どうだ、私は頭がおかしいだろう!?   作:まさきたま(サンキューカッス)

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第一章
プロローグ「頭おかしいんじゃねぇの」


 個性。

 

 それは、進化の過程で個体の均一性を放棄した結果。

 

 それは、自己を見て貰いたいと言う欲求の表出。

 

 それは、自身の望まぬ隠れた本性。

 

 

 

 

 人は、同調圧力により他人と近しい価値観を共有する。特異な行動を避け、常識的に振る舞おうとする。狂った人と思われることを、恥だと固く信じている。

 

 だけど、私は目立ちたかった。つまらないじゃないか、そんなのは。常識的な枠に囚われたくない。私は人に注目されたい、みんなにチヤホヤされたい。

 

 だから私は、個性的になりたい。

 

 

 

「クハハハハ! クラスのみんな、初めましてーでございます! 私は気紛れでこの世に舞い降りた、悪魔とキリストの間に生まれた隠し子、マリーキュース・デストロイヤーと申し上げまーす! ヨロシクね!」

 

 ────コレが、私の入学式の日の自己紹介。

 

 この革新的自己紹介により、私が1年A組のヤベー奴として学年中に広がるのに3日とかからなかった。

 

 この結果には、大変満足である。

 

 

「マリキュー、カラオケ行かね?」

「ウェイト・ア・ミニッツ。今私に下ってる仏罰を禊ぎ終わったら行くわ!」

「あー、宿題の事? オッケオッケ」

 

 そして、一週間後。

 

 1年A組において、非常に暖かく私のキャラは級友達に受け入れられていた。

 

 ……何故か受け入れられちゃっている。

 

 

 おかしいぞ? もっとこう、腫れ物を触るようなリアクションを期待してたんだが。

 

 普通はもっと距離を置いたり、虐めたりするよね? そんな逆境から色々と変事件を起こし、校内の隠れた奇人仲間を募り、少数精鋭でこの学校を伏魔殿にするプランだったのに。

 

 初日に私が名乗ったマリーキュース・デストロイヤーとかいう痛々しい名前は、何の抵抗もなくクラスメイトに土着した。

 

 果ては、担任教師までマリーキュース・デストロイヤー呼びしてくる始末だ。まだ、入学してから一度も本名で呼ばれていない。

 

 私の本名を知っている人って、校内に私だけじゃねーの。

 

 このままではイカンと目立つために、机の上でコマのように昼休みの間延々と回り続けたこともあった。スカートもはためいていたしソコソコに注目はされたんだが、みんな何故か生暖かい目だった。男子諸君、もっと性的な目で見て良いんだよ? その幼い子供を見る目をやめなさい。

 

 なんでみんなこんなに優しいんだろう。この学校の懐の深さが底知れない。少し不安になってくる。

 

 大丈夫だよね、ちゃんと私は個性的だよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何言ってんだマリキュー? お前はなんだかんだマトモじゃん」

「ファッ!!?」

 

 カラオケで級友達と戯れながら、私は衝撃の一言を耳にしてしまった。

 

「お前、目玉腐り落ちてないか……? 私が、マトモだと?」

「いや、間違いなく変人奇人には属してるけど……。何て言うか、人が嫌がる事しないしなお前」

「頼めば気前よく掃除替わってくれたし」

「貧血で倒れたウチに真っ先に駆け寄って来たの、マリキューじゃん。あの時は運んでくれてホンマ感謝」

 

 ウゴゴ。しまった、私の数少ない短所である”無意識のお人よし癖”のせいでマトモ認定を食らってしまってたのか。

 

「いやだって、その、聖人キリストの隠された一人娘として他人を見捨てるのは設定に反するし……」

「設定って認めんなし」

「あっはは、根っこが善良な奴は少し行動が変でもあんま気にならないよな。マリキューみたいにさ」

「この学校には、もっとヤバイ奴いるしな」

「あー奇特部ね」

 

 奇特部?

 

 聞いたことの無いクラブだ。部活紹介になかったぞ、なんだその謎すぎる部活動。

 

「なんぞソレ?」

「ん、マリキュー知らねーの?」

「あー、マリキューとは違う本物のヤバい奴の集まり。マリキューも近づくなよ、何されるか分からんぞ」

 

 何おう!? 私が偽物のやべー奴とでも言いたいのかこの野郎!

