不満足先生のARC‐V   作:ナスの森

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エクシーズ次元

 

 ダークシグナー。

 シグナーと呼ばれる者達と相反する力を持ちし者達。

 

 彼らは五千年周期でシグナーと戦いを繰り広げ、そのメンバーは冥界の王によって選ばれる。

 

 そのシグナーとダークシグナーの戦いの幕が下ろされ、その戦いで冥界の王が撃破された事により、彼らダークシグナーの魂は再び現世に生けるべき者として復活を遂げた。

 

 これはその者達の内の一人……かつてチーム「満足(サティスファクション)」を率いた男が、突如たどり着いた異界にて己の「満足」を取り戻す物語である。

 

 

     ◇

 

 

「ここは……?」

 

 再び意識が浮上した時、目に映ったのは、かつて自分がいた頃のサテライトのような場所だった。

 「ゼロ・リバース」により建物や道路などが崩壊し、周囲に人の気配は大凡感じられない。

 ここは一体……と、男は周囲を見渡す。

 

「……って、何だよここ……あん時のサテライトよりひでえじゃねえか!?」

 

 周りを見渡してみたら、よく見たらかつてのサテライトよりも荒廃した町の様子に男……鬼柳京介は困惑する。

 いや、これは荒廃しているというよりは……まるで()()()()()()()()()()()()()惨状であった。

 

(いや、それよりも俺は何でこんな所に……? 見た所サテライトじゃねえし、俺はついさっきまで……)

 

 鬼柳はつい先ほどまで自分がいた場所を思い出す。

 チーム・満足(サティスファクション)がサテライトを統一後、サテライトで起こっていたデュエルギャング同士の抗争は収まった。

 それによって彼が率いたサティスファクションのメンバーは再び散り散りとなって、再び無気力な生活が戻ってきた。

 そこから数年余りが立ち、ようやくシティとサテライトを繋ぐ橋が建造された事により、シティとサテライトの行き来が自由になり、更にサテライトの復興までもが進んだ。

 

 今までサテライトの中でしか満足する事はできないと思っていたい鬼柳は、サテライトの外……まだ見ぬ世界への興奮を抑えきれず、かつての仲間に一言挨拶した後にサテライトの外へと旅立った。

 

 そして自分はその旅の途中……気が付けばこの場所にいた。

 

 ――――一体、ここは何処なのだろうか?

 

「……考えても、埒が明かねえか」

 

 元々、物事をそこまで細かく考える性格でもなかった鬼柳は、まずは自分の持ち物をチェックする。

 

 デュエルディスク……なし。

 

 デッキ……あり。

 

 何故持ち歩いてた筈のデュエルディスクがないのかは疑問であったが、デッキは変わらず手元にあったことに取りあえずはホッとする鬼柳。

 

(とりあえず、人を探してみるか。ここに人の気配はねえみたいだし、まずはそれが先決だ)

 

 何故自分がここにいるのかはまだ分からない鬼柳であったが、冷静に考えをまとめ、崩壊した町の散策に乗り出す。

 その惨状に少し顔を歪めつつも、歩き始めて数分の後……通りかかった瓦礫の隙間から奇妙な物が見えた。

 

「あれは?」

 

 それに気付いた鬼柳はそこへ走り寄り、瓦礫を退けてソレを拾い上げる。

 

(これはデュエルディスク? それにしちゃあ随分と小型だが……ん?)

 

 拾い上げたデュエルディスクらしき物を観察していたその時、そのデュエルディスクのエクストラデッキ入れらしき所から一枚のカードが落ちた。

 鬼柳はそのカードが地面に堕ちる前にキャッチし、そのカードを見る。

 

 カード名は、「ラヴァルバル・チェイン」

 

 

 

 そして――――

 

 

 

 

 

「これは……黒い枠のカード……一体……ぐぅッ!?」

 

 

 

 

 

 そのカードを見た時、ズキンと、鬼柳の頭が痛む。

 

 黒い枠のカード、左に揃えられたレベル表記らしきもの。

 そのカードのそれらの要素が、鬼柳の、脳裏を刺激する。

 

 

 

 これはいったいナンダ?

