いつかどこかの鎮守府で・2   作:華留奈羽流

13 / 16
幽霊バナシからの~ヴァレンタインネタ。しかも2日遅れ。


第13話

マルハチマルマル 鎮守府 食堂

 

フライング・ダッチマン。さまよえるオランダ人。

二百数十年にわたり伝わる、おそらく、世界でもっとも有名な幽霊船の伝承の一つである。

とはいえ、まさか提督も、総司令部から通達のあった幽霊船が

フライング・ダッチマンだったとは想像だにしていなかった。

そのフライング・ダッチマンの船長、デッケンが今

 

「うまあああぁぁぁい!!」

 

鎮守府の食堂で、ソーセージを齧って大声を上げていた。

 

(司令本部がお探しの幽霊船は現在、当鎮守府に停泊中で

 船長は今ウチで朝飯を食ってます……ダメだこんな報告できねえ)

 

頭を抱えたくなる提督の横で

鳳翔がデッケン船長ににこやかに語りかける。

 

「オランダの方、とうかがいましたので

 なるべくお口に合うようなものを選んだつもりなのですが……

 いかがですか?」

 

「いやぁ、どれも大変けっこうです!」

 

桟橋で保護(?)されたあと

デッケン船長が何か食べたいと言うので食堂に連れていき

鳳翔に急いで彼向けの朝食を用意してもらったのだ。

 

彼女が用意した朝食は

パンとたっぷりのコーヒーに

茹でたソーセージと固まりのままのチーズ。

細切りにしたジャガイモとキャベツの炒め物。

 

これらを船長はすごい勢いで食べ、舌鼓を打つ。

 

「……幽霊のくせによく食うなぁ」

 

向かいに座った提督も、話を吹雪から聞いて集まった艦娘たちも呆れる食べっぷりである。

 

(というか、普通に実体のある幽霊ってアリなんだろうか?)

 

「なんせ(モグモグ)……7年ぶりの食事(ムグムグ)……ですからな(ゴクン)」

 

「7年も食べてなかったんですか!?」

 

「いや、海にいるときは腹も減らんのですがね?

 こうして上陸すると、どういうわけか普通に腹も減るし喉も渇くしでね。

 あ、コーヒーお代わりよろしいかな?」

 

「そんなにガッツクくらいなら、もっとまめに上陸すればいいのに」

 

隼鷹がもっともな意見を言う。

 

「おや、我輩の呪い、ご存知ない?」

 

「知ってるけどさ……確か港に入ろうとしたけど、風向きが悪くてなかなか港に入れなくて

 神様に悪態をついたら呪われて、海をさまようことになった……だっけ?」

 

「そうそう。それでね、我輩ずーっと海を彷徨ってるだけって酷いじゃないかと

 神様に文句を言ったんですよ。ええ、どうせもう呪われちゃってるからね。

 そしたら『じゃあ7年に1回、1日だけ上陸していいよ』ってことになったんですな」

 

「ずいぶんフランクな神様だなオイ」

 

呆れる隼鷹をよそに提督が尋ねる。

 

「で、7年ぶりの上陸に、この鎮守府を選んだ理由は何なんです?

 まさか朝飯食いに上陸したわけじゃないでしょう?」

 

「もちろん、ちゃんと目的がありますぞ!

 実は、こちらから我輩に近い気配を感じましてね」

 

「高雄、利根って再建造されてたっけ?」

 

「まだです。仮に再建造されていてもここの配属にはならないです。

 というか、一人称だけじゃないですか近いの」 

 

「その利根さん、という方は知りませんが

 ここには、深海棲艦と呼ばれるお嬢さん方がいらっしゃいますな?」

 

「ええ、3人ほど……ああ、来た来た」

 

少し遅れて、深海棲艦の3人が食堂にやってくる。

センちゃんこと戦艦棲姫がデッケン船長に目を向け

 

「あら……やっぱり、貴方だったのね」

 

「はい、ご無沙汰しておりました。相変わらずお美しい」

 

「え、何……知り合い!?」

 

驚く提督にセンちゃんが

 

「ええ、だいぶ前のことだけど

 私の支配海域にデッケン船長の幽霊船がやってきてね」

 

「いやあ、何だか我輩のご同業っぽい感じがして訪問したんですが

 いきなり砲撃でご挨拶されて驚きましたウハハハハハ!」

 

「驚いたのはこっちよ。砲弾が全部すり抜けちゃうんだもの」

 

「……幽霊船だからなぁ。じゃあ、彼女に会いにわざわざここまで?」

 

「左様!しかも、今日が何の日かご存知でしょう?

 そう!聖ヴァレンタイン・デー!」

 

「……ああ、うん……そうですね」

 

提督とて、今日がヴァレンタイン・デーであることぐらいわかっている。

が、自分の状況を考えると色々トラブルが起きそうな気がして

あえて気づいていないフリをしていたのだ。

 

「この国では、女性がチョコレートを渡すことで

 男性に愛を告白する一大イベントの日!ですな?」

 

「そうだけど……どこからそういう情報仕入れてくるんですか」

 

「ま、色々ありましてね。

 で、この機を逃すわけにはいかん!ということでして

 わざわざ上陸日を今日にずらしてきたんですよ」

 

「……最初に会ったときからこうなのよこの人」

 

センちゃんは少しゲンナリしている。

 

「なんでまたそんなにヴァレンタインデーに入れ込んでるんですか?」

 

「おや提督閣下はご存知ない?

