実験室のフラスコ(2L)   作:にえる

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原作:モンスターファーム2 いくせい、もんすたー!1

--1

 

 

俺は最強だ。

しかも無意識のうちに異世界来訪を果たした。

逆だな。

異世界に来たら最強だった、が正しい。

普通の学生だったがここに来てからは浮浪者やモンスターハンター、助手、etcと様々な職業を経てブリーダーになるくらい最強だ。

好物はカララギマンゴー、出来れば酸味が効いていると嬉しいが、甘すぎたり柔らかすぎるのは好きじゃない。

酸っぱいのは安物なのだが、好物なのだ。

思い出の品でもある。

何も言わずに安上がりな男だと笑ってくれ。

 

 

 

そんな安上りの俺だが、どのくらい最強かと言うとヤバいくらい強い。

超ヤバい。

ヤバいくらい超ヤバい。

隠しダンジョンの最奥にいる裏ボスくらい強い。

超人的な身体能力に加えて魔法も使える。

○リー・ポッター系では無く、漫画とかゲーム的な魔法。

大魔導師とか世捨て賢者、忘れ去られた英雄級。

魔法を使ったら「これはメラではない、アギだ」って出来る。

アギとは炎をボッと出す魔法だ。

試したことは無いけど簡単に人も殺せる火力を引き出せる。

最強すぎてごめんね☆

 

 

 

誰が俺に与えてくれたか分からないが感謝しておこう。

見ず知らずの異世界にパンピーのまま放り出されてたら死んでいたから感謝している。

だが、異世界に送ったやつと同一人物だったら許さん。

チェーンソーでバラバラにしてやんよ。

たぶん神様的な超常存在がなんやかんやしたに違いない。

神とかマジ許さん。

テスト前に祈る程度の信仰心しか持ち合わせていないのに、こんなサービスとか別の誰かにしてあげてくだしあ。

むしろ信仰心が低いから更迭、とかかもしれない。

島流しならぬ世界流し。

こえー。

天罰こえー、サイキョーでも天罰こえー。

あたいったら天罰ね!!とかやったのかもしれない。

⑨神の天罰はやべえな。

もう、本当にNICE JOKE。

 

 

 

折角の異世界来訪だから魔王を倒して勇者になったり、モテモテになったりとかしたかったがどうやら御呼びで無いらしい。

魔法なぞ火が無かったときの種火や腕がもげた時にくっつけるくらいしか使い道が無い。

リアルモンスターハンターの時とかも使ったし、世の不条理に反抗したときにメギドラオンを使ったから、なんだかんだ便利なモノである。

使い道が無いとか言ってスマナイ、魔法さん。

とりあえず公の場では使え……ない、たぶん。

 

 

 

魔法が使えるのか使えないのかわからないこの世界がどんな世界かと言うと、モンスターを使役して、育成して、戦わせるのが主なのである。

ポケモンをバイオレンスにして、テリワンな育成ぶちこんで、デジモンをくっつけたみたいなのを想像して欲しい。

想像できただろうか。

そう、モンスターファームの世界なのだ。

想像できなかった諸君も涙で枕を濡らす必要はない。

なぜならほとんどのゲームに共通している事項だからだ。

シーマンも捕獲してから育てるし、放っておくと死ぬからね。

シーマンの世界じゃなくて良かったです、キモいのはマジ勘弁。

 

まあ、完全にモンスターファームの世界かと聞かれると肯定しにくい面もあるので平行世界と考えればよろしいのではないだろうか。

似ているところもあるし、似てないところもあるよって感じで。

で、モンスターファームってのはCDからモンスターを再生して、育成して、大会に出して名人を目指すゲームだ。

モンスター同士を戦わせるゲームであって人間とかお呼びじゃない。

一応必要だけどブリーダーに必要なのはポケモンマスターになれる能力的な才能であって、制圧力とか武力とかでは無い。

もちろん、戦闘力でもない。

モンスターの気持ちが解るとか話せるだったらサイコーだね、俺には無いけど。

マジやべぇ魔法も使えるし、余裕でモンスターも倒せる。

剣とか超得意、槍だって振り回すよ!!

でもモンスターとの会話は勘弁なってくらい無理。

 

ああ、でもあれが出来る。

ボディランゲージってやつ。

超得意、拳で語るやつだけど。

 

 

なんと勿体ないのだろうか。

才能の差に苦しんでいるオリ主に分けてあげたいくらいだ。

あいつらってヒロインがいるんだよな……やっぱり無しだ。

リア充に俺の能力を分け与えるなんてもったいない!!

何処かしかで成功するのだから、存分に苦しんで生きてね☆

俺はブリーダーになってブルジョアとして生きるよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

折角のモンスターファーム世界なのでブリーダーになった。

金持ちの職業みたいな部分があるから、浮浪者していた俺がブリーダーって凄い事なのよ。

褒めてくれてもいいのよ?

努力の過程なぞスキップだ。

そのうち語るかもしれないから大丈夫です、全く問題ないです。

 

エヴァ先輩というブリーダーの元で助手をしてドラゴンを育てて、推薦もらって、専門学校に入り、リアルモンスターハンターしながら勉強、第二の青春を送り、ヘンガーを育てて、補助魔法で足りない部分を補強、卒業、メギドラオン、リンディ校長に挨拶、IMaとかいう協会に来た←今ここ。

今の俺は卒業生であり、新人ブリーダーでもあるのだ。

めんどくせ。

まあ、新人ブリーダーでありながら能力は最強だ……身体能力の話だが。

いつまでも引っ張って女々しいとは自分でも思っているのだけれど諦めきれない。

もったいないくらい超やべぇチート能力。

無駄だけど……いや、ホントに無駄だけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新人には助手が付く。

新人だけでなく、段持ちでも助手を持つので特別だとかそういった事情は無い。

単に学校の実習として在校生が卒業生の元へ助手として手伝いに行くのだ。

実習先は希望性なので、自分で言うのも何なのだが不人気な俺に付かないと覚悟していたが一人希望していたらしい。

 

奇跡っ!!

まさに奇跡っ!!

求めた永遠は此処にあったのだ……っ!!

 

というくだらない想像してしまったくらいである。

まさか、基本的な感性を持つブリーダーの敵である俺に助手志望とは……。

 

実家の手伝いだったり、ブリーダーとして活動しない同期も多いので、実習生が余っていて、すでに卒業して幾らか経つ先輩や先生などの元にも助手に行けるのだ。

同期にも恩師であるアティ先生の元で助手をやってる双子がいる。

俺も今年は助手として先生の魅力を間近に感じようとしたのだが金髪でこっぱちに邪魔されてブリーダーになった。

おのれ……。

そんな理由で助手は余っているが、俺には来ないモノと思っていたが。

 

 

……ま、まあ、そんなことはどうでもいいのだ。

俺が顔も名前も知らない助手を待っていると、前方にトコトコと歩いている二人組の姿があった。

片方は同期のレッド(仮)。

先輩の元で供に助手をしていた腐れ縁であり、本名は知らないが今更聞くのもあれかと思ってあだ名を付けたのだ。

無口で、黒曜石のような輝きのある瞳と艶のあるやや長い黒髪が特徴的だ。

俺のプレゼントした帽子を四六時中かぶっている。

半袖で冬山に立ってたら、挑戦者としてポケモンバトルをしたくなる……かもしれない。

相棒は電気ネズミに違いない。

どう見てもレッドです。

だからレッドと名づけた。

 

 

二人組なのでレッドのほかに女の子がいる。

どうやら彼女がレッドの助手のようだ。

俺の知識が正しければ間違いなくあの娘はコルティア、通称コルト。

MF(モンスターファーム)2の主人公の助手をしていた不老不死のやつだ。

初期ロットでは仕事をしなくなるのだが、The Best版だとどうなのだろうか。

女の子が助手とかマジで羨ましい。

つうかコルトが助手とかやつが主人公なのだろうか。

……ありそうで困る。

 

 

 

レッドは才能にあふれていた、俺なんか比じゃないくらい。

いや、魔法を使ったら俺の圧勝っすよ?

無しだと……。

 

まあ、レッドは学校で全てにおいてトップで育成の練習でも教官に褒められてた。

俺は落ちこぼれ、ハイパークラス。

テストとか名前が消し去られる庶民。

魔法が無かったら卒業できなかったレベル。

魔法を何に使ったかって?

ばっか言わせんな恥ずかしい///

強いて言えば、俺が本気出すとヤバいよ?ニヤニヤ、みたいな。

ブーストかけてワンパン余裕でした的な。

 

 

なんで催眠的な魔法が無いのかと小一時間くらい悩んだがカララギマンゴーを食べたら忘れた。

魅惑的な何かならあるのだが。

テンタラフー先輩とか呼ばれるのはなぜだか嫌でござる。

しかもすぐ効果が消えるから何度もかけ直す必要があって面倒なのだ。

 

 

つうか未だに何の作品の魔法かわからん。

神のオリジナルだったら嫌だ、俺の考えた最強の魔法みたいで。

今度はムドオンとかいう魔法を使ってみたいな、と思っている。

メギドラオンとかかっこいいから使ったら東の丘と俺の怒りに触れたやつらが消え去ったのは記憶に新しい。

死んではいないので大丈夫だ、回復魔法をかけて攻撃とかやったけど大丈夫だ。

犠牲になったのだ、俺の怒りのな。

すっきりするけど街中では使えないだろう。

無差別殺人とか柄じゃないのだ。

 

 

そんな超絶天才のレッドに可愛い助手が付いた。

才能に恵まれ、言葉少ない甘いマスクはマジでイケメン、それに女運だと……?

羨ましい、マジで羨ましい、超羨ましい。

妬ましくてパルパルしちゃうわ。

もう俺って死ぬしかないんじゃねぇの。

 

 

とか考えながら眺めていたらコルトに睨まれた。

あ?やんのかコラ?

俺はホリィ派なんだよ、ふざけてっと愛でるぞこの野郎!!

ってガン飛ばしたら涙目になりながら震えていた。

……なんで俺が見たらみんな泣くんだよ。

妹とか弟とか、同期たちは普通なのになぜだ。

 

 

 

レッドが俺に気付いたらしくて控え目に手をふりふりしてきたから、俺も軽く返す。

とことこと近づいてきて右拳を掲げてきたのでこつんと軽く合わせる。

そして満足気にこくこくと頷きながら帰って行った。

拳を軽く合わせるのが俺とレッドの挨拶だ。

いつから始めたかは忘れたが、気付いたらやっていた。

無口なレッドにはちょうどいいし、これからも続けていくだろう。

レッドは悪い奴じゃないので、妬むのも呪うのも止めてやろうではないか。

べ、べつに数少ない友人だからって理由じゃないんだからねっ!!

……あとコルトが忘れられているんだがどうすればいいのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

助手が来るまで、空白の時間。

コルトは俺を睨んだ後、走ってレッドを追いかけた。

やつの睨みにはハムスターを感じる。

つまり全く恐ろしくない。

俺が本気で睨んだら人が死ぬ。

……魔法の力だから、目つきが悪いとかそんなわけ無いじゃないですか。

妹がくれたバンダナで目が隠れているから誰かと目が合うこともないし、そしたら不意の事故であっても睨むことも無いだろ。

妹の気遣いに泣いた。

そして学校に在学中はバンダナ巻いたまま過ごした俺の姿にまた泣いた。

つうかバンダナ巻いてるのに下級生と目が合って泣かれたのを思い出した、なんて理不尽。

 

 

そんなことをつらつら考えていたら俺の助手が登場。

長い茶髪に冷たい印象を与えてくる無表情。

少し息が上がっていて肩が上下している。

急いで来たのだろうか、うっすらと汗をかいていて頬も少し赤くなっている。

冷たい無表情と言うか、緊張で表情が固まっているだけかもしれん。

どう見てもリオです、可愛いけどなんとも言えない違和感。

MF4ってことは登場するハードが違うからか。

俺の世界はPS1、リオはPS2。

バグるからね。

一応繋がっているとはいえ、俺の世界を貴女が登場する世界で再生するとバグるから島に帰れ。

ファンくんとガルゥでも育成してろよ。

トゥグルの樹木爺とかマジでどうしたし。

冗談です、僕の助手になってくれてありがとう。

感動で俺は泣きそうだ。

まさか女の子が助手に来るとは……生きてて良かった!!

苦労を掛けるかもしれないがよろしく、としか口下手なので言えなかったが握手はちゃんとしたので及第点くらいは貰えるはず。

はい、よろしくお願いしますと微笑みながら言ってくれたリオさんマジ天使。

凍っていた表情が溶けたかのように一変して笑顔になったとか萌え死ぬ。

握手した手はほんわりと温かかった。

やっぱり良い物だよね、人との触れ合いって。

決して卑猥な意味じゃないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょろっと話してみてわかったのはMF4のリオとは同一人物ではないだろうということ。

名前はリオだけどリオじゃない、みたいな。

テキトーですよ、サーセン。

物静かな少女だし、大丈夫だろ。

きっと、たぶん、おそらく……だといいなぁ。

冗談だ、良い娘に決まっている。

俺の助手に来てくれるとか運命ですね。

助手を休まれたりしたらモンスターと相性の悪い俺は最悪であるのでかなり頑張って欲しい。

おまえなら大丈夫だよ!!やればできるよ!!俺が言うんだから間違いねえ!!みたいな激励も必要ならするかもしれん。

……リオの代わりに来るユリの可愛さは異常。

というかMF4に表れる女の子はかわいすぎる。

好感度が上がって頬を赤らめた姿とかヤバい、マジで嫁に欲しい。

もちろんリオも可愛いよ。

髪下してても、ポニテでもどっちでも大好物です。

物静かだけど一緒に何時もいてくれるとか魅力が振り切っていて困る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、モンスターと手に入れて育成と行くか。

モンスターか……テンションがマジで下がる、下がる、駄々下がりである。

ドラゴンもヘンガーもいいやつだった。

俺がモンスターと交流するのってかなり難しいんだよね。

威圧してるらしくて。

 

 

だから明日とかにしようぜ?

え、無理?

