code;brew ~ただの宇宙商人だったはずが、この地球ではウルトラマンってことになってる~ 作:竹内緋色
第二章 君の神話
Prologe
平穏な日々に飽きちゃったのなら、心着替えて遊びに行こう。みんなで。
歌詞を書くのはありかよ、とブリュウは思った。
ブリュウは今、机の上にノートを敷き、その上に頬を載せて眠っている。紙の柔らかな感触と温かさが心地良い。平凡な日々。
こつん、と軽い感触がブリュウを襲う。なんだ、と不快になって起きる。がさっという音がしたから、髪を投げつけられたらしい。机の下に丸めてある紙が落ちていた。ブリュウはその紙を開いて中身を見る。
『寝てないで授業を受けなさい。どれほど成績がいいからって、内申に響くのよ。』
内申とか言われてもな、とブリュウは頭をかく。俺はそんなにこの身体に宿っている予定はないとブリュウは思っている。
セブンが現れ、ドルミーチェを倒してから一か月が立っていた。もうすぐ初夏である。しかし、ブリュウの中の久我翔一は未だ覚醒の予兆はない。むしろ、かつてより波動が弱まった気さえブリュウはしていた。
恋人が悲しむぞ。
ブリュウは内に語りかける。しかし、反応はない。
ブリュウは後ろに振り向き、佳澄ミレイに向かって舌を出す。ミレイは怒ったような顔をする。
そんな時である。樹海化警報が鳴り響き、ブリュウ以外の世界の時が止まる。
「別の話になってるだろ。」
とにかく、警報が鳴り響く。それは、怪獣が現れたことを示すものだ。
『ブリュウくん。聞こえてる?』
携帯が一人でに話し出す。ブリュウは教室から飛び出した。
「なに、人の携帯に変な機能つけてるんだよ。」
電話の相手は葉だった。
『いや、心さんが連絡を取れるようにしておけっていうから。』
「そりゃ、逆らえないな。」
『怪獣は山の向こうに出たみたいだ。今から迎えを出す。』
「いや、デカくなっていった方が早い。」
「まて、ブリュウ。」
廊下を走っていたブリュウは急ブレーキをかける。そして、声を発した者の方へと顔を向ける。
「おい。精神感応で話しかけるな。」
「それはすまなかった。口を動かすのを忘れていた。」
廊下の横道から顔を出したのは、メガネをかけた、幼い少女だった。ボブヘアで、明るい髪色をした小学生。
「お前は誰だ。」
「私を忘れたとは言わせんぞ。せぶーん、せぶーん、せぶーん、せぶーん。」
「あの自己主張の強いおっさんか。」
「せぶんせぶんせぶん。」
「話を聞けよ。」
「せぶんせぶんせぶん。」
ようやく幼女の自己主張が終わる。
「急いでいるだが。」
「とうとうブレスレットを使う時が来たな。」
「お前が戦え。」
「いや、私は後三回しか変身を残していない。」
「大分しょぼい設定だな。」
「とにかく、今度の怪獣はお前の力では太刀打ちできない。なにせ、地球の怪獣だ。ブレスレットを使うだろう。ブレスレットは一分しか使えない。使った後はお前があと何分残っていようと変身は解かれる。まあ、色々とあるのだが、詳細はウェブで。」
「分かったよ。やればいいんだろ。やれば。」
「地球の平和は君にかかっているのだ。」
わっはっは、と幼女の声でセブンは言った。
「ああ、もう。」
ブリュウは変身した。
山の中、黄金色をした怪獣が暴れていた。
「変わった怪獣だな。」
ぶくぶくと肥り、皮をたぷたぷとさせている。
『それはどくろ怪獣レッドキングという。地球に何匹も生息している怪獣だ。』
「どんな星だよ。」
怪獣が活性化していないだけましだと思った。
怪獣の丸太のような腕がブリュウに振るわれる。
ブリュウは腕でガードするが、弾き飛ばされる。そして、山に激突。ブリュウの腕はひどく痛んだ。
「なんだこれは。」
ブリュウは一度の攻撃で敵わないと確信した。ブレスレットを使うしかないのか。
そんな時、レッドキングの体が火を噴く。そして、戦闘機がレッドキングの周りを旋回する。
「おせえよ。」
戦闘機を操る彼らには聞こえていない。チャンスだと思い、ブリュウは左腕のブレスレットに手をかざす。ブレスレットから炎が湧きおこり、ブリュウの体をブレスレットから染めていく。
「う、うがああああ。」
焼けるような痛みにブリュウは声を上げる。体が熱を持ち痛みは瞬く間に体中に広がる。
「こんなの、一分も持たないぞ。」
『ブリュウ。スペシウム光線銃をレッドキングに放て。』
ブリュウはセブンの言うままに銃を取り出しレッドキングに向ける。ブリュウの動きを察知し、戦闘機はレッドキングから去っていく。
そして、銃を放つ。
ブレスレットは銃を赤く染め、ビームをより強力にした。
レッドキングははじけ飛ぶ。
「早く戻ろう。」
『待て。』
厳しい幼女の声でセブンは言う。
『ウルトラマンは空へと消えるものだ。』
「めんどくせえ。いいだろ。」
『ウルトラマンは空へと消えるものだ。』
はあ、とブリュウは溜息を吐き、仕方がなく、空を飛ぶ。ウルトラマンの力を得たお陰でブリュウは空を飛べるようになっていた。
私は宇宙人が怪獣を倒すのを見ていた。山の向こうから上半身が見えていた。赤く染まった新しい姿は何故だか私の胸をざわつかせた。なんだか嫌な予感がしたのだ。
宇宙人が別の何かに変わっていく。染め上げられていく。
それは宇宙人が成長して変わっていくのが悲しいのだろうか。取り残されるような気持がして嫌なんだろうか。自分の気持ちが自分では分からない。
「宇宙人が怪獣を倒したよ!」
私は傍らの沙耶に話しかける。
その瞬間、沙耶は床に倒れた――