鉄仮面の少女と穏やかな日常。   作:古路 東

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功利主義って訳でもなく、冷淡って訳でもなく、仮面の下はただの少女なんです。感情表現が些か極端なだけで。そういうレイラちゃんです。


友人は金で買える、だが友情は一から作らねばならない。

「……」

 

「……」

 

しん、と静まり返ったコンパートメントには、二人の少女が対になって座っている。

風と電車の揺れの微かな音さえ騒がしく聞こえるこの空気を、如何にかすると言う気はあるのだが…切り出し方がわからない。ここで口下手の弊害が出るとは。

相手が口を噤んだままなのを横目に見つつ、肌身離さず持っていた鞄を漁り、先日買い求めた教科書を軽く纏めた小さな手記を持ち上げる。

それを膝上に乗せれば、其の儘膝上でパラパラとページを捲って予習紛いな事を始める。だって、空気に耐えられない。

その間コンパートメントは、秒を刻む時間を感じさせないほどにしんとした。

私達だけが生きて活動している事を申しわけなく思う程に静止した雰囲気を醸し出している。

他人と居る個室はいつもこうだ。無言が喉を貫いて、粘度の高い唾液が舌に纏わりつく。腹がキュッと締め付けられて、胃が痛いって言うのかしら。とにかく、辛い。しんどい。

シャッ、ペラリ、紙の擦れる音がだけが心地良い。

あぁ、少し疲れてるからかな。

微睡みから抜け出せない。

眠たげに目を擦るも、とろん、と蕩けた瞳はぼんやりと文字の羅列を追い掛ける為に機能しなくなっていく。

目蓋が重い。薄く開けた眼から視覚情報がどろどろと入り込んできて、ふわぁ、と欠伸をひとつ。

 

「えっ、と…前に会った時、次会ったら教えてくれるって言ってた、よね?」

 

私の間の抜けた様子に顔をへにゃりと緩めながら先ほどとは違う同い年の子に向けるような眼差しを向けてくる。少しの畏敬も含まれたそれに、少しの居心地の悪さを感じて、もじもじと恥じらうような素振りを見せて、その赤毛をちらりと見た後重々しげに唇を開く。

 

「えぇ、その…ちゃんと話すわ、私口下手で…。さっきはありがとう。貴女のお母様にお礼を言わずに来ちゃったわ…助けてもらったのに。」

 

「いえ、いいのよ!ママったらお節介で…でも、貴女を助けてあげられたのはママのお陰だから、学校に着いて一段落したら一緒に梟便を出さない?」

 

パッと明るい表情ではにかむ少女は、ナチュラルにお友達になりましょう宣言をかます。可愛い。

彼女のペースで話されるのが苦痛ではないのは、やはり同年代だからか…理由は分からなかったが、初めての同性同年代の知り合いが出来たのは嬉しい誤算だった。

学校でも、独りぼっちだろうと思っていたし、何より私が魔法使いに拒否の姿勢を持っているから。

ふるりと顔を振って、ウィーズリーに微笑みかける。

 

「ふふ、優しいのね。是非一緒にお手紙を出させてちょうだい、無礼を詫びないと。」

 

彼女はにっこりと笑って私の膝の上の手を取ってぎゅっと握る。いきなりのスキンシップに細めていた目を見開いてテンパってしまう。えっと、あの、なんて漏れる声を気にかける様子もなく、彼女は溌剌無邪気に話を甘んじる。

 

「優しくなんかないわ!困っている人を助けるのは当然だもの、ね?…レイラって、随分お淑やかに喋るのね、もしかしてお嬢様?でも、ハリーの妹なんでしょ?」

 

「お淑やかなんてよして、これでも子供なのよ。…あぁ、そうだったわね。えぇ、と…私と、兄は多分、生き別れで。兄は血の繋がりの多少ある叔母の家へ、私はイングランドの辺境にある修道院へ送られた、らしい?」

 

「…なんだか聞いちゃって悪かったかしら…でも、辛くはなかったんでしょう?辛かったなら、えっと…私が全部聞いてあげる!辛いのは、嫌だもん」

 

私の拙い言葉に真剣に耳を傾けてくれるのはシスターや子供達以外に初めての体験で、申し訳ないというか、嬉しいというか。私が最後疑問形で締め括ったのにくすりと笑った彼女が、次の瞬間しょんぼりとした顔になる。なんだか、よく畑に訪れてはしょもしょもと萎れて人参を強請っていた兎を思い出す。キュンとなった心臓に疑問符を浮かべながらも、彼女の言葉に小さく笑んで、握られたままの両手をもぞりと動かす。

 

「大丈夫よ、平気。…良い人達だったわ、もう…会えないけれど、ね」

 

私の言葉にハッとして、いよいよ顔を蒼ざめてぎゅうぎゅうと手を握り締めてくる彼女の顔は涙ぐんだように赤くなっていて、ギョッとして「どうしたの」「具合悪いの?」「大人の人呼んできた方がいいかしら?」とかける私の言葉にふるふると首を振った後、小さく口を開いた。

 

「……か、」

 

「か?」

 

「可哀想なレイラッ!!私が貴女のお友達になって、寂しい思いさせないからっ!!ね!お母さんとはもう会えなくても、私が貴女のお母さんにだってなってあげ「待ってウィーズリー、その発言はやや危ないわ」

 

彼女はどうやら、私の母、もといシスターが逝去したと勘違いしたらしい。でも、彼女がこんなになっているところに水を差すのも…今度、今度言えたら言いましょう。えぇ、そうしましょう。

二人っきりのコンパートメントに少女の泣きそうな声と宥めるような声が響いた。




2話、3話でシリアス染みて出て行ったけど一年生終わりに普通に帰れる事を知って拍子抜けしてぼろぼろ泣いちゃうレイラちゃん書きたいです。(明後日の方向を見ながら)
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