それはそうと、UAが2000を超えてびっくりです。この話を読んでくださった読者の皆様、本当にありがとうございます。
次回からオリキャラの設定について、前書きや後書きで記述するかもしれません。
たった一撃で甲龍のシールドエネルギーの六割を持って行った、正体不明のIS。今はその乱射されるビームライフルを躱して時間を稼ぐ。
本当ならここでシャウトを使って、時空の減速を行ないたいところではあるが、シャウトを使うために集中力が必要となる。敵の激しい攻撃を躱しながら鈴を守る。そんな中で他に集中力が回せる余裕など、あるわけがなかった。
『っ……ちょっと苦しくなってきたわね』
「辛いなら、今すぐ翼を引っ込めるが?」
『そうは言ってられないでしょ? 大事なお姫様も居るんだから、しっかり守りなさい』
「……ああ」
ジルードの翼とリムドブルムのウィングを併用したことで、やはり機体に相当な負担がかかっているらしく、時折リムドブルムの苦しそうな声が聞こえる。しかし、併用することで上昇したスピードでなんとか攻撃を躱せている状態。少しでも減速すれば直撃はせずとも痛手を負うことは間違いない。無防備な鈴に当たることだけは避けなければならない。
「やるしかないか……」
時間を稼ぐと言っても、どれくらい稼げば良いのかは不明。相手の行動パターンも不明。鈴も放っておけば後遺症が残るような怪我かもしれない。リムドブルムもどれくらい持つか分からない。
敵を撃墜するか、逃げ続けるか。どちらもリスクしかない。それをわかっているからこそ、終わりの見える前者を選んだ。
「なぁ、リムドブルム」
『……止めはしないわ。だけど、貴方や私の命だけじゃない。その娘の命もかかってるんだから』
「承知している。要は、鈴を守って相手を撃墜すればいい。それができる武装がある」
リムドブルムに搭載されている、高火力武装であるノヴァ・カノン。確かに威力は凄まじく、敵に当たれば撃墜できる可能性は高い。しかし、ウィングに供給しているエネルギーをチャージに回すため、飛行ができなくなる。そんな状態では相手の攻撃を躱せない。それに、自身がほとんど動けない状態で相手に直撃させることができるかも分からない。
「勝算はある。掛け金は、私の翼だ」
翼を大きくはためかせ、今までにないスピードで相手に接近する。鈴への負担を減らすためにしっかりと抱きしめ、真正面からのレーザーをまともに受ける。
「ぐっ…!」
ISを使用している際には、絶対防御が機能するはず。だが、ジルードの翼には機能しないようで、ビームが当たった部分に赤い染みが広がる。それでもスピードを落とすことなく接近し、もうすぐ手の届く距離にまで詰めた。しかし、その距離になって相手の胴体部に巨大なレーザー砲が展開され、既にチャージも済まされている。
この距離で受ければ、確実に重症を負う。
翼は人間に存在はしないが、痛みもある。捥がれることがあれば、手足を捥がれた時と同じくらいの痛みがある。しかし、ジルードの動きを止めたのはそれが理由ではない。もしここで下手なことをすれば、鈴が死ぬ。それだけは避けなければならない。
翼を自身に巻き付けるようにして動かし、絶対防御のない鈴を守る。その間、ノヴァ・カノンのチャージを開始し、ウィングの機能が低下する。飛行が不能となり、移動するには自分の足しかない。
『来るわよ!』
膨大なエネルギーを感知したリムドブルムが警告し、ジルードは身構える。直後、翼にとんでもない衝撃が伝わってきた。
「がぁぁあああああああ!!!」
途方もない痛みが、ジルードの脳髄を蝕む。それに抵抗するように大声をあげ、鈴を力一杯抱きしめる。途方もない痛みに耐えながら、一歩、また一歩と前に出る。
当然、翼だけでなくリムドブルムの方にもダメージは入っており、シールドエネルギーが凄まじい勢いで減少していく。
『もう、持たないわよっ』
「わかっている!!」
その前に自分の翼が破壊される。その確信があったジルードは、足を前に動かす。もうなりふり構っていられない。そう思っていた時だった。
「ジルー!!」
急に聞こえた叫び声。それはジルードの出てきたピットから響いてきた。少しだけ翼をずらして見ると、エシュリーがいた。だが、ISは纏っておらず、制服姿のままである。そしてどこから持ってきたのか、矢を弓に番え、敵のISめがけて放った。