デスヨネー。

 

 

 

 

 

 

 

 

--2

 

 

ブリーダーが育てるモンスターは数多く存在する。

見た目、能力、性格……異なる個性を考えるとそれこそ無限に広がる。

自分に合ったモンスターを選ぶ、その何気ない行動すらも新人ブリーダーは試されているのは無いだろうか。

そう俺は考えながら、市場を訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モンスターを得る方法は複数ある。

だが、新人のうえにコネも無い俺には手段が限られてしまう。

そのため大会の会場であるコロッセオへと続く大通りの市場に溢れる人の波へと身を任せることにした。

市場で買う以外には神殿に行き、持っている円盤石からモンスターを呼び出すなどもあるのだが、そんな高価な物を持っているわけも無い。

必然的に限られてしまったわけです。

 

 

円盤石ってなぁに?みたいな諸兄のために説明するとモンスターが封印されている石です、ガチで。

昔うんたらかんたらがあってモンスターは石の中に封印されたので儀式で再生して使役しようってことらしい。

*いしのなかにいる。* よりもジュラシックパークのDNAを解読して甦らせる方が近いのだが詳しいことは神官にでもならないとわからないので俺には一生の謎に違いない。

ブリーダーが懇意にするし、トップブリーダーとなるとお抱えなどもいるから神官ってかなり儲かるらしいね。

羨ましいぜ。

 

 

 

本当は最終手段として自分の中で妥協を繰り返してから来るはずだったのだが、リオが率先して俺の手を引っ張りながら歩くので、手を振り解くわけにもいかず来てしまったのだ。

「どのモンスターにしましょうか。私はロードランナーが好きなんですよね」とにこやかにリオが語りかけてくるがどうやらまだ気付いていないらしい。

モンスターを売買できるマーケットの近くまで来て表情が変わったのが見て取れた。

俺が近づいただけでモンスターが震えてしまう。

そう、俺があまりにも強すぎるために動物としての勘か何かで怯えられてしまうのだ。

このまま育てても勝手にストレスがマッハになり、自動で超スパルタ状態になってしまい俺のモンスターは死ぬというBAD ENDが待っているだけだ。

まあ、こんなものだろうと納得しながらマーケットを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故かリオが落ち込んで俺に謝ってきた。

リオが良い娘すぎて俺は感動した。

ここで助手を辞められてしまうのでは無いかと覚悟していたが、そんな気はないらしい。

どうやら俺は素晴らしい助手を得てしまったようだ。

最強すぎてごめんね☆

 

まあ、リオが落ち込んだままでは俺の精神衛生上に良くないのでマーケットは当てにしていなかったことを告げる。

俺ほどになると市場のモンスターでは満足できないのだとも続けて伝えた……新人ブリーダーだけど。

そんな簡単になるほどって納得されても困る。

きらきらした瞳を向けるな。

メモを取るな、君には無関係だ。

純粋すぎるだろ、変な人に騙されたりしなければいいのだが。

 

日が暮れる前にはモンスターを捕ってファームに行く予定なので、近所の山にピクニックへ行く感じの気軽な準備をする。

内容としては昼ごはんと飲み物だけとか完璧すぎて自分が怖い。

予定を教えるとリオが少し心配してきたが魔法使いの俺なら大丈夫だ。

リオの目がキラキラしてるけど魔法に反応したのだろうか。

ちょっとばかり純粋すぎやしないだろうか、この娘……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は今、カウレア火山にいます。

カウレア火山とは溶岩が垂れ流しになっている物凄く熱くて危ない活火山である。

上級モンスターの修行の場としても活用されるのだから一般人にとって危険だろうと俺には全く関係ない。

最強なのでリオを守りながら戦っても余裕、魔法もあるので腕がもげて足が取れていても頭さえ残っていれば簡単に勝てる。

流石に一緒に歩くのは厳しいだろうから背負いながら火山を進む。

 

岩山を苦も無く登り、溶岩の川を飛び越える俺に市場のモンスターなんて必要なかった。

日和った軟弱な市場のモンスターよりもワイルドでワイバーンなノラモンを仲間にすることに決めていたのだ。

市場ではどうせ無理だろうってわかっていたし。

学校のときからドラゴンとかヘンガー以外はほとんど無理だった。

が、仲間にするのは得意だ。

拳で優しく語りかけてどちらが上か理解させてからお願いすれば不思議と友好的になってくれるだろうよ。

 

 

 

もう一度言うが、ここに来た目的はノラモンの捕獲だ。

ノラモンとはブリーダーが育成に失敗して逃がしたモンスターが凶暴化したり、枷が外れて自由に生きるモンスターで、中には人やモンスターに被害を加えてくるモノもいる。

時には伝承でしか聞いたことのない超強力なモンスターが徘徊していたりするのでやべぇよ、みたいな意味もあるんじゃないかなと思ってる。

そんなノラモンの中でもカムイとマグマハートが俺は好きなのである。

この2体はノラモン専用であり、CDから再生できなくて悲しくなったのも思いでの一つ。

そんなモンスターを捕まえに行くことにしたのだ。

カムイの分布は雪山、マグマハートの分布は火山。

流石の俺も装備なしで雪山に突入したら遭難しそうでできなかったのでこのカウレア火山に来たってわけだ。

ノラモン捕獲のヒントはポケモンから得ました。

俺はゲームで憧れたモンスターを育てられて、しかも強いモンスターで楽が出来る。

一石二鳥で震えてきやがるぜ……。

体力を削って交渉するのは俺自身なのだがポケモンとトレーナーの一人二役はきついのでリオにトレーナー役でもやってもらおうかしらん。

 

 

 

ノラモンにもランク分けがあり、マグマハートやカムイはA。

ランクとは公式戦にも使われている強さを分類した指標のことで一番下はE、それから順にD、C、B、A、Sとなる。

Fというランクもあるのだがそのうち説明するかもしれんね。

上位ランクのノラモンとなるとブリーダーが育てた同じランクのモンスターよりも一回りも二回りも強靭でめっちゃ強い。

新人ブリーダーのモンスターなぞレベル100のミュウツーとレベル7のトランセルを彷彿とさせるくらいの差。

ぶっちゃけると一睨みでぶち殺せるレヴェル。

 

 

そんなめっちゃ強いモンスターが相手だろうとも、忘れている人もいるかもしれないが俺自身は強いのだ。

「戦闘力たったの5、ごみ……なに!? 100、1000、2000……まだ上昇するだと!?」ボンっ

「ス、スカウターが壊れた……!? こんなことがあるはずがn」あべしっ!! みたいな展開になるほど強いのだ。

異世界だったら竜殺しの称号はおろか魔王殺しも確実である。

異世界のやつらは見る目が無いよね。

 

 

 

いくらか涼しい場所を見つけたので休憩がてら昼飯。

リオが拾ってきた円盤石のかけらとほのおの羽根を眺める。

円盤石のかけらは発掘の際に円盤石が砕けたり、大量発掘によって供給量を調節する際に捨てられた残りである。

放棄された採掘所や山頂、森の奥地、海の深くを探せば見つかるかもしれない。

その名の通り円盤石の欠片であり、合体の素材としても使えるし、高値でも売れるアイテムだ。

 

羽はゲームでのイベントを消化するとヒノトリというモンスターを得るために必要な物だ。

この世界ではヒノトリが寿命を迎え、火山へと眠りに付くときに、最期の羽ばたきとともに地に落ちてうんたら。

縁起が良いモノとされていて頗る珍しい。

ちなみにゲームの話だがフェニックス火山が初出なのだが、手に入らなかったらカウレア火山でも拾える。

ヒノトリは手塚先生に遠慮したのではないだろうかというくらいの高スペックを誇っているので大会荒らしとかに便利だった気がする。

強いモンスターが出現するディスクを持っていないのでヒノトリで名人になった、みたいな人もいるのではないだろうか。

それくらい強いモンスターだ。

燃えるように輝く羽は見事なまでに美しく、気高き心は人を魅了する、と絶賛されるほどで一度は育ててみたいモンスターとしてブリーダーでは人気を博している。

 

この世界で冒険してもゲームのように欠片や羽といったアイテムは手に入らないのだが、こうも簡単に見つけるリオはどうしてなかなか強運だと言える。

探検隊や捜索隊、救助隊も経験した俺が言うのだから間違いない。

 

 

 

カララギマンゴーを齧っているとリオが何かを見つけたようで、空を指していた。

俺が見た先は青白い炎の鳥が飛んできている姿だった。

数瞬で頭上へと到達し、青白い炎を撒き散らしながら神々しく降り立ったのはS級のノラモン、フェニックスだった。

ゲームで見るよりも透明感のある鮮やかな青い炎を纏っている姿を間近で見られるとは思わなかったが、守護者としては当然のことかもしれない。

自分で言うのも嫌だが、俺ってば邪悪だし。

どうしたものかと悩んでいるとビームを撃ってきた。

マグマハートを捕まえるつもりだったが、気が変わった。

コイツにしよう。

最強の俺と覇道を極めるのなら、最強であるべきだ。

 

 

 

 

 

ビームがリオも巻き込みそうになったから怒っているってわけじゃないんだからっ!!

か、勘違いしないでよねっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リオを腕で抱えながら魔法を放つ。

使うのはムドオンという相手を戦闘不能にする、らしい魔法。

紫の光がフェニックスを囲んで輝いたが効果なし。

不死鳥だから聞かないとでも言うんですか!!

そんなのおかしいですよ、フェニックスさん!!

 

もしかしたら地面タイプの魔法で飛行タイプのフェニックスには効かないとかとんでも理論があるかもしれないがムド系をヒノトリ種に使うのはやめようと思った。

ビームの余波でもダメージを受けると思うのでリオを庇いながら戦うことにする。

今の俺はめだか箱みたく昇りながら戦い、その後落下しながら戦う。

「すごい、落ちながら戦ってる……」とかリオさんが呟いているけど結構余裕あるね、君。

 

リオを途中でさりげなく岩場に隠して戦闘を続行する。

フェニックスも食らいついてくるがリアルモンスターハンターを経験した俺に勝てるわけがないのだ。

人間の限界を超えてこそ俺だ!!と言わんばかりの本気北斗有情破顔拳>∩(・ω・)∩<テーレッテーを使おうかと思ったがやめた。

ビームとか超出るので相手は死んでしまう。

捕まえに来たのに殺してどうする。

 

殺さないように細心の注意を払って感謝パンチ。

感謝の正拳突きなどやったこともないのでただのテレフォンパンチである。

百式観音様は出てこなかった。

出たら出たで怖い……むしろ有り得そうだ。

倒れたフェニックスと暑さでバテているリオを担いで火山から帰る。

 

ノラモンを討伐したのだから賞金を戴くことにした。

修行地の斡旋をしている人を小ばかにしたような糞みたいな顔をしたオッサンを威圧して賞金を請求。

バンダナから目をチラチラと見せて威圧することも忘れない。

そうして存分に怯えさせて得た賞金は3000G。

確かに高額なんだが、S級を討伐してこれとは釈然としない。

解せぬ……。

 

 

 

倒れたフェニックスを右肩に担ぎ、リオを背負いながらファームへ向かう。

青白く燃えるフェニックスを眺めて達成感と世界に一匹しかいないであろうモンスターを手にした満足感に浸る。

俺は素晴らしい相棒とともに名人への一歩を踏み出そうとしているのかもしれない。

 

 

 

 

 

……ごめん、ちょっとカッコつけてみたかっただけだし。

意味なんてない。

とりあえずマグマハートは次の機会にでも取っておくことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺がメギドラオンで吹き飛ばした更地のようなファームに着いたら小さなテクノドラゴンが寝ていた。

なぜだし。

 

 

 

 

 

 

 

--3

 

2月の末に卒業し、3月から新人ブリーダーとして羽ばたいたわけだ。

そんな俺のファームを見てほしい。

文字だけだから見えない?

心眼くらい使えるようにならないと社会に出たときに苦労するのは君たちなのだから練習すべきだと思うのだがどうだろうか。

赤い弓兵の人だって弛まぬ努力の末に修得したのだから頑張るべきだ。

形から入るために赤い衣服でも着用してみてはどうだろうか。

赤い服を着たかな?

よし、練習だ。

イヤッフー!とジャンプも忘れるなよ。

赤い雪男も「赤は緑と比べて素敵ですぞ」とか頭に赤貝を乗っけた赤いだわだわ人形も「緑よりも素敵だわ」って言っているに違いない。

 

 

少しばかり逸れたが、つまるところ俺のファームが色んな意味で凄いのだ。

俺とリオが立っている何もない平地と丘、そして丘の向こうには海が広がっている。

そんな場所のど真ん中に住居と小屋が存在しているとか凄くシュールでリオも驚いているのか言葉が出ないようだ。

寒々しい場所だが澄み渡った青空は、悪くないと思ってしまうから俺も現金な人間だ。

 

この小屋だが俺が時間を見つけてコツコツと形にした自信作だ。

会心の出来だと思っている。

住居は大工を呼んで作ってもらったが実に素晴らしい。

大工さんをべた褒めしたが、そうでもないの一言をもらっただけだった。

大工さん、謙虚ですね。

俺が建築しても良かったのだが本職にやってもらったほうが安心できるし、やはり謎のチート能力による学習効果で作った家とか怖くて住めないわ。

そういえば妹が未だに住んでるって手紙が来たから帰省したら軽く注意しておこう。

 

 

 

俺はファームを自作したがレッドは小屋と居住区が土地に付属してきたとかマジで羨ましいでござる。

しかも街に近いので買い出しも楽とか。

俺なんて海が見える僻地だぜ。

街に行くまでが冒険といっても過言では無い(迫真)。

 

まあ、土地とお金が支給されているのでそれほど文句があるわけでもない。

卒業当初は土地すらなかった俺に校長が融通してくれたという幸運補正で文句を言ったら罰があたる。

でもレッドとの待遇の違いで文句出ちゃうのぉぉぉぉ、らめぇぇぇ、みたいな☆

 

 

土地を紹介してくれた校長マジ天使。

申し訳なさそうにしてたけど、全然かまわない。

校長と会話できるとか超ご褒美。

下世話な話だが校長はマジで美人だから。

とりあえず校長が結婚してくれたら許しますなんて真顔で言ったら冗談に取られたが俺は本気だった。

リンディ校長は××歳なのにあの綺麗さとか、俺がオリ主だったらどうにかしてフラグ立てるレベルの人。

実にもったいない話ですね。

 

 

さて、支給された金銭のこともちょろっと話しておこうか。

支給されたのはなんと3000Gだ、3000Gだぞ。

ブリーダー様さまだよな。

わかりやすく俺の見解を交えて説明するのだが、まず貨幣にはB、S、Gの三つがあるわけだ。

Bはブロンズ、銅貨だ。

Sはシルバー、銀貨だな。

一般人の生活にはBとSが使われる。

1Bは1円、1Sは100円くらいに思ってくれればいいよ。

Gはゴールド、金貨だ。

輝かしき金、黄金の鉄のかたまり的な金。

1Gで1万円。

 

まあ、なんだ……金銭感覚が狂うよな。

ブリーダーの世界ではGが色んな所で使われるから仕方ないのだが。

普通のブリーダー的には500~1000Gくらいで金欠だとかなんとか。

ある意味では特権階級みたいなモノなので貴族ぶった馬鹿がいるのはこのGのせいだと思っている。

賞金とか一番低くても500Gだし。

 

ブリーダー専門店で食い物とか買うとバカっぽい値段になる。

肉もどき300G。

まあ、ひと月分だし許してやるよ。

モンスターのガタイもでかいし、ゴーレムとかドラゴンなんてちょっとした建物よりも大きいから維持費もそれ相応……か?

