~数十分前~
「ボーゼス」
「はい………」
この場にいるピニャ、ボーゼス、パナシュが居た。何故かボーゼスは俯いている。
「今回の事………なかった事にして貰う必要がある」
「はい………私とて貴族の家に生まれた娘としてその手の嗜みは心得ております」
「そうか……あの男には勿体無いが仕方がない。お前には悪いが我慢してくれ」
ボーゼスはピニャからそう聞くと、頷くとこの部屋を後にした。
「ひっ姫様、いいのですか?」
「仕方がなかろう。これが最善の手だ……」
ボーゼスは湯浴みを終え、ネグリジェ姿になった彼女は龍人の部屋の前に来ていた。
(私とて貴族の娘、いずれそういう事はあるだろうと考えていた………だが……だがよりにもよって!自分が嬲り倒した男に身を奉げよと命じられるとは)
つまりボーゼスは、龍人に色仕掛けで迫り先の事をなかった事にしろと言われたのだ。彼女の瞳に涙が浮かぶが、全てはピニャと帝国の為と涙を拭い、決意を固めて部屋の扉を開いた。
「ハハハ!お前等が伝説って……ククク」
白い髪の女性に抱き付かれている龍人。彼は目の前の猫や周囲の自衛隊の者達やロゥリィ達、この屋敷のメイド達と楽しく談笑しており、ボーゼスに気付いていない。
この瞬間、ボーゼスの中の何かが切れた。
(我が身をもって罪をぬぐう雑巾になる………そんな覚悟を決めて来たと言うのに……なんなのだこれは?………無視だと?パレスティー侯爵家の次女たる私を)
ボーゼスは誰も気付かない、それが彼女の怒りを増幅させる。拳を握り締める、力を入れ過ぎているのか手が震えている。
(いい度胸だ。私は雑巾にすらならないと言うのだな………この龍人と言う男は)
彼女は龍人の元に近付くと、自衛隊の男性陣は彼女に気付くとその恰好に顔を赤くする。
「あっ……」
ボーゼスは手を大きく振り上げる。普段の龍人なら簡単に回避できるが、何かを感じたのか回避しなかった。
―パァン!―
龍人の頬に綺麗な手形が出来た。
「おっ王?!」
「この……私を……」
龍人に再び手を出そうとしたボーゼスだが……場を覆う圧倒的な殺気と雷により彼女は止まった。
正確に言うならば、殺気により彼女の身体は硬直してしまった。
「殺す」
ボーゼスを睨みつけるキリンに異変が起きた。キリンの真っ白な髪が徐々に黒く染まり始め、部屋の温度が低下し始めた。
―なっなんなんだ?これは本当に人間のものか?いや、違う…………人間がこんなものを放っていい筈がない。かっ身体が言う事を聞いてくれない。
怖い怖いこわいこわいこわいこわいこわい―
彼女の思考が恐怖一色に染まる。
「理由を聞くつもりはない。貴様等人間の理由等大した物ではない、故に聞く価値などない………我が王を傷付けたのだ、楽に死ねると思うn……ぴゃ!」
この場に居る全員を畏怖させていたキリンが、龍人に手刀を落とされた事で可愛らしい声を出した。
「お前がやると殲滅になるだろう、止めなさい」
「しっしかし王!この女は」
「いいから………」
「……分かりました」
キリンはそう言うと、渋々放っていた殺気と冷気を収めた。
「しかし、王よ!この小娘は王に手を上げたのですよ!」
「あの程度のこと、昔のお前等が俺にした事と比べたら軽い、軽い」
「うぐっ!?」
「リンには……確か、無数の雷を落とされた後に氷漬けにされて、更に角で串刺しにされたっけ?」
「いっいぇ……あっあの時は……その」
龍人に昔の事を言われてキリンの心に言葉の剣が突き刺さる。今となっては笑い話であるが、当時の彼にとっては本気で命の危機だったことだろう。
「今となってはいい思い出と言った所か…………俺は気にしてない。何か理由があっての事だろう、理由も聞かずに殺すのはどうかと思うぞ」
一先ずは理由を聞こうとするが、キリンはボーゼスを睨んだまま動かない。そして龍人は声を出そうとすると、外からバタッバタッと慌ただしい音が聞こえてきた。
「先程の音は何事だ?!」
キリンの出した雷の音を聞いてピニャやパナシュ達がやって来た。
伊丹達も唖然としており、
~広間~
「それで……その傷は?」
「……私がやりました」
ピニャの問いにそう答えたボーゼス。それを聞いた瞬間、ピニャは絶望した。
龍人の従える獣、自衛隊の者達と親しく話している姿を見ていた。だからこそ、これから巨大な力を持つ自衛隊と交渉するに当たって彼に間に入って貰えればと考えていた。だが、これでは絶対に無理だろう。
「それで……何故に我等が王を打ったのだ、理由くらい言え」
キリンがボーゼスを睨みつけそう言い放つ。彼女は先程の圧倒的な力と殺気を思い出した身体が震えた。
「そ……それは……」
ボーゼスは理由を語った、帝国の……ピニャ皇女の為にと決意をして龍人の部屋へと来たのに、気付かれず、無視されたので頭に血が昇り、引っ叩いたと言う事らしい。
「王、殺しましょう!今すぐに!ご安心下さい!王に不快な臭いも、不快な物も見せぬ様に一瞬で終わらせます!なので許可を下さい!この下賤な雌を殺す許可を!
