code;brew ~ただの宇宙商人だったはずが、この地球ではウルトラマンってことになってる~   作:竹内緋色

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 どうして俺が戦わなくてはいけないのか。

 そんなバカな問いが俺に投げかけられる。

 全く、バカな問いだ。

 俺が戦わなくちゃいけないのではない。

俺は戦わなくちゃいけないのだ。

あの日見た、少女の火花を想起させる儚さに、俺は忘れかけていた記憶を束の間思い出していた。

 

宇宙に時間なんて概念はもう存在しない。過去や未来になんて誰でも行くことができる。宇宙にも無数の穴が空いていて、それはどこか別の時間軸に繋がっているからだ。でも、誰もそんな穴、入ろうとしない。何故かって?それは危険だからだ。未知に対する恐怖ってのは誰でも持っているしな。地球風に言うなら、自分から高速道路を走っている車に当たりに行くようなものだ。今思えば、この表現もなかなかいい得ているな。原理は同じようなものだからだ。まあ、車が光速で走っていればの話だが。

結局俺が言いたいのは、宇宙人にとって時間を示すものは自身の記憶でしかないってことだ。膨大な宇宙を全て記憶する存在なんていない。アカシックレコードなんてのは嘘っぱちだ。ただ、人々が記憶を繋いでいっているだけ。

まあ、色々と脱線しちまったな。俺が言いたいのは、そう。これが俺にとって比較的古い記憶で、いつの記憶なんていう時間の尺度で測るのは滑稽ってことさ。

俺は俺と言う存在を認識してから色々な星を回っていた。大抵は追い返された。理由はいつも一つ。俺は個体識別を持っていなかったからだ。この地球で言うなら、そうだな。遺伝子情報からの個人の特定、いや、国籍みたいなものか。とりあえず、それがないから俺はまともな星に入ることができなかった。そうやっていろいろな星を転々として、ようやく入ることができたのが、ある星だった。

地上に降り立った瞬間、俺は光線銃を撃たれた。俺は間一髪で躱したさ。その時初めて俺は危険感知と身体能力に恵まれてるって感じたね。向こうは対人無人兵器だった。ドローンさ。え?この星では意味が違うって?いいや、違わないね。ドローンってのはもともと無人の兵器を指すのさ。今、俺はお前の波動と共鳴して記憶を借りているから間違いない。お前の星のドローンももとは軍事技術の転用だ。大抵市民の生活を豊かにしているのは軍事兵器の転用技術。どこの星だってそうだった。

その時俺は何も武器を持っていなかった。丸腰だ。だから、逃げることしかできないわけだが、攻撃を避けるので精いっぱいだ。背中を見せた瞬間、殺される。荒れはてた星だったから、遮蔽物もない。どうしようもなかった。

そんな折、どこからかミサイルが飛んできて、ドローンをやっつけた。俺を巻き込むつもりだったんだろう。まあ、かすり傷で済んだが。

「大丈夫?」

 ミサイルを撃った張本人はそんなことを聞きやがった。

「大丈夫なわけねえだろ。」

「じゃあ、大丈夫ね。」

 そいつも機械の体をしていた。だが、意思疎通は出来るようだった。

「あなた、別の星の人よね。」

「ああ、そうだ。なんなんだ、この星は。」

「ごめんなさい。」

 別に謝ることでもないだろう。お前が悪いんじゃないんだから。

「私はニーナ。この星の住人よ。」

「そうか。それより、安全な場所に連れて行ってくれ。追手が来るだろう。」

「そうね。ついていらっしゃい。」

 ニーナは俺のことなんか構わず飛んでいってしまう。俺はお蔭で走る羽目になっちまった。

 

 小さな洞窟がニーナの隠れ家だった。

「俺は早くこの星から出たい。」

「そうね。ここに脱出用デバイスがあるわ。あなた、直接干渉ができるかしら。」

「知らねえよ。」

 俺はニーナが渡した板を受け取る。

「そのボードに足を載せるの。ごめんなさいね。こんな旧式で。」

 俺はボードに足を載せる。すると、ボードは宙に浮いた。俺の意思で自由に動かせるようだった。

「すごいわね。直接干渉に適応できる宇宙人はもう少ないって聞いてたのに。今はもう、間接干渉の時代だから。」

 よくは分からないが、気になることがあった。

「それはお前の仲間か?」

 洞窟の中にはニーナと同じ機械が無数に陳列してあった。

「いいえ。これも全部私よ。」

「どういうことだ。」

「そうね。簡単に言うと、私はこの星の最後の住人なの。」

 俺は黙って聞く。

「さっきのドローンは、この星で残った殺戮兵器なの。私と同じね。で、その最後の標的が私なの。」

「すまない。あまり理解できないんだが。」

「そうね。この星に何があったのかから話さないと。」

 そうしてニーナは語り始めた。

 

