あらすじ:もうゲームになってなくね?
同時刻(!?) 鎮守府 トレーニング室
「ど、どうした鳳翔さん!?そんなに息を切らして、何があった!?」
様々なトレーニング器具の置かれた室内。
誰を探すでもなくぽつねんとしていた長門の元に、勢い込んで鳳翔がやってきた。
まるで一人で中部海域を回っていたような疲れ方である。
「いえ……よく考えたら……ここには急ぐ必要……なかったです……」
「?よくわからんが……提督はまだ見つかっていないのだな」
「ええ、たぶん……簡単には見つからない場所にいらっしゃるのでしょう」
それを聞くと、長門はプレス台に腰を下ろした。
「長門さんは、提督を探さないのですか?」
「ん?……ああ、つまらん意地を張ってしまったが
冷静になって考えてみれば、私よりは吹雪や、それこそ貴女のほうが適任だ。
鎮守府のことを考えれば、私は降りるべきなのかな、と思ってな」
そう言って、長門が寂しそうに苦笑いを浮かべる。
「いいんですか、それで?」
「ああ。鳳翔さんのほうはどうなのだ?
あまり提督を探しているようにも見えないが」
「実を言うと、おさんどんや畑仕事で手一杯で
秘書艦の仕事までは流石に無理なんですよね。
そんな感じで、他の皆はどうかな、と様子を見て回ってるというところです」
「なるほど。さて……どうなることやら」
ヒトヒトサンマル 鎮守府 作戦司令室前
抜き足、差し足、忍び足。
油断なく辺りを窺いながら、ソロソロと歩く怪しい人影……
いや、怪しくはない。提督だった。
(とりあえず、何か食べ物と飲み物を調達せねば)
どこに向かうかと考えているその背中に
「あのー」
「うあひゃいぉおぅっ!?う、後ろっ!?」
変な声をあげて飛び上がる提督に、声をかけたほうも驚かされる。
「ひゃあ!?……う、後ろじゃなくて潮ですっ!」
「……あー……すっげえビックリした」
「そんなに驚かせちゃいましたか……すいません、哨戒任務が終わったので
ご報告しようと執務室にうかがったんですけど、誰もいなくて
ひょっとして提督はここかなーと思って来てみたんですけど」
どうも探しているにしても皆と理由が違うようだ。
「?……潮が哨戒に出たのって、何時?」
「えと、マルキュウサンマル、です」
「じゃあ今の騒動は知らないのか……」
「騒動?何かあったんですか?」
「うん、まあ……とりあえず、司令室に戻ろう」
二人で作戦司令室に入ると、おもむろに提督が尋ねる。
「潮、秘書艦をやってみる気はないかな?」
「え……ええーっ!?ひ、秘書艦、ですか?あの、長門さん、どうかしたんですか?」
「そういうわけじゃないんだが……実はかくかくしかじかで」
事情を説明すると
「なるほど。私でも……お役に立てるのでしょうか?」
「まあ覚えなきゃならないことはちょっとはあるが
そう難しいことでもないよ。何より、いい経験になると思う」
「経験、ですか……あっ、それなら!」
何か思いついたように、潮が目を輝かせた。
ヒトフタマルマル 鎮守府 敷地内全域
『あー、あー。こちら宇佐美。秘書艦は決定した。
繰り返す、秘書艦は決定した。総員、作戦司令室に集合。
深海棲艦の3人も来るように」
厨房で
「いつの間に!?と、とりあえずカステラ食べちゃわなきゃ(ムグムグ)」
酒保で
「あー、見つけて秘書艦になって酒の件をうやむやにしたかったのにー!」
図書室で
「もう1冊ぐらい残ってないかなと思って探してたのに……」
トレーニング室で
「おや、誰が見つけたのかな」「……意外な人かもしれませんよ」
それぞれが作戦司令室に向かう。
「何故私たちまで……」「秘書艦とか、私たち関係ないわよね?「でも、パパの秘書とかやってみたいかも」
深海棲艦の3人もやってきて、ほぼ全員が作戦司令室の前に揃う。
「ん?……なんだ、皆ここにいる……あっ!」
長門が顔ぶれを見て、潮だけがいないことに気づく。
「あら……そういえば、潮ちゃんはゲーム開始より前に哨戒に出ちゃってましたね」
「探している人には見つからず、探していない人が見つけたわけか……
皮肉なものだな。とりあえず、入ろうか」
ゾロゾロと中に入っていく面子を出迎えたのは
提督とニコニコしている潮だった。
提督が咳払いをしてから口を開く。
「あー……もうわかったと思うが、俺を最初に見つけたのは潮だ」
「はい!提督を発見しちゃいました!」
「で、秘書艦の権利は潮にあるわけだが、その潮からの提案だ。
秘書艦は全員で1日交代の当番制とする!……これで、どうかな?」
「全員で……」「1日交代の……」「当番制?」
皆が顔を見合わせ、少ししてからクスクスと笑い出す。
「そうだな……最初からそうすればよかったのだ。何故思いつかなかったのかな?」
苦笑いする長門に、提督も苦笑いで答える。
「まったくな。ちなみに、深海組の3人にもやってもらうからな」
「え、私たちも?……できる、かな?」
少しためらいがちな姫に提督が微笑む。
「何、わからないところは俺なり誰かに聞けばなんとかなるさ。
これもいい経験になると思うよ……っていうのは、潮の受け売りだけどね」
そう。経験になるのなら、皆で平等に。そして人間社会での経験を特に必要とする
深海棲艦の3人にもやらせてあげたい、というのが潮の考えだった。
「これで一件落着ですね!……ところで、提督はどこにお隠れになっていたのですか?
ここは一度チェックしたんですけど、その時には見つからなかったのですが……」
高雄の問いかけに、気が緩んだのか提督がつい口を滑らせる。
「ああ、ここの俺の席の後ろに隠し部屋……とかはないからね!」
「それは初耳だな」「私も知りませんでした」「で、そこには何があるのさ?」
「ない!何もないの!ホント何もないから!って吹雪開けるな!」
「わ、ホントにここ、開くようになってます」
「うん開くから!開くのわかったからもういいだろ入らないで!!」
提督の悲鳴を無視して皆が中を覗き、入っていく。
部屋には小さなテーブルと椅子、ベッド。
そして片隅には積み重ねられた本の山。
「これは……?」
吹雪が本の山から一冊手にとって、パラとめくって
「!?」
顔を真っ赤にして投げ捨てた。
その後、しばらくの間提督は「エロウサギ」と呼ばれることになった。
「なんでこんな中学生の頃みたいな経験を
この年になってまたしなければばならんのだ……」