いつかどこかの鎮守府で・2   作:華留奈羽流

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イベントがあったり私事でいろいろあってだいぶ間隔が空いてしまいました。


第14話

ヒトヨンマルマル 鎮守府 提督執務室

 

変わりばえのしない書類仕事。

提督と今日の秘書艦・長門が退屈しかけたころ

執務室のドアがノックされる。

 

『提督ー、夕張だけどー』

 

「どうぞー」

 

提督が了承すると夕張が入室する。

その肩に小さな――夕張の頭ぐらいの背丈しかない――人の姿をした何かが乗っていた。

 

この小さな人が妖精さん。

鎮守府で艦娘の建造、艤装の製作といった職務に始まり

メンテナンスなどの艦娘たちの後方支援など様々な仕事が

沢山の妖精さんたちによって行われている。

提督がいなくなっても鎮守府は回るが

妖精さんがいなくなったら鎮守府は一日ともたないと言われている。

 

夕張の肩に乗った妖精さんに提督が気づく。

 

「おや?珍しいね、妖精さんがここまで来るなんて。何か緊急?」

 

普段はほとんどの妖精さんは工廠かドックにいて

鎮守府本棟には滅多に顔を出さないのだ。

 

妖精さんが執務机の空いたスペースにピョンと飛び降りると

 

「緊急というほどでもないけど、入渠ドックのボイラーが故障したよ」

 

それを聞いて、長門が思い当たるふしがあったのか独り言を漏らす。

 

「そういえば、この間から点火がうまくいかなくなっていたな……」

 

「そういうのちゃんと報告しろよ」

 

聞きつけた提督が渋い顔で苦言を呈すると

長門も少し気まずそうに答える。

 

「いや、叩けば点火できてたからなぁ」

 

今度は夕張が眉をひそめる。

 

「叩けばって……ボイラーの缶がところどころ凹んでたんだけど

 あれってひょっとして長門さんですか!?」

 

「ああ、こう……斜め上から手刀で、バシッと」

 

「操作パネルなんかベコベコになってましたよ!?」

 

「あ、そっちは正拳で……こうだな」

 

長門は悪びれもせず身振りで修理(?)法を再現する。

キレる夕張。

 

「こうだな、じゃないですよ!機械はデリケートなんですよ!?」

 

「ダメなのか?私の主機の缶も、調子が悪いときは叩くとたいがい直ったぞ?」

 

「貴女よくそれで生き残ってましたね!?」

 

二人のやり取りをヤレヤレと聞きながら

提督が妖精さんに向き直る。

 

「それで、ボイラーはどんな具合なんだい?」

 

「燃料噴射ノズルを交換しないとダメ。でも二つあるノズルが両方壊れた。

 ストックの部品一つしかないから足りない」

 

「むう……今から部品を発注しても、次の定期便で届くまでは時間があるしなぁ。

 とりあえずノズル一つで稼動させられない?」

 

「できなくはない。でも温度上がらない。効率悪い」

 

「そっか……夕張、ちょっと本土まで行って部品調達とかできないか?」

 

夕張は頭の中でちょっと考えをめぐらせる。

 

「うーん……いいけど、今からだと、行って帰ってで夜になっちゃうわよ?

 それに交換の作業時間だってあるから、使えるようになるのは深夜過ぎちゃうけど」

 

「それもそうだな……まあ今は誰も修復が必要なわけじゃないし

 今日一日は風呂は我慢してもらうか」

 

長門が何事か思い出して口を挟む。

 

「確か……提督の私室に風呂があったと思ったが、アレは使えないのか」

 

確かに、提督が艦娘用の入渠ドックを使うと不要なトラブルの元となりかねないということで

彼の私室には専用の小さな風呂場が設けられていた。

 

「あるけど、俺一人用だから小さなユニットバスで

 一度にせいぜい二人ぐらいしか入れないぞ?」

 

入渠ドックは、いつでも入りたいときに入れるように

巨大な浴場のようになっており

一度に全艦隊のメンバーが入渠しても余裕があるほどの広さがあるのだ。

 

「入れないよりはマシだろう。狭いなら交代で入るようにすればいい」

 

「となると、希望者を集めて時間調整とかしないとな……

 長門、事情を施設内にアナウンスして希望者はここに来るように案内してくれ」

 

そしてアナウンスの結果

 

「結局こうなるのか……」

 

艦娘7人に深海棲艦3人。執務室に全員が揃ってしまった。

要するに皆風呂には入りたいのである。

 

