ムスカ大佐の栄光と挫折   作:千里三月記

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おお、エクスプロードよ

いたぁ…いの?

「私は死んだほうがいい」

とか言ったとか言わなかったとか


ムスカ大佐の走馬灯

ああ、

 

ああ、

 

重力に引かれて玉座から滑り落ちる。

あと、一歩、

 

あと一歩だったのだ。

 

だがしかし、私は夢を叶えたあと、一体何をするつもりだったのだろうか。

 

光に目が眩んで何も見えてはいなかった。

どのみち私に先はなかったのだ。

身体が加速していく。

目を閉じていても、もうすぐ終わると分かる。

一緒に崩れたガレキの衝突音でそれと知れる。

 

大地だ。

忌々しい地面に引き寄せられていく。

 

私は、逃げたかったのだ。

姫と小さなナイトは逃げおおせただろうか。

まあ、いまの私には心配する資格などないがねーー

 

◇◆◇◆

 

「ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ。それがアンタの本当の名前だよ」

 

一番古い母の記憶。

美しい母だったと記憶している。私は彼女が大好きだった。

 

◇◆◇◆

 

「訂正しろっ!!」

 

ドカン、と音を立てて壁に叩きつけられる。弾みで酒棚からボトルが二、三本落ちてガシャンと割れた。

 

「へ、何を訂正するってんだよ、ボウヤ。オメェの母親がカネさえ払えば誰とでも寝る淫売だってのはみんな知ってることじゃねぇか」

 

おお、イテぇ。と頬をさすりながら男が立ち上がる。

 

キャア、と上がるウェイトレスの悲鳴、わざとらしくて聞いてられない。おおごとになって見て見ぬ振りをしていられなくなったのだろう。

私は再度殴り掛かろうとするが、周りの大人にのし掛かられて身動きが取れなかった。

 

「触るな! 下賤の民どもが! 畏れ多いぞ! このラピュタ王のオレの邪魔をするな!!」

 

「ハ、またそれかよ、あの淫売と同じように毒が頭にまでイッちまってんじゃねぇか? あ、そういうことかぁ、オメェ、母親とヤッちまったんだな。血は争えないって奴だな」

 

ペッ、

 

と血の混じった唾を吐きかけられる。

私もそれから学んだ。人前で言ってはいけない。すべてを手にした後でコイツらには後悔してもらうこととしようーー

 

◇◆◇◆

 

母が死んだ。

 

14歳の春のことだ。

厳しい冬を越せたので、今年も大丈夫だろうとホッとしていた矢先だった。葬式はやらない。母を利用するだけ利用して嘲笑っていた街の人間達に上辺だけの哀れみを受けたくなかった。

山の奥に穴を掘って墓を作った。共同墓地などに入れられては母も安心して過ごせないだろうから。

 

父親は来なかった。最期まで。

父はどこぞの貴族だそうだ。美しい侍女に手を出して、妊娠が発覚すると放逐した。

使いの者が何回か来て、養子にならないかと言ってきた。大戦に参加した息子たちが皆死んでしまって、跡を継ぐ者が誰もいないと言っていた。

 

冗談ではない。

 

私はロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ。

 

ラピュタ王の末裔なのだ。

 

◇◆◇◆

 

「皆、ムスカ訓練生を見習うように!!」

 

教官の言葉。首席での卒業は間違いない。卒業後は特務機関への配属が決まっている。

社会状況が追い風となった。

母の死後、先の大戦で大量の死傷者が出たために軍は慢性的な人手不足に陥っていた。以前なら貴族階級しか入れなかった士官学校に、簡単に入学することができるようになっていたのだ。

士官学校での生活は厳しかったが、夢を叶えるためならどんなことだって耐えてみせる。

私はこの目でラピュタを見るのだ。

 

◇◆◇◆

インド洋上に浮かぶ巨大な艦影。

そのスペック、

 

・全長180m

・全幅30m

・喫水9.35m

・常備排水量28600トン

・満載排水量32200トン

・機関石炭重油混焼ボイラータービン3基3軸(合計55000馬力)

・最高速度22ノット(40km/h)

・航続距離5000海里(9260km)

・乗員1200名

 