あっ苦痛を与えるべきだと仰るなら、私だけでなく、他の
主が降らない理由で引っ叩かれた事でキリンの堪忍袋の緒が切れた。彼女の中では完全にボーゼスに手を掛ける事が決まっている様だ。
「てぃ!」
「あいたぁ!王、何でですか?!この雌は、あの様な降らぬ理由で王を打ったのですよ!?ふにゃ……おっ王?」
龍人は白熱しているキリンの頭に再び手刀を叩きいれた。彼女は叩かれた所を手で抑えながら龍人に抗議しようとするが、頭を撫でられ抱き寄せられた。突然そうされた事で、彼女は顔を真っ赤にする。
「こっこの場ででしょうか?……いぇ王が御望みならば私は何処でもいいのですが………下賤な人間とは言え、王以外の者の前で肌を晒すのは………王がそう言うぷれいをしたいと言うなら、吝かではないですが」
「ド阿呆、俺はそんな特殊な性癖を持ってない。少しは落ち着いたか?」
「えっ……はっ……はい」
「ならばよし。ぁ~皇女さん、俺はこの程度の事でどうこう言うつもりはないから安心してくれ」
龍人はキリンを離しながらそう言った。
「えっ……あっ、はい」
「さてと………メイド長」
「はっはい!」
「俺も出来るだけ、此処には顔を出す様にするが何か在れば昔の様に使いを出してくれれば直ぐに駆けつけるよ」
「まっ真でございますか!?」
「コルトとは古い付き合いだし、アイツが死ぬ前に「娘達を頼む」と頼まれたしな。俺が出来る事は手伝うつもりだ、もし帝国と何か在ったら言って来いよ。何だったら俺が
「あっありがとうございます!」
メイド長やメイド達は帝国には一切忠誠を誓っていない、彼女達が忠誠を誓うのは先代当主の血筋のみ。それは先代から受けた恩を決して忘れていないからだ。最悪の場合、彼女達は街を捨ててでもミュイを護る為に戦うだろう。
龍人もそれを知っていた、だからこそ彼女達に万が一の場合は自分の元に来る様に言った。例え大国を敵に回すとしても、彼にとっては古くから知る者達・その血筋の者達を救う方が重要なのである。
「じゃ俺は一旦、戻るとするかな」
「あっ、それは」
龍人はそう言うと、ポーチの中から緑色の球を取り出した。伊丹はそれに見覚えがあった。
「じゃ、これにて」
「ちょ……ちょっと待った!」
「なに?」
「じっ実は……その」
伊丹は龍人に国会に出て欲しいと伝えた。
「国会か…………面倒だけど………仕方ないか。リン、お前は一度戻ってレウとレアにこっちに来る様に言ってくれ」
「むぅ……分かりました」
キリンは頬を膨らませ、渋々了承すると彼女の足元に魔法陣が現れた。
「!?」
「では王、私はこれにて………何か在れば御声をおかけ下さい」
キリンは一礼すると、魔法陣から溢れた光に包まれて消えた。
「じゃ行こうか、伊丹」
一同はこうして再びアルヌスへと戻る事になった。