アカデミアの人間達は、別にデュエルをしなくともエクシーズ次元の人間をカード化する事ができる。ソレに対して、エクシーズ次元の人間達は当初アカデミアの人間に対抗する術が見つからず、途方に暮れていた。
何とかしてアカデミア兵の一人を捉えてカード化する機能を自分達のデュエルディスクに組み込む事こそ成功したが、それだけではアカデミアの兵士たちをカード化する事はできなかった。
更にアカデミアの侵攻が進むにつれ、アカデミアのデュエルディスクの解析を進めた結果、デュエルディスクにデュエリストをカード化から守っている機能がある事が発覚し、それをエクシーズ次元のデュエル会社の技術者がカード化、およびそれから守る機能を付与したデュエルディスクの製造を秘密裏に始め、それをレジスタンスに配った。
難民たちが辛うじてカード化から逃れたのはこのデュエルディスクに付加された機能のおかげである。
互いにカード化に対しての耐性があり、そのデュエルディスクを持つ人間をカードにするにはデュエルで勝たなくてはならない。
アカデミア側にも、レジスタンス側にもそのような条件が整った結果、かろうじてレジスタンスの抵抗が身に結ぶようになったのである。
……もっと、早い時期にこの技術をアカデミアから奪う事ができていれば、少なくとも今の現状は回避できたかもしれない、とユートは何度も思ったかは知れない。時は既に遅しといえど、そう思わずにはいられなかった。
「止めだ! 『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』でダイレクトアタック! 反逆のライトニング・ディスオベイ!」
「うわあああぁッ!?」
最早叛逆すべきモンスターがいなくなった相手のフィールド。最早叛逆する必要すら無意味なフィールドを、叛逆の牙が蹂躙するという皮肉。
相手のLPが0になるとともに、互いのデュエルディスクがデュエル終了の合図が鳴る。
それを確認したユートは、『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』の実体化を解かぬまま、アカデミア兵に歩み寄る。
そして、そのままデュエルディスクのカード化機能を作動しようとした。
が。
「ッ!?」
怯えた表情で、自分を見上げるアカデミア兵を見て、ハッとユートは我に返る。
同じだった……アカデミアの侵攻に怯え、カード化される事を恐れる難民たちと、その表情に違いはなかった。
「た、頼む! 見逃してくれ!!」
「……ッ」
持ち前の甘さ故、カード化のボタンを押す事をユートは戸惑ってしまう。
今まで自分の敗北を認められずに、力なく伏せてしまう相手が大半だった故、こうして命乞いをしてくる相手は久しくいなかった。
「な、なんでもするから、なあ!?」
「……ディスクを外せ」
「……え?」
「デュエルディスクを外せと言っているッ!!
「ひぃ!? 分かった!」
デュエルを始める前の威勢の良さは何処に行ったのか、アカデミア兵はデュエルディスクを慌てて外す。
「地面に置いて、ディスクから離れて、そのまま手を上げろ」
若干、自分の雰囲気を和らげながら、ユートは相手に言い放つ。
言われた通りに、相手は地面にディスクを置き、手を上げながら離れた位置に立つ。
これで相手は人間をカード化する手段と、カード化から身を護る手段を失い、一方でユートはいつでも相手をカード化できる。
完全に相手を無力化したのであった。
「……もう、ここの者達に手を出さないと誓うか?」
コクリ、と素早くうなずくアカデミア兵。
「俺達レジスタンスに、アカデミアの情報を言えるか?」
「それは……」
言い淀むアカデミア兵。
仲間たちを裏切る行為に忌避を感じているのだろうが、あいにくとそんな時間をユートは与えるつもりはない。
「できないのなら、選択肢は一つだ」
言って、ユートはデュエルディスクに手を添え、カード化の準備を行う仕草を取る。
「ま、待ってくれ! 言う、言うから、その手を止めてくれ!! お願いします!」
