグラスの破片が満足に立つことのできない信徒を襲い、浅くない傷を全身に刻まれる。

 体を張って足場となり俺を助けてくれる天使に感動しました、今日からメシア教になります!と感動のあまり快活に宣言。

 能面のようだった天使たちが怒りの表情を貼り付け、得物を手にとり、襲い掛かってきた。

 暴力的な天使にショックを受けました、メシア教やめます!

 手に持っていた破片を天使目がけて投擲していく。

 空気を切り裂く音ととともに高速で回転する破片は最初に触れた天使を真っ二つにするだけでは飽き足らず、そのまま後ろの天使や人間を容易く引き千切り、壁に刺さった。

 

 破片を投げ終えると入口が爆破され、ガイア教徒と悪魔が流れるように入り込んできた。

 天使と悪魔、人間が入り乱れて殺しあう。

 微々たるものであっても互いに削り合ってくれると思うと喜ばしい。

 PDAの情報によればメシア教とガイア教は勢力が巨大で厄介だったようで、機会があれば上位も削っておきたいところだ。

 まあ、大きく削るのはどちらにも所属しない場合の話だが。

 双子の上機嫌な笑い声も聞こえてきた。

 

 

 

 獣のような外観の悪魔が、量産型の天使が、次々と崩れ落ちMAGの残骸に姿を変えていく。

 上空からの落下による初撃で結界ごと教会を砕いたS.O.Eが埋まっていた地中から出てきてふわふわと近寄ってきた。

 褒める様に頭を撫でるとこの場で死んだ人間から出てくる魂を食べる様に指示すると機嫌よく噛り付いた。

 

 さとりを召喚する。

 意識を読み、無意識を縫う様にしてメシア教徒や天使を通り抜け様に貫き手で仕留めるか口へ弾幕を撃ちこんで直接腹を焼く。

 この際、背骨や臓腑を抜き取るのに、腹に穴を開けたときに、どれだけ血を派手に噴出させられるかが重要だ。

 ここでの狙いは気付かれずに抜くことではなく、双子が食べやすいように血抜きすることと苦しめることでMAGを多く絞ることだ。

 人間は脆いクセに死に際で踏みとどまる能力だけは長けているので、新鮮なまま食べやすくすることが可能なうえに長くMAGを提供してくれる。

 

 双子の遊びに集中した裏に生じた無意識を渡り歩き、悠々と削って行く。

 人間ならば骨や内臓を生きたまま、天使なら核をそのまま抜き取る。

 核が奪われたことで混乱し、溶けてスライム化していく天使を見ながらMAGを取る込んでいくさとりの姿はまるで踊り食いのようだった。

 

 

 

 今回も大した天使がいないようなので高みの見物かと思っていたが、どうやらそう上手くはいかないらしい。

 S.O.Eが開けた穴から一体の機械人形が純白の羽を羽ばたかせ、音も無く祭壇へと舞い降りた。

 その機械人形が現れたことで周囲の喧騒すらも無かったかのような厳かな雰囲気が流れる。

 メシア教徒や下級・中級の天使が機械人形へと集まると呪文を紡ぎ出し、幾何学模様の描かれた魔法陣が教会全体を包み込んだ。

 何らかの儀式だろうか、空気に満ちていたMAGや魂が一体の機械人形に集まる。

 このままでは面倒なことになるはずだと阻止しようと突撃するが有象無象による妨害によりあと一歩のところで届かなかった。

 教会中のMAGで構成された羽根が機械人形を繭の様に包みこんだ。

 

 拳で繭を強かに打ち付けたが、表面を削り、羽根を散らせるだけだった。

 俺の妨害では儀式は滞らず、粛々と進んでいく。

 儀式を進める信徒や天使を殺すが、順調にMAGの流入が進むだけだった。

 幾何学模様の刻まれた魔法陣が一際輝くと、一羽の白鳥が現れた。

 それはクジャクのような見事な紋様の刻まれた羽根で羽ばたいていた。

 白鳥が繭の周りをくるくると回ると、花が咲くようにMAGによって構成された羽根が開き、機械人形が現れる。

 最初に現れたときよりも力強く、また神々しい。

 ミクよりも小さな器、金色の髪の毛は輝き、頭部を彩るリボンは眩いばかりの純白だ。

 機械人形を包み込んでいた羽根を広げ、雄々しく羽ばたかせ、宙に浮いた。

 この場にいるどの天使よりも多い、無数の羽根。

 PDAがメタトロンとミカエル、その2体のアナライズに成功したことを知らせた。

 

 

 

 眼前に機械人形に憑りついたメタトロンのレベルは60から徐々に上昇しており、ミカエルは55であった。

 ミクの話では、メタトロンはミクを除くと一体の高位分霊と三体の分霊を送り込んでいて、白鳥の姿をしているミカエルが現れたのは四大天使が補佐として送られているからに他ならない。

 今ここに投入されている分霊はそのうちの一体なのだろう。

 さとりが弾幕を放つがミカエルが作り出す防壁に阻まれてメタトロンへと攻撃が届かない。

 俺自身は空中への攻撃が乏しいのでMAGの供給程度しかやることがない。

 しかし、弾幕が阻まれたことによって生じた魔力がメタトロンに吸われているので、現状ではMAGの供給による強化もあまり適していない様に思える。

 魂を喰らっていたS.O.Eを呼び出し、特性である引力操作による落下を狙うが効き目が薄い。

 不思議な力場で飛んでいる天使は引き摺り落とせないようだ。

 S.O.Eに床石からを砕いて瓦礫を作り出し、弾として加工するように指示を出して、手元の石を投擲。

 ミカエルの防壁に衝突して粉となるがダメージは皆無のようだ。

 

 S.O.Eが瓦礫を圧縮してビー玉ほどの大きさに加工した弾丸を全力で投げつける。

 防壁との衝突時に幾ばくか拮抗したが、エネルギーを失った弾は落下した。

 弾が砕けなかったことに機嫌を良くしながらさらに投擲。

 一つだけでは勿論足りないので次々と投げつける。

 弾速を調整して複数の弾を同時に衝突させる。

 一点を狙い続けることで障壁を砕くことに成功した。

 砕けた障壁から零れる魔力がメタトロンへと流れるのを阻止しようと投擲。

 すぐさまミカエルが障壁を張り直したため、メタトロンへの攻撃は無効となった。

 障壁の破壊による損害もミカエルにとっては微々たるもののようだ。

 予想以上に固いうえに時間をかけるほどに宙に漂うメタトロンが強化されていく。

 漂うMAGと信徒の魂を吸収し続ける特性が厄介だ。

 今は防戦一方だが準備が整い次第攻撃に転じるかもしれない。

 

