ヒトマルマルマル 鎮守府 医務室
「よし、吹雪は次は身長だ」
「はい!」
長門の指示に元気よく答える吹雪。
今日は年に2回の身体測定の日だ。
艤装を外し、下着姿の艦娘たちが悲喜こもごもの表情を見せる。
「うあーちょっと太ったー!?」
「ご愁傷様。私は節制してるからだいじょ……あら?」
特に体重計の周囲は大騒ぎである。
その横では、潮の胸にメジャーを回した長門が目盛りを読み取っている。
「胸囲……88センチ……ん、前回より2センチ大きくなってるな」
「ええっ!?……ま、また……」
心なしか気を落としたような潮に
聞きつけた吹雪が羨望と嫉妬の眼差しを向ける。
(寄越せ……その2センチを寄越せ……)
視線に気づいているのかいないのか
長門は事務的に潮に告げる。
「まあ、ウエストやバストは体重に次いで増減しやすいからな。
だが、着衣が窮屈な状態が続くようなら
恥ずかしがらずにちゃんと報告しなければならんぞ?
あと、吹雪は早く身長計に乗れ」
「あ、はいスイマセン」
ペタペタと素足で身長計に乗る吹雪。
「吹雪、154センチ……ん?……吹雪、ちょっともう一回計るぞ」
長門が計測地を読み取り首をかしげる。
「……はい?もう一回ですか?」
「ああ、うん……ちょっと見間違えたかもしれんのでな」
再測定をしたところで長門の顔が一瞬不自然に強張る。
が、そのまま吹雪に結果を告げた。
「154センチだ。前回……といっても再建造の前からだが、2センチ伸びているな」
「な!?……そこじゃない!身長伸びるのは嬉しいし確かに2センチだけど!
伸ばしたかったのはそこじゃないー!」
地団駄を踏む吹雪に呆れる長門。
「何を言っているんだ……
よし、測定の終わったものは順次シートを私に提出。改竄とかするなよー」
ヒトフタマルマル 鎮守府 提督執務室
「提督、全員の身体測定、終了した。こちらが結果だ」
医務室から戻った長門が、全員の測定結果の記入されたシートを提督に渡す。
「おう、ご苦労さん……どうした、難しい顔して。誰か、異常でもあったのか?」
周囲を見回して、執務室にいるのが自分と提督だけなことを確認してから
長門が少し声を落として
「実は、吹雪の身長が2センチ伸びていたのだが……」
「なっ!?」
驚いた提督が思わず立ち上がる。
「提督は心当たりはあるか?」
「いや……大規模改装は2回目もだいぶ前だし……近代化改修もしていないし……」
「やはり、総司令部に報告したほうがよいのだろうか」
少し黙り込んだ後、提督がぽつりと告げる。
「そうしてくれ」
普通なら、吹雪ぐらいの年齢の少女が、身長が伸びるのは当たり前のことだ。
だが、彼女は艦娘である。
彼女たちの容姿や体格は建造時に固定され、そのまま変わることはない。
体重や、バスト、ウエストのサイズは多少の増減はある。
しかし、それもある範囲内での振れ幅に収まり
限度を越えて太ったりはしない。
身長となるとほぼ変わらないというのがこれまでの常識だった。
たとえて言うならば
積荷や積載した弾薬、燃料によって艦の重量が変わることはあっても
艦の全長が変わることなどない、ということか。
例外として、大規模改装を行ったときにそれらが変わることはあるが
それは艦としての性能が大幅に変わるからであり
艦の性能が変わらないのに人間の娘としての容姿や体格が変わるということは
これまでの艦娘ではなかったことなのだ。
「他の皆は気づいていないのか?」
「おそらく……鳳翔さんは気づいたようだ。驚いた顔でこちらを見ていたからな」
「そうか……はっきりしたことがわかるまで、あまり大事にはしたくない。
彼女のことだから騒ぎ立てはしないだろうが
一応、長門のほうからそれとなく口止めしておいてくれ」
「了解だ」
2週間後 マルナナマルマル 鎮守府 提督執務室
身体測定の結果を受けた総司令部は
1週間前に各鎮守府に検査員を派遣し
全ての艦娘と深海棲艦の精密検査を行った。
そして、結論は提督だけに知らされることになった。
