「……まあ、強く生きろよ?」
「サンキューな!!」
「……何やってんだあいつ」
ナツキを追ったのはいいけど、それからのあいつは貧しい者を演じるためか服を泥塗れにして人からの同情を買い、誰かを探している。
確かにそれなら裕福そうに見えないし、俺も場合によっちゃあんなことしてたかもだけど……。
あれ、汚れ落ちるのか?
持ち物見てもこの世界のお金持ってなさそうなのに、たった一着の大切な服をあんなに汚してどうするつもりなんだか……。
……と、ナツキが誰かとぶつかった。
この辺りじゃ珍しい格好の女性だ。
それを見た瞬間にナツキはかなり動揺する。
ああいうイカれたのは転移したばかりのナツキには耐えられないか。
その女を適当にあしらうとまた歩き出した。
俺もそれを追おうとしたが……
「……俺はあいつの後を追ってるだけだ。お前は関係ない」
「あら、簡単に止められたわ」
背後から現れたさっきの女に別段驚くことなく適当に攻撃を受け止める。
大きく騒ぎを起こしたくないからか動きが鈍い。
「そんな疑う目をするな。俺はお前とは無関係だから襲うつもりもない」
「……無関係ならいいわ。今は騒ぎを起こしたくないの」
女の手を離してやると瞬時に遠くに移動した。
それから俺を監視する様子もなければ、俺も追うことはしなかった。
数分ほどは警戒してみたが、本当に消えたことを確認して再び観察に戻った。
……のだが、さっきのでいつの間にかナツキがいなくなっている。
「……あの時も、急にいなくなって、探した時には遅かった……」
昔のことが思い出される。
……一度守ってやろうって決めたんだ。
今度こそ守り抜いてみせる!
久しぶりに広範囲の声を聴き取る魔術、地獄耳を使ってここ一帯の声を聞いてみる。
ここは人の声がしないためナツキが話しているならすぐに気付けるはずだ。
『……元の持ち主に返したいからだ』
聞こえた、声の大きさからしてそう遠くはないな。
急いで近くまで行ってみるか。
『盗品が集まるのはこの先ね!』
走ってる最中で元気そうな女の子の声も聞こえてきた。
正確な位置は分からないが、その声はナツキのいる場所に近い。
「……嫌な予感がするな」
さっきの女を見た時ナツキがした表情の意味。
もし、それがあの女を知っているという意味でのものだったら?
それに、ナツキが言ってた助けたい人。
それがあの声の女の子なら……。
「通信は……ダメか……!」
通信出来れば気を付けるように連絡できたのに、それが出来そうにない。
おそらく魔力の質が違うのだろう。
この世界と俺のいた世界の魔力の原理が同じとは限らない。
移動系の魔術はこの国のことを理解出来ていないから使えない。
「
闘気を纏えるならこんなことに頭を抱えはしなかったのに。
ああクソ、別世界に来たんだから闘気ぐらい新スキルって感じで使えても……。
「……っ!!」
突然走る速度が上がった気がする。
闘気?……いや、俺が見た闘気はこんな感じじゃなかった。
なら、これは一体?
「……今は後回しだ」
前いた世界と違ってこの世界じゃ魔術対策の装備や乱魔のようなものがあるかもしれない。
近くに立てられていた短刀を奪い、再び地獄耳を使う。
『殺すとか、そんなおっかないこと、いきなりしないわよ』
声が近くで止まっている。
『……おかしいわね。どうして持ち主がいるのかしら』
同時にさっきの女の声も聞こえる。
俺の予想は正しかった。
お前にアレは倒せない。
……この力は元々大切な人を助けるために得た力だ。
大切な人ってわけじゃないけど、守るって部分は間違っていない。
「この世界でぐらい誰かを守らせてくれ!」
岩砲弾の準備をし、曲がり角を抜けた先、
「岩砲弾!!」
「――!?」
あの女が見ている方向に全力で撃った。
俺の叫びに全員が気付き、外に出てくる。
「あいつは!」
「エルザ……それに、ルーデウスさん!?」
「殺気を放ってたからな、攻撃を加えたけど問題ないよな?」
力を加えたつもりの岩砲弾を喰らってあまりダメージを受けていないように思える。
やはり、なにか耐性でもあるのか。
「ふふ、外套がなかったら危なかったかもね」
エルザと呼ばれた女は武器を構え、ナツキたちの方に向く。
だが、同時に俺の動きもしっかり観察している。
やはりというか、ただの盗賊ではなさそうだ。
「おい、どうして武器を構えてる」
「持ち主まで連れてきてしまったなら商談なんてとてもとても……だから予定を変更することにしたのよ」
エルザは足が速い上に手癖が悪い。
こういうのは予知眼で予め行動予測を立てて……
〈右方向から襲い、腹を斬る〉
予知はするがかなりブレて見える。
だが、どれを見ても一つの結果だけは同じだ。
「そんなに腹を斬りたいか!!」
雷撃を使ってエルザを移動させる。
そして、予知と同じタイミングで攻撃を仕掛けたため水神流で受け流し、剣神流で攻撃した。
「魔法も剣も一流ってことかしら……」
「……この感覚」
剣を使った時に感じるこの闘気……。
……きっと俺は、あっちじゃパウロの近くに埋められたんだろう。
この闘気は、パウロを思い出すような温かいものがあった。
……この世界で力を貸してください、父さん。
「うおぉぉお!!!!」
「かなり手強いわね……」
剣神流で攻撃を行い、敵に休む隙を与えさせない。
確実に俺が押しているのに、決定打が出ない。
やはり剣技は少し荒さが裏目に出るか。
〈ククリナイフをナツキたちの方に投げて不意打ちをする〉
「……やることは読めてるんだよ!!」
投げようとした腕ごと岩砲弾で撃ち抜く。
あれは泥沼でもフロストノヴァを使っても動けない部分は切り捨てて動くタイプだからどうすべきか。
……思った以上にタフだな。人間、というわけじゃなさそうだ。
「……ナツキ!その家に隠れろ!!」
「る、ルーデウスさん?」
傲慢なる水竜王を取り出す。
……あの時はそれだとロキシーに間違われたんだったな。
「全力の一撃……になるかは分からないけど、久しぶりに大技を使いたくなった」
「……へぇ、あれより強力ならさすがに避けるしかないわね」
どうだろうか。岩砲弾のほがよく使う魔術だし、多分全力なら今ならオルステッドも倒せる気はする。
……もちろん魔道鎧もあればの話だが。
「早くしろ!」
そう叫ぶとナツキたちはすぐに家の中に避難してくれた。
エルザが追いかけようとしたが、泥沼で少し動きを止めてやる。
「それで動きを止めたつも……!」
「はぁ!!」
剣神流で突っ込み、反撃を見越して瞬時に水神流に切り替える。
そうして完全に家から引き離したところで、魔術を発動する。
何をするつもりか気付いたのか、泥沼で一瞬隙を作らせる。
「魔術を使うのに時間は掛からない。一瞬あれば全体を凍らせるなんて簡単なんだよ」
ましてや、こいつは魔王どころか俺が殺した相手の中では弱いか普通より下の部類だ。
……それに時間をかけてしまったのだから俺も怠けているな。
「――
全てが凍りつく。
と同時に闘気が消えていく。……自分の力で制御できるようにしなければ。
そんなことを考えつつ、あることを思い出した。
「……これ、俺がなんとかしなきゃあいつら閉じ込めたままになるんじゃないか?」
やはり大技は街中だと後の処理が面倒だ。
エルザの凍っている場所を溶かさないように凍った扉を溶かしながらそう思った。