次話を他視点にして補完してぇんや!!!(書くとは言ってない)
--7
父は世界的にも超有名な映画監督、母は世界的にも超有名なスタア、兄は子役から華麗な活躍の道を突き進むスタア、姉は父の片腕的な助監督。
そんな家族に愛される俺は、何の才能も持たない凡人だった。
そういうことも良くあるからしょうがないね^q^
俺も何かできればいいな、と努力したことも(ちょっとだけ)あった。
父に付いて行って映像を見れば違いがわからずテキトーなことを言って呆れられ、母の背にべったりくっついて演技を見ても全くわからず突っ立っていた通行人の素人を褒め、兄が演技で困っていたので割った瓶で顔を引っ掻いてドン引きさせ、監督の補助みたいな物だろうと舐めて姉に金魚の糞をして落ち葉をばら撒いて迷惑をかける始末。
一生懸命頑張って結果の出せなかった俺を家族は哀れに思ったのか、凄い可愛がってくれるしお小遣いもくれる。
学べたのは、テレビのADは駆け出しだが、映画のAD(助監督)は偉いし才能が無ければ出来ないことと、素人とプロの違いがわからないくらい感性が致命的にクソだったことくらいだろうか。
流石にこれだとヤバいと理解した俺は、全方面に媚を売ることにした。
超天才の家族に愛される末っ子は、全媚糞野郎だった(周知の事実)
そんなわけで俺は華やかな世界に生きることができるのは優れた者のみだと知った。
スポットライトに照らされる権利は誰もが持つ物では無い。
輝くステージは選ばれた人間のみが立つことを許される。
絢爛豪華な箱も、あの煌びやかな台も、一握りのためだけに用意されている。
栄光に続く幻想とも思える道を歩める者は、才能を持つ一握りのみ。
美しい夢を見続けるためには、誰もが羨む特別な才能を持つ者でなければならない。
持たざる者は金、権力、そしてコネで美しい夢を現実の苛烈さの前に消してしまえばいい。
家族と、それに芋づる式で連なっているコネにマジ感謝。
--8
いっけなーい!
遅刻ちこく☆
約束の時間をオーバーして焦る俺!
朝食で使ったジャムの空瓶!
転倒する俺!
つらい……。
どうして悲しみは連鎖するんだ。
争いは何故無くならないの。
本業が失敗した悲しみをよみがえる。
なぜ人は働くのだろうか。
俺は悲劇のヒロイン、悲しみに涙して遅刻という事実に蓋をした。
もうなんかテンション下がり切ったまま仕事現場に到着。
審査中の部屋に入り、遅れた詫びもせずに不機嫌なまま椅子に座る。
よく考えたら失礼な奴だったわ。
社長に詫びを入れようとしたら手で制された。
許された、ラッキー。
気分で仕事を受けたり受けなかったり、知り合いをごり押ししても許してくれるし頼んだら色々とくれるからここの社長大好き。
今どんな感じかと隣に座っていた黒山さんに訊ねたら、睨まれて舌打ちを返された。
ひ、ひどい……。
俺に審査員の話が来てると知って、自分が審査員枠に入るために抱き合わせで参加させたクセにこの態度ですよ奥さん。
ぶっちゃけこの仕事を受けるつもりはなかったからこれまでの仕事はクソテキトーだけど。
そもそも審査に参加したら名前を宣伝で使われるわけで、このオーディションに受かった女性が仕事したら『あの○○が選んだスター!』みたいな感じにされる。
名前負けして恥ずかしいからやめてくんない???
そもそも外国で活躍したらしい黒山さん以下のネームバリューだから自意識過剰かもしれない。
……よし、解決した。
さて、審査は……悲しみの演技。
なるほど。
節穴の俺でもわかりやすいテーマにしてくれたみたいだ。
マジ感謝!
あの娘は声を挙げて悲しそうで可愛いから100点!
あの娘は顔を隠してて表情はわからないけど誤魔化しが上手くて可愛いから100点!
泣きながら脱力したらおっぱいがえっちで可愛いから100点!
ぶりっ子で可愛いけど好みは人によるから50点!
可愛いけどぼーっと突っ立ってるだけで俺にもダメだとわかりやすいから0点!
顔とおっぱい、お尻は覚えたから問題ない。
点数はそのうち書きこもう。
後で社長や役員がいい感じに業界で売りやすい娘を選ぶからテキトーでヨシ!
どうせこの資料も意味ないっしょ、と鉛筆でぐるぐると写真を塗りつぶして遊ぶ。
やべ、エントリーシートのコピーだったわ。
ほとんどが誰かわからなくなった。
……まあいっか、みんな平等に写真を黒くしよう。
写真が残っていたのは0点の娘の用紙だけ。
名前は
友達からけーちゃんってあだ名で呼ばれてたら可愛い、可愛くない?
