どうだ、私は頭がおかしいだろう!?   作:まさきたま(サンキューカッス)

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最終話「未来」

 老人は、そこで話を終えた。

 

「……」

 

 数多の能力者を『救済』の名目に乗せ、洗脳と殺害を繰り返してきた巨悪。そんな彼の行動原理は、壊れきって空回った愛情だった。

 

 きっと心の何処かで、彼はその過ちに気が付いていただろう。だが愛する人を犠牲にしたことで、いつしか止まることが出来なくなったのだ。

 

「馬鹿だな、この爺」

「……は、は、は。わしはこれで、お役御免────」

 

 目から徐々に光を失いながら、老人は嬉しそうに笑う。ずっと苦しんでいた何かから解放された、乾いた笑顔だった。

 

「やってる事が馬鹿すぎて。俺達じゃ、救いようがない」

 

 タク先輩は、苦々しげに呟いた。

 

 救いようがない、か。確かにこの老人は救えない。救われるには、あまりにも罪が大きすぎる。

 

 でも結局この人も愛する人が発現した能力と目覚めてしまった自らの能力に、人生を狂わされた被害者だ。

 

「……先に、行くぞぉ。なぁチヨ、死んじまったらよぅ。今度こそ、あの世で二人で────」

 

 やがてその翁は虚空を見つめ、ブツブツと独り言をこぼし始める。きっと、もう長くは持つまい。

 

「安西さん、コイツどうする」

「あ? 私がぶっ殺すよ」

「良いのか?」

「良いも何も、既に私は能力者を纏めあげる立場じゃん。暫定議長みたいなもんだけど」

 

 そんな、老人の話をつまらなそうに聞いていた安西女史は、懐から小さな銃を取り出してその翁の額に突き付けた。

 

「グロいのが苦手な人は目を閉じてな」

「は、は、は。何だ。お前がわしを殺すのか。そうか、頑張れ」

「言われんでも。お前の下手くそなやり方より、ずっとずっと上手くやってやる」

「後を頼む。チヨを頼む、みんなを頼む────」

「勝手な事を」

 

 それは、安西さんなりの救済なのかもしれない。

 

 この老人が、助かることはないだろう。だからこそ、あえて殺す。

 

 それは老人を断罪し、そして安らげる唯一の方法かもしれない。

 

 ────だけど。

 

「じゃ。死ね糞爺」

「……は、は、は」

 

 安西の指が、拳銃の激鉄に沿って伸び。無表情に老人を見下げる彼女が、ゆっくりと引き金を引き────

 

 

 

 

 

「……何の真似だ、マリキュー」

「ちょっとだけ待って、安西さん」

 

 その銃口に、私の手が重なった。その老人を守る為に。

 

「お、おいマリキュー! 何やってんだ」

「まだ殺しちゃ、駄目ですよ」

「ふむ。止めたからには何か理由があるんだな? 良いだろう、言ってみろ」

「いいえ。私は何も言いませんよ」

 

 その私の返答を聞いた安西は、怪訝そうな顔で私を見つめている。

 

 だけど私は思うのだ。まだ、この老人を殺すべきではないと。もっと、反省させてやるべきだと。

 

「私ではなく。()()に、言いたいことがあるそうです」

 

 だから、私は老人を庇った。己の罪の重さを、自覚させてやるために。

 

「────彼女?」

「このお爺さんには、私たちが何を言っても届きません。だけど、彼女の言葉なら」

 

 そして。

 

 

「ここ、は。あたし、は? え、え?」

 

 

 その老人にとってもっとも大切な人間が。今、正気に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────それは、いつ頃の記憶だろう。

 

「なぁゲンジ。お前、能力者を集めて何するつもりだよ」

「決まってるだろう。救うんだよ」

「何の関係もない赤の他人をか?」

 

 組織がある程度形になり、戦後の荒れ狂う日本を舞台に昭和の経済界に乗り込んだ矢先の事だったか。

 

「そうだ。奴らは生きているだけで不幸なんだ。そんな可哀想な連中は、誰かが責任を持って管理してやればいい」

「あたしみたいに? 気付いてるよ、自分が正気じゃないことくらい。前は人が苦しむ姿を見たって胸が痛いだけだったのに、今はこんなにも心地良い。これはあんたの能力かい?」

「ああ」

 

 雑多に立ち並ぶ新築ビルの一角で、男は女と二人話し込む。

 

 女は能力により正気を失っていて、男は正気を保ったまま狂っていて。

 