「ならさっさと言え。その後は何処へでも消えるといい」
「オ、オレ達アカデミアは、アークエリア・プロジェクトという壮大な計画で……」
その時だった。
男から離れていた筈のデュエルディスクが、突如として光り出す。
まるで、男の言葉を遮るかのように。
「ッ⁉ まさか、そんな……待ってくれ、うわああああああああアアアアァァッ!!?」
突如として光り出したデュエルディスクから、光線が放たれ、それは持ち主であったアカデミア兵に照射される。
「なッ……!?」
突如とした出来事にユートも驚愕の声を発す。
今までこんな前例はなかった。
持ち主をカード化しようとするデュエルディスクなど、これまでの戦いでは見た事がなかったのだ。
「嫌だ、嫌だ……オレはこんなッ――――!!」
気付いた時には、男の姿はなかった。
あるのは、直前に男がユートの方へ向けて投げ放った一枚のカードと。
空中に舞う、一枚のカードのみ。
ひらひらと、落ち葉が舞うが如く、ゆっくりとそのカードは表面を上にして、ユートの足下へ落ちる。
やがて、ユートの足下に、二枚のカードが並んだ。
「あ……」
そのカードが何なのかは、見るまでもなかった。
向こうが散々此方にしてきた仕打ち、こちらもまた幾度とやりかえしてきた分からない仕打ち。
その証が、ユートの足下にあった。
――――自分が、彼にアカデミアの情報を吐くように言わなければ。
――――素直に、自分が彼を見逃していれば。
――――いや、そもそもアカデミアが彼をここに派遣してこなければ。
「くそッ……!」
ドカン、と地面に拳を叩き、そう呟く。
それでも、自分達は叛逆を続けなければならかった。
そうしなければ、こうなるのは自分達なのだから。
「……なあ、アンタは俺達を裏切らないよな?」
別の離れた戦場で、共に行動していたレジスタンスのメンバー神月アレンが、一掃した敵を前に、突如としてそう聞いてきた。
鬼柳は何の事か分からず、?のマークを頭に浮かべながらアレンの方を一瞥するだけであった。
ちなみに、前回の事でついに鬼柳にキレてしまった黒咲の一件で、今回の作戦から黒咲と鬼柳は別行動させる事がレジスタンスの総意として決まっていた。
「前に……いたんだ。俺達にデュエルの楽しさを教えたくれた、そんな人が……」
「……」
「なのにソイツは、俺達を笑顔にするとか謡いながら、何処かへ消えちまった!! ハートランドがこうなった直後まではまだいた筈なのに……」
アレンは拳を強く握りながら鬼柳に語る。
「デュエルの楽しさを教えてくれた……その直後にこのアカデミアの奴等が攻めてきて……俺らはより楽しめた筈のデュエルも楽しめなくなっちまった!! あいつさえ来なければ……まだこんな辛い思いをせずに済んだのに……その直後にあいつは逃げやがったんだ!!」
「……」
「あいつは臆病物だ、裏切り者だ! こんな……辛いデュエルを味わされる直前に、楽しめるデュエルなんていう置き土産なんかしやがって……!!」
要は気持ちの問題、そういう事だろう。
これまでよりも更に楽しいデュエルを教わったのに、その直後に命のやりとりを行う辛いデュエルを強いられてしまった。
上げて落とされたのだ。
その当の本人は、その辛いデュエルを強いられる環境になった途端に、姿を晦ませた。その人物が直接悪い訳ではなくとも、恨まずにはいられない。
「……」
裏切り者――その単語を聞いた途端、鬼柳は眉を僅かに潜める。
あの日、些細な誤解から親友を恨み、死に追いやろうとした自分。
『遊星……この裏切り者ぉ!!』
「……そいつは、本当にお前達を裏切ったのか?」
「え?」
今まで無口だった鬼柳が唐突に口を開いた事に、アレンは一瞬だけ呆然とする。
「ソイツが何故いなくなったかも分からずに、裏切り者と決めつけるくらいなら、ソイツを見つけてから理由を聞き出しても、遅くはねえんじゃねえのか?」
「……」
「理由も事情も聞かずに恨み続けていると、いつか後悔する時もある」
オレのようにな、という言葉を省き、鬼柳はアレンに背を向け、そのまま歩を進める。