対義語は
景の対義語ってなんだ……影?
うーん、名前っぽくないな。
朝時化影、朝時イヒ影とか……これ名前か?
影といえば影絵をちょっとやってみたいんだよなぁ。
それはそれとして秒で審査した有能な俺だが0点けーちゃん以外の写真を塗りつぶしたため、誰が誰だかわからなくなって点数に悩む。
逆転の発想だ、全員を0点にしよう。
バランス理論で脳内の平和を勝ち取って半分寝ていたら、言い争いが発生した。
出来心だったし眠かったんだゆるして、と謝りそうになるのを飲み込む。
どうやら争点は俺じゃないらしい。
大人気俳優のアキラくんが「冷やかしなら帰ってくれないか!」とこだわりのラーメン屋みたいなことを言い出し、黒山さんが「バカでもわかるように演じろ」と言って0点けーちゃんを泣かせた。
泣かせてんじゃーん、と俺はヘラヘラしたが、室内は物凄くざわついていた。
俺は甘く考えすぎていたが、確かに未成年の娘を囲んで泣かせたような物だからな。
圧迫面接は社会問題となっている。
俺はこの会社の部外者ではあるが、仕事を任されているので連帯責任でパワハラ問題として訴えられても困る。
ひじょーに困る。
あと飽きた。
ぱんぱん、と手を叩いて注目を集める。
「スターズは純粋な劇団ではないのでこれくらいにしましょう。そもそもこれは演技が上手な劇団員を決めるための審査ではありません。『スターズの俳優』を発掘するオーディションです。そしてここに馬鹿はいません。社長、審査は終わりでよろしいですね」といじめられてるけーちゃんを庇う大人の俺、ざわつきまくる室内。
けーちゃんには泣くほど難しいのだろうが、俺はバカじゃないからわかりやすく演技しなくていい(ドヤ顔)
しかし、頷いた社長が鶴の一声で審査が終わったことを告げると静まった。
よし、終わった終わった。
「スターズの俳優を発掘するオーディションです(キリッ)」とキメ顔で宣言しながら全員0点の評価をつけて帰るだなんて、なかなかできることじゃないよ。
敗北を知りたいくらい完璧な仕事だったな。
パワハラから依頼者を守るとか真剣に仕事しすぎたなぁこれは。
これはデーモンコアベイブレードの動画を撮るから長期休みに入るしかないなぁ。
ホントはもっと頑張りたかったけど、コネに頼るしかない俺には仕事もないからね。
しょうがないよなぁ^q^
帰りにUFOキャッチャーで蝶の玩具を取った。
もちろん後で自慢するためである。
--9
いっけなーい!
遅刻ちこく☆
審査員の仕事が終わってないことを知って約束の時間をオーバーして焦る俺!
洗って乾かしたまま放置されていた空瓶!
転倒する俺!
本業だった動画投稿は、乗っ取られて奪われて無事死亡!
中国に乗っ取られたのと、整形しすぎて崩壊したのと、中の人が暴走したのと……。
手を離れてから不祥事が続いて、関係ないとはいえマジつらたん。
誰か彼女たちを助けてあげて。
俺は悲劇のヒロイン、悲しみに涙して遅刻という事実に蓋をした。
とりあえず審査員は今日で終わりだし、空瓶も家に転がってるから危ないんだ。
途中でコンビニのゴミ箱にでも捨てて行こう。
つらい……。
どうして悲しみは連鎖するんだ。
争いは何故無くならないの。
最近のコンビニがゴミ箱を店内に設置したのは社会問題なのではないだろうか。
空瓶はどうしたらええんや……。
瓶を片手に彷徨ってたら、そういえば今日は審査員の仕事だったと思い出す。
うーん、もういいか。
影絵で遊ぼうと思ってライトを買ったら荷物がいっぱいになってしまったし、車を使わないと間に合わない時間だし。
でも影絵に使えるライトが手に入ったから運が良かった。
今日はもう空も青いし、帰ってこれで遊ぶしかないだろう。
へーい、タクシー、と道路に向かって手を振ると車がすぐに止まった。
運と流れ、俺の方に来てるね。
タクシーにしては良い車だなぁ、と現実逃避しながら乗り込むと、運転席には売れっ子俳優アキラくんが「お見通しでしたか」と苦笑いしていた。
なにが???
俺が寝坊したことが社長にお見通しだったとか???
やばくない???
まあそれはそれ、よっこいしょういち、と乗り込む。
後部座席に、0点けーちゃんとちびっ子二人の姿が……!
最終選考に選ばれたから、送迎するのだとか。
経済状況から役者になりたいらしい……話が重ぉい!
