鉄仮面の少女と穏やかな日常。   作:古路 東

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買物客は鉄仮面。

ふわふわとした足取りで、人々の合間合間を縫う様に歩く。見たことのない景色、不思議だわ。柄にもないが、私はそれだけ心の悲しみから抜け出せていないのだろう。初めての街並みに中々の上機嫌で街を散策する。ここは何かしら、?へぇ、箒店ね…。

そんな風に立ち止まっていれば、肩から背中に掛けてに軽い衝撃を受けた。

吃驚し、身体を揺らした後、何事かと振り向けば、明るい髪色の少女が目をぱちくりとさせながらあわあわとたじろいでいる。

 

「ご、ごめんなたき!あっあ、噛んじゃった、えっとえっと、ごめんなさい!」

 

「…いえ、別に。」

 

「あっ、えっと、その、貴女もホグワーツに通うの?」

 

困った様に眉を下げる少女。問うてくる相手に少し、ほんの少しだが顔が緩む。同年代なのだろうが、少し幼げで可愛らしい。

 

「…えぇ、貴女も?」

 

少女の咽喉が小さく震え、薄い唇が動く。

 

「私も今年から入学するのよ!貴女の名前は?私の名前はジネブラ・モリー・ウィーズリーよ」

 

明るい声色は、孤児院の少女達を彷彿とさせる。

 

「私はレイラ…ポッターよ。」

 

長めの髪を緩く揺らしながら、凍てつく視線を寄越しながら一言。

先程教えられた自身の苗字を嫌々に名乗れば、相手の顔に疑問符が浮かぶ。

 

「ポッター?ポッターって、あのポッター?え、でもハリーには妹なんて居ないはずでしょ?」

 

「あぁ、ええと…その事に関してはちょっと理由があって…」

 

「うん、何があったの?」

 

「…ここで説明するのも面倒くさいわ。もし今度逢った時になら、教えてあげる。じゃあ、私は先を急ぐから。」

 

「えっ、あっ、待って!」

 

その言葉は耳に届いたが、振り返ることはなかった。

 

 

 

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「大体揃ったわね…」

 

服の仕立てに本の入手。薬屋に行って色々買い込んだりした。ずっしりとした皮袋は結構軽くなった。

まぁ、代わりに持ち物が増えて肩がとっても痛いけれど。

それ等が終わり、取り敢えず次に行こう、と足を前へと動かす。

すれば、一軒の店。

メモに有った通りの館住まい。

 

「次は、ここね」

怖がることなんかない。シスターに育てられた娘が怖がってなるものか。

ギギ、と蝶番を軋ませ扉を開ければ、飛び込んできたのは箱の山。

異色な光景に圧倒され、息を飲めば、ひとりの人影が語り掛けてきた。

 

「おやおや。いらっしゃいませ。お逢い出来て光栄です。レイラ・ポッターさん。あぁ、失敬失敬。ここの店の店主、オリバンダーです。堅くならずオリバンダーとでも呼んでください。」

 

つらつらと紡がれた言葉が此方へと向けば、何故私の名前をと頭に疑問を浮かべるが、ここでペースを握られるのは癪だと表情一つ変えずに、それでも薄らと頬に笑みを湛え、会釈する。ちゃんと外面は作れているだろうか。

 

「こんにちは、オリバンダーさん。失礼ですが、何故私の名前を?私は貴方とお逢いした記憶なぞございませんが。教会に立ち寄ったりなど?」

 

「はっは、そんなに構えないで下さい。貴女の目を見れば解ります。貴女の目は、貴女の兄、ハリー・ポッターに瓜二つですよ。その髪色と肌の色は貴女の家族の誰にも全く似てはいませんがね。」

 

「…そう、ですか。」

 

ここでも、兄。本当は兄なんかいない、私の母はヘーゼルの目とシグナルレッドの髪の女性だと叫びたくなる。でも、私は聞き分けのない子供ではない。髪と肌の色が全く違うと聞けば少しの心の安寧が出てきた。はぁ、と息を吐けば、老人に目を向ける。

 

「オリバンダーさん、オリバンダーさん。私に杖を売ってはいただけませんか」

 

「あぁ、失礼。つい年甲斐もなくはしゃいでしまいましたね。えぇ、お売りしますよ。少々お待ちをば。」

 

「はぁ」

 

そうとだけ言えば、椅子から降り、奥の棚の合間に隠れてしまう。それを目で見送るでもなく、わくわくして待つでもなく、ただ静かな時間を過ごす。自分の溜息だけが大きく聞こえるのは懺悔室を思い出す。

 

「ありました、ありましたっと…ハンノキ。心臓の琴線を芯に使った10cmの杖です。お持ちになって見て下さい。」

 

表情を変えないままにそれを持てば、不快感に思わず顔を顰めてしまう。これは、あぁ!

