私「いや、忙しかったんだよ」
友人A「先週やることなくて暇だとか抜かしてたのはどこのどいつだ?」
私「あー……いや、まぁ、ちゃんとした理由がありまして」
友人A「あ?」
私「現在、インフルエンザにかかって死にかけです……主に頭痛で」
友人A「あー…うん……ご愁傷様」
リムドブルム。篠ノ之束からジルードに渡された、完全新作のIS。現在量産できるように研究が進められている第三世代のISとは若干の差異があるものの、基本機能は共通している。
武装は主に、ハルバード、ゲイルウィング、セルーション、ノヴァ・カノンの四つ。
ハルバードは、槍と斧が混ざったような武器で、全長は190cmと大きめに作られている。斧の刃が大きく重量があるため、扱いには慣れがいる。
ゲイルウィングは、背中に接続されている六つの翼からエネルギーを放出し、空気を激しく振動させることで衝撃波を形成する。範囲が狭いため攻撃には適さないが、防御という面では優秀。
セルーションは、見た目こそ大きな盾であるが、空いている穴から誘導レーザーを撃ち出す。レーザー自体の攻撃力は低いが、ゲイルウィングと同じく防御面で優秀。
ノヴァ・カノンは、ウィングに供給していたエネルギーを一部に集約し、高火力のレーザー砲を撃ち出す。ただ、チャージに時間がかかることと、チャージしている間は飛行ができないというデメリットがある。
「よくもまぁこんな物を……」
リムドブルムに関する事後処理を行なっていた千冬は、今日何度目になるかわからないため息を吐いた。篠ノ之束とは長い付き合いだが、やはり行動が読めないことも多い。今回に至っては、ただでさえ危ういIS事情を更にこじらせる可能性だってあるのだ。そして、人間でない種族のことも。
一夏がジルードと出会った日、ジルードに関することを束から聞いたのは千冬であった。『とにかく入学させろ』と脅迫に近い勢いで言われた時はどうしようかと思ったが、そこは世界一のIS操縦者としての威光で押し切ることができた。
もしジルードがISを使えないということになれば大問題であったが、これで一つの懸念は無くなる。だが同時に、ジルードの注目度をあげてしまい、人間でない種族の存在が明らかとなってしまう可能性が上昇する。千冬も初めは異種族のことを疑ったが、篠ノ之束は必要なことを言わないことはあっても、嘘は言わない人間であることをよく知っている。すなわち、ジルードがドラゴンかそれに類似する種族であることは本当である。
「………」
コーヒーを一口飲み、思考を整理する。早く事後処理を終わらせて寝よう。今も昔も、自分のために生きたことのない千冬は、ただそれだけを考えて仕事を再開した。
☆
ドラゴニアは不思議な力を持っている。それは『シャウト』と呼ばれるもので、一言で言うと魔法のようなものである。以前ジルードが使っていた、傷を癒したり周囲の時間を減速させたりしたのも、シャウトによるものである。だが、どれだけ力を持っているドラゴニアでも、そう何度もしようできるわけではない。個体差があるのだが、ジルードの場合、一日に一度しか使うことができない。
「まぁ、学園では使う機会はそれほどないと思うが」
ジルードは、ドラゴニアについて一夏に話していた。終始興味深そうに聞いているせいか、ジルードもスラスラと話すことができた。
「聞けば聞くほど人間とは違うって思い知らされるな………見た目とか翼出してなかったら人間にしか見えないし」
「私は人間の血が混ざってるからな。他の者はそうでもなかったりする。皮膚の色や質感も全然違う」
「へぇー」
「………どうして私があそこで空を飛んでいたのか、聞かないのか?」
「聞いてもいいなら、聞きたいな」
「……私は、生涯の伴侶を探しに来た。ドラゴニアには、もう未婚の女性はいない。私の母上が人間であることから、人間の伴侶を見つけ、ドラゴニアの血を存続させる。それが、私の使命だ」
使命。ジルードからすれば、個人にとっても種族にとっても重大なことであり、それなりの責任がある。だが、一夏はこの言葉に違和感を感じていた。
「なぁ、ジルード。伴侶ってことは結婚するってことだろ?」
「ああ。そういうことになるな」
「もしジルードが伴侶を見つけて結婚する。相手がジルードのことを本気で好きだった時、ジルードは使命のために結婚したってことになるよな?」
極論ではあるが、この時点で使命と言っているならば、使命のために伴侶と結婚するということになる可能性だって否めない。恋愛感情などなく、ドラゴニアの血を絶やさない為だけ。相手の思いを真っ向から踏み躙るような行為だろう。
言われて初めて気がついたのか、ジルードは何も言えずに俯いた。
「………」
「いや、別に怒ってるわけじゃなくてさ。ゆっくり探そうってことだ。時間はあるんだし、この人ならって女性を見つければいいじゃないか?」
「……随分、知ったようなことを言うな」
「あ、いや、俺はそういう経験はないけどさ……」
目を逸らしながら愛想笑いをする一夏であったが、ジルードは体を震わせ、次第に笑い声が部屋の中に響いた。
「な、なんかおかしいこと、言ったっけか?」
「いや何、まさか同年代の人間から諭されるとは思わなくてな」
再び声を上げて笑うジルードを、一夏は拗ねたように睨んだ。
「なんだよそれ」
「そうヘソを曲げるな。褒めてるのだから」
そうして一夏も一緒になって笑ったのだった。
☆
ISの中でも個人向けに作られたものは、本人を乗せた状態でのフィッティングが必須と言われる。フィッティングをしなくても問題なく起動・運用はできるのだが、操縦者にとっての使用感が全く違う。
ただ、フィッティングをするにはそれ相応の知識と技術を持った者に依頼する必要がある。だが、それをする前に試合当日が来てしまった。一夏に至っては今日ようやく専用のISが届いたということらしい。ジルードもあれ以来リムドブルムを起動していない。というより、起動する機会がなかった。故に、今日の試合はある意味絶望的である。
「では、クラス代表候補三名の試合について説明する」
アリーナの放送席に集められたジルード、一夏、セシリアは、千冬からクラス代表決定戦についての説明を始めた。
「今回は三名のうちから一名を選出する。形式は三角リーグ。織斑対オルコット、オルコット対レイヴァン、レイヴァン対織斑の順で試合を行なう。では、一試合目は二十分後に開始する」
それだけ言い渡され、各自準備に取り掛かった。
ジルードの出番は、一夏とセシリアの試合の後。それまで何もやることがない。世界初の男性IS操縦者ということで、学園中の生徒だけでなく、IS関連の企業の人間も来ている。そして、本人には知らされていないが、ジルードも世界で二人目の男性IS操縦者として世界中に名が知られるところとなっていた。
ただ、このまま客席に入ったのでは、色々と目立つだろう。そう考えたジルードは、アリーナの入り口から観客席への通路で立ったまま観戦することにした。
「IS対IS……どんなものか……」
世界初の男性IS操縦者の戦いが始まるのだった。