かなりピン撥ねされていると思うがどうなのだろうか。

 

さらに上位になると大会賞品も狂ってやがる。

金銀財宝の塊みたいなのが出るのだが相場にもよるけど賞金のみで5000Gはくだらない。

マジやべえ。

やっぱり俺ってば勝ち組かもしれない。

フェニックスで大会を荒らすだけでぼろ儲けの予感……っ!!

 

 

 

フェニックスと何故か小屋で寝ていたテクノドラゴンがはしゃいでいたのでド突いて眠らせた。

まだまだだね、と指が6本になったり分身したりするアクションテニスの主人公風に言う。

静かになった今のうちにリオと協力して買い込んできた家具の整理を行う。

タンスとベッドの同時持ちとか俺ってばカッコ良すぎるだろ。

やべっ、入り口でつっかえた……。

 

すぐに整理も終わったので休憩を兼ねたお茶にしようとしたらリオに手伝ってほしいと頼まれた。

え、リオさん住むんですか?

週一または月一で来るだけでも構わないんだけど、僻地だし。

嫌なわけではなくて男と女が二人で住むのって問題あるじゃん?

いや、妹はノーカウントだろう。

まあ、問題が起きるようなことをする気はないけど。

ならいいですねって……Oh…。

何故か同棲が始まってしまった。

恋人もいないのに同棲を体験とかどこの一昔前のエロゲだ。

えっちいことには繋がらないのでギャルゲでしたね、すみません。

 

一体どんなフラグが立ったというのですか……。

いや、むしろ立っていない。

つまりリオの責任感と純粋な心の結果ということか!!

自分の身すらも犠牲にしてブリーダーを目指すなんて愚直で不器用だけどええ娘やなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リオが住むことが決定したので、部屋を決めて即整理、後に休憩としてお茶を啜りながら空を眺めていたらテクノドラゴンがじゃれてきた。

可愛いけど普通の人間が世話できると思えない。

見た感じ子供とはいえドラゴンなので、結構な巨体なのだ。

一般人ならちょっとしたことで骨とか折れるのではないだろうか。

テクノドラゴンの頭を撫でていたら、目覚めたらしいフェニックスが炎を飛ばしながらじゃれてきたので相手をする。

「選ばれた者のドミナント、お望みとあらば見せてやろう!!」なんて叫びながらノリノリで遊ぶ。

「これが、私のドミナントだ、よく見ておくんだな!!」なんてテンションが最高潮に上がったときに叫んでいた。

童心に帰っていたようだ。

今ならガンパレード・マーチを歌いながら敵に突撃できる。

でもそのまま撃破数を稼いで生身で決戦存在になってしまいそうだ。

舞ちゃんを差し置いてヒーローになってしまうのでやっぱり突撃は無しだ。

 

気絶したフェニックスを抱えて街へと向かう。

とんぼ返りだが必要な手続きを忘れていた俺が悪いのだ。

またもリオを背負い、フェニックスを担いで走る俺。

超速移動用の乗り物としても俺は成功しそうだと思ったのは、嬉しいやら悲しいやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街まで遠いのだが、あら不思議。

フェニックスと遊んでいるとすぐに到着。

リオは背中で「凄い、飛びながら戦ってる……」とか呟いてたけど君はそれを言うのが癖なのかね。

あと俺は飛んでいるんじゃなくて空気を蹴っているだけだ。

ワンピースの月歩的なやつ。

魔力を震動させて、空気中の塵を固めることで走ったりもできる。

かなりの無駄スキルだが、使い勝手は中々良いのだ。

ちょっと高いところにある荷物を取ったりするときも楽々です。

加減を間違えると衝撃波でヤバいが、俺を信頼してほしい。

 

街に再び戻って来たのはモンスターを協会に登録するのを忘れていたからだ。

ペット買うときにも許可証があったりするだろう、あれと同じ様なモノだ。

合体させたり、冬眠させたりしても手続きが必要になる場合があるのだが、今は必要ないので省略するとしよう。

俺がカララギマンゴーを齧っていたら先に向かっていたリオが手続きをしていたらしく協会で話をして終わりらしい。

 

 

 

 

 

……フェニックスの名前がドミナントになっていた。

 

 

 

 

 

ま、まあ、フェニックスのままじゃダメだもんな。

賞金とか掛かっていたし、ポジティブに行こう。

カウレア火山の守護として伝承と壮大な絵や銅像が存在するけど気にせずいこう。

ノラモンリストに写真とか写っているけど他モンの空似とでも言っておけばいけるいける。

討伐したって知らせたら暴動に発展するから、秘匿されるだろうし。

俺のモンスターがフェニックスだなんてことは有り得ないし、討伐もされていないという暗黙の了解になるだろう。

一匹しか確認されていない『珍しいヒノトリ種』のモンスターを登録した人物とカウレア火山に一匹しかいないS級の『報奨金』を貰った人物が同じだとしてもなんら関係はないのだ。

むしろ協会のために尽力をつくそうとしている新人ブリーダーがいると感心するが、おかしいことは無い。

でも、偶然の一致ってこわいよねー。

 

 

 

俺はヒノトリを育成する権利を持っていなかったし協会で得ることも無かったが、ドミナントを管理する権利は得た。

協会に行ったらガチムチなモンスターに囲まれてドミナントが連れて行かれそうになったのでOHANASHIに興じることにしたが、やはりサイキョーの俺に敵うモンスターはいなかった。

どうやら俺のアギはドラゴン種のブレスを上回っているようだ。

これはアギダインではない、アギだ、とか出来るけどまずアギ系を使う敵がいないので脅威は伝わらないだろう。

一発ネタにすらならない虚しい一言として大気に溶け往くに違いあるまい。

モンスターは好きだが、俺に懐かないやつと他人のモノはどうでもいいと思う。

他人が大切にしている物が時にはゴミに見えるときって、良くあるじゃん?

流石の俺も協会の偉い人の前なので内心で罵詈雑言を浴びせながら、撫でるに留めたのだけれど。

俺って自重もできるんだぜ……だから褒めてくれよ、マジで……。

 

 

片手でゴーレムを持ち上げながら、どうしても俺が育成したいんです!!ってバンダナを上にチラッ☆とかしながら真摯に頼み込めば不思議なことにお偉いさんはみんな頷いた。

なかなか頷かない頑固な老害もいてイラッとしてしまい、無意識にメギドで室内の机という机を消し飛ばしたけど、特に何も無く平和だった。

話し合いってのは大事だよね。

武力行使は最後の手段だって俺の胸に響いたわ。

 

 

結局、書類上は育成ではなくて管理の権利だけど大して変わらん。

フェニックスを信仰している面子のための建て前だ。

大会に出ないようにって言われたけど、それは無理な相談だ。

「俺も生活があるしお金を稼がないと大変じゃないですか。あ、みなさん服も良い物を着てらっしゃいますし、モンスターの育ちも良さそうですね。いやぁ、懐があったかそうですね……お小遣いほしいナー☆」とかバンダナ外しながらやったら自由に出ていいと許可までもらってしまった。

あなたたちのポケットマネーで毎月500万Gくれたらで静かに生きているといっただけなのだが……。

自己犠牲が足りないね。

気分良く俺はメギドラオンの丘へと帰って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街での話なんだが、俺とドミナントが歩くだけで店じまいするのはやめて欲しい。

リオが可哀相……一緒に歩かなければいいんじゃね。

俺ってば最強で天才なんですね!!

 

 

 

 

 

※却下されました。

一緒に街に来たら供に市場を巡るべきらしい。

リオの真面目さに感服である。

 

 

 

 

 

 

 

--4

 

 

細々と生えた雑草、朽ちた木々、風にほんのりと含まれた塩の香り。

周囲一面の寂れた空間が俺のファームだ。

生物が生きる環境としてはあまり好ましいとは言えないが、俺にとっては都合がいい。

どれだけ地形に被害が出ようとも、誰からも抗議を受けることのないファームでは自由が約束される。

だから手加減を間違えてドミナントを倒してしまったのも、俺の自由と言える。

……言えないよな、ただのミスだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

澄み渡った青空の下で広大な大地を見渡しながらお茶を啜るがどこか物足りない。

紅茶に似たお茶ばかりが流通していて仕方なしに飲んでいるが、やはり日本茶が恋しい。

日本と文化が非常に似通った国が海の向こうにあるので手段を選ばなければ容易に手に入るが、良識内で得ようとするとかなりの金を積む必要がある。

だが、新人ブリーダーの俺には無駄に使える金はほとんどない。

強奪せずに嗜好品を充実させるためにも俺はブリーダーとして稼ぎたい。

 

そんな事情があるのでどの大会に参加するかリオと相談しながら決める。

今週開かれる大会は公式戦のようで、今回はグレードを上げることにした。

通常の大会はどこかの商会や地域がスポンサーとなるが、公式戦は協会が主導する。

公式戦で優勝することが出来れば力量が認められ、ブリーダーは段位を得ることができる。

そして優勝したモンスターは一つ上のランクに挑戦できるようになるのだ。

つまりグレードとは育成しているモンスターの強さと参加できる大会の上限をランクとして表しているのだ。

今はEだが、Dへと昇格すればDとEの両方の大会にも出場できるようになる。

ゲームだと下のランクに参戦するとファンがガッカリして人気が落ちるのだがこの世界だとどうなるのだろうか。

とあるモンスター達は一つ上のランクに参加できるという特権を持っている。

俺のドミナントも似たようなモノなのだから上位に出場できる特権を認めて欲しいくらいだ。

 

ドミナントをEランクに出場させるのは心苦しいが金稼ぎには代えられない。

しょうがないのよね、これってブリーダーの定めだから。

ファームの体裁を整え、ライフラインを繋いだらあっという間に支給金が溶けてしまったので貯金を切り崩す予定だったが、ノラモン討伐金3000Gのおかげで何とかやっていけそうだ。

当面の間はこれで凌いで開催される大会に乗り込んで、畳を買うのが今年の目標である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気絶したドミナントにディアラハンをかける。

ディアラハンとは味方単体のHPを全回復する回復魔法だ。

これの御蔭でドミナントを思う存分ボコれ……修行できる。

実戦あるのみだ。

トレーニング用品ないし。

 

サマリカームという行動不能から回復できる魔法があるのだが、効果が重複している気がする。

死亡から蘇ったりとかするのかもしれないが予測の域を超えない。

さすがの俺も試すのが躊躇われる。

魔法一つの為に死ぬのも嫌だし、殺すのも嫌だ。

死にかけたときに使ってみようと思うが、ディアラハンですぐに回復するから検証できる日がくるのかわからない。

 

目覚めたドミナントと戦闘。

当たり前のように小屋に住み着いたテクノドラゴンも参戦してファームの真上は魔法やビーム、ブレスが飛び交う混沌へと陥った。

マカラカーンで反射、余裕でした。

マカラカーンとは魔法を反射する魔法で、モンスターの遠距離攻撃のほとんどを跳ね返すことができる。

ロケットパンチやズームパンチのような物理攻撃は無理だ。

時々、「コンセントレイト……テンタラフー!!」と意味の無いコンボをしたくなるのだがなぜだろうか。

 

気絶したドミナントとテクノドラゴンに回復魔法をかけて一息つく。

「テクノドラゴンの名前を決めなくては……テクモでもいいかもしれん、発売元的に考えて」とか考えながらリオを探す。

すぐに後姿を見つけることが出来た。

今日のリオの髪型はポニーテール、健康的で実によいです。

どうやら街に行ったときに試しに頼んだ宅配便が来たらしく、荷物を置いて去って行った。

恐竜型のモンスターであるロードランナー3匹が届けに来たらしく、リオのサインを貰うとすぐに街へと引き返していった。

 

届いた荷物の品質は期待以上だった。

手荒に扱われていても仕方ないと思っていたので嬉しい限りだ。

街で代金を先払いして注文するだけだし今度から贔屓にさせてもらおう。

飲食物は定期的に届けてもらうようにするのもいいだかもしれない。

ゲームのようにショップを選択するだけで気軽に買い物、とはいかないのだ。

大会に出場するし、その折に注文を済ませば無駄に行き来することも無くなるし。

ファームは悪くないが、辺鄙な位置だから「でえじょうぶだ、ドラゴンボールで生き返る」くらい軽々しく何でもできないのだ。

まあ、ドミナントとテクノドラゴンがいるので不便では無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

週末になり、公式戦が開催されるので街へと訪れた。

ドミナントとテクノドラゴンを連れ歩く俺はきっと一流のブリーダーに見えるだろう。

実際は初心者マークすら取れていない新米のペーペーなのだが、S級に殴り込んでも問題ないのできっと俺は一流。

大会のエントリー手続きまで時間があるので適当な店に入ってリオと贅沢なティータイムに突入したかったがモンスターを連れながら入れる店が無かったでござる。

探せば見つかるだろうが、そんな時間も無い。

 

 

仕方ないので「いいぜ、お前らが店を閉めるって言うなら俺のドミナントがその幻想をぶち壊す!!」なんて悪ノリしながら街を練り歩く。

目を合わせた瞬間逸らされたりするけど、絶対に逆効果だろ。

絡みたくなってくるし、むしろ絡んで欲しいんだろ?