アレンは鬼柳が急に喋り出した事に呆然とする一方で、鬼柳の言葉に思う所があったのか、神妙な表情でそのまま黙り込んでしまった。
今日もいつものようにレジスタンスのメンバーと共にアカデミアと戦い続け、己をデュエルから解放してくれる者を望む鬼柳。
あの日、とあるエクシーズモンスターを見つけてしまい、記憶が戻ってからその日常は変わる事はなかったかのように思われた。
「……鬼柳さん。帰ったら、オレとデュエルをしてほしい」
拠点へ帰る途中、ユートからそう言われるまでは。
◇
ユートと、あの鬼柳京介がデュエルをする。
その知らせは、瞬く間にレジスタンス中に広まった。
メンバーの心としては、まだレジスタンスに入ったばかりで更には融合でもエクシーズでもない召喚法を使う未だ得体の知れなさが残る鬼柳よりも、長い間レジスタンスのリーダーとしてメンバー達を引っ張って来たユートに傾いている。
だが、それを抜きにしてもこの対戦カードはレジスタンスのメンバー達の気を引く物としては十分すぎる程の効果があった。
同じレジスタンスのメンバー同士であるユートと黒咲は平和だったころのハートランドの時から互いの腕を競い合うライバル同士として幾度となくデュエルでぶつかり合っており、単純に見慣れていたというのもある。
戦い続きであるレジスタンスのメンバーとしては密かに別の娯楽を心の何処かで欲しているというのもあった。
そう思っていた矢先に、この対戦カードだ。興味を引かない筈もなかった。
「……来てくれたんだな、鬼柳さん」
ハーモニカを携えながら自分の目の前に立ってくれていた男、鬼柳京介に対して、ユートは感謝の念を込めて視線を向ける。
「……何故、オレとデュエルしようと思った?」
「……」
「オレなんかとデュエルをするよりも、お前にはやるべき事がある筈だ。仲間の命を背負っているのなら猶更な」
「簡単な事だ。そのやるべき事の中に、貴方とデュエルする事が入っているとオレが感じたからだ」
自分にデュエルを申し込んできた事に疑問を持った鬼柳が、その疑問をユートに投げかける。それに対してユートは真っ直ぐな目線でそれに応えた。
鬼柳から見ても、その眼には確固たる意志があるのだと感じ取れる。
「鬼柳さん。貴方はオレにこう言った、『自分はヤバいデュエルを求めている。だから好きなだけ自分を使ってくれて構わない』と。だが、そんな理由で、オレと隼が納得できる筈がない。共に肩を並べて戦う者として」
観客席にいた黒咲が、ユートのその言葉に賛同するかのように、ぎゅっと拳を握りしめる。隣にいた瑠璃はそんな兄と鬼柳を心配そうな表情で交互に見つめる。
「貴方が助けてくれた瑠璃は、オレと隼の助けになってくれるという理由で貴方をここに連れてきた。貴方はソレに対して何も言わず、オレ達も貴方をそのまま利用する形になってしまった。だから……せめて、知りたいんだ。何故貴方がそこまでデュエルで自分を追い込もうとするのか、何故あんなにも死にたがるのか……」
ありのまま本心を、ユートは鬼柳に告げる。
このデュエルを通して、少しでも彼の事を知りたい。
今までのようにアカデミア兵と戦いながら彼のデュエルを一瞥するのではなく、彼と直接デュエルをして、少しでも彼の心に触れたいのだと。
「ユート……」
ユートの心に感じ入る物があったのか、瑠璃は胸に当てた手をキュっと握りしめる。
本来ならば、それをするのは彼を直接連れてきた自分がすべき事であったのだろう……そんな罪悪感が瑠璃の胸を締め付ける。
だが、自分程度のデュエルの腕では鬼柳の心を動かす事ができないのは分かり切っていた。故に、ユートに託すしかない。
「どうしてもやろうって言うんだな?」
「ああ」
「……分かったよ」
鼻で溜息を吐いた後に、渋々と了承する鬼柳。
いくらデュエルが憎くなろうが、彼とてデュエリスト。挑まれたデュエルから逃げる事はできなかった。
互いにデュエルディスクを構えだす。
デュエルが始まるまでのわずかな沈黙。