「とりあえず、それぞれ希望する時間帯を言ってくれ。

 狭い風呂で一度に入れるのはせいぜい2人までだから

 希望者が多い時間帯はクジなりジャンケンなりで誰が入るか決めよう」

 

が、提督が心配したほど希望が重なることはなく

スムーズに入浴時間割は決まっていった。

それでも、夕食の時間以外はほぼ風呂が利用されることになり

提督がはたと気づく。

 

「ちょっと待って……

 皆が風呂に入ってる間、俺はどこにいればいいんだ?」

 

 

 

フタヒトマルマル 鎮守府 サロン

 

「……別に見張りまでつけなくたって」

 

提督がぼやくその傍らで、見張り役の吹雪が備え付けのテレビを見ながらぞんざいに答える。

 

「間違いがあったら困るじゃないですか」

 

「いや俺が部屋に戻らなければすむ話だろ」

 

今は夕食がすんで艦娘たちの入浴中。

提督はサロンに見張りつきで待機させられていた。

彼の私室の浴室には脱衣場はなく

部屋の中から丸見えの洗面所で服を脱ぐようになっていたので

私室にいるわけにはいかなかったのだが

 

「最初は、椅子に縛りつけておこうって話もあったんですよ?」

 

「ヒデエなおい!?……そんなに俺って信用ないのか?」

 

普段は言い寄ってくる艦娘だっているのに

風呂に入ってるところは見られたくないのだろうかと

そこも合点がいかない提督である。

 

「信用はしてますけど……

 ぶっちゃけた話、司令官にハダカを見せちゃって

 抜け駆けしようとする人が出るんじゃないか、と」

 

「ああ、うん……ありそうな気もしないでもないが……

 どうせ部屋に戻れないなら、せめて執務室で仕事してたほうが……」

 

「ダメですよ、司令官の執務室って、私室の隣でドアで行き来できちゃうじゃないですか」

 

提督は想像する。

執務室で書類を見ていると、私室に通じるドアが開き、素っ裸の艦娘が

『あっ、間違えちゃったー』とか言いながら入ってくる……

 

(ありえる……のか?)

 

とか思いながら首をひねっていると、サロンに潮と夕張が入ってくる。

湯上りなのか、少し上気した顔で髪が塗れて光っている。

潮が吹雪に気づき声をかける。

 

「お風呂空いたよー。次は吹雪ちゃんと高雄さん」

 

「あ、はーい……どうしたんですか夕張さん」

 

うなだれる夕張。苦笑する潮。

 

「いや……間近で見ると、改めてスゴイというか打ちのめされるというか……」

 

「あ、あははは、は……」

 

提督も何に打ちのめされたのかはあえて訊かない。

 

「……今度は私が高雄さんに打ちのめされるのかな」

 

吹雪がそう言ってため息をつくと、夕張も

 

「組み合わせ、間違ってるよね……私と吹雪ちゃんなら釣り合い取れたのに……」

 

それでいいのか、と思ったがやはり提督は黙っている。

 

「じゃあ行ってきますね。潮ちゃん、司令官の見張り、お願いね」

 

 

フタサンサンマル 鎮守府 サロン

 

(ん……そろそろもう皆入り終わったか)

 

提督は普段あまり見ないテレビをぼんやり見ていたのだが

かえって退屈してしまっていた。

見張り役のはずの潮はすでにうつらうつらとしている。

テーブルに置かれた入浴順の予定では

すでに最後の長門、鳳翔組が入浴を終えて30分は経過しているはずである。

と、サロンに長門がやってきて、冷蔵庫を開けて中を物色しだした。

 

「もう出たのか」

 

提督が声をかけると、コーヒー牛乳を片手に長門が振り返る。

 

「ん?ああ、お先にいただいた。たまにはああいう風呂も悪くないな」

 

「狭くなかったか?」

 

長門は艦娘の中では一番の大柄だ。

鳳翔もそれほど小柄というわけではないのだが

 

「ん……そうでもなかったかな」

 

「……そうか」

 

提督の頭の中では長門と鳳翔が一緒に湯船につかって

モゾモゾしている場面を妄想していたのだが

よく考えれば、片方が浴槽で暖まっている間

もう片方が洗い場にいればすむ話なのだ。

 

長門が舟をこぎ始めた潮の肩をポンポンと叩く。

 

