実験室のフラスコ(2L)   作:にえる

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読んでると頭を抱える展開が多い(本音)


ヒロアカ1

 

 --1

 

 俺はヒーローを目指した。

 その際、触った物を黄金に変える個性を得た。

 強い個性を制御するには、強い肉体と精神が必要だ。

 ストイックに心と身体を鍛え続け、個性を支配する。

 血のにじむような日々だった。

 時には戦い続け、時には座禅を組み続け、時には金を生み出し続けた。

 初めは走るだけですぐに息切れを起こし、苦しければ諦め、触れても金メッキ程度にしか変化させることはできなかった。

 だが努力は俺を裏切らない。

 気づけばどれだけ動き回っても息切れ一つ起こさず、素手で建物を崩壊させ、常に目標へと走り続ける向上心とどれだけ追い詰められても揺るがない精神力、石ころ程度ならば一瞬で完全な金へと変化させるほどに成長した。

 素手で触れると危険なので手袋をつけて生活することとなった。

 俺は死ぬまで何気なく人に触れることすらできなくなったが、本望だった。

 そして俺は努力を続けながら、十五歳と六か月でヒーローとなった。

 触れた物を金に変えるという近接最強の能力だが、同時にそれは人々から恐れられる原因となった。

 それでも俺は人々のために戦い続けた。

 時にはヴィランを金に変えて殺してしまい、非道だと叩かれ、ヒーロー活動の危機へと陥ったこともあった。

 だが俺は頑張って地道に活動を続けて乗り越えた。

 徐々にではあるが認められるようになった。

 ひたむきに走る俺に感化されたかのように他のヒーローにも認められるようになり、親友と言える相手も出来た。

 努力は俺を裏切らず、公私ともに順調だった。

 災害などに巻き込まれた際には個性を使うことで乗り越えた。

 火山噴火による土石流などを金に変えることでどうにかして乗り越えた。

 金を生み出し過ぎることで経済界からバッシングを受けることもあったが、ヒーローとしての真摯な姿を見せることでなんとか乗り越えた。

 危険物質が溢れだしたときには躊躇いなく金に変えた。

 石油を積んだタンカーが座礁して汚染が広がる際には凄い頑張って金へと変えた。

 俺はやがて人々から最も偉大な研究者にして工作員で最高のヒーローだと称賛されるようになった。

 俺は見事な活躍によってノーベル平和賞が贈られた。

 だが平穏は続かなかった。

 無茶苦茶つよくて悪い奴が現れたのだ。

 俺は戦った、毎日戦って戦って戦った。

 そして俺は倒すことに成功したが、奴は世界を壊す攻撃を最後に放ってきたのだ。

 俺はそれに対抗するために全身を金にすることで世界の崩壊を防いだ。

 代償はあまりに大きかった。

 俺は二度とヒーローとしての活動ができなくなり、危篤に陥った。

 そして金になったので死んだ。

 人々やヒーローたち、ヴィラン、近所の岩窟王、デスザウラーは泣きじゃくりながら、俺の若さ強さと、美しさと強さ、知性、個性、あらゆる面での長所を惜しんだ。

 そうして俺が死んだ日は偉大なるヒーローが没した日として祝日となり、兄役であるホームズはヤクチュウのヤームズを兼ねており、ヤクモンマスターとして町に散らばっている白目だったり涎を垂らしていたりするヴィランに大人気というかヴィランそのもののヤクモンを先導し、子供たちの間でブームとなっているチンポコモンと戦いながら涙を流した。

 しかし俺は死んでいない。

 人々の心に残っているのだ。

 俺の活躍を金言として語り継がれることで、俺は永遠となったのだ。

 俺は触れずとも金を生み出せるようになったのかもしれない……(END)

 

 ~~ここまで母さんの妄想(一息)~~

 

 寝る前に絵本で話してくれた。

 どうやら俺の将来像らしい。

 最終的に俺は死んでるんですがそれは。

 夢でこんなの見たら困るなぁって。

 

 

 

