いつかどこかの鎮守府で・2   作:華留奈羽流

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ダラダラと続いてしまった夕張編、ようやっと完結です。


第11話

夕張の訴えに、はあ、とため息をつく提督。

 

「いや、俺から言おう。元はといえば俺のまいた種だしな」

 

そう言うと母親に向き直り

 

「母さん……ホントのところ、俺と夕張は……別に恋人というわけじゃないんだ」

 

「……あら?」

 

キョトンとした母に提督が続ける。

 

「その……俺が見合いがイヤで、言い逃れのために

 たまたま手元にあった夕張の写真を彼女だって言って送っただけなんだ。

 母さんがわざわざ会いに来るとは思わなかったからさ。

 そういうわけで、夕張はいわば被害者なんで、叱るなら俺を叱ってくれ」

 

――そのときの様子を後に夕張はこう語る。

 

まるで、空間が歪んだかのようだった、と。

 

部屋のあちこちから、ピシリ、と家鳴りが聞こえてくる。

誰もピクリとも動いていないのに、茶碗がカタカタと震えだす。

部屋の周囲が何故か歪み、渦巻くように波うって見える。

 

その歪みの中心に、表情を変えず提督を見る母がいた。

 

(ああ……これは、かなりキツイのが来るなぁ……)

 

提督は自らの運命を悟ったように天を仰ぐ。

 

が、張り詰めた空気は突如として消え

母がガックリと肩を落としてため息をつく。

 

「……なんだか、男と女の関係にあるにしては

 雰囲気がぎごちないとは思ったのよねぇ」

 

二人が内心ホッとしながら頭を下げる。

 

「いやほんとゴメン」「申し訳ありませんでした」

 

「夕張さんはいいんですよ、むしろこんな茶番に巻き込んでしまって

 こちらのほうが申し訳ない気持ちだわ。

 でも、お祖父様の気持ちを伝えるという、もう一つの目的は果たせましたから

 お互い、それでよしとしましょうか……で、忠孝?」

 

じろりと提督を睨みつける。

 

「ハイッ!」

 

思わず直立不動になる提督に、冷徹な口調で母が告げる。

 

「貴方、今から夕張さんを口説いて彼女になってもらいなさい」

 

「は?」「へ?」

 

「何を呆けているのですか。嘘から出た実、とも言うでしょう。

 せっかくご縁のある夕張さんがお傍にいらっしゃるのだから、これはいい機会です。

 夕張さんを口説き落として、嫁に来てもらえるなら、それで今回のことは不問とします」

 

「いやそんな急には!夕張の気持ちだってあるし!?」

 

「……脈はあると思いますよ?

 本当にイヤな相手だったら、たとえ芝居でも恋人のフリなんか引き受けません。

 そうでしょ、夕張さん?」

 

「え!?……いや、まあ……その……」

 

言葉を濁してモジモジする夕張。

 

「ほら早くしなさいな。こういう時、女は男の言葉を待ってるものなのよ?」

 

「いや母さんが見てるところで女の子口説いたりできないし」

 

「……お前はホント、昔から女の子相手だと意気地がないのよねぇ」

 

「意気地があっても実の母の前では普通しないよ!?」

 

「じゃあ、母さんちょっと部屋を出ててあげるから

 その間にキメちゃいなさい。2時間あればいい?」

 

「何その休憩時間的な席の外し方!?ていうかキメちゃうって何を!?」

 

「何をって……ナニよ。ベッドもあるんだしちょうどいいじゃない」

 

「できるかー!?」

 

「いいからさっさとヤっちゃいなさい。

 ……2時間たって、デキてなかったら……わかってるわね?」

 

ほんの少しだけ、また周囲の空間が歪む。

 

助けを求めて夕張を見れば

何やら妄想中らしく、イヤンイヤンとか言いながら顔を赤くして身をよじらせていて

全然助けにはなりそうにない。

 

提督、絶体絶命と思われたそのとき

 

「お待ちください、お母上様!」

 

バァン!と勢いよくドアが開かれ

長門以下の艦娘たちが部屋になだれ込んでくる。

助かった、と提督が思ったのも束の間

 

「てっ…提督の嫁候補ということであれば、我らもお加えいただきたく!」

 

状況がさらに悪くなっただけであった。

 

「あら……忠孝、他の皆さんは口説き落としていたの?」

 

「いや別に口説いた覚えは……ないことも、ないような……あるような……」

 

「ハッキリしないわねぇ……ぶっちゃけ、もうヤっちゃったのは誰なの?」

 

「いや慕われてはいるけれどもヤってないから!」

 

「そうやってね、ズルズル答えを引き伸ばしてると結局誰も落とせないのよ。

 二兎を追うもの一兎を得ずというでしょう?」

 

夕張がうーん、と考えてからニコッと笑う。

 

「お母様、それはちょっと違います。

 追いかけてるのは私たちで……提督がウサギですからね!」

 

こうして

ウサギ提督の言葉の意味が一つ増えたのだった。

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