「潮、寝るなら自分の部屋に戻ってからにしないと湯冷めするぞ」

 

「ふぁ……あ、はい……提督、おやすみなさい」

 

「はい、おやすみ」

 

フラフラと潮がサロンを出て行く。

足元がちょっとおぼつかないのを見た長門が

 

「……ちょっとついていってやったほうがよさそうだな」

 

とその後を追って出ていく。

 

(さて……俺も一ッ風呂浴びて寝るとしますかね)

 

部屋に戻り、制服の上着を脱ぎ捨て

ベッドにドサリと横たわる。

 

カチャリ

 

軽い音とともに浴室のドアが開く。

 

「……え?」

 

思わず目を向けた先には

 

濡れて光る長い黒髪。

水滴をまといきらめく白い肌。

伏せたお椀のように盛り上がった胸。

滑らかそうな下腹。よく張った腰。太もも……

 

全てをあらわにした、鳳翔がいた。

 

声もなく、その姿を見つめてしまう提督。

鳳翔が彼に気づいたのは、バスタオルを手にとって髪を拭き始めたときだった。

 

「……え?」

 

「……あ」

 

黙ったまま、身じろぎもせず見つめあう二人。

先に行動したのは鳳翔のほうだった。

手早くバスタオルを体に巻きつけ

ペタペタと素足のままで提督に歩み寄る。

その顔は微笑んでいる。微笑んではいるのだが

とてつもなく圧迫感があった。

 

「……提督?」

 

「あ、ああ……その、すいません、もう、出た、かと」

 

喉がカラカラに渇いた感じで、声が途切れ途切れにしか出ない。

 

「朝食の下ごしらえとかあって、入るのが遅れてしまったんです。

 長門さんから聞きませんでしたか?」

 

「いや、アイツ、全然、そんなこと言ってなかったし!」

 

思い返せば

風呂が狭くなかった、というのは長門が一人で入っていたからなのかと

今にして合点がいったところで

ドアをドンドンと叩く音。

 

『鳳翔さん、まだ風呂ですか!?』

 

と長門のちょっと緊迫した声が響く。

 

鳳翔がささやく。

 

(提督、執務室に。急いで)

 

コクリとうなずいてから、物音を立てないように提督が執務室へのドアを潜り抜ける。

それを見届けてから

 

「今出たところですよー」

 

と鳳翔が答え、それを待って長門が部屋に飛び込んでくる。

入るなりキョロキョロと見回して、鳳翔しかいないことを確認すると

ホゥッと息をついた。

 

「どうしたんですか、そんなに慌てて?」

 

「いや、ちょっと目を離したスキに提督がサロンを抜け出してしまってな。

 まだ鳳翔さんが風呂に入っていると伝える前だったので

 ひょっとして、その……部屋に戻ろうとしてはいないかと」

 

「大丈夫ですよ、提督は『紳士』ですから」

 

ほんのちょっと「紳士ですから」のくだりが大きな声だったのは

隣の執務室で息を潜める提督に聞かせるためか。

 

「そのようだ……いや、お騒がせした」

 

「いえいえ。私もすぐ身支度を終わらせますから

 提督を見かけたら部屋にお戻りいただいてもいいとお伝えください」

 

「了解だ……しかし、アイツこんな夜中にどこほっつき歩いてるんだろう」

 

ブツブツ言いながら長門が部屋を出ていくと

鳳翔はそっと執務室のドアを開ける。

 

「もう、いいですよ。『紳士』の提督サン」

 

提督は執務室の自分のデスクで頭を抱えていた。

 

「……怒ってます?」

 

「うーん……驚きはしましたけど、それほどは。

 でも、この後の提督の対応次第では怒っちゃうかも?」

 

どうすれば。なんと言えば。

冷や汗を流しながら提督は頭をフル回転させる。そして

 

「ごちそうさまでしたッ!ありがとうございましたッ!!」

 

深々と頭を下げた。

鳳翔は一瞬ポカン、として、そしてプッと吹きだした。

 

「いえいえ、お粗末様でした……ずるいですよ提督。

 このまま責任とってもらおうかなと思ってたのに

 『ごちそうさま』なんて言われちゃったら

 ここでおしまいにするしかないじゃないですか、もう」

 

「……すいません」

 

「もう慣れました……でも……」

 

鳳翔が歩み寄り、提督の顔に手をかけて

少し上気した顔を寄せてくる……

 

「デザートぐらいは、召し上がっていただいても、ね?」

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