 

 

 なぜこのカードをみるだけでこうも頭痛がする。

 なぜこのカードを見るだけでもこうも胸が苦しくなる。

 

 

「ガ、ァ、アアぁッ……」

 

 頭痛は収まる事を知らず、更に鬼柳の脳裏を刺激する。

 まるで、呼び起こしてはならない記憶は呼び覚ますかのように。

 

 頭痛がする。

 吐き気がする。

 

 そのカードを見るだけで、思い出してはいけないナニカを思い出しそうになる。

 

 そして、その記憶の一端が、垣間見えた。

 

 黒いそのカードが、一瞬だけ、鬼柳の中に呼び覚まされた一枚のカードと重なり、フラッシュバックした。

 

「ワンハンド……レッドアイ……ドラゴン……」

 

 黒いカード枠。

 左側に寄せられたレベル表記らしきもの。

 

 その結果、鬼柳の頭の中で連想されたのは、黒いカード枠のドラゴンだった。

 

 ――――黒いカード。

 ――――ダークシンクロ。

 ――――ダークシグナー。

 

 次々と、鬼柳の脳裏の中で単語が連想されていく。

 その度に、頭痛と胸痛が激しくなる。

 

 そして――――

 

 

 

 

 

 

『人々の魂を生贄に、降臨せよ! 地縛神Ccapac Apu!!』

 

 

 

 

 

 

 ナスカの地上絵を模った炎のサーキット。

 その炎の中にいた人達が、次々と一枚のカードの生贄となっていく。サテライトの人々が次々と生贄として空中に出現した黒い物体に吸い込まれ、そこから巨大な光の柱が発生する。

 天にも届く光の柱の中から、黒い巨人が姿を現す。

 

 

 

 

「あ……あァ……」

 

 頭を抱える鬼柳。

 

 思い出してしまった 全て。

 

 チーム満足(サティスファクション)の時の本当の記憶。

 ダークシグナーの事。

 地縛神の事。

 

 それらは皆、鬼柳自身の拭い難い罪だった。

 

「ああああアアアアアアァァァァぁぁッ!!!」

 

 

     ◇

 

 

 ――――ハァ、ハァ、ハァ……。

 

 荒廃した町の中、一人の少女が息を上げながら走っていた。

 ポニーテールの黒い長髪を揺らしながら、少女、黒咲瑠璃は今、崩壊したハートランドの街中で、必死に追手を撒かんと逃げていた。

 

「ハァ、ハァ、ハァッ……!」

 

 追手はアカデミア……この次元ではまた違う召喚法、融合召喚を操る別次元からの侵略者。

 そのアカデミアの追手に、彼女は今追われていたのだ。

 

 その追手に、彼女は見覚えがあった。

 

(あの人は……ついさっきデニスさんと一緒にいた!!)

 

 デニスという大道芸のデュエルリスト。

 先ほど偶然、難民キャンプでそのデニスと再会し、その時は喜んだ瑠璃であったが、こうして今そのデニスの傍にいた難民らしき人物に追われていたのだ。

 

 いや、既に難民というには語弊がある。

 アカデミアのデュエルディスクを構えながら此方に迫ってくるときの、彼の表情。あれはまさしく狩りの獲物を捉えた時の眼そのもの。

 

 彼は難民ではなく、難民を装って難民キャンプに入り込んだアカデミアのデュエリストだったのだ。

 

 ――――逃げなきゃ。

 

 此方が難民キャンプを出ている時の隙をついて現れた彼のその眼を目の当たりにし、そう思った時にはもう足は動いていた。

 幸い、此方はハートランドの地形を完全に把握している。

 相手がどんな使い手であろうと容易に撒けると高を括っていた。

 しかし――――

 

「――――ッ、行き止まりッ!?」

 

