初めまして、かこんばんは。今回は東京を練り歩いているときに思いついた小説です。不定期更新です。
慣れない三人称ですが、どうぞ!
「お嬢様!! 今度はどの殺し屋を雇ったんですか!?」
「あら、早かったわね」
「パソコンの履歴に検索結果を残して!! それをわざわざ私にLINEで送りましたよね!?」
「ええ。今回は殺し屋ランク1000分の332位、サード階級の「ミッシング」よ。仕事が早いらしいから、じゃあ早めに伝えなきゃ、ってね」
「……サード階級……」
「ふふふ、上位よ。依頼者は私で、名前は伏せたわ。ターゲットも、わ・た・し」
「お嬢様」
「どうしたの、護衛」
「そろそろ自分で自分を殺すように殺し屋に頼むの、やめてくれません?」
「嫌よ。だって私、護衛の困る姿が大好きなんだもの」
☆☆☆
護衛の朝は早い。
とある貴族の大豪邸に住み込みで働いている護衛。彼は朝五時に起床し、まず豪邸の見回りを行う。その際に忘れてはならないのが、物音を立てないことだ。
侵入者もそうだが、護衛とは雇い主を守る事を目的とする。
守る、以外の干渉は基本的にしてはらない。故に主の睡眠を妨害するような事はタブーの一つである。
護衛の彼は右手に
「……ああ、辛い……辞めたい……農家してえ……」
護衛は疲れていた。
毎朝毎朝早い。保護対象に付き添うがために夜は遅い。睡眠時間はあまりとれず、そして主が暴君のため仕事は増え続ける。本来やらなくていい仕事――――――洗濯、料理、掃除は本職の執事とメイドに混じってやる始末。もう手順は全て覚えていた。
そして、一番厄介なのは護衛の主、お嬢様の『楽しみ』だ。
今日も今日とて、彼は『楽しみ』に巻き込まれる。
「殺し屋、異名は「ミッシング」。姿と凶器を全く見せない事からこの名が付いた。ふーん」
護衛は昨日、件のお嬢様に殺し屋の事を話された。今持っている紙は、その情報をネットから印刷したものだ。
「案としてはピアノ線とか小型ナイフ、毒とかでも凶器は見つけにくい、か。後は遠距離射撃……は銃弾が残る。姿を見せないって事は逃げるのが上手いのかな」
護衛はプリントを丁寧に折りたたみ、内ポケットにしまい入れた。その後数歩歩き、立ち止まり、
「……まあ、一番良いのは後が残らない殺しか。いや、死体なけりゃ分からねえな。死体も消えてるから「ミッシング」なのかな? ……つまりは血を残さず、それでいて即効性のあるもの」
ぼそぼそと呟きながら、護衛は黒スーツの左袖からバタフライナイフを展開した。カチャン!! と鳴り響いた金属音が鳴りやむ前に、護衛は背後へナイフを振りぬく。
同時に弾かれたのは、闇に潜む黒塗りの針。
恐らくはその先端部分に凄まじい毒が塗ってるのだろう。護衛は瞬時に判断するや否や、闇の中へとナイフを投擲。
暗い廊下に、くぐもった声が響く。何かが落ちる音も聞こえ、同時に護衛は走り出していた。
ナイフは当たっていた。護衛の視線の先、さっきまで護衛自身しかいなかった廊下に居たのは、腹部にささった
バタフライナイフを抜こうとしている男。その足元には吹き矢の筒が転がっていた。
「全身黒ずくめで闇に紛れ、黒い針を吹き矢で撃つ。毒殺の後に死体を移動させ、誰にも発見させなくする。……こんなところか。なあ、「ミッシング」」
冷静。
淡々と相手の殺し方を全て暴きながら、護衛はミッシングの足を引っかける。物理法則に従う男の体へ、彼は踵落としを打ち込んだ。
ダアン! と地面に体を叩き付けて、ミッシングは動かなくなる。
護衛はバタフライナイフを抜こうとし、抜いたらミッシングが失血死することに気づき、伸ばした左手をポケットに入れた。そのままスマホを取り出して、彼は早朝帯にコールする。
相手は豪邸の主。6コール程で出た豪邸の主は、無論寝起きだった。
『もしもし、護衛君』
「早朝の無礼をお許し下さい、ご主人様」
『いや、いい。……そのう、また娘がやったのか……?』
「……えっと、はい……」
『……すまんな。警察は呼んだよ、もう』
「……大丈夫です。あと、ありがとうございます。私はここに残って見張っていますね。場所は西塔、三階廊下です」
申し訳なさそうな豪邸の主に同情しつつ、通話を終わらせる。あと数分もすれば聞こえるであろうサイレンに思いを馳せながら、今日の朝食に頭を抱えた。
ああ、今日も我が主、お嬢様は目を輝かせているのだろう――――と。
護衛は苦難する。戦いの様子に胸を躍らせ、殺し屋のあらゆる殺し方に思考を巡らせているお嬢様に。
お嬢様は一つ、とてつもない趣味を持っていた。
最初に殺し屋を探し。
名前を隠して依頼し。
その情報は俺に来て。
俺が何とか捕まえる。
その一連の流れを楽しむ。それがお嬢様の趣味であり『楽しみ』だ。
そして、何よりも厄介なのは―――――――
殺しのターゲットを。
自分自身……「お嬢様」、に指定することである。
故に護衛は仕事を全うするため、お嬢様を守らなければならない。深夜も早朝も休憩時間も食事時もお風呂もトイレも気を抜けない。殺し屋ランクが高ければ高いほど彼はお嬢様から離れられない。
はて、護衛はいつ、安らかな時を過ごせるのだろうか。
それは何故か、護衛が一番知らないのであった。