あと、気が付いたらUAが激増(※当社比)していてビビりました。
このような駄物語を読んでいただき、本当にありがとうございます。
鈴の上げた悲鳴によって、一年生のフロアではちょっとした騒ぎになった。原因がジルードの正体を見たこととわかり事態はすぐに収束したのだが、よほど驚いたのだろうか、鈴はジルードを完全に警戒するようになった。
「ジルードさんを見て悲鳴を上げるなんて、失礼な方ですわね」
ジルードの怒った姿を見たクラスメイトたちは、同じく鈴に対して良い印象は抱かなかった。そして昼休みとなった現在、屋上でセシリアがジルードの制服の破れた部分を縫い、その隣では何故か一夏が申し訳なさそうにしていた。
「悪い、ジルード。鈴も良いやつなんだけど……」
「まぁ、私も少し頭に血が上ってしまった。仲良くできると良いのだが……」
ジルードもジルードで、どうしてあの場面で怒りを露わにしてしまったのかを悔いていた。ドラゴニアの長老たちからの教育で、感情を抑制する方法などはみっちり教えられたはずだった。
原因は一つ。精神的ストレスが溜まっていたことである。正体が知られてからというもの、学園中の生徒がジルードのもとに詰めかけている状態。それらに気を遣いつつ、勝手のわからない人間世界のことも大量に吸収しなくてはならない。そういった状況下では、普通の人間でも辟易するであろう。
「その……ちょっと良いだろうか?」
そこで手を上げたのは、篠ノ之箒。篠ノ之束の実の妹であり、一夏の幼馴染である。今までジルードと話したことすらないのだが、何故か今日は一夏についてきていた。
ただ、ジルードは束アレルギーになりかけているため、篠ノ之という苗字を聞いただけで心臓の鼓動のリズムが狂う。顔にこそ出さないが、内心箒にも苦手意識があるジルードだが、箒はそのことには気づかない。
「その……実は……」
「どうしたんだ? らしくないぞ、箒」
「う、うるさい!」
一夏の言葉に反論し、ゴホンと咳払いをする箒。その頬は少しだけ赤みがさしており、手をせわしなく動かしている。
「その、だな。お前の…は、羽を……さ、触らせて欲しい、のだが……」
なんとも可愛らしい要望に、一夏やセシリアは思わず吹き出した。しかし、ジルードは小さく息を吐き、微笑んで見せた。
「それくらいのことなら」
そういって翼を広げる。箒への苦手意識はあるが、箒は箒、束は束。そう割り切ることにした。
箒はジルードの翼を見て、感動したような息を漏らすと、恐る恐る触れた。表面はゴツゴツしており、少し力を入れても指が沈み込まない。それだけの固さがあることもわかる。撫でてみると、かなり荒いおろし金のような感触が手に広がる。だが、それほど鋭利ではないようで、この翼で擦られても怪我はしないだろう。また、翼の大きさは片方だけで箒の大きさを優に超えており、二、三人程度なら翼で覆うこともできるかもしれない。
箒もジルードの正体を知っていたし、今日の朝の一件も間近で見ていた。だがこうして見て、改めてジルードが人間でないこと、人間に似た人間以外の種族がいることを実感した。
「その、すまない」
満足したのか、箒はジルードの翼から手を離した。
「触った感想はどうだ?」
「なんというか、本当に人間ではない、ということを思い知らされたというか……あぁ、決して悪い意味ではなくてだな」
「分かっている」
ジルードは翼を収納し、箒に笑みを見せた。
「あ、ここにいたんだ」
屋上のドアを開けて入ってきたのはエシュリー。一人のようで、手には購買の袋がある。
エシュリーは初めに渡された制服に関して、胸のあたりが合わないとして新しい制服を用意してもらっていた。だが、初めに渡した制服がバストサイズを考慮した上での最大サイズ。よって、完全にオーダーメイドとなっているのだが、エシュリー本人はそれがどれほど大変なことなのかは分かっていない。
「それで、これが購買のおばちゃんのおすすめだって」
「ほう、美味そうだな」
エシュリーも昼食に加わり、人外二人が揃った屋上。エシュリーは購買で買ってきたクリームパンを見せながら、小さな口でかぶりつく。
ふわふわの生地は決して口内の水分を無駄に吸収せず、間に挟まれていたクリームは甘いのだが、それほど甘すぎず、それでいて舌触りも滑らか。クリームパンというものを初めて食べたエシュリーでも、このクリームパンが市場に出回っているものよりも美味しいことははっきりとわかった。
「おいひぃ〜♡」
「へぇ、それってそんなに美味しいんだな」
これ以上になく美味しそうに食べているせいで、それがとても美味しいものに見えて来る。普段から食堂を利用している一夏と箒も、今度から購買もいいかもしれないと思ったのだった。
「ほら、あ〜ん」
「……ん?」
エシュリーが食べかけのクリームパンをジルードの口元へやる。その行為が一体どういうものなのかを理解していないジルードには、疑問しかなかった。
「ほら、あ〜ん」
「いや、それはお前のだろう? エシュリー」
「ホラ、美味しいから。あ〜ん♪」
「………」
どう対応すべきか、ジルードは困り果てた。何をどうしたらそんな考えになるのかを。
ドラゴニアでは、人に物を食べさせることはない。自分の手に取った物は必ず自分で食べる。それが基本であったのだ。
「食べろと?」
「うん!」
「一夏。お呼びだそうだ」
「え、俺?」
「ちーがーうー! ジルに食べて欲しいの!」
グイ、とジルードの口にクリームパンが押し当てられる。ここまでされては食べないと収まらないと判断したジルードは、気恥ずかしさを感じながら、小さく一口。
「……美味いな」
「でしょ?」
確かにクリームパンは美味しい。パンという物をまともに食べたことのないジルードにとっては不思議な物ではあったのだが、恥ずかしすぎてそれどころではない。ジルードは今までにないほど顔を真っ赤にし、誰とも視線を合わさないように顔を背ける。今日は例外だが、普段から落ち着いた大人といった印象を抱かれているジルードのレアな姿に、エシュリーだけでなく、セシリアや箒も脳を揺さぶられるような感覚に陥った。一夏も驚いて、飲んでいたお茶でむせかえってしまった。
「か、可愛い………」
「こ、こんな不意打ち、卑怯ですわ……」
「………」
それぞれが感想を述べ、箒に至っては深呼吸して己を沈めている。もしこんな現場を鈴に見られようものなら、朝よりも激しい罵倒が飛んでくることであろう。そんなことを思いながら、中々冷めない顔の温度に、若干の心地よさを感じているジルードであった。