いつかどこかの鎮守府で・2   作:華留奈羽流

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最終話です。


第16話

マルナナマルマル 鎮守府 提督執務室

 

「……了解です。ご配慮、感謝いたします……はい、それでは、失礼いたします」

 

電話機を置いた提督が、ふう、とため息をつく。

 

「お電話、総司令と、ですか?」

 

当番秘書艦の吹雪がお茶を出しながら尋ねると、苦笑いが返ってくる。

 

「ああ。ちょっと頼みごとをしていたんだが……思いのほか頑張ってくれたみたいだ。

 事なかれ主義の置物総司令と思っていたが……この件に関しては感謝しなくちゃな」

 

「総司令に頼みごとって、何だったんです?」

 

大きな湯飲みの茶をすすり、一息ついた提督が

 

「ん……この後、皆に集まってもらったときに話すけど……なあ吹雪?」

 

「はい、何ですか司令官?」

 

「お前、学校に行ってみる気はあるか?」

 

吹雪が驚いて自分の分の湯飲みを落としかける。

 

「……はあ!?ってったったあっと!……ふう……

 えっと、学校って、あの……勉強する学校ですか!?」

 

「他に何をする学校があるんだよ。

 ほら、お前たちが年をとるようになっただろ?」

 

「あ、はい……それが私が学校に行くことと関係が?」

 

「ああ。年をとって、艦娘としては引退するとしても、吹雪の人生は続いていく。

 でも、艦娘じゃなくなったら、鎮守府には基本いられなくなると思う。

 人間社会で普通の人として生きていかなくちゃならない」

 

「なるほど……それで、社会勉強もかねて学校に行け、ってことなんですね……」

 

「これまでどおり、高雄や鳳翔さんに勉強を教わるってことでもいいんだが

 できれば、お前と潮には学校に行ってほしいと思うんだ。

 まあ強制はしないけどな。どうだ?」

 

吹雪はうーん、と考え込む。

提督が微笑みながら

 

「すぐに答は出さなくてもいいぞ?大事なことだからな。潮と相談してもいい」

 

と声をかけると、ハッとした吹雪が顔を上げる。

 

「よく考えたら、この島に学校なんてないじゃないですか!

 というか、この島ってこの鎮守府しかないんですよ?まさかここから本土まで通うんですか!?」

 

「それな。その辺も含めて、後で皆に話するから。

 じゃ、とりあえず朝礼まで書類準備ヨロシク」

 

 

マルハチマルマル 鎮守府 作戦司令室

 

「……ここで朝礼は久しぶりだが……何か大きな作戦でもあるのか?」

 

通常、提督執務室で行われる朝礼だが

今日は作戦司令室に集まるように、との構内放送で

全員が大きなスクリーンのある司令室の小さな机に陣取っている。

提督はまだ来ていないのでそれぞれが小声ではあるが私語を発していた。

長門の疑問に吹雪も首をかしげる。

 

「いえ、そうじゃないと思いますけど……何か、司令官から重要なお話があるようで。

 なんでも、私と潮ちゃんを学校に行かせるとか……」

 

「ええ!?が、学校!?」

 

潮が飛び上がらんばかりに驚く。

隼鷹が呆れたように

 

「学校なんてないじゃーん。というかココ何もないじゃーん」

 

「そうなんですよねー。私もそれ司令官に言ったんですけど答えてくれなくて」

 

高雄がまあまあ、と少し不満そうな吹雪をなだめる。

 

「きっと何かお考えがあってのことなんでしょう。それを今からお話ししてくれるのでは?」

 

と、ドアを開けてノートPCを抱えた提督が司令室に入ってくる。全員の敬礼に答礼して

 

「スマン、資料を揃えてて遅くなった。

 あー……今日は大事な話があってな。

 実は、この鎮守府から引っ越そうかと思ってるんだ」

 

「え、引越し?」「どこに?」「なんで?」

 

ざわめく艦娘たちを提督が大きく咳払いをして黙らせる。

 