「で、あんたはちゃんと自分にも能力をかけてるのか? 自分の良心も消しちまえば楽だろう?」

「……ふふ、出来ないんだよそれは」

 

 女の提案に、男は寂しそうに笑った。彼女の言うように自分の心を騙せるなら、どれだけ心が楽になるだろう。

 

「自分には、かけられなかったんだ。他人にしか能力は有効じゃないらしい」

「あれま」

 

 そう。男は何度も、自分に自分の能力をかけられないか試していた。だが決して、上手くいくことはなかった。

 

 能力に目覚めた者はすべからく不幸である。それは、この男も例外ではない。

 

「同情してくれるかいチヨ。俺は、俺一人だけはずっと正気のまま、こんな君と相対しつづけないといけないんだ」

「そりゃ、ご愁傷様。あはははは!」

「以前の優しい君とは二度と話すことはできない。君は最早、死人も同然。でも、君が笑ってくれていることだけが救いなんだ」

「良いね、愛されているねぇ私は」

 

 ゲラゲラと、下品に笑うかつての想い人。心を悪に染めたその女は、苦しむ男を愉快千万と言った顔で眺めている。

 

「ああ。愛していたよ、チヨ。君が正気に戻ってしまったら、俺はどんな叱責を受けるだろうね」

「そりゃ、絶対許さないんじゃねぇの?」

「だろうね。知っている」

 

 そんな彼女を、男は静かに抱きしめた。

 

「それでも、俺は君が好きだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ああ、あああっ! あああああ!!!」

「……チヨ。何が、どうし────」

 

 蘇る。

 

 老婆の中で蓄積された、悪魔の記憶。人を人と思わず、救済を名目に他人を殺し続ける男と共に歩み続けたその人生を。

 

 人を傷つけたくなくて死を選ぼうとした女は、自らの命の為に沢山の人を害し続けた。目の前の老人に、心を操られたせいで。

 

「貴方の洗脳を、解きました。私はそう言う能力ですので」

「は? 何、を。貴様何をした、何をしている!? お前たちは、能力者を救うためにわしを殺しに来たのだろう!」

 

 それは、老人を動揺させるに十分な出来事だったらしい。今まで、殺そうが好きにしろと言った態度だったその翁は初めて声を荒げ叫んだ。

 

「やめてくれ、チヨをそっとしてやってくれ! 彼女は、優しい女なんじゃ! 今までの自分のしてきた所業をしって、気に病まぬはずもない! もう残り少ない彼女の余生、平穏で過ごしてやってはくりゃせんか!」 

「……あたし、は。嘘、嘘、嘘だ────」

「ああ、チヨ。こっちを向け。わしの目を見て、そしてゆっくり────」

 

 先程まではずっと、人形のごとく黙りこんで動かなかった老婆は。目を見開き、両の手で頭を押さえ突っ伏した。

 

 操られていた間の記憶があるのだ。この老婆にとって、それはどれ程苦痛だろう。

 

 老人は、震える手つきで老婆へと寄り。荒い息を吐きながら、その婆の顔を覗き込んだ再び、洗脳しようと言う心算だろうか。

 

 ────だが。

 

「あ?」

「何て、馬鹿なことをしてたんだい、お前は……」

 

 瀕死の老人は、静かに抱きしめられていた。それは老人の予想を超えていたのだろうか、彼はシワの寄った目を丸く見開いて硬直した。

 

「なぁ、ゲンジ。悪かった、死にたいなんて言ってさ。悪かった、お前はこんなにあたしを想ってくれていたのに、お前の元を離れてさ」

「チ、ヨ」

「あたしが受け止めるべきだったんだ。あたしがあんたの死をも覚悟して、あんたと添い遂げる覚悟があればこんなバカな事には────、ごめん」

 

 だが、ただ抱き締められているだけじゃない。

 

 その老婆は、老人を包み込むように首筋を抱き。翁の口元に当てられた酸素マスクを外し、正面から向かい合った。

 

「……一緒に死のう、ゲンジ」

「チヨ、お前は」

「もう終わろう。終わんないとダメなんだよ、こんな事はさ」

 

 それは、さながら愛の告白の瞬間のようで。老いた女の皺が寄った両手は、愛しいものを包むが如く。

 

 ────静かに、老人の首を絞めた。

 