その緊張感に、周りのレジスタンスのメンバーの誰もが息を飲み込み、デュエル開始の合図を待つ。
そこへ更に
「鬼柳兄ちゃーん!! がんばれー!!」
いつの間にか会場に入り込んでいたのか、一人の少年が観客のレジスタンスの間を割って出て鬼柳に声援を送ってくる。後ろには少年の姉らしき少女までもが応援する弟の姿をニコやかな笑みで見守っている。
彼女とて、弟にとって、そして自分にとってのヒーローである鬼柳を心の底でひっそりと応援していた。
ちなみに、レジスタンスのメンバーではないこの姉弟がこの情報を聞きつけやってこれたのは、彼女が瑠璃と親しい仲だったからである。
――――僅かでも彼を慕ってくれるハートランドの人間もいる。
その事実だけでも、瑠璃やユートは幾分かホッとしていた。
そんな少年の姿を一瞥して和らいだ心を元に戻し、再び鬼柳へと視線を向けるユート。
そして――――
『デュエル!!』
周りのレジスタンスのメンバーの一斉の掛け声と共に、両者はデッキからカードを五枚ドローした。
◇
「先行はオレが貰う! 手札から『幻影騎士団 ダスティローブ』を召喚!」
ユート 手札5→4
ますはユートの先行。
さっそく己の操るカテゴリカード『幻影騎士団』モンスターを場に出した。
《
効果モンスター
☆3/闇属性/戦士族/攻800/守1000
「更に、オレのフィールドに『幻影騎士団』モンスターが存在する場合、手札から『幻影騎士団サイレントブーツ』を特殊召喚できる!」
ユート 手札4 → 3
《
効果モンスター
☆3/闇属性/戦士族/攻200/守1200
「これでオレのフィールドにはレベル3のモンスターが二体揃った! オレはレベル3の『幻影騎士団ダスティローブ』と『幻影騎士団サイレントブーツ』でオーバーレイ!」
瞬間、ユートにフィールに銀河状の大きな渦巻が現れ、そこに同レベルの2体の『幻影騎士団』モンスターが吸い込まれてゆく。
「戦場で倒れし騎士たちの魂よ、今こそ蘇り、闇を切り裂く光となれ! エクシーズ召喚!!」
馬の形した鎧に、更に人の上半身の鎧が組み合わさった、異様なモンスターが現れる。首がない代わりに霊魂を思わすような青白い炎が灯されており、例え死していようと、そこには使い手の叛逆の意志が垣間見える。
「現れよ! ランク3、『幻影騎士団ブレイクソード!!』
馬のような鳴き声を高らかに鳴らし、魂の宿った騎士の鎧が大剣を鬼柳へと向ける。
《
エクシーズ・効果モンスター
★3/闇属性/戦士族/攻2000/守1000
「ユートめ、1ターン目からもうエクシーズ召喚を……」
「……本気なのよ、ユートは。このデュエルで本気で鬼柳さんの心に踏み込もうとしてる……!」
観客席にいた黒咲と瑠璃はその試合の行方を見守る。
1ターン目からのエクシーズ召喚……ユートは、このデュエルで全力で鬼柳とぶつかろうしている。
観客席ごしでも、その意志がはっきりと読み取れた。
「カードを2枚伏せて、ターンエンド!」
ユート:
フィールド 《幻影騎士団ブレイクソード》
セットカード 2枚
手札 1枚
「オレのターン、ドロー」
鬼柳 手札5 → 6
そして鬼柳に最初のターンが周り、ドローフェイズに入る。
己の手札を暫し確認した後、カードを一枚手に取り、フィールドに出す。
「手札から、『DT スパイダー・コクーン』を特殊召喚。このカードは相手フィールド上にモンスターカードが存在し、自分フィールド上にカードが存在しない場合、手札から特殊召喚できる」
鬼柳 手札6 → 5
《
効果モンスター(ダークチューナー)
☆5/闇属性/昆虫族/攻0/守0
大きな球体に足が八本生えたかのように、異様な蜘蛛がフィールドに姿を現す。
「“ダークチューナー”……まさか……!」
今まで自分達の前では見せてこなかったというのに、もう見せて来るのかとユートは身構える。
ダークチューナー……あのデュエルで、彼がダークシンクロモンスターを召喚するのに使われていたモンスターの名前に付いていた単語だと、瑠璃から聞いている。
(来るのか、この最初のターンから……!)