弟と妹も姉の姿に喜んでてきらきらとした目線を送っているのを見て、0点を付けたことにそこはかとない罪悪感。
そして、スターズのスタア☆である星アキラが直々に送迎するとか、もしかして物凄い才能がある……?
うーん……言われてみればそこはかとなく目がチョコちゃんに似ている、気がしないでもない、か?
天才だなんだって騒がれる俳優の特徴として目が虫っぽい人が多い気がするようなしないような、そんな感じだ。
虫、腹がキモいし動きも読めないから苦手なんだよね。
小さい虫、それも蝶みたいに安全なら瓶に詰めて無害化できるのに。
ドヤ顔で瓶を見ていたら、ちびっ子に何故持っているのか聞かれてしまった。
アキラくんに助けを求めて視線を向けたら、なぜか真顔で頷かれた。
前見て運転してくれ。
捨てようと思って捨てられなかったと正直に答えるべきか……。
いや、これからこの子たちの姉を審査するというのに情けないことを言うべきではない。
カッコいい大人の俺ならカッコいい答えが出せる。
そうだろう、俺!
「演技とは限られた枠の中で幻想を作り出す魔法、役者はその繊細な技術で魔法を操り、観客は演技に魅せられる。ここにある蓋の無い空瓶、それすらも役者にかかれば重要な物に変化する。ふつふつと沸く熱湯、ゆらゆらと立ち上る湯気、もしくは空を飛ぼうと囀る小鳥。本物の役者はたった一つの空瓶にすら世界の一部を作り、栄光を醸造し、名声に蓋をする」
知らんけど。
というか今テキトーに喋った話はスネイプ先生からパクった。
そして内容はパントマイムの領域じゃないだろうか。
うーん、まあいっか。
どうせ一緒よ。
……はっ!
天啓が舞い降りた。
「練習してみなよ。テーマは……最初だから小さくて、それでいて中を見つめる価値がある物だといいと思う。」
振り向きながら瓶を渡して告げる。
ゴミの処分にプラスしてさっきのポエムに意味を持たせた自分の頭脳が怖い。
テーマは知らん。
でも瓶を使って演技練習するのに車をイメージされたらヤバいから小さいのだけ使えばって助言しておいた。
俺って優しみの塊かもしれない。
アキラくんは真剣に考え込んでいる、安全運転で頼む。
ミラーでちらっと見たが、納得してくれたのかけーちゃんと彼女の弟妹は瓶で遊び始めた。
朝のお通じがまだだからトイレ寄ってから仕事に行くね。
あとけーちゃんが俺の真似をし始めたけど、スネイプ先生をパクッた俺を真似したらパクリのパクリで方向性が行方不明にならないか?
--10
うんこしてて遅れてマジごめん、と部屋に駆け込む。
アキラくんがけーちゃんを連れてきたことは予定していなかったようで、社長に怒られていた。
俺はセーフだよなぁ?
アウトだった^q^
社長に問い詰められたので、謝った後に言い訳として影絵で使う予定のライトを見せる。
俺の無謀な言い訳がなぜか通り、社長が眉間に皺を寄せながら「そう……でも、それを使う必要はないと思うわ」と言って去って行った。
許してくれたっぽい。
でもさ、よく考えてみて。
いや、なくてもいいんだけどさ。
言い訳になってなくない???
甘いのでスターズの社長大好き。
俺を甘やかしてくれる人はみんな大好きだけど。
さて、最後の話し合いも終わったので最終審査が始まる。
最後まで選考に残った4人の女の子に向けて、審査内容が告げられる。
テーマはパントマイムらしい。
ふーん、なるほどね。
初めて聞いた気がしないでもない。
あ、でもなんかそんな話を聞いたような無かったような。
で、設定は野犬らしい。
ふーん、なるほどね。
こんな簡単なのでいいのか。
俺でもスターズの俳優になれちゃうね……顔のことは言いっこ無しね。
さて、俺が演じるならまず食べ物を用意する。
デリバリーでもインスタントでも良しとしよう。
下にコンビニがあったから駆け込むのもアリだ。
戦うならまず勝つための最大限の準備をするものだからな。
そして用意した料理を手づかみで零しながら食べる。
で、汚れたまま四足歩行し、威嚇する。
これが最適解だろうか。
けーちゃんが困ってたらこれを助言してやるとしよう。
ふっ、これが頼れる大人ってやつだ。
ガラスの仮面サンキュー。
ニヤニヤしてたら、けーちゃんが野犬とバトルし始めた。
俺にはよくわからなかったが、周囲の反応からしてバトルっぽい。
そしてそれに乗るように他の三人も対峙し始めた。
ふ、ふーん、なるほどね。
……なるほどね、最近の若い娘は野犬とバトルできるんだぁ(盲点)
……危うくバカにもわかるように説明するところだった^q^
そんなわけで、俺の中での紆余曲折を経て、けーちゃんが野犬を倒して拍手喝采。
よし、終わった終わったとライトを持って帰ろうとしたら、社長が意味深に頷いた。
白いスクリーンが野犬とバトルしていた四人の女の子を隠す。
そして社長が高らかに第二課題である影絵を告げた。
第二?????^q^
帰りのホームルームを終えて意気揚々と帰るところに生活指導から冷凍ミカンで天井破壊したことについて呼び出された気分だ。
つまりやる気が枯渇しまくり。
そういえば蝶の玩具を持ってくるの忘れたなぁ、と呟く。
影絵で行うテーマが「蝶」になった。
照らされた四人がぎこちなく動くが、さっきの野犬とは打って変わって物静かだ。
なんか難しそうでごめんな……。
しかし、影だと誰が誰だかわからん。
わからんよなぁって他の審査員に顔を向けるが、みんな違いがわかるらしい。
ふ、ふーん?