 この星で人種が二つに分かれて戦争が起こったの。始まった理由はわからないわ。とにかく、私はその一方の人種だった。最初は大した理由じゃなくて、すぐに戦争は終わる、なんて私たちは考えていたけど、その期待は簡単に奪われてしまった。この戦争がおかしくなったのは、さっきのドローンたちが生まれてから。彼らはとにかく人々を殺しまくった。敵味方の識別はついていたけど、それだけ。感情がないもの。多くの人間はこの星から逃げるか、死ぬかだったわ。で、残っていた私は、新たな兵器とされた。

 この姿が本当の姿じゃないのよ。私の本当の姿はもっと人間らしかった。

 軍の人間は私を実験材料にした。生体波動と電子容量領域との干渉。つまり、機械の中に私という魂を閉じ込める実験をしたの。理論上は簡単な事だったらしいわ。間接干渉と直接干渉の最大公約数だもの。つまり、その二つの応用ね。でも、誰もしようとは思わなかった。警備隊の目に触れるもの。でも、軍のお偉いさんはどうしても勝つつもりでいた。で、私は最前線で戦うことになった。

 この身体たちはスペアなの。私は一つの体が破壊されると別の体に魂が宿る。こっちが間接干渉の応用ね。で、知らない間に両方とも絶滅してた。私の仲間のドローンはこの星から敵がいなくなったことを知って活動を止めた。でも、向こうは私が生きているのを知っているから、未だ戦いを止めないわけ。だから、あなたが巻き込まれたのも私のせい。あいつら、見方以外は殺してしまうから。

 でも、もうすぐ戦いは終わる。向こうはまだ千体以上残っているけど、こっちはもう十体しかない。全ての体が無くなったら、私は戻る場所を失って死ぬの。

 

「だから、これ。」

 ニーナは俺に銃を渡す。

「かなり違法な武器。スペシウムって言って、原子同士の結合を無くしてしまうの。」

 俺は銃を受け取り、無意識に胸へとしまっていた。

「あら。あなたのそれ。警報装置だけじゃなかったの。面白い能力ね。体の中にしまっているのか、概念だけを封印して、原子をその場で調達して再構築するのか。まあ、どちらでもいいけど。」

「なあ、ニーナ。」

「早く逃げなさい。もうじきこの場所もばれる。だから――」

 その直後、洞窟の外で爆音が鳴る。攻撃が始まったようだった。

「なあ、どうしてお前は――」

「じゃあね。バイバイ。また会いましょう。その時はあなたの名前を教えてね。」

 その時になって俺には名前がない事に気が付いた。

 ニーナは去っていく。

 俺は、ニーナを見捨ててこの星から逃げることにした。

 デバイスに乗りながら、俺はニーナが爆散するのを見た。そして、ニーナの体から発せられた生体波動が俺に微々たる干渉をしてくる。それはニーナの感じた苦痛の一千万倍にも満たない。でも、それだけで俺は意識が飛びそうになった。それほどの痛みが俺の体を襲った。

 一体、一体と壊れていく。でも、ニーナはまた体を変えて立ち向かっていく。一体ニーナは何回この苦痛に耐えてきたのだろうか。

「どうしてお前は、そこまでして戦うんだ!」

 俺はニーナを助けることをしなかった。でも、逃げることもできなかった。ただ、安全な場所で見ているだけだった。

『だって、また会いましょうって言ったじゃない。』

 干渉派となって肉体を取り替える途中にニーナは言った。

「なにが、なにが、また会いましょうだ!」

 俺は無力だった。ただ見ているだけだった。ただ、初めて話す人間の最後の体が潰れていくのを見ているだけだった。

 その時から俺は強くなることにこだわり始めた。宇宙を巡って武器を買いあさった。そのための商人だった。そして、弱くなった。俺は何かを失うことを恐れて、何も得ようとしなくなった。友達を作るから、いなくなったとき寂しいんだ。そう、信じて、誤魔化して。