 なんだこれはたまげたなあ、といった感じで両親がときどき使う言葉を浮かべてしまう程度の妄想と絵本を母さんに垂れ流された翌日。

 特に夢は見なかった。

 とはいえ期待されるのは満更でもないので、とりあえずヒーローを目指すことにしてみた。

 流石にミダス王みたいな個性も持っていなければ、心身も一般人なのでトップヒーローとかは無理だけど、普通には活躍できるとは思う。

 ちなみに俺の個性はあまりに強すぎて制御できないのか、コップに注いだ牛乳の水面を揺らすことができる程度の力しか発揮できていない。

 感覚としてはもっと出来そうなのだが、これが今は精一杯だ。

 強大すぎる個性を抑えるために本能が止めているに違いない(願望)

 

 

 

 

 

 --2

 

「“個性”とは身体能力や才能の延長などと説明している人もいるけれど、それは勘違いを生む説明だと僕は思う。間違いではないが正しいとも言えない、わかりやすくしただけの例ってやつだろうか。物語に出てくる魔法のようなものが一番近いのかもしれないね」

 

 母さんにヒーローを目指すと告げると、いつものほわほわした笑顔をさらに深めて全力で手伝うと言ってくれた。

 その前段階として、“個性”について説明してくれるらしい。

 母さんの手のひらが不要になったチラシ裏に触れると、後を辿る様に勝手に文字や絵が描かれていく。

 赤い文字で“個性”と書かれた下には魔法使いの姿をしたデフォルメされた『俺』が立っていて、無駄なくらいに色彩豊かだった。

 

「生まれたときから発現していて体表や体内に影響を与えているもの、自分の意志で発動して外部に影響を与えるものがある。“個性”はシンプルでよりわかりやすくより見やすくなった才能の形とも言えるかな」

 

 もっといろいろとあるけれど、と母さんが笑顔で呟きながら魔法使いの絵に触れる。

 魔法使いの下に可愛らしいドラゴンが現れ、その背に騎乗するような恰好となった。

 かと思えば、ドラゴンのすぐに傍にはまた別の『俺』がいて、特撮ヒーローのような恰好に変身していた。

 

「炎や氷を作ることのできる“個性”は体力だったり、体温だったりが代わりに消費されることが多いね。“個性”によって全然違うものが失われるのも興味深いよ」

 

 魔法使いが手のひらから火の玉を出しているが、汗を掻いている。

 だんだんと汗の量が増え、顔も赤くなっていて、火の玉を放り投げてしまった。

 ドラゴンが火の玉を食べるのと、魔法使いが氷を生み出すのは同時だった。

 今度は寒いのかぶるぶると震え、そして疲れた表情をしていた。

 

「面白いことに、損失するエネルギーと放出するエネルギーはイコールではないことが多い。人が持つ熱量だけで火柱を立てるのは困難だ、圧縮と膨張を繰り返してエネルギーを得ているとも考えられないし。そもそもそれだとまた別の“個性”と別の何かを損失するからね」

 

      _人人人人人_

 赤文字で > 相転移 < と文字が走る。

       ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄

 小さな灯を生み出した魔法使いは真っ青になり、ドラゴンの背から落ちて倒れていた。

 その様子にドラゴンが右往左往しているのが可愛らしい。

 ドラゴンが温めようと火を噴くが、ちょろちょろと弱弱しく光るだけだった。

 

「しかも“個性”は鍛えるとより強い影響を与えるようになる。体表を変化させるタイプならばより固くなったり、自由自在に動かせたり。炎を操るのなら、火柱の持続性が増えたり、温度が高くなったり。個人で補うにはあまりに膨大すぎるエネルギーを発揮するようになる。人間が外部から取り込むには不可能といってもいいかもしれないね。ガスバーナーみたいに微妙な火を噴き出すだけだったり燃やすだけならお菓子程度の熱量で可能だけれど、“個性”が持つ多様性を前提にするとやはり難しいかな」

 

 ドラゴンがお腹を擦って空腹をアピールし始める。

 それに気づいた特撮ヒーローが何処かから取り出した巨大なリンゴを持ち上げ、ドラゴンの口へと投げ込む。

 リンゴを食べたドラゴンはハートを浮かべながらバリバリと食べていた。

 

「そうなると何が“個性”を生み出しているのかってことになるけれど。基本は体力だね。あとは元気な時やお腹いっぱいのほうが力を発揮できる。そうなると、最も大きな要因はやる気なんじゃないかなって」

 

