「いっそげ急げー!遅れちまうぞーう!」
急ぎ早やに足を動かす民衆の合間合間を縫って歩く。
キングスクロス駅は人と喧騒が沸き立っている。
「解ってるわよ…!」
相手の言葉に苛立ちカツカツとヒステリックにブーツを鳴らして歩く。籠の中の梟にはカルロッタと名付けた。
昨日アレから考えたのだが、別の可愛らしい名前や、マリアなんて付けてもいいだろうかなんてネグリジェを纏いながら考えた。だが…どうにもやっぱりあの子の影がチラつく。仕方なく、ではあるが、その子から名を拝借して、カルロッタ。母…否、シスターがつけた名前、私は好き。
ふと、こんな騒がしい駅なんてきたことがなかったななんて、薄ぼんやり考えてしまう。
ここは大勢の人が行き交っていて、一秒たりとも風景がじっとしていることがない。
まるで全ての無機物までもが生きているように見える。
人間の身体で例えれば、この駅は心臓だ。
あちこちに延びた道路や線路は血管で、道行く人たちは差し詰め血液ね。
心臓は今日も大量の血液を街の隅々にまで送り出す。
あぁ、詩的に考えている暇は無いんだった。
一瞬だが伏せていた目を上げれば、あの巨体の、逸れるはずもないハグリッドが居なくなっていた。
「っ…?」
いや、焦るな。
周りの人に声をかけてみるべきか。否。そんな無粋な真似はしたくない!そう私のプライドが言っている!致し方無い。取り敢えず頑張って探してみよう。
急ぎ足にブーツを鳴らし、長い髪を揺らして走る。刹那、見覚えのある赤髪の少女が視界の端を掠めた。
其の事に驚いたのか、ブーツのヒールが食い違い、足首を軽く挫いてしまう。
「っ!つ、ぅ…」
さして痛くは無いが、衝撃でその場に踞る。長い髪が地面について、情けない気持ちで目の前が滲む。
こんなに自分が打たれ弱いとは知らなんだ。屈辱的なまでの自分の身体能力に涙が出そうになる。神よ、私を救いたまえ。出来れば翼を授けて。
だが、来たのは髪でも天使でもなく、私の様子に気付いた赤髪のふくよかな婦人と赤髪の少女。駆け足でこちらに寄ってくる。羞恥が顔を覆う。
「あらあらまぁまぁ大丈夫?立てる?」
「ぅ、あっ、だ、大丈夫です…」
「あっ!貴女、あの時の!」
遠目に見ていた少女が視線に気付いて、驚いた表情を浮かべて問うてくる。あぁ、赤毛の子。今だけは見ないで、恥ずかしいから。
「取り敢えず、貴女、ホグワーツの新入生でしょう?特急列車に乗り遅れちゃう!急いで行きましょう。」
矢継ぎ早に連なる言葉にたじろぐが、頷き、立ち上がればコートの汚れを確認し、脹脛まである髪もパタパタと叩いてなんとか土を払う。
「うちのジニーも今年新入生なのよ。えっとね、3/4線は、あの柱に向かって走って行けば行けるのよ。ほら、ジニー!御手本見せてあげなさい、!」
そう婦人が言えば、少女は頷く。
「う、うん、解ったよ、ママ。」
ぎゅっ、とカートの手摺を握りなおし、恐る恐る、だが勢い良く、柱に飛び込んでいく。
「、ひ、っ、」なんて情けない声が出て、その行為の痛々しさに思わず肩を竦める。
だが、私の心配とは真逆に、ジニーは柱に吸い込まれて、跡形も無く消えてしまう。
「え、あ、っ?」
「さ!次は貴女の番よ!乗り遅れちゃうわ!早く!」
?
??
???
飛び込め?
嘘でしょ?
頭の中の小宇宙に猫が浮かぶ。
スペースキャット。
「ほら!急いでっ!」
その、良く通る言葉に押されるままに私は足を動かしていた。
柱が、硬い柱が、あぁ、ぶつかる。
刹那、眩い光に目がチカチカした。
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暗転。
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次に目に飛び込んで来たのは、沢山のローブを着た人々と、彼らが乗り込んで行っている列車。
ぽかん、と立ち竦んでいれば、先に汽車の側に来ていたジニーが走り寄ってくる。
「何をしてるの!急いで行きましょう!遅れちゃうわ!」
訳の解らぬまま、手を引かれて列車に飛び乗った。