◻霊都アムニール 闘技場
師匠に弟子入りしてからリアルで三日たった。
何度かMP切れで気絶しながら何とか人形を動かせる様になったころ(MPを把握したとは言ってない)に突然師匠が闘技場に行ってこいと言い出した。
師匠
ちなみに現在の俺のレベルはずっと人形の操作しかしていなかったために未だにレベルニのままだ。
「すみません」
「はい、なんでしょうか」
闘技場入って直ぐに受付があったのでとりあえず声をかける。
「人形ギルドから来たマリオ・ネットです。
ジョン・レグイザモ師匠からこちらに来るように言われて来たのですが何か伺ってませんか?」
「はい、少しお待ち下さいね」
受付嬢さんは手元にあったバインダーらしき物の上から紙をめくっていく。
その速度は中々の物でシュババババと効果音をつけても違和感がないだろう。
「人形ギルドからマリオ・ネットさんですね。
確かに戦闘指南の依頼が来ていますので今から担当者をお呼びいたしますので少々お待ち下さい。……えっと、どうかいたしましたか?」
紙をめくる速度に圧倒されて変な顔をしていたのか受付嬢さんが心配そうに尋ねて来た。
「ごめんなさい。
あんまりにも紙をめくるのが速かったので見入ってしまいました」
「ああ、そうでしたか。これでも上級ジョブの【高位受付嬢】でスキルも《書類把握》、《要所把握》の両方を高レベルで持ってますからこれくらいは余裕ですよ」
ドヤ顔の受付嬢さんに俺は「おぉー」と言いながらパチパチと拍手する。
【高位受付嬢】ってそんなジョブまであるのか何か凄く強そう。小並感。
「えぇと、では担当者を呼んで来ますね」
照れているのか少し顔を赤くした受付嬢さんは席を立ち奥の方に去って行った。
先程のドヤ顔と合わせて素晴らしい人だった。また機会があったらベタ褒めしよう。
「マリオ・ネットさん、お待たせしました」
それから五分程たって受付嬢さんが二人の男性を連れてやって来た。
「こちらの方が指南役の闘士でグラデ・イエッタさんです」
「おう、俺が熟練の【
「はい、【
挨拶と同時に手を差し出したグラデさんにこちらも簡単な自己紹介をして握手をする。
「最低限の礼儀さえ弁えときゃもっとフランクで構わねぇぞ。
それと今そこにいる奴も指導してんだが良かったらこいつも一緒に指導しても構わねぇか?」
そう言って指差した方にはグラデさんと一緒に来たチュートリアルの時に見た初期装備の一種類を着たプレイヤーっぽい人は糸目のそこそこイケメンで左手には俺と違い宝石の様な物ではなくタトゥーの様なものがある。
「大丈夫ですよ」
「おお、良かった良かった。おいフィガロ、お前も挨拶しろ」
「えっと、【
「ああ、さっきも言ったが【傀儡師】のマリオ・ネットだ。マリオと呼んでくれ」
フィガロの挨拶は少しぎこちない感じがしてきてあまりオンラインのゲームの経験がないのかもしれない。
「よっしゃ、じゃあ訓練場に移動するからついて来い」
そう言って移動し始めるグラデさんに俺とフィガロは付いていった。
◇
「フィガロはどうして【闘士】になったんだ?」
移動の間にどうせだからとフィガロに話かけてみた。と言うか思い返すとゲームを初めてリアルで三日、ゲーム内では一週間以上経っているがその間にしたことは門で【傀儡師】に成れる場所を聞いて後はずっと人形を動かす練習しかしていない。俺自身は人形を動かすのは凄く楽しく問題は無い流石に他のプレイヤーと一切交流が無いのはどうかと思うしまだエンブリオが第一形態にも進化していないのでその辺りの情報収集も兼ねて仲良くなるためにとりあえず当たり障りのないことから聞いてみることにした。
「ここの闘技場で決闘を見て僕もあんな風に決闘してみたいと思って【闘士】になったんだ」
「そうか。そういう憧れたものを始める気持ちはよく分かるよ。それとその左手のマークってなに?」
「これはエンブリオが孵化した時についたっぽくてね僕は【闘士】になって直ぐに孵化したけど見た感じは孵化している人は結構まばらだったと思うよ」
エンブリオの孵化には条件があるのかな。確かプレイヤーの行動パターンとか人格から形成されるとかなんかニュースでやってたからその読み取りで単純に時間差が出来るのかな?
