いつかどこかの鎮守府で・2   作:華留奈羽流

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夕張編、まだ続きます。
今回は特にギャグなし。


第9話

ヒトサンマルマル 鎮守府 食堂

 

先ほどまで船酔いでぐったりしていたとは思えないほど

旺盛な食欲を見せて昼食を平らげた宇佐美の母。

一緒に食事を取った提督も、母親の回復具合に呆れていた。

 

「ごちそうさまでした。軍隊の食事というから、もっとこう、雑?な物を想像していたのですけれど

 意外に家庭的な料理でビックリしたわ」

 

そう言って、そばに控えていた鳳翔に目を向ける。

 

「お粗末様でした。お口に合いましたでしょうか?」

 

「ええ、どれも美味しかったわ。貴女がいつもお料理をなさってるの?」

 

「はい、だいたい私がお世話させていただいています」

 

「そう。忠孝は好き嫌いが多くて大変でしょう?」

 

「えっ?……いえ、何でも残さずよく食べていただいていますが……?」

 

「あらそう?いい年をして、やれほうれん草は青臭くてイヤだの

 やれサトイモはヌメヌメして気持ち悪いだのと、家ではもう我がままばかり……」

 

提督が慌てて母親の言葉をさえぎる。

 

「ちょ、母さんやめてくれよ」

 

が、鳳翔は今まで自分の出した献立を思い返してうなだれる。

 

「そ……そうだったんです、か?……お嫌いなものがあるとは知らず……」

 

「いや、軍に入れば好き嫌いとか言ってられないから!

 そう、克服したから大丈夫!鳳翔さんの作るものは何でも美味しいから!」

 

「あらあら。できれば、家にいるときに克服してもらいたかったわねぇ」

 

必死にフォローを入れる提督に、すまし顔で皮肉を言う母。

 

「でも、そうやって『何でも美味しい』なんて言うところをみると

 忠孝はよほどこちらの……鳳翔さんを、お気に入りなのね?」

 

「え!?……いやまあ……それは、長い付き合いだし」

 

頬を染めて恐縮する鳳翔と提督を笑顔で見つめる。

 

と、食堂に長門が入ってくる。

 

「失礼する。お母上はもう昼食はおすみだろうか?」

 

「ああ、今すんだところだよ」

 

「それでは、いちおう我が鎮守府のメンバーの

 自己紹介をさせていただこうと思うのだが」

 

「ああ、そうだな……正式に自己紹介したのは夕張だけだし、いいんじゃないか?」

 

「では……全員、入室して整列!」

 

長門の号令一下、艦娘たちが入室し横一列になる。

深海棲艦たちも入ってきて、艦娘たちの後ろに並んだ。

 

「ではまず私から。戦艦、長門です。艦隊旗艦を勤めさせていただいております」

 

「まあ!貴女があの、戦艦長門なの?」

 

「はい。私をご存知でいらっしゃいましたか?」

 

「もちろんよ。『陸奥と長門は日本の誇り』の長門でしょう?」

 

「それを言われますと面映いのですが、その長門です。

 しかし、失礼ながらお母上様の年代では、もうその言い方はされていないでしょう?」

 

「私の家は、代々海軍軍人の家系なの。父も祖父も、船乗りだったのよ。

 貴女のことは、祖父からよく聞かされたわ。

 とても美しく、見ているだけで誇らしくなる素晴らしい船だった、とね」

 

長門は顔を赤らめながらも嬉しそうだ。

 

「……恐縮です」

 

「こうして、実物……というか本人に会えるとは夢にも思いませんでした。

 貴女のような頼りがいのある人がいれば安心ね。

 これからも、忠孝を支えてやってくださいね」

 

こうして、一人一人が自己紹介をするたびに

それぞれの特徴や経歴を挙げては褒め称え、激励していく。

ただ最後に自己紹介をした夕張だけは

提督の嫁候補として、この後も話を続けるつもりなのか

ほとんど何も言われずに終わった。

 

「……母さんがこんなに軍船に詳しいとは知らなかったよ」

 

「何を言ってるのです。この艦娘の方々を指揮する海軍提督の母ですよ私は。

 これぐらい知らなくてどうします。それで、後ろの方々が……深海棲艦なのね?」

 

「ああ、うん……いちおう、この鎮守府で身元預かりというかたちをとってる」

 

わずかに提督の顔がこわばる。

 

「そう」

 

短くうなずいて、立ち上がり、深海棲艦のほうに歩み寄り

港湾棲姫の手を握った。

 

「今は大変でしょうけれど、腐らずに、ね」

 

「はい!提督にも、とても良くしてもらってるので大丈夫です!」

 

「そう、忠孝と、仲良くしてやってくださいね」

 

深海棲艦が民間人と接触することはほとんどないし

その情報も一般には知られていない。

姫や鬼クラスのものは人に近い、とはいえ、その姿はやはり異形だ。

 

提督も、まさか近くに寄って、手をとって話をするというのは想像していなかったのだが

その豪胆な人柄を思い出して、いらぬ心配だったと苦笑いする。

 

「さあ、自己紹介もすんだことだし、皆はそろそろ午後のスケジュールに戻ってくれ!」

 

「あら、もうおしまい?……よかったら、夕張さんは残っていただけないかしら?

 ちょっとお話したいことがあるの」

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