 

 まあ、つまらない昔話だったな。

『いいや。そんなこともないよ。』

 だが、俺が提案していることは、お前が消えてしまう可能性だってある。俺は俺のことしか考えない。だから、お前を簡単に見捨ててしまうぞ。

『でも、僕を救おうとしてくれてる。君はいい人だ。』

 そんなんじゃない。俺は俺の勝手でお前が死ぬのが嫌なんだ。

『構わない。僕の体を使ってくれ。』

 だが、俺がいる限り、お前は目を覚まさない。

『いいよ。でも、条件がある。』

 なんだ。

『僕の大切な人たちを泣かさないでほしい。そして、君ももう泣かないでいてほしい。』

 別に泣いてなんか――

『無理に逃げなくていいよ。もう。一緒に立ち向かおう。誰かの笑顔を守る為に。僕がついてる。君は僕の出した条件を守っているだけなんだから。僕の中に君がいる限り、君は僕との契約に縛られているだけなんだから。』

 そうか。お前はまるで天使みたいなやつだな。

『宇宙にも天使はいるの?』

 いいや。天使ってのは恐らく宇宙人だ。だって、空から降ってくるんだろ。じゃあ、間違いなく宇宙人だ。

『じゃあ、君が僕の天使なわけだ。』

 それっきり、そいつは殻の奥に沈みこんでしまった。笑ってしまうほどに、いい笑顔だった。

 

 気がつけば、そこは見知らぬ天井だった。

「ありきたりだな。」

 ブリュウは自分に何が起きたのかに気が付いた。

「無事か?」

「俺は負けたんだな。」

 傍らの心が言うが、ブリュウは上の空であった。

「一度は死にかけた。だが、奇跡だそうだ。」

「奇跡なんか起こるかよ。」

「敵は静止している。まるでお前を待っているかのように。」

「そうか。」

 ブリュウは起き上がり病室から出ようとする。

「何をしている。」

「アイツを倒さなきゃいけないだろ。時間は?」

「朝の十時だ。」

「随分と寝坊だな。」

「待て。お前はもう戦わなくていい。」

「どうして。」

「これは私たちの仕事だ。だから――」

「ガキだから戦わせることができないってか?バカ言うんじゃねえ。俺はお前らよりもずっと年上だ。」

「それだから、ガキなんだ。」

「は?」

「不器用すぎるんだお前は。もう、誰も泣かせるんじゃない。」

「誰が泣いたって?」

 心が顎でベッドの隅を示す。そこには椅子に座り、ベッドに体を預けて眠っているミレイがいた。

「それ以上、コイツを泣かせるつもりか。」

「コイツが心配してるのは俺じゃない。この身体のやつだ。俺がいなくなっても、きっとコイツは生きられる。」

「これだから、ガキは。」

 心はイラついたように舌打ちをする。

「久我翔一のためだけに一晩中泣いていたとでも思ってるのか!」

「は?」

「分からんならいい。正午、我々は攻撃を再開する。街中の避難は済ませた。お前も彼女を連れて早く逃げろ。」

 ブリュウは傍らの、泣きつかれて眠っている少女をただ、眺めていた。

 

 

 

「おい。起きろよ。」

 私は乱暴に起こされる。何かで頭を殴られた。

「いったいなあ。」

 と、宇宙人が起きていたので驚いて居ずまいを正す。

「お、起きたんだ。」

「ああ。お前こそいつまで寝てるんだ。もう昼だぞ。」

「うそっ。」

 もうすぐ地球防衛隊が作戦を再開する頃だ。

「急いで逃げないと。」

「早く逃げろ。」

「何言ってるの。アンタも早く――」

「俺は宇宙人だ。それで、これは俺がまいた種。あいつは俺が地球に来て初めて倒した機械やろうだ。俺がケリをつける。」

「なんでアンタはいっつもそうなのよ!」

 私は本気で怒った。もう、絶対に許さない。

「あんたが死んだら翔一はどうなるの。心臓が止まったままじゃない。いい加減にして。」

 でも、口から零れたのは、本当に言いたい言葉じゃなかった。

「大丈夫だ。小僧は強い。俺は出来ることを十分した。半々の確率で生き残るはずだ。それより、俺がずっとコイツの中にいる方が問題だ。俺がコイツの中にいる限り、コイツは絶対に意識を取り戻さない。」

 宇宙人は突き放すように私を冷たい目で見て、病院着のまま出て行こうとする。

 そんな顔しないでほしい。

 そんな傷付いたような、悲しい顔、するな!