 

「あそこの部長、ヤクザに喧嘩売って命狙われてるらしいな」

「他にも、部員が教師相手に売春して、部室の無断使用を見逃して貰ってるらしいと聞いた」

 

 なんだソイツら、頭おかしいんじゃねぇの。

 

「その噂マジなん? 確か今年も、1年だとB組の娘も奇特部入りしたんだよね、あーいう地味な娘に限ってウリするんやね」

「奇特部入りって確か川瀬さんだっけ? 結構可愛いよなあの娘、俺の好みじゃねーけど」

「……そんな娘居たっけ? 地味過ぎて覚えてねぇわ俺」

 

 とはいえ、良いことを聞いた。元々少数精鋭でこの学校をキ○ガイの伏魔殿にする予定だったのだ。

 

 既にそんな集団が結成されているなら話が早い。明日、川瀬さんとやらについて行って奇特部の連中とやらに会ってみるか。私がそいつらを率いて事件を起こせば、予定より早くこの学園を伏魔殿にできるだろう。

 

 うふふ、この学校は私が貰った!!

 

「って、マリキュー歌めっちゃ下手いな」

「可愛い音痴と可愛くない音痴が有るけど、これは後者かな」

「よ、女ジャイアン」

「てめーら磔にするぞ」

 

 思いかけず良い情報を聞けてテンションが上がった私の歌は、クラスメイトからたいへん不評でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の放課後。

 

 私はクラスメイトの静止を振り切り、奇特部入りした川瀬さんとやらを訪ね1年B組に突撃した。

 

 少し聞き込んだだけで、お目当ての彼女はあっさりと見つかった。B組の人が指さしたのは、一番後ろの席で1人、ポツンと本を読む眼鏡をかけたショートカットの少女。

 

 うわぁ、キャラ薄っ! いかにもありきたりな文学少女って感じだ、こんなのが悪名高い奇特部の部員なのか。

 

 とは言え、変人集団は私の野望には必要不可欠。実際に話してみて、本当に変人かどうか確かめるのも良いだろう。

 

 中身がおかしい可能性もあるしな。軽く挨拶してみよう。

 

「ハロー、ミス川瀬? あー、ワタシニホンゴワカリマセーン!!」

「こんにちは。私に何かご用ですか」

「……ホーリーシット」

 

 アメリカンに肩を抱いて話しかけたのに、冷静に返答された。悔しい。

 

「ユーのクラブ、奇特部に興味が有りマース! ミーをアブダクションしてクダサーイ」

「何言っているのか分からないけれど。奇特部に入りたいの?」

「オーイエース」

 

 思いっきり変な話しかけ方なのに、彼女の反応が至ってまともだ。……これはあまり期待できないかな、奇特部。ひょっとしてコミュニケーション能力が低い人の集まりなのかも。

 

「分かった。ついてきて」

「ダンケシェーン!」

 

 内心少し落胆しつつ、私は無表情な文学少女について行く。

 

 ────まぁ、他の奇特部の連中を見てから、私の下僕にするかどうか決めてやるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ついた。此処が部室、入りたければどうぞ」

「おっしゃ、オラワクワクして来たゾ!」

 

 案内されたのは、1階の職員室の隣の倉庫と書かれた部屋。非正規のクラブらしい、寂れた静かな部室だ。

 

「あー、テステス。奇特部の皆さまこんにちはー! キリストの生まれ変わり、学校内一の美少女マリーキュース・デストロイヤーちゃんの降臨だよ!」

 

 その寂れぷりに負けない様、元気いっぱいに私は部室に足を踏み入れた。私は、明るく可愛い元気なキチガ○がモットーなのだ。

 

 さて、反応は……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「補習を取り消せー……!」

「出席回数を誤魔化せー……!」

「内申点上げろー……!」

「フゴッ!! フゴゴオ!!?」

 

 部室に入ってまず目に入ったのは、縄で縛り上げられた全裸の中年数学教師、佐藤先生。

 

 その中年男性を囲む、カメラを構えた金髪の男子生徒と、ムチと蝋燭を握り締めた女生徒。

 

「この写真をばらまかれたくなければ、俺達の言う事を聞くんだな」

「オーホホホ!! 今の貴方を見て、奥様は何とおっしゃるかしら?」

「ヤメッ・・・フゴフゴ、放せっ、フゴフゴ、フゴー!!」

「まだ反骨心が残っているようだな。次は熱湯攻めなんてどうだ?」

「そうねぇ、そろそろ心を折りにいきましょうか」

 

