神から神託を受けて大洪水を耐え凌ぎ、世界を再構築した『ノアの箱舟』伝説。旧約聖書にあるそのエピソードは寓話ではない。
世界各地の伝承に残る大洪水と、そのあとの再生。
古代メソポタミアのギルガメッシュ叙事詩には、天空神エンリルが増えすぎた人間の出す騒音に耐えられず大洪水を起こし、哀れに思った知恵の神エアが選ばれし少数の人に箱舟の建造技術を教えたという神話が残る。
大洪水と船、選ばれた少数の人々と文明の再興という物語は洋の東西を問わず、世界各地に見られる。
その中でもインドのプラーナ聖典に描かれている『少女ナウシカと十二番目の使徒』の神話は、一風変わっていたーー
◆◇◆◇
中央インド、アラート台地。標高3,000メートルの大地には、手つかずの希少な高山植物と天高く生い茂る巨大樹の森が広がる。
森の中は昼間だと言うのに真夜中のように暗い。
「本当にこんなところにあるのかね」
「十中八九、間違いないわ。少なくとも『タギー』の連中もそう考えているようだわ。じゃないと白昼堂々、観光名所で、戒律に違反してまで流血の伴う襲撃なんて考えないもの!! …ああ! ムカつく!! また蜘蛛の巣が髪の毛についたわっ!!!」
「首のところにクモがついているよ」
「キャーーーーーーッ! とって、とってぇ!! クモ嫌いなの!!!」
「意外と情けないのだね、クロエ?」
「都会育ちなのよ、NEW -YORK。 分かる? アナタは見た目インテリなのに全然平気そうね、さっきも蛇とか捕まえてたし」
「切れ者を演じなければスラム育ちの私は使い潰されて終わるだけだからね。有能なだけではなく、周囲にナメられない必要があったのだよ。サバイバルも含めてフィールドワーク、汚い仕事も色々こなしてきたのさ」
「へぇ、意外。温室育ちのお坊ちゃんだと思ってたのに。そんなに出世を急ぐのは、ラピュタに拘ってるのと何か関係しているの?」
「…そういうキミはどうなのかね? 遺跡探索なんて、遠く新大陸の新聞屋が興味を持つようなことではないと思うのだがね」
「アタシの父は…考古学者だったのよ、ラピュタリス専門のね。それもトンデモ電波系の。アノヒト、学会でこう言ったのよ
「ラピュタは定説で云われているような切り立った高所にあるというような紛い物の空中都市ではない! 実際に飛んでいたのだ! 」
ってね。変人扱いよ。ちょうどそのとき有名な冒険家が、飛行機で飛んでる時にラピュタを見つけたって騒いでたから結構話題になったんだけど、覚えてない? まあ、いいけど。 そのあと冒険家は突然引退して田舎に引っ込んじゃうし、新聞は面白おかしく脚色するし、父さんの晩年は道化じみてたわ。アタシもそんな父が嫌いで家を飛び出して一人で暮らしてたんだけど、ある日父が死んだって連絡が来てね。届いた遺品の中にラピュタリスに繋がる場所のことを書いたノートがあったってわけ」
「そうか。フランシス=ドレイク教授の娘なのか」
「知ってるの?」
「ラピュタリスを目指す者にとっては偉大な先達だよ、大した資料もないだろうに、あそこまで真実に近づいた研究者はドレイク教授だけさ。そうか、死んでしまったのか」
「何それ? 自分はなんでも知っているみたいな。アンタもラピュタが実際に空を飛んでたって思ってるの?」
「当然じゃないか。過去に存在した超文明の中で空を征したのはラピュタリスだけだよ! キミはラピュタ王の目の前で何を言うのかね」
「ハハハ…イかれてる…あ、褒めているのよ? ま、そんなことより、もうそろそろね。音立てないようにね、明かりも消して…」
◆◇◆◇
「ねぇ、サングラス外したら?」
「生まれつき目が弱くてね。暗い場所から明るい場所に急に出ると何も見えなくなるのだよ」
「だからってカメラ覗く時くらい…」
なんだか言っているが気にしないことにする。クロエから借りたカメラには望遠機能がついていて、遠くのものまでハッキリと見える。
「あの湖の底にあるのかね」
「そう、あのクシャナ女王がインドラの矢で薙ぎ払ったっていう伝説の工業都市ペジテが沈んでるの、このすり鉢状の盆地はインドラの矢で抉られたあとってわけ。残念ながら『タギー』の連中に先を越されたみたいだけど」
「あのターバンを巻いた連中が伝説のカーリー教団だというのかね」
「そうよ、まあ、千年前と同じかどうかは分かんないけど、少なくとも本人達はそう思っているでしょうね。襲撃者達も黄色いスカーフ持ってたでしょ?」
「む、奴等湖の中に潜り始めたぞ。潜水服なんてどこから手に入れたのかね」
「まあ、裕福な旅人や商人を選んで襲ってたっていうし、千年間も貯金してたんならなんだって買えるんでしょ。私達は別のルートから入るわよ」
「風の谷から?」
「そう、風の谷から!」
私は2つの失敗をした。
ラピュタ世界で世界大戦を設定してしまったこと。
フラップターを簡単に出してしまったこと。