艦娘たちに知らせるかどうかは、提督がそれぞれ決めるほうがよい、という判断だった。
(責任を押し付けられたような気もするな)
報告された結果を考えると
中には知らせないほうがいい艦娘もいるのかもしれないとも思ったが
(だが、いずれはわかることだしな)
各鎮守府の提督たちとも電話で何度もやり取りをし
結局、全員に知らせることにしたのだった。
「今朝の連絡事項は以上です。では提督、お願いします」
朝礼での業務連絡を終えた秘書艦の高雄が提督に目を向ける。
咳払い一つをして、提督が顔を上げた。
「先日、皆に受けてもらった精密検査の結果が出た。
皆の身体に関わることなので、よく聞いて欲しい。
あー……君たち艦娘の体は、これまで加齢はしないと思われていたが
検査の結果、現在は普通に加齢をするようになったと思われる」
吹雪が首をかしげる。
「……カレー?カレー……する?」
「カレーじゃない、加齢。普通に成長し、年をとるようになったんだよ。
吹雪や潮はもっと大人の女性になるだろうし……」
「ええ!?」「そ、そうなんですか!?」
「今すでに大人の女性の皆は、その、なんだ……そのうち、オバサンになる」
既に大人の女性っぽい艦娘たちが
一瞬の間を置いてからいっせいに叫ぶ。
「「「えーっ!?」」」
高雄が提督に詰め寄る。
「わ、私がオバサンになっても海に連れてくの?」
「そりゃ艦娘なんだから海には行かなきゃダメだろ」
続いて鳳翔が詰め寄り
「わ、私がオバサンになったら貴方はオジサンよ!?」
「うん、まあそうなるな」
「もうすでにオジサンなんじゃ……」
吹雪がボソッと漏らすが、提督は聞かなかったことにして話を続ける。
「さらに言うなら、もっと先には皆オバアサンになるぞ。
あと、深海棲艦の3人は、だんだん人間に近づいてる。
年を重ねながら、いずれは艦娘と同じようになるだろうと予想されてる」
長門が手を上げて質問する。
「その、年をとることで艦娘としての機能に問題は出ないのか?」
「すぐにどうこうということはないだろうが
年齢とともに肉体が衰えれば、艤装の扱いも難しくなってくることは予想される。
まあ、そうなったら……引退、かな」
「引退かあ……なんだかスポーツ選手みたいだね」
苦笑いを浮かべる隼鷹に、提督も苦笑して答える。
「ああ、そんな感じかな。
引退後のこととか、これからいろいろ考えなきゃならんこともあるが
そうすぐに大きく変わることはないから、とりあえずはこれまでどおりでいいと思う。
他に質問はあるかな?なければ、今朝は以上だ」
提督が話をまとめたが、皆その場を離れずにいた。
「どうした?」
夕張がうーん、と考えてから口を開く。
「うん……今まではさ、提督だけどんどん年をとっちゃうんだなって
ちょっと寂しかったのよね。
でも、これからは私たちも提督と一緒に年をとるわけでしょ?
正直、不安もあるけど……少し、嬉しいかな」
皆がその言葉にウンウンとうなずく。
「そういうものか……今まで、あまり考えたことなかったな」
「だったら、これからは『将来のこと』、ちゃんと考えてよね?
皆がお爺さんお婆さんになっちゃう前に!」
1週間後 ヒトヒトマルマル 鎮守府 サロン
「お、これが今回の配達物か……やけに多いな?」
定期便で送られてきた荷物を
それぞれのあて先別に提督と秘書艦で振り分けていくのだが
「ええ……今回は、皆が色々買い物をしたもので」
鳳翔が少し気まずそうに提督の疑問に答える。
「ふぅん?」
提督が荷物の送り主をチラ、と見れば
○○化粧品とか××コスメとかばかりである。
「化粧品ですか」
「はい、その……今まではお肌のケアとか、それほど気にしてなかったんですけどね。
年をとるということは、色々と、その……ね?」
「なるほど」
「年を重ねてオバサンになるにしても、なるべく、ですね?」
(オバサンになるにしても、可愛いオバサンになりそうだなぁ)
モジモジする鳳翔を見てなんとなく微笑ましくなる提督だった。
次話で「いつどこ2」最終話です。