「さっき吹雪にもちょっと話をしたんだが

 これから、皆は人間と同じように年をとり、いつかは艦娘を引退することになる。

 そうなれば、人間社会に出て生きてかなきゃならない」

 

「なるほど……それで、吹雪と潮を学校に、というわけか」

 

「二人だけじゃないぞ。皆、現代日本の社会にそれほど慣れ親しんでるわけじゃないだろ?」

 

皆がこれまでの自分を思い出す。

艦娘として生まれてからは戦いに明け暮れていて

その戦いが終わってからはこの離れ小島の鎮守府に移ってきて

たまに本土に買出しに出るときぐらいしか

人間社会に接することがなかったのだ。

 

「このままこの鎮守府にいて、引退してからちゃんとやっていけるか?」

 

皆が顔を見合わせる。

 

「艦娘でいるうちに、ある程度普通の社会生活にも慣れておいてほしいんだ。

 だけど、この島にいるとそれも難しい。島に来るのは関係者ばかりだからな。

 で、思い切って、もうちょっと人と接する機会のあるところに引越しをしたいって

 総司令部に言ってみたら、空いてる施設になら、という許可が出たんだよ」

 

隼鷹が首を捻る。

 

「空いてる施設?そんなのあるの?」

 

「ああ、前に鎮守府の統廃合しただろ?

 規模の小さなところや、業績の上がらないところ、行状の悪い提督のいたところ……

 そういうところは解体して、所属の艦娘たちを横須賀、呉、佐世保、舞鶴、大湊の

 各鎮守府に振り分けたわけだ」

 

高雄が思い返して口を開く。

 

「私たちがいた鹿屋には誰も来なかったですよね?」

 

「いや鹿屋も解体されるところだったんだけどな」

 

「「「えーっ!?」」」

 

一瞬の間を置いて艦娘たちが叫ぶ。

 

「だってウチそれほど大きなとこじゃなかったし。

 でも、皆が頑張ってたのが評価されて、残すことにしたらしい。

 で、話戻すけど、解散した各地の施設のいくつかは

 使わなくなっただけでまだ残してあるんだよ。

 その中のどれかに引っ越そうかな、と思ってるんだ」

 

「どこが残っているんですか?」

 

鳳翔の質問に、提督が資料を広げながら答える。

 

「海外の基地や泊地を除くと、宿毛湾泊地か柱島基地のどちらかなら

 引越し先として利用できるそうなんだが……

 基地周辺の民間社会とも交流を持つとか、吹雪や潮の学校のことを考えると

 柱島はちょっとどうかな、って感じでな」

 

長門が手を上げる。

 

「鹿屋に戻ることはできないのか?」

 

「今は航空自衛隊に委譲してるんでダメなんだよ」

 

潮が遠慮がちに口を開く。

 

「じゃあ……宿毛湾、でしたっけ?事実上そこしか選択肢ないのでは」

 

「ここに残る、というのもアリではあるぞ?

 で、現在の宿毛湾泊地の周辺地図を用意した」

 

提督が後方に下がってゴソゴソとプロジェクターを操作し

 

「よし、今スクリーンに出すから……センちゃん、灯り消して」

 

室内が暗くなると、すぐにスクリーンに映像が映し出される。

 

「これが施設とその周辺の地図だ。ここが施設で……ここが鉄道の駅」

 

「ほお、鉄道が通っているのか」

 

「ローカル線だけどな。施設からはちょっと距離があるから

 駅まで行くなら何か足が欲しいところだ。で、ここに中学校。

 吹雪と潮が通うとしたらここになる」

 

吹雪がちょっと不服そうな顔になる。

 

「あれ、私たち中学生で確定なんですか」

 

「小学校からにするか?」

 

「そっちじゃなくて!……高校生ぐらいには、見えないかな、と……」

 

「見た目もあるが、二人の普段の思考とか、知識量を考えると

 中学が妥当だと思う。背伸びしても、キツイだけだぞ」

 

「……はぁい」

 

目を凝らしていた隼鷹がスクリーンを指差す。

 

「ね、駅の周りもうちょっと拡大してよ」

 