俺もあとちょっとでわかると思うけど、バカにも分かるようにしよう。
というわけで『順番はくじ引き、髪は纏めて服装も合わせる、声は出さず好きな立ち位置で演じる』と個人審査に切り替えてく。
野犬では一斉審査だったので、ここらで個別審査にしても方便ではあるが問題ないっしょ。
むしろ強引だった影絵がまるで兼ねてから考えていた審査かのように……無理があるか。
初めの娘は両手を広げてゆっくりと上下に動かし始めた。
なるほど、わかりやすい。
100点だ。
2番目の娘は座り込んで顔をゆっくりと動かしたりしていた。
周りの呟きを聞くに、蝶を追っているのではないかという話だ。
75点。
3番目の娘は差し出した指を見つめていた。
蝶が止まってる稚拙な演技らしい、黒山さんが言ってた。
50点。
4番目、影も一番小さいし、動きも無い。
手をじっと見つめているだけ。
うーん、わからないから0点!
アキラくんが「瓶の中で蝶が……まさかこれが狙い……そこまでして彼女を落としたいんですか」と呟いていた。
黒山さんは舌打ちした。
社長はドヤ顔でふんすふんすしていた。
他の審査員は困っていた。
大人の俺は「バカにはわからない演技って意味あるのかなってときどき思いますよね」とフォロープラス予防線を張って自己防衛しておいた。
デーモンコアベイブレードがウケたからやっぱり本業に戻るね……。
--11
まあまあ良い肉をすき焼きにして一番のやつと一緒に贅沢に食い倒れよう。
ってことで料理していると、インターホンが鳴ったので嫌々ながら応対する。
黒山さんが、部下とけーちゃんと、けーちゃんの弟妹を引き連れて我が家に攻め入ってきた。
ずかずか上がり込むのやめてくんない???
知り合いはみんな何でそうなの???
それはそれとして……大人は対応を見誤らない。
高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に応対できるのが大人だ。
一人分にはあまりに多すぎるすき焼きが恥ずかしいので、「そろそろ来る頃だと思った」と強がって振舞う。
物は言いよう。
すき焼きを子供に食べさせまくってたら、けーちゃんの頭を鷲掴みした黒山さんに「何故こいつを落とした」と聞かれた。
え、落としてないけど?
人聞きの悪いことはやめてくれないか???
俺はいつだって真面目に仕事しているんだが???
彼女の幼い弟と妹に『マジかよこいつ畜生じゃん』みたいな視線を向けられた。
やめてくれ、それは俺に効く。
スターズが求めた物と、用意された物が全く違ったのかもしれない。そもそも社長が決定権を持ってるらしいし。
「落としてませんよ。スターズは求めていなかったから落ちただけです。洋食のお子様ランチが食べたいのに、和食の懐石が出てきたのかもしれませんね」と言い返しつつ本人がいるので持ち上げてフォローもしておく。
物は言いよう。
大人の気遣い。
彼女の幼い弟と妹に『マジかよやっぱり畜生じゃん』みたいな視線を向けられた。
なんでぇ^q^
で、今日我が家に攻め入った本題として、けーちゃんは勇者の剣を持っているが町周辺のスライム狩りしかしたことが無かったからメタル斬りに来たらしい。
うん……うん?
噛み砕いて聞いて、俺なりにわかりやすくした結果「コロモンからメタルグレイモンに進化するのはいいけど、スカルグレイモンに進化しないように」ってことらしい。
うん……うん???
ぶっちゃけ諦めて受け入れるようにしてるけど、相変わらず業界の人は意味不明なんだよなぁ^q^
とりあえず影絵の練習に来たらしく、黒山さんにコツを教えてやれと言われた。
コツ……?
影絵の……?
え、じゃあけーちゃんは影絵のなんかなの……?