 ドラゴンが魔法使いに火を噴きかけ、特撮ヒーローが応援している。

 焦げた魔法使いが立ち上がる。

 ドラゴンも声援に加わると、それに応えるように魔法使いは炎と氷を放出し始めた。

 『“個性”≒“やる気”』と赤字で書き加えられる。

 

「食べ物をエネルギー源の基本だと考えている“個性”を持っているとする。特に糖分がメインだとして。そういう人はブドウ糖だけ齧っていたほうが“個性”を強く発揮できる、と考えられる」

 

 ブドウ糖と書かれた丸い石の絵の上にカロリー、下には重量が刻まれる。

 その隣にケーキの絵と、同様にカロリーと重量。

 どうやら量は同じらしい。

 さらにそれぞれの絵の下には棒人間が歩き始めるがブドウ糖のほうが長い距離を歩き続けていた。

 棒人間が発火すると、ブドウ糖のほうがより長く燃えていた。

 

「でも実際はブドウ糖だけを齧るよりも甘いお菓子を食べたほうが強い力を発揮できる場合もあるんだ。ただ甘いだけよりも、美味しいほうが体や心が望むから“個性”への変換効率が良いためっていうのが理由かな」

 

 魔法使いの口へとブドウ糖が放り込まれるが、炎も氷もすぐに弱弱しくなった。

 そこへケーキが放り込まれると、より強く、炎と氷が現れた。

 ドラゴンと特撮ヒーローの歓声が大きくなる。

 そうなると魔法使いも満更でもない表情で炎と氷を大きくした。

 疲れているのか肩を上下させて息をしている。

 

「だから心が一番重要な要素、と言いたいけれど、実は身体も大事だよ。“個性”を生み出しているのは心が中心、そしてそれを支えているのは肉体だからってことだと僕は思うよ」

 

 やがて魔法使いが目を回してパタリと倒れてしまう。

 手足をバタバタと動かしているが、力が入らないのか震えている。

 ドラゴンと特撮ヒーローも困ったように魔法使いを応援しているが、立ち上がることはできないようだ。

 炎と氷は未だに残っている。

 

「結構頻繁、というほどでも無いけれど。“個性”が強すぎて制御できなくなってしまうこともあるね。才能に対して心や体が弱すぎるとも言えるかな」

 

 魔法使いはやがて動かなくなった。

 そして、炎と氷が突然巨大になり、ドラゴンと特撮ヒーローを飲み込んだ。

 ドラゴンは氷漬けとなり、特撮ヒーローは火に包まれたままだ。

 

「器を疎かにして中身が漏れたらどうなるかってことだね。中身が危険でなければいいのだけれど……」

 

 魔法使いの全身が黒く染まり、ゆっくりと立ち上がる。

 真っ黒に塗りつぶされた絵から表情は読み取れない。

 

「危険物なら周囲に害を振りまくようになるかもしれない」

 

 魔法使いが炎と氷に包まれた。

 赤字で『ヴィラン出現』の文字が書き込まれた。

 

「僕が何を言いたいかってことだけどね、“個性”は信じ続ければ応え続けてくれる魔法のような物だってことさ。ヒーローにとって最初で、そして最期の味方だね。無くても人を助けることはできるけど、あったほうがずっと良いほどに強い才能だ。“個性”に関して無意味な努力なんて無いよ、限界もきっと無い。あるのは身体と心が置いて行かれるかもしれないってこと。だからヒーローになりたいなら努力を続けなさい。“個性”を信じ、制御できる体を作り、振り回されない心を育て、先に進み続ける努力を。そして、強い力に頼らずにまずは他の手段を探す努力を。暴力だけでは、自分がそれしかないのだと主張するようなものだから」

 

 特撮ヒーローを包んでいた炎柱が球状になり、徐々に消えていく。

 最終的に、炎を纏ったヒーローが現れた。

 赤字で『ヒーロー出動』の文字が躍るのと、魔法使いだったヴィランと対峙するのは同時だった。

 

「同時に、ヒーローになることを諦めてもいいことを覚えておいて欲しいんだ。立派で、とても大変な仕事だからね」

 

 空白部分に特撮ヒーローの回想が始まった。

 ヒーローを目指して努力を続け、ヒーローとしては未熟なままプロとして認められてから、日々を邁進し、やっとのことで一人前と呼ばれるようになるのは何歳になってからなのか。

