「そう言えば、わたしのことウィーズリーって呼んでたけど…ジニーって呼んでほしいなぁ」
揺れる汽車につられるように髪が揺れる。その髪から覗いた耳の鼓膜を揺らした彼女の声にふと顔を上げては、少し身動ぎ視線を右往左往とさせる。
「きょ、今日会ったばかりなのにいいの…?私、友達って初めてで…その…」
「いいの!むしろウィーズリーなんて呼ばれた方が気不味いわ、それにレイラには私のここでの初めてのお友達になってほしいの!ね、いいでしょ?」
彼女の快活な様子にふにゃりと眦を蕩かせこくりと頷き、躊躇いがちに「ジニー、ありがとう」と呟き返す。咥内の下の上でジニー、ジニーと転がしては次に友達という新鮮な果実のような甘さの言葉に照れたようにはにかんだ。
ともすれば、突如としてガタンッ!と大きな音を立てて開け放たれた扉に二人揃って目を丸くしてそちらを見上げる。
「……アナタが、レイラ・ポッター?」
冷ややかな、嘲笑を含んだ声。その声の降ってきた上をジロリと見ては、頬に冷笑を湛えてこちらを小馬鹿にしたような表情を浮かべる少女がこちらを見ている事がわかる。
その少女の様子に黙りこくる。態度の大きい女は嫌いだ、だがそれ以上に…私の事を、ポッターと呼ぶヤツは碌じゃない。
「静かね、死んでるの?生っ白いおばけさん」
「…お生憎様、見えてるなら貴女も同類じゃなくて?」
「言うじゃない、混血風情が」
「ちょ、ちょっと」
ぽんぽんと出てくる軽口嫌味。私が何か言うたびに表情が明るくなるのは気のせいかしら。
まるで、言い合いが楽しい子供みたいに、彼女の笑い方が和らぐ。こちらは依然として表情筋を動かさずに目を見つめる。長く垂れた燻んだ金髪に気の強そうな表情。さしずめ悪役お嬢様ってところね。
ジニーが慌てた様子でこちらを見て、そのあと立っているその子を見上げる。その様子に少し笑って「何よ慌てて」なんて言いながらジニーの手を取る。
「貴女、そんなに怒ると青筋が立つわよ。折角綺麗な顔してるのに」
ジニーの手をきゅっと握りながらツンとして流し目をくれてやり、ともすれば彼女がわなわなと震えて目を丸くする。
指は私達の手を指し、視線は戸惑っているジニーと私に向けられる。何よその顔、と悪態を吐こうとして、だが彼女の言葉に遮られてしまう。
「な、な…!は、破廉恥!女の子同士でそんな事したらいけないのよ!?」
…は?何を言ってるんだコイツは。
じゃあ男女だったらいいのか、と食ってかかれば「ちがっ、私、あのね」と先の勢いをなくして俯いてしまう。
「ゆ、ゆっくりでいいわよ?ね、レイラ?」
「…まぁ、別に危害を加えようってんじゃないんでしょうしね」
苦笑してこちらに同意を求めてくるジニーから離れて、彼女を見上げる。一度聞きの体制に入った私を見ては、うーだかあーだか唸ってもじもじと指を突きあわせて、少し落ち着こうと深呼吸を一つした後口を開いた。
次の瞬間、ガッタンと大きな音を立てて車体が揺れ、ぐいーっと引っ張られる感覚がする。どうやらカーブに入ったらしく、他のコンパートメントからも女子の悲鳴が聞こえる。ここも例外ではなく、ジニーの驚いた声と…名も知らぬ少女が目を丸くして倒れかかって出た空気を飲む音が耳に届いた。
「……ッ!」
「レ、レイラ!」
瞬発的に床を蹴って扉の外へ出て、彼女の背を抱き地面とその綺麗な頭が打つかる約0.1㎜(感情的な描写込みで、ね)のすんでのところで抱き止める。
自分でもここまで早く動く事ができたのか、と驚いたが、それよりも腕の中で目を白黒とさせて顔を真っ赤にしている彼女についついふ、と笑ってしまった。
「…怪我は、ない?」
私の銀の髪がさらりと彼女の顔の横に落ちる。彼女は手をきゅっと握って石のように固まってしまって、その様子がさっきまでの高飛車なお嬢様のソレではなく、恋を自覚した乙女の顔であるのに何とは無しに吹き出してしまって、彼女がハッとして更に狼狽える。
「だ、大丈夫…だから…離してちょうだい…」
「まずはありがとう、じゃないのかしらね。」
ぽぽぽ、とあたりに花を散らすように顔を真っ赤にされればなんでこんなに狼狽えるんだと不思議でしょうがなくなるが、誰だって女に抱き止められたら恥ずかしいものかと一人納得してそのままぐいっと抱き上げ、腕をパッと離して軽く彼女の服を払ってコンパートメントを指差す。
「ほら、椅子に座って」
謎の少女の名前一回も書かなかった…一生の不覚、次書きます