そうやってフィガロと話ながらまだ孵化しないエンブリオについて考えていたらいつの間にか【闘士】のジョブに就いて訓練場に着いていた。超能力とか超スピードとか(ry
グラデさんに連れられて来た訓練場は思っていたより小さくリアルの教室より少し大きい位で拍子抜けしてしまった。
「思ってたより小さいんですね」
「ここは複数ある小訓練場で主に隠れて新しい技の特訓とかにつかうんだよ。もっと大きな訓練場もあるがたまたま空いてたからこっちしたんだ」
曰く大きな国には形態は違えど決闘ランキングがあるらしくそこで上位にいるために特訓の内容を隠すのは普通のことらしい。後で聞いたが決闘ランキング以外にも倒したモンスターを競う討伐ランキングと組織の規模? を競うクランランキングがあるとのことだった。
「よしフィガロ。すまんが先にマリオを指導してから見てやるからそれまでちょっと待っといてくれ」
「はい」
その後はフィガロに見られながらとりあえず木剣を渡されて握りや振り方を教えてもらいながらグラデさんに打ち込んでいくが流石は現役の闘士だけあってこちらからの打ち込みは全て軽く受け流され時たま飛んでくる攻撃は当たる直前で止めてもらえるが防御出来なかった時の肌に触れる風は中々肝が冷える。
他にも防御の仕方や足の動かし方等を簡単に指導を受けた。
途中フィガロを指導するため離れる時が有ったがその時は教えられた動きを反復したりした。
「よし、お前らここら辺りで模擬戦してみっか」
指導が始まって一時間程経った時にグラデさんが言った。
「とりあえず此処は結界は無いから先に一撃入れた方が勝ちな」
言われて俺とフィガロは小訓練場の中央で対峙する。
「俺が手を振り下ろすのが合図だからな」
グラデさんが右手を挙げて様子を見る。
俺とフィガロは手に持った木剣を構える。
「そんじゃま、始め」
振り下ろされると同時にフライング気味に俺はフィガロに向かって飛び出した。
合計レベル三の俺と【闘士】レベル十を超えるフィガロではステータスはフィガロの方が高くエンブリオの補正値も加味すれば先に一撃入れるだけなら先手必勝が一番勝率が高い筈。
「おおっと‼」
しかしステータス差かそれともフィガロ自身のセンスか初撃は防がれ続く二撃目、三撃目も防がれていく。
その後何度か打ち合い俺の持つ木剣が弾かれ胴体に一撃貰いフィガロの勝ちで模擬戦は決着がついた。
「おうマリオ、大丈夫か」
「ええ、でも思ったよりは痛くないな?」
設定で痛覚はオフにしてあるがダメージを受けると不快な衝撃があるとか言う話だったがそれも思った程ではなかったのでそれをグラデさんに言ってみた。
「闘技場にある練習用の武器には打ち所が悪く死んだりしないように《ダメージ軽減》のスキルが付与されてんだ」
普通は防具に付与されるスキルだがスキル付与の練習にこういうダメージ抑える武器を見習いに作らせ闘技場が買い取っているらしい。
「それでマリオどうする?」
グラデさんがこちらをニヤニヤ見た後にフィガロの方を向く。
それにつられてフィガロの方を見るとフィガロは少しつまらなさそうながっかりした表情をしていた。
最初の奇襲染みた初撃には驚いた表情をしていたが段々と表情が微妙に成っていったがそこまでがっかりしなくてもいいんじゃないか。こちとらレベル三でゲームで実戦もまだでリアルは平和な日本で喧嘩なんか片手で数える程しかない相手何期待しとんじゃワレェ。
だからと言ってこのまま引き下がるかと言われたら言語道断。闘うことは専門外だがあんなつまらなさそうな顔で終らすなど傀儡師として人を笑顔にするものとして絶っ対に我慢ならん。
「フィガロ。もう一度手合わせしてくれないか?」
「うーん、いいよ」
出来るだけ冷静に言ったがフィガロの気のない返事は俺自身のボルテージを更に上昇させていく。
「くくく、じゃあ始めるぞ」
グラデさんは俺の心境を理解しているのか凄く愉しそうだ。
「二回目始め」
「死にさらせぇ、ワレェ‼」
「え、なんでぇ⁉」
ちなみにその後十回程木剣で殴られた後木剣をわざと弾かせてそのまま懐に入り合気道の投げで一回勝ったがそれから数十回フィガロにボコられた。
ちなみにそのお陰か最終的に《剣術》と《回避》のスキルを習得した。
折角だから出したかったんや。後悔はしていないが強さをどれぐらいにするかは迷った。