 

 

 吸収を終わらせるために教会内を一掃したいが、ガイア教徒が邪魔だと考えていると死骸で血塗られた道を作り出し、双子が興奮気味に俺の隣へと駆けてきた。

 メシア候補は確認できず、罠の可能性があると撤退を開始しているという話を伝えに来てくれた。

 なるほど、罠か。

 戦闘しているメシア教徒どもは勿論、儀式している連中も読心したが天使様が云々とばかりでさっぱりだった。

 恐ろしいやつらだ。

 教会内だと不利なので一度撤退に乗じて場を仕切り直すとしよう。

 さとりを送還し、ディアーチェを呼び出す。

 ディアーチェに大まかな指示を出し、かつてないほどにMAGを振るまう。

 紫色の魔導書が輝き、高笑いとともに上空へと飛んで行ったのを確認してから双子を抱え、S.O.Eを引き連れて離脱した。

 

 脇目も振らずに全力で走り、十分に距離をとってから双子を手放す。

 見上げれば遥か上空に浮かぶ月を覆い隠すような五つの魔法陣を背にしたディアーチェの姿。

 そして魔法陣から暗黒が降り注ぎ、教会ごと周囲一帯を爆破した。

 こちらにまで響く衝撃に体の軽い双子は転がっていたが、問題ないだろうと再び教会へと駆け抜ける。

 途中でS.O.Eを上空に打ち上げるのも忘れない。

 

 教会の跡地へと戻ると、見渡す限りの焦土と化していた。

 ディアーチェはすでにメタトロンとミカエルの二体と対峙していた。

 存在しているMAGや生み出す可能性のある人間・悪魔を一掃するついでに魔法陣の破壊も狙ったが上手くいかなかったようだ。

 周囲一帯が黒い煙が幾らか立ち上る瓦礫へと変貌したというのに、未だに魔法陣は教会の跡地に刻まれている。

 しかし、失敗ばかりではない。

 先ほどの一撃でミカエルは傷つき、メタトロンが入っている機械人形は人間のようであった皮が裂け、中身の機械が露出している。

 魔法陣にも許容できる魔力に限界があったようだが、相性は良くないだろうと判断してディアーチェを送還。

 再び流れ星となったS.O.Eが夜の帳を切り裂き、地上へと落下した。

 

 メタトロンへのS.O.Eの突撃はミカエルによって阻まれたが、防ぎきることはできなかったようで障壁ごとミカエルは打ち砕かれていた。

 しかし、S.O.Eも反動で霊力とMAGによって構成されている身体の半分を失っていた。

 MAGを供給し直し、失った部位を再生させる。

 その間に白鳥は青白い粒子へと姿を変えるとメタトロンの周囲に纏わりつく赤く燃え盛る炎となった。

 MAGの吸収にも満足したのか、更に巨大化した羽根を広げ、柱のように天へと伸びる柱を携え、機械人形は音も無く地に足を付けた。

 なるほど、これがボス戦の第二形態というやつか。

 

 

 

 鞭のようにしなる炎を避け、降りかかる人間大の火球を拳圧で消し飛ばす。

 目の前で飛び散った火の粉に顔の半分を焼かれ、髪が焦げた匂いが漂う。

 顔が消し炭にならなかったことから火力は思ったよりも低いのだろうかと思いつつPDAを操作してシュテルを召喚する。

 真っ向から炎を蹴散らし突き進むシュテルにMAGを供給し、一跳びで距離を取る。

 シュテルの魔杖から放たれた砲撃がメタトロンを襲うが意に介した様子もなく、広げていた羽根を羽ばたかせる。

 眩いばかりの光がシュテルを飲み込んだ。

 PDAに表示されている簡易ステータスでシュテルの状態を確認するが、全ての能力が減少していて、HPが急速に減り続けている。

 そんな状態だというのにシュテルは光に捉われたまま動く気配が一切ない。

 吸収系の攻撃かと思い至り、炎を掻い潜って助けに向かう。

 光の内部に入り込むと身を焼くような衝撃が絶えず訪れていた。

 跪いて身動きの取れなくなった乱暴に掴んでシュテルを引き摺りだし、メタトロンから離れる。

 どうやらメタトロンは魔法陣から出てくる気はないらしい。

 

 抱えているシュテルの口に魔石を3個ほど放り込み、迫りくる炎を避けながら話を聞く。

 メタトロンは小規模に絞った破壊の光であるメギドを放出し続けていたらしい。

 その内魔力が尽きるのではないかと問うと、どうやら魔法陣によって周囲のMAGを引き込む小規模の異界化が起こっているらしく、当分の間は問題ないようだ。

 勿論、長期戦ともなればガス欠するだろうがその頃には援軍も現れる。

 援軍が負けたとしても陣による吸収で長期戦も耐えられるという盤石の体勢だ。

 真っ向からの戦闘では勝てる見込みが限りなく薄い。

 放っておきたいが、こちらの顔と仲魔を見られているので葬っておきたい。

 まあ、本音としてはミクに新鮮なメタトロンの核を与えたいというだけなのだけれど。

 

 闘志に燃えるシュテルは撃ち合う気らしく、珍しく補助魔法を唱え始めた。

 召喚の抗体ポイントとは別に強化の意味合いでMAGを供給するのだが、補助魔法を完全に詰んだ状態に匹敵するらしい。

 そのため、普段は誰も補助魔法を使おうとしない。

 使う必要がない。

 

 今回は倒すために必要だと判断したようだ。

 他に召喚が必要かと問うが、出来れば全てを賭けて欲しいとの願いにすぐさま頷いた。

 仲魔を信じるって重要なことだからな。

 別にシュテルの上目遣いに負けたわけではない。

 

 

 

 最悪の場合はメタトロンを放置して逃亡することも想定しながらMAGを供給しながらシュテルの準備が整うまで抱えて逃げ回る。

 PDAに表示されているステータスはほとんど回復したと言っても良いくらいだ。

 生き残りが居るとは思えないが、メシア教が追撃していたら面倒なのでS.O.Eを双子の元に送っておいた。

 吹き飛ばしたMAGや魂を喰いながら行くだろうし、必要になればパスを通じて勝手に持って行くだろうと供給は切っておく。

 ディアーチェの一撃で障害物が無くなったため何処にも隠れることができない。

 俺が指示したことではあるが少しやりすぎたようだ。

 

 シュテルが再びラスタキャンディを唱えた。

 動きがさらに高速化され、動体視力も上がったのか、炎の鞭もドット避け状態だ。

 補助魔法自体ほとんど使わないので重ね掛けは初めてだが本当に凄いものだ。

 補助魔法で体が軽い……。

 こんな気持ち初めて……。

 もう何も恐くない!