「待って。」

 私の声に、冷たい顔のまま振り返る。

「私は、私はあんたも好きだ!だから、行かないで!行っちゃヤダ!どっちかしか助からないなんて私は認めない!絶対にどっちも手に入れて見せる。幸せを!だから、だから!」

「ありがとう。」

 それはどこかぎらついていて、ぎこちない、笑顔。でも、それは宇宙人が初めて見せた笑顔だった。まるで、吹っ切れたような、清々しい、凛々しい、男の顔。

「俺もお前が好きだ。お前たちが大好きだ。だから、俺は戦う。罪悪感からじゃない。自分の弱さを認められないんじゃない。俺は俺のために、戦う。」

 私が宇宙人に決断させてしまったんだ。宇宙人は自分の命に代えても怪獣を倒すつもりだ。

「だから、信じてくれ。俺は必ず帰ってくる。翔一も必ず帰ってくる。だから、俺と翔一が帰ってきたときのために、大事な居場所を残していてくれ。生き残ってくれ。」

 私は思わず力が抜けて、その場にへたり込んでしまう。

 だって、ずるい。そんなこと言われたら、もう引き留められないじゃない。

 宇宙人は走って去っていく。

 私は、今しがた言った自分の告白に顔を赤くして、尚更その場から離れられなくなってしまった。

 

 

 

「来たのか。」

 ブリュウを見つけた剣はブリュウを悲しそうな目で見る。

「なんだ、その顔は。」

「いや。俺はお前に――」

「なんでみんなそんな顔するんだよ。」

 ブリュウは呆れてしまった。

「来るなと言っただろうに。」

 心はめくじらを立てている。

「俺は俺のために戦う。そして、必ず居場所に帰る。だから、負けない。これでいいだろう。」

「急に大人になりやがって。」

 地球人の考える大人というものの定義は難しそうだとブリュウは思った。

「あなたが宇宙人さんですか。」

 ブリュウの前に見慣れない顔が現れる。葉だった。

「とりあえず、作戦を説明します。」

 とはいえ、作戦らしい作戦ではなかった。戦闘機で怪獣の隙をついた瞬間に変身して襲うという、奇襲らしいものだった。

「だが、俺の武器は通用しなかった。」

 敵は簡単にスペシウム光線銃を弾いてしまった。その隙に、ブリュウは怪獣の怪光線を浴びて倒れたのだ。

「なので、刃物で傷をつけ、そこに戦闘機で爆撃を広げてそこに撃ってください。確率は低いですが、それしか方法はないように思います。今回は自衛隊も協力してくれるので、なんとかなるかと。」

 以前よりパワーアップした怪獣に、以前でも効かなかった刃物が通用するか謎であったが、やるほかはない。

「では、全員配置についてください。宇宙人さんはぎりぎりまで変身を控えてください。」

「ああ。分かった。」

 ブリュウは自分がどこまで我慢できるか分からなかった。

 

 流鏑馬を披露したことで賛否両論が湧きおこった自衛隊の戦車が怪獣を包囲する。そして、戦闘機の群れが怪獣にミサイルを放つ。それが戦闘開始の合図だった。

 機械の体を持つ怪獣は動き始める。戦闘機に狙いを定めて無数の光線の矢を放つ――その瞬間に戦車は火を噴く。足元に気を取られて、怪獣は攻撃を止める。しかし、傷一つついていない。

 上空からミサイルを放ち、地上から注意を逸らし、地上から砲火を浴びせて上空の注意を逸らす。それはうまく言っているように感じた。

 だが。

 怪獣は体中から無数の光の槍を放った。地上へ、上空へ。

 木々は燃え、戦闘機は力尽きた蝶のようにひらひらと舞い落ちる。

 ブリュウはニーナの最後を思い出してしまった。

 もはや、我慢の限界だった。

「すまねえな。約束、守れそうもない。」

 ブリュウは巨体を怪獣の前に晒した。

 

