いつかどこかの鎮守府で・2   作:華留奈羽流

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夕張編、今回は少し短めでしんみりです。


第10話

ヒトヨンマルマル 鎮守府 提督私室

 

夕張と話をしたいという母を

自分の私室まで夕張と連れてきた提督。

母親と夕張にはテーブルを挟んだ椅子を勧め

自分はベッドに腰をおろす。

夕張がお茶の用意をして一息ついたところで

 

「で、話って何?」

 

「そうね……単刀直入にうかがいますけど

 夕張さん、夜の生活はうまくいってる?」

 

「ブフッ!?」

 

単刀直入にしてもあまりにいきなりで

思わずむせる提督と夕張。

呆れながらも提督がたしなめる。

 

「……その前にもうちょっと訊くこととかあるだろ」

 

「そんなね、貴方も夕張さんも子供じゃないんだし

 恋仲の男と女が一つ屋根の下で暮らしていて

 行くとこまで行ってないわけないでしょ、ねえ?」

 

「はあ……いや、まあ」

 

困惑気味に否定とも肯定ともとれる生返事を返す夕張。

 

「問題は、相性ですよ、相性。

 どんなに好きあっていても、カラダの相性が悪いと

 ギクシャクしてきちゃうものなのよ。で、どうなの?」

 

どう返すべきか、答えに窮した夕張がチラと提督を見る。

半ば自棄になって提督が

 

「いや上手くいってるから!もう俺たち毎晩ハッスルだからね!」

 

「お前には聞いてませんよ。

 まあでも、その様子なら安心ね。

 これなら、孫の顔が見られる日もそう遠くないでしょ」

 

と、一口お茶をすすってから

それまでよりも真顔になって

 

「話は変わるのだけど……忠孝、私の実家の姓を覚えていて?」

 

いきなり変わった話題に、提督が記憶を掘り起こす。

 

「母さんの実家?……奈良、だよね?」

 

「え……?」

 

提督の答えに、夕張が目を見張る。

 

「そう。そして、私の祖父は奈良孝雄です」

 

ソファから立ち上がる夕張。

 

「そ、それって、、もしかして……?」

 

「覚えていてくださったのね。

 私の祖父が、貴女が艦だったときの、最後の艦長の奈良孝雄です」

 

「そうだったの!?」

 

提督は驚きのあまり立ち上がり、母親と夕張の顔を交互に見る。

 

「お祖父さんも海軍軍人だったことは何度も話してるでしょう?」

 

「いやそれは聞いてたけど……まさか実艦の夕張の艦長だったとは聞いてないよ」

 

「そうね……そこまで話す機会もありませんでしたからね。

 でも、今度の件でどうしても会ってみたくなってねぇ……」

 

夕張がうつむき加減になって尋ねる。

 

「あの……私が沈んだ後、艦長はどうなったのでしょう?」

 

「無事に日本に帰り、航空学校勤務になって……

 そのまま、また船に乗ることはなく終戦を迎えたそうです。

 長門さんにも言いましたが、祖父は私によく船の話をしてくれました。

 中でも……貴女の話を、一番よくしてくれました……」

 

遠い昔を懐かしむように、中空に視線を向ける。

 

「小さな体に、工夫を重ねて精一杯の装備を載せて、大きな船に立ち向かった。

 まるで、当時の日本のような船だったと、貴女のことを自慢げに語っていました」

 

ついで夕張の顔を正面から見つめる。

 

「そして、あなたを沈めてしまったことを、とても悔やんでいました。

 なんとかして連れて帰ってやりたかったけれど

 それもかなわず、沈めることになってしまって

 『実の娘を海に置き去りにしてしまったような気持ち』だったそうよ」

 

ドスン、と崩れるようにまたソファに腰を下ろし

夕張は両手で顔を覆う。

その隙間から涙が伝い、落ちる。

 

「……貴女と忠孝の事を聞いて、どうしても直接会って

 この祖父の思いを、貴女に伝えたかった。

 そして、忠孝に、この不思議な縁を大事にするように伝えたかった。

 色々な所に無理を言ってここまで来てしまったけれど、やっぱり、来てよかったわ」

 

顔を覆っていた両手を離し、夕張が涙の残る目で提督を見つめる。

 

「ゴメン……私……お母様に本当のこと、言いたい……」




太平洋戦争時の軽巡夕張の最後の艦長、奈良孝雄氏から
お名前や本土帰還後の状況などを拝借しました。

*本作はフィクションであり、実在した奈良孝雄氏や団体などとは関係ありません*
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