 それはあくまで、以前の平和なハートランドならではの話。

 いくら地形を把握していた所で、ハートランドはアカデミアの侵略によって無惨にもその形を変えている。

 目の前に立ち塞がった瓦礫を前に、瑠璃は成す術もなく立ち止まってしまった。

 

「どうしたの? 鬼ごっこが好き?」

 

「ッ!?」

 

 ねっとりするような、それでいて何処か聞き覚えのあるような声が後ろから木霊する。

 まるで毒蛇に睨まれたかのような錯覚に陥りつつも、瑠璃はその声の主の方へ振り向く。

 そこには、黒いフードを纏ったアカデミアの追手がいた。

 

「あんまり手こずらせないでよ。僕、楽しい事は好きだけど面倒事は嫌いなんだよねぇ」

 

「くッ!」

 

 よく言うわね、と瑠璃は内心で毒吐く。

 ――――さっきまで、逃げる私を見ながら楽しんでいた癖に。

 おそらくその鬼ごっこすらも飽きて面倒になった、という事なのだろう。狩りを楽しむのではなく、こうして相手をじっくりと追い詰める事を楽しむこの人物は、今まで戦ってきたアカデミアの戦士よりも質の悪い人物である事が窺えた。

 

(こうなったら……もう……)

 

 デュエルしかない。

 この人物も紛れもなくアカデミアの人間。

 ならば、デュエルでこの場を切り抜けるしかない。

 そう結論付けるや否や、瑠璃はデュエルディスクを構えた。

 

「やろうっていうの?」

 

「……ええ」

 

 ここで敗れる訳には行かない。

 自分には待っている人達がいる。

 恋人、兄、そして大勢のレジスタンスの仲間たち。

 彼らの所に帰るまで、自分は負けるわけには行かない。

 

「まるでじゃじゃ馬だな。いいよ、やろう。君とデュエルをして僕が勝ったら言う事を聞いて貰う……いいね?」

 

「えぇ……その代わり、私が勝ったら――――」

 

「少なくとも、この場は退いてあげる。また直ぐに来ちゃうかもしれないけどねぇ……!」

 

「ッ!」

 

 悪趣味げに笑う、自分と同じくらいのアカデミアの追手を見ながら、瑠璃は少し歯ぎしりをする。

 自分が勝ったら拘束させてもらう、とは口が裂けても言えなかった。

 よしんばデュエルに勝った所で、自分程度の女では、この少年を拘束する事は不可能だという、瑠璃なりの英断だった。

 

「それじゃあ、デュエル――――」

 

 

 

 

 

 

「待ちな……」

 

 

 

 

 

「えっ……?」

 

 その時だった。

 黒フードの少年と、瑠璃の間を割って入るように、一人の男が現れる。

 

 長い銀髪、黒いロングコート。

 まるで辺りを彷徨う亡霊の如く、フラっと、その男は現れた。

 

 ごくりと、瑠璃は息を飲む。

 自分を追って来たこの黒フードの少年とはまた違う意味での異様な存在感を放つ男。まるで生気を感じさせぬその瞳には、何も映ってなどなかった。

 

「あ、貴方は……?」

 

「……」

 

 瑠璃の問いに、男は答えない。

 まるで眼中にないかのように、目の前のフードの少年を見つめる。

 

「……ハァ、何なのさァ君。いきりなり割り込んできて。今はいい所なんだから、邪魔しないでよ。彼女は僕が目を付けたんだ、横取りをしようったって、そうは行かないよ?」

 

 若干、苛つきを感じさせるような表情で、黒フードの少年は男を睨む。

 

「何を取りたいのか、別に知った事じゃねえが……」

 

 言って、男は懐からデュエルディスクを取り出す。

 先ほど、瓦礫に埋まっていた物を拾った奴だった。

 損傷こそしているものの、デュエルをするにはこれと言って支障はない程度のレベルである。

 

「デュエルなんて聞いちゃ、黙っていられねえんだよ」

 

