クラス代表によるトーナメント戦。見事トーナメントで優勝した場合、学食で使用できるスイーツ無料券一年間分がプレゼントされる。
「ジルード君! 絶対優勝してよね!」
「優勝したら奢って〜」
など、多大なる期待がジルードに寄せられるのだが、問題がある。
クラス代表決定戦の際に破損したリムドブルムが、まだ戻ってきていない。千冬を通して束に渡すという手はずになっており、千冬からジルードの方に、束に渡したことは報告されている。にもかかわらず、未だに連絡がなく、トーナメント開始は明日。
しかも、一回戦の一戦目。相手は凰鈴音。少しだけ気が重いが、そうも言っていられないということで、ジルードは束に連絡してみた。
『あー、ドラゴンちゃん。遅くなっちゃってごめーんね♡』
「経過は?」
『うん、もう終わるところ。ちーちゃんに渡しておくから、受け取っておいてねー』
「ああ」
束らしからぬ、用件だけしか話さない通話に違和感を感じながらも、本番に間に合うことがわかって、少しだけ安心できた。
「あ」
「ん?」
部屋に戻ろうとしたジルードは、曲がり角でばったり鈴に出会った。あの朝の一件以来、鈴は意図的にジルードを避けていた。ジルードも避けてこそいなかったが、どうも気まずさから距離を詰めることはしなかった。そのため、こうして目が合ってしまったことで、お互いに無視できない状態となったことに、途方もない気まずさを感じていた。
「あ、あぁ〜………その、お、おはよう」
「あ、ああ……」
鈴は女たらしだの化け物などと言ったことを気にしており、夕日が沈みかけている時間帯にもかかわらずおはようなどと言い出す。ジルードはジルードで、小娘だの何だのと言ったことを気にしている。
そこからお互いに黙り込んで三分ほど。しびれを切らしたように鈴が頭を下げた。
「ごめん! 何にも知らないのに、あんなこと言っちゃって……」
「こっちも、いきなりあんな姿を見せて驚かせてしまった。すまない」
ジルードが人間でないことや、その上でとても素晴らしい人物であることを、クラスメイトから聞いた鈴。何故人間の形をした人間でない者を受け入れられるのか疑問に思っていた鈴だが、遠目にジルードを観察していると、なんとなくその理由がわかった。
あれはどう見ても普通の人間。ちょっと翼が生えてるだけでの、普通の人間。それが、この数日における、鈴からのジルードの評価であった。
「その……明日、試合出るんでしょ?」
「ああ。ISの方も間に合うようだし、棄権なんて真似はしない」
「そう」
ひとまずは安心といった表情を浮かべる鈴。これで少しは償いができると、心の中で思っていた。
「じゃあさ。明日の試合、アンタが勝ったら何でも言うこと聞いてあげる」
「……何を言っている?」
もし人間相手にそんなことを言えば、淫猥な妄想をするかもしれない。しかしジルードはその手の話など知らないため、意味がわからない。
もちろん、鈴もそのようなことを考えてこんな約束をしているわけではない。
「いや、もちろん出来ることと出来ないことはあるから、その辺は勘弁してよね」
「……わかった。では、そっちが勝てば、私が言うことを聞こう。でないと平等ではなかろう」
「へぇ……男らしい部分もあるじゃない。見直したわ」
鈴は感心したように言うと、くるりと背中を向けた。その際、長めのツインテールもくるりと動き、その髪のしなやかさを強調しているように見えた。
「ま、言うこと言ったし、明日は正々堂々戦おうじゃない!」
「ああ。全力での戦闘、期待している」
そのままスタスタと自分の部屋に向かって歩き出す鈴。ジルードも早く休むために部屋に戻るのであった。
そして、迎えた本番。リムドブルムを千冬から受け取り、意識を集中させる。
『久しぶりね。ご主人様♪』
リムドブルムも持ち主の元に帰ることができて嬉しいのか、少し声が弾んでいる。
「随分かかったな」
『ええ。私たちISって、物理的に壊れると面倒らしくてね。ウサギさんが一生懸命に修復してくれたわ』
「調子はどうだ?」
『え? ……ふふ♪ 機械に調子を聞くなんて可笑しな人。でもまぁ、問題はないわ。武装に関しても前回と同じ。特に変更点はないわよ』
「了解した。でも、翼を出すのはやめておく。また壊れると申し訳ない」
『それは、あのウサギさんに対してかしら?』
「お前に対してに決まってるだろう」
ISには自我が存在するとは言われているものの、それを証明できていない。これだけ流暢に会話が出来ると知られれば、世界中から注目されることになる。
「さて、そろそろ時間のようだ」
『さぁ、空で舞い踊りましょう』
リムドブルムの全身を展開する。その間は僅か0.2秒。元々から設置されている監視カメラの映像を見ていた用務員が度肝を抜かれていたことに気づくはずもなかった。
