◻2043年某日
今、俺は左手一本でとあるダイブ型ゲーム機を持っている。
あまりゲームをする方ではないのだかたまたま見た広告に書いてあった
このゲームを始める理由は交通事故により右腕がなくなったことが原因だ。
子供の頃に見た操り人形の人形劇に感動した子供がその後人形に糸を付けて遊ぶのはよくあることだろう。ただ、普通と違ったことはその子供には傀儡師としてかなりの才能が有ったことだろう。
かなりの練習を重ねて中学生の頃には文化祭で人形を使った一人芝居をして話題を呼びテレビに出演し高校卒業後は操り人形を専門に使う人形劇団に入団して順風満帆な人生を送っていた。
しかし、交通事故に遭い右腕の切断を余儀なくされた。
以前と同じ様に人形を操ることが出来なくなり失意のドン底に落ちた状態で見た〈Infinite Dendrogram〉の広告にリハビリよりもゲームに手を伸ばしたのは現実を見れない俺の心の弱さ故だろう。
◇
「ようこそ、いらっしゃーい」
気が付くと洋館の執務室の様な場所にいた。
「えっと、此処は?」
「ここはねー、〈Infinite Dendrogram〉の中だよー」
呆けていた俺の疑問に答えたのは机の向こうで椅子に座ってベストを着た猫だった。
確かについさっき片手で苦労しながらヘルメット型のゲーム機を被りスイッチを入れたが本当に此処はゲームの中なのか。
二、三年前に何度かしたVRゲームと比べたら雲泥の差でログインしただけでも電卓とスパコン位の差を感じることができるしそれだけに今のアバターの右腕の欠損がよりはっきりと感じる。
「どうかしたのー」
そんな俺の様子に何か感じたのか猫が話かけてきた。
「いや、凄いリアルだと思ってね、腕が無いのまで完全に再現されてるしね。そう言えば君の名前は?」
「僕はねー。管理AI13号のチェシャだよー。現実と変わらないリアルな感覚はこのゲームの売りの一つだからそう言って貰えると嬉しいよー。後腕が無いのは前もって入力されたデータから出力されるけどもしかしてバグってたりするー?」
「いや、少し前に事故で腕がなくなったからこのゲームだったらと思ったんたけど……「じゃあ、生やしてあげる。とーりゃー」えっ⁉」
少し気分が下がり気味な俺の言葉に被し気味に猫こと管理AI13号のチェシャが気が抜ける掛け声を上げると光の粒子の様なものが集まり右腕の形になっていく。
「こ、これは」
出来上がった失う前とほとんど変わらない右腕に開いた口が塞がらない。
「少し脳の記憶を見てそこから再現してみたんだけどどうかなー?」
脳の中身を見るとかかなりやばいんじゃないかとか色々と思う所はあるが今の気持ちを言い表すと。
「最っ高だよ」
改めて再現された右手を見て動かしてみるが失う前と同じように思った通りに動いていく。
「どう気に入ったー」
「ああ、さっきも言ったが本当に最高だよ。所で現実の俺には右腕が無いのに動くものなのか?」
「気に入ったなら良かったよー。ここは現実じゃなくてゲームの中だからねー。それに君は元々無かったわけじゃないから問題なく動かせるしその気になれば翼や尻尾なんかの体に無い部位を生やしたなんかも出来るよー」
「流石に翼は苦労しそうだか飛べるのか?」
それで飛べるなら生やしてもいいかもしれないな。
「そのままじゃ無理だよー。元々体に存在しない部位は最初はうごかすのも大変だしねー。でもステータスが高くなったら出来るかもー」
「それじゃ、止めようかな」
前にテレビかなんかで胸囲が二メートル以上あれば飛べるとか言ったからステータスが上がって練習すれば自力でも飛べるかもしれないけど俺の目的はそれじゃないから他の人が飛んでいたら眺めてようかな。
「それじゃー。チュートリアルを初めていいなかー?」
「わかった、よろしく」
その後は描画選択はリアルにして名前は傀儡師から取ってマリオ・ネット、決して赤い配管工ではない。アバターはリアルをベースに欧米風に少し弄り髪を茶色、瞳は緑に変えて木をイメージしてみた。
アバターを決定したら無料で貰える配布アイテムと五千リルに武器は修学旅行でクラスもしくは学年に一人は買うであろう木刀にした。ちなみに俺は買った。懐かしい。
「最後に所属国家を選んでね」
空中に現れた地図から光の柱が立ち七つの国家が表示される。
「なぁチェシャ、俺さぁリアルで傀儡師してるんだけどこっちでも同じように傀儡師をしたいんだけどそれならどこが良いかな」
映像だけで説明のない七つの国家からどれを選んだら良いかわからないので一先ず管理AIたるチェシャに要望を伝えつつ聞いてみた。
「それならー。レジェンダリアに現実のとは少し違うけどそのままずばり傀儡師ってジョブがあるからそこがいいんじゃないかなー」
レジェンダリアの映像は大きな木を中心とした街並みが広がりエルフなんかのザ・ファンタジーな世界観が広がっていた。確かにここは良い木材が沢山ありリアルでは操るだけだったがこっちでは自分で人形を作るのも良いかもしれない。
「わかった。レジェンダリアにするよ」
所属国家を決めてさあ出発となってこのゲームオリジナルのエンブリオの移植をうっかり忘れそうになるトラブルがあったがそれも無事に終わりいよいよチュートリアルも終わりだ。
「あはは、ごめんねー。まだ始まったばかりで慣れてないんだ」
「いや、いいよ。これはこれで面白かったよ」
「そう言ってくれると助かるよー。それじゃあレジェンダリアの首都である霊都アムニールに送るよー」
そこでチェシャは一度言葉を切りいままでの人懐っこい笑顔から真剣な顔つきになる。猫だけど。
「これから何をするのも君の自由だ。
君の手にある<エンブリオ>と同じ。これから始まるのは無限の可能性。
<Infinite Dendrogram>へようこそ。“僕ら”は君の来訪を歓迎する」
直後に景色が一変した。
執務室の様な部屋から管理AIのチェシャや家具、更には壁や天井、床まで無くなり頭上には青い空、眼下には先程見たレジェンダリアの首都である霊都アムニールが小さく見える。
そして重力に従って落ちて行く感覚にたまらずに叫んだ。
「いぃぃぃ、ヤッホーーーー‼」
結論。初めての紐無しバンジーは超楽しかった。