でも俺は影絵のなんかじゃないから何も教えられないんだけど……?
最終審査の時にテーマになった『蝶』の影絵が見たいらしい。
急に来て無茶振りが凄い。
めんどくさくなったので、テキトーにやればいいか。
僅かばかりの準備をして演じてやろうじゃないか。
部屋の電気を消し、スクリーンの裏側からライトで照らす。
手で蝶を作り、羽ばたかせる。
黒山さんを中心としたブーイングが聞こえる。
けーちゃんの弟と妹が「おねーちゃんをさらった怪しい人より怪しい! ほんとは仕事できないんでしょ!」と中々酷いことを言ってきている。
なんて堪え性のない観客なんだろうか。
仕事が出来ないのは本当だが、怪しくは無い。
大人を怒らせたらどうなるかわからせるしかないよなぁ?
手で作った蝶がライトを覆うことで一度スクリーンを暗くし、そしてライトを消す。
で、仕込んでおいた秘密兵器を投入。
ライトを付ける。
スクリーンに再び影が映し出され、「ほんもののちょうちょみたい」と歓声が聞こえる。
マジでか、と俺もスクリーンを見に行く。
空瓶の上で、蝶のような影が羽ばたいていた。
マジだったわ^q^
たぶん飛び立ったのかもしれない。
影絵を見ていた皆と目が合い、「は?」って言われた。
「は?」は流石にひどい。
俺だって影が見たいっての。
ネタ晴らしとして以前UFOキャッチャーで取った玩具を釣竿で吊るしていたのをドヤ顔で見せる。
この釣竿で去年はザリガニを釣って食べた。
上下に振ると蝶が羽ばたく。
「モスラじゃねえか!」「モスラは
なんだお前ら詳しいな、モスラ博士か?
だが待ってほしい。
モスラが蛾だって明文されているだろうか。
キッズどもは知らないだろうが、モスラを知らなくても死なないんだが???
「そういうわけで、スクリーンをカメラや舞台の枠、影を役者に見立てることができる。今は観客の視点から見たからわかると思うけど、裏側のように見えないところでなら何をやってもいい。役者は限られた空間の中でならどこまでも自由なんだ。雨の中で傘を差さずに踊ってもいいし、晴れてるのに傘を振り回して遊んでもいい。でも、今のモスラみたいに明らかに異質すぎると受け入れてくれるかはわからないよね」
と、言い訳しておく。
物は言いよう。
道具は使いよう。
そもそも審査に持ち込めないって?
俺は役者志望じゃないから知らんがな^q^
騙されたことに気づきつつあるのか、首を傾げながらけーちゃんたちが帰るので見送る。
黒山さんに、映画のオーディションに参加するから公平な審査になるようにと監督に伝えて欲しいと言われた。
知り合いだからオッケーやで。
だいたい知り合いか、知り合いの知り合いか、知り合いの知り合いの知り合い。
いや、黒山さんも知り合いなのでは???
そうだなぁ、同じことしてもしょうがない。
いや、後で一応声をかけるけど、スターズ絡みなので先に社長に電話しておこう。
ここは大人の会話で大人力でもアピールしちゃうか。
俳優が役に成り切ったまま死ねたら望外の喜びだと思いませんか、という理解のある業界人な感じでいこう。
社長も昔は役者だったからお気持ちわかりますよというゴマすりクソ無能のアピール。
また大人の階段登っちゃったな……(なおアラサー)
薬と妖怪のパロディ動画出したら削除された。
クスリで頭がイカれて車に轢かれた猫が化けたラリにゃんとか渾身の出来だったのに残念だ。
シンナーのやりすぎで作業用機械に巻き込まれた細切れのコマさんとかも用意したのに。
本業ばかり不運に見舞われるののどうにかならないっすかねぇ……。
--1
俺は自由だ!
いえーい!
高校卒業したけど進学も就職もしてない!
親の金で、俺は、生きる!
--2
だらだらと一人暮らしを謳歌していると、母から進路について電話がかかってきた。
「ニートです、遊ぶから養って」……とは言えないよなぁ。
目標ではあるんだが。
とりあえず進学することだけは決めている旨を伝える。
学歴さえあれば頭の固い年寄りには必殺の一撃となるのだ。
今は高校卒業して何もしないで遊んでいるのは力を溜めているだけだから(震え声)
が、それだけでは納得してもらえず、今度は大学卒業後について家族から連日電話がかかってくるようになった。
最終的に「こっちで地盤固めができたらそっちで同じ仕事する」ということになった。
あるぇー^q^
おかしい……。
こんなの絶対におかしい……。
よく考えたら言葉や演技が巧みな家族に俺が勝てるわけないのだな(現実逃避)
俺だけでは芸歴、というか業界歴しか誇る物がないのだが?