 仲の良い魔法使いの姿をしたヒーローとも深く交流するようになり、ヒーロー見習いに教えるようになった。

 それがヒーローの全盛期となるのだろう。

 そこから年老いていく、しかし繰り返される仕事が簡単になることは少ない。

 万全にヒーローを務めていられる『職業の寿命』は短い可能性が高い。

 簡略化された『一人のヒーロー』の人生が進んでいく。

 そして最後には『ヴィラン』をいつものように倒し、自身も傷だらけになっていた。

 しかしそれだけに留まらない。

 特撮ヒーローも黒く染まっていく。

 

「色々なことがあってヒーローを諦めたときは、それまでの努力を捨てる必要はないよ。だけどね、積み重ねていた努力はすぐに崩し、継続していた努力も止めなさい。力に拘ることや理想にしがみ付くこともすぐに辞めなさい。“個性”も、身体能力も、ヒーローを目指していたという心も、どれもとても危険な物だから。目指していた前と諦めた後で、同じように過ごしていると、自分がヒーローやそれに準ずる者で、自身の行いが正しいのだと段々と勘違いしてしまうだろうから。やがて道を逸れたとき、止めてくれた人の言葉も聞こえなくなってしまう、なぜダメなのかもわからなくなってしまう、何のためだったかも忘れてしまう」

 

 氷を砕き、中から可愛らしいドラゴンが現れる。

 そして黒く染まった特撮ヒーローに火を噴きかけて丸焦げになったそれを食べて、チラシ裏を飛んでいく。

 やがて端へとたどり着くと、消え去ってしまった。

 

「他人に迷惑をかけるだけの、何者でもない悲しい存在にしかなれないよ。誰にも忘れられてひっそりと、もしくは人に嫌悪されて消えるしかなくなるんだ」

 

 チラシ裏からは誰もいなくなった。

 

 

 

「さて、以上のことを聞いてもヒーローになりたいかな」

 

 頷き、ほどほどに頑張ってみてダメならすっぱり諦めることを告げる。

 それくらいがちょうどいいかもね、と母さんは緩く笑う。

 俺も同じように緩く笑う、まだよくわからないしテキトーに頑張ればいいのだろう。

 

「じゃあヒーローになるための課題を教えていこうかな。順調に乗り切れればヒーローも夢じゃないよ」

 

 水が注がれたガラスコップを持ってきて、俺の目の前に置く。

 揺らす練習でもするのだろうか。

 

「自分の“個性”がどんなものか、僕に教えてくれる?」

 

 水の表面を揺らす“個性”だと伝える。

 コップに触れると、僅かに水面が波打つ。

 

「そうだね、水っぽいものを操る“個性”だと教えているからね。他には?」

 

 首を横に振る。

 もっと色々と操れる感覚はあるが、純粋に力が足りない感覚もある。

 水を揺らすのが精いっぱいだ。

 

「その感覚は絶対に間違いじゃないよ。僕の考えだとね、液体を操る“個性”なのではないかと」

 

 もっと細かく言うと、と母さんが続ける。

 物質を構成している微粒子の乱雑な部分に干渉しているのだという。

 流動性や粘度、粘弾性といった微細なパラメータへの干渉も可能かもしれない。

 だが、現状では何もかもが足りないので水面を揺らす程度で終わっている。

 

「そんな可愛い息子のためにー、こちらを用意しましたー」

 

 上機嫌なのか母さんが歌を口ずさみながら、次々と調味料を置いていく。

 俺の前にあったコップの横にはずらりと様々な調味料と皿が並ぶ。

 この世界の物理法則はいまいち変なんだけど、と前置きを呟いてから母さんが楽しげに説明を始めた。

 

「わかりにくいことを長々と喋っても良くないだろうから、ぱぱっと説明するね。ここに用意したのは様々な種類の液体だよ。水を基本の一として、それぞれが水よりもずっと大きい粘度を持っているんだ。何気なく使ってるマヨネーズすら八千倍くらい動かしにくいね。でもこれが操作出来てもまだ全然足りないよ」

 

 色々なジュースから始まり、ソース、はちみつ、ケチャップ、ジャム、マヨネーズ、歯磨き粉……。

 母さんが満面の笑みで「さあ、頑張って動かせるようにがんばろー」と俺に告げた。

 どれだけ力を入れても乳酸菌飲料すら揺らせない。

 あまりの難易度に動揺を隠せないんですがそれは。

 

