そんなことを思いながら、第3話です。
「で、では……転入生を紹介します……ね?」
一夏は無事に遅刻にならずに済み、ジルードも保健室のベッドで簡単な治療が施された。教師陣は何も言わなかったが、篠ノ之束が言葉の通りどうにかしたのであろう。
そして、治療を受けたジルードは何故かIS学園に入学することとなっており、制服を着せられて半強制的に教室に連れてこられていた。
そして、クラスは一夏と同じ一年一組。全員自己紹介が終わったタイミングで教室に放り込まれたジルードは戸惑ったが、変に慌てると不信感を持たれる。堂々と嘘偽りなく振舞っておけば、悪いようにはならないと考え、毅然とした態度でクラスメイトの方を見た。
「えーっと……フランスからやってきた、ジルード・レイヴァン君です」
フランス? と頭の中で疑問を抱いたジルードだが、とにかく自己紹介することにした。
「ジルード・レイヴァンだ。様々な部分で未熟ではあるが、どうか仲良くして欲しい」
クラスメイトは一夏を除いて全員女子。これなら伴侶を見つけるという使命を果たすことも可能かもしれない。そう言った意味で小さく笑みを浮かべたジルード。それによって、クラスの女子は黄色い歓声を上げた。
「お、織斑君だけじゃなくて、もう一人の男子!?」
「私、織斑君よりジルード君の方が好みかも……」
「数少ない男子が二人も……くはぁっ!」
何をそこまで感激するのか。未だに状況が飲み込めないジルードは、ただただ首を傾げるだけであった。
「貴様が、ジルード・レイヴァンか」
歓声が未だに上がり続ける中、黒のスーツに身を包んだ女性がジルードに話しかけた。
「はい」
「私は織斑千冬。このクラスの担任だ。どうやらお前は訳ありだそうだが、一切の贔屓はしない」
「そこは問題ありません。贔屓してもらっては、他の生徒に示しがつかないでしょうし」
「そう思ってくれると助かる」
これからある意味波乱の日常になるかもしれない。にもかかわらず、ジルードの心には少しばかりの期待が浮かび上がった。それは伴侶を見つけるという使命など関係なく、一人の人間として生きることへの期待であった。
☆
「よろしく頼む。一夏」
女子校に男子生徒が二人いる。そう言っても過言ではない状況下に置いて、一人ではなかったという安心感は一夏を感激させた。
「ああ。改めてよろしくな、ジルード」
先生が気を使ってくれたのか、本来なら席替えの日まで出席番号順に机が並んでいるはずだったのだが、最前列であるものの二人は隣になっていた。
ただ、ジルードは不安だった。ただでさえ人間社会のことは母親から断片的に聞いているだけに過ぎなかった。それがいきなり教育機関に放り込まれ、多数の人間と共同生活を行なうことになったのだ。それもこれも、今朝ジルードを上空から打ち落とした何かのせいである。表には出さないが、これからどうしたら良いのか分からずに焦っていた。
「一夏。俺は色々なことを知らなさ過ぎる身でな。生活の中でお前に頼ることが多いかもしれん」
「別に良いぜ。むしろ俺の方が頼るかもしれないけどな」
そう言って快活な笑みを見せてくれたことによって、ジルードの不安は少しだけ和らいだ。
「それで、ISに関する国際条約は………」
一限の授業が始まった。ただでさえ人間の常識を知らないジルードは、新たに教えられる知識に混乱しかけながらも必死にメモを取っていく。母親に日本語の読み書きも教わったが、いかんせん慣れが足りない。気づけば慣れ親しんだドラゴン文字でメモを取っていく。
対する一夏は、参考書を電話帳と間違えて捨てるという失態を晒し、今現在ノートを取っていない。話もそれほど理解している訳ではなく、聞いているだけである。
「と、言うことですが………織斑君とレイヴァン君は、大丈夫ですか?」
一通り説明をした一組の副担任、山田真耶。男子二人はIS学園に入学するために勉強してきた訳ではないため、ISに関する知識も浅いことは分かっている。そのためになるだけ丁寧に説明をし、現段階での理解度を調べるために聞いたのだが……
「「全然分かりません」」
その言葉は、山田先生の教師としての自信を少し削ったのだった。
本日分の授業が終わり、男子二人は山田先生に連れられて学生寮を案内されていた。
「学生寮では、基本的に二人一部屋となっています。男子は君たち丁度二人だから、同じ部屋になります」
案内されている間、ジルードは廊下や窓を見て感心していた。
もとより自然との調和を主体として生きていたドラゴニアの村では、木材だけで作る家がほとんどであった為に、コンクリートやリノリウムなどの見たこともない物質で作られている室内に興味が湧いた。
「なかなか綺麗な場所だ」
村から出てまだ十日と経っていないはずだが、もう結構前のことのように思える。特に今日が濃密過ぎたせいで、思考の整理が必要である。
「ここが、織村君たちの部屋になります。はい、これが部屋の鍵です。無くさないようにね」
学生寮の中でも端に近い場所が、二人にあてがわれた部屋。鍵を開けて入ると、机とベッドが二つずつ、簡易キッチン、クローゼットがあった。普通の人間ならこれだけでは足りないと文句を言いそうなところであるが、ジルードと一夏は山田先生に礼を言って部屋に入った。
「「ふぅ………」」
荷物を置くと、二人同時にベッドに寝転んだ。たった一日でこれだけの疲れが溜まる経験は、二人にとっても初めてのもの。これから慣れていけば良いかもしれないが、やはり学内での居心地は良いとは言えない。
「なぁ、ジルード」
「どうした?」
「ジルードって、何者なんだ?」
「………」
その疑問は最もである。今でこそクラスメイトとしてIS学園にいるが、元々は今朝の二人の遭遇が原因であった。その時に一夏はジルードの翼を目撃している。
「あー、いや、無理にとは言わないけど」
「……一夏。お前は伝説や神話を信じているか?」
「へ? あー……いや、まぁ……」
曖昧な笑みを浮かべてごまかした。実のところ、一夏はそういった話には疎い。見栄をはる意味もないと思ったがための行動であることが伝わったのか、ジルードは少しだけ表情を崩した。
「それは置いといて、だ。俺の背中から生えた羽を見ただろう? あれは、ドラゴニア……分かりやすく言うならドラゴンの血が混ざっている為に、私は翼を持っている」
人間は自分たちとは異なる者を排斥する習性がある。実際、ジルードの母も迫害を受けてドラゴニアの村に落ち延びたらしい。故に自分が人間でないことを知られたらどう思われるか心配だったが、共に暮らす者とのあいだに不必要に隠し事をしたくなかったジルードは、意を決して話したのだ。
だが、ジルードの心配はただの杞憂だったようで、
「カッコイイ! なんだよ、ドラゴンとの混血って! そんなファンタジーなことが本当にあるんだな!」
このように、新しい玩具を目の前にいた子供のように目を輝かせていた。
「か、かっこいい……?」
「ああ! まさかドラゴンに会えるなんてなぁ……テンション上がってきたー!」
予想外の反応に戸惑うジルードを余所に、一夏はただただドラゴンの素晴らしさや格好良さについて語っていた。