灼ける!痛い、喉が、手が、指が、脳が、臓器が!

 

「……ッ、すみません、私には…これは」

 

その杖には、何か熱い物が渦巻いていて、私には到底扱い切れない。そう心から感じ、数秒持って見ただけで叩きつけるように杖を置いてしまった。

 

「あぁ、残念です…暫しお持ちを。」

 

またどこかへと歩いて行ってしまったオリバンダーを、視線で追えばじんじんと痛む錯覚のする手を摩る。杖ってこんなに怖いものなの…?

心が折れそう。

 

「よし、これならば、如何でしょうか。ブドウの木の杖。24cm、一角獣の鬣が芯。真実、直感、女性的なイメージを持つ杖です。如何ですか?」

 

顔を顰つつそれを手に持つも何かが食い違う様な違和感を感じて、ぱちりと瞬く。

瞼の裏に浮かぶ利己的な女性。こちらを睨んであっかんべ。

 

「これも、何だか違うような気がします。」

 

やんわりと杖を置けば、これにはオリバンダーの店主も困り顔。

 

「そうですか…いえいえ、しかしですね、この仕事はやり遂げてみせますよ!」

 

息衝いた様に力強く言えば、奥へと消えていく。忙しない。

 

「…矢っ張り、私は魔法使いなんかじゃ無いんだわ…」

 

ぐ、と唇を噛み、憂鬱だ、と空を仰ぎ見る。どうせなら、この状況に合わせてやろうかと思っていたのに。…どうして、私は、こんな事をしているんだろうか。あぁ、鬱だ死のう。

天井をぼうっと眺めていれば、ふと目に留まった箱に視界を全て奪われる。その箱と自分の体だけが白い空間に浮かぶ。そんな錯覚がした。

何やら歯車と時計と十字架の装飾のされた、一風変わった箱に収められた杖。あれ、かも。

 

その杖に、何やら運命感を感じ、軸から外れた歯車が、仲違いしていた時計の針が、正反対になっていた十字架が、全て直ったような、不思議な浮遊感、合致感に生唾を飲み込む。

 

「あ…あの、すみません、オリバンダーさん。あの杖、見せていただけませんか」

 

思わず、張り付いたままだった口が開く。声が震える。手が、戦慄く。

こちら側へと出て来たオリバンダーは、頷きながらに脚立に登り、器用にその箱を抜き取り、降りてくる。

 

「えぇと柳の木の杖、神秘、変化の意味を持つ杖です。5cm、太くて短過ぎる。これは…うちでは本来扱わない、その…処女のヴィーラの、陰毛を芯に。一番位の高いヴィーラのものですから、かなり力を持っているはずですが…」

 

その言葉に、背筋がぞくぞくと跳ねる。

 

神秘?変化?そして、処女?あぁ、私に相応しいじゃない。

きっと、神が私にお与えになられたのだ。

 

「失礼しますね、杖さん。」

 

その杖を持った刹那。

眩い光が放たれ、杖が二つに割れ、縦にすらりと伸びて二つの杖となり、ミザリーの手に舞い下りる。

 

「こ、これは…素晴らしい、この杖にこんな力が有ったなんて。いやはや、不思議ですな。少し失礼…完全に分離している。ただ、強い力で引き合っている…何かの拍子に戻るかもしれない。…柳の木の杖、5cmもとい38cm!いやはや大物。しかしながら軽い、タクトのように軽い。これなら、女性の貴女にもきっと扱える。ヴィーラの体毛は合わない方が殆どなのですが、よく馴染んでいる。…この杖は、色んな人に試して貰ったのですが、全然買い手がつかない、所謂残り物でしてね。きっと、杖が貴女を選んだのでしょう。さて、この杖に決めますか?」

 

 

「…ふふ、勿論。」

 

杖が、震えた様な気がした。




2019/4/7
杖の描写及び設定変更
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