まったく……ドMな連中だな。

俺がメンチビーム、ドミナントが火力を上げて輝く。

ほうら、明るくなったろう。

 

 

 

 

 

リオさんに怒られたけど問題ない。

正座するドミナントがすごく、シュールです。

あ、はい。

バンダナを取ったのは悪ふざけです。

いや、そんな俺の目つきが、もとい瞳が悪いみたいな言い方……。

魔眼じゃないです。

いえ、いえ。

すみません、街中でバンダナは取らない様にします。

 

 

 

テクノドラゴン、慰めてくれるんだな……。

優しいやつだよ、おまえは。

ちょ、俺のカララギマンゴー盗るな。

おのれ、食い物目当てか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会場の前まで来ると人がごった返していたが、俺たちには関係なかった。

進行方向にいる連中が勝手に散っていくのでモーゼの十戒?とかいうやつみたいな気分で受付まで歩く。

「なんて凶悪な……」とか「貫録がYABEEEEEE」とか「へへ、今日のSランクは見ごたえがあるぜ」とか、「ちくわ大明神」とか話し声が聞こえる。

誰だ、貴様ら。

悪いがコイツはEなので皆の期待に応えられそうにないよ。

俺のブリーダーランクもE、グレードもEなので残念だがEに出場する。

参加者には悪いが犠牲になってもらうしかないのだ。

 

 

 

登録を終えて「さあ、行こう」と気合を入れたら声をかけられた。

後ろに立っていたのは石の躰を持つドラゴン・ジハードを連れたオレンジの色眼鏡をかけた長身の男だった。

ジハードとはドラゴンをベースにし、ゴーレムをサブとして混ぜたモンスターである。

凄まじいパワーがあるのだが、ドラゴンの欠点である短命を引き継いでいるために育成はかなり難しい。

 

新入りか?いいモンスターだな……これからが楽しみ云々。

皮肉気な笑みを浮かべながら去って行ったが胡散臭さが隙間BBA並だ。

空色の髪の毛、猫背気味の姿勢、意味深な笑い、色眼鏡、俺よりも頭一つ分は高い身長。

オーヴァンというS級ブリーダーらしい。

俺には関係ないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

公式戦か、なんと都合のいいことか。

それだけが大会後の感想だった。

結果は優勝だったがどうも納得のいかない展開だった。

不完全燃焼といってもいい。

やはりEランクに籍を置くモンスターではドミナントを前にすることすら難しかった。

戦闘前に睨みつけるだけでほとんどのモンスターが気絶してしまったのだ。

どうにか堪えても、近づこうとして熱風に煽られて倒れるといった不始末。

棄権すればいいものを……力量の差を理解できんひよっこどもには勿体ないとすら思えるのだが、敵前で構えるドミナントの律儀な性格故だろうか。

 

ほとんど何もしていないのに病院直葬……直送である。

棄権したブリーダーのワームが準優勝していた。

彼は大物になる、とか思わせぶりに呟いてリオを驚かせる。

正直、俺には全くわからんが才能はあると思う。

俺よりは確実に。

モンスターが怯えるってブリーダーとしては致命的だからな。

いいハンターは動物に好かれるって狩人漫画のカイトが言っていたけど、モンスターに嫌われる俺はなんだというのだ、そしてブラックリストハンターも動物に好かれた方が優秀なのだろうか。

まあ、あのワームも上手く育てたら羽化→変態コンボで別の姿になれる。

でも初代と違って2は羽化しても補正が特に無いのであまり嬉しくはない気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

賞金を受け取り、周りの視線を受け流し、リオと合流。

この後は宅配を頼んで、露天を冷やかして帰る予定だが物足りない。

困惑と怯えの入り混じった視線の方向へと顔を向け、そいつらのモンスターを眺める。

強さはD、よくてもCの中位といったグレードだ。

これでは足りないどころの話ではない……。

この程度ではドミナントが育っているのか、全くわからない。

数値は上昇しているが、実戦での変動を見たかったのだが。

 

「何か物足りなそうだな?」

 

せせら笑うようなオーヴァンの声。

笑っている姿はやはり胡散臭さでいっぱいだ。

ジハードの歩く姿を見ても、振れ無い軸を見せつけられるだけだ。

練度は最高クラスだろう。

闘ってみたいが、俺はEランクごとき。

S級との私闘なぞ、それこそ協会が黙っていないはず。

 

「目的は果たしたのだろう。それでも足りないというのなら」

 

 

 

 

 

――いいだろう揉んでやろうじゃないか――

 

 

 

 

 

佇んでいたジハードが咆えた。

それは地の底から響く、怨嗟のようで。

強く気高い咆哮だった。

 

 

ひどく魅力的に思えた。

心が疼き、揺らされたようだった。

S級の力量を実際に試す機会なぞ、今の俺ではありえない。

協会を無視して戦いに興じたい……が、街中でやるわけにはいかない。

出場停止や権利の取り消しなんて喰らったら目も当てられん。

それに、すぐ近くにはリオもいる。

残念だが……頗る残念だが、断った。

 

だろうな、などと喉を鳴らしてオーヴァンは心底愉快そうに飛び去って行った。

挑発してきたのはドミナント=フェニックスを知って試しに来たか、それとも別の目的か。

オレンジ色のレンズの向こうにある瞳からは判断が付かなかった。

ただの愉快犯の可能性もあるから困る。

呆けているリオを担いでドミナントに飛び乗る。

騒ぎが広がる前に逃げなければ面倒事に繋がりそうだからな。

露天の冷やかしはまた後日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レッドから祝いの手紙が届いたのは次の日だった。

早すぎるだろ、手紙。

自分の足で届けに来たとか無いだろうな……。

手紙の名前にレッドって書くのは気に入っているってことでいいよな。

これからもレッドと呼ぼう。

なんてことを考えながらほんのりと甘い茶を啜る。

 

 

嗚呼、渋い茶が飲みたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--5

 

 

最近、リオがロードランナーの育成を始めた。

ロードランナーとは緑色の恐竜型のモンスターで、派生種の数が非常に多く存在する。

ゲームでは技数が最多であり、ステータスの伸びや寿命は平均に位置していた。

真面目な性格で扱いやすく、人よりも力強いうえに移動速度も速いので荷運びや騎乗目的で飼われていることもあるモンスターだ。

円盤石も数多く発見されているので一般的に普及しており、街に行けば必ず出会えるとあってIMaを代表するモンスターとも言えるだろう。

そんな幅広く活用されるロードランナーに騎乗してドヤ顔を披露した後に颯爽と走り去ったリオの後姿を眺めながら、新人にしてはモンスターの保有数が多いのではないかと思った。

まあ、モンスターは嫌いではないので家計が火の車にならない限りは歓迎しようじゃないか。

家計が火の車ってまさに火計じゃね……これこそどうでもいいですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

満足気に帰って来たリオに茶を淹れる。

茶を淹れるのも慣れたモノで、普通の人よりは上手に淹れられる自信がある。

ティーパックで高級茶葉を超えるお茶を生み出したり、流れるような動作ですべてを熟したり、料理の英霊が淹れるお茶を超えるといった超技能には幾分も劣るのだが。

料理系統は俺のチート能力をもってしても伸びがかなり悪いので、不得意技能に設定されているのかもしれない。

流石にレシピ見ながら毒物の錬成や酸味のために薬物の投与などを行うオートスキルは発動しないので人並みに努力すれば結果が出る。

 

歩くような速さで、といった具合に技術を身に付けるのは新鮮だ。

勝手に技能が上がっていくような身体では、今頃すべてに飽いてしまっていただろう。

色々と偏見を持たれて嫌われるのも人生のちょっとしたアクセントとして捉えるのも悪くないと思える。

……ああ、でも近づいただけで泣き叫ばれたり平服されたり、威嚇されるのは心苦しいものがある。

やはり嫌われるのをポジティブに考えるのはどうも難しい、前言撤回をしてしまいそうだ。

 

 

 

街へ行ってきたリオが面白い話を聞いてきたらしいので耳を傾ける。

近いうちにサーカスが街に滞在して活動する予定があるのだとか。

学校へ活動の報告に行ったり、配達のロードランナーとともに街へ行くリオの御蔭でこういった世間の話題に置いて行かれずに済む。

慣れた同期に世間話をするのと同じように俺が街中で気軽に情報収集などすれば阿鼻叫喚の嵐である。

世間の常識から切り離されずに保っていられるのでリオが助手で本当に良かったと言える。

 

リオの話で出てきたサーカスだが、思い出すのはモンスターファーム5だろうか。

モンスターファームと銘打った珍作の中の珍作だ。

主人公がサーカス団に所属しているのでモンスターをサーカスのテントで育て、芸を仕込む。

いや、もうこれファームで育成してないからモンスターファームでも何でも無いだろうなんて思いながらやっていた。

育成がボタン押しの作業ゲーになってしまい、やる気が萎えてしまうという重大な欠点を抱えている。

4でいちいちファームを駆け巡ってモンスターの世話をする怠ゲーが改善されるかと期待したら、それを上回る劣悪な仕上がりになるなんて誰が思っただろうか。

 

サーカスが開かれたら一度行こうか、と誘ってみる。

普段はクールなリオが嬉しそうに笑いながら何度も頷いている姿を見ると俺も嬉しくなる。

ときどき見ることのできる明るい表情はかなりクるモノがある。

世界中の争いが無くなるのではないだろうかと思えるほどに癒されるのだ。

別に、ホリィ派だがリオ派に移っても構わんのだろう?

え……?

コル、ト……?

 

 

 

リオに癒されながら、今朝届いたソレを読み直す。

協会、先生、先輩、後輩、同期、そして家族から送られてきた手紙を。

予想外の内容で少し動揺している。

リオも不思議そうに手紙に視線を向けている。

 

協会からは初段認定と無期限の謹慎についてだ。

オーヴァンと睨み合ったのは存外、都合が悪かったらしい。

手紙には内容はブリーダーとしての品性が~などと書かれているが大会では気が立っているモンスター同士が睨み合うなど日常茶飯事だ。

本当に俺が邪魔らしい。

都合よく俺を封じ込める口実を与えて、隙を晒しただけとなってしまった。

まあ、これはどうにでもなるのでどうでもいい。

頗るどうでもいい。

オーヴァンに呪いの手紙でも贈りたくなるくらいどうでもいい。

元より歓迎されていないことなどわかっていたのだから。

 

先生、先輩、後輩、同期からは祝いの言葉が述べられていた。

世話になっているのだからじっくりと返事を書こうと思う。

レッドが最速だったが、親友のピクシーからもその一時間後に来たというのは驚かされた。

そのうち優勝した瞬間に手渡しとかされるかもしれん。

 

これらは問題ではない。

予想外だったのは家族からの手紙だった。

妹の筆跡で「Sランクになるまで帰ってくるな」とのことで、俺はショックを受けた。

今週にでも顔を出そうと思っていたのに、来年まで帰れないじゃないか……と。

公式戦の開催は三か月に一度だから来年の6月までお預けらしい。

リオに話すと呆れられたが、仕方ないじゃないか。

会いたいモノは会いたいのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最速でSへとたどり着く予定を立てている俺と違い、リオは謹慎ばかりが気になっているらしい。

初段認定しておいての無期延期とはどうなのだろうと言ってみたが、的外れな事を言ってしまったらしく怒られてしまったよ。

協会の面子を全力で潰しにかかれば解かれるだろうし、謹慎の解除が成されなければ別の国に行くとでも伝えてもいいだろう。

全力で嫌がらせするしかないやんけ!

リオは少し気に病み過ぎると思うのだがどうだろうか。

 

とりあえず面子を削りつつ、被害を与える方針を取る。

街を襲撃でもいいが、これ以上見知らぬ人から悪意を浴びるのは遠慮したいので過激な手は使わない。

競っている相手に加担して叩かせれば俺にとってもかなり都合がいいだろう。

そんな発想で俺はレースへ出場することを決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブリーダー。

それは協会が指定する専門の学校を卒業した者が持つことのできる者の総称だ。

一般人であろうとも金があればモンスターを育成できるが、ブリーダーでなければ大会へと出場させることが出来ない。

モンスターを使役させる最上級の資格とも言える。

ブリーダーと括っても目指す目標、育成の方向、就く職業、それぞれが異なるため多岐に渡る。

そして、ブリーダーを二種類に大別することが出来る。

 

 

その一つが最も人気が高く、競技人口が多いコンバットと呼ばれるモンスター同士を戦わせる競技だ。

ブリーダーの多くがコンバット専用にモンスターを育成しており、俺やレッド、オーヴァン、先輩、先生など知り合いも多く参加している。

学校でもコンバットについて学ぶことがほとんどだということからどれほど傾倒しているかわかってもらえるだろうか。

 

もう一つは特殊な能力(先ほどの話にも出てきたサーカスのモンスターも同じであるのだが)に特化させて職に就かせるブリーダーの総称をメーカーと呼ぶ。

そんなメーカーの中でも特に人気があるのはレースだ。

レースとはコンバットで詰まりを感じた者やメーカーの多くが参加している競技で、競技人口はコンバットに次ぎ、その名の通りモンスターでレースを行うのだ。

上位はレース専門に育てられているため、俺とドミナントでも勝ちを拾うのは難しい。

しかし、下位程度なら問題を一つとして見つけることが出来ないほどに楽勝なのだ。

そして何よりも、コンバットと違う点は賭けが行えることだ。

一レースに一組のみを選び、賭け金を注ぐ形式は俺にとって都合がいい。

 

レースのルールは単純でスタートからゴールまで最も速くたどり着いた者が勝者となる。

コースは陸海空の3種類。

モンスターの背に乗り、競い合うスポーツ。

コンバットのようなモンスター同士の苛烈な戦いに一歩劣るものの全力で駆けぬけるモンスターの疾走感から人気は高く、協会が胴元となって公に許可されている賭けが更に人気を呼んでいる。

レースにはコンバット同様、ブリーダーならば参加することが可能だ。

出場する階級はコンバットのランクやブリーダーランクなどが関係してくるらしいが、あまり俺には意味が無い。

 

 

 

 

 

 

 

滞り無くD級のレースへの参加が決まった。

ドミナントの容姿でもDが許可されるのだからザルな管理だ。

まあ、ヒノトリ種も多く参加するからこんなものかもしれないが。

 

当日の飛び入り参加、経験なし、雰囲気が悪いなどの要因が合わさって不人気一直線だ。

前の二つは仕方ないとしても、雰囲気は関係ないだろう。

俺だって気にしているのだから優しくしてもらいたい。

リオに頼んで俺のヘソクリを賭けてもらい、勝つだけ。

まさに出来レースだ。

勝てなければ馬鹿を晒すことになるが、俺は勝てない試合に挑むつもりはない。

コンバットの大会に過剰に出場しなくとも楽に畳や緑茶といった日本っぽい物が手に入りそうだ。

IMaは噎び泣いて喜ぶに違いない。

謹慎にして油断している最中にお財布に穴が空くのだから。

 

火薬の炸裂音とともにアーケロが火を吹き、レース開始を告げる。

一斉に飛び出した参加者たちの後ろへとドミナントがゆっくりと迫る。

ルールはすでに確認済みの今、ドミナントに死角はない。

妨害こそがこの競技の華でもあるのだから、最低限度のルールを守っていれば何をしようとも自由だ。

つまり全員を薙ぎ払ってもルール内ならば、自由ということになる。

 

コースはここらの海を飛んで遠くに見える小島を旋回して戻ってくる簡単なもの。

レース専用のメーカーが参加しているはずもなく、ドミナントと比べると速度が一段、二段、劣る。

ドミナントが火炎を放つ。

落下で死亡されでもしたら困るので、ポケモンが瀕死状態でも空を飛べる程度には手加減している。

全員を片っ端から撃墜し、悠々とゴール。

ブーイングを浴びながらのモビウスターン、俺の機動は変態だぜ。

メビウスって英語音声だとモビウスに聞こえるんだよな。

優勝が居心地の悪いため、コンバットなら無視して帰るが今日はインタビューを受ける。

「コンバットに復帰できるまで参加し続けます☆(キラッ)」とアピールしたので何らかの形となって謹慎が解かれるのではないだろうか。

態と出場者を全員撃墜したのだからこれ幸いと協会のレース派のお偉いさんが抗議するだろうし、観客や出場者も素晴らしいアクションを起こしてくれるだろう。

俺には関与できないので実に残念だ。

ザンネンダナー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日には抗議の手紙がもっさりと届いた。

中には真面目な抗議文もあるだろうが、いくつかは流れに乗って鬱憤を晴らそうとしたやつらが書いた文も混ざっているに違いない。

とりあえず内容を読んで、真面目な抗議文は真摯に受け止めてから燃やす。

俺は悪役から逃れられないのだからどうしようもないし。

謝罪するとなると自分が間違っていたと認めることになる。

ここは無かったことにさせてもらおう。

 

明らかに嫌がらせっぽい手紙には住所と名前が書かれていなかったが同期の伝手を利用して「今度OHANASHIに行く☆」と返事を送る。

もう一通送って来たら行くが、今回は怯えさせるだけにする。

直接出向いて家を吹き飛ばしてもいいが、俺は器が大きいから許してやるよ。

証拠として手紙は保管しておくが。

 

 

 

自分のせいもあるがあまりに不人気すぎると思う。

そのうちリアルチャッキー人形が送られてくるのでは、と思うほどの不人気っぷり。

ゲーム内のチャッキー人形はファンから送られてくるが、俺にも送られるのではないだろうか。

そんなことを考えていたらなぜか人形師からファンレターが来た。

ドミナントの青い炎がカッコいい云々。

この人は良く出来たファンだ、特別にドミナントの羽根を贈ってやろう。

……チャッキーフラグが立ったか?