 降りかかる火の粉を払うために軽く拳を出すと炎の鞭が消し飛んだ。

 これ、直接メタトロンを殴ったら倒せるかもしれん。

 ……まあ、折角やる気になっているのだから詰み終えてコンセントレイトを行っているシュテルに任せよう。

 

 

 

 シュテルが再びの砲撃。

 夜闇を魔杖から放たれる紅蓮の熱線が一直線に突き進み、メタトロンは輝く羽根を己を守る盾のように幾つも重ねる。

 熱線は羽根に完全に遮られた。

 しかし、防がれようともシュテルは熱線を止める気はないらしい。

 永遠に続くかと思われた拮抗が、唐突に破られた。

 熱した鉄板に蝋燭を押し付けたかの如く、熱線を遮っていた羽根の表面が真っ赤に染まり、そして溶けた。

 始まりまでが長く、だが始まってしまえば一瞬だった。

 先ほどまでの拮抗が嘘のように羽根は融け、食い止めるために展開した羽根も容易に融かされていく。

 熱線が止まらないことを察したのか、器である機械人形の通り人形然としていたメタトロンの顔には驚愕が貼り付いていた。

 赤熱した魔杖に発せられるほのかに赤い光に顔を照らされながら、シュテルは笑っていた。

 

 追加でさらにMAGの供給量を増やす。

 それに気を良くしたシュテルが熱線に力を注ぐ。

 熱線の色が少しずつ変わる様が面白くて、さらに供給。

 血の様に紅の蓮の葉のようだった紅蓮が紅に、紫の絵具をを一滴垂らしたような紅が黄に、色鮮やかな太陽のように輝く黄が白へ……。

 燃え盛る炎が塗り潰す紅蓮が、全てを飲み込まんとする白へと変わったのだ。

 宵の深まった夜闇も、一面に広がる焦土も、神々しい羽根も、大天使の器であった機械人形も、そして俺をも、白く輝く熱線から放たれる光は強欲にも全てを包む。

 熱線によって放たれる白い光に照らされ、メタトロンの表情は酷く歪んでいた。

 白へと変化しきった熱線は一切の音も無く、拮抗など初めから無かったかのように見る見るうちに羽根は溶けていった。

 全てを溶かし、貫くかと思われたが、シュテルが軽く魔杖を振ることで熱線の軌道を変えた。

 そして、針の太さほどに集束した熱線で人形の四肢を切断して見せた。

 シュテルの好意を無駄にしないため、隙を突いて魔法陣の外へと蹴り出した。

 魔法陣は僅かに明滅すると、霞のように消え去った。

 

 いやあ、メタトロンは強敵でしたねとミクの図面を脳内に描きながら強制停止。

 仕様が同じようなもので安心した。

 シュテルに労いの言葉をかけながらPDAから水を取り出し、火傷を負っている腕にかけていく。

 上手く回避できていたが、熱の影響で無傷とはいかなかった。

 顔も半分ほど焼かれたのでケロイド状になっているのか引き攣っている。

 

 ミクを召喚し、メタトロンを取り込むように伝える。

 今は停止しているが第三形態として起き上がられたら倒せる自信がない。

 だが、あろうことかミクは拒否した。

 取り込むことで統括に時間がかかるため、俺が回復魔法で完治するまでは絶対に嫌だとか。

 むしろ取り込んでから回復魔法をかけたほうが強力になるのでは、との言葉は無かったことにされた。

 結局、時間をかけるのもよろしくないので俺が折れる形となって回復魔法の温かさを感じている。

 火傷も跡形なく治る様子は魔法という存在がひどく非常識であると実感できた。

 

 メタトロンが入っている器から核を引き摺りだし、ミクの元へ。

 それを大事そうに少しだけ抱くと、優しく触れるような口づけした。

 糸が切れたかのように倒れ込むミクを支える。

 すると、その背から光が溢れだし、徐々に羽根の形を成していく。

 何も持っていなかった彼女が天使としての姿を一部ではあるが取り戻した。

 

 眠るように静かな彼女を揺らさない様に抱える。

 気絶した双子を乗せたS.O.Eと合流し、我が家を目指す。

 そのまま帰るのも面倒だし、どこかで車でもパクってしまおうかなどと考える。

 朝日によって照らされ、見渡す限り焼野原となった周囲を見て、どこにも車がないことに気付いた。

 

 

 ちなみにメタトロンが器としていた機械人形はPDAにぶち込んでおいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――

 

【スピリット・オブ・アース】 種族:精霊 レベル50~60

最上位の精霊であり、大地の具現。地に関してはありとあらゆる能力を持っているが、オリ主は知識が無いため質量と引力の操作しか使わない。

 

【ロード・ディアーチェ】 レベル70~80

紫天の書による『ジャガーノート(劣化)』を行ったが、すぐさま魔力が枯渇した。遠距離・面攻撃に秀でている。

 

【シュテル・ザ・デストラクチャー】 レベル70~80

ルシフェリオンによる『ブラストファイアー』を行ったが、すぐさま魔力が枯渇したため、継続的にMAGを供給された。中距離・線攻撃に秀でいている。

 

【メタトロン】

3体の通常分霊にはそれぞれ『36対の羽根』、『無数の瞳』、『神の炎』が与えられていおり、さらにミカエル、ラファエル、ガブリエルが補助として派遣されている。高位分霊は弱体化したものの、出来る限り本体に近い能力を与えられており、ウリエルが補助として存在している。低位分霊には悪魔を引き寄せる神気だけが与えられている。現世で統合することによって神の恩寵と祝福を得た本体に限りなく近い存在へと至る予定だった。

 

【初音ミク】 レベル50 種族:機械天使(メタトロン)

何も無かった機械人形が羽根を得たことで機械天使へとジョブチェンジした。魂を分けた6体のミクダヨーと鏡音リンを遠隔操作しながら戦う。

元から持っていた神気に荘厳な羽根が合わさった美しくも気高いミクさんの姿から地上に舞い降りた大天使であり、誰しもが敬い、傅くのは当然の結果としか思えない。

 

【鏡音リン(メタトロン憑依時)】 レベル70~

メタトロンの分霊が器としていた機械人形。上位天使がMAGの浪費なしで現界するための殻である。自我は存在しない。

 

世界情勢:天使の数も信徒の数も万全であり、後はメタトロンの統合によって完全勝利で世界を支配する予定だったが、分霊が消滅したことによって統合に失敗した。さらにメシア教とガイア教の抗争によって互いの信徒が大量に死亡した。

