エルザの凍死が王国中に知れ渡るのに時間は掛からなかった。
絶対零度の規模に驚いてか急いでやって来た兵に事情を教え、エルザのことを説明すると腸狩りという異名を持つ殺人犯だと分かった。
ことの一件が収まった時には腸狩りを凍死させた氷の魔法使いなんて言われ始めていた。
「……すっげぇな、あんな綺麗に凍るのかよ」
「ボクの知る魔法とは違った原理……興味深いね」
次に分かったことはこの世界の魔力と俺の持つ魔力の違いだ。
妖精の言葉を信じるならこの世界と俺の魔力は原理が違うから今後も変に怪しまれる可能性は高い。
この世界の魔力を扱えるようになれば新しい発見でも生まれそうだが、今はそんな余裕もなさそうだ。
……で、それからの行動だが、ナツキが助けたいと言っていた人が白髪の――エミリアと呼ばれている少女だったため、人助けは終わった。
ナツキも助けれた上にエミリアの探していた物も取り返せたため全てが無事に済んだ。
盗人は捕えられる予定だったが、ナツキの説得でエルザが全ての元凶ということで今回は見逃すという話し合いになったという。
俺の仕事は全て無事に終わらせることが出来たんだ。
……のだが、今の俺は出来ることがない。
過去転移ですら魔力切れを起こしたのに異世界転移となればより膨大の魔力を消費するはずだ。
早い話、今のままなら元の世界に帰ることが出来ない。
そうなると暫くは金が必要になる。
情報を手に入れようにも、研究をしようにも金が必要だ。
「お客様、ロズワール様がお呼びです」
「……分かった。俺も準備が出来たから向かう」
エミリアがお礼をしたいということで俺たちをロズワール邸に案内した。
ナツキはそのままロズワールとかいうのに言われるがまま食事の場に移動させられる。
俺も呼ばれたが一緒には行かなかった。
理由としては、ここのメイドだ。
……でも、まだ確証がないため一先ずそれは置いておく。
何はともあれ、自分の言いたいことに整理もついたため彼女に付いて行った。
「――君が腸狩りを凍死させたルーデウスだぁね?」
「ルーデウス・グレイラットだ。ナツキとは同じ村の出身なんだ。……外の常識に疎くてな、色々説明してほしい」
……まず、第一印象としてヒトガミを思い出すため長く話をしていたくはないと思った。
道化顔のロズワールはナツキに話したのであろうこの国のことやエミリアのこと、ロズワールがどういう存在なのかということを教えてくれた。
どうやって入国したかは多少強引だが転移魔術を使ったと説明した。
実際出来ないことはない。空間転移程度なら過去転移と違って術式を組めば不可能ではないはずだ。
ロズワールの説明の中で、エミリアが王不在のこの国の新たな王候補の一人であり、ロズワールがそのバックアップ的存在であることを聞かされた。
エミリアの盗られていたらしいそれがどうやら王候補の証となるキーアイテムだったらしいが、その資格を盗られるなんて甘すぎるにも程がある。
アリエルならそんなヘマをするどころか、しっかりとしたバックアップがあればあれこれと対策を練ったはずだ。
……いや、そういうやつだと考えていた矢先のクーデターだったんだ。あの時、彼女がもっと大胆に行動してしまう可能性も考慮していれば……。
ああクソ、昔を思い出すのは今は止めだ。
話を戻そう。
事情はどうであれナツキはエミリアのために王候補の証を取り戻そうとした恩人、俺は腸狩りといつ魔の手からエミリアを助けた命の恩人という状況になっている。
……と同時に王候補の証を一時的にでも盗られたことを知る者として口封じ――場合によっては裏で消さなければならない対象だ。
だが、こいつは消すという考えではなくあくまでも恩人として俺たちを扱おうとしている。
……それはつまり、俺たちを何かに利用しようとしているのだ。
「……ナツキが証を取り返そうとした恩人なら、俺もエルザの魔の手から救い出し、王候補から外れることを防いだ功績者とも言えるよな」
「その通ぉりだね」
あいつは見たところかなりのお人好しだ。
そしてエミリアに恋してる。
多分あいつはここに残るための何かを言ったのだろう。
だが、俺はここに長居はする気がない。
あいつほどお人好しにはなれないし、そんな気持ちも殆ど薄れている。
……が、前世のように一人で出来ることも少ない。
過去の俺に人に頼りすぎだと言ったが、こうも知識がないと暫くは誰かに頼るしかない。
ナツキをしばらくの間助けてやるって意味でもここで雇われるとするか。
「俺をエミリアの護衛として雇ってくれ。後悔はしないはずだ」
「エミリア様の護衛かぁ。腸狩りを倒した氷の魔法使いなら確かにいい護衛になりそぉだ」
この人を見下した感じ、とことんヒトガミに似ているな。
前世ならヒトガミを知っているか聞き出したあとに焼き殺しただろう。
「……俺はお人好しじゃないから長く雇われるつもりはない。王国で家が買える程度金が貯まるまでの期間っていうのはどうだ?」
「もちろん問題ない。僕としては君のほうが信用できる」
「そう思うのは勝手だが、俺とナツキになにか危害を加えようとすれば……エミリアを殺す」
ロズワールが一瞬険しい目付きになる。
こいつとヒトガミの違うところは、こいつにとって都合の悪い展開は読めているし、何よりこいつは俺の手の届く場所にいる。
「知り合いが惚れてる相手なんだ。俺に殺させないでくれよ?」
手の届くやろうなら、いつでも殺すことが出来る。
その自信が俺にはあった。