いや、でもあれはファンの人形師が造ったってわけでもないから違う、のか?

わからんが、良いファンだ。

今はそれだけでいいだろうよ。

 

レースの準備をしていたが、翌週に謹慎が解除された。

均衡を保っていたレースを荒らすのは~らしいが知らんがな。

コンバットにさえ参加できれば用は無い。

ちなみにレースは3か月の出場停止。

抗議が凄いから自重しろと釘を刺されたが、今後は参加しないので安心してくれ。

コンバット次第だけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6月の半ばを過ぎた頃、どのランクのモンスターでも参加することの出来るFランクの大会が開催されていた。

延命アイテムである白銀モモが賞品なので参加する予定だったが不参加を余儀なくされた。

シルバー杯だったので参加出来なかっただけだが。

シルバー杯というのは6歳3か月を超えているモンスターが参加できる大会である。

戦闘中に死ぬモンスターとかいそうだ。

結構な歳だし。

 

そういえばドミナントって何歳なのだろうか。

ノラモンだったし、すでに成長しきっている気がしないでもない。

ヒノトリは死に際に飛び去るモンスターである。

もしかしたらドミナントは死に際から再び蘇り強力な能力を得た、という設定があるかもしれない。

清麿のアンサートーカーみたいな感じで。

まあ、フェニックスはカウレア火山の守護神なので最初から強かった可能性もある。

最初は何時か、なんて話をしたら歴史や哲学になりそうなので深くは考えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏も近づき、日差しが強くなってきた。

予定としては月末に公式戦で勝ち抜き、来月にある選抜戦で優勝するつもりだ。

ホリィを生で見たいのと、初代のモンスターを生で見たいというミーハー根性。

……等も勿論あるが、一番の理由はエヴァ先輩に強要されたから。

今年は勝ちに行きたいのでフェニックスに期待している、とか。

アララ、バレテーラ。

 

大会に向けて訓練を行う。

テクノドラゴンが調子に乗って小屋が焼けた。

すぐに消し止めたが、俺のモンスターとなるのなら躾けとケジメは付けるべきだ。

「ブレスで小火が起きたのでわからんのか?イレギュラーなんだよ、やりすぎたんだ。おまえはな!!」とテクノドラゴンをお仕置きも兼ねて追いかけるついでにドミナントも襲う。

残像出しながらの追撃はかなり有効だった。

 

その姿を見ていたリオは笑っていた。

美人は笑うべきだと思う、ホントに。

ああ、でもリオはあまり外で笑わないほうがいいかもしれない。

変なのに絡まれたら困るし、見るのは俺だけでいい。

いや、独占したいとかじゃないですよ。

ホントダヨ?

 

 

 

 

 

 

 

 

--6

 

 

有史以来、人類は様々なモンスターを手に入れ、文明はその力に導かれて歩んできた。

では、ドミナントほどのモンスターが導く文明の行き先は何だ?

温泉だよ。全てを癒すことできる温泉だ。

俺の意思が、リオの無意識が、週末を望んでいるのだ!!

 

 

 

そんな感じで温泉を掘ったわけだ。

もちろん、魔法も使いました。

トレジャーサーチというアイテムを探す補助魔法を温泉探索に利用した。

ノラモンハンターしつつトレジャーハンターをして学費を稼いだ俺に温泉を見つけることなど朝飯前なのだよ。

で、温泉の予感を感じ取ったので全力でゴッドハンドを使ってみたら地面をえぐり取って湯が噴き出した。

実際はゲームに温泉イベントがあったからもしかして……などと思ってやってみたが本当にあるとは……。

 

地中すらも攻撃範囲とか俺最強すぎる。

金色の拳を召喚して地面をプリンのように抉るチート持ちが魔王のいない世界で穴を掘っているよ!!

魔王に脅かされている世界は逸早く俺を召喚すべき。

今なら聖剣・魔剣に取り付いている幼女精霊なしで討伐します。

……なんてね☆

 

水浸しになったファームを眺めながら後片付けからどう逃れるかを考える。

穴はドミナントを詰め込んで塞いでいるのでこれ以上、お湯が出ないが湯量や温度の調節を行って風呂の形にしなければならない。

街の謙虚な大工さんでも呼べば一晩で作ってくれそうなんだが。

そんな俺はダンボール戦士へとジョブチェンジ。

リオに見つからないように逃げ出すのが最優先事項。

 

 

 

 

 

このまま気付かれずに進めば……!?

 

 

 

 

 

 

なぜ、リオがここに……。

え、ロードランナーと街に行くつもりだった?

糞が、最悪だぜ。ついてねえ!ついてねえよ!

リオから、光が逆流する……!

 

 

 

 

 

ちょろっと説教されたが街まで一緒に買い物へ行ったら機嫌が直ったようだ。

風呂の材料を買い出しに行っただけだが楽しそうだったので良しとした。

ドミナント?

ははっ、ずっと蓋になっていてくれたよ。

 

マハラギダインでドミナントごと燃やして水分を飛ばす。

赦せ、ドミナント……これも修行の一つだ。

建築の知識など全くないが適当に土をグラダインの重力で圧し潰して土台を作り、柱やら壁やら屋根をこれまた超適当に組み立てる。

仕上げに石化状態にするペトラマを使って完成。

石化させておけば大丈夫だろ、たぶん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PS1のモンスターファームは育成数が一体なのだが、流石に一体のみだと効率が悪いということで同時に複数のモンスターを育成するブリーダーが結構いる。

お金や管理能力と要相談だが、自信があるのならやってみる価値がある。

新人ブリーダーには同時育成なんてするやついないが魔法使いで最強の俺は格が違った。

ヒノトリ種に次いでドラゴン種までも育成することに踏み切ったのだ。

 

というか、リオが風呂の材料を買い込んでいるついでにテクノドラゴンを俺のモンスターとして登録していただけだ。

登録されてなかったし、ノラモンとして暴れられたら協会としても面倒なので俺が育てることになった。

名前はイレギュラー。

……まさに俺のイレギュラーというわけだ。

べ、べつに嫌なわけじゃないですよ。

協会が「騙して悪いが」とか言いながら闇討ちしてこないか心配しているだけです。

されるとしたら依頼料は前払いだから対策もばっちり出来るネ☆

 

面倒事が嫌いなあの人がファンタズマに乗って俺の命を狙うとか、ちょっとわくわくする。

ファンタズマってエビに似てるよね。

ファンタズマ・シュリンプとか……無いな。

OOガンダムのアルヴァトーレにもちょっと似てるし、アルヴァトーレ・シュリンプとかどうだろうか。

ファンタズマどこいったし。

いや、モンスターファームなのだからブリーダーとして登場するだろうし育成モンスターは……アローヘッドだな。

アローヘッドとは凶暴なアメリカザリガニのようなモンスターだ。

水中は凄く速く動くらしいが残念ながらゲームには水中戦が無いので鈍重だった。

ザリガニさん、レースがあって良かったですね。

 

 

 

 

 

 

今日は今月のメインイベントである公式戦に殴り込みである。

怯え、崇めよ、グミンドモー、HAHAHAHAHAHAHA☆なんてノリで会場へダイナミックエントリー。

リオは俺を無視してイレギュラーとともに買い物へ行った。

……少しくらい相手にしてくれたっていいじゃんか。

 

そんなこんなで俺の試合まで控え室で行儀よく待つ。

試合前にプレッシャーをかけてもいいが覇王な俺は静かに佇むばかりである。

リオにかっこいい俺(笑)を見せるために真面目に挑むわけだ。

戦うのはドミナントだから俺が頑張っても意味ないのよね。

……あれ、かっこいい俺(笑)じゃなくてかっこいいドミナントになる予感。

やべぇ、テンション下がった。

 

静かにドミナントを撫でていても周りにはブリーダーやモンスター、係員が近寄って来ない。

遠巻きに見られているのだ、チラッ☆ってレベルで。

黒服の強面なオニーサンが数人ほど監視しているけど、なんか扱い悪くね?

見物料としてモンスターに命(タマ)取ったらぁ!!なんてね☆

黒服のオニーサンやブリーダーが泡吹いて倒れたり、モンスターが平伏したりとあったけど私は元気です。

 

 

 

下がりきったやる気を回復させるために外で待つことにした。

入口は人が多いので裏口から行ける寂しい広場を選んだあたり、俺は空気が読めるイケてるメンズ。

まさにソラメンだ。

空を眺めると2体のモンスターがデッドヒート。

空の部門のレースだろうか。

あれはメーカーのモンスターだ。

一目でわかるほどにこの前のレースのモンスターとは練度が違う。

 

何よりも速く、効率よく飛ぶための育成。

最速を目指している親友を思い出す。

 

天に近づき、重力の鎖に縛られて。

それでも空を諦めず、憧れは誰よりも高く……なんてね。

 

今日もどこかで飛んでいるのだろう。

レースがあるからだけでは無くて、あいつは本当に空が好きだから。

 

 

 

 

 

 

 

ところで、俺はサイファーよりもメビウス1のほうが好きなのだ。

でもあいつはどう考えてもピクシーっぽい。

「よう、相棒」とか言うし。

飛んでいる姿は妖精です、ドラゴンに乗っているけど。

あだ名通りで行くと裏切られるけどそうならないように願っておこう。

だってビーム撃つ戦闘機が敵になるんだぜ。

ミサイルを何発当てようともぴんぴんしているし。

スーパーロボットと同じジャンルだろう、あれは。

 

 

 

 

 

 

 

会場から歓声が聞こえたので試合が終わったのだろう。

係員もおどおどしながら知らせに来たのでドミナントに飛び乗って空から様子見。

黒服さんが警戒しまくりとか俺の事を煽っているのかと。

まあ、どうでもいいですね。

 

俺のチートアイズは赤いアーチャーをも超える視力……かどうかはわからんがとにかく目がいいのだ。

歓声に包まれているのは同期のレッド。

俺がプレゼントした独特のキャップを見れば一目でわかる。

レッドなら帽子は必須アイテムだし、この世界ではオリジナリティー溢れるハイカラアイテムだからな。

俺の手製だから凄く丈夫なんだぜ?

 

たったの3か月あまりで公式戦を優勝とは、さすがだと思う。

純正のモッチーだし、ふつうは難しいだろうに。

まあ、学校の実技で育てていた相棒だから成し得たとも言える。

練度と寿命のハンデを抱えることになるが、吉と出るか凶と出るか。

経験不足を補うには都合が良いとは思うが、どうなるだろう。

 

まあ、欲を言えば電気ネズミっぽいのを育てて欲しかった。

電気ネズミっぽいモンスターってなんだろうか。

雷様スタイルのモッチーもいたが、あれはキモいから却下だ。

サンダーVとかか?

いやいや、ごつすぎるだろう。

あと、サクラモチって名前は安直すぎると思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドミナントの背に乗ったまま会場へ。

俺が登場しただけで水を打ったような沈黙。

まさに舞い降りた救世主だ。

俺ほど浅いブリーダー歴でここまで注目を浴びた奴はきっといない。

というか俺がDランクだってことを忘れている人もいるはず。

レッドに「ここまでは教科書に載っているぞ」と謎のカッコつけの言葉をかけてから試合に臨む。

意味としてはブリーダーとして生きるならEは超えて当たり前、Dを超えるなら自分で考えろって感じカナー☆

同じ新人の俺が何を言ってるのだろうか。

しかしチートモンスターを使ってる俺の格言は「心に棚を作れ」だから問題無かった。

結局、鉤爪で引っ掻いて終わりだ。

怪我が嫌なら棄権すべきそうすべき。

『見る目』が悪い奴は強くなれるわけが無いのだから。

 

優勝賞金を貰って爽やかに帰宅。

何時までも静まり返った会場でトロフィーの授与とか俺ですら嬉しくないから。

リオが嬉しそうだったので来てよかったけど。

公式戦は賞金が微妙で俺は悲しいよ。

 

 

 

ドミナントにオイリーオイルを与えながらリオが街で買ってきたオイルでイレギュラーを磨く。

モンスターファームにおいてオイリーオイルは最強のアイテムの一角である。

とりあえず疲れが取れる、と考えてくれればおk。

 

イレギュラーの機械部分をバラしてオーバーホール。

学校で年老いたヘンガーを育てていた俺に隙は無かったのだ。

ヘンガーについては未知の学問として取り上げられているので簡単なことしか出来ないが、それでも疲労やストレスが除くことができる知識と技術なので重宝している。

イレギュラーはテクノドラゴンという種でドラゴンをメインにヘンガーを合体させたモンスターだ。

結構貴重なのだが、なぜかファームで昼寝をしていた。

上位のブリーダーが育てようとして逃げられたと予想。

ドラゴン種ってピーキーだしね。

学校に入る前に育てたけど一般人だと死ぬ可能性もあるし、超あぶねー。

ジハードを育てているオーヴァンとか明らかに変態だ、超あぶねー。

でも親友もドラゴンを育てていたわ。

あいつも変態だったのか、超あぶねー。

 

 

 

 

 

 

 

7月の頭に熱烈なファンレターと抗議文が届いた……っ!!