 

近況報告

・メシア教が大打撃を受けました。出血が激しいです。

・メタトロンの統合に失敗しました。集めた魂、エネルギー、マグネタイトが失われました。

・大洪水は延期となりました。

・千年王国が延期となりました。

・ガイア教は致命傷を受けました。活動限界です。

・エキドナの召喚に失敗しました。集めた魂、エネルギー、マグネタイトが失われました。

・それぞれの勢力が召喚に利用しようとしていた霊地が消滅しました。それを見てキュゥべえが笑っています。一体なにルシファーなんだ……。

 

――

 

 

 

 

 

--14

 

 それほど大きくも無い、一般的な教会堂。

 その祭壇の前にアイアンメイデンが置かれていた。

 アイアンメイデンは聖母の顔を象った面が特徴的な、人型を模した小さな鉄の棺だ。

 拷問機具として知られ、内部には無数の針が内部に閉じ込めた人間の全身を余す所なく突き刺す。

 依頼で訪れたサマナーたちを威圧するための置物かと思いきや、アイアンメイデンの隙間から血が流れている様子が見てとれる。

 今は拷問中であるらしいが、どうやら彼女が聖女候補だとか。

 今回は見学だけとの話であり、俺のようなサマナーたちが20人ほど集められて何故か護衛を任されていた。

 

 教会内にいるメシア教徒の数は少ない。

 片手で数えられるほどだ。

 天使の姿はどこにも見えない、そして感じることも出来ないことから近くにいないのだろう。

 アイアンメイデンの世話を忙しなく行っているメシア教徒だが、血を間近に見続けているためか顔色が悪い。

 血への耐性が無いようで、思考からも天使や悪魔の存在を一切知らない一般人のようだ。

 突っ立っているだけでは邪魔だろうと座席に座り、血が流れているアイアンメイデンを眺める。

 世話をしている人間と比べて少しばかり小さな印象を受けた。

 思ったよりも暇な依頼だ。

 今は、と付くのだが。

 

 

 

 聖女候補の護衛依頼だが、双子のメシア教襲撃とほとんど同時だった。

 街がいくつも焼き払われ、メシアとガイアの互いが夥しい屍を生み出されたことから破棄されるだろうと軽く考えていたのだが、どうしてか予定通りに行われることとなった。

 依頼を受諾してこの場に集まったサマナーは、無知の新人か、見分けの付かない駆け出しか、調子に乗り始めた二流か、何らかの目的を持った一流、というアンバランス際立つ面々だ。

 色々な思惑があるのだろうが、俺には関係のないことだ。

 

 双子の依頼で受け取った部品をミクに使えるように整備していく。

 基本的には20体近く手に入れたミクダヨーを解体して部品を組み込むか、共食いで使える様にする。

 しかし、俺にはこういった工学系は向いていない。

 家ならばミクと仲良く頭を突き合わせて整備できるのだが、教会内の座席というのは狭すぎる。

 無理して細かい整備をして失敗するよりも手を出さない方が良いという結論に達した。

 結局、整備はミクに任せて俺は後ろの座席からMAGを含んで薄らと輝く青緑の髪を梳く。

 宝石の翡翠すらも霞む髪を手のひらで流すように楽しんだ後は黒のヘッドセットでツインテールにまとめる。

 少し長すぎる気もするが、満足気に髪を弄るミクを見ているとこれも魅力なのだろうと納得する。

 視界の端ではえっちらおっちらと複数のミクダヨーが整備しているが、中には間抜け面で居眠りをしている個体もいる。

 ミクダヨーは分霊のような状態であるらしい。

 壊されても力がミクへと戻るので、本体に限りなく近い状態でもあるとか。

 他のメタトロンの核を取り込んだことでポンコツっぷりは鳴りを潜めたと思ったが、どうやらミクダヨーの1体に継承されているようだ。

 それぞれを労う様に撫でていくと、ミクダヨーたちも上機嫌になり、ミクもどことなく嬉しそうだった。

 居眠りのポンコツだけ無視して半泣きにさせたのは暇だったからだ。

 どうしてなかなか弄り甲斐のある個体がいるものだ。

 

 変化のないアイアンメイデンを観察しながら、ミクダヨーのコーラスとともに歌っているミクを撫でていると隣から少し感覚を開けて中年の男が座った。

 彼は「少佐」と名乗ったのだが、当然偽名だろう。

 本名を名乗る奴も時々見かける。

 何があっても自己責任の世界だ、そこら辺は覚悟の上だろう。

 俺は普段は本名で活動しているが、顔を見られるとマズい依頼の場合は「ともだち」と名乗って、人差し指を天に向けた手の甲に瞳が描かれている覆面を付けて活動している。

 

 少佐が同じようにアイアンメイデンを眺めながら、メシア教がガイア教の殲滅に乗り出したと語りかけてきた。

 時間をかけて互いが回復するよりも、致命傷を負っている敵へ追撃をかけて滅ぼすことに決めたようだ。

 他には小さな勢力がぽつぽつと点在するだけのため、問題ないと判断しているのだろう。

 高位分霊のメタトロンが存在する聖堂と力の強い天使が治める一部の教会堂以外の信徒は殲滅戦に狩り出されているらしい。

 天使や悪魔の存在を知っている者は当然として全く知らない者までもが、聖戦として戦場に連れ出されているとか。

 ただの戦争ならば無謀にも程があるが、天使の威光を知らしめることもできると思うとどうしてなかなか面白い。

 先陣に立つ天使を崇め、傷付ける悪魔を憎み、癒してくれる大天使に心奪われる。

 無謀な争いも人知を超える道理が与える物は無知な者にとって奇跡足りえるのかもしれない。

 

 ここでアイアンメイデンの世話を任されている者たちは幸運なのか不幸なのか、何となく呟いた。

 それを聞いて少佐は恰幅のいい体を揺らしながら笑っているだけだった。

 近くに座って聞き耳を立てていた二流は「天使の作り出す地獄を味合うことが無くて幸せだろう」と言った。

 最初は挙動不審だった駆け出しのサマナーは未だに緊張しているのか、何度か頷くだけだった。

 本当に幸せなのだろうか、これからここも戦場になるというのに。

 ステンドグラスを破り、拳大の黒い物体が幾つも投げ込まれ、目もくらむような閃光が教会内で弾けた。

 ガイア教徒の残党が襲撃をかけてきたようだ。

 宗教に関わった時点で詰みだったとしか思えない、幸せってなんだろうな。

 

 

 

