「…はあ」
朝起きて時計を確認すると、面接の時間を過ぎていた。
どうやらアラームが鳴らなかったらしい。…原因はわからないが。
しかも2時間も。もう間に合わない。面接は諦めた。
「卒業してから、こんなこと増えたなぁ…」
小さくそうつぶやく私の声をかき消すように、携帯の着信が鳴る。
父親からだ。私は考えた。
もちろん遅刻したとは言えないし、もちろん知らない。
私はもう一度ため息を付き、深呼吸してから電話を取った。
「…はいもしもし」
『もしもし。…それで、面接はどうだった』
もちろん遅刻したなんて口が裂けても言えない。私は何度目かわからない嘘をついた。
「…ごめんなさい、また落ちちゃって」
そんな私の謝罪を切るかのごとく、父は大声を出した。
『…謝る必要はない!お前、どうするんだ。周りの子はもう仕事を決めて、しっかり働いているというのに、お前はどうなんだ。
やる気が無いんじゃないのか?お前、最近こういうことが多いよな。お前は昔から幸運で、それになんでもできていた。
なのにこうなるということは、お前のやる気が足りてない証拠だ。
…ともかく、私も我慢の限界だ。次面接で落ちたらこっちに帰ってこい。
お前を社会に出すのは早かった。私のミスだ。…伝えたいことはそれだけだ。
じゃあな』
ブツッ …ツー ツー…
私は何も言えなかった。
ただただ泣いていた。
部屋には切れた電話の音と、私の泣き声がずっとこだましていた。
ひとしきり泣いたあと、私は驚くほど冷静だった。
ああ、こうすればいいんだって思ってしまったから。
…私への愛なんかいらない。
『幸運である私』も私なんだろう。
その部分を切り取ったら存在価値がなくなってしまうんだろう。
私は昔のように、『幸運である私』にすがることにした。
それがたとえ、自分を傷つけてしまうことであっても。
私は気づかなかった。
それは、本当にしてはいけないことだってことに。
私は昔から幸運を使う際には一つだけ条件が必要で、それはとても簡単なことだった。
誰かが幸せになるように願うのだ。
もちろんその中に私は入らないのだけれど。
それでも結局回り回って私も幸せになるのだから、つくづく幸運というものは面白い。
まあそんなこと、今となってはどうでもいいのだが。
回り回って幸福になるために、父親の幸福を願う。
少し自分の良心が傷ついた気がした。しかしすぐにこう思った。
…何がいけないのか?
人というものは結局綺麗事を並べたところで、自分が一番ということに変わりはない。
どれだけ優しい人だって、心の何処かでそういう自分が好きだから優しくする。
無論逆も然り。だから私が自分のために他人の幸福を願うということはなんらおかしいことではないはずなのだ。
私は願った。
「お父さんが幸せになりますように」
我ながら、何が目的なのかわからなくなって笑ってしまった。
そして次の日。私は驚くほど目が冴えていた。
いつもなら鳴らないポンコツな時計も、今日ばかりは働いてくれたようで、まだ一時間の余裕があった。
「これなら間に合うはず…よし」
私はこれで確信した。
幸運である自分が、自分なのだと。
そこになんの疑問も持たなくていいことを。
続きます。
書き溜めして一気に更新する予定なので、よろしくお願いします。