協会から届いた段位上昇の手紙は斜め読み。

抗議文はとりあえず保管して同じ人物から来たら通報、一回目は許す。

世間の声に耳を貸すべきだよね、とファンレターを呼んで返事を書く。

なんか崇拝されているような文である。

ドミナントの神気に当てられたんじゃねって感じだ。

家族からの手紙は文字が消えるまで読んで、円盤石の欠片とお金を包んで返事を送る。

俺は家族サービスを大切にしているのだ。

 

円盤石ってのは前述したとおりモンスターを再生することができるのだが、円盤石の欠片というアイテムは合体時に使うと補正がかかる、みたいな感じだったはず。

売れば高いし、価値も変わり難いので貯蓄や仕送りに向いている、と俺が勝手に妄想している。

 

こんな感じで一日は過ぎていくのだ。

そろそろお茶や畳を注文すべきだな。

 

 

 

 

 

あ、まだドミナントとイレギュラーを追いかけてなかったわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--7

 

 

表情の変化が少ないリオであるが、ロードランナーの背に乗っている姿は何処か誇らしげだ。

背筋が伸び、キリッと眉根が上がっており、自信に満ち溢れている。

眺めるだけでは何なので手を振ってみると嬉しそうに振り返してくれる。

理由は知らないが信頼されているというか、懐かれているというか。

 

悲しいくらい自覚しているが俺は不人気だ。

赤貝を乗っけている薔薇乙女以上に不人気だというのに何故リオは助手をしてくれるのだろうか。

この世界での謎の一つだ。

ちなみに他の謎はゴーストやラクガキが寿命で死ぬことや、先着プレイヤーに望みのアイテムを与える暴挙などカナー☆

最後のは関係なかったですね、申し訳ないです。

 

 

 

 

 

 

レースで荒稼ぎした貯蓄を削り、街の謙虚な大工さんによって超高級品である畳を敷き詰めた和室を増築してもらった。

掘り炬燵や火鉢、座布団といった和テイストの諸々まで完備したが、稼いだ金が吹き飛んだ。

どうやら俺には浪費癖があるらしい。

とりあえず目ぼしい大会に参加する必要が生じたのだ。

素晴らしい仕事ぶりだったので緑茶を奢ってやろうとしたらフルーツジュースを投げつけられた。

なぜだし。

 

畳で寝そべっているとリオが俺宛ての郵便物を持ってきた。

上質な紙のそれはどう見ても協会からのお手紙である。

面倒事だったら無視するしかないと考えながら開く。

内容は月末に開催されるグレードC選抜の招待状であった。

……招待制だったのか。

危うく何も知らずに金稼ぎのためにカチ込むところだった。

グレードというのはモンスターのランクであり、段位はブリーダーのランク。

ちょっとした違いがあるのだ。

 

エヴァ先輩も代表になれ的な事を言っていた気がするのだが、面倒な雰囲気が漂っている。

どうしたものかと考え込む俺にリオが不思議そうに声をかけてきた。

俺としては悩んでいるのだが、リオは俺がなんでもできるマジパネェ天才(じーにあす)だと思っている節があるのだ。

モンスターの育成やトレーニング機器を暇つぶしに語ったときなんか、尊敬とかそういう類の眼差しだった。

しかも、なぜか助手一週目で忠誠度MAXだった気がする。

謎が深まったぞ、どうしよう。

 

本当に意味がわからないのだがどうやら俺は憧れの先輩ポジションを獲得してしまったらしい。

マジでなにが起こったし。

憧れの先輩とか手塚ゾーンでも見せつければいいのだろうか。

つうか自分の名前が入っている必殺技って嫌じゃね?

 

俺は他人の憧れを否定する権利をもってるわけじゃない。

だって、信じるって素敵やん?

心が輝いているみたいで互いに切磋琢磨して煌くってなんだか素敵やん?

……嘘です、カッコつけたいだけです。

 

とりあえずリオには当たり障りない事を伝えておく。

素行や世間体に問題があるうえに更に注目までされるのは如何なものだろうか、みたいな。

選抜の優勝者は大陸対抗戦に出場することになる。

つまるところ、名が天元突破で轟くのだ。

簡単に名声を得られる一大イベントだし。

 

そして、協会は不倶戴天のライバルであるFIMBA(相手の大陸の協会)に見栄を張りたいし、勝ちもしたい。

特殊派生のモンスターやこの大陸独自のモンスターを育て、実力も兼ね備えているブリーダーが望ましい。

全てを満たしていり俺の力は喉から手が出るほど魅力的だ。

Sグレードの上位並の力を持つドミナント、しかも種族は特殊派生。

見た目も神々しい輝きで高貴のある佇まい。

まさにドミナントを期待しないでCランクに何がいる、というレベルだ。

 

問題は名を求めている凡夫どもが黙っていられるかに集約される。

下々の嫉妬ほど醜い物は無いが、厄介なのも確かだ。

人に恨まれて良い事なぞ無いのだから、とニヤリと笑って締める。

「なるほど……でも今更遅いと思いますよ」などと新聞を渡される。

 

 

 

なんだか、ぼくがすごくわるくかかれていたよ。

びっくりしちゃった☆

ブリーダーの項目で凄く、悪役でした。

ダークブリーダー的な扱いである。

俺が何をやったというのですか、神よ。

つうか神とか死ねばいいのに。

 

知らない内に俺の名が一人歩きしているので開き直って参加することにした。

金を稼ぐ必要もあるし、名人を目指して昇って行けば自ずと生じることが前倒しになっただけだ。

これからは殺傷設定のOHANASHI☆NANOHAくらい全力でいかせてもらうことにする。

ドミナントってカウレア火山の守護神様だし、特殊派生の中でも格が違うわけなのよ。

たぶんクッパとギガクッパくらい違う。

もっとかもしれない。

まあ、それくらい凄いから俺でマイナス評価が付こうともドミナントの圧倒的カリスマによって生み出されたプラスは消しきれないのだ。

……なんかむなしくなった。

手加減はやめだ。

血祭りくらいがちょうどいいに違いない。

大衆もそれを望んでいる。

ドミナントが加減するだろうから死にはしないし、安心だNE☆

 

 

 

 

 

 

 

「温泉はいいね。温泉は心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ」なんて言いながらドミナントに湯をかける。

別に俺はシ者とは関係ない。

ATフィールドとかいう超技術は使えないし。

心の壁を作るために便所飯しているかもしれない渚くんを想像してちょっと泣いた。

燃えてるドミナントを洗う必要性に疑問を感じるがこういうのは雰囲気なので良しとしておこう。

 

そういえば、イレギュラーを温泉に入れてはダメな気がする。

大丈夫だとしても色が変わるかもしれん。

ヘンガーの素材って錆びたり変色したりするのだろうか。

ゲームだと海を渡り、火山を駆け抜け、雪山で戦い、ジャングルと飛び跳ね、プールで泳いでいたから大丈夫かもしれない。

今はリオと遊んでるからどうでもいいが。

 

ごぼごぼと煮立ってる風呂に入るのも慣れたものだ。

温度調整できるクセに俺と入るときだけドミナントは全力である。

蒸発すると温泉の成分がめっちゃ臭いので煮立つ程度に調節しているのは器用というかなんというか。

溶岩を風呂の代わりにしてたとか、そんなワイルドさを感じる。

まあ、無いだろうけど。

いや、有りそうだ。

だからどうしたと言われたら、特に何もないですてへぺろとしか言えませんな。

 

 

 

 

 

 

 

湯上りのコーヒー。

これが私の活力です、などとカッコつけながら麦茶を啜る。

コーヒー?

あんな苦い泥水を飲むとか神経腐ってやがる。

しかも風呂上りとかなんの拷問だし。

まあ、俺の家には飲むやついねえから。

リオに笑われたときに飲む練習したけどやはり無理だった。

飲めるけど好んで飲むものじゃないから。

いや、マジで。

 

……つうかリオって住み込みでやってるけど、助手って一週間に一度だけ顔を出すだけでもいいと改めて伝えたが、家が遠いし楽しいから大丈夫らしい。

なんと無防備な。

俺じゃなかったら、チョメチョメされるところだぞ。

 

まさかレッドとコルトはチョメチョメしてるんじゃね。

全年齢ゲームに隠された秘密!!

ブリーダーと助手の卑猥な関係!!

なんて馬鹿なことを考えながら美人な記者の勢いで購読してしまった文々。新聞を流し読み。

 

この新聞はスキャンダル大好き、噂も大好き、流言も発信する嘘と欲と趣味に塗れた糞のような奴らが書いていると思っている。

さっきも読んだが、他の記事も色んな意味で凄い。

俺の公式戦についての評価も凄かった。

こいつのせいで人気が下がっているんじゃないかってくらい綿密に書かれていた。

その癖、写真は良い物を使っているから高く評価するしかない。

大会に優勝したときの写真をチート能力を駆使して全力で切り抜く。

切り抜いた写真を額に入れて壁に飾るのが大会後の習慣となった。

つまるところ、保存用、切抜き用、常用と三部契約しているのだ。

 

もうね、グッジョブ。

俺のヒールっぷりが輝いているぜ!

というか記事が詳し過ぎて笑える、学生時代の話とか入っているし。

書いている記者は俺のファンじゃないかと自意識過剰になるほどだ。

 

 

 

 

 

 

 

--8

 

招待状に金箔で刻まれたグレード選抜の文字。

これに優勝すると4年に1度、友好の証として開かれる大陸対抗戦に出場できる。

最も優秀なブリーダーを見せつけたいという子供みたいな思惑とかもあるのだろう。

どちらが優秀なブリーダーを保持しているかで評判や経済活動など色々と影響があるようだ。

別名・協会対抗戦。

つまりオリンピック的な何かだ。

ニュアンスは合ってると思う。

全敗したときなど目も当てられない。

 

まあ、そんなわけでほとんどの国民が注目してるくらいだから名声を得る機会としてはかなりのもの。

バトルで言う四大大会やレジェンド杯を優勝したり、円卓、地平線、蒼海などのレースで優勝するくらい凄いんじゃないかなと思ってる。

……ピクシーに思ってても言わなかったけど、レースの大会って中二くせえ。

いや、コンバットも別名があるから他人ごとでは無いな。

四大大会の一つで優勝すると、その肩書きが二つ名になるし。

エヴァ先輩なんてワールドモンスターズで優勝したから「ワールド」や「ワールドブリーダー」と呼ばれていた。

だせぇ。

日本語に無理やり俺が訳しているからしょうがないね。

 

ほとんどってことは金が無い奴は見れないないんだけどね。

レースはチラッと見れるけどバトルはさっぱりである。

やっぱり金だよな、金。

金があれば、金があればって。

人<金である、間違いない。

……なんてね☆

 

でも勝つ気が無いのはダメだし、戦いに清潔を求めるのはクズのすることだ。

自己満足のためにきれいな戦い方をしても稼げないなんて、馬鹿な話だろうよ。

モンスターは寿命を削って戦っているわけだし。

 

 

 

 

 

選抜戦は長くなりそうだ。

それほどまでに慎重なのだが、協会も神経質になりすぎてる。

予選→決勝なんて形式をとるのだからサイコーにダルい。

予選で総当たり。

勝ち星の多い1位と2位で決勝戦をして白黒つける。

普通のモンスターならヤバいな。

市場のモンスターや家名の無いブリーダーなんて特殊なことが無い限り招待されないから普通のモンスターなんて見ないだろうけど。

 

 

選抜戦の予選は開幕ファイアウェーブで焼き払い余裕でした。

手加減して火力は抑えているので死にはしないはず。

ドミナントの凶悪性に気付いたのは極少数。

ブリーダーならノラモン全部とは言わないがフェニックスの知識くらい持っとけよ、と。

持っててもこんな場所に出るわけないって思うよね。

知識には自信を持とうぜ。

 

モンスターには悪いが、棄権しないブリーダーに罪がある。

グレードは多分、B止まりだな。

家紋持ちのくせに後継ぎは自分の力と勘違いしたボンクラか、モンスターが優秀過ぎたか。

 

家紋とは協会が家名とともに与えた証である。

特殊派生のモンスターを再生したり、優秀なブリーダー・メーカーを過去に輩出した印。

ただ、それだけである。

ただ、それだけがモンスターを中心として回っているこの世界には重要なのだが。

 

最初の家紋はモンスターの姿を模った一枚の小さなコインで初代の名人に送られたモノだった。

今でも名人には殿堂入りしたモンスターのコインが送られる。

 

他の家紋はその家を代表するモンスターが描かれた旗か何かだ。

大々的に家の力を見せつけようとして服や馬車に刻むのは履き違えていると言っても過言ではないと思ってる。

ブリーダーならモンスターで競うべきというのが俺の持論で、そうやって活動している者たちも多々いる。

 

ちなみに家紋持ちなら家名持ちだが逆は成り立たないのだ。

イメージは家紋+家名>家名>無し、みたいなヒエラルキー。

協会も家紋持ちばっかでやってられねえわ。

 

要約すると

家紋を持ってるってことは特殊派生のモンスターがいる。

→秘術で合体させて特殊派生を受け継ぐ。

 →つまり単純な話だがうまく育てればめっちゃ強い

  →金持ち

   →俺たち偉くね?

ってわけだ。

うわぁ、やべぇよこの世界。

リセットすべき。

 

今の名人は家名持ちだが家紋なしだったので殿堂入りした時のコインを家紋にしてるとか。

デンドーコインって響きが安いロボットみたいじゃないだろうか。

 

家紋有りより家名のみのほうが最近は強いっぽいな。

家紋も微妙だな。

権力争いでも家名オンリーが押してるし。

モンスターの血がオリジナルより薄くなってるのが原因じゃないかと考える学者もいたような気がする。

 

結局俺みたいな家名なしはほとんどいないけどね。

まあ、干されたりとか色々あるし。

同期も家名なしとか存在したかわからないぐらいだし、こんなものか。

 

 

 

気持ちだけで、いったいなにが守れるっていうんだ!とキラきゅんごっこ。

ふはははははははー!!

お前らの自尊心で、モンスターが焼けるてぜ!!

特殊派生で家紋のモンスターといっても下手なブリーダーが育てれば鈍らの刀だろう、と。

 

死ねや金持ち、はいだらー!!