 今回の依頼だが、メシア教にとって信用し切れないサマナーを囮として使っているようだ。

 俺のように蝙蝠型ばかりが集まっていることから間違っていないのではないだろうか。

 顔出しはメシア教の依頼でしか行っていなかったので信頼度100%だと確信していたが、どうやら俺の思い込みだったようだ。

 未来で拾いまくったCOMPをメシア教とガイア教に流して互いの戦力拡大を煽ったのがバレたのだろうか。

 それともメシア教やガイア教に扮して天使や悪魔をスライムにして送り届けたのがダメだったのだろうか。

 心当たりが多すぎて一つに絞れないため、考えるのを止めた。

 楽しそうな少佐と銃撃に怯える新人サマナーどもを放置して、アイアンメイデンの元に駆け寄る。

 受けた依頼は完遂する、それがサマナーとして活動する俺の縛りプレイである。

 騙して悪いが……などという展開も真っ向から食い破ってこそというものだ。

 

 控え目な弾幕を掻い潜り、悪魔をミクに足止めさせ、アイアンメイデンに接近することに成功した。

 近寄ると随分と小さなことに気付くが特に問題があるわけでもない、肩に担いで運ぼうとすると声を掛けられた。

 それはアイアンメイデンから聞こえたモノで、振り向くと顔型が蓋のように開いており、可愛らしい少女が顔を見せていた。

 少女は世話をしてくれた女性を連れて行って欲しいようだ。

 足元で震えている女性を見てからアイアンメイデンの中身を見る。

 少女は何が楽しいのかにこにこと笑っている。

 しかし、少佐とは異なる笑みだった。

 邪気が全くないのだ。

 まあ、いいだろうとアイアンメイデンとは逆の肩に女性を担ぐ。

 護衛のついでに荷物が増えようとも問題ない。

 最悪の場合、弾除けとして使おう。

 

 どう撤退すべきかと数秒ほど考えを巡らせていると少佐が駆け寄ってきた。

 見た目の割りには俊敏な動きだった。

 護衛対象とは別の荷物に視線を向けたので、幸運継続の手伝いだと伝えると声をあげて笑い出した。

 冗談だと思われたのだろうか、そんなつもりは無いのだけれど。

 

 少佐とはこのまま撤退戦へと移行することに意見が一致した。

 依頼内容は護衛なのだから面倒な戦闘など俺はやる気が全くない。

 体中に弾痕を作って血袋と化した駆け出しサマナーを足元に転がながら、残党と抗戦している二流サマナーがこちらに期待の篭った視線を送ってきたので頷いておく。

 PDAへとミクダヨーを仕舞い込み、ミクへと指示を出す。

 そしてすぐに跳躍し、ステンドグラスを破って外へと逃げる。

 アイアンメイデンを護衛するのが俺の仕事であって、他のサマナーを救出することではない。

 つまるところ、悪いが俺は一人用なんだ、ということだろう。

 ……違うか。

 

 

 

 衝撃を完全に殺しながら着地し、銃声や爆発音、怒号、悲鳴、と真昼間からあまりに騒がし過ぎる教会を背に走り出す。

 俺を追う様にすぐ後ろを、ミクが音も無く羽ばたきながら飛んでいる。

 追いかけて来ようとした悪魔はメギドファイアの一撃で消し飛んだようだ。

 そのまま走り抜けると道路へとたどり着いた。

 電車とバスを乗り継いで来たのだが、今の恰好では交通機関を利用するには無理がある。

 帰りはどうしたものかと頭を悩ませる。

 小型のターミナルに等しい性能を誇るPDAが持つ転移機能を使っても良いのだが、白昼堂々と行う気にはなれない。

 何か良い案はないかと視線をアイアンメイデンに向ける。

 流れてきた血液が『さとり』から貰った白い羽織を赤く染めてしまって悲しくなり、考え事どころではなくなった。

 

 最終的にディアーチェの洗濯技術を信頼するということで血染めの羽織を意識の外へと追いやることに成功した。

 冷静さを欠くとは俺もまだまだのようだと思いつつ、『さとり』に貰った物だから仕方ないとも思う。

 面倒だが走って帰ろうかと考え始め、悪くないのではと思い到ったちょうどそのとき、目の前に一台の装甲車が止まった。

 ドヤ顔の少佐が中から顔を出した。

 

 装甲車に揺られながら帰路へ着く。

 少佐の仲魔が運転してくれているらしい。

 内部は狭いうえにアイアンメイデンを置いているのと少佐がいるため、圧迫感が凄まじい。

 車内が常軌を逸しているためか、世話係の女性も青ざめている。

 ミクはそんなものどこ吹く風と声を抑えつつも歌っており、それに耳を傾けながら手を櫛代わりに髪を梳きながらミクの設計図に目を通す。

 色々と興味深い物ばかりだが、ナノスキンによる自己修復機能の強化案が載っていたので未来に行った時には是非とも手に入れたいものだ。

 

 

 

 特に説明もせずに我が家へとたどり着いた。

 情報収集の際にCOMPの流れから俺を知ることになったらしい。

 個人情報も何もあったものでは無いと思ったが、サマナーにそんな物があるわけない。

 全て自己責任だ。

 情報を集めるのも、守るのも、全部自分で行わなければならない。

 自分の力で賄うか、仲間を募るか、信頼できる相手を見つけるか、そこら辺が面倒な世界だ。

 少佐は運転手としても活躍している仲魔の電霊である「シュレディンガー」がいるため、情報面は安心できるとか。

 俺も含めて仲魔内ではミク以外は電子機器が不得手であるから、そういった面で優秀なモノに興味がある。

 電霊は珍しいらしいが、縁が欲しい物だ。

 

 どうしたら見つかるかと相談するが、やはり異界で偶然出会うくらいしか無いようだ。

 見つけたら譲ってくれると言ってくれたが、単純に頷ける事柄でも無い。

 貸しにされて変なところで返せと言われたら面倒だ。

 飛び道具代わりに雑魚悪魔を使いたいが纏まった数を集めるのが億劫だ。

 魔貨なら貯まっているのだけれど。

 DDSネットではトレードしか存在しないので売買可能にならないだろうかと呟く。

 それに少佐が反応し、話を詰めることになった。

 最終的に、サマナーによる悪魔の売買を基本としつつ、悪魔自らも売ることのできるサイトなら良さそうだろうと結論が出た。

 そして、運営しつつ利益を出すならオークションだろう、と形式も決まった。

 少佐や他の仲間で作ってくれるらしいので、支援として魔貨とMAGを渡しておく。

 そう時間も掛からずに完成するだろうということと支援の代わりに電霊を優先的に回してくれると約束された。

 折角なので戦闘能力よりも電子機器に対する能力が高い電霊を希望しておいた。

 

 

 