「………」
敵はジルードへの攻撃を止め、エシュリーの方を向く。瞬間、首にあたる部分に矢が直撃する。当然のことながらに傷をつけることすら出来なかったが、それによって敵のターゲットはジルードからエシュリーに変更され、飛行を始めた。
敵の猛攻から解放されたジルードは、腕の中にいる鈴の状態を確認する。特に別状はないが、依然として意識が戻らない。
翼を見ると、表面が血で真っ赤になっている。空気に触れるだけで痛みが広がり、これ以上の戦闘を避けたいという気持ちが心に湧く。だが、エシュリーは生身で戦おうとしている光景が、その考えをねじ伏せさせた。
「リムドブルム。あと少しだけ、力を貸して欲しい」
『いいわ。ノヴァ・カノンもチャージが途中だから、もうすぐ撃てるわよ』
「……ありがとう」
ジルードは礼を言って、鈴をフィールドの壁のすぐ近くにそっと寝かせた。
『ここから真っ直ぐ敵を狙うわよ。何があってもお姫様は守りなさい』
「心得た」
ウィングのエネルギーを再び胴体部のノヴァ・カノンに集中させる。その間、エシュリーは生身ながらも敵の攻撃を躱していた。その身のこなしは人間のそれを超越しているとも言える。ジルードは驚いたが、あの状態ならと、鈴を守ることに集中した。
『あと十秒』
敵のレーザーに対し、エシュリーは低い姿勢でのダッシュで的をずらして回避。追撃が来るも、体をよじることで紙一重の回避。
『あと五秒』
だが、エシュリーが履いているのは、学園指定のローファー。激しい動きに対応するには些か役不足である。ローファーの靴底がこの数秒で磨耗し、中敷すらも摩擦によって溶けていた。
『あと二秒』
エシュリーの表情が険しいものになる。ローファーの底が完全に消滅し、裸足と同等になる。そんな状態で砂地をとんでもない速さで動くのは、拷問を受けているような痛みを伴う。
『あと一秒』
それでもエシュリーは止まらない。足の裏からの出血で、フィールドに赤い線が描かれていく中で、彼女は果敢に敵と対峙し続ける。
『今よ!』
ノヴァ・カノンのチャージが終了すると同時に、ジルードは再びウィングにエネルギーを満たす。これでいつでも撃つことができるが、相手が接近しないと当たる可能性は低い。
「エシュリー!! 敵をこっちにおびき寄せろ!!」
「わかった!」
ジルードを信じ、エシュリーは駆け出す。放たれるレーザーを掻い潜り、途中で転びそうになったところをジルードが受け止めた。
「下がれ!」
エシュリーを投げるように背後にやると、飛んできたレーザーを諸に受ける。翼はさらに傷つき、傍目から見てもボロボロである。だが、ジルードは一歩も動かずにレーザーを受け続ける。
「ジル!」
ジルードを助けようとエシュリーが立ち上がるも、足は既に限界を迎えていたために、真っ直ぐ立つことができない。
ジルードは、敵の行動パターンを完全に見破っていた。逃げ回っている最中、攻撃してくる時としてこない時の差を考えると、敵対行動、すなわち武器を出したりするとターゲットとして認識される。一方で、敵対行動をしなければただの物体として扱われる。今は完全にエシュリーがターゲットになっており、物体として扱われているジルードは、ターゲットになり得ない。しかし、背後にエシュリーがいることで、ジルードに攻撃が当たっている。
敵はエシュリーに攻撃しようとどんどん接近してくる。それこそ、確実に仕留めることのできる距離まで。
「逃さん」
隣を横切ろうとした敵を、ジルードの腕が敵の頭部を掴んだ。相当な力が込められているのか、メキリと音を立ててヒビが入った。敵は即座にジルードを敵と認識してレーザーを乱射し始めるが、ジルードは動くことなく体で受ける。シールドエネルギーも底をつきかけていた。
「ノヴァ・カノン、発射!」
『ノヴァ・カノン、発射!』
リムドブルムの胴体部が白く光り、エネルギーを極限まで圧縮したレーザーが放たれた。
☆
侵入してきたISの撃退には成功。死傷者も無しではあったが、軽傷者一名、重傷者二名。医務室のベッドで寝かされていた。
「大丈夫か?」