あと身長か……?
固める地盤がどこにも無いのだが?
どこにもない地盤とかラピュタか?
家族が持ってる地盤で埋め立てとかさせてくれないか?
今は頼れる家族もいないので半ば休業中(活動中でも雑魚)なので頼る物が何も無いのだが???
とりあえず毎月仕送りがあるからテキトーに過ごしてヨシ!(猫画像省略)と過ごしたいが却下。
何もできずに干されていく業界人を見たことがある俺にはそんな無為に過ごすことなんてできねぇ!!!
地盤固めに50年くらいこっちで遊んでても仕送りしてくれそうだが、無くなったら乾いて死ぬ。
甘やかされて育った俺に、競争社会という厳しい中でサラリーマンとして強く生きるなんてことは不可能である。
こういうときはイメージするんだ。
無人島にサバイバルした時、どう過ごすのか。
おそらくナイフくらいは持っているはずだ。
業界を無人島に置き換えた時、俺が持っているナイフは……勝利の方程式が見えた。
勝ったな、風呂入ってくる。
--3
やはり持つべき物はコネである。
へその緒が付いている時から映画撮影に携わっていた俺のコネは、無人島でいうところのナイフと同義だ、伊達じゃない。
誰であろうと、どんな仕事であろうと、年月が重ねれば地位が高くなることは自然と学んだ。
一流の媚売リストの俺は、あらゆる全てに媚びた。
だって誰が才能を持っているとか、成功するとか、全くわからないから。
未だに誰が成功しているかわからない。
とりあえずご飯を食べられたら成功しているんだろう程度で、タカったりする。
そのコネを十全に活かす時が来た。
家族に全面服従で、俺に好意的で、美味しいご飯を食べているであろう業界人に電話をかける。
ここで重要なのは仕事をくれ、とは頼まない。
ダサいから(しょうもないプライド)
面白い話は無いかと聞き、そこからか細い糸を辿れば、そのうち仕事が手に入る、たぶん。
基本的に勘とその場の流れで生きている。
コツはない。
なんとなく生きてたらなんとなく上手くいく、知らんけど。
数人に電話した結果、みんな揃って同じことを言っていた。
去年テレビを騒がせた才能のある超凄い俳優が事務所を移籍するのだとか。
なるほどなー。
よし、俺には関係ない話だ。
才能とか言われても、実際に見ても一緒に仕事してどうせよくわからないし。
たとえば才能がカレーライスとうんこみたいな物だとしたら、俺の目はカレー味のうんことうんこ味のカレーとカレー味のカレーの見分けがつかないし、臭いを嗅いでもわからないし、食べてもわからない。
つまりそういうことである。
業界人の中には見る目があるとか、鼻が良く効くとか、そういう表現があるのだが、俺にはそういう技能は全くなかった。
俳優がカレーライスを作る技能だとしたら、残念なことに調理技能もゼロなので完成するのはデーモンコア。
家族内での味噌っかすは伊達じゃない。
さて、電話したらお腹空いたので、カレーでも作るとしよう。
別に料理できないけどなんかテキトーに煮込んでカレールーの素を入れれば完成するっしょ。
鼻歌とともにテキトーに野菜を切って、鍋にぶち込んで煮て……肉を入れてなかった!
肉は……いい骨付き肉があったわ。
冷蔵庫の外から覗き見しても、マジで良い肉だった。
お肉様ですねえ、これは。
しかし、でかい。
これを一人で……?
無理か……?
ネットに動画を投稿してご飯を食べて生きようと思って、その材料として奮発して買ったわけで。
良い肉でカレーを作る動画……誰も見ねえわ。
冷静になると、むしろ普通に焼いて食べたくなってきた。
こうなるともうカレーの気分じゃなくなってしまった。
厚めに切って焼いて齧ろう、とプランを再び立ててフライパンを熱していると、インターホンが鳴った。
家族からの宅配か何かかと渋々向かう。
目つきの悪いヤンチャボーイが居て、ずかずかと室内へと入ってきて、どっかりとソファーに座った。
強盗かと思ったが違うようなので少しばかり観察。
・印象→知ってる気がする
・顔→俺より良い
・身長→俺より高い
・才能→うんこ味のうんこであれ
・総合的に敗北者となった俺の感情→嫉妬
なんだァ? てめェ……^q^
キレそうになったが冷静な俺は話し合いで解決することにした。
決して相手の方がガタイがいいから日和ったわけではない。
話を聞くと、要領を得ないがどうやらここに来いと言われたらしい。
えぇ……誰になのぉ……?
どうしたらいい?
どうすればいい?
俺の経験に語りかける。
俺の最大の味方は俺だ、そして俺を支えてきたのも当然俺だ。
俺の最大の理解者である俺、こういう時、どうすればいいんだ俺ぇ!
