今朝、というより昼、起きればテーブルに置き手紙が残され家には誰もいなかった。
「そーいや、ララ連れてどっか行くとか言ってたな」
俺は台所に置いてあったカップ麺にお湯を入れて三分経つまで今日何しようか考えた。
「……俺も暇だし、あっち行くか」
俺はカップ麺の蓋を剥がして麺を啜った。
◆
『色北町』、彩南町から少し離れたところにある町であり規模は彩南町と比べてほんのちょっと小さい。
「おいそこのアンちゃん」
「んぁ?」
駅を少し離れたところまで歩きコンビニへ入ろうとした時だった、後ろを振り向けばそこにいたのは赤、黒、白の特攻服を来た男たちだった。
「アンちゃん、見かけねーな」
「この町に何のようだ?アアァン?」
「ここがどー言うところか知っててきてんのか?オォウ?」
なんというか、すごく残念っていう気持ちになった。最初に話しかけてきたリーゼントの赤色特攻服に右側が金色、左側が銀色の不思議な髪色の黒色特攻服、モヒカンの白色特攻服。
「誰だおまえは」
それがこいつらに最初に言った言葉、どうも相手は調子に乗っているらしい。
「アァ!?誰だ、だと!?俺様はこの色北町を支配する男!テツオ様だッ!」
「「パラリラパラリラ!!」」
三人は決めポーズを俺に披露したあと、すんごい形相で俺を睨んできた。
「とりあえず金置いてけボギャアッッ!!」
「退けろカス」
俺の右ストレートがテツオという男の顔面にジャストミート、テツオは空中をグルグルと回転しながら吹っ飛んでいった。
「テツオォォ!!」
「兄貴ィィイ!!!」
なんなんださっきから煩いな、視線を感じコンビニの中を覗くと店員は白い目でこちらを見ていた、俺はコンビニを辞めてそのまま目的地へと向かった。
◆
「…………」
俺は目の前の古くボロくなったアパートを見つめる、ここは俺が生まれた場所であり母さんと二人で生きた場所だ。
「おや?レイくんかい?」
そんな声がした、振り返るとそこにいたのは両手に食材が入っているビニール袋を持った大家のフミコさんだった。
「フミコばあさん、……久しぶり」
「レイくん、一年ぶりだねぇ、また大きくなった?」
俺は定期的、といっても一年に一度だけここに来る、あの頃の弱い自分を忘れないために。
「持つ?」
「いいのかい?助かるよ、最近腰が前よりも悪くなってねぇ」
俺はフミコばあさんの持つ大きいビニール袋を両手に持った、俺はそのままフミコばあさんの部屋まで持つのを手伝った。
「お礼に何か食べてくかい?」
「いや、いいよ、……部屋見て帰るつもりだったし」
「……私もあの日のことは今でも忘れないよ」
あの日、母さんが目の前で死んでしまった日、事故だ。漫画や小説、現実でもある話、母さんは俺を庇って死んだ、当時、まだ小さかった俺とフミコばあさんの目の前で死んだ。
「………じゃあ、鍵持ってる?」
「はいよ、103号室の鍵ね」
俺は昔、このアパートの103号室に住んでいた、母さんと二人っきりで。父親は俺が生まれた日に交通事故で死んでしまったらしい、俺はそう聞かされた。
俺は部屋の外を出て103号室の部屋の前であの頃の出来事を思い出す。
母さんが死んだあの日のことを。
◆
あれは忘れもしない、真夏の猛暑日だった、俺は母さんと二人で買い物帰りに公園に寄っていた。
『あらん?江崎さん?買い物の帰りかしら?』
あの頃のフミコばあさんは今と大分違いどっかの女帝のような姿をしていた、時の流れってのは残酷だな。
『フミコさん、こんにちは、お夕飯の具材を買いにレイトと二人で商店街に』
『あらそぉ、レイくんこんにちは』
『こんちわーす』
あの時の俺はシャイというか母さん以外に女の人ととはあまり話したことがないので苦手だった。
『ほぉら!挨拶はちゃんとしなさい!』
『……こんにちは』
『良くできました!挨拶はちゃんとしないと素敵な男にはなれないぞ!』
母さんはしゃがんで俺の目線に合わせてニッコリと笑って見せた。
『さて、そろそろ帰ろっか!お片付けしておいで』
『うん』
俺は母さんの言う通りに砂場へ戻り使っていた道具を袋の中に入れ始める。
『父親、やっぱりいないと疲れるわよねぇ。私もそうだったわぁ』
『大丈夫です!将来は素敵な男に成長したレイトに養ってもらいますから!』
その言葉に俺は首を縦に振った、あの頃の俺は成長して大人になったら母さんを養う、そんなことばかり思っていた。
『いい子よねぇレイくん』
『あの人似ですね』
母さんは少し寂しそうな顔をする片付けを終えた俺は母さんの元へ行き母さんの手を握った。
俺と母さん、そしてフミコばあさんはアパートへの帰路を歩いていた。
『お夕飯はなんとカレーです!』
『………!』
俺はその言葉を聞いて嬉しくなった、俺の好物は今はもう味わえない母さんのカレーとおでんだ。
『私も手伝うわよぉ』
『え、でも悪いですよ』
『いいのよぉ、あ・ま・え・て・もっ!』
母さんはあの時、どう思っていたのだろうか。確かあの時既にフミコばあさんは息子がいたはずだ。
『で、ではお言葉に甘えて』
信号の緑色の光が点滅し赤へとかわった、俺たちは横断歩道の前で緑色にかわるまでまった。
母さんとフミコばあさんが談笑している、そのなかで俺は、俺だけが気づいたのだ、ヨロヨロと不安定に走るトラック、そして目を閉じながら運転する運転手が。
『アブねーぞ!』
そんな誰のかもわからない声に気づいた母さんは俺を抱き締めて、轢かれた。
俺は幸い擦りむける程度の軽傷で済んだ、対して母さんは重症、今でも覚えている俺の体にベットリとついた赤い血が。
呆然とその光景を見ていた俺に母さんは耳元で何かを囁いた。
やさしく、素敵な人に
それを最後に母さんは動かなくなった。