・兵装38cmSK L/45連装砲塔 4基8門

   15cmSK L/45単装速射砲 16基16門

   8.8cmSK L/45単装速射砲 8基8門

   60cm魚雷水中発射管 5門

 

艦載の羽搏き飛行機、実に34機。

帝国の誇る超弩級機動船艦『ガニメデ』、その艦内。

 

「いいぞ。分かった。下がれ。それから暫く誰も入れるな。考えたい」

 

「ハッ」

 

キビキビとした動きで回れ右をして部下が出ていく。

階級も少佐ともなると、個室が与えられるようになる。

 

バタン、と音がしてドアが閉まる。いつもなら無神経なドアの閉め方に眉を顰めるところだが、このときの私は期待に胸を躍らせていた。

机の上には大量の書類が積まれている。

 

村の外れで怪しげな煙をあげる老人。

未開拓の森深く、迷子の子供を届けるという二足歩行の獣。

ブタの凄腕飛行機乗りと、幽霊飛行機の大編隊の目撃談。

インドに眠るという超兵器『インドラの火』の捜索隊の追加報告。

極東で行われているという聖杯を巡る争い。

 

日の沈まぬ帝国と呼ばれる祖国が世界中に張り巡らせた間諜網からは、日夜、俄かには信じがたい報告が大量に上げられてくる。

 

 

 

もっとも、大半は事実誤認か偽情報だが。

 

 

7つ集めると神の龍を召喚出来るという玉。 違う。

大海賊がどこかに隠した『ひとつながりの秘宝』伝説。 違う。

世界各地で散見される、植物の異常成長事例。 そういうこともあるのだろうか?

新大陸の入植村ダニッチで処女懐胎があったらしい。馬鹿らしい。不貞をごまかすための拙い嘘だろう。異形の子供? 異人種とでも子をなしたのではないか。

 

こんなつまらないことでも海の向こうのニュースを知ることができるとは、我が祖国の、人間たちの凄さを見るにつけ、私の背には言いようのない悪寒が走る。

 

二千年〜五万年の開きはあるが、世界各地の遺跡から考えるに、現代に匹敵する超文明がかつて存在したことは間違いない。

ハヤオ遺跡の出土品から着想を得てフライト兄弟が羽搏き飛行機を設計したように、考古学は発見の宝庫だ。

 

 

目が疲れたので一旦休憩のために椅子に座ってボーッと天井を見上げていると、ドアの向こうがやたらと騒がしくなってきた。

 

「どうしたというのかね」

 

少し大きめの声を出して譴責すると、バン! と音がしてドアが開き、男が入ってきた。

 

「申し訳ありません。お止めすることができませんでした」

 

男に引き摺られるようにして歩哨がいうのを一瞥する。

 

「ムスカァッ! 貴様ァッ!」

 

開口一番の怒鳴り声。毎度この直情径行な性格には辟易とさせられる。禿頭とヒゲ面、イノシシを思わせる容貌のモウロ将軍には、人間の品性が足りないと考える。

 

「どうなされました? 中将閣下」

 

「どうされただと? 艦が急に進路を変更したと思ったら、貴様ァ、ここで降りるだと? ガニメデはティディス要塞まで直行してもらう! 私の着任式に間に合わんだろうが!!」

 

「特務部の意向です」

 

「特務機関の青二才が! 貴様の階級を言ってみろ!!」

 

「特務部は女王陛下直属であります。閣下は女王陛下にご意見なさるので?」

 

「ぐむぅっ、貴様ァ! 顔は覚えたからな!」

 

「ハ、光栄であります! 閣下! 」

 

来た時と同じように荒々しくドアを閉める音を立て、嵐のように出て行く中将の後ろ姿に敬礼を送る。

 

「ーーイノシシ武者め」

 

バサバサと紙片が落ちる音。

後ろを振り返ると歩哨が背を向けて肩を震わせていた。

 

「面白いかね? さぁ、早く資料を拾い集めたまえ。それと、終わったら将軍のところまで伝令を頼む」

 

「ハッ! なんとお伝えすれば宜しいですか?」

 

「なぁに、そんなに複雑な用事じゃない。 艦載の羽搏き飛行機を一機貸し出して欲しい。そうすれば私は一人でインドに渡るから日程に遅滞は生じない。と言って欲しいのだ」




インド編に続く
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