 アイアンメイデンから全裸の少女が飛び出し、少佐とともに畳を満喫していた。

 さらに双子も参加して、こいつらの面倒を見るアイアンメイデンの世話係りも加えると、日本へと観光旅行に来た外人の家族一行に見えてしまう。

 お茶を淹れてくれたディアーチェを労いつつ、軒先に干されている羽織を眺める。

 強化されている品だったこともあり、水洗いで血糊や汚れ、呪いをも完璧に落とすことができるとか。

 

 お茶と羊羹にテンションが上がった客人を無視してミクの武装を磨く。

 身体の整備は恥ずかしいとか言ってあまりやらせてくれないので、慣れない作業に四苦八苦しながら武装を修理するくらいしかできない。

 デモニカスーツと呼ばれる兵装に用いられている武装ならばミクに組み込めそうだとも思ったが規格やプログラミングが云々。

 外面は無理矢理合わせられるが、中身は完璧に俺たちではどうしようもない。

 出来るとすれば、悪魔を内部に送り込む「ハッキング(物理)」くらいなものだ。

 人間が発するMAGを能力者のように力場として応用するバリアジャケット(BJ)という技術も開発されているらしい。

 様々な技術を取り入れようと思うと電霊はやはり必要不可欠なのかもしれない。

 

 PDAに保存されている設計図を参考にして「真理砲(エメトブラスト)」や「容器の破壊(シュヴィーラー)」を再現しようとしているのだが、内蔵巫力という物を主軸に構成されているので全く進んでいない。

 巫力を溜めこむバッテリーのようなものだとはわかるが、作り方がさっぱりわからない。

 そもそも巫力自体よくわからない。

 魂を留めて置くイメージらしいのだが。

 ドリーカドモンで容器でも作れば良いのだろうかとも思ったが、それは違う気がした。

 COMPに内蔵されているMAGバッテリーのようなモノを複数搭載するとか、容量を増やすとかで試してみようか。

 

 そんな感じで過ごしていると夕飯の時間となった。

 ちなみにディアーチェは夕飯のことをおゆはんと言う、可愛い。

 外人連中は慣れない箸に苦戦しながら夕飯を食べているが何が楽しいのかテンションが上がり続けている。

 少佐など演説を始めたし、アイアンメイデンの中身は持ち霊を操って食べている。

 とりあえず、口の中に梅干しを放り込んでおこう。

 呻いている馬鹿どもは無視だ。

 猫耳を生やした少年のような姿をしたシュレディンガーが一番大人しいのでタイヤキをあげておこう。

 ……餡子って食えるのだろうか。

 

 夕飯も食べていい感じに落ち着いた頃合いに、少佐が立ち上がってお祭りへ行かないかと誘われた。

 いや、行かないから。

 この後は風呂入って寝る予定だ。

 断ろうとするが乗り気な双子に腕を引っ張られる。

 依頼料が払われるのか怪しい依頼だったし、このまま貰ってくればいいか。

 アイアンメイデンは放置しておこう、今日が終わるまでは護衛対象だ。

 留守番にマタムネを残して装甲車に乗り込んだ。

 折角の祭なのでフィネガンを呼んでおこう。

 

 途中でナオヤという人物も乗り込んできたが車内を見て顔を引き攣らせていた。

 彼は翔門会でCOMPなどを研究しているらしい。

 翔門会はメシア教の下部組織だった気がするのだが、これから行く場所に連れて行っていいのだろうか。

 道中では信者が悪魔と渡り合うにはどうすれば良いかという話になった。

 俺のように時間をかけて異界を巡るのが安定しているが時間が足りない場合はその他の手段で補うしかない。

 悪魔と合体することで自力を補う、少佐のように悪魔を憑かせる、近所のタイヤキ屋のようにペルソナを使う、双子のようにデビルシフターになるなど無限大だ。

 それらは一般人には無理らしいのでもっと現実的な方法と言われた。

 COMPに搭載されているハーモナイザーの恩恵を強化すれば良いのではないだろうか。

 それこそ召喚数を絞ってサマナー自信に集中させることができれば急速に力を得られると考えられる。

 まあ、現状ではMAGなどの関係で難しいのだけれど。

 MAGを気にしなくて済むのならかなり有用ではないかと思う。

 が、少佐がMAGを取り込み過ぎてスライムや悪魔人間になった新人の話をしてくれたのであまり現実的ではないのかもしれない。

 異界に潜った結果とか、その新人たちはどんだけ潜り続けたんだろうか。

 せめてMAGが体に馴染むまでは落ち着くべきだろう。

 過剰に摂取しないというのも重要かもしれない。

 魔王などの強力な力を取り込めれば速成できる可能性が……。

 

 

 

 

 

 

 

 メタトロンの守護するメシア教の聖堂が炎に包まれた。

 ガイア教へと追撃戦を行っているとはいえ、現世に召喚された天使の中でも特別に強い固体が守護している要所だ。

 そんな場所へと突撃する俺たちは自殺志願者としか思われないだろう。

 少佐とその仲間たちが襲撃するらしいので、それに乗じて火事場泥棒するだけだ。

 機械人形はまかせろーとばかりにバリバリと破壊して中身の天使からMAGを奪い、COMPや部品はPDAに収納。

 俺が通った後には何も残っていない。

 拾ったCOMPの中には俺が流した物もあったので後でどこかに売りつけよう。

 召喚プログラムさえあればCOMPとして扱えるが、MAGバッテリー付きだとさらに高く売れるのだ。

 

 現状、マタムネを除く仲魔を全部放出しているのだが過剰戦力すぎたかもしれない。

 ディアーチェとシュテルなど普段から大罪としてメシア教に目の敵とされているので、凄まじい勢いで聖堂を破壊している。

 無差別に破壊されていき、巨大な聖堂が崩壊していく。

 それでも高位分霊はおろか、通常分霊のメタトロンすら見つからない。

 最深部に待ちかまえているのだろうか。

 

 

 

 特に障害も無く聖堂の最深部へとたどり着いた。

 迷子になられても困るので仲魔と双子はきちんと連れている。

 天使は属性や攻撃がほとんど偏っているのでワンパターンで攻めていける。

 低レベルの天使ならば破魔さえ効かなければ素通りに近い。

 中の様子はわからないが、感じられるマグネタイトの量から考えて強敵が待ち構えているようだ。

 高位分霊のメタトロンだろうか。

 それとも他の大天使だろうか。

 何がいようともミクの糧になってくれるだろうと扉を開ける。

 