「世の中には特定の物質を自在に操る“個性”を持っている人もいる。残念ながら君はそういった“個性”には目覚めなかった。しかしそれは弱いだとか無意味な“個性”という意味ではないよ。とても万能で素晴らしい“個性”なんだ。強すぎて、適応するのに時間が掛かるだけなのさ」

 

 机の上に、奇妙な道具が置かれる。

 ガラスで出来た漏斗が金属の支えて宙に設置されていた。

 漏斗には黒い物質で満たされていた。

 漏斗の下部は切断されていて、その下にはビーカーが置かれている。

 そしてその器具はガラスのケースで覆われていた。

 

「ピッチドロップ実験、だったかな。水の2億倍以上あるピッチとかいうなんか根性あるすごい液体だよ。アスファルトとかもこれの仲間だね」

 

 “個性”で試しに干渉してみるが、ぴくりとも動かない。

 液体というのは嘘なのではないかと思うほどだ。

 そもそもアスファルトが液体という事実にびっくりした。

 母さんに視線を向けると楽しそうにニコニコと笑うだけだった。

 

「下のビーカーに落ちるまで、約八年と半年を必要とするんだけどね。君が毎日“個性”を磨く努力を続ければ、それよりもずっと早く落ちるのは当然だよね。今から計測するよ。さあ、このピッチが滴下されるまでの時間、それが君の努力と結果の形だよ。これは長期的でかつ視覚化する方法だと思ってほしいな」

 

 最終的にはガラスも操ろうね、と微笑んだ。

 

 

 

 

 

 うおおおおお、と“個性”を使って液体に干渉する。

 半日くらいで気づいたのだが、乾燥するとマジでやべーですよこいつはってくらい動かない。

 水かけて馴染ませると回復する。

 途中で水分が飛んでくのを阻止すればええんや、という天啓を得た。

 やったぜ。

 という感じのこととヒーローを目指すことを父さんに報告する。

 いつも通りの鉄面皮でふんふん、と頷いて部屋を出ていった。

 すぐに戻ってくると、手にはクマのぬいぐるみや模型の姿。

 それらを床に置くと、父さんが口を開いた。

 

「ヒーローになるには、まず考えることが重要だ」

 

 クマのぬいぐるみが勝手に立ち上がり、時計を見て考えたり、雑誌を読んだりし始める。

 やがて両手で鉛筆を掴むと、ノートに色々と書き込み始めた。

 どうしたいのか、どうなりたいのか、どうしたらいいのか等々。

 

「計画を立てたら実行する」

 

 ノートに書いてある通りにクマが活動を始めた。

 朝は卵をジョッキに割る動作をした後、腰に手を当てて一気飲みするポーズ。

 そして走り回ったり、筋トレしたり。

 つまらなそうに勉強を終え、その復習。

 頭を傾げながらご飯の材料を選び、料理し、食べるポーズ。

 食後に同様なトレーニングをしていると、突然別のぬいぐるみであるライオンが出現する。

 ぽかぽかと音がしそうな戦いを繰り広げ、クマがおそらく負けたのだろう、音を立てて倒れた。

 

「そして実行したことを評価する」

 

 自身に包帯を巻いた熊のぬいぐるみは、再びノートを書き始める。

 トレーニング、食べ物、生活態度、学習内容……。

 より洗練されているように思える、ぬいぐるみなのに。

 

「評価をもとに改善し、再び計画を立て、そして実行する」

 

 今度は卵を飲むことは辞めたらしい。

 代わりに色々な食物を選び、食べるポーズ。

 そして柔軟をしてからプロテインを飲み、何かと戦うことを目標とした動きを始める。

 勉強の際には真剣に打ち込みながら、体は休めているようだった。

 再びライオンが現れるが、クマも先ほどとは別人(?)だ、負けるとは思えない。

 またもやぽかぽかと音がしそうな戦いを繰り広げ、ライオンが負けたようで倒れた。

 クマが誇らしげに両手を掲げていると、ライオンが立ち上がった。

 ライオンの(たてがみ)が逆立っている。

 やれやれ、と肩をすくめたクマに再びライオンが襲い掛かった。

 先ほどよりも動きの速いライオンに押され、やがてまた負けたようだ。

 