生まれたときから波乱万丈だが幸運に愛された俺の答えは……飽きたな。
もういいや、肉にしよう。
俺一人だと厳しかったが、この謎のヤンチャボーイが食べきるに違いない。
歓迎するしかあるまいよ!
「そろそろだと思っていたよ」
と言いながら、、鍋をどんっ!!と見える場所に置く。
根掘り葉掘り聞いたり、キョドったら負けた気がするので虚勢を張るのが重要だ。
実際は何も思ってないし、そもそも相手の名前も知らない、一番意味不明なのが俺だし、肉を食べたい。
テレビで見たことある気がするのでたぶん有名人か何かだろう。
電話した相手の息子が遊びに来たとか……有り得る。
優れた俺の経験と脳が答えを導き出してしまったようだな。
ならばマウントを取っておく必要があるだろう。
ヘタレとか思われてコネが死んだら困る。
とりあえず男なのに料理上手だと思わせておけば一目置くでしょ。
カレーは作れないというか、煮込んだままにしてしまって焦げているので自然と捨てる必要がある。
料理上手は料理を捨てるのか、いや、捨てない。
捨てる必要があると思わせないといけない。
「新しい物を手に入れるのなら、それまで作った物は捨てなければならない」
テキトーにそれっぽいポエムを語りながら鍋の中身をじゃばー。
そして、中が見えない様にサッと隅へ置く。
だって焦げてるし……。
「それが素晴らしい物であるなら当然のこと。腐らせるにはあまりに惜しい」
冷蔵庫から素晴らしい物(お肉様)を取り出し、ドヤ顔で置く。
見よ、この輝きを。
ソースなど不要だという自信すらお肉様から伝わってくる。
岩塩ならあるからセーフっしょ。
ありがてぇ。
「短い付き合いだろうが歓迎するよ」
熱されてたフライパンに肉をどーん、爆ぜる油、ボジュアと悲鳴を挙げる肉。
うーん地獄かな???
もしかすると味は悪いかもしれない。
そもそも半ばテンパってて肉を切るのも忘れてたからしょうがないね。
しかし俺は夕飯という短い間だけでも一人じゃない。
助っ人が生えた俺は無敵なのだな。
「君を待っていた」
カッコつけてフランベしたら炎が舞い上がって眉毛がちょっと焦げた。
なんともないフリをして肉を用意したが、ヤンチャボーイは「おもしれぇ……!」って言ってたから、バレバレみたいだった。
悲しい。
残飯処理として待っていたというのを直球で伝えたらぶん殴られそうだったのでオブラートに包んだ。
俺は空気を読めるんだ。
身長差に負けたわけじゃない。
しかし俺のポエム、誤魔化そうとして言葉が全然思いつかなかったためか糞みたいなテンポだった。
鍋じゃばー、一言ポエム、肉どんっ!、一言ポエム、ボジュア!と肉を焼き、一言ポエム、数分待って焼き上がってからフランベと一言ポエム。
ははーん、このヤンチャボーイ、もしや心が広いな?(名推理)
ステーキを食べてたらヤンチャボーイが干す干さない、的なことを言いだした、
ははーん、さてはこのヤンチャボーイ、頭が悪いな?(名推理)
知らなかったのか、ステーキはビーフジャーキーにはならないんだぜ?
