エシュリーを学園に連れて行き、今度は山田真耶先生が話をすることになった。山田先生もエルフについては知らされており、その入学を認めろというキチガイラビットの脅迫により、何事もなく入学が決定した。ISが使用できるかどうかの問題も、難なく打鉄を起動させた為に解決。
「ねぇ、ジル」
エシュリーは前を歩くジルードに声をかけた。
「どうした?」
「ありがとね。何も知らない私を助けてくれて」
振り返ると、エシュリーがはにかみながらお礼を言った。そのすがたが愛らしく、ジルードが顔を若干赤らめた。
「い、いや、同じ境遇の者として放っておけなくてな……」
「ふふ♪ それでも、ありがと♪」
今度は抱きついてきた。なるだけ意識はしないようにしていたジルードではあるが、おそらく100cmは超えているであろうそれが惜し気もなく押し付けられれば、嫌でも男の性が反応してしまう。それが健全であることは重々承知なのだが、この状況下で自分の思考に感づかれたくない。それはジルードの人としてのプライドがあるからである。
「そ、それより、制服はどうだ?」
「う〜ん……ちょっと胸がキツイかもしれないけど、それ以外は大丈夫」
先ほどの服でもそうであったが、制服を着ていても自己主張をやめてくれない胸には困りものである。ここまで大きいと、本来目立つはずの尖った耳に目がいかない。
「とりあえず、今日は学園は休みだから、人は少ないはずだ。今のうちに部屋に案内する」
「うん」
エシュリーの入学は明日に決まっていた。急変する出来事に目が回りそうな二人ではあるが、ここならやっていけるだろうとジルードは確信を持っていた。
そして問題の次の日。一年一組にエシュリーがやってきた。
「エシュリー・クロイラインって言います! よろしくお願いします!」
金色の髪を靡かせながら、勢い良く一礼。新たな転入生を迎えることは良かったのだが、問題はその後のエシュリーの行動。
「改めてよろしくね、ジル♪」
「あ、あぁ……」
そう言って、ジルードの近寄って手を差し出した。ジルードはと言うと、戸惑いつつも手を差し出し、エシュリーと握手を交わした。
「え、あの子の耳……エルフ?」
「ジルード君にもびっくりだけど……って、何よあの胸」
「自己主張が激しいとかそんなレベルじゃないわね……妬ましい」
クラスの女子たちはエルフの登場に驚いたが、それよりも胸に目が行っている。既にエルフがどうだのと誰も言っていない。異種族とは一体何だったのかと思える状況だが、それがこのIS学園一年一組というクラスである。
しかし問題は終わらない。エシュリーが人間でないことから、同じく人間ではないジルードがサポートをすることになった。それは授業中も含まれており、無理矢理ジルードの隣の席になった。
「こうして、栄華物語、大鏡、今鏡、水鏡、増鏡は日本では重要な文学作品となっていますので、きちんと覚えるようにしておいてください」
一組の副担任であり国語の担当である山田先生の授業。人間の文学や歴史はほとんど知らない二人にとっては覚えることが多すぎる為、山田先生は丁寧に説明していた。
「エシュリーさん、どこか分からないところはありますか?」
「う〜ん……人間の歴史なんて聞いたことないから、全部わかんない……」
「あうぅ……そう、ですか……」
再び教師としての自信を失いかける山田先生。その姿を見て、申し訳なく思うエシュリーであった。だがその一方で、隣にいるジルードにばかり視線が向いており、分からないと言いつつ元からあまり聞いていない。
「うふふ♡」
「………」
エシュリーの視線に気がついていたジルードではあるが、あえて何も言うまいと懸命に山田先生の授業を聞いていた。
☆
「クラス代表は、ジルード・レイヴァンに決定した」
次の日、朝のHRでそう宣言された。クラス代表決定戦はジルードのISが砕け散った為に中止となり、一夏との試合は行なっていない。だが、それほど時間もない為、戦闘の映像を見ながら教師陣で決定したということである。
そして、朝のHRと一時間目の間に一組の教室の扉が勢い良く開け放たれた。そこに現れたのは、ツインテールの小柄な少女であった。
「ちょっとー? ここのクラス代表って誰なのかしら?」
大胆にも他クラスにズカズカと入り込んだ少女は、誰からも返答がないが、一直線に織斑一夏の元へ向かった。
「え……お前、鈴か!?」
「ええそうよ。久しぶりね、一夏」
一夏に名前を呼んでもらった為か、鈴と呼ばれた少女は天真爛漫という表現がぴったりな笑みを浮かべた。
「で、クラス代表は一夏よね?」
「え? 違うけど?」
「え?」
「……クラス代表はジルードだけど」
一夏が指差すその先には、女子に囲まれているジルードがいた。中心となっているジルードは完全に困り果てているのだが、鈴にはそう見えなかった。軟派な男が異性に囲まれてヘラヘラしているように見えたのだった。よって、第一印象は最悪。
「……あんな奴が?」
そんな鈴の視線に気がついたのか、ジルードは鈴の目の前に歩み寄った。
「私に何か用か?」
「アンタみたいな女たらしが一組の代表?」
「女たらし?」
「女子侍らせてヘラヘラして、アンタみたいな奴がどうして代表なのよ!」
初対面の相手にいきなり罵倒されて流石のジルードも腹が立ったのか、目つきは少しばかり鋭い。
「……初対面に相手を罵倒するのが、お前の住んでいた場所では礼儀なようだな」
「はぁ!? そんなわけないでしょ!」
鈴は今にも掴みかかりそうな勢いでジルードに詰め寄った。
「お、おい! 鈴!」
「そんなアンタは、男が少ないからって調子に乗ってんじゃないわよ! このすけこまし!」
「生意気な小娘が………随分と言うではないか」
ジルードの口調が少しだけ変わった。小さな変化ではあるが、人間では到底不可能とも言える殺気を放っていた。そして背中の一部が急激に盛り上がり、今にも翼が現れんとしていた。だが鈴はその変化に気づかずにジルードの胸倉を掴んだ。
「アンタねぇ〜〜〜!!」
その瞬間、ジルードの堪忍袋が音を立てて爆発した。
背中の盛り上がりは制服を突き破り、巨大な翼が出現した。それだけでなく、犬歯が牙となる。青かった瞳は真紅の瞳へと変わった。
突然の変化に、鈴は顔が引きつった。
「……死にたいようだな」
「ひぃっ」
牙が段々と伸びていく。瞳も瞳孔が開き始め、鈴の心臓を鷲掴みにする。
「ちょっと、ストップ! ストーップ!!」
このままではマズいと判断した一夏が、二人の間に割って入った。
「鈴! お前いきなり何言ってんだよ!」
鈴の態度が気に入らなかったのか、一夏は鈴に怒りをぶつけた。それを受けて、ジルードの怒りが少しばかり収まった。
「……すまない、一夏」
牙が通常の犬歯の長さにまで戻り、瞳も青色へ戻っていった。翼もゆっくりと背中に収納されていった。一組の者たちは安堵の溜息を吐いたのだが、ジルードの正体を知らなかった鈴は、度肝を抜かれていた。
「へ……あ……ば、化け物……」
震えながら紡がれた言葉は、叫びへの一歩手前。そして誰も阻止する暇もなく、朝の教室に悲鳴がこだましたのだった。