「“個性”も同様だ。よく考えなければならない」

 

 巻いていた包帯を引き千切ったクマが、ノートへとまた書き込む。

 周囲の被害、効果範囲、持続時間、制御の仕方……。

 ノートを書き終えると、クマの体が二倍ほど膨れ上がった。

 たぶん“個性”を使ったのだろう。

 身体強化のようなものかもしれない。

 そしてライオンとクマが勝ったり負けたりを繰り返し、二匹の努力が繰り返される。

 

「なぜ考えなければいけないのか、緩慢な努力を続けるのはいけないのか」

 

 ライオンの張った罠に引っかかってボコられるクマ。

 

「油断する」

 

 クマのカウンターによって一撃で倒れるライオン。

 

「単調になる」

 

 互いの動きに精彩が欠くようになってきた。

 

「そして終わりが訪れる。全てはここに帰結する」

 

 クマもライオンもベッドで並んで寝たままだ。

 点滴と白い壁が生々しい。

 

「ヒーローを目指して認められるだけで年齢でいうところの十代の大半が終わっている。なんの背景も持たないのならば下積みで二十代が使われる。満足に動けるようになるのは三十代からというヒーローも少なくない」

 

 話を聞いていた母さんがクマとライオンを撫でると、毛が真っ白に染まった。

 ぬいぐるみながら立ち上がることすら億劫そうだ。

 

「だから考え続けなさい。何をするのが最適なのか、どんなことが必要か、どういったことならば時間を使っていいのか、と」

 

 母さんが再びぬいぐるみに触れると白から元の茶色へと戻った。

 ぬいぐるみも模型も、父さんの手元へふわふわと飛んでいく。

 話は終わりのようだ。

 

「ああ、そうだ。ヒーローを目指すのならばこれを続けたらいい」

 

 クマが書き込んでいたノートが目の前で浮遊している。

 手に取ると、重量が突然戻ったかのように重さを感じた。

 

「毎日書きなさい。趣味でもいいし、ラクガキしてもいい」

 

 この積み重ねを振り返ったときに後悔しないようにな、と父さんが呟いた。

 

 

 

 

 

 --3

 

 なぜ動かせないのかを調べ、液体ごとに癖があることを掴む。

 それに干渉するために色々と試し、失敗し、また試す。

 “個性”ばかりに励んでもヒーローにはなれないのはわかっているので、父さんに聞く。

 柔軟を心がけ、体力が付くように走り込む。

 そうして成長を阻害しない程度に筋肉が付くよう筋トレをする。

 食べ物は母さんがどんな効果があるか、何を食べたらいいかを教えてくれた。

 イメージできれば俺の“個性”で効果的に栄養を発揮できるかもしれないとのことで、聞き逃さないようにする。

 ノートが増える、漏斗は変化なし。

 

「頑張ってるみたいだね。そんな可愛い息子のためにー、こんなものを用意しましたー」

 

 コトリ、と音を立ててコーヒーカップが置かれる。

 なんとなく落ち着く香りだ。

 精神を落ち着かせるために用意した、なんてことは絶対にないだろう。

 楽しそうな笑顔を見たら困難な試練が待ち構えているに違いない。

 

「 一度混ざってしまったコーヒーとミルクを君ならどんな風に分離する?」

 

 コーヒーへとミルクと砂糖を投入し、混ぜている。

 まさか……。

 

「答えは単純! “個性”で強引に解決させるのさ! かっこいーねー!」

 

 母さんが言うには制御訓練らしい。

 ええ……こんなん無理ぃ……。

 できるわけがない……。

 

「できるわけがないって思った? 四回までなら言ってもいいよ」

 

 聖王が許してくれるらしい。

 誰なんですかねそれ。

 

 

 

 

 

 --4

 

 母さんが嬉しそうに『ジャイロが作ってくれるコーヒー』と名付た液体を前に、必死に“個性”を操る。

 まずジャイロって誰なんだっていう。

 ピッチドロップの高速化並みに困難だ。

 コールタールみたいにドロドロで、砂糖を同量ぶち込まれた液体を分離させるとか。

 必死に感覚で混ざっている粒子を選り分ける。

 気の遠くなる作業だが、機械的に出来る部分を発見した。

 ノートに書き込んでいると、父さんに呼ばれたのでとことこと向かう。

 

 

 

 