こんな素晴らしい物を干せるわけないとドヤ顔で言っておく。
というわけで美味しくご飯を食べ、銭湯に行き、牛乳を飲みながら帰宅。
テンション上がったら寝られないとか、なんだァ? てめェ……^q^
なぜかまくら投げを一晩中した。
まくら投げで色々と聞いた結果、スターズに居たらしいことが発覚。
挨拶しておくのが筋だろう。
社長に電話かけたら不機嫌そうな声で対応された。
朝に直で電話したのが悪かったのかも。
どうする予定なのか聞かれたので、いくつか仕事はこなす予定だと正直に答えておく。
そのうち実家に行くので仕事するのはここだけじゃないってことも。
そういえば知り合いの俳優が役に成り切ったまま死ねたら望外の喜びだと言っていたのを思い出した。
彼が役のまま死んだら素敵じゃないかって伝えたら、感情の篭っていない冷たい正気を尋ねられた。
え、突然なんなのこっわ。
俺は正気ですね。
俺にそれを伝えた俳優は死んだから正気じゃなかったかもしれないけど。
そもそも俺は別に何ができるってわけでもないので、正気がどうとかって話は無意味。
つまり、ヤンチャボーイが受ける仕事次第だよね。
正直者の俺は「俺が決めることではないでしょう。だって受けられる仕事次第に決まってますし」って返して置いた。
歌のお兄さんでもやったら正気になるんじゃねーの、知らんけど。
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【悲報】ヤンチャボーイ、我が家に入り浸る【動画作れず】
どうせ短い付き合いだろうとヤンチャボーイのイエスマンをしてたら、運転手からスケジュール調整、食事管理までやることになった。
おかしい。
俺の媚び気質のせいでマネージャーになってしまっている……^q^
ちなみにIQ5000という優れた俺の頭脳で導き出した業界人の息子という答えは間違っていたらしく、この少年は俳優だった。
聞いた話だと俳優として凄い天才らしい。
人気があってこその仕事で、気まぐれに人を殴って週刊誌に載ったりするのは流石に笑う。
なるほどな、まあ、俺くらいになると原理は知ってた。
うんこ味のうんこじゃなくて、カレー味のカレーでしかも作れるってことだろ(ドヤ顔)
あとはスターズに喧嘩を売ったらしい。
スターズというのは芸能界のでかい事務所で、業界のポジション的には異世界ファンタジーでいうところの貴族派閥を束ねる公爵家みたいなものだ、わかりやすいね(自画自賛)
うーん、まあ、俺には無関係だなあ。
とりあえずスターズとは縁が浅く、両親の威光が効く外国資本のところで二つ、三つ仕事させておけば俺の進学とちょうどいい頃合になるだろう。
公園に散歩に出かけ、アマチュアバンドがPV制作していたのでヤンチャボーイを貸し出したりとか。
スターズの影響下だけが仕事じゃない。
まあスターズの影響にある仕事も先方が嫌そうだけど俺自身が社長とマブ(死語)だから受けようと思えば受けられる。
それが終わればそこらへんでお別れである。
それとなく占領された部屋を出る様、仕事前に伝えておこう。
仕事前にテンション上がってまくら投げするのしんどくなってきた(素直)
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「……わかっているだろうけど、出て行く準備をしておきなよ。俺にはそうじゃないけれど、今のここは君にとって窮屈だ。自分の居場所は自分で見つけたほうがいいからね」
仕事に向かう車を発進させる際に、お前がいると部屋が狭いから出て行け(意訳)と断言しておく。
貴方が居ても俺にはそうじゃないですよ、と付け加えることでオブラートに包んで和らかく伝えることが可能となるテクニック。
伝わったようで、「どん詰まりなのはわかっていたが、新しい物を手に入れるならってことか……」とヤンチャボーイも新しい部屋でも探すのか、神妙に頷いた。
行動力の塊みたいなところがあるので、翌日からは色々と電話したり俺の知り合いについて聞いたりし始めた。
彼は未成年だからね、実家暮らしでもするんかな。
敗北を知りたい。
俺も実家に呼ばれてるから近いうちに戻るけどね……地盤とやらが固まってないけど。
進学するから一回帰るだけだし……。
秋より春入学かなぁ。
知に働けば角が立つ、情に棹させば流される、意地を通せば窮屈だ、だからコネで生きるのだ。
至言だなぁ。
テキトーに見つけた干されて悲しむ業界人を、スターズがヤンチャボーイの対処に追われている隙に放出するだけで俺は新たなコネを得る。
サンキュースターズ。
ちなみにスターズの社長から貰った「能」や「歌舞伎」、「映画」「舞台」などの様々なチケットはヤンチャボーイと楽しんでくるぜ!!!
ヤクザ役の仕事で珍しい役者が欲しいという電話を受けた。
ヤンチャボーイいるし、自信満々で用意できると即答。
あ、彼は未成年だからタバコも吸えないし、酒も呑めないのか。
ヤクザは無理か……?
まあ、そこらへんは美術スタッフとかそういうなんか手が器用な人がなんやかんや解決するから大丈夫っしょ。
この仕事をヤンチャボーイが演じることで、最後の仕事としよう。
そして俺は当初の予定通り、家族のいるアメリカに進学することとする。
じゃあのジャパン、ヤンチャボーイ(ねいてぃぶ)
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ヤンチャボーイ、空港に現る。
見送りしてくれるなんて感無量だな^q^
ヤンチャボーイも一緒の飛行機で渡米するらしい。
なんでぇ^q^
ヤクザ役、ヤンチャボーイの一言で優しそうな眼鏡の役者に決まったらしい。
なんでぇ^q^
公園でPV撮影したアマチュアバンドがメガヒットして注目されたのか、フラッシュに包まれながら飛行機に乗った。
なんでぇ^q^
景気づけにテキトーに受けた仕事で監督が強盗に撃たれ、助監督が爆発に巻き込まれ、キャメラマンは病気になったり、と不幸に見舞われた。
しょうがないので知り合いや知り合いの知り合い、知り合いの知り合いの知り合いで固めた。
なんでぇ……^q^