会場では大歓声。臙脂色のフルアーマーのISは、既に『ドラゴン用のIS』と言われていた。対する鈴は、短い期間で中国の代表候補生にまでなり得る天才肌の持ち主。その実力は割と知れ渡っていたらしく、鈴に対しても歓声が上がる。
「それがアンタのIS?」
「ああ。リムドブルムって機体だ」
見せつけるように六つのウィングを点滅させる。それを相手にとって不足なしと判断したのか、鈴は不敵な笑みを浮かべた。
「私の機体は甲龍。結構強いから、覚悟しなさい!」
試合開始の合図が鳴り響き、お互いに急接近した。
「「はぁぁああ!!」」
ハルバードと青龍刀がぶつかり、けたたましい金属音が爆発する。ジルードのハルバードはISの武装の中でもトップクラスの重量を誇るのだが、鈴の双天牙月も結構な重さがある。それだけでなく、ウィングのブーストで押し返している。
「舐めるなぁぁ!」
鈴は双天牙月を中心で分割し、二刀流となる。ハルバードを防ぎつつ、もう片方の手でジルードへ攻撃。だがそれを後ろに飛ぶことで回避、お返しと言わんばかりに再びハルバードで斬りかかる。
「くぅうっ」
予想外の重さに押される鈴。ジルードは動きが止まったところで鈴の腕を掴み、攻撃できないようにする。そして、ゲイルウィングを展開する。発生する強力な衝撃波をモロに食らった鈴は、甲龍のシールドエネルギーが激減していくのを見て、両肩に設置している砲台である龍咆を乱射することで、ジルードの手から逃れ、一気に距離をとった。
「嘘でしょ……」
残りのシールドエネルギーを確認する鈴だが、一気に三割ほど持って行かれた。開始一分も経たないうちにここまでやられるのは初めての経験である。故に焦りが先行し、龍咆を乱発し、ジルードの接近を防ごうとする。今度はセルーションを展開したジルードが龍咆を防ぎながら鈴との距離を詰める。龍咆は衝撃波を撃ち出すために弾丸が見えない。躱すのは至難の技かもしれないが、弾道が曲がったりすることがない。防ぐことの出来る盾があれば、最短ルートで距離を詰めることが可能である。
『相手の基本的な武装は、あの青龍刀と今乱射してる砲台くらいかしら?』
「油断はできん。このまま盾で突撃する」
一方、ジルードはリムドブルムのサポートを受けながら的確に対処していた。
『このまま真正面から突っ込むつもり?』
「体当たりをする。もしくはまた掴んでゲイルウィングか」
取り乱すことはない。的確な情報提供をしながら、こうした相談事もこなしてくれるため、ジルードは気負うことなくこの戦いに臨んでいる。ISの自我。誰もが存在を確信している者がこうも素晴らしいとは。ジルードは心の中でリムドブルムへの感謝を述べながら、ウィングの出力を急上昇させて鈴に接近した。
自他共に認めるほど、鈴が劣勢である。試合を見ている一夏やセシリア、箒もジルードの勝利を確信している。その時だった。
「っ!?」
ジルードのドラゴニアとしての感知能力が、視線を上空に向かわせた。そこには落下してくる黒い物体があり、アリーナに張られているバリアに激突し、アリーナ内部に侵入してきた。
「な、何よあれ!」
落下地点は鈴の目の前。影は動き出すと、その腕に備え付けられた銃口を鈴に向け、無慈悲にも発射した。
「がっ……!」
アーマーの無い部分、もっと正確に言うなら顔面にレーザーが直撃。砕けるような音と共に、鈴の体が吹っ飛ばされた。
「鈴!」
ジルードは盾を投げ捨て、一目散に鈴の体を受け止める。呼吸はしているものの、意識が朦朧としており、頭からも血が出ている。
その間も、影は容赦なくレーザーを撃ち続ける。なんとか躱しているものの、スピードを出し過ぎればISを纏っていない鈴に負担がかかってしまう。なんとか避難できる場所はないかと探すのだが、客席とアリーナの間に重厚なシールドが展開され、観客席の状態が見えなくなった。これでは一夏やセシリアの援軍も見込めないと判断したジルードに、千冬から通信が入った。
『聞こえるか、レイヴァン』
「はい」
『正体不明のISが侵入した。こちらも対処しようと思ったのだが、セキュリティレベルが上がりすぎた結果、教師陣が出動できない事態に陥っている。時間はかかるだろうが、どうか持ちこたえてくれ』
「了解しました。鈴が負傷しましたが、どうしたら?」
『……安全な場所に、と言いたいところだが、相手に追撃されるのが目に見えている。守れるか?』
「約束します」
『分かった……無茶はするなよ』
千冬はそれだけ言って、通信を切った。
侵入してきたISは、その間は何もせずにただ佇んでいる。
「……すまない。リムドブルム」
ジルードは自身の翼を展開すると、鈴の命を第一に動き始めた。