 ……大声で挨拶して入ってきた私に目もくれず、縛られた中年男性を撮影し陵辱している二人を尻目に文学少女ちゃんは部屋の隅でスマホゲーを始めた。私はひとり呆然と、その場に立ち尽くし荷物を取り落とす。

 

 な、な、な……

 

「何やってんですか貴方ら!?」

「うおっ!! 誰だお前!」

「なんですのいきなり大声出して。はしたない」

「お前らの方が100倍はしたないよ!!」

 

 目の前で繰り広がっている、明らかな犯罪現場。

 

 く、油断していた。クラスの皆が絶対に関わるなと言っていたのに。

 

 ああ、認めよう訂正しよう。コイツらはやべー奴だ。間違いなく頭のネジがダース単位で腐り落ちてるやべー奴だ!

 

 想定外の事態に慌てた私は、思わず佐藤教諭の傍に駆け寄る。

 

「だ、だだ大丈夫ですか、佐藤先生」

「こら、アナタ何をしていますの! わたくしの豚ですわよ!」

「おいおい落ち着け、謎の女子生徒。これはあれだ、合意の上のプレイだから気にするな」

「明らかに合意してなさそうだよ!?」

 

 ダメだ、この犯罪者ども話が通じない。

 

 早く佐藤教諭を救出せねば。話は眠いけど、彼は必ず授業の5分前に教室に来て黒板を綺麗にしてから授業する、真面目で実直な良い先生なのだ。

 

「佐藤先生、今猿轡を外します! 大丈夫ですよ、これから助けます!」

「ぷはっ!! おや君はマリー君だったか……」

 

 奴等を威嚇しながら佐藤先生の背中に周り、猿轡を丁寧に外す。これで少なくとも喋られるだろう。

 

 覆われていた口が解放され、息を整える汗で乱れた髪型の佐藤教諭。可哀想に、佐藤先生が何をしたっていうんだ────

 

「……マリー君。プレイの邪魔だ、下がっていなさい」

 

 私をキッと睨み付けた佐藤教諭は、そうほざいた。

 

「ほうら言っただろう、女子生徒。よっしゃ、もっかい猿轡付けるぞ」

「どうせなら今度は、練りワサビいりの猿轡にして差し上げますわ」

「おー! 実に興奮するプランだ。早く、早く私を縛りなさい」

 

 嬉々として、佐藤教諭を取り囲むキ○ガイ2人。佐藤教諭もニッコリである。 

 

「……えぇ?」

 

 いかん。手に負えない。

 

 

 

 

 

 

 

「タクさん。来客を放置するのはどうかと思う」

「……はっ!? よく考えればそうだな」

 

 文学少女ちゃんの一声で金髪が近寄ってきたけれど、私の心は既に敗北を認めてしまっていた。

 

 自信を打ち砕かれ傷心中の私は、何をするでもなくアヒンアヒン鳴いている全裸の佐藤教諭を体育座りで眺めているだけ。

 

 こいつ等、変人奇人とか言うカテゴリーではない。私と価値観が違いすぎる。これが、個性……っ!

 

「……今日は負けを認めますけどね!! 何時か貴方達にギャフンと言わせてあげますから!!」

「お、何か知らんが俺の勝ちなのか? やったぜ、報酬として胸触らせてくれ女生徒」

「お好きにどうぞチクショー!!」

「え、マジで!? 良いの!?」

「駄目に決まってるでしょう、愛しますよタクさん」

「ひっ!? ゴ、ゴメン」

 

 イヤらしい手つきで私の胸部に腕を近付けるタクさんとやらは、B組の文学少女ちゃんに凄まれて逃げ出した。

 

 愛しますよって何だ? 文学少女ちゃん、マトモに見えたけどやっぱりこの娘もどこかヤバいんだろうか?

 

「ブン子ちゃん、シャレにならないからその脅し文句は封印なさって? チビったらどうしてくれますの?」

「煩いです、マイ先輩。お前も恋愛対象にしてやろうか?」

「ヒィ!?」

 

 うわぁ、キチ○イ二人が完全に怯えてる。そうか、この娘も相当にヤベーのか。

 

「あの。貴方と恋愛するとどうなるの、えーと、ブン子ちゃん?」

 

 興味本位で、聞いてみる。

 

「別に……? 普通に幸せになるだけよ。お互いに」

「今のところソイツの恋人候補は、全員廃人になってるか自殺してるけどな」

「その、何というか。メンヘラと言う奴ですわ、彼女は。しかもタチの悪い事に両刀だから、被害者の数は数え切れず……。調査の結果その話が真実だと分かったので、ウチの部活に収容することになりましたの。野放しは危険ですし」

「この部活、そういう立ち位置なの!?」

 

 変人の収容施設か何か? じゃあ、私はなぜ収容されていない……!?