 巨大な蠅型の悪魔と目が合った。

 相手は複眼なので本当に目が合ったのかは不明だが、確かに見られたように感じた。

 カッコいい。

 実にカッコいい。

 足元で砕かれている機械人形が気になる。

 たぶん、メタトロンの分霊が入っていたのだろう。

 これほどの悪魔だ、燃費が悪いので食べたのかもしれない。

 

 

 

 ――アナライズ成功――

  魔王「ベルゼブブ」

  レベル105

 

 

 

 ……よし、撤退だな。

 PDAの転送機能を走らせる。

 他のやつらは置いて行こう。

 むしろここで死んでほしいくらいだ。

 メシアとガイアが消滅間近の今、小さな勢力が雨後の筍のごとく出てきて拡大することが予想される。

 フィネガンが属している組織など特にそうだ。

 ここで消えてくれ、と思って呼んだのだから期待しておこう。

 他の連中も一掃されればと願いつつ、撤退した。

 耳に残った蠅の音が煩わしかった。

 

 

 

 少佐が死んだらシュレディンガーが仲魔にならないだろうか。

 

 

 

 

――

 

【アイアンメイデン・ジャンヌ】

少女、というか幼女。聖女候補として呼ばれたが囮にされた。X-LOWSのメンバーにメシア教がいて支援されて云々。

 

【少佐】

メシア教がチェックメイト寸前という素敵な激戦区である日本へとわざわざ海を渡って戦争しに来た。デビルオークションで儲けた魔貨とMAGを使って悪魔の軍団を率いることになるかもしれない。箸が上手く使えない。

 

【シオニーちゃん】

ジャンヌさまのお世話係を任されたことで背中を押されて地獄へと足を踏み入れた。彼女の明日はどっちだ。

 

【シュレディンガーの猫】

電霊。情報よりも戦闘したり精神に潜るほうが得意。今はオリ主の心を掴んで離さないが、他の電霊が現れたら忘れ去られる儚い存在。

 

【蠅王】

かっこいい。っょぃ。

「至高の魔銃」「死蠅の葬列」で無敵に見える。

 

近況報告

・ガイア教が活動不能に陥りました。日本での再起には時間がかかります。

・メシア教が活動不能に陥りました。日本での再起には時間がかかります。

・メシア教が聖杯奪取へと本格的に乗り出しました。聖人および聖女、天使が聖杯戦争に投入されます。

・拡大していたシュバルツバースが鎮静化しました。

・東京で複数の組織が活動を開始しました。

・中堅サマナーへとダークサマナー「ともだち」の討伐依頼が行われています。

・「グリゴリの天使」が活動しています。

・ホムンクルス(フラスコの中の小人)が儀式の準備を行っています。儀式の範囲は学校のようです。

・暁美ほむらがキュゥべえの言葉に耳を傾けています。

 

――

 

 

 

 

 

--15

 

 赤茶けた空、文明を覆い隠す砂、過剰なMAG、荒廃した世界。

 己の身を守る術の無いモノは喰らい尽くされ、強者が蔓延った。

 力こそが、ただ単純な力こそが正義だった。

 それでも人間は生きていた。

 天使の加護を受ける、悪魔に魂を売り渡す、強者に靡く、更なる弱者を食い物にする。

 どんな方法であっても生きていた。

 悪魔が闊歩する外界に怯えながら、残されたわずかな土地にしがみ付くように。

 

 そしてそれでもなお人間は争っている。

 戦いは続いている。

 人間の愚かさゆえに、悪魔の狡猾さゆえに、そして天使の慈善ゆえに。

 思念と意思が、戦いを望んでいる。

 限りある命を浪費する、地上に存在するすべての愚かしさの証だった。

 世界は、汚された大地は、ゆっくりと死に向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 世界改変後に起きた大破壊と呼ばれる大事件と、それに連なる事件によって空気中には高濃度のMAGが存在するようになった。

 瘴気へと至るほどでも無いが、中級の悪魔が難なく活動できる程度のMAGが在り、悪魔が顕現し易い世界へと変化したことは確かだった。

 常に一定量のMAGが世界へと供給されている。

 誰がどのようにしようと、それこそ魔王や熾天使が力を行使しようとも、減らすことも増やすこともできなかった。

 地上に存在する諸々は、世界へ供給するために搾り取られるようにMAGを散布し、最期には砂と化した。

 世界はMAGに満たされている。

 しかし、世界が保有しているMAGは減っていた。

 時間が経つごとに文明は死んでいった。

 その結果として世界は荒廃の一途を辿っていた。

 

 

 

 砂嵐が吹き荒れている。

 視界を埋め尽くすほどの砂を防ぐには、頭まで覆い隠した大き目の外套など気休めにしかならない。

 衝撃を伝えるよう一歩一歩踏みしめて進む。

 歩く度に地が鳴り響き、点在する巨大な砂山が崩れ、砂嵐以上の砂が流れ、中から朽ち果てた建造物が姿を現した。

 砂を逸らしながら建造物へと足を運んだ。

 

 PDAからミクとミクダヨーを呼び出し、指示を出す。

 建造物内ならば入り込む砂も少ないのでレインコートを着せておけば最低限の防塵にはなる。

 駆け回るにも面倒なので手足の代わりになってもらうのだ。

 それも俺が探すよりも、彼女らがセンサーを駆使したほうが良さそうだ。

 

 どこを探してもガラクタばかりが見つかる。

 大破壊前の日本は俺が生きている頃らしいのだから、当然とも考えられる。

 砂と化していないことに喜ぶべきなのだろう、形の残っているガラクタが今は重要なのだ。

 物資の足りないこの世界では、何もかもが宝である。

 悪魔が頻繁に出現する砂漠を歩き、砂に埋まった建造物を探索するモノなど居ないため、内部にはガラクタが溢れている。

 命を賭けて探索する者もいるが、大半は実力が伴わず悪魔の餌となる。

 成功者はもっと割の良い仕事へと目を付ける。

 塵漁りなど行う物はいないようだ。

 

 悪魔を殺し、ガラクタを漁る。

 使えるのか使えないのか、判断が付かないので全てをPDAへと放り込む。

 ついでに金庫にある現金も放り込む。

 通貨は魔貨、現代の金などちり紙にしかならないという言葉通り、漁れば出てくるのだ。

 

 

 

 未来で生活して……何日目だったか。

 変わらない日常を過ごしていたために感覚が狂ってきてしまった。

 フィネガンと祭は「いのちをだいじに」という方針のせいですぐさま帰ってしまった。

 まあ、悪魔が群れで迫っていたのだから判断としては間違っていない。

 殿を引き受けた俺も公衆電話が吹っ飛ばなかったら帰っていたのだが、こればっかりは仕方ない。

 ミクやミクダヨーをできるだけ強化してから帰れれば、と思っている。

 