 

「時間は有限ながら体を鍛え、“個性”を伸ばす。両方やらなくっちゃあならないってのがヒーローを目指すことのつらいところだな」

 

 父さんがそう言いながら俺の手を引いて外へと出る。

 どこかに買い物にでも行くのだろうか。

 

「人の脳は一つの物事を考えるのに適している、というよりも一つの物事を考えることしかできない。基本はシングルタスクだ。鍛えることで幾らかは解消できるだろうが、やはり問題は残る。同時に複数の物事を行うにはどうするのか。無意識的に行えるように、ある種の機械化に近い慣熟が必要だ」

 

 “個性”を使うたびに、液体に集中しすぎている俺を指しているのだろうか。

 だって難しいし、疲れるし。

 もっと単純な“個性”だったら、もっと制御も楽だったかもしれない。

 うーん、悩ましい。

 いや、“個性”は決定しているから何も悩むことはないか。

 なんとなく身体能力や才能の延長って感覚もわかるし、俺に合った“個性”ってことだろう。

 

「この道路はアスファルトだ。要は液体だな」

 

 頷く。

 

「アスファルトに“個性”を使い続けながら」

 

 頷く。

 

「あそこにいる巡回中のヒーローに襲い掛かってきなさい」

 

 ……!?

 

「ヒーローになるのならば戦いの経験は重要だ。相手の“個性”との戦いでもある。安全に戦えて、かつ“個性”を使ってくるのならばやはりヒーローと戦うのは欠かせない」

 

 混乱する俺をしり目に、“個性”で浮遊させられる。

 手足を動かしてなんとか逃れようとするも、無駄に終わった。

 

「なに、心配することは全くない。彼らはプロだ、小学生程度なら簡単にいなせるだろう。事情を問い詰められたら、そうだな……。自由研究でヒーローについて調べている、とでも言えば納得するだろう」

 

 許されるかは別だが、と告げて投射される俺。

 小学生が吹っ飛んできて驚くヒーロー。

 結果は当然のことで言うまでもなく。

 

 帰ってから母さんに訴えると「いいね、それ。一石で何鳥になるんだろう」と笑顔で返された。

 

 

 

 

 

 --5

 

 始めたころには3年かかったピッチくんを落とす制御訓練も、今ではビーカーのガラスと混ぜたり分離させたりを繰り返せるようになった。

 ヒーローに襲い掛かるのも辞めた、少年院はちょっとやべーですよ。

 自身の成長がちょっと怖い。

 追加される両親の無茶振りにも応えられるようになってきたが、不満そうな母さんを思い出すと手を抜いたほうがいいのかとも思ったり。

 

 父さんに進路を訊ねられた、実は近所のヒーロー科がある高校を予定している。

 東の雄英、西の士傑って感じで有名なところもあるよ、と母さん。

 体育祭もそうなのだが、行事があるたびに何らかの情報媒体で“個性”をばらされるのってヒーローとして怖すぎる。

 あとなんか偏差値79とか無理だし、在校生や卒業生がほんとにそんなに頭いいのか怪しい。

 もしかするとヒーロー活動中心の学生生活で勉強しなかったり、頭を使わなかったりする可能性が高い。

 結果として入ると“個性”フルオープンな馬鹿ヒーローになりそうだから、その、考慮すらしていないかなって目を逸らしながら伝える。

 「ああ……」って感じの返答だけが居間に響いた。

 

 

 

 

 

 --6

 

 順調……た、たぶん順調に高校生活を過ごした。

 仮免試験の際に、雄英高校と士傑高校の学生が居たが、やべーやつらだった。

 基礎がガバガバで、知識もガバガバのやべーやつらの集まりだった。

 筆記試験で救護や法律なんて知らないと騒いでいて、やべーやつらだった。

 実技試験は凄い元気で、“個性”でゴリ押す系でやべーやつらの集合だよ。

 トリアージとか応急の知識はないようだったし、ヒーローの模範的な動きも知らないようでやべーやつらだった。

 というか何故か必殺技を用意していた、殺意高すぎてやべーやつらだった。

 なんやこいつらこわいなー、一生近寄らんで戸づまりすとこ(純粋な恐怖)

 

 

 

 仮免試験を記憶から消すと、同級生たちと騒ぎながら切磋琢磨し、災害対策系のヒーローの下でインターンを行ったのは良い思い出だ。

 そのまま順調にプロヒーローとなり、隙間産業ではあるけれども個人で活動を始められたのもちょうどよかった。

 何故か「ヴィランと戦って捕縛し、名を上げるぜ!」みたいな好戦的ヒーローばかりなので、近所の巡回や災害現場で働く場所が沢山あって多忙ですらある。

 タンカー座礁で海水汚染とか豪雨による洪水、干ばつ……etc。

 

 ヒーローとか天職やんけ!