 

「ねえ、1年にもう一人ヤベ―奴が居るって話、聞いたこと無いですか……?」

「あん? あー、もう一人変わった女子が入ったって聞いたけど……。変わりモン程度ならうちの部活に入らせる意味無いしな」

「確か、思春期にはありがちな、軽い中二病を患ったお方らしいですね。そのお方をお探しでしたらごめんなさい、ウチの部には所属しておりませんの」

「ありがちで悪かったな!! 私だよ!」

 

 チクショーこの異常者共め。ちょっとばかり個性的だからって、この私を凡人呼ばわりするとは許しがたい。

 

「お前が……? 話に聞いてたよりまともだな」

「自分でもビックリだよ! この私が未だにまともな事しか言わせて貰えてない事実にビックリだよ!」

「貴方のような普通の方がなんでワザワザこんなクソみたいな場所にいらしたの?」

「違うもん、私だって変人だもん! この部が私に相応しいか見に来てやっただけだもん!」

 

 こんなはずではなかったのに。この私の溢れんばかりのキチ〇イオーラでこの部全員を下僕にする予定だったのに。

 

 今の私は、奇人を前に取り乱すただの没個性な美少女ではないか。情けなくて涙が出る。

 

「うーむ……。よし、つまりお前は入部希望か?」

「……はぁぁ。それで良いです、入部希望で良いです。お前らを見て世界の広さを知りました」

「よかろう!! ならばテストをしてやろう」

 

 そう言って私の前に歩いて来たのは、一見すると何処にでも良そうな短い金髪の青年。ガタイが良くて所々にケンカ傷が有る事くらいしか見た目の特徴はない普通の青年に見える。

 

 だけど、先程嬉々として佐藤教諭を縛り上げていた光景は記憶に新しい。間違いなくキチ〇イだろう。

 

「ここ最近の、お前のぶっ飛んだ経験を教えてくれ。それ聞いて判断してやる」

「ほほう。つまりこの私、神と悪魔の混血マリーキュース様の日常を聞きたいのだな!?」

 

 そしてその青年の出してきた課題は”ヤベー奴自慢”の様だ。

 

 ならば任せてもらおう。このマリーキュース、変人ネタには事欠かない。この私がいかに変な奴かを語れば、こいつ等も少しは恐れおののく筈だ。

 

「私の朝は早い。来るべき闘いに備え、登校前にブリッジをしながらワサワサと公園を1週するのが日課だ」

「……ほう、それで?」

「それは、一昨日の事だったか。私の朝のブリッチ移動の最中に視線を感じてな、見ると中学生くらいのガキ共が私の姿を面白そうにスマホで撮影してやがった」

「そんなのが公園に居たら当然だろうな」

「肖像権の侵害である。私は怒り心頭に、ガキ共に近付いて注意しようとした。その時、」

「その時?」

「凄い衝撃を感じて私はふっ飛ばされたんだ。どうやら怒りのあまり周囲の確認を怠って他人とぶつかったみたいでな。即座に私は、ぶつかったその人に謝ったさ」

「はぁ」

「……そして、その私がぶつかった相手がなんと警察から逃げていたひったくり犯だった。私はめでたく感謝状を貰って、その場で同時に職務質問される羽目になった」

「なんとまぁ……」

「その様子はガキどもによりTw〇tterにアップされて、しかも2万RT達成してた」

「あ、その動画見たこと有る。お前かよアレ」

 

 これが、ここ最近の私のハイライト。因みにブリッジしながら公園を歩くのは、周囲の確認が出来ず危ないからやめなさいと怒られたのでもうやってない。

 

「どう? これが私の実力の、その一端かしらね?」

「うーん。まぁ、悪くはないけど……そうだな、少し弱いな」

「よ、弱い!?」

 

 い、今のでも弱いの? 結構自信あったのに。

 