とかやってれば勝てるので消化試合である。

なぜこんなに頑張るのかといえば、やはり俺がホリィ派であるからだ。

あとは他の会場で選抜戦を戦っているだろうアティ先生目当て。

あと金。

 

先生にはベルフラウとアリーゼが未だに助手をしてるはず。

うわぁ、会いたくねえ。

アリーゼはいいけど、あのツンデレはだるいから会いたくねえ。

 

1、2、4の人はいないのになぜ3はいるのだろうか。

似てるからあだ名で呼んでるだけだけど。

そのうち出会うのだろうか。

 

あ、パッフェルさんとポムニットさんがいたわ。

ロードランナーがいないときは代わりにどちらかが配達に来ていた気がする、走って。

ファームの中には入ってこないけど。

2と3、4が登場。

いつかは1の人も見かけるかもしれない。

 

 

 

 

 

圧勝である。

マジで圧勝。

そしてブーイング。

なぜだし。

 

決勝は一度棄権した先見のある家紋持ち。

総当たりにだっから時間を食ってしまった。

もう夕方だ。

他の戦いがちんたらしすぎなんだ。

一撃で終わらせるべき。

先生の試合は間違いなく終わっている。

泣いた。

おっぱいが見れなくて泣いた。

 

 

 

対戦相手のモンスターを眺める。

ブラッディJとか生で見ると艶が違う。

夕日に照らされた真紅の鎧、雄々しく剣を握る姿。

やはりモンスターを生で見ることのできる感動は一味違う……ッ!!

 

折角なのであだ名もつける。

ジョニー・ライデンとかつけたかったけど長いからなし。

無表情っぽいし、レッドに似たものを感じる。

 

 

 

ドミナントが遊びとばかりに鉤爪で攻撃をしかけ、ブラッディJが剣を巧みに使って逸らす。

一進一退の攻防戦だ。

実況も気合が篭っているし、観客も熱狂している。

先ほどは瞬殺されたというのにお気楽なものだ。

 

 

 

 

 

……そうだな。

俺も珍しく指示を出そう。

何時までも無言だと相手に悪いし。

長引かせるのも飽いた。

ドミナントに攻撃の手を休め、下がるように指示する。

その様子を見てもブラッディJは追い打ちを掛けない。

不用意に接近するのを避けているようだ。

 

魔力を声に乗せる。

多分、それほど大きい声じゃないけど会場中に響いてるカナー☆

そして真顔でキメる。

俺もやるときはやるのだ。

遊びを全力って意味だが。

もちろん遊びなので手も抜く。

すげぇ抜く。

ばれない程度で抜く。

 

疑問に思いながらも様子見している相手に言う。

大胆不敵に、見下しながら。

バンダナを外すのも忘れない。

 

 

 

 

 

「認めよう、君の力を」

 

 

 

 

偉そう過ぎて噴きそうになるが我慢。

俺って新人だからね。

しかもブリーダー歴は半年も経ってない。

 

まあ、ほら、ドミナント様のおかげで俺も歴戦のヒールブリーダー。

威圧感もたっぷりで不自然ではない。

むしろ、俺が格上である。

よく考えたら自然なことだったぜ。

 

 

 

指示を出し、ブラッディJの攻撃を紙一重ですべて回避させ、ドミナントの火炎連砲。

実はこの技、大変レアである。

ほとんどのブリーダーが一生拝めないレベル。

 

モンスターには善悪がある。

覚える技も様々だが、善悪が結びついている技も少なくない。

そして火炎連砲とは圧倒的に善に傾いているヒノトリが悪になった時に覚える技だ。

育てやすい善を悪にする人間はいないし、そもそも悪になれない。

ゲームではバグか設定ミスかどんなに頑張っても火炎連砲を覚えるまで悪に寄らないのだ。

 

その点、ドミナントは違う。

善悪なぞ知らんとばかりの自由さ。

きっとこれが火炎連砲を覚える秘訣……!!

 

まあ、善悪なんて人間が決めたものだしな。

言うこと聞けば善、それ以外は悪。

最も悪いモンスターでもブリーダーの命を取ったりはしないのに極悪である。

 

たぶん、悪戯っこなのだ。

極悪モンも寂しいとかそういう感じじゃねえの。

テキトーだ。

そこら辺はテキトーでいいと思ってる。

 

 

 

 

 

ドミナントのステで力は低い。

火炎連砲は力属性で威力はD。

それでもグレードCには決して軽い技ではない。

S上位のドミナントのステを考慮するとむしろ酷く重い攻撃ですらある。

 

それを乗り越えて走ってくる姿を拝むことになったのは俺の油断か。

若しくは、ドミナントが甘く見過ぎたせいか。

火炎を切り払って進む姿はまさに図鑑の説明通り。

戦士そのもの。

ダメージを受けていないのかと思う程に愚直。

それでも力強く走るのはモンスターの性格か、ブリーダーの腕か。

 

「いい戦士だ」

 

思わず呟いた。

それと同時にドミナントはVの字に斬られた。

傾いた夕日がすべてを赤く染め上げていた。

 

 

 

 

 

 

観客が湧く。

歓声が轟く。

会場が揺れているかのように。

歓びで、満たされる。

 

今まで無傷で、不可侵だった傲慢な悪が斬られた。

確かに斬られたのだ。

 

 

 

夕日に照らされた深紅の鎧はおとぎ話の勇者の様で。

 

ゆっくりと倒れる青白い炎の鳥は化け物の様で。

 

その時、その紅い赤い鎧を持つモンスターは英雄だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

演出のために回避しなかったわけではない。

決してない。

余裕で回避できたし、防御もできたなんて知らない。

でもヒール、というかヴィランには民衆をどん底に落とす義務があるよね。

上げて落とすのって素晴らしいと俺は思うのですよ。

 

コロシアムが揺れるような歓声を無視し、ドミナントに指示を出す。

遊びはやめよう。

これからは戦いで、ヒーローごっこもお終いだ。

だって彼らは俺のヒーローではないのだから。

勝たせる義理など一切ない。

 

 

 

俺が認めるヒーローはただ一人、それ以外は偽物だ。

 

 

 

 

 

 

--9

 

倒れるように指示し、上手く従ったドミナントを眺める。

揺らぐ炎が猛っている。

やる気は十分のようだ。

笑みが浮かびそうになり、右手で顔を覆って隠す。

 

ブラッディJを盗み見る。

デュラハン族のヨロイモンスターはなぜああもカッコいいのだろう。

ノーマッドも嫌いじゃないぜ、フォルムが切ないけど。

でもブラッディJって悪モンだろ。

なんだこの人気。

いや、人気なのは構わない。

俺から見てもカッコいいモンスターだ。

不満なのはまるで正義を掲げるかのように観客にアピールしている姿だ。

 

悪モンっていうのはもっと静かで、強かで、賢くあるべきだ。

そう、今のドミナントのように。

太陽がゆっくりと沈んでいるのか、徐々に暗くなっていく。

申し訳程度に灯されていた篝火がコロシアムの各所を弱く照らす。

闇がすべてを染め始めた。

ドミナントを除いて。

 

 

 

 

 

 

 

地面から噴き出したように白い炎が柱となってコロシアムを照らす。

闇に飲まれていた光が逆流するかのように。

観客が静まり返り、拡大されていた実況の声は消え去って代わりに唾を飲み込む音を響かせた。

 

’いにしえ’から’いま’に至るまで、火は絶えず力を持っている。

文明の象徴、神の証、全てのはじまりとして。

光を与え、熱を与え、全てを奪う終わりとして。

人知を超える強大な火を見ることで、力の本当の意味を理解することになるだろう。

 

 

 

神々しくも原始的な恐怖が、そこには在った。

夕闇に染まったはずの空が白く照らされ、天上が青く燃えていた。

放たれる熱量がドミナントの姿を揺らがせ、広げた羽根がより大きく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

相手側を焼き尽くさない様にと炎の中からドミナントに指示を出す。

この炎は演出的なモノで、周りに影響が出ないように熱と炎の方向は空へと向けられている。

レースで上空を通ったら丸焼きで死ぬだろう。

普通の悪モンってやつなら格下と侮った相手に傷をつけられたことで怒るのだが問題ないくらい冷静だ。

チラッとこちらを見た瞳には正気が宿っている。

 

どうせ殺さないだろうが、決して殺すなよと伝える。

殺さなければ何をやってもいいとの裏返しでもあるのだけれど。

……審判、そんなに怯えんなっつうの。

ああ、俺が炎の中にいるのが悪いのか。

炎から出る気はない。

特に理由はないんだな、これが。

心を通わせていれば炎も熱くないってガッシュで読んだから参考にしているだけだ。

 

 

 

 

 

 

ドミナントから天へと伸びた炎、そのほんの一部が鞭のように飛び出した。

全体の炎量からみるとちょっとした火の粉程度だ。

それがブラッディJには脅威で、避けるために走り回っている。

が、もう終わりだ。

目に見えて失速している。

当たり前だが戦いにすらなっていない。

火の粉から逃れようと、熱で弱っている。

指示を出しているブリーダーなんて死にそうだ。

さっきまで英雄然としていたのに、ちょっと本気を出したらこれだ。

 

これでは彼らが可哀相だと憐みすら感じ始めた。

だから手伝ってやろう。

英雄に返り咲く手伝いってやつを。

常々思う、英雄ってのは生きているからなるんだろうかと。

俺的には死んでからが本番だと思う。

語り継がれる的な意味で。

 

頑張った、十分に頑張った。

このランクにしては、だけど。

確かに英雄だ、英雄の素質がある。

まあ、俺的な意味のほうだけど。

 

 

 

 

 

ドミナントに火力を高めるようにと声をかける。

天を焼く青い炎がさらに勢いを増した。

相手のブリーダーはすでに退避していた。

ブラッディJは残っていた。

置いて行かれたか、意地で自ら残っているのか。

判断することはできない。

すでに熱で意識が飛びかけているのだろう。

それでもドミナントに剣を向けている気概は評価に値する。

 

「いいモンスターだ。また一緒に戦いたいものだ」

 

ブラッディJが倒れ、地に伏した。

火が消え去り、再び闇が戻ってくる。

俺の呟きが届いたのかはわからなかった。

闇の中で輝くように、ドミナントが鳴き声を響かせた。

 

 

 

 

 

 

賞金を受け取って帰ろうかとも思ったが未だにほかのところがやっているらしい。

D選抜の前まで来て、すさまじい歓声に興味を持った。

上位グレードの試合なら見ごたえあってこうなるかもしれないが、下位では微妙だと思うのが正直な思いだ。

それがこんなにも盛り上がるとはどんな試合なのだろうか。

俺らはマジで特殊すぎだけどね。

 

ドミナントに飛び乗って上からダイナミックエントリー。

正面から入るのは時間がかかるし。

非常識さを前面に出して悪役っぷりをアピール。

 

だが、捉えた光景で思わず動きが止まる。

まさに裏切られた気分だった。

勝利を収めていたのはレッド。

それはいい。

彼は才能に胡坐をかかずに努力している。

そして俺が認めるているから。

負けるわけがない。

問題は一つだけ。

こいつのモンスターだ。

この前のモッチーとは違う、コイツのモンスター。

 

 

 

ドミナントに指示を出してレッドの元へ降りる。

目を極限まで見開いて、口を開けて呆けているコイツは珍しい。

何を驚いているのだろうか。

俺が来たことか。

お前が違うモンスターを使っているからか。

言うことは決まっている。

 

「お前には失望した」

 

それだけ言うと俺は振り返らずに飛び去った。

家紋持ちだって知っていた。

だが、あいつは俺を裏切った。

俺の気持ちを裏切ったんだ。

 

 

 

 

 

まさか、あいつの受け継いだモンスターがピクシー族だったなんて。

しかもポワゾン。

ラブリーキュートなポワゾン。

死にたい。

何、あの勝ち組。

乱入した騒ぎを無視して飛び去り、テンション下がった俺は広場で待っていたリオを連れて飛び去る。

 

「きゃー、人攫いよー!!」

「少女が連れ去れたぞ!!」

「悪魔め!!」

 

騒ぎが聞こえるがそんなことはどうでもいいのだ。

胸の内で煮えたぎる思いを吐き出すように、大きくため息を吐いた。

リオが気遣わしげに俺の背を撫でた。

……よく出来た助手だよ、ホントに。

あ、バンダナ取ったままだった。

 

 

 

 

 

翌週に大陸対抗戦の招待状、あとは俺が引くほどの熱狂的なファンレターが幾つかと抗議文章が届いた。

代わりに、レースを控えている親友へ丁寧に書きあげた激励の手紙を渡す。

円卓のレースまで見に来るのは待ってくれと頼まれているので、ささやかな応援しかできないのだ。

代わりに俺の試合も名人になるまで来ないとか。

ちょっとさびしい。

 

届いた手紙の中には脅迫文や怪文章も混ざっていたので取っておく。

5枚溜まったらゼリーもどきの当たり風にサービスしてもらえる権利をやる。

法的機関に、だが。

抗議は読んで燃やす。

罵倒ばかりなら残念ながら5枚溜まるまで待つとしよう。

 

お待ちかねのファンレターである。

世話になった先生や同期からもっさり来てテンション駄々上がりだ。

俺の同期は癖がありまくってヤバいぜ。

マジで。

 

アームストロングからふつーの祝いの言葉と泣き言。

姉の元で今年も助手をしているらしい。

家督も姉に取られて大変だ

……オリヴィエさんめっちゃ怖いし、仕方ない

 

レックス先生とアティ先生からは激励の言葉。

超聖人級の双子は格が違った。

双子姉妹がタッグの対抗戦に出るなんて見えない。

俺の視界(ログ)には何も残って無いな。

流石に無視は駄目だろうとおめでとウサギ的な激励文章を送るか。

礼節に則って。

 

リオが驚いている。

え、俺がお祝いの手紙出すのってそんなにありえないわけぇ?

これでもピクシーに送ってるんだぜ、一応。

リンディ校長にも。

 

エヴァ先輩からも来てた。

貴女の高笑いが感染しました。

ロリババア乙、と。

 

うわっ、キラさま(笑)からも来てる。

しかも内容は批判ばかり。

祝えよ、空気読んで。

ピンク教に絞られてろ。

 

霞ちゃんからの手紙もきていた。

可愛い字で、また一緒に昼食を食べに行きましょう的なことが書かれていた。

なんだ、女神か。

 

よく事件に巻き込んでくれた先輩からも手紙がきていた。

ミスター・ブシドーと名乗ることにしたらしい。

お、おう……?

 

そして、いつものファンレターにいつもの返事を書く。

手紙は苦手だが全力だ。

丁寧に、すべてを。

あとは円盤石とともに封入。

壊れやすいので注意と張り紙してパーフェクト。

 

熱狂的なファンレターはドミナントの鉤爪に墨を塗りたくって大判の紙に印したサインを送っておいた。

後で聞いた話では泣いて喜んだとかどうとか。

 

 

 

時計台の後輩からも来たので丁寧に書いておく。

性格は良いが、あまり理解者がいない腕のいいブリーダーのところで頑張ってるとか。

おまえならできるって書いておこう。

俺を慕ってる後輩とか少なすぎて泣いた。

たぶん他には片手で数えるくらいしかいないんじゃね。

温泉掘った時に出てきた水神の石盤をおまけにしてやろう。

来年は独り立ちするかもしれないからな。

身内には甘いのだ。

リオがそわそわしていた。

何事だし。

 

 

 

飽きたのでこれで今日は最後にする。

金ぴかの趣味悪い便箋。

つうか金じゃねえの、これ。

あとで売るか。

 

 

 

差出人は、ギルガメッシュ。

 

 

 

なん……だと……。

ビビった。

異世界に召喚されたのかと思ったほどビビった。

驚天動地だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、エルキドゥが中身書いたのか。

ビビらせんなし。

めんどいからって大会帰ろうとする、とな。

知らん。

王の蹂躙を愚民に見せつけろとでも言っておけ。

えぇくすきゃりばー!!