「更に『インフェルニティ・ドワーフ』を通常召喚」
鬼柳 手札5 → 4
《インフェルニティ・ドワーフ》
効果モンスター
☆2/闇属性/戦士族/攻800/守500
「そして魔法カード『ダーク・ウェーブ』を発動。自分フィールド上のモンスター一体を選択し、そのモンスターのレベルをその数値×-1にする」
鬼柳 手札4 → 3
「……何?」
あまりにも常識外の効果を持つ魔法に、ユートは唖然とする。
モンスターのレベルの下限は、レベル1だ。
マイナスのレベルが存在しようと、それは彼の持つダークシンクロモンスター特有のものだと思っていたからだ。
「オレは『インフェルニティ・ドワーフ』のレベルを-2に下げる」
《インフェルニティ・ドワーフ》
☆2 → -2
……なのに、自分の目の前で、普通のモンスターのレベルが負の値になっているではないか。
だが、そんな疑問を長く抱いている暇もない。
なぜなら、今鬼柳のフィールドに、ダークチューナーと非チューナーが揃ってしまったからだ。
「レベル-2となった『インフェルニティ・ドワーフ』に、レベル5のダークチューナー『スパイダー・コクーン』を……ダークチューニング」
その瞬間、『スパイダー・コクーン』の身体が黒い霧となって消えた後、そこから五つの星が飛び出し、『インフェルニティ・ドワーフ』の身体に侵入していく。
『ウ…うぉぉ……!?』
『インフェルニティ・ドワーフ』の身体に入り込んだ瞬間、五つの星は闇へと変わり。『インフェルニティ・ドワーフ』の身体は砕け散る。
残ったのは、円形に回転する七つの闇だった。
「星が闇に……」
「これで、光は闇となった。ダークシンクロ召喚は、チューナー以外のモンスター一体のレベルから、ダークチューナーのレベルを引いた数と同じレベルのシンクロモンスターを召喚できる」
「だからレベルがマイナスに……」
鬼柳からの淡々とした、説明を聞き、納得するユート。
非チューナーモンスターのレベルにチューナーモンスターのレベルを足すのがシンクロ召喚。ダークシンクロはその逆、非チューナーのレベルからダークチューナーのレベルを引くのだ。
「暗黒より生まれし者、万物を負の世界へと誘う覇者となれ! ッ……ダークシンクロ……」
回転する七つの星の間に黒い稲妻のような物が迸り、闇の幕が降ろされる。
「現れよ! レベル-7、『猿魔王ゼーマン』!」
降ろされた闇の幕より、王冠とマントを身にまとった筋肉質の猿が現れる。
紫色に輝く瞳、左手には小さな杖。
かつてとある精霊世界をマイナスに落とした魔王が、次元を超えてここに降臨した。
《猿魔王ゼーマン》
ダークシンクロ・効果モンスター
☆-7/闇属性/獣族/攻2500/守1000
「これが、ダークシンクロモンスター……」
未だ信じられない、という気持ちでユートはフィールドに現れた『ゼーマン』を見つめる。瑠璃から聞いた話を信じてなかった訳ではなかったが、それでも直接見ない事には実感が湧かなかった。
『なッ、レベル-7のモンスターですって!?』
『どうして直ぐに手札0にしないんだ!?』
『あのモンスターは一体……』
驚いているのはユートだけではない、周りのレジスタンスのメンバーはその存在すらも知られていなかった分、その驚愕はユートの比ではなかった。
(だが、瑠璃から聞いたあのドラゴンは出なかったか……)
ユートが最も警戒しているダークシンクロモンスター『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』。
だが、油断は禁物だ。
同じダークシンクロモンスターである以上、この『猿魔王ゼーマン』も何か厄介な能力を持っているに違いないとユートは身構えた。
「バトル。『猿魔王ゼーマン』で『幻影騎士団ブレイクソード』に攻撃。カースド・フレア!」
「だが、『幻影騎士団ブレイクソード』が破壊された時、墓地から同じレベル『幻影騎士団』モンスター2体を、レベルを1つ上げて特殊召喚する!」