「なんとか……と言いたいところだが、今回ばかりはまともに動けんな……」
見舞いにきた一夏の言葉に、うつ伏せになっているジルードは弱弱しく答えた。隣では気を失っている鈴が寝かされており、エシュリーは足に包帯を巻いてすぐに自分の部屋に戻って行った。
ジルードの体には大量に包帯が巻き付けてあり、まだ微かに血が滲んでいる。それほどまでに翼に攻撃を受けたということではあるのだが、それでもこうして話すくらいの体力は残っている。
「ジルードさん!」
「無事か!?」
一足遅れて医務室に駆け込んできたのは、セシリアと箒。非常に慌てた様子でジルードに駆け寄ると、意識のある姿を見て安堵の息を漏らした。
「あぁ……良かった」
「あの出血量は尋常ではなかったが……ひとまずは安心か」
「そうだな。しばらくは動けんだろうが、命あるだけ幸運と言えるかもしれん」
ジルードは寝ている鈴を見て、少しだけ笑みを見せた。
「まぁ私は良いのだが、鈴が寝ている。今日はもう帰ったほうがいいかもしれないな」
「そう、だな」
一夏は少しだけ残念そうな表情を浮かべるも、すぐに切り替えてジルードに背中を向けた。
「じゃ、しっかり休んで早く学校来いよ」
「一応ここも学校の中なんだがな」
そうだった、とおどけたように言い、一夏は医務室から出て行った。
「では、わたくしも失礼いたしますわ。もし辛い時には、いつでも言ってくださいませ」
「わ、私もいるからな。……しっかり休むのだぞ」
セシリアも箒も医務室を後にし、遠くのカラスの鳴き声が聞こえるくらいに静かな空間になった。
「いつまで寝ているフリをしている?」
三分ほど静寂を堪能したジルードは、鈴に声をかけた。鈴はゆっくりと体にかけられていたシーツを退け、上体を起こした。
「バレてたんだ……」
「まぁ、意識が戻ったのなら良かった。外傷は特に無いらしいから、すぐに復帰できるだろう」
「そっか」
鈴は特に興味がなさそうに返事をする。頭の中では、先ほどの戦闘で覚えていることを反芻する。ジルードと全力で戦い、劣勢に追い込まれたこと。何かがアリーナに侵入したこと。目の前に落ちてきたそれが、自分に銃口を向ける。そこで記憶が途切れていた。
「ねぇ」
鈴は自分の予想を確かめるために、ジルードへ声をかけた。
「アンタ、私を助けたの?」
「……そう、だな。ISが解除された状態で放置するのは危険だったからな」
そう言って、ジルードは敵が侵入してきてからの動きを簡単に説明した。その内容に驚く鈴であったが、少なくともジルードが身を呈して守ってくれたことだけは理解した。そして、ジルードの背中の怪我はその時にできたものだということも。
「………」
「どうした?」
鈴の頭の中には、ぼんやりとではあるが、何かに抱きしめられた記憶らしきものがある。自分を抱きかかえながら重傷を負い、それでも相手を倒した。
その結論に至った時、鈴は自分の顔が熱くなるのを感じ、脳が沸騰しそうな感覚に襲われる。手で顔を抑えると、自分の手が冷たく感じる。
「あ、ああ、ありがと………」
「……ああ」
気まずい沈黙が広がる。ジルードも居心地が悪くなったのか、鈴から視線を逸らした。
「ところで、勝負の件はどうする?」
「あぁあれはノーカン! ノーカンよ!」
『勝負に負けたほうは、勝った方の言うことをなんでも聞く』という約束であるが、鈴は今になって、男子中学生のような淫猥な妄想が頭に浮かび上がってしまった。更に顔を真っ赤にしてノーカウントを主張する姿は、年相応の可愛らしさがあり、破壊力は抜群。ジルードでさえも顔を赤らめるほどであった。
「そ、それはそうと……アンタ、重傷なんでしょ? 自分で動ける?」
「動けるなら動きたい。そう思っているくらいだ」
ジルードの怪我は、人間ならもう死んでいるレベルである。それでも重傷で済んでいるのは、ドラゴニアの頑丈さがあったからである。
「じゃあさ……動けるようになるまでは、私が付いててあげる……う、動けるようになるまでだからねっ!」
鈴はそう言い放つと、シーツを勢い良く引きかぶって動こうとしなかった。
「ふぅ……」
うつ伏せの体勢では色々と息苦しくもあるのだが、贅沢は言ってられない。ジルードはおとなしく目を閉じて、寝ることに専念するのであった。