雪国のTSぎんぎつね。   作:ARice アリス

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辿り着いたのは暖かなストーブに囲まれた静かな村役場

かれの一端が語られる


鏡写し、あなたの心音 私のみみとしっぽ

 

 

 

 

 

業務用の灯油ストーブと

 

叔父さんのデスクの上の一台のノートPCの作動音のみが

 

業務を終えたこの静かな室内の環境を物語っている

 

 

 

 

叔父さんはあの後ここでは寒いだろうからと、役所内へ招き、給湯室へと向かった

 

 

椅子に背を預けると

 

ぎし、と組み立て式のアルミ椅子がきしむ

 

 

叔父さんは『姉さん』と言っていた…あの言葉の意味はなんだったのか

 

 

 

 

 

暫く獣耳を弄っていると嗅覚が給湯室の何かに反応した

 

すると叔父さんが『ホットミルク』が入ったマグを両手に持ち現れた

 

 

 

 

叔父さんと座っているとそちらから話が始まった

 

 

「名前は、なんて言うのかな?」

 

岩掛(いわかけ) (すぐる)

 

やはりか、と少し俯き

 

 

「いつからその姿に?」

 

 

「…除雪車を炉端で待っていたら何かにぶつかって……」

 

 

「スグル、あのお守りは持っているね?」

 

 

はい、とぼろぼろになった、大切なお守りを叔父さんへ渡す

 

 

「これを見ても、ビックリしないで欲しい」

 

 

 

 

おじさんが手をかざすと、固く結ばれていた紐が緩み

 

 

だらん、と垂れた紐口を広げ

 

 

 

中身を逆さにひっくり返すと

 

 

 

 

 

 

  『サンドスター…?』

 

 

 

 

僅かに黒い虹色の宝石が現れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君のその姿は我が家に関係があることは確かだ」

 

 

息をのんだ叔父さんが持っていた資料を見せてくれた

 

それはこの地方の郷土資料で幾年経っているのか

茶色い歴史書をめくり、その頁を此方に向けた

 

ここだよ、と古い浮世絵に勇ましい人と獣耳の着物を着た女性が黒い一つ目の怪物と戦っている

そんな絵柄が古文と共に映し出されていた

 

 

「山奥のある処に人が行ったら帰ってこられない沼があり」

 

 

「当時この地域の地主と藩主は一大事業として山の開拓と

      暴れ竜とも呼ばれた山の奥地から続く大河の治水工事を行っていた」

 

「沼の周囲には立派な建材となる木が生い茂り

  河川を見渡す拠点としては良い場所にあった

   そんな沼があるならば確かめてみるしかあるまいと」

 

 

「ここらで一番の体格を持つ大男を連れ、村人十三人と探索へ向かった」

 

 

 

 

「暫く歩いていると横の草むらから物の怪の女性が現れ

 

  『これ以上先へは危ないからお戻りなさい』と呼びかけた

 

    大男は『物の怪め懲らしめてやる』と力任せに暴れました

 

    しかし女はひょい、ひょいと軽々と躱してゆきます

 

     男は苦し紛れに自分に相撲で買ったらその案を受け入れると言い」

 

 

「それを受け入れた獣の娘へと力自慢の大男は突っ込んでいくと

 

           直ぐさまひっくり返されてしまった」

 

「怒り狂った力自慢の大男は何度も何度もその物の怪に勝負を挑み

  数えるのも飽きた秋口のその頃に事は始まった」

 

 

 

 

 

「夜更けにどんどん

 と村の大男の家の戸を叩く音に男は起きると

    怪我をした姿で物の怪の女性は現れた」

 

「あなたに悪い妖怪を倒してもらいたい、でなければこの村が危ないのです、と」

 

「すると男は怖気づきお前をそこまで追い詰める奴に歯が立つものかと言い放った」

 

「物の怪は暁に私が妻になり、『貴女に幸運をもたらしますから、どうか』とせがんだ」

 

「男は今までの勝手に付き合った彼女に詫びの形として僅かに悩み、肯いた」

 

 

 

 

「満月の夜、月明りに沿い歩いていくとすぐに沼に着いた

 

 

     そこには黒く瘴気を放つ汚泥のような沼があった」

 

「その周囲にはたくさんの一つ目の上半牛下半人の

      一つ目の怪物が棍棒を持ち待ち受けていた」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして、これをどうやって倒したのかはページが無い」

 

 

 

 

 

あとは結末だけ

 

「そうして、獣の妻は清らかな湧き泉の傍に腰かけ

 

   娘と息子を残し、夫と共に岩になった」

 

 

 

「獣の、娘?」

 

 

 

 

「今の君の姿は完全にそれだ」

 

叔父さんは困り眉で肩をすくめた

 

「こっちの資料には沼は冥界へ続く門だった、こっちには……」

 

「ま、姿はどうあれ。この夜は今日中には終わるよ」

 

 

おじさんはニッと笑うと力を抜くように肩を落とした

 

 

「明日には元の姿に戻っているよ」

 

何の根拠があるのだろうか…と思った

 

でも何度聞いても『大丈夫だから』『問題ない』の一辺倒だった

 

先程のお守りのことと言いおじさんも何か特別な力があるのだろうか

 

 

すっかり冷めたホットミルクを飲むと叔父さんが家まで車で送ってくれた

 

叔父さんも 同類 (オタク気質)なので「それよりお風呂!って言ってみ」とか弄られたが

 

 

ここまでの経緯を話すうちに

自販機のあたりの話をすると叔父さんはちょっと苦笑いしていた

 

 

家の前で叔父さんが俺の写真を撮っていた

 

 

 

 

「明日、学校だよね?」

 

 

 

「大丈夫、村の人もクラスメイトも分かってくれると思う」

 

 

「制服はすぐには用意できないから」

 

 

「明日の朝には登校用のバスが来るから」

 

 

などと言い残し、車でどこかへ行ってしまった

 

 

すっかり疲れたので装備諸々整備や洗いを行い元の身長と比べキングサイズとなったベッドに倒れこんだ

 

小さい身体って結構便利

 

しかし仰向けだと「あ、尻尾痛い」とうつぶせで眠ってしまった

 

 

 

………

 

 

――――

 

 

ベーコンの匂い

 

 

 

あ、…あさ…?

 

………

 

 

 

スマホのアラーム音が鳴り響く

 

 

 

いつも通り棚に置いてあるスマホを取ろうと腕はブンブン、とベッドの上で宙を舞う

 

 

 

 

「うっるさーーーーいっ!」と甲高い声が鳴る

 

 

黒っぽい袖……

 

ぺたんと座った下を見てもご立派な双丘が

 

 

 

うん

 

 

「朝ごはん出来てるよ」

 

 

 

叔父さん、そういうことか

 

 

「ギンギツネのままだ、わー……」

 

 

 

モフモフのしっぽを見てがっくりと肩を落とした

 

 

 

 

 




後にまた前話とおかしな点などを編集します

2018.8/22 22.30 微編集

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