 

 

 

 

 農業系タレントと仕事したのが楽しかったと両親に告げる。

 実は農業系じゃないらしい。

 農耕機械系とか?

 アイドル……?

 ????

 しかもロックバンド????

 

 ???????

 

 

 

 ま、まあ、実際ヴィランとか嫌なんだよね、俺。

 悪が出るってことは基本的に被害者がいるわけじゃん。

 しんどい目にあってる人がいると思うと、凄い嫌。

 あとヴィラン相手に話し合いとかめんどくさい。

 率先してヴィラン対処も別にできるけど、災害による被害のほうが多いので天職優先にしとく。

 都会って治安が悪くてヒーロー同士の縄張りとか内ゲバが凄そう(偏見)

 

 なんやこわいなー、一生近寄らんで戸づまりすとこ(地元最高民)

 

 

 

 

 

 --7

 

 同時期にヒーローとなり、同じような活動範囲のため連携をよく取っていて仲の良い13号から電話があった。

 災害訓練用の施設で学生を指導するので、ついでに水害訓練もしたいとか。

 ええやん。

 “個性”豊かで将来も有望とか。

 やったぜ。

 

 だ か ら 俺 に 手 伝 っ て ほ し い と か 。

 

 だから?

 何が「だから」なんや???

 ?

 ???

 ??????

 ????????????????

 ??????????????????????????

 

 疑問符の波が俺を襲う!!!!

 

 

 

 

 

 雄英高校って時々ヴィランに襲撃されたり、凄い怖いわけですよ。

 未来の凄いヒーローの金のタマゴだぞって喧伝してるからね。

 そりゃあ、狙うよ。

 俺がヴィランだったら通学途中にぶっ殺すね。

 だから嫌です。

 

 え、そういうの無い?

 マジ?

 仲の良いセメント神と無効化の人、物理最強のオールマイトが指導してるって?

 完璧な布陣、俺じゃなくても見逃しちゃうね。

 こんなところに襲撃してくる馬鹿なヴィランなんておらんやろ(極太フラグ)

 指導したらすぐ帰るからね! べ、別に13号とセメント神のためじゃないんだからっ!

 

 

 

 災害訓練の結果から言うと、ヴィランに襲撃された^q^

 オールマイトを狙っていたらしい、生徒たちというか俺たちヒーローも巻き添えじゃないですかやだー!

 ま、まあ、一応ヒーローもチームだから多少はね(寛大)

 

 でもヴィラン側は指導しているヒーローの編成を見てから考慮しなさい、-114514点。

 才能ないしやめたらぁその仕事(ヴィラン)

 ヒーローとかあるぞ。

 

 というか俺じゃなくても襲撃しないで見逃すでしょ普通。

 あ、普通じゃないからヴィランなのか。

 ははは……はぁ。

 

 

 

 




マッマ
ハーメルン読みたいって呟く素敵な絵本作家のお母さん。
“個性”は「配列変換」と言い張っているが実際は核変換。
触れた物をてきとーに変換させることができる。
RTAで確かめた結果メガトンコインした。

パッパ
ヒロアカがじゃなくてジョジョが読みたいって呟くぬいぐるみ劇団(総勢1名)の素敵なお父さん。
“個性”は「念力」
最近駄菓子RTAをして、電卓と比較している。

オリ主
地域で活動するマイナーなプロヒーロー『ブラックウーズ』。
三十路近くなのに結婚相手が未だに見つからない。
生まれる前に“個性”で両親にいじられ、“個性”に合うように調整されて誕生。
“個性”は「水っぽいものを操れる」
実際は物質を構成している分子に干渉できるため、あらゆるものを溶かす(崩す)ことができる致死性最大級。
乱雑な粒子を操るのが楽な上に手加減できるので、テキトーに液体を操作している。
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