「ん……これぐらいか?」

 

「飲食店とか結構あるみたいですね」「あ、本屋さんがある」「コンビニもあるね」「居酒屋は!?居酒屋はない!?」

 

「居酒屋は自分で探してくれ。

 まあ、普通の地方の街だな。日常生活に困るようなことはそうないと思う。

 で、どうかな、ここ」

 

「いいんじゃないですか?」「軍人たるもの、赴任先は選ばん」「あ、居酒屋あった!ヤリィ!」

 

と、今まで黙っていた港湾棲姫が手を上げる。

 

「仮にそこに引っ越したとして……私たち、街の人たちに受け入れてもらえるのかしら……?」

 

皆がハッとして静まりかえる。

 

「それは……」

 

提督も少し口ごもって、すぐには答えられない。

 

「それに、私たちのせいで、皆も白い目で見られるようにならないかしら……

 それなら、私たちはここに残ったほうがいいんじゃ……」

 

そこまで言った姫の言葉を、提督がさえぎる。

 

「姫。受け入れてもらうんじゃない、自分から溶け込むように努力するんだ。

 時間はかかるかもしれないけど、ここでは皆とうまくやってきたじゃないか。

 それに、俺の調べだと、宿毛の住人は戦争の被害をあまり受けなかったそうで

 深海棲艦にもそれほど嫌悪感は持ってないらしい。

 だから、大丈夫だよきっと」

 

「だと、いいんだけど……」

 

「……もし、どうしても無理だと思ったら、そのときは俺とここに戻ろう」

 

「!……いいの、それで?」

 

「かまわんさ。まあ俺と二人じゃ色々不便かもしれないが……」

 

センちゃんが提督の言葉をさえぎって

 

「あら、二人でってことはないでしょ?姫が無理だったら私はもっと無理だわ。

 だから、そうなったら私もここに戻る。いいでしょ、提督?」

 

「いやまあ戻らないですむにこしたことはないんだけどな。

 さて、他に何か反対意見とかあるかな?

 なければ、引越すってことで話を総司令部と進めるぞ!」

 

 

2ヵ月後 ヒトマルマルマル 鎮守府 桟橋

 

「……いろいろあったな、ここも」

 

提督が建物を振り返り、ポツリと漏らす。

輸送船のタラップを登りかけていた長門がそれに気づき声をかける。

 

「どうした提督、忘れ物か?」

 

「いや……そういうわけじゃないが」

 

苦笑いを浮かべて長門も鎮守府の建物に目をやる。

 

「……別にこれが見納めというわけでもあるまい」

 

定期的に、施設保全のため交代で見回りに訪れることになっているので

いつかまた来ることもあるのだろう。

とはいえ、離れるとなればやはり感慨深いものがある。

 

「そういえば、結局、この鎮守府は名前がつかなかったな」

 

「最初は非公式だったし、島に正式な名前がなかったからな」

 

「そうだったな……」

 

長門の後に続いて、提督もタラップを上がっていく。

 

(さらば、どこかにあった鎮守府よ)

 

 

時は流れ

 

そして、いつか、どこかで。

 

(やっぱり、街中に出ると人が多くて疲れる)

 

雑踏の中を歩く。

ふと、道行く人の話し声が耳に入る。

 

「ねえ、知ってる?あの『鎮守府』のハナシ」

 

鎮守府、という言葉につい聞き耳を立てる。

 

「あの、ってどこのだよ?」

 

「あー、それはハッキリしないんだけど……

 いつか、どこかの鎮守府であったハナシらしいんだけどさー。

 艦娘と、降伏した深海棲艦が一緒に暮らしてたとこがあるらしいの」

 

「えー……ナニソレ。マジなハナシ?」

 

つい、ニヤついてしまう。だが、それ以上は耳に入れる必要はない。

それは自分たちが紡いできた物語。

こうして、人々の間に語り継がれるのも悪くない……

 

そう、いつかどこかの鎮守府での話として。




いつかどこかの鎮守府fで、これにて閉幕です。
お読みいただいた皆様に感謝。
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