ユート LP4000 → 3500
『猿魔王ゼーマン』の杖から放たれた炎により、『ブレイクソード』はその身を焼かれてしまうが、反逆の騎士たちの魂は倒れる事を知らず、更なるエクシーズ召喚への布石を残してゆく。
《
効果モンスター
☆3→4/闇属性/戦士族/攻800/守1000
《
効果モンスター
☆3→4/闇属性/戦士族/攻200/守1200
「『幻影騎士団』は倒れない! 例え打倒されようと、それは次なる反逆の牙に繋がっていく!」
「……カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
鬼柳:
フィールド 《猿魔王ゼーマン》
セットカード 1枚
手札 2枚
「オレのターン、ドロー!」
ユート 手札1 → 2
準備は整った。
これでユートの場にはレベル4のモンスターが二体揃った。
本来ならば相手の場に上級モンスターがいる状況が望ましかったが、そうも言っていられない。
「オレはレベル4となった『幻影騎士団ダスティローブ』と『幻影騎士団サイレントブーツ』でオーバーレイ!!」
先ほどと同じように、銀河状のエフェクトがユートのフィールドに出現する。
だが、そのエネルギーの規模は先の『ブレイクソード』の比ではない。
再び、二体の『幻影騎士団』モンスターが、その渦に飲み込まれていく。
「漆黒の闇より、愚鈍なる力に抗う、反逆の牙! 今降臨せよ、エクシーズ召喚!!」
尾、腕、翼、そして顎。
ありとあらゆる部位に牙を纏った漆黒の龍。
凄まじい雷鳴と共に、ユートの象徴のエースモンスターが、姿を現す。
「現れよ! ランク4、『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!!」
《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》
エクシーズ・効果モンスター
★4/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000
叛逆の雄たけびと同時に、それは力強き咆哮でもあった。
なんとしてでも目の前の凍り付いた男の心に必死に語り掛けようとするユートの叫びを代弁するかのように、その竜は咆哮する。
「『猿魔王ゼーマン』のレベルはマイナス。よって『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』のモンスター効果の対象外。だが、打つべき手は他にもある。永続トラップ『
《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》
攻2500 → 3300
「バトルだ! 『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』で、『猿魔王ゼーマン』を攻撃! 反逆のライトニング・ディスオベイ!!」
『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』の翼が展開され、稲妻のような光が迸る。その凄まじいエネルギーを顎の刃に溜めこんだ漆黒の龍は、その刃を向けたまま『猿魔王ゼーマン』に突撃する。
攻撃力の差は800。
迸る稲妻の刃が、そのまま『猿魔王ゼーマン』の身体を貫くと思われた、その瞬間。
「『猿魔王ゼーマン』の効果発動! 手札1枚をコストに、相手モンスター一体の攻撃を無効にする!」
「なにっ!?」
その刃は、見えない障壁に阻まれ、威力を殺されたところを『ゼーマン』の杖に跳ね返されてしまった。
これにより、『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』の攻撃は不発に終わる。
が、警戒すべき所はそこではなかった。
(手札1枚をコストに、相手モンスターの攻撃を無効……そうか、鬼柳さんはこのモンスターをアタッカーとして出した訳ではない!!)