「確かに能力者ってのは生きてるだけで辛い、そんな法則があるみたいだね。でも、それでも────大切な誰かと出会えたその瞬間は幸せなんだよ」

「────か」

「ごめんね、泣き事を言いすぎたんだねあたしは。ゲンジと出会ったこと、とっても幸せだったんだよ。だから、人の心を握りつぶしちゃダメなんだ」

「────エホッ」

「もっとちゃんとあたしが言葉に出せば、こうはならなかったんだね。アンタと出会えたことだけは、くそったれなあたしの人生最高の瞬間だった」

「────」

「どんなに不幸でも、どんなにドン底でも、死んだ方がマシだと思っても。その中に、小さな幸せを見つけて生きていかなきゃ駄目なんだ」

 

 

「だから。……バイバイ、ゲンジ」

 

 

 これが、その日私が見た、悲しい老人の生の終幕だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ。あいつら放置してきて良かったのか安西さん」

「……もう、あの婆も長くないのだろう。それに、諸悪の根源はもう死んだ」

 

 結局。私達はせっかく敵の本拠地を制圧したと言うのに、洗脳された能力者の情報と連絡先を控えただけで引き返した。

 

 あの場に残っても、出来ることは何もない。いや、何かをしてはいけない。そんな気がした。

 

「愛した女に説教されながら殺される事ほど、辛いことはないわな。死んでからたっぷり反省すると良いさ」

「はぁ。でもあの爺、ほっといても後数日で死んだよな。俺達は何の為に頑張ったんだが……」

「少なくとも部員の命は守れましたよ、タク先輩」

「……そっか」

「そうですわ」

 

 タク先輩は、気怠そうにそうぼやくけど。

 

 実際、この人が洗脳されたまま東京湾に沈められたならタイムリープは発生しなかった可能性が高い。そうなれば、フミちゃんやマイ先輩は生き返らせられなかっただろう。

 

「あ、マリキューよ。明日は放課後開けておけ!」

「放課後ですか?」

「ヤクザ配下の洗脳能力者達を救わないと」

 

 む、そうか。それは私の役目だ。

 

 私は安西女史に了解ですと答え、明日の予定を思い起こす。大丈夫よね、洗脳中に変な約束して無いよね。

 

「洗脳能力者さえ正気に戻したら、後は順次洗脳解除出来る筈よ」

「本当に便利だよねぇ、私の唇……」

「……ただ、術者の意思で洗脳が解除出来ないケースも有りますわ」

「そうなったら面倒ですよねー。私が片っ端からキスして回らないといけないので」

「マリがそこまで自分を犠牲にする必要は……」

 

 いや、そこはどうでもいいんだよフミちゃん。問題はキスした連中に、キスシーンの記憶が残るかどうかだ。覚えられてたら間違いなく気まずくなる。

 

 しかも私がキスした相手は、白目剥いて痙攣し始める訳で。地獄絵図かな? ロマンもへったくれもない。

 

「でも、爺さんの言うことに賛同してる奴はどうするよ。洗脳されたままの方が幸せだった! とか言い出す奴も居るかもしれん。安西さん、そういう場合はもっかい洗脳してやるか?」

「あん? そんなのほっとけ」

 

 そんなタク先輩の疑問を、安西女史は面倒臭そうに聞き流した。

 

「それがソイツの人生だ。他人がケチつけて良いことじゃねぇ」

 

 それが安西女史の答えだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フミちゃーん!」

 

 あの日から、一週間。

 

 洗脳されていた能力者達の処遇や支援で、安西女史は大忙しらしい。タク先輩やマイ先輩も、彼女の手伝いをするべく放課後に駆り出されていた。

 

「一緒に帰ろ?」

「ええ」

 

 私達も時折駆り出されていたのだが、漸く一段落したので休みを貰えた。そろそろ、フミちゃんとの約束を果たさないといけないと言ったら女史は快く許してくれた。

 

「ヒロシったら酷いんだよ! ちょっと性格イメチェンしましたって言ったら、今の私がちと不気味だって」

「成る程。なら一刻も早く別れるべきね」

「それは極端かなぁ。ねぇ、そんなに不気味?」

 

 ヒロシやカナなど、ミサさんに洗脳されていた人達はその間の記憶がなかった。

 

 ヒロシの私への告白自体、洗脳された時のものじゃないかと一瞬ビビったが……。洗脳が解けたヒロシは私を彼女と認識していたので、一安心する。そうよね、最初ヒロシはめっちゃ私の事助けてくれたもんね。洗脳されてる訳ないか。

 

「前の私は結構内気だったからなぁ……、落差が激しいのかも」

「確かに落差は酷いかもね」

 