「やっと来たね。ブリュウ。」

「なんだ。この前とは声が違うじゃねえかっ!」

 ブリュウに残された時間はわずかだ。そして、あの怪光線を再び浴びるわけにはいかない。だから、隙など与えない。

「ああ。ドルミーチェの体を借りて君に語りかけている。」

「何もんだ、お前は。」

 ブリュウはナイフを取り出し、刃をドルミーチェに突き刺す。しかし、傷一つつかない。

「名乗る必要もないだろう。君はここで死ぬんだから。」

 ドルミーチェは光線を放つ。ブリュウは側転で避ける。そして、すぐに体勢を取り戻し、再び刃を突きつける。

「君はどうして戦うんだい?折角逃げるチャンスをあげたのに。情でも移ったのかな。」

「どうやらそうらしいな。」

 キンキン、とブリュウの刃とドルミーチェの鋼鉄の体がぶつかる音。

「くそっ。」

 ブリュウは手に痺れを覚える。そんなことはどうでもいい。それよりも、ナイフの刃の方が問題だった。もうボロボロで、使い物になりそうもない。

「くそっ。次だ。」

 ナイフを捨て、胸の光球に手をかざし、剣を取り出そうとした時、ドルミーチェの拳が吹き飛び、ブリュウを殴りつけた。その勢いでブリュウは山に激突する。そして、ドルミーチェはブリュウに集中砲火を浴びせた。

 ドルミーチェの上空にはまだ数機の戦闘機があり、足元にもまだ戦車がある。彼らはブリュウを援護しようと必死になってドルミーチェに攻撃するが、ドルミーチェの視界にはもう入っていない。小賢しい蠅のようにしか見えていなかった。

「この前はここでリタイアだったのに、今日は頑張るね。」

 ブリュウはピクリとも動かなかった。もう、限界だった。体は動かない。でも、消えるわけにはいかない。まだ、諦めるわけには――

 

 そんな時、ブリュウに声が届いた。

「頑張れ、ウルトラマン!」

 それは聞いたことのある声。ブリュウ目には声の主が見えていた。それは遠く離れた場所。避難が終わった先。そこにいつの日かの落ちぶれた元サラリーマンがいた。彼は施設の清掃員となっていた。そんな彼がテレビを見ながらブリュウを応援している。

「頑張れ、久我!負けるんじゃねえ!」

「久我君、頑張って!」

 一ノ瀬と、沙耶。

「頑張れ!ウルトラマン!」

「負けるな!勝て!」

 学校のみんながブリュウを応援している。

「負けんじゃねえぞ、宇宙人!」

「居場所に帰るんだろ!女を泣かせるな!」

 剣と心。

「我らのウルトラマン!立つのだ!ヒーローは必ず勝つのだろう!」

 ハンナ。

「ファイト!ウルトラマン!」

「立って!」

「お前しかいないんだ。負けるな!」

 人々の声援。誰もがブリュウに感謝し、勝利を願っている。

「立て!宇宙人!私のもとに帰ってくるって言ったんでしょ!約束守らなかったら、絶対、許さないんだから。」

 ミレイ。

「立てえええええぇぇぇぇぇ!」

 立てえええええぇぇぇぇぇ!