態々手札1枚を消費してまで、相手のモンスターの攻撃を無効化する効果。
この効果は、鬼柳が使用している永続罠カード『デプス・アミュレット』とまったく同じ効果ではないか。
(このモンスターは、鬼柳さんの
「カードを一枚伏せて、ターンエンドだ!」
ユート:
モンスターゾーン 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》
魔法&罠ゾーン セットカード2枚
永続罠
手札 1枚
「オレのターン、ドロー」
鬼柳 手札1 → 2
「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」
鬼柳:
モンスターゾーン 《猿魔王ゼーマン》
魔法&罠ゾーン セットカード2枚
手札 1枚
セットカード2枚では特に打てる手もないのか、鬼柳はそのままターンを終了する。
再び、ターンはユートに回って来た。
「オレのターン、ドロー!」
ユート 手札1 → 2
引いたカードを確認し、ユートは鬼柳のフィールドに視線を移す。
鬼柳の心へ踏み込む隙間を塞ぐかのように、鬼柳のフィールドに居座るマイナスの王。
(鬼柳さん……オレも瑠璃も、貴方の事が知りたい。貴方が何者なのか、貴方に何があったのか……)
故に、ユートはそのマイナスの王を睨み付ける。
(このモンスターは邪魔になる。鬼柳さんの心にオレの想いを届かせるためには、向き合って戦うしかない。 鬼柳さんにも、そしてオレ自身の心にも……!)
まずは、あの邪魔な猿魔王を排除する。
そう思い至ったユートは、先ほど引いたカードを発動させる。
「魔法カード『鬼神の連撃』を発動! この効果により『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』の
ユート 手札2 → 1
『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』の周りを取り巻いていた二つの光が消え、代わりに激しいオーラが『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』の身体を包み込む。同時に、漆黒の龍は力強い咆哮を上げる。
「『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』で、『猿魔王ゼーマン』を攻撃! 反逆のライトニング・ディスオベイ!」
再び稲妻を纏った反逆の牙が『猿魔王ゼーマン』に向けられ、その牙は一直線へと進む。しかし、やはりというべきか、直前で鬼柳の手は己の手札へと差し伸べられ、残り一枚のカードが取られる。
「手札を1枚墓地に送り、『猿魔王ゼーマン』の効果発動! 戦闘を無効にする」
鬼柳 手札1 → 0
再び、反逆の牙は防がれてしまう。
「だが、『鬼神の連撃』の効果により、『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』はもう一度攻撃できる!! 反逆の、ライトニングディスオベイ!!」
防がれた牙が今一度マイナスの王へと向けられる。
今度こそ、『ゼーマン』の破壊を免れる手段は何一つとしていない。フィールドにリリースするモンスターも、捨てる手札も既にない。
今度こそその牙は、『猿魔王ゼーマン』の胴体を貫く。
「クッ!?」
鬼柳 LP4000 → 3200
凄まじい爆発音と共に散っていく『猿魔王ゼーマン』。
『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』の攻撃の凄まじい衝撃もあってか、それをほぼ直で受けた鬼柳は、咄嗟に体を庇ってしまう。
「オレのフィールドのモンスターが破壊された事により、罠カード『道連れ』を発動! フィールド上のモンスター一体を選択し、破壊する。オレは『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』を破壊」
「だが、永続罠『幻影剣』を破壊する事により、『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』の破壊は免れる!」