 一方、私は記憶が戻ったことで露骨に性格が変わってしまった。ヒロシに心配かけないよう以前のようにエキセントリックに振る舞おうか迷ったけど、パンツ見えるかもしれないのに机の上でクルクル回ったりするのは無理だ。何考えてたんだ私。

 

「でもマリ、貴女絶対に初めて会った時より明るいわ」

「……そっかな?」

 

 けれど、フミちゃんは私を見て少し嬉しそうに微笑んだ。以前より明るい……のは、確かにそうかもしれない。前が暗すぎたと言う話でもあるが。

 

「多分記憶を無くして過ごした期間の、ちょっと変わった性格の貴女が混じってる」

「まぁ、どっちも私だからね。……でも出来れば思い出したくないから、あんまりマリキュー時代は触れないで」

「結構面白かったんだけどね、あのマリも」

 

 からかうように、彼女は笑う。そりゃあ面白かっただろうさ、他人から見る分には。

 

 神と悪魔の隠し子、マリーキュースデストロイヤーと自己紹介する女子高生。ヒロシはよく告白する気になったもんだ。

 

「今更、クラスでの扱いは変わらないけどね。性格が変わったら、私は『高校デビューを目論んで失敗した痛い娘』扱い」

「成る程。そう取られたの」

「ちょっと変な方向にデビューしちゃったね、なんて笑われちゃった。とほほ、やっぱり能力者って基本不幸なもんなのねー」

 

 あんな高校デビューがあるか。でも、本当の事なんて話せないし。私は今後一生、この黒歴史を抱えて生きていく羽目になる。

 

「でも────」

 

 でも。

 

「フミちゃんともう一度出会えたこと、私は幸せだよ」

「……ええ」

「こうして一緒に出掛けられたなんて夢みたい」

「……」

 

 能力のせいでどんなに嫌なことがあっても、幸せは間違いなくここにある。

 

 不幸のドン底だった中学時代の私を救ってくれた親友。絶対に並んで歩くことなど出来ないと思ってた、大事な友達。

 

「辛い事に負けず生きていこう。それが、例え死すら生ぬるい程に悲惨な事だったとしても」

 

 それは、彼女からしてもきっとそうだ。誰とも話せなかった、誰とも仲良く出来なかったフミちゃんも……、きっとこうして普通に誰かと遊べる日を心待ちにしていた筈。

 

「不幸に耐えれば、いつか願いは叶うと知ったから」

 

 そしてそれは実現した。今日、親友と二人並んで遊びにいく私達は間違いなく幸せだ。

 

「たった一度の出会いが、その不幸を上回れるって知ったから」

 

 能力者達の未来に、幸多からんことを。




 これにて長らく連載しておりました「どうだ、私は頭がおかしいだろう!?」は完結となります。ここまでお付き合いいただけた読者の皆様にや、励みになる感想をくださった読者の方々に心よりお礼申し上げます。

 また、本作を書き上げるにあたり色々とご指導いただいた師匠や兄弟子弟弟子諸兄にもこの場を借りて謝辞を申し上げます。ありがとうございました。

 今後の更新予定としましては、後日談が1話ほど用意しておりますので、よければお待ちください。


 ここから下は、余談と裏話になります。興味のない方は読み飛ばして下さい。


 ……もしこの最終話にもやもやした感覚を抱かれた方もいらっしゃれば、私はその方に感服いたします。はい、本作は残念ながらプロット通りの終わり方ではありません。プロットが崩壊してから無い頭を捻って何とか軌道修正を試みたのですが、不時着の様な終わり方になってしまったことをお詫び申し上げます。

 小説と言うのは本当に難しいと実感しました。私の力不足を認めるところでございます、申し訳ありません。

 と言うのも、原因はハッキリしておりまして。そう、「ヒロシ」って奴が何もかも悪いのです。



 ────はい。白状しますとヒロシと言うキャラクターは、プロットに名前がありません。彼は単なるモブです。

 もっと言うと、本作でヒロシの立ち位置となる本来のヒーロー役はタク先輩です。ヒロシとタク先輩の二人のキャラが微妙に被っているのはそのせいです。つまり、本来の最終話は「マリとタク先輩が能力と言う不幸に見舞われつつも、出会えた喜びを叫び老人を諭す」のが初期プロットです。

 なので何故か1年生のヒロシが2年生の泉小夜と親しかったり、後半のタク先輩のムーヴが見せ場無しの無能キャラになったり結構プロットがボロボロに破綻していました。隔週更新に切り替えたのも、軌道修正を考える時間が欲しかっただけです。