 我輩にかけられた呪い、上陸したときに女性の愛を受ければ解けるんですよ。

 歌劇にもなってるんですぞ?まあ我輩は見たことありませんがねウハハハハハ!」

 

ちなみに、歌劇に出てくるデッケン船長はこんなのではない。っぽい。

 

「さあ!貴女からの愛を受けて、我輩の呪いは解かれるのです!

 ギヴミーチョコレート!」

 

我輩の胸に飛び込んでおいで、みたいな両腕を広げたポーズで

デッケン船長はセンちゃんに近づくが

 

「悪いんだけど、貴方に特にそういう感情は持ってないの」

 

「うーん、相変わらずクールですなぁ。

 ……いかがですかな、他のお嬢さん方?

 我輩にチョコレートをお渡しいただける、心優しい麗しいお嬢さんが

 一人ぐらいはいらっしゃるのではありませんか?」

 

周囲を見回す船長の視線の先で、提督以外が顔を見合わせる。

 

もちろん、彼女たちもチョコは用意しているが

それは提督に渡すためのものである

そしてこの鎮守府には男性は提督しかいない。

つまり、義理チョコを用意する必要がないので彼女たちのチョコの用意は一つだけで

デッケンに渡してしまうわけにはいかないのだ。

 

皆が黙っているとデッケン船長は

 

「おや?……ふむ、なるほど人前で渡すのは流石に照れくさいですわなウハハハハハ!

 では我輩、この施設を見学させていただきますので

 頃合を見計らってお訪ねください!お待ちしておりますぞー!」

 

フタサンマルマル 鎮守府 桟橋

 

「……何故だ……何故誰もチョコをくれないのです!?」

 

海に帰る時間が近づき、デッケン船長は桟橋に戻っていた。

もう夕食もすみ、就寝時間もすぎた今になっても

デッケン船長にチョコレートを渡す奇特な人物は現れない。

そもそも、センちゃん以外は今日が初対面なのに

チョコをもらえると思っているほうが図々しいのだが。

 

「まあ……また来年があるから」

 

一緒に行動していた提督も同情するよりは呆れていたが

一応慰めの言葉をかける。

 

「ありませんよ!?次に来られるのは7年後ですよ!?」

 

秘書艦として随伴していた高雄にいたっては

せっかく秘書艦として二人っきりになり、提督にチョコを渡す絶好の機会がつぶされ

むしろ怒っていた。他の艦娘たちも提督にチョコを渡す機会を失っていたので

公平といえば公平なのだが。

 

「バカめ、と言ってさしあげますわ」

 

「あああんまりだああああ……」

 

騒いでいると、提督は物陰からこちらをうかがっている人影に気づく。

軽巡棲鬼――ケイだった。

近寄ってきて提督に耳打ちする。

 

(あの……いいかな、パパ?)

 

(どうした?)

 

(私、いちおうパパに渡すつもりでチョコを用意してたんだけど

 パパは他の皆からもらえるから

 このチョコ、船長さんにあげてもいいかな?)

 

ケイは提督のことを「パパ」と呼ぶように

異性としてはそれほど意識していない。

なので用意したチョコも最初から義理チョコだったのだ。

 

ケイの優しい一面を見て、提督は微笑ましい気持ちになる。

 

(ああ、かまわないぞ。俺は気持ちだけで十分だから

 そのチョコは船長にあげてくれ)

 

(うん、わかった)

 

ケイはくるりと泣き崩れているデッケン船長に向き直り

 

「船長さん、よかったら私のチョコ、受け取って!」

 

と小さなハート型の包みを差し出す。

 

「え……?……おお、なんと……!なんとお優しいお言葉!!

 いただきます!いただきますぞ、貴女のお気持ち!!」

 

悲しみの涙を喜びの涙に変えて

デッケン船長はチョコの包みを受け取り、押しいただく。

そしてそのポーズのまま

 

風に崩れる砂山のように、さらさらと崩れていった。

 

「え!?どうしたの船長さん!?」

 

一日だけの、騒がしい訪問客だったが

少ししんみりして、提督がささやくように告げる。

 

「……ケイ、彼は女性の愛を受けると呪いが解けるんだ。

 今、安らかな眠りにつこうとしている」

 

崩れていく、最後の船長の表情は穏やかだ。

ケイがぽつりと漏らす。

 

「……義理チョコだったのに」

 

と、崩れていった船長の姿が逆再生のように戻ってきた。

 

「え、何です義理チョコって!?」

 

肩透かしを食った気になって提督が怒鳴る。

 

「義理でも何でもいいから成仏しとけよ!」

 

「嫌ですよ!260年も呪われてて今さら義理チョコで成仏とか!

 我輩は真実の愛でこそ呪いを解いていただきたい!」

 

ジト目になったケイが手を差し出す。

 

「じゃ、チョコ返して」

 

「いやそれはそれ、これはこれで……

 おおっと、そろそろ上陸時間はおしまいのようです!」

 

船長がサッと手をあげると

再びフライング・ダッチマンがその姿を現し

次いで船長の姿が桟橋から消え、船の舷側に戻っていた。

 

「我輩はこれにて失礼!またお会いしましょう!ウハハハハハハ!!」

 

現れたときと同じように、深い夜霧が船体を隠し、そのまま消えていった。

 

「……行っちゃいましたね。

 それより……提督、私から、その……チョコレートが、ですね?」

 

高雄がもう辛抱できないといった感じで提督に迫る。

が、提督は悠々として懐中時計を取り出し、高雄に見せる。

 

深夜0時

 

「日付、変わってるけど」

 

ガックリと肩を落とす高雄。

 

「あっ!」

 

急にケイが声をあげる。

 

「どうしたケイ?」

 

「ホワイト・デーのお返し、どうするんだろう?」

 

「知らんがな」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。