 ブリュウは立ち上がる。ブリュウの心は光に満たされていた。まだ、やれる。

 ブリュウはドルミーチェめがけて走って行く。

 そして、体当たり。ドルミーチェはびくともしない。それでいい。ブリュウは光線銃を取り出し、ドルミーチェの体にぴったりとくっつけ、ぶっ放す。

「バカな。ビームコーティングが施されている。」

 だが、ドルミーチェの体は半分以上が壊れていた。そして、ブリュウは倒れる。いや、倒れない。土壇場で足を踏ん張る。

「まさか、蠅どもの攻撃で装置が損傷していたのか。そんな、バカな。」

 これで最後だと、剣を取り出した時、ドルミーチェは急に明滅し始めた。

「仕方がない。自爆だ。ああ、ドルミーチェを傷付けるのは止め給え。爆発を早めるだけだ。」

「嘘だろ。」

 土壇場でこれかよ。ブリュウは覚悟を決めた。もう、自分が盾になるほかない。

「すまないな、ミレイ。」

 彼女の名を呼ぶのがこんな場面なのがひどく名残惜しかった。

「さよならだ。」

 ブリュウの警報装置は時間がないと警告している。ブリュウはドルミーチェに飛び込もうとして――

 刹那。ドルミーチェの体がバラバラになる。

 それは自爆のためではない。刃物で切り刻まれたかのように、バラバラと地面に落ちていく。

「まさか、命令系統の回路を全て切り刻んだのか。」

 それがドルミーチェの最後の言葉だった。

 天から怒りの矢がドルミーチェの残骸を焼き尽くす。まるでソドムとゴモラを焼き払った大天使の矢の再現だった。

 その主は天から降りてくる。全身赤く、頭部は鋼の鎧で覆われている。

「誰だ、お前は。」

「ヒーローとはピンチに訪れるものだ。わっはっは。」

 軽快にその赤い人影は笑う。

「私はウルトラセブン。せぶーん、せぶーん、せぶーん、せぶーん。」

「また人の話を聞かないやつだな。」

「せぶん、せぶん、せぶん。」

「うるさい、おっさん。」

「せぶん、せぶん、せぶん。」

「分かった。そこまで自己主張激しいと嫌われるぞ。」

「まあ、私のおかげだな。」

「話がかみ合ってない!」

 ブリュウはもうもとに戻ろうとした。

「待て。コード・ブリュウ。」

「早く済ませろ。こっちはお前と違って時間がねえんだ。」

「これを、君に。」

 セブンは手から柔らかい光を出す。それはブリュウの手に絡まり、謎の赤いブレスレットを出現させた。

「なんだ、これ。」

「これで君も今日からウルトラマンだ。じゃあ、地球をよろしく頼んだぞ。」

「ちょっと待てよ!」

 セブンはわっはっは、と笑いながら、上空へと戻っていく。

「嘘だろ。」

 ブリュウはもう口癖のようになってしまった言葉をつぶやいていた。

 

(o|o)

 

「よくやったね、ブリュウ。」

 その姿を久我翔一は全て見ていた。

「これで、全てうまくいく。そうでしょう?ジャック。」

 翔一の傍らには小さなおかっぱの少女がいた。ランドセルを背負ったその姿は、トイレの花子さんのように見える。

「うんだ。よくやっただ。お前も、ブリュウも。」

 ジャックと呼ばれた幼女はやけになまった口調である。

「さあ、これからだよ、ブリュウ。」

 翔一は意識を失ったかのように、急に倒れた。

 

 

 

「よう。ただいま。」

「何が、ただいまよ。」

 家で待っていたミレイにブリュウは気恥ずかしそうに告げる。

「怪我は?」

「大丈夫だ。」

「そう。」

 ミレイは何か言いたそうだった。

「あの、翔一は?」

「まだ、眠ってる。でも、いつかは目を覚ますだろう。」

「そうなったら――」

「ああ。俺は出て行く。」

「そうなんだ。」

 また、悲しそうな顔。ブリュウはミレイの頭を思いっきり掻きむしる。

「何よ。」

「生きててくれてありがとう。お前は最高の友達だ。」

「へ?」

「へ?」

 ミレイはなんだか、キョトンとしている。そして、どんどん、怒りに満ちた表情になっていく。

「私の想いを返せ!」

「なんだよ。なんで怒ってるんだよ。」

 玄関から飛び出してきた二人を、ハンナと沙耶、一ノ瀬は温かい目で見守っていた。

 

(o|o)

 

 そんな二人の様子を高い場所から眺めている人影があった。妹尾と金髪の小学生ほどの少女である。

「何もかもうまく行きましたな。ゾフィーさん。」

 ゾフィーと呼ばれた少女は黙ってこくりと頷く。

「いろいろとご苦労であった。私の言うことを信じて地球防衛隊のメンバーを集めてくれた。」

「いえいえ。こちらこそ。あなた様に仕えることができて、光栄です。しかし、ゾフィー様。」

「なんだ?」

 ゾフィーは妹尾の顔を見上げる。

「何故、そのような、その、幼女の姿なのですか。」

「ああ、これか。これはな。光の国の影響だ。」

「といいますと。」

「今、光の国は危機に瀕している。闇の者たちに征服され、ウルトラマンたちにエネルギーを供給できなくなってな。」

「それと幼女がなにか。」

「本来なら、お前と融合する予定だったが、それもエネルギー不足でできなくなってしまった。なので、自らで作り上げたわけだが、光の国の不調で、このような姿になってしまってな。バグというやつだ。」