ごるでぃあすほいーる!!!

……違う王だな。

エクスキャリバー……はそもそもゲームがちげえ。

もういいや、テキトーで。

 

ピクシーの手紙を手に取って外へ向かう。

気分転換である。

空の下で読むのが礼儀だろうよ、こいつのは。

リオも手紙を持ってどっか行くみたいだ。

なんかリオが持っている手紙はこの前返事を書いたモノにかなり似ている気がする。

……もう老化が始まっているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

--10

 

荒野の果てに、一人は絶望を、一人は希望を見つめ、

二人は今、運命の旅へと踏み出すのだった。

トゥルルルー。

絶望が俺で、希望がリオである。

なんの話かって?

こんな僻地まで手紙を直々に届けにくる協会の人間の心境だ。

俺を見て震え、リオを見て安らぐ。

飴と鞭がナチュラルに使えるとか、嬉しくないです。

 

 

 

そういえば、風の噂で選抜戦の後にレッドが思いつめた表情でモッチー×ポワゾンの合体をしようとしたとか。

やったね、コルティア!! 仲間が混ざるよ!!

おい、やめろ。

ホントにやめろ(本気トーン)

噂話のクセに物凄い大事件だ。

 

事件が本当で、マジで合体していたのなら、化け物が誕生していたことだろう。

ある意味キマイラの一種だ。

そう、マンナだ。

さすがの俺でもマンナは無理。

マンナとはモッチーとピクシーを合体させたモンスターである。

モッチーとルージュラ混ぜてピンクに着色して癒しを抜いた化け物だぞ、あれ。

サブのピクシーどこいった。

容姿はお察ししてくださいといった驚愕な低レベル。

バイオであれがたくさん現れたら俺は逃げる。

もしくは残虐な手段で砕いて川に流す。

だが、川に流しても増えそうだから埋め……生えてきそうだ。

焼いて塵にする。

塵にしても感染しそうだ。

ヤバい。

超ヤバい。

どんな姿か気になる?

百聞は一見にしかず、ググれ。

 

そんなわけでピクシー派の俺はリオを派遣することにした。

ポワゾンを合体させるとか正気なわけぇ?

見損なったぜってことを伝えさせるためにリオを派遣してみる。

コルトと仲が良いらしくて会えるのが楽しみだろうし、あまりレッドに気を遣わなくてもいいと追加。

イレギュラーを呼び出し、乗っていくようにと言っておく。

レッドは俺みたいに僻地に飛ばされたわけじゃないので街の近くにファームがあるのだ。

……なんかリオが神妙な表情だ、なぜだろうか。

 

 

 

文々。新聞を読んでるとなんかすごいことになってた。

信者が半端ないらしい。

ファンではなく信者……。

批判的な評価を唱えていた連中がかなり減ったらしい。

あとはレッドのマンナ事件。

家紋持ちがそれをやるべきではないとか凄い批判的。

伝統ある~とかなんとか。

読むのめんどい。

 

とりあえずレッドが落ち込んでるかもしれないからカララギマンゴーでも食わせればいいんじゃねえの。

あいつの好物だからこれで機嫌もよくなるんじゃね。

つまり、お腹が膨れる。

→機嫌がよくなる。

 →モッチーと合体させるなんて、もう二度としないよ!!

  →あれ、そういえばバンダナってポワゾン好きだよな……。

   →あげるか

    →ポワゾンとゴールイン

     →俺ってばサイキョーね! はっぴーえんど♪

     

……ふむ、やはり天才の俺に死角は無かった。

カララギマンゴーをお土産としてリオに持たせようとしたらすでにいなかった。

……天才にだって誤算はあるさ。

あわわ軍師、はわわ軍師だって間違えたりするし。

俺は当然ながら雛里派だ。

恋姫は思春が一番好きだ、我慢しているときに口をきゅって閉めてる表情が良すぎる。

 

ピクシー系ならカスミ種が胸がゆさゆさしてて素敵!!

同期の霞んとこのモンスターだった気がするから、あまり下世話な視線を向けられないのが困ったものだ。

 

 

 

上位ランクの記事に目を向ける。

S級でも四大大会の一角を落としたコルベニクが冬眠に入ったことで騒ぎになってるとか。

ブリーダーであるオーヴァンはAIDAの調整のためと言っているようだ。

対抗戦に出場が決定していることが理由だろうと締められていた。

まあ、どうでもいいんだけどね。

レッドのマンナ事件の記事を読んだ後だと超絶どうでもいい。

というか、マンナが濃すぎるだけ。

 

 

 

 

 

大陸対抗戦は一週間ほどかかるようだ。

試合は二日から三日くらいで全てが終わるのだが、準備とかで時間がとられるっぽい。

当然、向こうに泊まり込みだ。

基本的な流れとして、入場→開会式→偉い人の言葉→D~Aの試合→D+C、B+Aのタッグマッチ→最後にS級の試合→勝ち星の多い協会にオリジナルコインの授賞式→閉会式→解散、という流れのようだ。

めんどくせ。

しかも無駄に長い。

まあ、いーんだけどさ。

いーんだけど、3日前に現地集合。

場所は相手の協会の会場。

めっちゃ遠いのだ。

家紋持ちなら輸送用のドラゴンくらい持ってるかもしれないけどいない人だっているわけだ。

あ、俺には関係ない話でしたね。

 

でも、3日前とか無いわ。

遅刻しそうなやつとか問題起こす奴がいるから監視目的だそうです。

まったく。

迷惑なやつがいたもんだ。

他人の事をちゃんと考えろっての。

他人というか俺。

俺オンリー。

俺に迷惑かけなければ何してもいいぜ。

 

 

 

ドミナントを気絶させた俺は爽やかに茶を啜る。

定期的に郵便屋さんが届けてくれる手紙を読むのが楽しみです。

手紙が2枚。

二人とも対抗戦に出る先輩である。

1枚はハム先輩から。

ハムさんでもいいけど、先輩なのでハム先輩と呼んでいる。

公さんって感じもするんだよね、ハム的に考えて。

 

内容はガンダムの事と近況の事。

先輩はなぜか助手をガンダムと呼ぶ。

昔は俺もガンダムだった。

 

あれ、なんか意味深じゃね?

刹那・F・セイエイ……昔は俺もガンダムだった。

そして俺にはわかる。

貴様はガンダムではない!!みたいな。

ちょっとよくわからないですね。

 

話は逸れたが、今のガンダムは実にガンダムらしいとか。

その点は俺も同意するわ。

任務を遂行するって言いながら餌とかやるし、個性的な後輩だと思う。

名前は刹那、あだ名はせっちゃん。

まさにせっちゃんガンダム。

貴様が桜咲刹那でなくて良かったな……そのときはせっちゃんウィングだったぞ。

 

ノウマンが、なぜ私のあだ名とそれほどまでに違うのだ、バンダナァ!!ってキレたけど仕方ないと思う。

だって大学卒業してからブリーダーを目指したオッサンとコルトくらいの少年を同列にするのってムズくね?

だからあだ名がホモハゲになるんだ。

 

また話が逸れたけど、とりあえずガンダムであるということだけわかってくれたはず。

本題はハム先輩が移動手段持たないことだ。

家紋持ちだが落ち目であったので特殊派生のモンスターを冬眠させてヘンガー族を育ててた。

ヘンガーのフラッグでSを超えると友に誓ったらしい。

前回の対抗戦でフラッグ死んだけど。

今はまた別のヘンガーを育てているとか。

そんな先輩からの手紙の内容は、移動手段の提供と自分が助手を務めた先輩に連れて行かれることになったので助けてくれってことだった。

エヴァさんだろうし、無理。

お祈りメール出しとこう。

 

 

 

もう1枚はエヴァさんから。

おまえ初めて行くんだろうから案内してやるよって話だった。

え、なに。

先読み?

エスパーなの?

こわい。

 

面倒見もいいし頭もいいので好感を持つが、先生や先輩が助手したってよく聞くんだけどマジで何歳だし。

あのロリようじょマジで何歳だし。

初恋だから微妙に気まずいんだよね。

いや、今でも期待しているけど。

俺の母校はみんな不老な気がする。

こうちょーもヤバい。

ノウマンにわけてやったほうがいいと思う。

あとバルバトスにも。

 

エヴァさんのモンスターは確かジョーカー族のスプラッター種。

特殊派生って数少ないのに種って付けるのは正しいのだろうか。

家紋は持ってない。

昔俺が起こした騒ぎに乗じて円盤石のオリジナルを掠め取ったとかなんとか言ってた。

エヴァさん強かだよね。

 

名前はチャチャゼロ。

ドラゴン族のギドラスを移動用に使ってるけど名前はチャチャマル。

チャチャイチは見たこと無い。

ちなみにギドラスはドラゴン×メタルナーの合体。

水をメタルナー力に変える力を持つ、たぶん。

見た目はあれだ、メカキングギドラのメカの部分に似てる。

たぶん。

 

 

 

そんな感じの日から次の週。

久しぶりにヨウカンを作る。

羊羹である。

甘いアンコのやつ。

煮詰めて~な和菓子。

チートの俺は料理の再現だって余裕なのだ。

街で似た食い物探すのがめっちゃツラいのは秘密。

男は無駄口を叩かないらしい。

いや、俺だったあんまり言葉をしゃべる方じゃないからね。

なぜ羊羹かって?

超必要な超絶アイテムだからだし。

桃太郎が鬼退治が出来たのはきび団子があったから、有名だね。

つまりそういうことだ。

ごめん、テキトーぶっこいた。

好感度が上がるアイテムと考えてくだちぃ。

 

 

 

待機状態でふよふよと浮遊しているヘンガーに乗りながらハム先輩が参上。

奇妙な仮面に陣羽織のような上着を着ている。

久しぶりに会ったら訳がわからんことになっていたが、前からわけがわからないので、平常通りだと理解した。

先輩が乗っている相棒は以前の純粋なヘンガーとは違い、黒く光る機械の体に魂を宿したダークヘンガーだった。

 

会いたかった、会いたかったぞ! 少年っ!!

やはり私と君は、運命の赤い糸で結ばれていたようだな。

そうだ、戦う運命にあった!!

 

などと言いながらダークヘンガーがバトルモードに移行し、レーザーブレードが輝く。

なにコイツ、超めんどくせえ。

相手をするべきかと悩んでると見た目がマジやべえジョーカーが現れて斬り合いを始めた。

ふあっははははははははなんて高笑いとともにチャチャマルに乗った幼女先輩が出現。

呆気に取られているリオを連れて先輩方の荷物をイレギュラーの背に乗せる。

運び終わって様子を見に行くとなぜかハム先輩は正座させられながらエヴァ先輩に説教されてた。

頭が上がらないらしくて凄くシュール。

 

あれは長くなる。

俺の経験から推測されるこの予想は絶対だ。

めっちゃ怒られまくった俺が言うのだから間違いないのだ。

リオと茶でも啜って待つことにする。

え、ロードランナーを対抗戦に連れてくの?

重くね?

あ、走らせるんですか。

YA☆ME☆RO

どんでけ遠いかわかってるのだろうか。

隣の大陸だからな。

そりゃあ、飛行適性のあるモンスターで飛んで行けるけど遠い事には変わりないから。

一応、海を越えるからね。

マジでやめたげてー!!ってなるから。

 

あとはカララギマンゴーとか持ってくので積む準備をしておく。

たぶん、あっちでも売ってると思うけど、注文したから持って行くでしょ。

モンスターにおやつとしてあげたりするブリーダーもいるけど、俺は自分で食う。

2個で1Sくらいが相場。

100円で2個とかお手頃。

大好きです。

安いからか知らないけどレッドにちょっと酸っぱいとか言われてしまったが俺は大好きです。

 

思い出のカララギマンゴー。

この世界での初めての善意はカララギマンゴー。

だから、俺の優しさはカララギマンゴーで好物もカララギマンゴーなのだ。

 

ブルジョアが自ら食べるのは1Gのカララギマンゴー……ちっ。

相変わらず意味不明である。

 

え、ゲームでは60G?

そりゃあ、モンスターだからいっぱい食うじゃん?

しかもブリーダーって高級志向だから高めの買うし。

一週間ぶんの目安が60Gとか。

ショップが悪徳に見えてくるぜ。

お手頃で中堅にも人気!!らしいよ。

……学が無くて物価とか僕にはよくわかんなーい☆。

 

 

 

エヴァさんが茶を淹れている。

そして、その姿を眺める俺。

すげぇ可愛い。

可愛いのに年齢不詳。

世界は謎に包まれている。

遠いからうんたらかんたら。

とりあえず準備は怠るなよってことらしい。

別の大陸だから重要な道具は都合よく手に入ることはまず無いとも。

なるほどなー。

お茶うめえ。

 

ハム先輩は畳の上を転がってる。

この世界の日本ぽいところから取り寄せた品の数々は先輩の心をキャッチ。

この二人を見てるとアキバの外人を思い出させる。

ジャパニーズ・BU☆N☆KA、イエァ!! ニーンジャ!!ニーンジャ!!みたいな。

俺の妄想だけど。

 

 

 

何か必要なモノはあっただろうかと脳内で検索。

没頭しすぎて気が付いたらハム先輩とエヴァさんがヨウカンの取り合いしてた。

うわぁ……。

高度な戦闘に発展していた。

無駄にアグレッシブだ。

ブリーダーは強靭な肉体があってこそだとエヴァさんが言っていた。

デブは駄目らしい。

協会の重鎮は全滅ですね。

 

リオは茶を啜って遠い目をしてた。

初めて食べたときは.。゚+.(・∀・)゚+.゚な顔してたのに。

つうか勝手に食うのってどうなの。

普通、後輩だろうと断りいれるだろう。

合気鉄扇で投げ飛ばされて負けたハム先輩はNooooooooooooooooooo!!!!!! ((((゚Д゚;)ってなってた。

エヴァさんはふははははははは、最期の一切れは格別に美味い!!(*゚∀゚*)とか。

まあ、まだあるからリオも静かなんだけどね。

 

 

 

煎餅を投げ込んで俺はクールに去るぜ。

 

リオも参戦したようだ。

 

 

 

 

 

 


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