《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》
攻3300 → 2500
「オレは、これでターンを終了する!」
ユート:
モンスターゾーン 『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』
魔法&罠ゾーン セットカード2枚
手札 1枚
ターンの終了を宣言したユート。
……その時……
「……フッ、流石、コイツ等を率いているだけの事はあるな」
ようやく、鬼柳はほんの一瞬だけだが笑みを浮かべていた。
「お前はただ勝とうとしている訳じゃない。デュエルでオレの心を引き出そうとしているのだろう? 分かるよ……オレの仲間にそっくりだ」
「貴方の仲間? いや、それよりもそれが分かっているなら――――」
「悪いなユート。駄目なんだよ、どうでもいいんだ」
ユートの言葉に被せるかのように、一瞬だけ笑った顔をいつもの虚ろな表情に戻して鬼柳は言う。
「……何が、どうでもいいんだ?」
「生きていても、死んでいても……オレのターン、ドロー!」
鬼柳 手札0 → 1
曖昧な返答しか返さぬまま、鬼柳はカードをドローする。
これ以上は語らせるのは無理だと判断したのか、今は鬼柳のターンの行く末を見守る事にした。
「永続罠『強化蘇生』を発動。自分の墓地に存在するレベル4以下のモンスター一体を選択肢し、そのレベルを一つ、そして攻撃力を100ポイント上げて特殊召喚する。オレは『猿魔王ゼーマン』を特殊召喚」
「何っ!?」
《猿魔王ゼーマン》
ダークシンクロ・効果モンスター
☆-7 → -6/闇属性/獣族/攻2500 → 2600/守1000
そのステータスと強力な効果故、ユートも、そしてレジスタンスのメンバーの皆が失念していた。ダークシンクロモンスターのレベルはマイナスの値。
それは即ち、低レベルのサポートカードの恩恵を受けられるという事に他ならないのだった。
「更に、手札から『DTダーク・エイプ』を通常召喚」
《
効果モンスター(ダークチューナー)
☆2/闇属性/獣族/攻0/守0
そのモンスターの出現に、ユートは思わず冷や汗を流してしまう。
――――また、新しいダークチューナーモンスターが現れたのだ。
そして、ユートはハッとなる。
(今の『猿魔王ゼーマン』のレベルは-6……この『ダーク・エイプ』のレベルを引いたら……まさか……)
――――レベルは、
「レベル-6となった『猿魔王ゼーマン』に、レベル2のダークチューナー『ダーク・エイプ』を
――――全て、計算尽くだったのだ。
態々『ゼーマン』の効果でハンドレスにし、更に『ゼーマン』が破壊される事まで見越して、レベル調整と同時の蘇生までやってのけた。
全ては――――
『ダーク・エイプ』の身体が消え、二つの星が飛び出す。
二つの星はそのまま『ゼーマン』の身体へと入り込み、それと同時に闇に変わる。
「漆黒の帳降りし時、冥府の瞳は開かれる、舞い降りろ闇よ!!」
『ゼーマン』の身体が砕け散り、八つの闇が飛び出す。
先ほどと同じように、それらの闇は円系に回転し始め、やがてそれらの間を黒い稲妻が迸る。
「ダークシンクロ……!!」
凄まじき轟音と共に、巨大な闇が広がってゆく。
そのエネルギー量は、先の『ゼーマン』の時など比ではない、正真正銘の冥府へと誘う闇。
その闇に潜みし冥府の瞳が、次々と開けられる。
上から、二つの道に分かれるかのように、紫色の瞳が次々と開かれてゆく、その目の列に沿うかのように、一匹の龍の影が顕となる。
そして中心の最後の瞳が開かれると同時、闇は晴れる。
「出でよ! レベル-8! 『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』!」
全ては――――この龍への布石だったのだ。
本当はもっと書く予定だった筈なのに、またアイドラオチ……この癖どうにかならないものか
・インフェルニティ・ドワーフ
相変わらずの犠牲者。
・猿魔王ゼーマン
今回の犠牲者その2。モンスター版『デプス・アミュレット』のようなものなのでハンドレス完成に貢献。ハンドレス完成後は最早不要となり、レベル調整による蘇生の後に速攻でワンハンの素材にされた。
書いてて思った事……やっぱダベリとダークシンクロモンスター相性わりぃ……