「いいえ。とっても似合ってますよ。ペロペロしていいですか?」

「殺すぞ。」

「すいません。」

「我々ウルトラマンではもう地球を救うことができない。現状では変身も三回ほどしかできない。それではいけない。だから、セブンにウルトラマンの力を注ぎ込むデバイスを作らせていた。メビウスのデバイスの改良版だ。ヤツは自立行動に長けているのでな。」

「ちなみに、他の戦士たちは。」

「地球に来ている。ルーキーたち以外はな。」

「何をなさっているのですか?」

「あるものはプロレス観戦、あるものは幼女として暮らしている。」

「あれ。みんな幼女に?」

「ああ。例外なくな。」

 ゾフィーは大きくため息をついた。

「コード・ブリュウ。反乱因子、か。」

 ゾフィーが二人を冷たい視線で見つめていた。

 

 

EX 宇宙商人について

 

「ブリュウや。」

「なんだ、ハンナ。」

「ぬしは宇宙商人と言っていたな。しかし、少しも商人らしきところを見ておらぬのだが。」

「な、なめんじゃねえ。俺は宇宙商人だぞ。」

「では、どのようなものを売っておるのだ。」

「これだ。」

「これは間接干渉機か。」

「ああ。とある星で仕入れた、服を綺麗にするデバイスだ。」

「でも、ぬしは間接干渉に対応しておらんだろう。」

「ああ。だから、使えるかどうかはわからない。」

「どれ、我が試してやろう・・・起動せんぞ。」

「どういうことだ。」

「恐らく、偽物を掴まされたのだろう。他のも見せてみろ・・・間接干渉の類は全部故障か不良品か偽物だな。少しも使えん。」

「嘘だろ。」

「商人失格だな。」

「くそっ。」

「ぬしもまだまだ青いのう。」

 ハンナはふぉっふぉっふぉ、と高らかに笑った。

 




 これにてcode;brew終了です。お疲れ様でした。
 続きについての構想はこちら。
 二章 怪獣と光の戦士編 あの怪獣や戦士たち、そして、オリジナルのウルトラウーマンもとい、ウルトラガールが出るかも。そして、黒幕も登場。
 三章 闇の戦士編 闇の戦士たちが登場。そして、黒幕も真の姿を見せる・・・
 四章 フィナーレ 数多の戦士たちとともに復活した闇の帝王を倒します。

 ですが、書く気はないです。だって疲れるんだもの。長続きしないんだもの。
 どなたか、書きたければどうぞ。
 あと、あんまりウルトラマン知らないので続きが書けないってのもあります。
 ご了承ください。

 とりあえず難しい事柄について

 実は、この小説、半分くらい以前に書いて、最近続きを書き始めました。なので、前半と後半で整合性が取れてない部分があるかもしれませんが、ご了承ください。
 さて、小説の中で何個か難しい言葉がでましたね。まず、間接干渉と直接干渉から。インダイレクトとダイレクトリンクとでも読んでください。直接干渉というのは宇宙人の体の末端から出ている神経系と直接繋いで装置、デバイスを操作する方法です。自分で車を運転する感覚に近いかと。直接干渉できる宇宙人と間接干渉できる宇宙人、両方できる宇宙人と様々です。ですが、宇宙の主流は間接干渉。念じるだけで遠くから操作できますし。直接干渉は移動用デバイスとか、軍用デバイスが主流。軍人はわざわざ手術して直接干渉できるようにしたりします。間接干渉は最近の宇宙人にしかできません。高齢者がスマホの使い方が分からないのと似たようなものです。
 波動について。
 すごく簡単に説明すると、宇宙人の魂みたいなものです。その波動はあらゆるものに干渉できます。宇宙人が地球で自分の肉体を精製できるのも、宇宙人の波動が地球の元素に干渉して、たんぱく質やらなんやらを形作っています。当然、その肉体から離れて透明になることも可能ですが、それは概念領域、つまり、情報の渦に入り込むことなので、覗きとかはできません。いや、可視光線を認識できないというだけで、文字的なものから女体の詳細情報を知ることができます。簡単に言えば、官能小説を読むということでしょうね。
 ただ、ブリュウは作中でも語られている通り、イレギュラーな存在ですので、上記に当てはまらないこともあります。
 ご了承ください。

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