 では、そもそもヒロシって何で出てきたのか? それは、私がちょうど一年ほど前に本作のプロットを師匠に見せた時の会話が原因となります。

「……師匠、如何でしょうか。前作でプロットの重要性を学んだので、本作は最終話までガチガチにプロットを固めてみました!」
「ふむ……」

 ギャクコメディは既に書いたことが有ったので、スキルアップの為に短くまとまったシリアス異能バトルを書こう。それが本作のモチーフであり、師匠に見せたプロットも4人の主要キャラクターの過去をまとめて「何話までにどんなイベントを起こすか」を箇条書きした簡素なものでした。

「聞け、弟子よ。……序盤が薄すぎないかこれ」
「……っ!!」

 その、第一章のプロットを指さしながら師匠は渋い顔をします。師匠の言葉は正鵠を射ていました。私は伏線を張るイベントをいくつか箇条書きにしてはいましたが、マリが襲撃される事件が起こるまでは時間が巻き戻るくらいしか大きなイベントがありません。日常の中で淡々と伏線を張るだけの味気ない展開です。

「……流石師匠、では私はどうしたら!」
「ふ。俺に良い考えがある、任せておけ」

 師匠にプロットを見てもらえてよかった。私は心からそう思いました。

 自分ではなかなか気づけないようなことでも、読者目線と作者目線の両方の立場からアドバイスをくれる。師匠は、私にとってまさに神様のような存在です。

「────ヒロシを使え」
「……ん?」

 ヒロシを使え。それが師匠のアドバイスでした。

 私はプロットを読み直します。そこにはどこにも、ヒロシなんて登場人物は存在しておりません。

「あの。誰かと名前を間違えていませんか師匠。ヒロシなんてキャラは本作には────」
「ヒロシを変幻自在に操れ。さすれば、序盤の展開はもう少しましになるだろう」
「いえ、ですから師匠……」

 大変です。酒が入っているからか、師匠がボケてしまわれました。使えない師匠も居たもんです。

「……ヒロシを出したり入れたりしろ!」
「ははぁ、隠語ですか? ひょっとして師匠の中で、ヒロシはチ●コの隠喩か何かなんですか?」
「そう、上手く外角と内角にヒロシを使い分けるのだ……。ヒロシを出し入れして、読者を幻惑するのだ……」
「変化球!? ヒロシは変化球か何かなんですか!?」

 師匠はたいそう機嫌よく、そんな無茶ぶりをしてきました。何を言っているのかよくわかりませんが、とりあえず師匠の言うことなので素直にプロットにヒロシの事を書き加えます。

「では書くが良い。天下無双のヒロシ捌き、期待しておるぞ弟子よ……」
「は、はぁ」




 ……そして、目の前が真っ暗になり────





「……はっ!? 夢!?」

 その辺で私は目が覚め、布団から飛び起きました。そして先ほどの師匠は、夢の中の登場人物だったことを知ります。

「師匠……。夢にまで出てきてアドバイスをくださるとは、なかなかできる事ではない。流石です師匠……」

 そして、私は寝起き一番にスマホを開き、執筆を始めたのでした。せっかくの師匠のありがたいお言葉を忘れないうちに。

 だがその時に付け加えてしまったプロット通り、ヒロシを出し入れした結果。何故かマリキューとヒロシにでかいフラグが立ってしまい、付き合うまでに至りました。

 そう、師匠の余計な一言のせいで私は終始苦しむ羽目になったのです。そのことについて現実の飲み会で師匠に文句を言った結果、

「お前(の精神状態)おかしいよ……」

 と可哀想な目で見られました。解せぬ。




 これがヒロシの誕生秘話であり、嘘の様で本当の話です。少し遊び心としてキャラを足したら、プロットを固めすぎていたせいで修正が効かず最後まで突っ走ってしまった形になります。

 本作は失敗が目立ちましたが非常にいい勉強になりました、次回作はもうちょい余裕のあるプロットを練ります。

 次回作は……、匿名で投稿している話を完結させてからにしたいのでしばらくかかります。短編をハーメルンに時折上げる程度の活動になるかもしれません。

 匿名で投稿したその作品は、ぶっちゃけ匿名機能使って知り合いの名前で投稿してやれという遊びで匿名にしただけなのでそのうち匿名解除するつもりです。ただ解除するタイミングが分からない……。

 丁度向こうは1部完みたいな感じで更新が止まっているので、2部再開と同時に解除を考えてます。なろうには投稿してませんのでなろうから読まれている人は御免なさい。

 では、またどこかでお会いしましょう。
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