「あ、さては納得いってないな? ようし、お手本というか、昨日の俺の話をしてやろう。この国最大の指定暴力団の若頭やってる男をだな————」

「あ、タクさんストップ」

「その話は刺激が強すぎますので、やめてくださいな。多分その子、即座に通報いたしますわよ?」

「アンタ何やったんだ」

 

 青年が昨日の話を喋ろうとしただけで、即座に真顔になった他の部員二人が止めに入る。

 

「……じゃあ、一昨日の話にすっか。この国の最大手の新聞社の社長宅でだな————」

「それはもっとダメ!」

「タク! 貴方、後輩の女生徒になんて不埒な話をするつもりですの!?」

「すでに開幕で不埒なモン見せられてるんだが!?」

 

 縛られた全裸の中年男性より、一昨日のコイツの話の方が不埒なのか?

 

「えー、じゃあ何の話すればいいんだよ。コイツが納得しそうな奴で」

「タクさんが話しなくても、ここで見ただけで分かるおかしいのが居るじゃないですか。”これ”で納得して帰って貰えば良いのでは?」

「……ブン子ちゃん? 先輩を”これ”呼ばわりはどうかと思いますわ」

 

 文学少女ちゃんが無言で指さすのは、ふわふわした髪の毛のお嬢様言葉の女生徒だった。

 

 ……ぶっちゃけかなりの美少女である。私もまぁ美少女である自負はあるけれど、このお嬢様は私よりランクが一つ上というべきか。

 

 なんだあの肌ツヤ、睫毛の長さ。アレ自前だろ多分。女神かよ。

 

「おおそうだ、マイがいたか。紹介しよう後輩ちゃん、我が部が誇る女装癖の変態、舞島信彦君(17)だ」

「この見た目で男とかやってられない。しかもノーメイクとか腹立たしくて仕方ない」

「……ひょ?」

 

 ……女装? 男の子?

 

 ……ノーメイク?

 

「男に……美少女レベルで負けた!?」

「あらあら、傷ついていますわねオーッホッホ。ところがぎっちょん、これが現実。私は立派な象さんを生やした、男子高校生なのですわ。オーッホッホ!」

「何だよコレ……何だよこの個性力……! 私がまるでモブキャラじゃないか……」

「悔しがる点はそこなのか」

 

 ちょっと女装が似合う可愛い男の子、どころじゃあない。絶世の美女とも評せる目の前の女生徒が、存在する価値のないモノの代名詞である男子高校生だと……?

 

「お前は今まで、何人の恋人を自殺に追い込み、廃人にしてきた?」

「……恋人出来たこと無いです」

「お前は男装したとして、同性100人が告白の列を作ることはできるか?」

「そ、そんなことあったんですか?」

「昔の話ですわ」

「お前はヤクザの若頭に鼻フックしながら、高層ビル30階から飛び降りた事はあるか?」

「アンタはそんなことしでかしたのか!?」

 

 信じられないような出来事を、まるで事実の様に話す目の前の短髪の青年。

 

 これらの話がデマであったら、そう頭によぎったけれど。彼らの表情がすべてを物語っている。

 

 彼らは今の出来事を、まるで当たり前の出来事だという表情のまま、スラスラと語ったのだ。きっと紛れもなく、真実なのだろう。

 

「分かったかな、マリーキュースとやら。君はまだ”俺達の領域”には達していないという事を」

「そう、アナタでは役者不足。はっきり言うけど、アナタに”こちら側”でやれるほどの素養は無い」

「今後絶対に、貴女では“壁”を超えられない。おほほ、そう言うことですわ」

「格好つけてるけど、お前らが超えてるの単なるキチガ〇の壁だからな!?」

 

 その日。

 

 私は泣きながら奇特部の部室を後にする。涙を拭きながら廊下に出ると、心配してついてきてくれていたクラスメイト達に温かく出迎えてくれた。心配して待ってくれていたらしい。

 

 彼らに慰められながら、私は下校した。

 

 そして私はもう、二度とあいつ等には関わらない。涙をポロポロ零しながら、そう決心した。奇人としての格の違いを見せつけられ、私の心は折れてしまったのだ。

 

 キチ〇イには勝てなかったよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてこれは、物語のプロローグにしか過ぎない事を、私は気付いていなかった。

 

 この日こそ、私を中心とした絡み合うべき運命の鎖がやっと交じりあった、一つの契機だったのだ。




次回は1月20日の17時更新予定です。
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