 そんなわけでこの時代の技術者を探して彷徨い歩き、新宿の地下街で見つけることに成功した。

 人類は地下へと生活拠点を移しているらしく、地上だけに目を向けていては何も見つからないのだ。

 観察して回ってみた結果、この世界の日本には外国人が多いようだ。

 メシアやガイア、その他の組織が投入した人員が大破壊後に散り散りになり、そのまま拠点があった街に居ついたことが原因らしい。

 見つけた技術者も外国人であり、言葉の壁に難儀した。

 なんてことは無く、普通に日本語を介していた。

 悪魔と会話するよりも楽だとか。

 

 俺が頼った技術者は兄弟だそうで、兄はエドワード、弟はアルフォンスと名乗った。

 エドは機械の義手と義足、弟は鎧型のデモニカスーツを着込んでいた。

 大天使であるミクさんを世界のセラフにしてもらおうと頼んだが、すぐに断られてしまった。

 普段であるのなら問題ないが、メシア教が買い占めた為に今は材料を切らしているのだという。

 ナノスキンならばできるけれど、それ以外が足りないとかどうとか。

 しかも兄のエドが義手の神経を患っているらしく、それを直さない限りは作業も儘ならないとか。

 

 

 

 余所者の身であるし、顔の広い技術者に恩を少しでも売っておきたいという考えもあるのだ。

 まあ、そういう理由から砂漠で廃墟を漁ってジャンクを拾い集めている。

 方法は簡単だ。

 適当な砂山を見つけたら、地を揺らすことで山の内部を崩し、建造物の有無を確かめる。

 地響きを鳴らす勢いで歩くのが重要だ。

 内部の建造物が一緒に崩れることもあるが、この程度で崩れてしまうのなら風化が進んでいたのだろう、調べる必要は一切ない。

 

 盛大に音を立てているが、悪魔は寄ってこない。

 それほど強い悪魔がうろついている場所では無いし、地中の悪魔は衝撃で近寄って来ない。

 空を飛んでいた悪魔は瓦礫を投げつけて殲滅したので、当分は現れない。

 上記の理由から何者にも邪魔されず、気楽にミクと発掘を楽しんでいたのだが、どうやらここまでらしい。

 パワーとプリンシパリティという2体の天使に連れられて、メシア教らしき男が空から現れた。

 何故だか興奮しているようで、かなり気持ち悪い。

 

 ミクとともに行動していることから、俺を聖人だと勘違いしているらしい。

 この世界の聖人は力のある上位の天使と行動を共にするのが常識のようで、羽根を広げて神気を振り撒いているミクと一緒に居れば、そう勘違いされるのも無理はない。

 パワーは魂の輝きが云々、プリンシパリティも時空が云々、素晴らしい聖人であるとかで、手放しに称賛された。

 ミクというレッテルによって曇らされているのもあるが、こいつらの目は節穴か。

 それとも下級天使なので大天使級の威光に麻痺しているとか。

 その命、神に返しなさい!みたいな展開だと処理が面倒なので聖人として話を合わせておこう。

 折角だし、メシア教の内情辺りも聴いておきたいので、むしろ都合が良いとも思える。

 

 天使の慈悲によって生かされている日々への感謝が8割、終わりが見えないカオス勢力との争いが2割といった物が聞いた話の内容だった。

 ほとんど参考にならないが、サーヴァントシステムとカテドラルとやらには興味が湧いた。

 カテドラルとは巨大な建造物で、選ばれた者のみが乗ることを許された箱舟の役割を果たすらしい。

 問題は話を聞いたメシア教が下っ端過ぎて、内部で生きていけるように用意された箱庭なのか、それとも文字通り箱庭として機能するのか、そういった核心については知らないのだ。

 ただ単に天使の加護に盲信して機械的に働いているだけだ。

 こういう世界だ、その方が幸せなのかもしれない。

 

 サーヴァントシステムとは過去の人物を使役する方法らしい。

 メシア教に矛を向けた罪人の魂を縛ることで意思を神のために働くよう固定し、罪を償わせてやるとか。

 ただの洗脳と同じ、そして死んでいるのと変わりない、なんともおぞましい事を考えたものだ。

 魂を縛るなど、死ぬことと何が違うのだろうか。

 今は「ぬらりひょん」の使役を試みているようだが、魂が手元にないので進んでいないとの話だ。

 その人物は妖怪ではなくただのダークサマナーだったが、多数の妖怪や怪異を好んで使役していたので「ぬらりひょん」と呼ばれたらしい。

 サマナーとしての能力はかなり強大だったようで、世界改変を行おうとしたとか。

 さらに契約していた妖怪・怪異を強制的に使役させることも予定しているようだ。

 ただ、魂の争奪戦が今尚行われているので、メシア教が使役できるようになるのはまだまだ先になると男は言った。

 なんにせよ、あまり気のいい話では無い。

 

 男と天使がそろそろ拠点へと帰るというので、探索の際に見つけた、まだ食べることのできる缶詰を、男が持てる限界まで渡す。

 聖人として振る舞っておけば、何かと融通が効きそうだからだ。

 例えばここらでは俺が活動しているのでメシア教があまり手を出してこないとか、メシア教の教会に入る際に口利きしてもらえるとか。

 アイスの当たり棒くらいの期待だ。

 この世界では貴重だろう缶詰と吊り合いが取れるかと考えるが、特に問題はないと判断した。

 缶詰の数には余裕があるし、更に必要だったら元の世界で買い込めば良い。

 別れ際、男は救世主(メシア)によって戦況が変わりつつあると言っていた。

 彼らの言うメシアとは一体なんなのだろうか。

 天使の言葉を盲信する彼らが、人間を導く天使が、求める救世主とは……。

 

 

 

 

 

――

 

【ともだち】 レベル:不明 能力:悪魔召喚、ペルソナ召喚、悪魔変化、etc。

奇抜な覆面を被っている人物。目撃される度に骨格や性別、推定年齢、能力が異なる。「ともだち」は複数人いて一人ではない。

 

近況報告

・暁美ほむらが「ともだち」と交戦しています。

・暁美ほむらはアガレス(高位分霊)と時を対価に契約しています。

・アガレス(高位分霊)が力を行使しています。

・暁美ほむら_チクタクマン(高位分霊)に魂を対価■契約しています。

・チクタクマン(高位分霊)が力■行_しています。

・深淵が覗き■■_ママッママママママ■

・可能性ガガガ分岐していマママ■もげら_

・これ■ラ先_報_■存在しママママッマママアマmセ■。

 

                 _?さ■良い一に死■!

 

――





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