 そう言って、男は懐から出したデュエルディスクを腕に装着し、展開する。

 

 その様子を見た黒フードの少年は、心底鬱陶しそうな眼で男を見る。

 自分はプロフェッサーの命令でそこにいる少女を連れてくるように言われているのだ、こんな死人のような男に用などない。

 

「だから、邪魔だって言ってるじゃん。これは僕と彼女の問題だ。そんなにデュエルをしたいなら、相応の相手を呼んで――――」

 

「ここ等にいた仮面野郎共なら、とっくに倒したよ」

 

「……へぇ」

 

 この男が退いてくれる様子もないと判断した少年は、一緒に連れてきたオベリスク・フォースに押し付けようと、ディスク内臓された連絡機能で呼び出そうとした。が、男の予想外の一言に、少年はようやく男に関心の目線を向けた。

 

「倒したって……あのオベリスク・フォースを!?」

 

「ようやく人を見つけたと思ったら、一斉にデュエルを仕掛けられてな。ヤベエデュエルの予感がして受けてみたんだが……とんだ期待外れだった」

 

 期待外れ……それは自身を熱くさせる相手でなかった事に対してではなく、自身をデュエルで葬ってくれる相手ではなかったことに対する失望だった。

 

「負ければすぐにでも解放される事ができたってのに、それさえもできなかった。つくづく、俺はデュエルに取り憑かれているらしい」

 

「……?」

 

 まるで、自身を呪うかのような、失望するかのような言い方に、瑠璃は違和感を覚える。

 先ほどの口上からして、この人物はおそらくあのアカデミアの精鋭、オベリスク・フォースを退け、ここまでやってきたのだろう。

 なのに、この人物から、勝った事に対する歓びが微塵も感じられないのだ。

 まるで、勝ってしまった自分を呪うかのように。

 

「俺は、ヤバいデュエルを求めてここまで来た。デュエルにとりつかれた俺を、デュエルごと消し去ってくれる奴を求めてな……さあ、やろうぜ?」

 

「フフフ、いいよ。そこまで求められちゃ、応じない訳にはいかない。君の望み通り、デュエルで葬ってあげるよ」

 

 互いにディスクを構えだす。

 

(どうすれば……)

 

 そんな二人を見て、瑠璃は困惑する。

 本来なら自分がこの少年とデュエルする筈が、突如、正体不明の男に割り込まれ、その男が少年とデュエルする事となった。

 

 瑠璃が取れる選択肢は二つ。

 一つ、この場で二人のデュエルを見守る。

 二つ、この場から逃げて急いで応援を呼ぶ。

 

 しかし、この男が何者なのかが分からない瑠璃は、そのどちらの選択肢も取れないでいた。見た所、自分を助けに来たというわけではないようである。

 もし彼もアカデミアなのだとしたら?

 このやりとりすらも二人の演技に過ぎない場合は?

 そもそもこの人は何者なのか?

 

 疑問が尽きぬ内は、瑠璃もどの選択肢を取ればいいのか分からなかったが――――

 

「ああ、そこの君。そこから動かないでね。このお兄さんを倒したら、後で君も相手してあげるからさぁ」

 

「っ!?」

 

 少年の一言で、何方の選択肢も消える事となった。

 ここで逃げても、この少年は地の果てまで自分を追ってくる。

 ここで逃げようとしたら、自分は更なる地獄を見る事になる……そんな予感がしたのだ。

 

 動きかけていた瑠璃の足が、ピタリと止まる。

 

「いい子だ。さあ、やろうか、お兄さん?」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

「「デュエル」」

 

 

 

 

 

 ――――俺を、満足さ(終わらせ)せてくれよ……?

 

 五枚ドローした手札を尻目に、男……鬼柳京介は虚ろな目で目の前の少年に内心でそう懇願した。

 




以上、思い付きの一発ネタでした。
続くとしたらアイドラとか出したい、勿論ダークシンクロのままで。
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